Coolier - 新生・東方創想話

プッチンレミィ

2014/03/28 22:18:36
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プルプル。この4文字に集結されている表現が全てを物語っている。

決してぷよぷよではない。ましてやもちもちでもむにむにでもないのだ。程よい弾力とハリ、そして触り心地。
いや、それは見た目も重要である。光沢がしっかり有り、それだけでなく自分はちょっとやそっとじゃ崩されることはないぞといわんばかりの固さをその外見だけで物語る。
これほどまでに全てにおいて素晴らしいものがこれまで有り得ただろうか。いや、ない。私がこれほど熱く語っているものは、何であるか、聡明な諸君にはもうお分かりだろう。

そう、プリンだ。

私が何故これほどまでにこのプリンなるものに熱中しているか、
それは今言った魅力だけではまだまだ足りない。
やろうと思えば本二冊や三冊出すことも造作無いだろう。
そして私が、何故、これほどまでにプリンについて語る必要があるか、わかるね、諸君。
そう、それは私の数少ない楽しみである三時のおやつに出た。何が?ここまで来てそれが分からないとでも?もしそうであれば失せろ。

もちろん、プリンだ。

ほかに何がある。確かにホットケーキも捨てがたい。しかしあのカラメルソースの甘味と濃厚な舌触りに叶うものなど、そうそうあるはずがない。
話がずれたな。この三時のおやつにはレパートリーがかなり多く存在する。その中でも私の好物として頂点に立つものが変わることは有り得ないのだが、
その種類の豊富さ故に、食べたい時に食べられるというものでもないのだ。

つまりはだ。私がプリンを食べられる機会は多くないということだ。もうそろそろ勘のいい諸君なら気づくのではないかね?暴君の存在に。
私が、楽しみに、楽しみに待っていたプルプルが、憎き暴君によって踏みにじられたのだ。

そう、我が妹、フランドールによってな。

おい、どいつか知らんが、「たかがプリンだろ」と言ったな?処刑だ。即刻そいつを私の元へ連れてこい。
プリンのすばらしさを八時間ほど頭に練りこむ程に教えてやった後でバラバラにして豚の餌にでもしてやる。
まぁ、そいつの処刑は決定したとしてだ。問題は我が妹の方だ。なにせ奴は腐っても私の妹だ。復讐をしてやるのは確定だとしても、
その方法が大分限られる。吸血鬼というものは難儀なもので、弱点が多いように思われているらしいが、死ににくさに関してはあらゆる種族の中でも群を抜くレベルだ。
日光でも別に死にはしないし、他の弱点となるものも、我々の命を完璧に奪い去るものではない。まぁ、その死ににくさを利用して奴に生き地獄を味わわせてやるということも可能だが、
私にはそんな惨たらしいことを好んでやるような趣味はない。怖いわけではない。

くそ、色々考えてたらプリンのことを思い出してしまった。また涙が出そうだ。でもここで負けてしまっては憎き奴の思う壺だ。プリンが報われない。
冷静になれ。ここで感情に身を任せて特攻するようなことがあればそれこそ恥だ。野蛮で雑多な妖怪となんら変わりない。
私は誇り高き吸血鬼の末裔だ。耐えるのに一苦労ではあったものの、理性が吹っ飛ぶとまではいかんさ。

少し落ち着いて当時の状況を振り返ってみるとしよう。
まず事件が起きたのは三十分前の午後三時。当時の私はこれから起こる悪夢について一切知らない。
プリンが目の前に来るのを今か今かと待ちわびている無垢な吸血鬼だ。今思ってしてみればなんたる体たらく。
あの凄惨たる出来事が起こると知ってさえいれば、後に私の右手の内にあったお気に入りのスプーンも、音を立てて地面に落下することなどなかっただろう。

午後三時になると同時に私の従者である十六夜咲夜が、プリンを器に載せた状態で私の前に持ってきた。私はその外観をまず楽しむ。
すぐに舌で味わうなどという愚行はプリンの魅力を三割、いや、四割は減らす。あのフォルムを堪能することなくしてプリンを味わいきるのは不可能だ。
例にもれず、私はありったけの集中をプリンに向け、そのプルプルな姿を満喫していた。今回はそれがアダとなったのだ。くそ、パクッといっとけばよかった。
ここで憎き我が妹の登場だ。奴は私がプリンを目で堪能して、すぐに食べないことを知っていた。そうに違いない。何故ならばそうでないと次のセリフとのつじつまが合わないからだ。

