Coolier - 新生・東方創想話

お姉さま、どうしちゃったの?

2014/08/11 01:50:26
最終更新
サイズ
21.35KB
ページ数
1
閲覧数
3449
評価数
11/28
POINT
1740
Rate
12.17

分類タグ

 そう思わずには居られない。だって何でか知らないけどお姉さまが――漆黒の羽を揺らした吸血鬼レミリア・スカーレットが――わたしの部屋で、わたしのタンスを勝手にガサゴソと荒らしているのだから。
 ……いや、始めはなにか、洋服でも借りたいのかなと思ったわよ? (まあ、それでも一言断ってからにしろや、とも思うけど)でもお姉さまが今、「フランめ……下着は一番下の段かしら?」って呟いたから、もうアウトです。
 わたしはそれまで、眼前にて繰り広げられていた光景に驚き過ぎててお姉さまに声を掛けることすら出来ていなかったのだけど、ここまできたら形振り構って居られない。だって確かに、下着は最下段に収納されているのだから。
「ちょっとお姉さま! なにやってるのよ!」
 お姉さまはビクッと体を反応させた後、そろーっとコチラへ振り返った。
 そして優雅な微笑みを作って、
「あら? フランじゃない。ご機嫌よ――」
「アホかっ! ご機嫌じゃないわよッ! 姉がタンスを荒らして妹の下着を探してる所を目撃してご機嫌な訳がないよッ! それでご機嫌ならとんだ変態だよッ!」
「なるほど……いいツッコミだわ」
「……ぐっ、」
『そんなつもりは毛頭ないよッ!』とでも言ったら話がループしそうなので、わたしはグッと抑える。……大きくスーハーと深呼吸。
「……まあともかく。お姉さま、一体わたしのタンスの前で何をしてるのよ」
 訊くと、お姉さまは「それは……」って少し言いにくそうに口籠もった後、答えた。
「え、ええとねフラン。これは大切なことなのよ。紅魔館の行く末を左右するかも知れない、その為の大切な下準備でね?」
「わたしのタンスの中を見ることが?」
「ええ、そう」
「どして?」
「どうしてもこうしても、運命が言っているのよ。見なければ先は開かれないと……」
 出たよ運命(笑)
 わたしは溜息が出た。なんなんだろうこの姉は。
「……あのさぁ。お姉さま頭イカれたの?」
 その言葉にお姉さまはキョトンとした。
「え、別に美容院になんて行ってないけど?」
 いやその『行かれたの』じゃないから。誰もそんな2ちゃんの古いコピペの話なんかしてないから。
「そうじゃなくて! 頭おかしくなったのかって訊いたのよ!」
 そう言い換えてあげると、今度はクスクスと笑ったお姉さま。
「やぁねぇフラン。人間だけよ? 脳なんて単純で科学的な――」
「ああもう! そういう事でもないわよ! めんどくせーよッ! 日本語としての意味で受け取ってよ! 気が狂ったのかって訊いてんのよ!」
 と我鳴ると、ぱっぱらぱーな我が姉でも流石に不愉快に思ったようだ。
「ムッ……そんなことはないわ。私がタンスを覗こうとしていた事を理解できないから貴女はそんなことを言っているのでしょう? でもさっきも言ったけど、この行動にはちゃんと意味があるのよ」
「じゃあその意味プリーズ」
「だから運命」
「わたしは運命(笑)を見られないので、詳しくお願いします」
「ああ、そうね。ええと夢に見たのよ。やはりこのまま挑めば負けると」
「挑む? 負ける?」
 聞き返したわたしにお姉さまが頷いた。
「ええ。明日、月一の首脳会談があってね?」
「首脳会談?」
「そう。八雲だとか……月の姫に山の神、地底のさとり妖怪なんかが集まる会談。……ああ、もちろん私も参加者よ?」
 へぇ……そんな事を毎月してたのか。
 案外、お姉さまって頑張ってるんだなぁとちょっと尊敬。尊敬はしてもタンスの件はまだ許さんが。
「でね? まあメンツがメンツだから話し合いも難航しやすいの。全員が自分の我を押し通そうとするのよ。だから始めは月毎の交代制で、その者の意見を優先的に受け入れてあげようってシステムを採ってたの」
