Coolier - 新生・東方創想話

咲夜と添い寝

2014/03/30 20:51:02
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・独自設定がかなりあります。

・時系列で言えば紅魔館が幻想郷に来た後、紅い霧の異変の十年位前です。なのにスペルカードルールは採用しています。

・キャラの呼称に違和感があるかもしれません。

・健全です。


それでもよろしいという方はどうかお付き合いくださいませ














































「今日は冷え込みますねぇ……」



 門番専用の仮眠室で一人呟く。ここ最近は気温が低くなってはいたが今日は特別寒い。寝る前にホットミルクでも飲もうか。鍋を火にかけながらふと窓の外を見るともう真っ暗になっていた。

 この前までは……といってももう半年以上前になる。私のご主人様が吸血鬼ということもあり、主な仕事時間は夜だったのだがそこにある変化が生まれた。ある日突然お嬢様が人間の女の子を連れてきたのだ。自分の名前も年齢も分からなかった(見た目的には5、6歳くらいだろうと思うが)その少女にお嬢様は『十六夜咲夜』という名前を与え、新しい家族として迎え入れた。そしてそれ以来咲夜ちゃんの健康に宜しくないということで紅魔館は朝起きて夜寝る生活になったのだ。……今でも体内時計がうまく合わせられず、たまに昼寝をしてしまうが。まぁ寝ていても何かの気配が近づけばすぐに起きれるので問題はないはずだ。



「さて明日の予定は……っ!」



 突然部屋をノックされ慌ててしまう。部屋に近付く気配はさっきまで全くなかったはずなのに。



「あ、あの……美鈴お姉ちゃん起きてる?」
「あぁ……咲夜ちゃんか……」



 扉を開けるとパジャマ姿で枕を両手で抱えている咲夜ちゃんがいた。おそらく時を止めてこの部屋まで来たのだろう。改めて考えるまでもなくすごい能力だ。


「どうしたの?」
「えーっと……」
「……とりあえず今日は寒いし、お部屋にどうぞ」



 言われるがまま部屋に入る咲夜ちゃんだが……これは信頼されているのか、それとも警戒心が薄いのか。こんな夜中に一人で妖怪の部屋に入ってしまうのは人間としても女の子としてもまずいのではないだろうか?……まぁそのへんの教育はパチュリー様の仕事だし私が口を出すことじゃない。少しでも体が温まるようにとさっき作ったホットミルクを渡す。私の分はなくなってしまったが特に問題はない。温かいにこしたことはないが私も妖怪、体は頑丈にできている。



「それでどうしたの?いつもならとっくに寝ている時間だと思うんだけど」
「夜中遅くにごめんなさい……」
「あ、いや、そういう意味じゃなくてね?私は全然構わないんだけど、ただどうしたのかなって思っただけで」
「あのね……今日一緒に寝てくれないかな……?」
「……えっ?」



 咲夜ちゃんから思いもよらぬ言葉が飛び出した。寒さのせいか赤みがさした頬、普段眠っているはずの時間に起きているせいで少しとろんとしている目、身長差のせいで自然と上目遣いになり、そして格好はパジャマで顔は文句なしの美少女。……うん、とりあえず落ち着け私。じゃないととんでもない過ちを犯してしまいそうだ。



「ど、どうしてかな?」
「……お布団冷たい」
「あぁなるほど……」



 ここは吸血鬼の棲む館、紅魔館である。ここの主人の一族はその吸血鬼の中でもかなり身分が高く、屋敷の中の家具はどれもこれも一級品である。実際今私がいる部屋も門番のための部屋とは思えない。だが……少々問題がある。豪華なもの、価値のあるものが必ずしも機能美の点で優れているとは限らないのだ。確かにこの館のベッドは素晴らしく豪華だが、この時期寝るのには少々寒い。主な住人が妖怪だった今までは問題なかっただろうが、幼い人間の咲夜ちゃんには辛かったのだろう。



「そうですか……、それならまぁ仕方ないですかね。今日は一緒に寝ましょうか」
「ありがとう美鈴お姉ちゃん」
「いやーでも嬉しいですね!真っ先に私のところに来てくれるとは。てっきりこぁちゃんの方が仲がいいと思っていたので」
「……こぁちゃんノックしても起きなかった」
「そ、そうですか……」