「お姉さま、何を熱心に見ているの?」

プリンに決まっているだろう、愚か者が。そう言おうとした私だったが、その場では奴の言葉を無視した。今にして見ればあそこで気づくべきだったのだ。
プリンを知らない奴などこの世にはいない。奴の狙いは私が何を見ているのかを聞くことではなく、私の注意を少しでもプリンから逸らさせるためだったのだ。私はまんまと奴にしてやられた。
奴の不用意な言葉に一瞬反応をしようか躊躇いプリンから奴に視線を送ったそのわずかな隙、それが命取りだった。奴の方に向いていた視線をプリンに戻した瞬間、私は驚愕で茫然自失となった。

プリンが、ない。これが意味することはなんだ。理解が追いつかない。誰が何のためにこんな仕打ちを?私の周りにはフランと咲夜しかいない。
その時点での私はまだ聖人君子のような対応をした。つまり、フランを疑わず、咲夜の軽い悪戯ではないかと思い、努めて優しげな声で咲夜に問うたのだ。

「咲夜、意地悪はやめて頂戴な」
「はい?私は何もしておりませんが」
「え?」
「仮に意地悪をするのであればプリンを髑髏や爆弾に変えるくらいはします」

その言葉を聞いた瞬間、私の思考がストップする。容疑者は二人。そして有力候補だった一人は、恐ろしいが妙に説得力のあることを宣いつつ無罪を主張。
咲夜は私には嘘はつかない、はず。
それならば。最悪の自体を想定しつつ、それでも頭のネジが二本ほど吹っ飛んでいるイカレたメイドが嘘をついているだけだと自分に言い聞かせながら、
我が妹の方を見る。奴は笑っていた。しかもそれはそれはもう満面の笑みだ。私はそれに狂気を通り越して戦慄を覚えた。

「お姉さまの敵は排除してあげたよ!」

こいつは何を言っているんだ。気が触れているどころの騒ぎではない。私も発狂したい気持ちを抑えながら奴に問う。

「フラン?敵というのは何のことかしら」

懸命に冷静を装うが、次の事態をなんとなく予想してしまったのか、私の声は酷く震えていた。

「お姉さまがずっと睨んでるものだから、壊したいのかな、って思ったの。私もギュッとしてドカーンってするときはよく睨むから。でもお姉さまにはそんな力はないから私が代わりにしてあげたの」

奴は自分がしでかしたことの重大さに気づいていないのか?否。奴は分かってやっているのだ。私は今この瞬間にも爆発しそうな感情を必死に殺しつつ

「フラン、私の許可なく能力を使っては駄目と言ったでしょ。地下牢に戻っていなさい、今すぐに。反論は聞かないわ」
「……ごめんなさい」

奴でもここは素直に聞いておいた方が良いと思ったのか、素直に地下牢の方へと戻る。歯向かって来さえすれば、心おきなく地獄に突き落としてやったものを。
そこではたと気づく。私のプリン。見るだけしかしていない。食べられなかったという事実と虚しさだけが残る。

「咲夜、こっちへ来て頂戴」
「はい」

咲夜を隣に呼ぶ。咲夜は返事以外何も言わず、私の前に立った。私は、もう、限界だった。


「うわ~~~~ん!!フランが、フランが!私のプリンを~~~~!!!」

 
私は泣いた。三十分は泣き続けた。その間咲夜は何も言わず、ただ私の泣きやむのを待つだけだった。
これが事の顛末だ。なんという恐ろしい事件だったのか。私はようやく自分を取り戻し、咲夜は涙やら鼻水やらでぐしょぐしょになった服を着替えに行った。
この事件での犠牲は大きい。私の生涯のワースト3には入る大事件だ。食の恨みというのは計り知れないものがあるのは諸君もご存知だろう。
その中でも今回の被害食はあのプリンだ。世が世であればギロチンにかけられてもなんらおかしくはない。

私は拷問を好かないし、無闇に家族を殺すようなこともしない。だが今回のことは万死に値するものだ。報復が必要だ。あの悪魔を永遠は無理にしろ、
長期に地下牢に閉じ込める魔法がないか本気でパチェに相談したほどだ。パチェの反応は