「……?」
 ちょっと意味を図りかねる。わたしが首を傾げるとお姉さまは、
「ううんと、口で説明するのは難しいわね。だから例えば、今月が八雲の意見を大らかに認める月であったならば、来月は月の姫の意見を大らかに……って感じよ」
 ああそういうこと。
「でも、それで? それとわたしのタンス漁ることに何の関係が?」
「いやいや、話は最後まで聞きなさい」
 と、お姉さまはわたしを窘めてから続きを話し始めた。
「さっきも言ったように、そういうシステムを使ってたのは最初だけなのよ。だって皆、他の奴を優先する月でも隙あらば自分の意見をぶっ込んで来るから」
 アンタもその一人なんだろうな。とは言わない。
「だからもう開き直って、勝負することにしたの」
「勝負?」
「ええ。毎回会議の終わりに来月の勝負のお題を決めて、そして当日、首脳会談の本題を話し始める前に決戦。その勝者がその月のイニシアチブを取る。この方法だと我を通せなくなったのよ。山の神が勝負事には真摯だから、自分の意見を押し通そうとする奴がいたら『アンタは負けただろう!』って一喝するからね。周りも確かに負けたから『むむむ……』って感じで閉口するし」
 なるほど。
「それで、今月の議題は半年に一度のインフラについてなのよ。だから今回わたしがイニシアチブを取れたなら、『妖怪と人間の融和促進に力を入れるから、その代わり取り敢えず、紅魔館から人里までの線路を引く許可と、あとはその為の人手をくれ』と交渉するつもりなの」
「線路? そんなん引いてどうするのよ?」
 わたしが訊くと、お姉さまは「便利よ?」と答えた。
「考えてもみなさい。咲夜の買い出しも楽になるでしょう? 住み込みのメイド妖精たちは休暇を人里で遊びやすくなる。通勤妖精なら、言わずもがな通勤に使えるわね。それにフランや私は、雨の日でも移動できるようになるわよ? 晴れの日だって、人里へ向かう途中、日傘を差さなきゃならない煩わしさから解放されるわ」
「……おぉ」
 今のわたしはきっと目が輝いていると思う。確かに魅力的な話だ。
 というのも、列車のこともそうだけど、お姉さまは『フラン』や私は、と言った。つまりは……
「ねぇねぇお姉さま! それ、わたしも人里に遊びに行ってもいいってことだよね?」
 確認するために、わたしが投げ掛けた質問にお姉さまは「もちろん」と肯定し、
「ただしフラン? モノを壊さないって約束しなさいね?」
 ええもう!
「する、するわ! というか最近は何も壊してないもの! だから大丈夫よ!」
「ふふっ、そうね。だから鉄道を通すのもいいかなって思ったのよ」
 ……嬉しいっ! お姉さま大好き!
 もう最高潮に喜んでいたわたしだったけど、どうしてか反対にお姉さまは顔を顰めた。
「でもね。今のままじゃ只の計画。首脳会談前の勝負で勝たないことには土俵にも上がれないわ」
「……あっ」とわたしは思い出す。
「そうか。そうだったわ。それでお姉さま、今回の勝負方法は……?」
「厳しいわよ? 今回の勝負方法は『セクシーな下着対決』各人、セクシーだと思う下着を着用している自分以外の者の名を紙に書いて投票。トップが同数ならその者らで決選投票へと……」
 勝負方法を聞いて、一気にテンションが下がったのをわたしは感じた。
 ……ああ、そうだったわね。勝負のためにタンス、覗いてたんだもんね。
 わたしはだいぶ呆れながらお姉さまに言った。
「バカなことやってんのね……」
 しかしお姉さまは平然と返す。
「そうかしら? まあこれまでに結構な回数の対決をしてきたからね。最近は勝負方法も色んな方向へと手を伸ばしてるのは確かか」
 人、それを迷走と言う。
「で? とどのつまりは勝負前に、わたしのパンツを参考までに見たくなったと、そういうこと?」
