Coolier - 新生・東方創想話

2014/07/31 11:48:55
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ひどく湿り気を帯びていた朝であった。地底というのは基本的にジメジメしているものだが、今日は一段とひどく湿気ていた。そんな中、気怠そうに釣瓶落としの怪、キスメが目を覚ます。井戸の中で眠りについていた彼女は、ふわりと飛び井戸の外に出た。基本的に彼女はどこかに定住しているわけではなく、狭い洞窟や井戸などを探してそこで夜を明かしている。今回は特に彼女のお気に入りの場所であった。井戸の中はひんやりとしていが、出ると少しむわっとした空気が肌に伝わりキスメは少し不機嫌だった。彼女は朝起きて、まず朝食を探す。彼女が食べるのは人間の死肉である。地底というのは猫車が運んで来たり、捨てられたりして死肉というのは案外たくさんある。特に死肉がおいしいからキスメが食べているのではない。死肉というのは、大抵恐怖の感情というものが詰まっている。死ぬ間際というのは誰であれ恐怖するものなのだ。妖怪であるキスメはその心を食べる。今日も少し飛び回って彼女は朝食を見つけた。まだ、幼い子供のものと思しき右足だった。ほかの部分は見つからなかった。それをキスメは、ひょいっと拾い上げるとじっと見つめた後、つまさきからガリボリと噛み砕いて食べ始めた。少し腐敗していたがお構いなしにがぶがぶ食べた。
「あぁ、おいしい、おいしい。子供の恐怖っていうのはなんというか透き通っていて本当においしい。」
さっきまで湿気で不機嫌だったキスメだが上々な朝食に出会えて上機嫌になった。すべて食べ終わるとけぷっと軽く月賦をして大きく伸びをした。さっきまで寝ていた井戸に戻って水を軽く飲むと地底から地上に行く入口に向かった。風が良く通りとても過ごしやすい場所である。しかし、今日は地上で雨が降っているのか、湿った風が入ってきていてひどくジメジメしていた。しかし、キスメにとってそんなことはどうだってよかった。ここにはあの人(あの妖怪というべきかもしれない)が来るのだ。毎日欠かさずやってきて、来ない日なんてなかった。キスメはその人を待っていた。彼女もまた毎日欠かさず行っていた。まだ来ないか、まだ来ないかと彼女は心を躍らせながら待つ。ひゅうひゅうと風が入ってくる音が反響している。その中にしゅーしゅーという音が紛れ込む。あの人が来た合図である。
「あら、キスメ。朝食はもう済ませたの?」
来た。土蜘蛛の黒谷ヤマメだ。
「ええ、さっさと済ませちゃったわ。」
わざと素っ気なくキスメは返事をする。
「偶にはゆっくり二人で食べたいって言った気がするんだけどねぇ。」
「朝食っていうのは一人でゆっくり食べるのがいいのよ。」
顔を伏せながらキスメは答えた。心中では龍が暴れていた。
「そういうものかね。」
ヤマメは少し悲しそうに答えた。
「少なくとも私にとってはそういうものよ」
やはり素っ気なく返す。心がチクチクするのをキスメは感じた。
「そうかい。じゃあ、私はこれで。」
そう言ってヤマメはその場を立ち去ろうとする。
「待って。」
キスメは呼び止めた。もっとヤマメと居たいという至極簡単な理由で。
「どうしたんだい?」
ヤマメはそれに反応して振り返る。キスメの望むように。
「いや、これからどこに行くのかな、って。」
キスメは尋ねる。
「あぁ、地霊殿だよ。少し壊れた部分が直して欲しいってさとり様が。」
ヤマメは土蜘蛛という種族の特性を生かして建築などをしている。もちろん、プロではないので何か家を一から作るなんてことはできない。ただ、本人が言うことには手助けがあれば作ることも不可能ではないらしい。
「暇ならキスメも来る?」
キスメにとって嬉しい言葉がかかった。
「うん。」
高まる気持ちを抑えてキスメは返事をした。しかし、それと同時に少し後ろめたい気持ちもあった。それは、行き先が地霊殿ということだった。いや、もっと正確にいうのならそこの主、心を見透かす力を持つ覚妖怪、古明地さとりに出会うのが嫌だったというべきであろう。キスメにはどうしても見られたくない気持ちがあった。それはヤマメへの甘い感情などではない。確かにヤマメへの感情という点では間違ってはいない。しかし、その感情はあまりにも歪んでいた。キスメ自身そのことを自覚している。しかし、その感情はどんなに押さえつけても湧いてくるのだ。それはある種、妖怪の本能ともいえるのかもしれない。そんな懸念を持ちながらキスメはヤマメに付いて地霊殿へ向かった。