「あ~、はい。そうね。あのプリンだもんね。うん。フランは悪い子ね、全く。魔法?はいはい。わかったわ」

と言ったように、私の意見に賛同しているようだった。話している最中常に本から目を外さないのが気になったが。
パチェにも確認したし、後は奴を拘束する魔法が出来るのを待つだけだ。作り上がるのにはどれくらい掛かるか聞いたところ、三日は必要らしい。
そんな短期間で吸血鬼を閉じ込めておける魔法を作れるとは、流石は我が親友。こちらとしても鼻が高い。後は待つだけ、か。

そこからの三日間はものすごく長く感じた。それほどまでに私は復讐心に燃えていたのだ。食べ物の恨みは、げに恐ろしいもの。
特にその後の三時のおやつではプリンが出ず、それを咲夜に抗議しても、献立は決まっていると言って頑として受け入れない。私はプリン分が足りなくて首が落ちそうだ。
プリン分というのはプリンを食べれば摂取できるもので、これが不足すると私は発狂して首が落ちる、気がする。
それほどまでに私は追い込まれていた。プリン。あぁ、プリン。くそ。

やっとのこと三日が経った。死ぬかと思った。吸血鬼たるこの私が。今日のおやつはプリン。咲夜に必死に頼み込んで、特別に許可してもらったのだ。あと一日遅ければ異変を起こすところだった。
奴を封印する日と、我が愛しのプリンに出会えるのが同じ日というのは、なんという運命のいたずらか。奴を封印しながら、私はプリンを堪能する。よし、その流れで行こう。まずはパチェに魔法は完成したのかを聞きに行く。

「あぁ。あれね。うん。出来たわ。うん」

良かった。出来ているらしい。これで条件は整った。

「早速準備して頂戴。三時になったら、封印するわよ」
「ん。了解」

私はその返事を聞くと、三時を待つためにウキウキ気分で図書館を出て行った。

「全く。世話がかかるわね」

親友がそんなことを言っているのも聞かずに。
今私は食卓に座っている。三時まで残り一分ほど。どれほど待ちわびたことか。先に封印を済ませてもいいが、先にプリンで気分を高めておこう。
咲夜が三日前と同じようにプリンを持ってくる。さぁ、いざプリン。そこで

「お嬢様、おやつの時間の前に少しお話があります」
「おやつの後じゃあ駄目なの?」
「駄目です」
「んぬぅ。なによ」
「妹様についてです。今回の処遇は少し厳しすぎるかと」

何を今更。咲夜だって三日前の蛮行を見ていたはずだ。あの所業を知っていてなお厳しいとでも言うのか。

「何が、言いたいの?」
「妹様と仲直りしてください」
「断る。あいつは、あいつは……」

プリンを、と続けようとしたところで私の声が遮られる。

「それくらいにしておきなさい、レミィ。確かにあなたの気持ちが全く分からないとは言わないけど」
「パチェ…」

信じていたのに。あなたも寝返るのね。そうショックを受けている私を気にすることもなくパチェは続ける。

「全く、あんたは好きなことについてはすぐ視野が狭くなるんだから」
「魔法はどうしたの?」
「そんなもん用意してるわけないじゃない」
「なんですって?」
「プリンを台無しにされちゃったのなら、次にその分もらえばいいじゃない」
「そんな、物のように扱うなんて」
「プリンは物よ。人でも妖怪でもない。いくらでも取り替えがきくわ」
「なんてことを……。外道に落ちたの、パチェ」
「外道に落ちようが、家族の誤りは正さないとね」
「ふん。残念だよ、パチェ。お前と戦わねばならぬ日が来るとは」
「ええ、私も残念だわ」

それからは二人は何も言うことなく対峙する。次の瞬間には、壮絶な戦いが始まる。どちらかが、もしくは両方共が壊滅的な被害を受ける。そんな戦いが。その時、

「喧嘩をすればおやつ抜きです」
「すいませんでしたー!!」

私はジャンピング土下座をする。プリンを人質に取るとは、なんと卑怯な。

「パチュリー様も真面目に受け答えしないでください」
「あら、ごめんなさい」

パチェはあっさり矛をしまうようにおとなしくなる。

「お嬢様。今回、プリンを二つ用意いたしました。妹様をお許しになれば二つ召し上がって宜しいです。ですが、お許しにならない場合、今後、プリンに限らず、おやつはなしです」
「そんなぁ……」

