Coolier - 新生・東方創想話

恋の種が芽吹くまで

2014/03/16 03:50:06
最終更新
サイズ
30.92KB
ページ数
1
閲覧数
2718
評価数
4/16
POINT
930
Rate
11.24

分類タグ

我ながら柄にも無い事をしている自覚はあった。
そもそも何を思ってお菓子作りなんて始めようと思ったのか、自分でもよく理解できていない。
ただ、咲夜に教わりながらお菓子を作るあの時間を、確かに私は楽しんでいた。
あの時点では、未来――つまり今で言う現在を悲観する要素など何一つなかったのだから、当然と言えば当然だ。
私には、未来が見えるような便利な能力は備わっていないのだから。
だがしかし、ひょっとすると、あの時点で予想ぐらいは出来たんじゃなかろうか。
過去にフランが私に話してくれたこと。
フランが毎日誰かを待ち焦がれていたこと。
彼女と出会ってから、今まで私には見せなかった笑顔を振りまいていたこと。
思い返せば思い返すほどに、手がかりは無数にばら撒かれていたことに気付く。
なぜ私は気付かなかったのか、気付けなかったのか。
いいや、私はきっと気づこうとしなかっただけなのだ、だって気付きたくなかったんだから。
恋は盲目と言うけれど、まさにその通り。
見たくないものには、蓋をしてしまえ。そうすれば幸せな恋ができるのだから。
私は無意識のうちに、それを実行してしまっていたのだ。
柄じゃない。本当に柄じゃない、恋なんて吸血鬼に相応しくない。
だから。
だから――痛い目を見るんだ。

「……そっか、そうよね」

私はクッキーの入ったバスケットを抱えたまま、扉の前で立ち尽くしていた。
この先は、フランの部屋だ。
きっと一人で退屈そうに暇を持て余しているのだろう……勝手にそんな風に想像していた。
だから、私が来たらきっと喜んでくれるだろうな、私が作ったクッキーだって言ったらもっと喜んでくれるんだろう、なんて。
全部自分勝手な想像だ、それが実現しなかったとしても、別にフランが悪いわけじゃない。
だけど、理屈がどうであろうと感情がそれに追従するかどうかはまた別の問題だ。
理性と本能は全く別の場所に存在しているから。
身勝手とは理解しながらも、フランに対する不満が溢れ出るほどにこみ上げてくるのがわかる。
歯ぎしりしてしまうほどにフラストレーションは高まっていく。

「ずいぶんと楽しそうじゃない、私と居る時と違って」

扉を開く勇気は、私には無かった。
フランが屋敷を自由に動き回れるようになった今でも、姉妹の確執が完全に消えたわけじゃない。
以前に比べればずいぶんと姉妹らしくはなったと思うが、会話がぎこちなくなってしまうことだって多々ある。
だが、扉の向こうに居る彼女たちはどうだろう。
声だけでわかる。とても楽しそうで、幸せそうで、そこには確執もぎこちなさも何も無い。
二人を隔てる壁は何もないのだ、私達とは違って。
だから、フランは私の聞いたことの無い声を出している。
甘えた声を、幸せな声を、まるで普通の恋する少女のように。
思えば、二人は出会った時からそうだった、フランも魔理沙に惹かれていて、魔理沙もフランに惹かれていた。
そうだ、出会ったその瞬間から私の敗北は決まっていたようなものだったのだ。
姉妹というアドバンテージがあるから大丈夫だろう、なんて余裕をかましていた私は、他人から見ればさぞ惨めで滑稽だったろう。
本人ですら思わず笑ってしまうほどだ。
アドバンテージ? 何をどう考えたら姉妹という関係が恋愛において有利に働くという結論に達するのか。
姉の権力を振りかざせばどうにでもなるとでも思っていたのだろうか、私は。
その結果がこのザマだ。
そりゃそうなるだろうさ、当然の結果だ、ざまあみろ。