「思ったよりひどいねえ、これは。」
地霊殿のエントランスでヤマメが呟く。確かにひどいことになっていた。シャンデリアは割れ、カーペットはボロボロ、壁には穴が開いていた。
「いやぁ、昨日こいし様が暴れて暴れて…」
火車のお燐が言う。今回、ヤマメに修理を頼んだのは彼女だ。本来なら地霊殿の主たるさとりが頼むべきなのだろうが、エントランスが壊れただけではあまり気にしなかったらしい。それで見かねたお燐が頼んだのだろう。
「まあ、なんとかしてみるよ。これは骨が折れそうだね…」
そうして、ヤマメは作業を開始した。まず、瓦礫を撤去することから行うのだが、量が多かったため、急遽応援に鬼である星熊勇儀を呼ぶことになった。流石は鬼の力といったところか、一時間もすれば撤去作業は終わった。続いて修繕を始めるのだが、これが大変だ。量が多いのに加え、ヤマメは前述したとおりプロではない。とりあえず、応急処置的な修繕を行うこととなった。一連の作業はもちろん付いて行ったキスメも手伝った。彼女の心の中には少しでもヤマメの役に立ちたいという気持ちと、ヤマメに自分を構ってほしいという二つの気持ちが交錯していた。そんな彼女の頑張りもあってか、夜になる前に作業は終了した。大変な作業であったが、彼女らの心には達成感と満足感があった。
「ありがとう、勇儀。それにキスメ。今日は助かったよ。」
ヤマメが感謝の言葉を述べた。
「礼には及ばないよ。」
勇儀が少し照れくさそうに答える。
「大したことはしてないよ。」
ぶっきらぼうにキスメも答える。しかし、彼女の心の中は嬉々していた。それと同時にあのひどく歪んだ感情も湧き上がって来た。彼女はその感情を抑えつけた。表には出ないものの、彼女の心の中ではその感情は黒く渦巻いていた。
「そうだ、この後みんなで飲みにいかない?お礼も兼ねて私のおごりで。」
ヤマメが提案する。
「お、いいねぇ。」
「わかった。」
もちろん二人とも賛成する。勇儀は酒のため、キスメはヤマメと一緒にいるためという違いはあったが。早速三人は酒場のある旧地獄街に向かおうと地霊殿に背を向ける。その時不意に後ろから声がした。それはキスメが最も会いたくなかった者の声だった。
「あら、もう直ったのね。ちょっと歪だけど。」
声の主は古明地さとり、心を読む化け物。心に渦巻くモノを他人に知られたくないキスメにとってこの状況は最悪であった。
「あら、気を悪くしないでちょうだい。これで十分ですよ。どうせ私は殆ど部屋から出ませんし。」
ヤマメたちの心を読んでさとりが一方的に話す。
「まあ、ありがとうございました。では、私はこれで。」
そう言ってさとりは地霊殿の奥へ立ち去って行った。キスメは安心感から全身の力が抜けるのを感じた。それと同時に疑問が生まれた。どうして何も言わなかったのだろう、という疑問である。配慮であろうか、とキスメは思ったが直ぐに否定した。あのさとりがそんな配慮をする訳がないだろう。どうせ興味がなかったのだろう。キスメはそれ以上考えるのを止め、ヤマメと勇儀と共に酒場に向かった。
「少し楽しめるかもね。」
さとりは静かに呟いた。

キスメは二日酔いからかひどい頭痛を感じた。彼女は井戸の中で目を覚ました。眠る場所を普段は色々点々としてみるのだが、昨日はそんな体力もなく昨晩と同じ場所を利用した。食欲も湧かなかったので、朝食は食べなかった。彼女は今日も愛しい愛しいヤマメの元に向かった。それが彼女の日課だからだ。今日も昨日と同じ場所にヤマメはいた。ヤマメもまた、そこに来るのが日課なのだ。
「おはよう、キスメ。昨日は遅くまで飲んだから、ちょっと辛いねえ。」
ヤマメが笑いながらキスメに話しかける。
「おはよう、ヤマメ。そうだね。」
それで会話は終了したが、二人はその場を動かなった。静寂が場を包んだ。どこからともなく聞こえてくる足音と時折吹く風、それに二人の息遣い以外音はなかった。その時、キスメは発作に襲われていた。と言っても、体の発作ではなく心の発作だ。普段抑え付けている不浄で醜い感情が彼女の中で暴れまわった。それこそ、彼女の意思さえ乗っ取ってしまわんが如く。キスメは叫びそうになるのをぐっとこらえた。ヤマメへの思いだけで気が狂いそうになった。ヤマメの愛らしい顔、くりくりしてかわいい目、さらさらしていていい匂いがする髪、程よく肉がついた腕、すべすべで綺麗な手、丁度いい大きさの胸、ぷにぷにして可愛いお腹、綺麗な足、キスメはヤマメの全てが好きだった。そして、___歪みきっているが___その全てをぐちゃぐちゃに壊したかった。初めてヤマメに恋慕の情を抱いた時からこの感情は付きまとってきた。キスメ自身その感情は歪んでいると自覚していた。しかし、どんなに意識せずともその感情からは逃げられなかった。だから、押さえつけた。面に出なければ問題はなかったからだ。しかし、今に来てその感情は面に出ようと暴れている。なんとかこの場から離れなくては。この感情が冷めさせなければ。そんな時どこからともなく声が聞こえてきた。
「自分の感情を抑え付けてしまうの?」
どこかで聞いたことがある声だった。キスメは幻聴ではないか疑った。その声は甘美に堕落へと誘った。
「思うことをしてしまえばいいじゃない。何を迷っているの?」
何も考えず欲望に身を任せそうになる。いやまて。なぜ悩んでいるんだ?
「誰しも欲望は持つもの。それを開放して何が悪いの?」
そうじゃないか。
「それに一体何に縛られているの?倫理観?そんなもの捨ててしまえ。」
刹那、キスメは叫びながらヤマメに飛び掛かった。同時にヤマメも飛び掛かった。二人はそのままお互いの首を掻っ切った。二人は気づいた。そしてそのまま意識を失った。そのまま目を覚ますことはなかった。二人とも口には笑みがこぼれていた。
「よかったじゃない。二人とも幸せになれて。本当に愛し合っていたのね。ちょっと羨ましいわ。」


ラナンキュラスとバラは愉悦に笑った。
読んでくださりありがとうございました。

ツイッター @at_tanaka0419
A.T(田中)
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