「お姉様、なにそのバカ面。朝から目覚めの悪い顔でうろつかないでよ大っ嫌い」
会って一番に、愛しの妹から告げられる罵声。正直驚きもしなければイラつきもしない。なんならあのカワイイ唇がよく動くさまを朝から拝むことができてトキメキが隠せない。つまり平常運転。いつも通りだ
しかし
「ハァ~……嫌いなお姉様が前にいると朝食が進まない。てかもどしそう」
「紅魔館の主が昼間にダラダラしてるってどうなの?そういういつでも緊張感のないとこがマジで嫌い」
「へー?オヤツ食べるんだ?糖分必要なほど頭動かしたっけ?そのオヤツを前にした時の顔がキモくて嫌い」
「なに窓越しに夕焼けみてんの?あれも日の光なんだから浴びて消えればいいのに。夕陽でたそがれてる姿がカッコつけてて嫌い」
「わたしの前を歩いて勝手に行く先のドア開けないでよ。そのエスコート気取ってるのが痛々しくて嫌い」
「ちょくちょく口元のソースを拭きにくんのやめて。隙さえあれば触ろうとすんだから……嫌い」
「はぁ?もう眠いの?そういうとこ夜の王である吸血鬼として威厳がないよね。吸血鬼なの?クズが八重歯伸ばしてるようにしか見えないんだけど。てかベッドじゃなくて吸血鬼らしく棺桶で寝ればいいじゃん埋葬するとき楽だしさ。はぁ~あ、じゃあ大っ嫌いなお姉様おやすみなさい永遠に」
という具合に
ちょっと今日言い過ぎじゃない!!?さすがにメンタル落っこちるとこだったわ!!
自分の部屋のベッドの上に座り込んで、千の言葉を用いて罵ってくる今日の妹の絶好調ぶりを思い出す。本格的に嫌われたのか、それとも特別今日の私が腹立つのか。なんにせよ気分は悪くないが腑に落ちないったらありゃしない。
(昨日なんかしたっけか……食事のたびにポエムをフランに囁くのはいつも通りだから問題ないとして………座ったイスの残り香をかぐのも大丈夫だし………あ、あれかな!フランと私のハミガキをこっそり交換してるとこを見られたからか!!やっぱそれかー……罰として今日は一言も喋っちゃダメだったし、確定だよねぇ)
ハァー……という音もないため息をこぼしたところで(いや待てよ?)と早合点した考えをいっきに取っ払う。
(そういえば今日は、エイプリルフールじゃないか!!!」
パチンと指を鳴らす。まるで暗闇の中から光を見つけたように絶望から希望へと昇華する。
(ということはっ!!あれは全部ウソで……ホントは!!)
「ホントは私への遠回しなプロポーズ!!!!ひゃっっほぉぉーう!!今度はこんな水面下のツンデレを習得していたなんて、テクニシャンね!!フラン!!受け取ったわよーー!!!」
そういうことなら今日のキツイ毒舌も甘美な毒へと様変わりする。むしろキツければキツイほど秘められたデレデレは相当であると言えるだろう。素直に言えない妹の甘酸っぱい気持ちを察してやる、それはできる姉の役目なのだ。
ベッドを飛び回り、キャーキャーと外にも聞こえる大声で痴態を叫び散らすレミリア。季節を先取りに、確かに彼女の頭の中は春だった。
――その様子を
扉の隙間からそっと見つめるジト目があった。
(うわ、親友かわいそう)
真相も知らず、パタパタと黒い翼をご機嫌にはためかせるレミリアに心底哀れんだ目線を送り続ける。
(……とにかくフランに報告ね。喋ったどころか勘違いもはなはだしいこと叫んでましたよ、と)
先ほどのことを図書館で待っているヤツの妹に報告するため、パチュリー・ノーレッジは図書館へと続く道を歩いた。あまりの平和ボケっぷりに頭痛がするのか、おでこを抑えながら勘違いにまみれた親友のことを思う。
――今日はエイプリルフール。そんなことはレミィ以外の住人はみんな気づいている。もちろんフランもだ。
そもそも幻想郷という、面白いイベントは骨まで吸い尽くすかのごとく遊び散らす世界で話題になってないわけがないだろう。天狗が置いてった今日の新聞にも【エイプリルフール到来!本日はウソをつきまくろう!】という無粋かつイベントのネタ潰しみたいな見出しで宣伝されてたのだ。ゆえに全員知っている。知らなかったのは妹のことしか目にはいってないレミィだけなのだ。