「馬鹿馬鹿しい」

それは、私自身に向けた言葉だ。
誰も聞いちゃいない。誰にも知って欲しくない。
それで構わない。
甘さも、苦味も、痛みも、苦しみも、全て自己完結して終わらせようと思う。
始まりも終わりも誰も知らない。

クッキーは、ゴミ箱に捨てた。

特に勿体ないとは思わなかった、むしろ清々したぐらいだ。
恋と一緒に放り投げて、私はようやく諦めることができたのだのだから、今日という日を記念日にしたっていい。
強いて言うのなら、教えてくれた咲夜に申し訳ないと思ったぐらいか。
せっかく付きっきりで私に教えてくれたのに、捨てたことを知ったら……悲しむだろうけど、きっと私を怒ることは無いだろう。
私と咲夜は、そういう関係なのだから。
本当は捨てる必要なんて無かった、自分で食べてもよかったし、適当に理由をつけてパチュリーに渡したって構わなかったはずだ。
でも私はそうはしなかった、今にも噴火しそうな自分の感情を抑えるため、八つ当たりの道具に使ってしまったわけだ。
だけど、まあ、結果的にはそれで良かったんだと思う。
恋愛成就なんて始めから無理だったんだから、そのために作ったクッキーを誰かの口に入れてしまうぐらいなら、最初から無かったことにした方が色々と楽だ。
思い出にも残らず、綺麗さっぱり忘れてしまえそうだし。
そうだ、忘れてしまおう。
柄にも無いことをすると痛い目を見る、それを学べただけでも十分じゃないか。
やっぱり恋なんて、らしくないことするもんじゃない。





恋愛感情と言うのは思っていたより往生際が良い物で、それから数日もしない内に私は失恋のショックをすっかり忘れてしまうことが出来た。
昨日や一昨日までは思い出して胸が苦しくなることもあったけれど、今日はそういうことも無い。
数日ぶりにリラックスした時間を得ることができた私は、パチュリーから借りたどうでもいい本をぱらぱらと流し読みしていた。
目に写るその瞬間だけは文章を理解し、記憶しているのだけれど、おそらくその内容も一時間もすれば忘れているはずだ。
それほどにどうでもいい内容だった。
暇つぶしするにはこの程度の内容の無さがちょうどいい、暇つぶしに頭を使って体力消耗して何の意味があるというのか。
私はロッキングチェアに深く腰掛け、前後に揺れながらページをめくり続ける。
ただただ退屈な時間が流れていく。
音もなければ色もない、無味乾燥な時間。
前までは、色んな物がもっと色鮮やかに見えていた気がするのだけれど……たぶんそれも気のせいだ。恋とやらが見せた錯覚だろう。
ぎい、ぎい、とチェアが前後する度に、床が軋む音がする。
一定のリズムで聞こえるその音をじっと聞いていると、なぜだか眠くなってしまう。
どうせロクに頭に入ってないんだし、本を読むのを中断して眠ってしまうのもいいかもしれない――そんな風に考えていると、扉からノックの音が聞こえてきた。
声が聞こえたわけではないが、誰がノックしたのかは大体予想できる。

「咲夜、入っていいわよ」
「失礼致します」

ドアの向こうから現れたのは、予想通り咲夜だった。
パチュリーや美鈴が部屋に来ないわけではないのだけれど、そんな機会は滅多にない。
何より、二人がノックをすると何となく咲夜とは違うことに気付いてしまうのだ、だから私が予想を外すことはあり得ない。
彼女はお茶と小さなケーキを手に持ち、部屋へと入ってくる。

「一体何の用なの?」

招き入れたのはいいものの、私はそんな物を頼んだ覚えがないのだが。
お茶会をするような時間ではないし、何より私自身がそんな気分ではない。

「私、今はお茶の気分じゃないのだけれど」
「わかっていますわ」
「わかってるって……わかってて持ってきたの?」

咲夜がわざわざ私の機嫌を損ねるようなことをするなんて、珍しいこともあるものだ。
今は雪が降る季節でもないが、ひょっとすると明日は吹雪かもしれない。
私の反感を買ってまで、お茶を飲ませたい理由でもあったのだろうか。
例えば、吸血鬼によく効くとびきりの毒が手に入ったとか、誰にでも効く惚れ薬が手に入ったとか。