「流石ねフラン。その通りよ。五百歳前後の吸血鬼なんて貴女以外しらないからねぇ。そういう吸血鬼が穿くべき下着っていうのが、中々ピンと来ないのよ。だからフランのセンスも見てみたくなったわけ」
 ……まあ、この人のセンスはアレだからね。時たま、当たりは出すけど。
「でもそれなら正直に言えば良かったじゃない。姉が妹のタンスを内緒で漁ろうとしてるのを目撃なんて、普通はトラウマものだわ。きっと百年前だったら紅魔館こわしてた」
 そんな、半ば冗談、半ば本気なわたしの言葉にお姉さまは目頭を押さえた。
「……ほんと、成長したわねぇフラン」
 そしてキラリ、なにやら光るモノが……。って、止めて下さい。壁ドンしなくなった程度で感涙とか、褒められるとか恥ずかしいんで止めて下さい。
「でもねフラン」
 と、目元を拭い終えたお姉さまが言った。
「例え理由があっても、出来れば貴女に『妹の下着を見たがる姉』の姿なんて見せたくはなかったの……。あとそれにね、そもそも、もし正直に言ったとしたら貴女は信じた?」
「え?」
「だから、『コレコレこういう理由があるので貴女のパンツを見せて下さい』って正直に言ったら、貴女はOKを出したかしら?」
「…………」
 ちょっと返答に窮したわたし。……だけど思い付く、
「いや、ほら。他の妖怪に事実だって問い合わせてくれたら信じたわよ?」
「甘いわねぇフラン。仮に照会したとしても、アイツら『そんな勝負は知らない』って嘘吐くわよ絶対。しかもコトによっては、私には秘密裏に明日の勝負方法も変える。だってそっちの方が面白くなりそうだから」
「……なんでよ? 『知らない』って言えば、『お姉さまが嘘吐いてまで下着を見ようとしてた』ってわたしたち姉妹が喧嘩になるかも知れない。……だから面白そうって事なんだろうけど、その前にコッチの状況を説明しなきゃ向こうには『面白くなる』って分からないじゃない」
「そりゃ詳細な状況までは分からないけどね。だけど面白くなりそうなのは分かるのよ。何故なら、『勝負方法を確認』する時点でおかしいからね。話し合ってまで決めたことを忘れるなんて普通はないし、だから私が『勝負方法を確認』しなければならなくなった理由を向こうは考えるわ。そして奴らは必ず一つの答えに辿り着く。『下着勝負』と答えなければ、少なくとも私が困る状況にあるということに。……そんぐらい奴らは面白いことに飢えてるし、性格も悪いし、頭も切れるのよ」
 ……げ、幻想郷のトップたちって、そんなにも捻くれてるの……?
 でも……うーん……。多分、お姉さまも昔はこんなに物事の裏を読もうとしたりはしてなかった筈。ということは成長して『読むようになった』のだろうけど……まあ、なんというか、こういう所を見ると当主やってるんだなぁと思う。
 ……わたしじゃきっと、他の奴らに良いように操られてしまいそうだなぁとも、また思う。
 そうやって、わたしがちょっと羨望の眼差しを向けていたからだろう。お姉さまは苦笑いしながら頬を掻き――それから真面目な表情を作った。
「……ねぇフラン? 姉として『無条件で』っていうのは嬉しいけどね。少しは疑いなさい。今の私の話が全て嘘という可能性だってあるのよ? タンス漁りを貴女に見られたから、だからそれを正当化する為に吐いた、全くの出任せという可能性もね」
 言われ、わたしはハッとした。そして困惑しながら、
「そ、それって……じゃあ、今のお姉さまは……?」
 なんだか訳が分からなくなってきた。しかしお姉さまは、そんなわたしを落ち着かせるように微笑みを向けて、そうして静かにかぶりを振って。
「確かに、今この場で私の話が真実であると証明する手段はないわ。第三者に確かめることも、仮に明日の勝負方法に関する文書があったとしても、口裏合わせや偽造は可能なのだから。でも今のは余りに素直なフランが心配になって言っただけ。嘘じゃない。スカーレットの姓に誓うわ。それで信じて頂戴?」
 わたしは、『当主としての姉の顔』に圧倒してしまい、無意識の内に頷かされる。
 色々あったけど間違いない。ここまで言うならば真実だ。
