Coolier - 新生・東方創想話

ミゼラぶらないフェイト

2014/08/05 00:59:08
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最後でなくても、花束は渡せるだろ。



1



赤髪のよく靡く。
立って呆然と過ごしている事が多いと、髪を触る回数が多くなる。

その内、なんとなく髪には気を遣う様になった。
どうせなら触り心地が良い方がいいな、だとか、
元々長くて手入れは簡単な方では無かったのだから少しくらい手間が増えても、だとか。

考えた私は、取り敢えず咲夜に聞いて、
「放っておかずにちゃんとドライヤーで乾かす事」や、
「お風呂は寝る少し前に入るのがよい事」等を教えてもらい、それらを実践した。
本当はもっと教鞭は多岐に渡ったのだが、比較的簡単そうなものだけをチョイスしたのだった。
驚いた事に、それだけで見違える程髪の様子が変わった。
自分でも触っていて「これはいい」と自信を持ってしまう程のもので、それを見た咲夜はかなり羨ましがっていた。
咲夜は髪質がそれほど良くなく、しかもハネっ返りなのであまり髪で遊べないらしい。

立っているのも飽きて椅子を用意した頃だった。
遊びに来た人間、妖精、妖怪等が座っている私の髪を触りたがる事があった。
まあ面識のある相手であれば触らせてやってもいいかと好きにさせていたら、
数時間後お風呂に入ろうと鏡が目に入った時、捻ってあるやら縛ってあるやらピンが入ってるわ編んであるわ、
ぐちゃぐちゃの状態でしかも何故か妙な統一感のある不思議な髪型と化していた時は流石に苦笑いが出た。

その日からは三つ編みをやめて普通のロングストレートにした。
(この拠点における理容室役はフランドール・スカーレット)
もう好きに触らせてやろうと思ったのもあったし、自分でも触りたいのもあった。
来客が無かったのに自分で弄りすぎてすごい事になったのも記憶に新しい。

咲夜と髪の触り合いをする事が出来る様になった。
彼女は片側から後ろにかけて捻り、縛った髪型と、
ハネっ毛を利用した無造作玉髪を気に入っていた。
それと同時にそこまで詳しくなったのかと、私に対して驚いてもいた。
いつの間にかヘアカタログ等を読むのが趣味の一つになっていた。
その延長で服にも気を使おうかと思った事もあったが、結局スーツが一番しっくりきたのでやめた。
私の収納具には、帽子や髪飾り等ばかりが増えた。
コーマで一番髪について詳しかったフランとは、また一輪、花が開くようになった。



2



「おう、どうした」

我が主人、紅い悪魔、ブラド・ツェペシュの末裔とかでは全くない信仰吸血鬼のレミリア・スカーレットが、門前で座っている私の前に立った。
心なしか膨れっ面か?もしかしたら機嫌が良くない、あるいは私が何かした、あるいは私が何かしてないのが原因だろうか。
いや、それとはまた別に、なにか物憂い表情をしている気がする。

しかし彼女はそういったマイナスを私にぶつける事はなく、ただ、

「門番、今日のおやつはマドレーヌだ」

と言った。
そういえば深夜三時だ。
スカーレットはお菓子を作るのが好きで、気が向くとコーマの住人に出来たお菓子を配って回る。
自分で作った物は、どんなに美味しく出来ようと味見以外では一人で食べないという、ほんの少し変わった拘りを彼女は持っていた。
それにしてもマドレーヌとは。


「レパートリーどんどん増えるな」

「ほら、バスケットにこのように盛り付けるのだよ。
 チルノに似合いの花も選んでもらって、美味しそうに見えるだろ」

「うん、うまいしな。もふもふ」

「君はもう少し風情を楽しむべきだと私は思う」

「ひとつ食べたら消え去るようなつまらん風情でもあるまいよ」

「まあ、何せ私の作ったマドレーヌと君の育てた花だから」


テッセン、ローズマリー、ルリツボバナがバスケットにとりどりと飾られている。
とても蒼い、なんとも涼しげだ。
そしてそれとは対象に、マドレーヌは甘い。
少し紅茶が恋しくなるな。