「お嬢様、最近お疲れのようでしたので……」
「あら、そんな風に見えてたの?」
「ええ、私がお嬢様の従者になってから、一度も見たことが無いぐらいに。
 ですから、お嬢様が少しでも楽になるようにと疲れの取れるハーブティーを持ってきたのです」

そう言われれば、咲夜の持ってきたお茶からはいつもの紅茶の香りはしない。
微かに爽やかな香りがする……これは、ローズマリーだろうか。
確かに疲れが取れる効果があるし、リラックスするにはもってこいだ。
しかし、私は別に体の調子が悪いわけじゃないし、精神的に参っているつもりだって無い。
そもそも、ここ最近の紅魔館は平和すぎるほどに平和で、今日だって体力を持て余すぐらいに退屈しているというのに、この状態で”今まで見たことが無い”ほどに疲れるなんて、そんなことがありえるだろうか。
私には到底信じられない。

「それは咲夜の目がおかしいのよ、私は疲れてなんてないもの。
 体って軽いし、心だって健全そのものだわ」
「そんなはずはありませんっ」
「咲夜がどう言おうと私は疲れてないの。
 むしろ、このお茶は咲夜が飲むべきね。疲れてるのは咲夜の方なのよ」
「お嬢様……」

咲夜は心痛な面持ちで私の方を見ている。
そんな目で見られると、さすがの私も無下には扱えなくなってくる。

「何よ……そんな目で見られても困るわ、本当に疲れて無いんだから」

それでも咲夜はその表情を止めない。
面倒な従者だ、お茶を飲めば満足してくれるのだろうか。
仕方ない、それだけで咲夜が満足してくれるのなら付き合ってあげようじゃないか。
これも主としての勤めだ。

「はぁ、わかったわよ、咲夜がそこまで飲んで欲しいのなら仕方ないわね。
 飲めばいいんでしょ、飲めば」
「ありがとうございます、お嬢様」
「我儘な従者を持つと苦労するわ」

この状況で礼を言うのは、どちらかと言えば私だと思うのだけれど。
それにしても、無理やり飲まされたハーブティーに、果たして本当にリラックス効果があるのか怪しい所だ。
相変わらず咲夜は複雑な表情をしたまま、こちらをじっと見つめているし。
確かにローズマリーの香りは爽やかで、嗅いでいると心が落ち着くような気がするのだけれど、本当に私自身は疲労なんて感じていないのだ、持て余している体力をこれ以上回復させてどうしろと言うのか。

「あの、お嬢様……少し、聞きたいことがあるのですが」

咲夜の視線と戦いつつ私がハーブティーを堪能していると、咲夜は恐る恐ると言った雰囲気で私に話しかけてくる。
よっぽど聞き辛いことでもあるのだろうか、私の気分が落ち着いていないと話せないような話題が。
もしかすると、私の疲れを取るなんてのは言い訳で、こっちが本命だったのかもしれない。
せっかく素敵なハーブティーだったのに、ただの口実に使われてしまったわけだ、可哀想に。

「そんなに遠慮しなくても大丈夫よ、咲夜からの質問ならいくらでも答えてあげるわ。
 というか、こんなお茶を持ってこなくても、質問ぐらいなら答えてあげるのに」
「申し訳ありません」
「まあそうね、その様子だと何か聞き辛い質問なんでしょ? だからわざわざお茶まで持ってきて、私の機嫌を取ろうとしたってわけね。
 いいわよ、咲夜の気遣いに免じて失礼な質問にも応じてあげるわ」
「それでは……その、先日お嬢様と一緒に作ったクッキーの件なんですが」
「ああ、あれね」

なるほど、何となく察しがついた。
咲夜が見ないであろう場所で捨てたつもりだったのだけれど、どうやらバレてしまったようだ。
誰かが咲夜にチクったのか、あるいは咲夜自身が偶然そのゴミ箱を見てしまったのか。
何にせよ運が悪い。

