Coolier - 新生・東方創想話

あたいは火車である――霊夢くん

2014/06/02 16:25:12
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 あたいは火車である。名前はあるが、本来の名前はただ長いだけなので、お燐、と呼んでもらって十分だ。
 気が付いたら主である地底のさとり様に飼われていて、長い時間を妖怪として楽しく過ごしてきた。
 とある日、親友である地獄烏が妙な神に唆されて大暴れしようとしたのを止めるためにあたいは暗躍した。あの子を救ってくれたのが、まさか少し強いだけの人間であることには驚いたけれど、まぁその点にとやかく言うつもりはない。
 そんなこんながあって、さとり様はただ礼だけ言ってその人間と関わることはなかったけれど、ずっと地底で過ごしてきたあたいやその子は、人間に興味津々だった。
 時々さとり様からお許しを貰い、あたい達を助けてくれた人間のいる神社へ度々足を運ぶようにはなったのだけれど。
 あの時の迫力はどこへやら、さとり様に聞かされたように、人間というのはただただ滑稽な生き物だった。



 雪が溶けきり桜は散り、しかし風が強い日はそこそこ肌寒い時節の日、あたいは神社の縁側で丸まっていた。冬は炬燵という大層便利なものがあったけれど、それ目当てで何度も来る魔法使いが鬱陶しいという理由で、神社の巫女に仕舞われてしまった。しかし妖怪であるあたいにこの程度の涼しさは何の問題もなく、昼時の日向ぼっこに興じている。
 さて、その炬燵を仕舞ってしまった愚かな巫女がいる神社だが。その巫女もあたいと同じように縁側で横になっていた。足だけがぶらりと縁側から落ち、虚ろな目をしているこの巫女は、何もあたいと同じように日向ぼっこをしているわけではない。
「おなかへった……」
 貧乏で食べるものがない。ただそれだけの単純な話である。妖怪と違い脆く、弱く、それでいて数日食べないと死んでしまうとは。妖怪であるあたい達に言わせてみれば、なぜそのような構造で人間を誕生させたのか神にでも尋ねたくなってしまう。しかしこの世界には神がごまんといるので、誰が人間を創ったのかは分からない。まさかあたいの親友を唆したあの神ではあるまい。あいつならきっと、人間を真逆に創るだろう。しかし地上に出てみると、なるほどあの神は妙に人間臭いと言うべきか。人間特有のずる賢さをあの神も備えている。ならばあたいの親友程度では唆されてしまうわけだ。
「ちょっと」
 と、あたいは先程までの言葉など一言も口にしていないにも関わらず、唐突に巫女に呼ばれる。
「あんた、魚でも持って来なさいよ」
 更に唐突である。魚の一匹や二匹など買えば手に入る。更に言えばこの巫女は空を飛べるのだから人里に行くまでにそれほど体力を使う事もあるまい。それにその程度の魚ならば誰かに譲ってもらうか盗めば良いのに、人間特有の自尊心が邪魔をしてできない。この巫女はそれが人一倍強い。
「そうよ。あんた地底まで行って食べ物持ってくるか、さとりから何かもらってきなさい。これであの鴉が暴れた事は水に流してあげるから。ね」
 あたいの親友が迷惑をかけたのは何年も前の話である。それを今更掘り返すだなんて、人間はとことん自分にとって都合の良い事しか考えていない事を実感させられる。
 にゃーん。
 そんな愚か者には、ただ一鳴きする。自分が会話の通じない猫と話しているという奇行を行っている、という事を理解させようとした。
「なにが『にゃーん』よ。今更猫の振りするんじゃないわよ」
 申し訳ないけれど、この姿もあたいではあるのだ。ちなみに、あたいは金がないと言っているこの巫女の動向を昨日追っていた。すると、次から次へと野菜やら肉やら鍋の具材を買っていた。それも自分だけが食べる量ではなく、同じ人間である魔法使いと共に食べるためだ。仲睦まじく同じ釜の飯を食うのは良いことだが、翌日にこうなる想像力さえも欠如しているとは。後先考える力も必要である弾幕勝負でとてつもない強さを見せたあの姿と同一人物とは、とても思えない。宵越しの銭を持たない事を主義とする人間もいるらしいが、そういう人間の十人中九人が、そもそも宵越しの金を持つほどの余裕がない人間である。自分にとって叶わない事を言葉に出して叶えたつもりになる。それで満足する者もいるのだから、本当に不思議である。
「どうして昨日、魔理沙と鍋を食べたのかしら……」
 後悔して腹が膨れるなら、それもいいだろう。というかこの巫女は当たり前のように魔法使いと飯を食べている、つまり魔法使いに御馳走しているわけだが、何か弱みでも握られているのだろうか。
「情けは人のためならず、って、こういう事だったのね」
 あたいは鳴き声さえ響かせず、身体を伸ばす。あたいに間違った諺を訂正させる義務なんてないし、寧ろ、自業自得、という四字熟語を教える絶好の機会ではあった。
「やっぱり節約しようかしら……。米と沢庵だけでも、結構美味しいんだし」