『スカーレットの姓に誓う』
 ここまで言って、お姉さまが嘘を吐くことなんて百パーセントない。証拠もないけれど、わたしには確信があった。
 ……まあ、冷静になって考えるとスカーレット姓に誓ってまでしたことが『明日にあるセクシー下着対決』の有無なのは……うん。
 わたしは自分に言い聞かせる。これは冷静に考えない方が良いねと。
 さぁ、さっさと話を本題へ戻してしまおう。
「……分かった。信じるわお姉さま」
「ええ、ありがとうフラン」
 と、お姉さまは答えて、
「それじゃあ早速だけど、貴女の下着を見せて頂戴? 貴女も、雑誌を見て気に入った奴を咲夜に買ってきて貰っているのでしょう?」
「ん……そうだけど」
 わたしは首を縦に振る。話を本題に戻しても下着についてだったのはいま気が付いたけれど、これはもう仕様がない。
「ふふ……ワクワクするわね。私は貴女の選んだ下着のセンスに期待しているのよ」
 なにやら昂ぶってるお姉さま。
 ……でもなぁ……そんな期待されてもなぁと思いつつ、わたしはタンスのもとへと歩を進めた。
「いやわたしも別段、特殊な下着は持ってないけど……」
 そう呟くのへ、わたしは一番下の段を開ける。
 すると綺麗に収納された下着群が顔を出す。それは色ごと、種類ごとに分けられていて……
「……ふむふむ。結構あるわね」
 わたしの背後から覗き込んでくるお姉さま。やっぱりそこそこ恥ずかしい。
「……ええとドロワは除くとして……そう。例えばこういう、リボンをアクセントとした大人しい感じの奴とか、他にはストライプのとかは可愛くて結構好きかな。あとはその日の気分によってだけど――」
 そういう風に説明しながら、わたしがタンスからとある下着を取り出すと……
「なっ、フランそれはっ!」
 お姉さまが大げさに後退った。
「え? ガーターがどうかした?」
 お姉さまの行動が意味わかんなくて訊ねたわたし。そんなわたしにお姉さまは激しく声を上げた。
「どうかしたじゃないわよ! がっ、ガーター? なんてセクスィーな!」
「あれ? わたしが持ってたら変?」
「いやそうじゃないけど……でも、ガーターって……」
 ……もしかして。
「……もしかしてお姉さま、こういうの一着も持ってない?」
 試しに訊いてみる。そしたら、お姉さまは顔を真っ赤にしてコクリ。
「え……ええ。見栄を張ったって仕方のない場面だから白状するけど、持っていないわ」
「なんで? お姉さまガーターを見てセクシーって言ったじゃない。そう思うならどうして買ってないのよ?」
「だってフラン……」
 頬を染めたお姉さまは心細そうに目を逸らした。なんだその愛くるしい動きは。
「その……私たちの体型じゃ、そういうのはまだ早いかなって」
 ……ああうん。
 理解はできる。だから「そりゃ、言いたいことは分かるけどさ」とわたしは答えた。……が、
「だけどお姉さま。それじゃあ何時になったら丁度良いのよ? こんなナリ(幼児体型)でもわたしたち、五百歳なのよ? そもそも身体的にこれ以上、成長ってするの?」
「た、多分するわよ。あと千年もあれば、きっと」
 オドオドした様子&自信なさげなお姉さま。
 ……千年ねぇ。まったく気の長い話だわ。少なくとも明日の会談には間に合わないじゃない。
「じゃあお姉さま。残念だけど今のお姉さま的にガーターはNG?」
「う……、んんと、別にそうは言ってない、わ」
「……? だったらガーターでいいじゃない。明日は」
「いやでも……やっぱり……」とお姉さまはクネクネ。
 ……もう、はっきりしないなぁ。
「それなら先ず! お姉さま的にはどんなのが良いと思うわけ? お姉さまは普段どんな下着を着けてるのよ!」
 そう声を大にするとお姉さまは「……私?」って、一瞬考え込んで、
「……そうね。私はフランが最初に見せてくれたリボン付きとかストライプとか、あとは……いえ、そんな所かしら」
(…………おや?)
