Coolier - 新生・東方創想話

半人前のデザート

2014/07/30 11:35:34
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「ドキドキで甘いものが食べたいわ」
 もう昼になろうかという朝。目覚めて開口一番の、幽々子の言葉だった。
「はあ、ドキドキ…ですか」
 またこの人は、唐突に何を言い出すのか。給仕をしながらも、妖夢はその言葉の意味を測ろうと頭をひねる。
「そう。ドキドキなの、妖夢。それでいて、とろけるように甘いの」
「と、言われましても……」
 ここは霊の集う桜の名所、白玉楼。
 冥界に存在するこの広大な屋敷の主、西行寺幽々子の言葉は往々にしてつかみどころがない。そのせいで、長年彼女に仕える半人半霊の従者、魂魄妖夢にさえも真意がつかめないことが多々ある。あるいは旧知の仲である、紫色のスキマ妖怪になら簡単にわかるのかもしれないが。
 妖夢は差し出されたお茶碗に白米を山と盛りながら、困ったように首を傾げた。
「あら、わからないかしら?」
 そんな妖夢を見て幽々子は無邪気な笑みを浮かべ、楽しそうにその顔を覗き込んだ。
 あなたの考えがそんな簡単にわかれば、苦労はしませんよ。と言いかけるのを飲み込んで、妖夢は主にお茶碗を手渡す。
「もう少し、何か具体的には」
「あらあら、仕方ないわねえ」 
 からかうような幽々子の言い方に、未熟者扱いというか子ども扱いをされたような気がして(事実そのつもりなのだろうが)、妖夢は少し頬を膨らませた。その行為自体が子供っぽいとは、本人は気づいていないらしい。
「んー、そうねえ。例えばミスティアとか…。あ、でも甘くはないわねえ」
「どっちにしてもダメです」
 当然のように挙げられた知り合いの名前に、妖夢はきっぱりとダメ出しをした。
幽々子は「冗談よー」とからからと笑っている。まあ、冗談なのだろう。たぶん、きっと。
「ドキドキで甘いもの…」
 そうしてしばらく考えた後、妖夢は割り切ったようにスッと顔を上げた。他ならぬ幽々子の、もとい主の頼みなのである。どれだけ考えることになろうが、結局は叶えることになるのだ。
「わかりました。なんとかやってみます」
「やったー」
 その返事を聞いて、幽々子はにっこりと顔を明るくする。
「ありがとう。期待してるわー」
 無邪気というにふさわしい、幽々子の満面の笑顔。
その花が咲いたような笑顔に、妖夢は一瞬ドキリとしたが、ぶんぶんと首を振って仕切りなおした。不意にこういう表情をするのは反則だ。やめてほしい。などと内心でぼやきながら。
「甘いものということですので、今晩のデザートとして用意しますね」
「ん?えーっと……」
 付け加えた妖夢の言葉に、先ほどまでとどまるところを知らなかった幽々子の箸が、その動きを止めた。
 そして珍しく、言葉を探るようにして言う。
「…そうね、それが良いかしら。でも、それなら」
 どことなく歯切れの悪い様子に、妖夢は疑問符を浮かべ、そらしていた視線を再び幽々子に向けた。
「はい?」
 なぜか幽々子の顔はうっすらと紅い。
「デザートだから、半人分でお願いね」
「……?わかりました」
 釈然としないまま、妖夢は主の要求を承諾した。幽々子様の方から、量を減らすように指示をするなんて珍しいな。
そう思ってぽかんとしていると、目の前に幽々子の手から空になったお茶碗が再び差し出された。
「ところで」
 幽々子の顔からは紅みが消え、その表情はもう普段の飄々としたものに戻っている。
「お昼ご飯はいつになるのかしら?」
 今、ようやく時計の針は十一時を告げた。まだ、ぎりぎりで朝の白玉楼である。


