Coolier - 新生・東方創想話

聡く優しく、嘘を付く

2014/06/17 02:25:57
最終更新
サイズ
4.31KB
ページ数
1
閲覧数
1566
評価数
11/33
POINT
2010
Rate
11.97

分類タグ

「大変ですお嬢様。妹様が館から抜け出してしまいました」

  あ、今嘘ついてるな。すぐ分かった。
  咲夜は瞬き一つせずにこちらを見つめている。嘘を付くときの癖だ。大方『目を逸らすと嘘っぽく見えるから目を見て話そう』なんて考えているのだろうけど、それが逆に不自然だ。そういう所は昔から変わってない。

「あら、それは大事ね。こんな快晴の日に外に出るなんてフランが危ないわ」

  取り敢えず、表向きは妹の心配をする振りをしてジャブを放つ。吸血鬼が昼日中に外に出るわけないだろう、と。

「妹様は傘を持って行ったので当分は大丈夫かと」

  メイド長は眉一つ動かさないで答える。演技は完璧だったけど今度は内容が滅茶苦茶だ。
  フランは自分用の日傘なんて持ってないし、私のは今手元にある。後は咲夜の雨傘があるぐらいだが、確か昨日は雨だった。今頃傘はテラスに干されているだろう。当然フランがそれを取ることは出来ない。
  何故咲夜がこんな嘘をつくのか。それも私は予想できている。今日は私の誕生日なのだ。通常、吸血鬼などの長寿な妖怪はそういった記念日のようなものには無頓着になる。なんせ何百回と同じ行事を繰り返すのだ。どんなに楽しいことが好きな奴でも流石に飽きる。実際、私はここ数年の誕生日がどうだったかなんて殆ど覚えていなかった。
  そんな話を聞かせたのは何時だったか。どうやらそれが瀟洒な従者にとっては許せなかったらしい。そこで、いつもの厳粛な雰囲気の誕生日パーティを取りやめ、今年はドッキリ形式にしたのだろう。館の住人と組んで、私の記憶に残るような素晴らしい誕生日にするために。

  で、その準備が出来たから咲夜が私を誘導しにきた、といった所か。
  おおよそ咲夜が空間を操って、玄関と大広間の扉を繫げていているのだろう。私がフランを連れ戻しに行こうと慌てて扉を開けたらサプライズでお誕生日おめでとう!という計画で間違いないだろう。

「分かったわ咲夜、貴女は留守番してなさい。あの子が駄々をこねたりしたら却って足手まといだわ」
「承知しました」

  随分あっさりと引き下がる。この発言も予想通りだったようだ。
  元々フランがキレた時に相手出来るのは私だけ。それでも私に危険が及ぶ事柄に関しては意地でも付いてこようとするのがいつもの咲夜だ。どうやら私に一人で玄関に行って欲しいみたいだ。確かにサプライズパーティ会場に従者を従えて入って行くのも滑稽か。
  全く目の前の相手に違和感を感じさせない素早さで推察を終了させて席を立ち、玄関へと向かう。本来、主人が従者に出し抜かれるなんてことはあってはならない。が、折角皆が私のために用意してくれたサプライズだ。ここは気付かなかったふりをして、ドッキリ成功とさせてやるのが主人としての対応だろう。


・ ・ ・


ーーなんて考えているでしょうねお嬢様は。

  私に背を向け、大股で廊下を歩いていく姿に向かって苦笑する。私に気付かれないように努めている為、妹様に頭を悩めているポーズをとってはいるけれど、背中の左羽がパタパタと動いている。お嬢様が喜びを抑えているときはいつもそうなるのだ。それに外に出るというのに日傘をテーブルに忘れてしまっている。たったあれだけの会話で全てを察してしまうほど鋭いのに詰めが甘いというかなんというか。
  結局お嬢様にはバレてしまったようだけど、私はこれはこれで良かったと思っている。今回の誕生日パーティの目的は驚かせることではなく、お嬢様の記憶に残るような日にすること。
  お嬢様は多分『主人が従者に出し抜かれるなんてことはあってはならない。驚いたふりをして大人の対応をしてやろう』なんて考えてるのだろう。どうやら個人の趣味で見下したような言動を取ることを好んでいるようだけど、お嬢様の本質は優しすぎる程に優しいのだ。
  だからこの聡く優しい吸血鬼はきっとこのサプライズの意図に気付いて、そして必ず記憶しておいてくれる。それこそ何十年後も、何百年後も。
  少し卑怯だろうか。もしかしたら私は彼女にとても酷いことを強いているのかもしれない。人間である私には想像も付かない程の長い年月を生きる妖怪にとって『覚えておく』ことは苦痛でしかないだろう。
  それでも、せめて私がお嬢様のそばにいる間だけは、私と同じ時間に生きていて欲しい。『あの数十年はあっという間だった』なんて良い意味でさえ使って欲しくない。重荷になってでも彼女の人生の一部であり続けたい。
  これは私のエゴだ。館の皆の気持ちを無視し、お嬢様の優しさを利用して自分の欲望を叶える。なんて非人道的な行為だろう。

「・・・っと。もう少しでお嬢様が到着する頃ね。先回りして皆に報告しないと。」

  パチュリー様と小悪魔に魔法の装飾を点灯させるタイミングを伝えなきゃいけないし、首を長くして待っている妹様や美鈴が痺れを切らして飛び出してきかねない。

「ーーお嬢様は全く気付いてません。作戦大成功です、ってね」

  私の嘘とお嬢様の嘘はまるで違う。聡く優しく。その何と尊いことか。
レミリアと咲夜の独特な関係を書いてみたかった。後悔はしてない。

しかし相変わらず登場人物が少ないですね私の話は。
ハナヂウム天然水
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1050簡易評価
5.70名前が無い程度の能力削除
優しい雰囲気が流れてて良いのですが、なんかあとちょっとストーリーに要素が欲しいです。物足りなさを感じます。
7.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気は良いお話でした
12.100名前が無い程度の能力削除
「独特な関係」素晴らしいです。欲を言えばサプライズの最後まで見てみたかったです
14.70名前が無い程度の能力削除
雰囲気はよかったです。ほのぼのさんとシリアスさんがせめぎ合って
中途半端な印象になっているのが少し残念。
でも羽ぱたぱたが可愛かったのでこの点数で。
16.90絶望を司る程度の能力削除
優しい雰囲気ですね
17.100名前が無い程度の能力削除
レミリアと咲夜さんの優しさがとても魅力的でした
21.80名前が無い程度の能力削除
上手い話ですね
いい対比
紅魔館はいい話が多くて読んでて幸せ
22.100名前が無い程度の能力削除
ふむ、お見事
23.100名前が無い程度の能力削除
相手の思考を読み合いはすれども、こういったことにありがちな打算ではなく優しさに包まれているのが素敵でした
26.70名前が無い程度の能力削除
ディモールトですな
27.100名前が無い程度の能力削除
お嬢様も咲夜さんも素敵でした