「……ど、どうしたのかしらフラン」
 訊いてきたお姉さまからは……ちょっと怪しい匂いがする。『あとは』の続き、絶対にありそうだわ。
……よし。
 わたしは艶容な雰囲気を演出するよう努めながら、「ねえお姉さま?」と声を掛けた。それに対し、お姉さまは「な、なに?」と何故か怯えた様子を見せて……
「お姉さま、今ドロワ?」
「え……そっ……違うけど……」
「じゃあ、ちょっといま穿いてるパンツ見せてくれない?」
「……はっ? いやいやいや、流石にそれは、」
「いいじゃない。どうせリボンかストライプなんでしょう? わたしもホラ……」
 妖しい笑みで、わたしはスカートをたくし上げる。
「今日はピンクと白のストライプ。お姉さまはどんなの?」
 すると即座、
「はっ、はしたないわよフラン!」と叫んだお姉さま。けれども、だったらせめてその顔を覆っている手で目も隠すべきだ。指の間から覗くなんて古典的なことをしちゃダメだと思う。
「まあ別に、姉妹なんだし良いじゃない。ほらほら見せて見せて?」
「やっ……だ、ダメっ、フランっ、やめ、やめなさいってッ……」
 わたしはスカートを捲ろうとしていて、お姉さまは必死にスカートを抑えていた。今の光景を客観的に見るとわたし超絶ド変態だけど、そういう常識的思考は出来るだけ意識の外へポイしとく。
 とはいえ、それはきっと長くは持たない。ふと平静を取り戻してしまったら多分わたしは死にたくなる。だから急ぎ、勝負に出た。
「お願い! チラッと! 前の……腰の部分だけでいいからっ!」
「……ホント?」
 とお姉さまが小声で訊いてきた。
 それは――明確な油断。
 ……うふふ。って、そんな笑いが漏れそうになる。一応いっておくけど、わたしの目的は、ここからバカ正直にお姉さまのスカートを捲ることじゃあない。そんな事をしてもまた『捲りたい』VS『捲らせない』の力勝負に戻るだけなのだから。
 わたしは確信していた。姉さまは『前面の』であれば、しかもその上『腰の部分だけ』であるならば、妥協してパンツを見せてくれると。
 何故ならばお姉さまが必死になって隠していたのは――そう、詰まる所わたしの本命は――背面(お尻側)だったのだから!
 わたしは吸血鬼の全力で以てお姉さまの背後に回る。そして回り込みつつスカートを捲り上げた。
「きゃあっ……!」
 パンツが見えたのは刹那に等しい。直ぐに後ろ手に隠したお姉さま……だけども、
「ふむ。やはり――」
 やはり――クマさんパンツであったか。デフォルメされたクマさんの顔がお尻の部分にプリントされていた。だからあんなにも懸命に隠していたのだ。
「……うぅー」
 心得顔のわたし。そんなわたしをお姉さまは涙目で睨め付けて、そして怒声を上げた。
「フラン! 人の嫌がることはするなといつもッ……」
 吸血鬼異変を起こした人が何を言うか。まあ、あれはわたしたち家族の為でもあったんだろうけど。
 わたしは怒りを露わにするお姉さまに言い訳をする。ここでのポイントは悪びれないことだ。
「でもお姉さま。わたし明日はお姉さまに勝って貰いたいんだもの。だから現有戦力の把握は必須だわ」
 目論見通り、「そっ……そうね」と大人しくなったお姉さま。そこはかとなく軍事アニメっぽい、中二的な台詞を用いたのはやっぱり正解ね。いやぁチョロい。お姉さまって色々頭は切れるけど、こういう所は直した方がいいと思うな。
 ……まあ、それはさておき。
「それで私見だけど」ってわたしは前置きしてから述べた。
「少なくともそのパンツじゃ勝てないと思うわ。だから今のところ明日はリボンかストライプの二択になるんだけど……。そもそもお姉さま、予定としてはどんなの穿いてこうと思ってたの?」
「え?」
「だから、わたしのを参考にする前よ」
 そしたらお姉さまはボゾボゾと……
「…………ントの……」
「え?」
 聞き取れなくて、だから聞き返したらお姉さまは、今度はもう少し声を大きくして答えてくれた。
「……えと、子犬さんの肉球プリントの……」
 その答えは――わたしの理解を超えていた。
「……は? いや……なんで今あんなにも見せるのを恥ずかしがってたパンツと同タイプのを、明日の勝負に使おうとしてたのよ?」