「この屋敷の主は私なのに、主ですら咲夜に隠し事をするのは無理みたいね。
 まさかバレちゃうとは思わなかったわ」
「いいえ、気付いたのは私ではありません、妖精たちから話を聞いただけですから」

そう言えば、ここのメイド妖精たちはどいつもこいつも噂好きだった。
まるで井戸端会議をする主婦のように、そこらかしこであること無いことを囁き合っている。
時折私の耳にも妙な噂が届くぐらいだ、メイド妖精たちを統括している咲夜が噂を聞き逃すわけがない。
それにしても、ゴミ箱にクッキーが捨てられてる、なんてどうでもいい事でさえも噂として伝搬してしまったのか。
妖精たちの好奇心旺盛さを知っている私なら想像できない事態じゃなかったのに、ほんと私ってばどこまでもツメが甘いんだから。

「あのクッキーの件は咲夜が気にするほどのことじゃないわ」
「そう言われましても、気になるものは気になります。
 私がお嬢様と一緒に作ったクッキーなのですから」

そりゃそうか。
自分が作ったクッキーが捨てられて、気にならない人間など居ない。

「咲夜と作った後、自分で味見してみたらまずくてまずくてしょうがなかったのよ、だから捨てたの。
 あんなものを他人に渡すにはいかないと思ってね」
「ですが、味見した時は確かにおいしかったはずです」
「味見の時はたまたま当たりを引いただけだったのよ、他のは食べられたものじゃ無かったわ。
 あー、あの時のことを思い出すだけで気分が悪くなってくるわ」

我ながら無理のある言い訳だと思う。
本当のことは、”あの時のことを思い出すと気分が悪くなる”、というくだりだけだ。
咲夜には本当に悪いと思っているが、今回ばかりは見逃して欲しい。
あのクッキーは咲夜だって一緒に作ったのだ、私が作ったというより咲夜が作ったと言っても言い過ぎじゃないぐらい。
だから、あれで失敗するなんてあり得ない。
咲夜はきっと私が嘘を言っていることにも気付いているはずだし、ここで嘘を吐くということは何かがあったと言っているのと同じことだ。
だけど、私がこの話題に触れてほしくないと思っているという意思は、咲夜に間違いなく伝わったはずだ。
これは従者という立場を理解しているのならば、主の心の中に土足で踏み込むなという警告でもある。
我ながら偉そうな態度だとは思うが、こういう時ぐらいは主の権限を振りかざしてもバチは当たらないはずだ、普段は滅多に使わないのだから。
きっと咲夜なら、空気を読んでこれ以上の追求は控えてくれるだろう。

「お嬢様は、諦めてしまったのですか?」
「諦める? 急に何の話よ」

おや、意思は伝わったはずなのだけれど。
どうやら私の予想は早々に外れてしまったようだ、今日の咲夜に空気を読むつもりは全くないらしい。
ああ、面倒くさいなあ、もう。
何が咲夜をここまで突き動かすのか。
ひょっとして、咲夜は私がフランのことで悩んでいたのを気付いていたのだろうか。

「妹様のことです、お嬢様は妹様のことが――」

どうやらそのようだ、バレていないと思っていたのは私だけらしい。

「ええそうよ、私はフランのことが好き。それは姉として当然のことでしょう?
 何か問題でもあるのかしら」
「お嬢様、誤魔化さないでください。
 私がどれだけお嬢様のことを見てきたと思っているんです? お嬢様が言わなくてもとっくに気付いていますわ」
「何のことを言っているのかさっぱりわからないわね。
 私とフランは姉妹よ、それ以外に一体何があるって言うの? 仮に何かがあるように見えたとしても、それは咲夜の気のせいよ」
「気のせいではありませんっ」
「私自身が否定しているのに、どうして咲夜は信じてくれないのかしら」
「お嬢様が嘘をついているからですっ!」