「うーん…」
 多くの人でにぎわう、人里の繁華街。買い出し中の妖夢の口から、思わずうなり声が出た。
原因は言わずもがな、今晩のデザートのことだ。
一体、何をお出しすれば良いものか。ドキドキするもの……。今まで数多の食品を食べてきた幽々子様をドキドキさせるものなど、妖夢にさえも簡単には思いつかない。
そもそも幽々子様の求めているものが、本当にその言葉通りのものであるのかさえ怪しいのだ。さらりとした口調で、とんでもなく深い意味を持つ言葉を平然と言ってしまう。そんな人だから。
そう。幽々子様の言うことには、何かしらの含みがあることが少なくない。今まで、それに気づけなかったことが何度あったことか。その度にからかうように笑われて。まあ、その笑顔は決して嫌いではないのだけれど。すごく可愛いし。
いやいやいや。
 違う、焦点はそこじゃない。
うん。とにかく私は、もう幽々子様に半人前扱いをされたくないのだ。半人だけど。
幽々子様と、少しでも同じ目線で話をしたい。そういった意味で、今回のこれは主を喜ばせるということと同時に、妖夢にとっての試練でもあるのだ。
 …しかし、では何をお出しすれば良いのか。
「うーん……」
結局良いアイデアも出ないまま、気づけば妖夢は贔屓の食料品店の前にたどりついていた。
「ん?あれは……」
妖夢は、店の中に見知った姿があることに気が付いた。
白と青を基調とした服に、赤のアクセントとして映えるリボン。透き通るような白い肌と、さらさらとした金色の髪。七色の魔法使い、アリス・マーガトロイドである。
「あら妖夢、久しぶり。宴会以来ね」
妖夢に気づいたアリスは、品定めをする手を止め、先に声をかけてきた。
「こんにちは、アリスさん。また、ずいぶんと大きなお買い物ですね」
妖夢が、出会って一番にそう言ったのも無理はない。アリスの周りで、人形たちが結構な量の食品を抱えているのだ。
「ええ。ちょっと食べ物を切らしっちゃって」
「珍しいですね。アリスさんが食材を切らすなんて」
 しっかりとしたその性格上、アリスが食糧の貯えを切らすということは妖夢には想像しにくかった。実際、何度かアリス宅に足を運んだ妖夢には、アリスが魔法で冷気を操り、食糧の貯蓄を行っているのを見て感心した記憶もある。
 そこからヒントを得て、妖夢は幽霊の冷気を使った貯蓄をしているのだが。
「このごろ、魔法の研究でこもりっきりだったから。それに、ちょっと寝込んじゃってたし…」
 歯切れの悪い口調で、苦笑いを浮かべるアリス。しかし、なぜかその表情は嬉しそうにも見える。
 妖夢が不思議そうな顔をしていると、アリスが目をそらしながら言葉を紡いだ。
「まあ、寝込んだのは魔理沙が来たせいなんだけどね。腕いっぱいにキノコを持って」
 ああ、またマリアリか。妖夢は呆れ顔でうなずいた。
 大方、そのキノコの毒にでもあてられたのだろう。霧雨魔理沙こと、自称“普通の魔法使い”のやることは決して普通ではないから。それに、アリスが魔理沙の誘いを拒むわけもない。
 そんな妖夢の考えを感じ取ったのか、アリスは顔を紅くして言う。
「魔理沙が一緒に食べようって言うから、仕方なく、本当に仕方なく付き合ってあげたのよ。
そしたら、二人とも動けなくなるんだもの。もう、信じられないわよ」
まくしたてる口調に、説得力はない。
「私はすぐに治ったから良かったけど、魔理沙は寝込んだままだったし。これだから、人間は脆いって言うのよ。看病するこっちの身にもなってほしいわ。おかげで食糧も尽きちゃうし、いい迷惑よ」
「それは、大変でしたね」
 よっぽど嬉しかったのだろうなと思いながらも、あくまで妖夢は同情したふりをしてみせる。普段はクールなアリスが、こうして勢い込んで話すのは見ていて面白い。
「ま、まあキノコ鍋は美味しかったけど。でもどんなのが入ってるのかわからないんだから、怖いわよね。闇鍋じゃあるまいし」
「っ!」
 不意に放たれたアリスの一言が、妖夢に一筋の光をもたらした。
「それだ、それですよアリスさん」
「え、ちょっ何、どうしたの?」
 妖夢は、思わず両手でアリスの肩をつかむ。
「おかげで助かりました。その手があったなんて。おかげで、幽々子様を満足させることができそうです」
「どの手?」
 マリアリモードから素に戻ったアリスだが、突然の妖夢のハイテンションにはついていけない。
「こうしてはいられない。早く準備しないと」
「うん。聞いちゃいないわよね」
「今度、またお礼を持って伺います。
 それでは、失礼します」
 妖夢は一方的に言い残して、足早に店を出ていった。
「…さ、さようなら」
 遠ざかる妖夢の背中に、アリスは小さく手を振る。聞いちゃいないのだろうが、そこは律儀なアリスである。
「あの子も、大変よね……」
 白玉楼で妖夢を待っているのであろう亡霊の姫君を思い浮かべて、アリスは苦笑いを浮かべた。幽々子の胃袋を満足させるための妖夢の苦労は、きっと並大抵のことではないだろう。
 今度、差し入れでも持っていってあげようかな。ぼんやりとそんなことを考えていると、上海がつぶやいた。
「バカジャネーノ」