そんな、紅魔館住人が今日はエイプリルフールだというのを全員知っている中であえて、フランがあんな意味を込めて姉に言うだろうか?皆の前で。
―――普通にありえない。
なぜなら昨日のハミガキ無断コンバート事件の際、フランの静かな怒りを全員感じ取ったからだ。「明日は一切喋るのを禁ずる」とロリダミボイスでレミィに言い放つフランに、その場にいた者の背筋は一人残らず震えた。そんなフランを前に、暴れるレミィを羽交い締めにしていた美鈴のブルブルとガタつく健脚を忘れはしない。殺気を直に受け取ってしまったのだろう可哀想に。
ということであれは間違いなく本気なのだ。一切喋らせないのも余計なことを言わせぬようにしたにすぎない。それで思う存分罵倒したということである。
そうこう考えているうちに図書館につき、中央の長机に鎮座しているフランの元へと歩みよった。
すると、殺気とも妖気とも闘気ともとれる禍々しい気配があたりを包んでいることに気づく。
(……っ……今まではこんな気配なかったのに……どうやらフラン自身、ペナルティを破ったレミィの失態をわずかに気で感じとってるのね……スゴイわ)
近くに行くほど呼吸がしずらくなっていき、その凄まじき怒りの濃霧に小悪魔は気を失っていた。
足元に転がっている大事な秘書を見下ろし通りすぎる。
(あなたじゃ耐えられないわね……この覇気に)
まぁ小悪魔はあとでサッと治してやるとして、その根源となる主に報告する。
「見てきたわフラン。レミィが部屋で喋ってたわよ。とんだ戯言を叫びながら」
「そう……やっぱり……じゃあ明日は館内つばさ引きづり回しの刑かな?それとも体内集中破壊する程度の刑か……ウフフ、うずくよぉ……右手がさ」
目に見えるほどの妖気を立ち昇らせて両手の指を鳴らすフラン。愛らしいクリッとした目には光がなく、心なしか図書館が妖力によって軋んでいる音さえ聞こえてきた。
「反省の色が見えなかったわね。あなたの言う通り常に見張ってたわけだけど、惜しかったわレミィ」
「ホント残念……いや本望かな……?この手で正式に姉を裁けるなんてさぁ」
「詰めも甘いし変にポジティブすぎるのが災難だったわね」
「せっかくのイベントの日なのに、楽しめなくて残念だろうねぇ………知らないけど」
だんだんと気の色が濃くなっていくフランに、ゴクリと私でさえ息を飲んだ。これぞ夜の王、吸血鬼。全盛期のレミィを思わせる圧倒的な力の奔流が、肌を通して流れ込んでくる。今ならば幻想郷さえ破壊することができるのではないか。そんな確信を、幼い見た目でありながら狂っているように妖しい笑みを浮かべるフランにしかと感じてしまった。
私がその迫力にのまれている中、
ところで、とフランが口を開く。
「お姉様はなんて言ってたの?パチュリー」
「それが 『今日はエイプリルフール!!なら今日のフランの悪口はむしろ遠回しのプロポーズね!』……と、都合のいいことを言ってたわ」
しん、と静まった図書館。フランは私の言葉を聞いて表情が固まってしまった。無理もない。エイプリルフールとは関係なく罵倒していただけなのに、むしろ曲解されて喜ばれるなんて冗談じゃない。さらなる怒りさえ湧いてくるだろう。
(これは図書館がまずいかしら……いや、でもこの無尽蔵に湧いてくる魔力をもっとみてみたい……!なにか魔女の血が騒ぐわ!ふふ、さぁ怒りなさいフラン!それでレミィの目を覚ましてやるといいわ!) と、内心期待に満ちて彼女の様子を見つめたところ、
ボッと
目の前の
フランの顔が急に赤く染まった。
「まままままぁ勘違いしちゃうのもしょうがないよネっ!!!あいつ単純だからさ!!!しかも昨日の腹いせにいつもより罵ってやったし、余計勘違いされるかも!!あ!そういえばたまたま、ほんとたまたま今日は「嫌い」ていっぱい言っちゃったけど、今のあいつの中じゃ「好き」に変換されちゃってるのかな!!そ、そ、そんなつもりなかったのになァ~!!なんだかんだイベント事には聡いからあとで気づくのもわかってたしそれを途中言われないように今日一日喋らせなかったのもべつに昨日から計画してたわけじゃないけど、偶然こんな勘違いされるなんて不幸すぎるよまったくも~~!!!」
………………………あれ?
