Coolier - 新生・東方創想話

揺れる向日葵

2014/04/26 00:58:13
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 その向日葵は静かに儚げに太陽のもとへ顔を出した。




 最初にそれに気付いたのはメディスンだった。まだ花を咲かせるには程遠い向日葵たちがその身に太陽の光を求める中、早々にその生を全うした子たちがいた。自然の摂理の上で生きている以上珍しいことでもなく、受け入れなければいけない事だが、今回は半径1mほどの空間の子たちがまとまって枯れてしまっていた。病気の可能性もある。ならばそれが広がる前に手を打つべきか、そう考えて近づいてみると一本だけ元気な向日葵が存在している事に気がついた。一言で言えばそれは異様な向日葵だった。本来葉緑体によって緑色のはずの全身がことごとく白かったのだ。確かに植物にもアルピノは存在する。しかしそれは花弁に関してであり、そもそも葉緑体が存在しなければ植物は生きていられない。そんなあり得ない存在が今目の前で葉を揺らしているのである。突然変異。それなりに長く生きてきた私も知らない花だったがメディが気味悪がるわけでもなく逆に興味深々といった様子だったこともあり、しばらく様子を見ることにした。


 例年よりもはやく太陽の畑の向日葵たちは夏に向けてその葉を大きく茂らせてくれた。今年はいつも以上の雄大な眺めを見せてくれるかもしれない。なるほど、メディが毎日水をやるたびにそのわずかな成長に心躍らせているのも当然か。ただ例の白い向日葵の周りは様子が違った。メディによって“白”と名づけられたこの子の周りの向日葵はさらに枯れていき、反比例するかのように白はその身を太陽へとどかせんとしている。どうやら自分で栄養を生み出せない代わりに、他の仲間の養分を奪っているらしい。随分妖怪じみた向日葵もいたものだ。それでいて妖気があるわけではなく私たちには害を与えることもなかった。不思議な存在ではあったが、私自身そういったものの扱いには慣れているのでいまさら驚くことでもなかった。実際妖怪じみた植物を使って神社をおそったこともあるし、人間を襲うように仕向けることもできる。尤も花たちが傷つくのは嫌なのでめったにそんなことはしないが。周りの枯れた子たちをまた元気にしてやろうか、そう思ったこともあったが結局そうしなかった。

 ―――ねえ、幽香。この子の周りの向日葵が枯れてるのってこの子のせいなんでしょ?何もしなくていいの?

 あなたはどうしたい?そんな私の意地悪な返事に、メディは質問を質問で返さないでよと文句を言ってから分からないと答えた。この子が嫌いなわけじゃないからと。一方を選べば他方は選べないということをメディは理解していた。それでいて選べないのは優しさか、ただの甘さか。自然を自分の思い通りにできるなんて思いあがりでしかない。なにより、この子も他の向日葵も同じように生きているのだから。だから私は自分から何かをするつもりはない、そんな私の意見を聞くメディの視線があの子から外れることはなかった。


 白の周り半径3mの向日葵が枯れ果てた頃、白がつぼみをつけたとメディが教えてくれた。夏の到来であった。花火が楽しみだ、今年も祭りに連れてってよねとはしゃぐメディスンにつられて私も自然と頬がほころぶ。メディスンがいると2割増しで畑が明るい。白はひとり風に揺れていた。


 白が花を咲かせた。畑の中で真っ先に花を咲かせたこの向日葵は、真っ白でありながらもその美しさは見事な向日葵のそれであった。その日のメディの喜びようは天狗に写真に残してもらいたいほどだった。ただもはやこの子の周りには他の仲間の姿はなかった。
 これは見事な向日葵だねえ、と亡霊兼魔法使いが息をもらす。久々に顔を出した友人とせっかくだからと外で紅茶を飲むことになったのはよかったが、今の季節外でくつろぐには少々暑すぎたようだ。日傘をしても汗がにじみ出る。おまけにこの数少ない私の友人はというと私をほったらかしにして向日葵を眺めている始末だ。せっかく出した紅茶が冷めてしまうではないか。ようやく戻ってきた彼女にこの向日葵について知っていることはないかと聞いてみたが、彼女にもわからないらしい。冷めた紅茶を淹れなおしてまた雑談に戻ると、あの子のことは好きかいとふと尋ねられた。考えるまでもない。私はすべての花を愛している、故のフラワーマスターなのだと。例外はない、ただあの子はいたく寂し気だと。それを聞いた亡霊は少し目を見開いてから穏やかな笑みを浮かべて笑った。




 ―――ねえ、幽香。この子はどんな気持ちでいるのかな?