 一方そのころ、白玉楼。
 幽々子は縁側に腰掛け、お茶を飲んでいた。傍らには、団子とその串が数十本。
「……」
 桜が少しずつ散っては、風がそれをさらっていく。何とはなしに目で追いながら、幽々子はぼんやりと考えていた。
 今も昔も、ここから眺める風景はほとんど変わることがない。少しだけ昔に比べて変わったことがあるとすれば、それは草木の微妙な映え方か。
 それは、庭師の成長。
 幽々子は、この白玉楼の景色が大好きだ。
 昔の妖夢は、よく泣く子だった。妖忌の教育が厳しかったのもあったけれど、庭師としての仕事や剣術ができなくて、涙を流していることが多かった。
だけどそう、そんな時の妖夢の涙は、怒られたからじゃなくて、悔しいから。不甲斐ない自分が、許せなくなるから。長年妖夢を見つめてきた幽々子は、その意味をよく知っている。
 いつでもただまっすぐに、ひたむきに。妖夢は、見ているこちらが心配になるくらいに努力をしてきた。
 そうしてどんどん強くなって、庭師としても一人前の仕事ができるようになって。それでも、今でも彼女の努力は止まらない。
「……」
一口、お茶をすする。苦い。やはり、妖夢ほどうまくは淹れられないらしい。
これでも昔は、自分が妖夢にご飯をつくってあげたこともあった。もう、あの子は覚えてはいないかもしれないけれど。
 不意に、くすりと自嘲の笑みが漏れた。
 先ほどから、妖夢のことを考えてばかりだ。
「さてと……」
 わざとらしく声を出して、幽々子は立ち上がった。最後の一串となった団子を手に、んーっと背伸びをする。
 妖夢は今日のデザートに、何を用意してくれるだろうか。残念ながら、あの様子だと私の一番欲しい答えにはたどり着いていないだろうな。これでも、大分ヒントを与えたつもりなのだけれど。
 はむっ。
 団子を頬張る。甘い。
「そういえば……」
 白い団子を見て、幽々子は思いをはせた。
「妖夢の半霊、どんな味がするのかしら?」