 お嬢様の話では将来咲夜ちゃんをメイド長にしたいらしいのだが、現在この館でまともに家事ができるのはパチュリー様が呼び出した使い魔のこぁちゃんだけであり、既に少しずつ家事を学んでいる状態だ。そんなこんなで最近咲夜ちゃんと一番長く時間を共にしているのは家事を教えているこぁちゃんと、教養を教えているパチュリー様になるのだ。そんなことを考えていると不意に服の裾を咲夜ちゃんに掴まれた。もう眠たいのだろう、ウトウトしている。……やばい、可愛い。



「じゃあお休み、咲夜ちゃん」
「うん、お休みなさい……」



 そう言って二人で一緒の布団に入った。このことがバレたら皆には羨ましがられるだろうか、それとも嫉妬されるだろうか。い、痛い目にはあいたくないかな……。今は全て忘れて眠りにつこう。せっかく隣で眠る少女が信用してくれているのだから。





◇◇◇

翌日の夜





 本棚に本を取りに行こうと歩いていると、不意に視界の隅に魔道書が映った。そういえばここ最近は咲夜の教育のための本しか読んでないような気がする。実際今取りに行こうとしている本も、そのついでに本棚に返す本も咲夜の教育のためのものだ。もちろんはじめは乗り気ではなかった。後先考えず拾ってきたレミィはもちろんこの子の教育などのことは考えておらず、結局私に白羽の矢が立った。今でも正直面倒だとは思っているが……私としたことが、多少の情は移ってしまったかもしれない。そんなことを考えていると、図書館の扉を叩く音がした。今は夜も遅く、咲夜の健康のために夜寝る生活をしている紅魔館の住人の中で起きているのは本来私だけのはずだが……



「誰かしら?」
「……すいませんパチュリー様、咲夜です」
「……いいわ、入りなさい」



 申し訳なさそうな表情をしてパジャマ姿の咲夜が図書館に入ってきた。とりあえず『館の使用人が夜中遅くに主人の友人を訪ねること』が本来あまりよいことではないというのは分かっているようだ。その上で訪ねてきたということは、咲夜にとってそれよりも優先すべき事象だということだろう。とりあえず咲夜にホットミルクでも用意して話を聞くことにしよう。私が飲んでいる紅茶もあるが、寝る前には良くないだろう。



「どうぞ」
「ありがとうございます」
「で、どうしたのかしら?」
「その……お布団が冷たくて……それで、眠れなくて……」



 なるほど、咲夜の言い分も分からなくもない。あの布団ではこの子が寝るには冷たいだろう。この年ではまだ体調を崩されると大事になる可能性もあるし、少しずつ始めている家事なども寝不足でミスを犯されては困る。わざわざここを訪ねてくる理由には十分だろう。



「それで私にどうして欲しいの?」
「その……」
「以前教えた通り私は魔法使い、睡眠の必要がない私には自分のベッドがないわ」
「……では図書館の中で少しいさせて頂けませんか?」



 この図書館の中は特殊な魔法によって、気温・湿度その他諸々を常に快適に保っている。だから私は一年中同じ服でも快適に過ごせるのだ。正直この季節に私がこの図書館を出て過ごしたら、寒さであっという間にダメになってしまうだろう。ある意味今の咲夜の気持ちはこの館の中で一番分かるのかもしれない。



「……ちょっと待ってなさい」
「あっはい」
「何か暖を取れるようなものを持ってくるから。来客用のソファはあるからそこで寝てもいいわ。私は横で本を読んでいるから」
「……ありがとうございます、パチュリー様」



 あまり使われず奥にしまわれていた毛布をとってきて咲夜にかけてやる。それにしても私も変わったものだ。知り合ってから1年も経たない少女を私の城たる図書館で寝かせることになるなんて。煩わしかったのに、面倒だったのに、深入りするつもりなんてなかったのに。そんなことが頭をよぎったが、お礼を言った時の咲夜の顔を思い出したらどうでもよく思えてきた。とりあえず部屋の温度をもう少し高くして、本を読むためにつけていた明かりを小さくした。