 人里であった縁日の帰り、例の向日葵の前を通りかかったときメディがつぶやいた。太陽の畑の向日葵は満開を迎え1年のうちの最も華やかな時間が流れていた。そんな華やかさの中においてはぽっかりと何もなくなってしまた空間、そしてそこに存在する異質な向日葵はひどく浮いたものだった。すごくきれいだと思う、だけど周りに誰もいなくなっちゃったこの子は何を感じてるのかな?まるで白に語りかけるように話すメディの疑問は私にも分からない。分かっているのはこの子は生きるために仲間の犠牲が必要だということ、その犠牲の上に今のこの子があるのだということ、そしてそれ故にこの子のそばで仲間が同じ大輪を揺らすことはないということだけ。わたしは一人でいるのはいやだな、ずっと一人でいるのは辛いから。メディが発したその言葉は誰に向けられたものではなかった。私はメディの手をつないでやった。メディは少し恥ずかしそうにしながらもぎゅっと握り返した。幽香、力入れすぎだよと文句を言いながら。


 夏の暑さもピークを過ぎ、あれほど五月蠅かった蝉の鳴き声もひぐらしのそれが聞こえてくるのみになった。多くの向日葵が頭をさげ、夏の終わりを告げていた。最も早く咲いたにも関わらず最後まで元気であった白にもその最後の時が近づいていた。黄ばんだようになった葉をしだらせ、見事だった頭を重そうにうつ向かせる。種の中は空だった。もう日が暮れるというとき、私はあの子の前にいるメディスンを見かけた。

 
 ―――ねえ、幽香。この子は幸せだったのかな。


 夕日に照らされてメディの表情をうかがい知ることはなかったが泣いていたのかもしれない。それは誰にも分からない。そう言うとメディはそうだよねとだけ答えた。

 日が暮れようとしていた。まるで数時間のように感じたその日暮は実際刹那のことでしかなかった。そしてそれは同時に白が生を全うした時でもあった。


 ―――ねえ、幽香。

 白を見つめたままのメディが口をひらく。

 ―――わたしずっと幽香と一緒にいるよ。もしまた白が生まれたてきても、今度は白も一緒にいられる方法だって探して見せるから。

 そう言うメディスンを私はそっと抱き締めた。代えがたいぬくもりがそこにはあった。泣いていたのは私の方かもしれなかった。


読んでくださりありがとうございます。

幽香の変換がめんどいです。メディ楽です。こころとかもっと楽。出てきてないけど。
こごみ
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コメント



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1.70名前が無い程度の能力削除
指摘するほど悪い点はないが物足りない。
幽香が始終傍観者のせいもあり、ヒマワリに向けるメディの想いも一枚の風景の様に淡々と描写される。それ故テーマとする「情」との噛み合わせが今一つ。もっと膨らませる部分と云うか言葉を転からせる事も出来たのではないか。またはメディ視点であれば印象は変わった気もする。
2.80絶望を司る程度の能力削除
物足りない感は否め無いけど、なんか涙腺が緩みました。
5.70奇声を発する程度の能力削除
こういうのも、また
7.90名前が無い程度の能力削除
自然の摂理そのままに突然変異もその結果も受け入れる幽香、その描写が「自然の権化」と阿求に評される幽香らしくてとても良い感じです。惜しむらくはメディがなぜこうしているのか、その辺の描写がもう少しあってほしい気もします。あと、細かいことですが「アルビノ(albino)」です。
8.80名前が無い程度の能力削除
童話の世界を切り取ったような、綺麗で穏やかで少しだけ残酷な描写が魅力的です。しかし他の方のおっしゃるように何か物足りなく感じることも事実ではあります。もう少しエピソードを掘り下げることができるのでは。
それと蛇足ですが東方辞書を導入してみてはいかがでしょうか?変換に煩わされることも無くなります。