「幽々子様、デザートの用意ができました」
 夜。
幽々子がいつもに比べて控えめに夕食をすませたのを確認して、妖夢が恭しく告げた。
「待ってましたー」
 子供のように、幽々子はもろ手を挙げて喜びを表す。
「別室で召し上がっていただきたいので、私に付いてきてください」
「え?」
 別室でと言う妖夢に、幽々子が一瞬固まった。
まさかと、幽々子の期待もとい妄想が膨らむ。
 わざわざデザートのために、部屋を変えるということは普通ない。しかしもしも万が一、幽々子の意味したものを妖夢が食べさせるというのなら、部屋を変える理由が生まれる。それはつまり、寝室へと。
 幽々子が妖夢に暗示したもの、ドキドキでそれでいてとろけるように甘いもの。かつデザートだから半人分。要するに、妖夢(半人半霊)。
 いやいやいや、さすがにそれは困る。いや嬉しいのだけれど、でも心の準備というものができていない。当てられることはないだろうと、半ば冗談で言ったのだから。
 うーん、でも、ああもしもそうだったら、どうしよう。
「あの、どうかされたのですか、幽々子様?」
「責任は、取らなくちゃいけないわよね」
「え?」
慌てて手を振ってごまかす幽々子。
「ううん。なんでもないの。なんでもないのよ、妖夢」
「?」
妖夢は首を傾げながらも、幽々子の先に立って歩を進めた。
「こちらです」
 広い屋敷の中を少し歩いて、妖夢がある部屋の前で立ち止まった。
 その部屋、自身もよく知る部屋を前にして、幽々子は緊張した面持ちで妖夢を見た。
「ほ、本気なの、妖夢?」
「このようなところで窮屈かもしれませんが、ご容赦ください。ほかの部屋を汚すわけにはいきませんので」
 妖夢は自らの部屋を指して、やや申し訳なさそうに頭を下げた。
「そ、そう。汚さないように……ね」
 この期に及んでもかくも礼儀正しい妖夢に、幽々子は少し感心した。この従者は、いつの間にこんなに精神的な成長を遂げたのかと。
それに比べて、自分自身でも声が震えているのがわかる。心臓の高鳴りを抑えることができない、そんな気がする。幽霊だけど。
「で、では失礼するわ」
 幽々子はできるだけの平静を装って、妖夢の前に出て襖に手をかけた。
 眼前に横たわる、一組の寝具。を想像しながら。
「そーなのかー」
 どうみてもルーミアです。本当にありがとうございました。
「」
 幽々子の思考は、完全にフリーズした。
「あ、幽々子様。今日は、特別なデザートのためにルーミアさんに手伝ってもらって……って、幽々子様?どうしたんですか、大丈夫ですか?」
 幽々子の異変に気づいて、妖夢が慌ててその体を支える。
「はっ。よ、妖夢。私は一体何を……」
「いや、あの今からデザートの方を」
「デザート?布団はどこにいったのかしら」
「本当に大丈夫ですか、幽々子様?」
 あまりに支離滅裂な発言に、妖夢は真剣に心配になっている。夕食に、何かおかしなものでも入っていたのではなかろうか。魔理沙からキノコをもらった覚えはないけれど。
 その妖夢のまなざしを受けて、かつ妖夢の部屋の中央に置かれた机と鍋を見て、幽々子はようやく正気に戻った。
「デザート。ああそうデザートよね、うん。ありがとう、もう大丈夫よ、妖夢」
 どうやら自分の、完璧な勘違いだったらしい。ルーミアがいる理由はわからないけれど。
 いくらか、というかかなり落胆したものの、そこはさすがにそれを感じさせない普段の調子で、幽々子は自分の体を支える妖夢に優しく笑顔で返した。
「早くデザートが食べたいわー」
「はいはい。では、こちらへどうぞ」
 取り越し苦労だったことがわかった妖夢は、呆れたような顔をしながら、しかし相変わらず丁重に、幽々子に席を勧めた。
 