「だって、フランのを見るまではこういうの、普通だと思ってたんだもの」
「……それで勝てると思ってたの?」
「思っては……いないわ。だからフランのを参考にしようとしたんだし」
 あ、そうだったわね。余りの衝撃に論理的な思考が出来なくなってたわ。幾らお姉さまでも、バックプリントで優勝できるとは考えてなかったか。なんか安心したわ。
 ……と、思ってたのにお姉さまは余計な一言を付け足した。
「だけど……準優勝ぐらいは、その」
 おい正気かこの姉は。
「いや無いから」
「じゃあ、三位ぐら、」
「無いから」
「…………」
「…………」
 わたしの部屋に静寂が訪れる……。しかし、それはお姉さまが自分の我を引っ込めたからではない。ただ『考えて』いたからだ。
 お姉さまはチラと――わたしの顔を覗うように――
「それなら……チャーム(魅了魔法)を使えば……?」
 アホか。
「それ、もはや『セクシーな下着勝負』の範疇じゃないから」
 いやそれに、そもそもからして効くのかしらね? お姉さまの話じゃ他の参加者たちもツワモノばがりみたいだし。つーか、どんだけ子犬さんパンツのポテンシャルを信じてるのよ。
「じゃあ……」とお姉さまが言った。だいぶ未練があるのか、開かれた口はとても重そうだったけど。
「フランはどう思うの? やっぱり、今の最強装備はガーターなのかしら……?」
 わたしは頷く。最強装備って言っても、今のお姉さまの手持ちにガーターはないんだけども、でもそれは買いに行けば済む話だから別にツッコミは入れなくてもいいと判断して、
「そうね。バックプリントは論外として、ワンポイントやストライプは可愛い系。ガーターの方が勝算は高いと思うわ」
 そう答えると、お姉さまは「むぅ……」と唸った。ガーターが恥ずかしいのかな? それともまだバックプリントが捨てがたいのかしら? けども暫く間を置くと、ようやくお姉さまも決断してくれたみたい。
 お姉さまは心を落ち着かせるかのような深呼吸をしたあと、わたしを正面から見た。とても力強い、迷いを捨て去ったような目をして、そしてこう宣言をした。
「分かった。……分かったわフラン。明日は私、ガーターで挑むわ……!」
 ホッとしたわたし。その理由はガーターに決めてくれたから、ではない。バックプリントパンツを諦めてくれたからだ。紅魔館の主の下着が子犬さんとか多分、館の品格に関わってくるだろうしね。
 ……さて。
 これであとはどんなガーターにするか、か。
 正直、ガーターで行っても勝てる可能性は低いと思う。だって相手の大半が『大人の色香』を出せそうなキャラをしてるのだもの。
 でもね、希望を捨てた訳じゃない。捨てるには鉄道開通は魅力的すぎるし、お姉さまにガーターの組み合わせも、全く勝ちの目がないという訳でもないから。……そう。まだ『幼い身体にガーターというギャップ効果』っていうものがある。逆転ホームランも可能だろう。
「じゃあお姉さま。すぐに館中の雑誌を集めましょう。それでもって、お姉さまに似合うのを見繕いましょう」
 わたしがそう提案すると、お姉さまはどうしてか「必要ないわ」と言った。
 そして、わたしに向かって差し出されるは姉の手の平。
「……なに?」
 ちょっと嫌な予感がしながら問うたわたしに、お姉さまは不思議そうな顔をして、
「なにって、フランのガーター貸してよ?」
「はぁ?」
 わたしは思わず声を荒げた。
「なんでわたしのをお姉さまに! 今から咲夜に買いに行かせればいいじゃない!」
「でもフラン、一日じゃ良いのが見つかるか分からないわ」
「それはそうだけどっ、」
「それにねフラン、私はさっき貴女が見せてくれたガーターに惚れたのよ。ガーターだったらアレしかないわ。本当にセクシーだったもの」
「……うぐっ」
 言葉に詰まる。そりゃあ、褒められて悪い気はしないけれど……
 やっぱり、恥ずかしい思いも拭えない。
『いいよ』と『イヤ』の狭間で悩むわたしにお姉さまが言ってきた。
「……ねぇお願い、フラン?」
 悪魔の癖に、お姉さまはまるで聖母の如く両手を胸の前で合わせている。しかも少し屈むことでわたしを下から見上げて来て、そして懇願する瞳はどことなく弱々しく――
「……――ッ!」
 ああこの人はッ……ほんっとにもうこの人はッ!