◇◇◇

翌日の夜





 この館はなんというか、姉度が高いと思う。お姉様は言わずもがな、無愛想に見えて実は人に物事を教えるのが上手なパチュリー、面倒見がいい美鈴、紅魔館の家事全般をこなしみんなを支えている小悪魔、みんな妹というよりも姉といった雰囲気を感じる。だから実際の年はそういうわけでない(と思う、知らないけど)のに私はこの館では末っ子のような存在だった。まぁ実際に私は甘えん坊で我侭な性格だったし、それに対して不満があるわけではなかった。だがちょっと前にお姉様が咲夜を連れてきてから話は変わった。私に初めて妹分と呼べる存在ができたのだ。

 私が咲夜と過ごす時間は一日の中であまり多くない。咲夜は大抵お姉様と一緒にいるか、パチュリーとお勉強か、あと最近は小悪魔と過ごす時間もだいぶ長くなっているようだ。咲夜はお姉様のお気に入りだし、他二つは咲夜に必要なことなので仕方ないとはわかっているのだが、やはり少し寂しい。そこで最近では夜たまに咲夜の部屋を訪れることがある。といっても別に部屋にこっそり入って寝顔を覗くだけだし、夜なかなか寝付けない日だけである(未だに夜寝るのは慣れない)。あまりいいことではないのは分かっているが、なかなかやめられず、実は今も久しぶりに咲夜の部屋に向かっているところだ。



「……あれ?」
「い、妹様!?」



 いつもの通り気配を消して、音も立てずにこっそりと部屋に入ると予想に反して咲夜は起きていた。この時間なら咲夜は寝ているはずなので『眠っている咲夜を起こさないように』という配慮はしても『起きている咲夜に気付かれないように』という配慮はしていなかった。咲夜は私を見て驚いているが、当然だろう。夜中に自分の部屋に忍び込んでくる人物がいたら普通は驚く。



「……どうなされたのですか?」
「えーっと……来ちゃった……?」
「は、はぁ……。とりあえず中に入られますか?」



 咲夜の言葉に同意して部屋に入れてもらう。夜中に寝ているはず少女のもとに情緒不安定な吸血鬼がやってくる、なかなかにホラーな状況だと思うけど咲夜は怖がっている風な様子は特に見せない。これが子供の無知故なのか、信頼の証なのか、私には判断がつかない。どちらにしても咲夜に将来距離を取られてしまうようなことにはなって欲しくないなと思う。



「それでこんな時間にどうなされたのですか?」
「吸血鬼の活動時間としては普通だと思うよ」
「……すいません、私のために」
「あ、いやそうじゃなくて……いや、まぁそうなんだけど気にしてないから大丈夫だよ。けどこの時間ってまだあんまり眠くなくて……それで……ねぇ一緒に寝ない?」
「え、でも私はメイドで……妹様はお嬢様の妹で……」
「気にしない気にしない」



 咲夜の言葉を無視して布団に潜り込む。咲夜の体は冷えていて少し驚いたけど、そのまま抱きついて横になる。咲夜は慌てて何か言っているけど、ついに諦めてそのまま横になる。……結局私のほうが妹ポジションにおさまっている気がするがもうどうでもいい。



「そういえば咲夜は何で起きていたの?」
「それは……すいません……」
「いや怒っているわけじゃないんだけどね?」



 折角の機会だし色々話したいと思うがやっぱり難しい。あまり地下から出ないから私は会話が得意ではない。皆は少しずつ慣れていけばいいって言っていたけど。



「最近どう?」
「……ぇ?あっ最近は、えっと色々大変ですけど皆優しくしてくれるので毎日が楽しいです」



 やっぱり皆慣れているなぁ……。私も頑張らないといけない。



「何か困ったことがあったら言ってね?」
「でしたら……いえ、何でもありません……」
「そんな言い方されたら気になるよ?私じゃ信用出来ない?」



 弱々しく発する咲夜の言葉をそのまま受け取る訳にはいかない。私に何ができるかわからないけど、できるかぎりは力になってあげたい。咲夜は言うかどうか迷っているのか、目をつぶって考え込んでいる。



「咲夜?」
「……ん、あっ……す、すいません妹様」



 やはり言えないということか。私はそんなに信用がないのだろうか?……ならどうすれば咲夜と仲良くなれるのだろうか?……もっと咲夜とコミュニケーションをとる手段はないだろうか。



「じゃあさ、咲夜……」





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