「それで、デザートは何かしら。ルーミア鍋?
 ルーミアが甘いだなんて、私知らなかったわ」
「そーなのかー」
 ルーミアと鍋を交互に見て、おっとりと首をかしげる。ルーミアはその言葉を受けて、自分の指をなめてみる。
「違いますよっ!ルーミアさんも自分で味見しないでっ!」
 妖夢からの鋭いツッコミ。この二人を引き合わせたのは、まずかった気がする。今更になって少し不安になる。
「今日のデザートは、チョコレートフォンデュ。ただし何が入っているかわからない、まあ闇鍋のようなものです」
「なるほどね」
 幽々子は改めて机の上を見て、頷いた。これが幽々子のヒントから、妖夢の導き出した答えなのだ。そして、どうやら与えられたヒントはすべて踏まえられているらしい。
 甘くてとろけるチョコレートに、ドキドキの闇鍋。半人分というのは、用意されている食器の数から察するに、妖夢も一緒に食べるのだろう。
 ストレートに受け止めすぎているのは、やはり妖夢がまだまだ半人前だというところだろうか。幽々子はくすりと笑う。
「ルーミアがいるのは、目隠しの代わりっていうとこかしら」
「おっしゃるとおりです」
「そっか……」
 幽々子の表情が、少し翳った。自分の期待がはずれたことは、まあ当然の結果なのだけれど、それでもやはり残念ではあるから。
「あっ、ご安心ください」
 その幽々子を見て、妖夢が慌てて付け加える。
「決してその、変なものとかは入ってはいませんから。私も一緒に食べますし」
「あら」
 妖夢のリアクションに、幽々子の顔がほころんだ。
 本人は知らないのだろうけれど、自分の用意していた答えを、妖夢は当てることができなかった。
 けれど妖夢は自分を喜ばせようとして、わがままを真剣になって受け止めてくれた。それが例えようもなく嬉しい。
 けれどなんだか悔しいような気もしたので、幽々子はあえて意地悪に聞き返した。
「妖夢が一緒に食べなかったら、変なものを入れるつもりだったのかしら?」
「いや、そんなことはしませんよ!」
 わたわたと否定する妖夢。
 かわいい。
「冗談よ。早く食べましょう、お腹がすいたわ。ルーミアも一緒に食べるでしょう?」
「いいのかー?」
 ルーミアが目をキラキラさせて、幽々子を見る。
「もちろんよ」
 幽々子は朗らかに笑った。
「そーなのかー」
「よかったわね」
 嬉しそうなルーミアに、妖夢も笑顔で席を勧める。幽々子がそういうのを予期していたのか、ルーミアの前にも食器並べられる。
「では」
 3人が食卓に着くと同時に、幽々子が高らかに声を上げた。
「「「いただきまーす」」」
 リアル闇鍋の開始である。

「うわ、本当に何も見えないわね、これ」
「鍋と器の位置は、私が把握してますから」
 ルーミアの発生させた暗闇の中、妖夢がふたを開けた。
「おーいいにおいー」
部屋の中に、チョコレートの甘くて香ばしい香りが広がる。
幽々子とルーミアから、感嘆の声が漏れた。
「ほんと、いい香りねー」
「ふふ。中身は食べてからのお楽しみですけどね」
 妖夢が幽々子、ルーミアの順に具材を器に盛って手渡す。日頃の剣術の鍛錬もあってか、暗闇の中にあってもその手つきには淀みがない。
「うーん。なんだか、少し食べるのが怖いわね」
 珍しく幽々子が、食べるのを躊躇した。
「大丈夫ですよ。具材は厳選したつもりですから」
「そう?それなら……えいっ」
 意を決して、それを口にした幽々子。
 口の中に甘いチョコレートと、とろりとしてしょっぱくてコクのある、何かの味が広がる。
「おいしい」
 残念ながら妖夢はその顔を見ることはできなかったが、幽々子は恍惚とした笑顔を浮かべていた。
「これはチーズかしら。すごくおいしいわ、妖夢」
「よかった。ありがとうございます」
 妖夢の声もどこか弾んでいる。
「おいしいー」
 ルーミアも箸を進めているのが、カチャカチャという音から伝わってくる。自分から出しておいてなんだけれど、箸をちゃんと使えているらしいことが妖夢には驚きだった。
「でも肉はないのかー?」
「い、いや…それはちょっと」
 肉に絡まるチョコレートを想像して、妖夢はひきつった笑顔を浮かべた。
「あら、そうね。お肉もおいしそうよね」
「幽々子様まで、本気で言ってるんですか、それ?」
 悪ノリをしたのであろう幽々子の声がした方をジト目で見る妖夢。もしかしたら本気かもしれないところが、タチが悪い。
「あら、お鍋にお肉は基本じゃない」
 もとい。本気だったからタチが悪い。
「知りませんからね、おいしくなくても」
「わーい」
 結局、妖夢は肉を用意してチョコレートフォンデュの中に入れることになった。