私は死刑宣告を受けたかのような衝撃を受ける。おやつ、プリンが今後ずっと食べられない。死ぬ。間違いなく死ぬ。
 
「それだけは」
「では妹様をお許しいただけますか?」
「・・・わかった」

なんたる屈辱。神は死んだ。私は精神を叩きのめされたようにその場に崩れる。

「でははいどうぞ、プリンです。食べないのですか?」
「食べるー」

私はそそくさと椅子に座りプリンを、二つ堪能した。プリンうめえ。
食事後、私は二つプリンを食べたことで大分プリン分が潤ったため、怒りも多少収まっていた。今ではフランを許すことが出来そうだ。
咲夜、パチェと共に地下牢へ向かう。

「フラン、出てきなさい」
「……お姉さま」
「あなたのしたことはいけないこと。とても、とてもね。それはわかる?」
「うん。ごめんなさい」
「もういいわ。許してあげる。私は優しいからね」
「お姉さま」

「妹様の前ではそれっぽく振舞うのね」
「しっ、パチュリー様」

後ろから雑音が聞こえるが気にしない。

「ただし、他人のものを壊したら弁償しないといけないわ」
「うん。でも私なにも持ってないよ?」
「いいえ、フラン。あなたも食べるでしょ、おやつを。これまではプリンは食べさせなかったけど、あなたにもこれから食べる機会を与えるわ」
「あのプルプルしたやつ?」
「そう、あのプルプル。そして次のプリンの時、弁償として私にプリンを私に頂戴。それでチャラにするわ」
「うん、わかった」
「よし。それじゃあこの話はおしまいよ。地下牢からはもう出てもいいわ」
 
そう言ってフランも一緒に地下牢から居間の方へ向かう。
 
「ちなみに、今日のフランのおやつはなんだったの?」
 
なんとなく疑問に思ったことを聞く。今まではフランにプリンは早かったので、与えないように咲夜に言っておいたが、代わりに何を出しているのかは知らない。
 
「う~んとね。プリンは食べたことないから知らないけど、プルプルしたやつ」
「ゼリーですね。妹様にお出ししているのは」

咲夜からそう聞いて私は安心する。ゼリーか。勝ったな。プルプルなだけがプリンではないからな。

「実は、ゼリーよりもプリンの方が安上がりなんですよね」 
「え」
「ゼリーを固めるのにつかっている物がなかなか高級でして。プリンにはそれはいらないので」

そ、そんな。私はフランよりも安上がりなもので喜んでいたというの。

「でも私はプリンの方が好きだけどね」

パチェがそう言う。天使か。いや、魔女か。

「そ、そうよね。プリンの方が美味しいわよね」
「う~ん。でも私はプルプルで透明で、味も透き通った感じで好きだけどな」

フランが急に語り出す。それっぽいこと言いやがる。

「フランはプリンを食べたことがないから分からないのよ。プリンの素晴らしさを知ってから語りなさい」
「ぶ~。お姉さまが食べさせてくれなかったんでしょ~」
「まぁまぁ。今度からお出ししますから」

ま、次の時は私がもらうからフランは食べられないんだけど。ちょっとスカッとした。

「ちなみに、咲夜はプリンとゼリー、どっちが好きなの?」

そこでパチェが更なる火種となり得ることを言い出した。こいつは騒動を荒立てたいのかおさめたいのかどっちなんだ。
「ん~、そうですね」

咲夜がひとしきり悩んだあと口を開いた。三人の注目が集まる。

「私はババロアの方が好きですね」
「「「し、渋い」」」

満場一致での感想だった。
プリンうめぇ

追記: 投稿した後にネタ被りに気づいてしまったが後の祭りだった。
K.G
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コメント



0.770簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
素敵です
なんかこういう紅魔館もいいですね
咲夜さんが親みたいだけど、咲夜さんの態度を許しているレミリアさんも親みたい
皆さんよくこういう話がホイホイ思いつくのかと感心しますね
7.90奇声を発する程度の能力削除
良い紅魔館のお話でした
13.80絶望を司る程度の能力削除
渋いwww
14.100名前が無い程度の能力削除
今日はプリン二倍デーだよ。