 わたしは奥歯を噛み締めた。姉にこう感じるのは変だろうけど、ちょっと顔が熱い。全くこの人は、すけこましの天才じゃないかしら……ってそうか。もともとカリスマってこういう意味だっけか。
 観念したわたしは承諾した。自然と、少しぶっきら棒な口調になりながらも。
「わ、分かったわよ!」
「ほんと……? ありがとうフラン」
「ええ。……でも! でも今回だけよ! 幾ら姉妹とはいえ下着の貸し借りなんて恥ずかしいんだからねっ!」
 お姉さまが小さく笑った。
「ふふっ……全く思春期ねぇ」
 そう言うのへお姉さまはわたしからガーターを受け取って、そして恥ずかしいから止めて欲しいのに前から後ろからとじっくり検め始め……
 た時に。
「あら、なにかしらこのシミ――」
 お姉さまの、その言葉をわたしの耳が認めた瞬間だった。
 腰を落とし、脇を締めての一閃――右ストレート。
 考える前に体が動いていた。右拳に伝わる柔らかなホッペの感触。体を横回転させつつ吹き飛ぶお姉さま。壁に叩き付けられたお姉さまが漏らす「ぐえっ」と言う声。
 そこまでの全てがスローモーションに感じた。
 床に倒れ伏したお姉さま。痙攣しつつ、吐血もして、
「フラン……どうして……?」
 そして零したその一言を最後に、意識もそこで途切れたみたい。
「…………」
 当たり前だけど、『シーン』と静まりかえったわたしの部屋。
 ……殴ったわたしと、余りにもデリカシーがなかったお姉さま。どっちがより悪いかは……今のわたしには分からない。これが生き死にに関わるならアレだけど、吸血鬼はこん位じゃ命を落とす事なんてないから、尚更に。
 ただまあ、わたしの不意打ち右ストレートはクリーンヒットの上、多分RPG的に表現したらばクリティカル。お姉さまは中々目を覚まさなかった。
 だから次の日――わたしは咲夜に電話を掛けさせた。
『あっ、もしもし八雲さまのお宅でしょうか――』
 ……ええと。『てへっ』とでも言っとけば許されるかな?

 結果的にお姉さまは、今回の首脳会談を欠席することとなりました。

 ヘッターです。筆の進むまま、気楽な感じのギャグ・コメディに挑戦しようとしたら何故かフランちゃんがスカートをたくし上げていました。書いた自分でも意味が分かりません。
 ていうか最近姉妹のお話が多めですね。最新話のページ開いてビックリしました。なんなんでしょうこのシンクロニシティ。

 お嬢さまは普段ボケボケ。でも決める時は決める。そんなイメージ。
 フランちゃんは良くも悪くも常識人。そんなイメージです。

 読んで頂いた皆々様、ありがとうございました。

 追記。
 某掲示板を覗いた所、ありがたく、そして嬉しいことに『縦書きだと開くのに時間が掛かる』というご意見を頂いておりました。
 ですので、表示形式を『指定しない』に変更しました。(読みにくかった場合、縦書きにして頂けると助かります。恐らく、エラーが出たとしても『処理を続行』を選択して頂ければ、いずれ表示されると思います)ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。

ヘッター
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.740簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
フランがガーターか
紳士たちが喜びそうだ
2.90名前が無い程度の能力削除
なんだこれ
なんだこれ
個人的に原題は「セクシーショーツ首脳会談に備える姉」
4.90名前が無い程度の能力削除
結局首脳会議の内容がほんとかどうかは闇の中w
5.90奇声を発する程度の能力削除
良いな
6.100アルトリア削除
フランはガーター、レミリアはクマさんパンツを穿いているところを想像したら...
すごく面白かったです!
9.90名前が無い程度の能力削除
ある意味良い姉妹関係
面白かったです
10.90名前が無い程度の能力削除
気絶する勢いで殴っちゃだめだよなあ…
二人の話が面白かったです
最後ぶん殴るあたり二人の問題の本質がある気がします
思わず殴ってしまうシーンで思わず殴ってしまうフランと殴られるようなことをしてしまうのに相手を信頼してしまうレミリア
でも案外運命パワーで長期的には良かったのかも知れないですね
下着勝負と線路の主張しなくて済んで
13.90大根屋削除
おぉ、これは……ニヤニヤが止まらない姉妹愛w
18.80絶望を司る程度の能力削除
笑うしか……w
20.100名前が無い程度の能力削除
なぜ姉は幼く、妹はアダルティーという風潮が跋扈しているのでしょうねぇ…
何はともあれ、フランちゃんwithガーターとか最高だ!
21.90非現実世界に棲む者削除
そもそも誰がそんな提案をしたんだか(笑)
はっちゃけてますねえ、この姉妹。それがいいんですけどね。