 
 なんだかんだあって、デザートも終わりに差しかかってきた。
 三十分以上前から妖夢はチョコレートの甘さにリタイアしていたが、幽々子とルーミアは依然として箸を動かしている。
「お腹いっぱいー」
 ルーミアが先に箸を置いた。それでも、あの小さな体のどこにあれだけの量が入ったのかは謎である。
「そうね。私も、そろそろかしら」
 本当はまだ食べられるのだけれど、といった口調で幽々子は箸でひときわ大きなそれを口へと運ぶ。
「こ、これは」
 思わず幽々子は声を高くした。
「何かしら、この食感。すごくもちもちして、やわらかい。癖になりそうな歯ごたえだわ。こんなの、今までに食べたことがない」
 はて?
 これまでになく嬉々とした幽々子の声に、妖夢は首を傾げる。
 もちもちしたものなど、この中に入れた覚えは妖夢にはない。
「すごくおいしいわー。マシュマロかしら?」
 まあ、喜んでいるようなので良いのだが、何かが引っ掛かる。……マシュマロ?
 マシュマロ……、もちもちしていてやわらかい。今までに、幽々子様でさえ食べたことのない食感で……。
 妖夢に悪寒が走る。
「ゆ、幽々子様。まさか、それ……」
 そういえば、半霊はどこに行った?
「わーっ!幽々子様、ストップ、ストーップ!」
どこまでも、のんびりした声の幽々子。これは、わざとやっているんじゃないだろうか。
「ルーミアさん、すぐに部屋の明るさ戻してくださいっ」
「お腹いっぱいで動けないのかー」
 
 
 結局、妖夢(半人)の必死の救助活動によって、妖夢(半霊)は一命(?)をとりとめた。
「あーあ、もうちょっとで妖夢を食べられたのに」
 おどけたように残念がる幽々子。
 しかし、予期していた反応が返ってこない。明るさを取り戻した部屋の隅で、妖夢は幽々子とは違う方向を向いてうなだれている。
 あら、これは少しやりすぎちゃったかしら。どうやってフォローしようかしら。
 さすがの幽々子も心配になってきた。自分は何も、妖夢を傷つけたいわけではないのだから。
「……」
 しかし、こうして凹む妖夢を見るのはなんだか久しぶりな気がする。
 うん。ぶっちゃけて言うと、妖夢かわいい。
 心配する一方で、そんな主にあるまじきことを考えていると、妖夢がすっとこちらを向いた。
「ぐすっ……。幽々子様、ひどいですよ。
私、本当に幽々子様に食べられちゃうところだったんですから」
 上目づかい、涙目で、顔を紅くして迫ってくる妖夢。
 もうね、我慢する方が無理です。バカです。
 幽々子の中で、何かが壊れた。
「妖夢―っ、ごめんねー!
私がチョコで食べて、いやチョコを食べさせてあげるから許してー!」
「って、うわ、ちょっ、ゆ、幽々子様」
 妖夢にとびかかる幽々子。そんなに素早い動きができたのかという勢いで、妖夢にかわす隙すら与えない。
「ちょっと、どこに手をやってるんですか。やめっ」
「妖夢―!」
 逃げようとしながらも、妖夢が少し嬉しそうになのは気のせいだろうか。
 と、突然、部屋が再び暗闇に包まれた。
「子供には見せられないのかー」
「ナイスよっ、ルーミア!」
 ルーミアのアシストに、幽々子は親指を立てる。
「って、変な気を遣わなくていいから。ちょっ、幽々子様。そこは、アッー」
 妖夢のひときわ高い声が、屋敷に響いた。
 今、時計の針は十一時を告げたばかり。まだまだ、白玉楼の夜は長い。


結局、幽々子はドキドキでとろけるように甘いものを食べることができたとか、できなかったとか。
 初投稿です。しゅぜんといいます。
 心を込めてさらします。
 
 いつかマリアリを書きたいな。
しゅぜん
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コメント



0.400簡易評価
1.90絶望を司る程度の能力削除
甘いですねぇ・・・この甘さに90点です。残りの十点は、なんで続きを書かなかったのか?という意味で。
6.100奇声を発する程度の能力削除
良い甘さ
7.100非現実世界に棲む者削除
いやぁ甘いですねえ、可愛いですねえ。
ゆゆさまが自分の思う通りに可愛くて、妖夢に並々ならぬ愛情があってとてもイイ。
チョコレートフォンデュより甘甘なゆゆみょんごちそうさまでした。
13.100名前が無い程度の能力削除
ゆゆみょんはべったりしてるぐらいがちょうどいい