Coolier - 新生・東方創想話

愛ネ・暗イネ

2014/06/16 22:45:24
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 宇佐見蓮子が失踪して今日で二週間となる。メリーは毎日大学へ行き、部室を覗き、研究室に顔を出した。どこから得られる返事も同じだった。同回、あるいは同じ講義を履修している友人にも聞いて回るために、講義にも出席していた。
 それでも宇佐見蓮子の動向を知る者はいなかった。出るものと言えば、ため息だった。ため息は曇天に消えた。
「どこへ行ったか、突然だったから皆目見当も付かないね」
おおよそ皆そう言う。当たり前である。二言目にはもちろん、
「あなたの方が良く知っているんじゃないの」
である。必然の対応であった。近所の軽食屋で見たとか、上水を歩いてたとか、たまに出てくるものの、見間違いであった。背格好は普通の女子大生だし、メリーのように目立った特徴があるわけでもない、十も百も承知だった。

 喫茶店はだいぶ冷房が利いている。子どもふたりと、母親がふたり。子どもは何やら熱心に色鉛筆を動かしている。母親は、こちらもお互いに笑いあっている。背広の中年はカレーを食べていた。ふと気がついて端末をいじった。しかめ面をしてまたカレーを食べ始めた。混ざって、コーヒーの香りが届いた。
「今日で十日くらいですかね」
 店主に蓮子の行方を聞いてから、それほどである。心配してか、シュガーを一本多く付けてくれた。あいにく、と断ると、奥からプリンが出てきた。間違ってはいない。冷たいコーヒーを脇に、プリンにスプーンを立てた。遠慮無く割り入れると、プリンは吸い付き、跳ねた。
「カラメルも糖なのだけれど」
 メリーは独りごちた。かといって、カラメルはコーヒーに入れるものではない。そもそも必要は無いのだけれど。コーヒーの苦みとカラメルの苦みが混ざって、卵の甘さが際立った。

 外は湿気がひどい。部室へ戻るのも億劫だった。部屋へ戻ることさえも。なるべく汗をかかないようにしていても、立ち止まると一斉に汗が噴き出した。幻惑として、蓮子が隣を歩いている。卒然、腕をつかまれ、後ろに引っ張られた。
「死ぬおつもりですか」
 あ、とか、はあ、とかどもったあと、ようやくすいませんでした、と言葉が衝いた。蓮子は幻であった。影も無い。ひどく頭が痛んでいた。

 部室の中も蒸し暑かった。ひとりでに扇風機は回っていたが、密室の空気を循環させる意味はない。いたずらに首と、羽根を回していた。しかし、風が無いよりはましである。窓を開けると、外の方が涼しいくらいであった。窓を開けた。静かに空気は巡り始めた。
 机の上に本がある。鉄パイプの椅子を鳴らした。
 沈黙。

 気付けば夜である。たいへんに部屋が暗くなってきた。蛾が窓に止まっている。幸いにして外側であったから、窓を閉めるだけで済んだ。蛾は二匹居た。蛾の雌雄を咄嗟に峻別できるほど、メリーは蛾に習熟していない。窓を閉めると、涼風は止まった。
 帰り道は涼やかであった。湿気が無いわけではない。校舎の明かりは見えた。街頭は疎らに点滅している。
 黒猫が塀を走った。追いかけてもう一匹、茶猫が塀の向こうから現れた。どこへ行くかはメリーの考える外である。先の猫が二回鳴くと、角を曲がって消えた。
 メリーは突然に走り出した。その角まで。軽く息が切れた様子で見ると、向こうは何も無かった。道であった。街頭がちかちかしている。忽ちメリーは蓮子を見た。幻影であった。気付けば、小さな草むらに足を突っ込んでいた。頭を抱えるしかなかった。
 タイツとスカートを払うと、草が落ちた。靴が土まみれであった。げに驚くべきは、そこがメリーの家の前であったことである。

 メリーは愁然と佇んだ。街頭に虫が集まっている。鞄を忘れてきていた。部屋の鍵はワンピースのポケットに入っている。帽子も置き忘れてきたことに気付いた。携帯端末も鞄の中である。ため息は夜空に消えた。
 茫洋と草むらから出ると、クラクションが鳴らされた。再び草むらに戻り、出た。二台。二回、草むらに入った。

 マンションの鍵は右手の中にあった。エレベーターで二階を押した。間違いに気付いたのは二階に着いてからであった。正しい階を押した。エレベーターの扉に、蓮子の幻覚を見た。頭をぶつけていた。頭が痛んでいる。
 エレベーターの外はまた、涼しかった。夜風が吹いている。部屋の鍵を開けた。
 鞄が転がっていた。中には携帯端末も、教科書も入っている。居間の机には帽子があった。扇風機を回し始め、窓を開けた。蛾はいなかった。
 衣装棚を開いた。中に蓮子がいた。蓮子は笑顔でメリーを迎えた。
「おかえり、メリー」
「ただいま、蓮子」
 
初めての投稿です。
秘封倶楽部のハッピーエンド、バッドエンドってどういうことだろうといつも頭を悩ませています。
何を書こうか悩んだ末、こんな作品ができてしまいました。
よろしくおねがいします。

twitter:@Eine_K_leine
アイネ・クライネ
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コメント



0.190簡易評価
1.50非現実世界に棲む者削除
私が言うのもあれですが、全体的にあっさりし過ぎてる感じがしました。
失踪理由が無いし、自殺行為に見えた行動がどういうものだったか等表現が足りなくて混乱する場面が多かったです。
これからという期待を込めてこの点数で。
頑張ってください。
4.80ふわふわおもち削除
「語られないこと」はそのままマイナスにはならないと思います。この作品、私は評価したいと思います。大岡昇平の「母六夜」のような書き方ですね。
意識的に「二」を強調しているのがわかります。私と蓮子、蓮子と私。そんな秘封倶楽部。
5.70奇声を発する程度の能力削除
少しさっぱりした感じでしたね
6.50名前が無い程度の能力削除
読後の腑に落ちなさがやや残念でした
7.60名前が無い程度の能力削除
>衣装棚を開いた。中に蓮子がいた
ナルニアを連想したw

うーん・・・途中まで話に惹きこまれていただけに不完全燃焼。
9.80しずおか削除
こういう雰囲気は大好きです
10.60雨衣削除
文量が少なく淡白なので、どうしても余韻は深いものにはならないのが少し残念な点ですね。それでも、秘封と暗さの調和が程好い印象は受けました。また秘封で何か書かれることを期待してます。
13.70おちんこちんちん太郎削除
猫や車など、物語の筋には直接関わらない部分が、余白としての役割を効果的に果たしている様に思えました。