それにしてもアイツ、花なんか自分で選ぶ様になったのか。
花言葉を考えるに、特にその辺は今回意識してないみたいだけれど、今日は少しあったかすぎるからなあ。
アイツの扇いだ風がこっちまで届いたような気分で、何故かありがたい。

と、マドレーヌと世間話を二人で楽しんだ後、スカーレットは後ろに回って、私の髪にゆっくりと触れた。


「今日はまだ誰にも触られていないし、自分でも触っていないんだな」

「ああ。そんな日もあるだろ」

「ふん。それを待っていたんだ。どいつもこいつも人の所有物にベタベタ触りおって」

「ああ、それで……」

「あん?」

「なんでもありませんよ」

「まあ、私はあんまり詳しくないのだがな…三つ編みでもたくさん作ろうっと」

「お好きに」


お互いしばらく黙って、私は其の辺に視線をやって、スカーレットはひたすら私の頭を触っていた。
彼女の髪の触り方は妙に扇情的というか、いやらしい。
私の頭に無数の三つ編みが形成されていき、擬似ドレッドヘアーの様になっていく。


「なあ、門番」

「なんだよ」

「咲夜、やっぱりダメだってさ」

「……ああ」

『物憂い』は、そっちの方だったか。

「はは、聞き出すのに、だいぶ言葉を選んだんだがな。これじゃ、後継者は全く関係のない、別の処から探すしかないか……」

「別に男の方は種無しじゃなくて、咲夜も体に何か異常がある訳じゃないって、前に解ったって、そう言ってたよな」

「ああ。医者の領分外だったみたいだから、結局私と我が親友で調べたよ。まあ、彼女はその能力ゆえ、
 存在自体が最大級の『摂理禁忌』だ。どんな不便な有り様でも不思議は無かった、と常に疑うべきだったのかもしれない」

「ふう……そうか……そうか……」


スカーレットはもう編む処のなくなった私の髪を、今度は解き始めた。


「お前はこういう時、何も言わず、相槌だけ打つよな」

「まあ」

「それが好きだ」

「どうも」


沈黙の中、知恵の輪を解き終わったスカーレットは、後ろから手を回して来た。

ぬくくて、少しひんやりとしていて、白い、彼女の肌。

ざあ、と森のざわめく音がするくらい、周りも、私達も、静かだった。



3



どれくらいそうして居たのかは判らないが、結局、その間お互いの表情を伺える事は無く、
スカーレットはまた口を開いた。


「咲夜はもう知っているよ」

「そうか」

「明日は咲夜と、私も『夜ご飯』を作ろうと、話をした。別に何か励ましの言葉を、その間にかけたりする訳じゃない。
 君も、明日は一緒に食べるだろ。なあ。私の言っている事がさ」

「ああ」

「ふふ。ふふふ……ああ……」


咲夜はそう、強い訳ではないが、決して弱い子じゃない。
ぬくもりを感じる事の出来る人間だ。
ぬくもりを感じる事の出来る人間なのだ。



スカーレットの声に、力は無かった。
私もあまり元気とは言えないだろうな。

遅くても数日後には、元に戻しておくよ。

だからさ、ちょっとくらいは、本人じゃなくたって、いいだろ。


「スカーレット。皆寝たらよ、私ら二人で飲むんだぞ」

「そのつもりだったさ。お互い、寝かさないぞと言いながら、笑いながら、泣きながら、だ」


月は爛々と輝いていた。
私達は少しだけ。
ほんの少しだけ、感情を顕にした。

吸血鬼の死なない流水で、ひとまず、洗い流す為に。
はじめまして
くろはすみ
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淡々とした調子が好きです。
5.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気好き
11.90名前が無い程度の能力削除
口調が好みです