会って一番に、愛しの妹から告げられる罵声。正直驚きもしなければイラつきもしない。なんならあのカワイイ唇がよく動くさまを朝から拝むことができてトキメキが隠せない。つまり平常運転。いつも通りだ
しかし
「ハァ~……嫌いなお姉様が前にいると朝食が進まない。てかもどしそう」
「紅魔館の主が昼間にダラダラしてるってどうなの?そういういつでも緊張感のないとこがマジで嫌い」
「へー?オヤツ食べるんだ?糖分必要なほど頭動かしたっけ?そのオヤツを前にした時の顔がキモくて嫌い」
「なに窓越しに夕焼けみてんの?あれも日の光なんだから浴びて消えればいいのに。夕陽でたそがれてる姿がカッコつけてて嫌い」
「わたしの前を歩いて勝手に行く先のドア開けないでよ。そのエスコート気取ってるのが痛々しくて嫌い」
「ちょくちょく口元のソースを拭きにくんのやめて。隙さえあれば触ろうとすんだから……嫌い」
「はぁ?もう眠いの?そういうとこ夜の王である吸血鬼として威厳がないよね。吸血鬼なの?クズが八重歯伸ばしてるようにしか見えないんだけど。てかベッドじゃなくて吸血鬼らしく棺桶で寝ればいいじゃん埋葬するとき楽だしさ。はぁ~あ、じゃあ大っ嫌いなお姉様おやすみなさい永遠に」
という具合に
ちょっと今日言い過ぎじゃない!!?さすがにメンタル落っこちるとこだったわ!!
自分の部屋のベッドの上に座り込んで、千の言葉を用いて罵ってくる今日の妹の絶好調ぶりを思い出す。本格的に嫌われたのか、それとも特別今日の私が腹立つのか。なんにせよ気分は悪くないが腑に落ちないったらありゃしない。
(昨日なんかしたっけか……食事のたびにポエムをフランに囁くのはいつも通りだから問題ないとして………座ったイスの残り香をかぐのも大丈夫だし………あ、あれかな!フランと私のハミガキをこっそり交換してるとこを見られたからか!!やっぱそれかー……罰として今日は一言も喋っちゃダメだったし、確定だよねぇ)
ハァー……という音もないため息をこぼしたところで(いや待てよ?)と早合点した考えをいっきに取っ払う。
(そういえば今日は、エイプリルフールじゃないか!!!」
パチンと指を鳴らす。まるで暗闇の中から光を見つけたように絶望から希望へと昇華する。
(ということはっ!!あれは全部ウソで……ホントは!!)
「ホントは私への遠回しなプロポーズ!!!!ひゃっっほぉぉーう!!今度はこんな水面下のツンデレを習得していたなんて、テクニシャンね!!フラン!!受け取ったわよーー!!!」
そういうことなら今日のキツイ毒舌も甘美な毒へと様変わりする。むしろキツければキツイほど秘められたデレデレは相当であると言えるだろう。素直に言えない妹の甘酸っぱい気持ちを察してやる、それはできる姉の役目なのだ。
ベッドを飛び回り、キャーキャーと外にも聞こえる大声で痴態を叫び散らすレミリア。季節を先取りに、確かに彼女の頭の中は春だった。
――その様子を
扉の隙間からそっと見つめるジト目があった。
(うわ、親友かわいそう)
真相も知らず、パタパタと黒い翼をご機嫌にはためかせるレミリアに心底哀れんだ目線を送り続ける。
(……とにかくフランに報告ね。喋ったどころか勘違いもはなはだしいこと叫んでましたよ、と)
先ほどのことを図書館で待っているヤツの妹に報告するため、パチュリー・ノーレッジは図書館へと続く道を歩いた。あまりの平和ボケっぷりに頭痛がするのか、おでこを抑えながら勘違いにまみれた親友のことを思う。
――今日はエイプリルフール。そんなことはレミィ以外の住人はみんな気づいている。もちろんフランもだ。
そもそも幻想郷という、面白いイベントは骨まで吸い尽くすかのごとく遊び散らす世界で話題になってないわけがないだろう。天狗が置いてった今日の新聞にも【エイプリルフール到来!本日はウソをつきまくろう!】という無粋かつイベントのネタ潰しみたいな見出しで宣伝されてたのだ。ゆえに全員知っている。知らなかったのは妹のことしか目にはいってないレミィだけなのだ。
そんな、紅魔館住人が今日はエイプリルフールだというのを全員知っている中であえて、フランがあんな意味を込めて姉に言うだろうか?皆の前で。
―――普通にありえない。
なぜなら昨日のハミガキ無断コンバート事件の際、フランの静かな怒りを全員感じ取ったからだ。「明日は一切喋るのを禁ずる」とロリダミボイスでレミィに言い放つフランに、その場にいた者の背筋は一人残らず震えた。そんなフランを前に、暴れるレミィを羽交い締めにしていた美鈴のブルブルとガタつく健脚を忘れはしない。殺気を直に受け取ってしまったのだろう可哀想に。