 あたいが人の姿をしているなら大笑いしていた。先程も言ったけれど、あたいは昨日この巫女と行動を共にしている。はっきり言うと、本来この巫女には鍋を食べても翌日に少量の米と魚を買う余裕の金はあったのだ。しかしこの巫女は恐らく、昨日の買い物ついでに立ち寄った数件の店で買った団子、羊羹、焼鳥の事を忘れているのだろう。葱を抜いた焼鳥を御馳走になった手前で言わせてもらうと、巫女自身、鍋の具材だけなら買っても大丈夫だと恐らく理解はしていた。鍋こそ重要、つまり鍋の具材を購入できれば良い。間食のそれぞれが安かったのもいけない。安いということは傷として残らないということ。一昔前に街道でよく酒を飲む鬼が、別の妖怪が高級な酒を盗んだ事に大激怒し、建物が六つほど消し飛ぶ程の事件があった。しかしそれが安い酒だった場合、その鬼はそこまで怒る事はなかったはずだ……多分。安いということは、それこそ価値が無い故に記憶に残る事も無い。それが積もって山となり、巫女にとって不明な出費になっているのだ。さとり様があたいの親友に口をすっぱくして言っている『物事はこまめに記録する事』を説いてやるのも、この巫女が餓死しないようにする手段としては良いだろう。
 どれほど二人で惰眠を貪った頃か、ふと巫女を呼ぶ声が裏側から聞こえる。同じように声が届き、呼ばれ主である巫女はふらふらと歩いて行った。あたいには関係ないことなので、もうしばらく日に当たるとしよう。
 あの巫女は少々自己犠牲的なところがある。宴会の際、所々からの差し入れがあるとはいえ、自分も参加する宴会にまさか何も用意しないわけではない。しかし逆説的に、何度も宴を開ける巫女は小金持ちではあるのかもしれない。ただ如何せん、純粋な意味でその使い方を知らないのだ。人里でも地底でも、種銭とでも言うべきか、それを叩いて人々は商売をしている。色々な食材を買っている金はあるのだから巫女にもその資格はあるのだろうが、それこそ妖怪達に食いつくされている。喰らわれる事などない程の力を持つ巫女の銭をあたい達は喰らっているのかもしれない。吸血鬼は菓子、亡霊は餅、月の民は茶、閻魔は……説教の時間? 時は金なり、というじゃないか。風神には酒、あたいの親友には……知識とでも言っておこう。当然自己犠牲の精神など、妖怪であるあたいになど解らない。前にさとり様から聞かされた、三種類の人間の話をしよう。人間には、弱き者、強き者、真に強き者の三つに別れると。弱き者と強き者は、自分のために自分を犠牲にすることがある。弱き者は見栄や外聞、強き者はそれによって得られる自らの利益のために。では真に強き者は何のために自らを犠牲にするのか、とあたいが問うと、さとり様は苦笑い気味に、他人のため、と言っていた。まだまだ知識が及ばないあたいや親友にとっては、全ての人間が他人のため犠牲になっているように見えてしまうが、あのさとり様の言い様から、そう言った人間は数える程しかいないのだろう。あたいも実際、そういった類の人間は一人くらいしか知らない。
 もう一度言うが、あたい達妖怪に自己犠牲の精神などない。故に貸し借りなど滅多に起こらない。更にそれ故、どこぞの大妖怪のような例外でない限り、人間と違って恩を仇で返すことはない。巫女が驚いたような声をあげたのであたいも裏に回ると、そこには魔法使いを始めとした魑魅魍魎の面々が集まっていた。それぞれの手には色々な食べ物や酒が握られて。
「な……なによあんた達……。揃いも揃って」
 集団の中に一人いる魔法使いは、そろそろ巫女の腹が減る時期だろう、と言って籠一杯の茸を差し出す。吸血鬼は葡萄酒、半霊は野菜、月の民は筍と、呆気にとられる巫女の前に置いて行く。
「今日って……宴会の予定でもあったかしら」
 魔法使いは笑って、仕返し、とだけ言う。巫女にいたってはその言葉を文字通りに受けとったのか訝しげな顔をしていた。この巫女は自分がこの魔法使い達に何を施してきたのかも忘れているのだろうか。
「じゃあ、即席だけど宴会でもしましょうか」
 一人だけ趣旨を理解していない巫女に、魔法使い達は小さく苦笑しつつ各々宴会の準備に協力していく。こんなことでは巫女の財布が膨らむことはないだろうと思いつつも、自分の事しか考えない妖怪達が何故巫女のところに食べ物を持ってくるのかが改めて理解できた。この人間は己の欲でも利益でも動いているわけではなく、かといって他人のために動いている、というのも少し違う。何も考えていないのだ。悪く聞こえるかもしれないが、つまり巫女にとってはそれが当たり前なのだろう。異変があれば解決する、と同じように施しを与えているのだ。
「金は天下の回りもの、ってやつかしらね」
 あたいに向かって得意げに言うが、そもそも金銭として回ってきていないどころか、さっそく消費しようとしているのだからまったくもって救えない。本当に利益など求めていないと思わされるような溢れんばかりの笑顔になっている巫女も宴会の準備をするため踵を帰してあたいから背を向けて行く。こんな滑稽で能天気で、しかし魑魅魍魎に愛される人間の宴会ならば、少しだけ混ざっても損はないだろう。
 とりあえずは先程のが正しい、情けは人のためならず、だという事を巫女に教えておこう。
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コメント



0.800簡易評価
8.100名前が無い程度の能力削除
良かったです
11.80奇声を発する程度の能力削除
面白かった
12.100さわしみだいほん削除
そんな宴会は混ざりたい(ほめる
14.90ふわふわおもち削除
人間と妖怪の相違を描いた作品は数あれど、こんなに短く、かつほのぼのとしたタッチで描いている作品は稀有です。うん!いいね。
16.100リペヤー削除
爽やかなお話でした。
東方版の我が輩は猫であるですねw