ということであれは間違いなく本気なのだ。一切喋らせないのも余計なことを言わせぬようにしたにすぎない。それで思う存分罵倒したということである。
そうこう考えているうちに図書館につき、中央の長机に鎮座しているフランの元へと歩みよった。
すると、殺気とも妖気とも闘気ともとれる禍々しい気配があたりを包んでいることに気づく。
(……っ……今まではこんな気配なかったのに……どうやらフラン自身、ペナルティを破ったレミィの失態をわずかに気で感じとってるのね……スゴイわ)
近くに行くほど呼吸がしずらくなっていき、その凄まじき怒りの濃霧に小悪魔は気を失っていた。
足元に転がっている大事な秘書を見下ろし通りすぎる。
(あなたじゃ耐えられないわね……この覇気に)
まぁ小悪魔はあとでサッと治してやるとして、その根源となる主に報告する。
「見てきたわフラン。レミィが部屋で喋ってたわよ。とんだ戯言を叫びながら」
「そう……やっぱり……じゃあ明日は館内つばさ引きづり回しの刑かな?それとも体内集中破壊する程度の刑か……ウフフ、うずくよぉ……右手がさ」
目に見えるほどの妖気を立ち昇らせて両手の指を鳴らすフラン。愛らしいクリッとした目には光がなく、心なしか図書館が妖力によって軋んでいる音さえ聞こえてきた。
「反省の色が見えなかったわね。あなたの言う通り常に見張ってたわけだけど、惜しかったわレミィ」
「ホント残念……いや本望かな……?この手で正式に姉を裁けるなんてさぁ」
「詰めも甘いし変にポジティブすぎるのが災難だったわね」
「せっかくのイベントの日なのに、楽しめなくて残念だろうねぇ………知らないけど」
だんだんと気の色が濃くなっていくフランに、ゴクリと私でさえ息を飲んだ。これぞ夜の王、吸血鬼。全盛期のレミィを思わせる圧倒的な力の奔流が、肌を通して流れ込んでくる。今ならば幻想郷さえ破壊することができるのではないか。そんな確信を、幼い見た目でありながら狂っているように妖しい笑みを浮かべるフランにしかと感じてしまった。
私がその迫力にのまれている中、
ところで、とフランが口を開く。
「お姉様はなんて言ってたの?パチュリー」
「それが 『今日はエイプリルフール!!なら今日のフランの悪口はむしろ遠回しのプロポーズね!』……と、都合のいいことを言ってたわ」
しん、と静まった図書館。フランは私の言葉を聞いて表情が固まってしまった。無理もない。エイプリルフールとは関係なく罵倒していただけなのに、むしろ曲解されて喜ばれるなんて冗談じゃない。さらなる怒りさえ湧いてくるだろう。
(これは図書館がまずいかしら……いや、でもこの無尽蔵に湧いてくる魔力をもっとみてみたい……!なにか魔女の血が騒ぐわ!ふふ、さぁ怒りなさいフラン!それでレミィの目を覚ましてやるといいわ!) と、内心期待に満ちて彼女の様子を見つめたところ、
ボッと
目の前の
フランの顔が急に赤く染まった。
「まままままぁ勘違いしちゃうのもしょうがないよネっ!!!あいつ単純だからさ!!!しかも昨日の腹いせにいつもより罵ってやったし、余計勘違いされるかも!!あ!そういえばたまたま、ほんとたまたま今日は「嫌い」ていっぱい言っちゃったけど、今のあいつの中じゃ「好き」に変換されちゃってるのかな!!そ、そ、そんなつもりなかったのになァ~!!なんだかんだイベント事には聡いからあとで気づくのもわかってたしそれを途中言われないように今日一日喋らせなかったのもべつに昨日から計画してたわけじゃないけど、偶然こんな勘違いされるなんて不幸すぎるよまったくも~~!!!」
………………………あれ?
>てかベッドじゃなくて吸血鬼らしく棺桶で寝ればいいじゃん埋葬するとき楽だしさ
ちなみに、鈴奈庵とか三月精によると、レミリアはベッドの上に棺桶を置いてその中に入って寝ていますよ?
まあ好みだから問題無いですけどね。
後日談が気になります!
そして自由に振る舞い常人であれば死んでいるところを逆に運命を掴むことが出来る者こそカリスマというもの
051 待ち合わせ
レミリア「おやすみ、フラン……あら、どこにいくの?」
フランドール「今日は棺桶で寝る。目をつむって、眠るまでの間に考え事をするのが好きなの。ベッドだとすぐに眠っちゃうからね」
レミリア「じゃあ、行きましょうか」
フランドール「お姉様、棺桶は嫌いじゃなかったの?」
レミリア「別々で眠ったら、あなたと夢で会えないじゃない」
フランちゃんの殺気は、いつまで経ってもふざけた態度で真剣に向き合ってくれない姉への苛立ちというやつかな。妄想が捗り申した。