咲夜の語気がどんどん荒くなっていく。
ああ、確かにその通りだ。
私は嘘をついている、堂々と、悪びれもせず。
私はフランのことが好きで、姉妹の枠を超えて愛している。どうやら咲夜もそのことにとっくに気付いていたようだ。
まあ、咲夜は基本的に常に私のそばに居るのだし、一緒に作ったクッキーだって誰かに渡すための物だと気付いていたはずだ。
私がフランのことを愛していることに気付いていたとしてもおかしな話ではない。
でも、どこまで気付いているのだろう。
私はフランにキスをしたいと思ったこともあるし、抱きたいと思ったことだってある、姉妹でそんなことやっちゃいけないって事も十分に理解してる。
だけど、理解した上で好きになってしまったから。
でも、だとしても、それが何だというのか。
これは私とフランの――いや、フランは何も知らないのだから、私だけの問題なのだから、咲夜には何も関係など無いはずだ。
彼女には土足で踏み込む権限など全く無い。

「私は、応援するつもりでした。
 お嬢様に喜んでもらいたいから、笑ってほしいから! だから妹様と二人で幸せになって欲しかった!」
「……ふぅ」
「ずっと、誰よりも妹様を想ってきたのはお嬢様なのに!
 妹様を誰よりも幸せにできるのだってお嬢様のはずなのに、どうして諦めたりするんです!?」
「ぎゃーぎゃーうるさいわねえ、咲夜には関係のない話よ」

私はフランのことを愛している。
だけどフランは魔理沙を選んだ、魔理沙と居る時が一番幸せで、一番笑ってて、気付けばもう取り返しの付かない状況になっていた。
そしてあの日、私はそれに気付いてしまった。
もうフランとは恋人同士になんてなれない、姉として二人を祝福することしか出来ない。
いいや、本当は最初からそうだったんだ、って。
相手は妹なんだ、好きになるだけ無駄だったんだって、気付いてしまった。
倫理を超えて妹を愛している自分に自惚れていた私の愚かさに、いまさらなら気付いてしまったのだ。
私達は人間じゃない、だから倫理に縛られずに生きていける。
そう思っていたのは、私だけだったわけだ。
いいや、倫理があろうとなかろうと関係など無い、フランは私に惹かれなかった、本質はただそれだけなのだろう。
でも、関係ないじゃない。
所詮他人である咲夜には、少しも、一つも、欠片も、関係のない話のはずなのに。

「関係……なくないです」

それでも、咲夜は引き下がらない。
関係なんて無いはずなのに、口からでまかせまで言って私に食らい付こうとする。
おせっかいもここまで行くとかなりの迷惑だ、普段咲夜が私のために尽くしてくれるのはありがたいけれど、これじゃあただの迷惑だ。私に対する敵対行為だ。
不愉快で、不愉快で、むしゃくしゃしてしょうがない。

「もういい加減にしなさい、何を言おうと咲夜には関係ない話なのよ!」
「いいえ、関係あるんですっ!」
「何よ……何が言いたいの? わからないわ、私には咲夜が何をしたいのかさっぱり理解できない!
 じゃあ言ってみなさいよ。
 血のつながりもない、ただの従者である咲夜が、ただの他人である咲夜が、私とフランの問題にどう関係あるのか。
 ちゃんと私が納得できるように言ってみなさいよ!」
「そ、それは……」

怒気を孕んだ私の一喝に、咲夜は思わず萎縮してしまう。
少し怯えさせてしまっただろうか。
多少は良心が痛むが、あまりにしつこい咲夜が悪いのだ。
何が彼女をここまでかき立てているのか、私にはさっぱり検討がつかない。
ただのおせっかい? 私に対する嫌がらせ? それとも、もっと違う何かが咲夜を突き動かしている?
これでも引き下がらないのなら、もはや私に咲夜を追い払う手段は残されていない。

「言えないの?」
「いいえ、言えます……ちゃんと、言いますからっ……」

一体何を言おうと言うのか。
咲夜に、私が納得できるような口実をでっち上げられるわけがないのに。

「わ、私は……」

言えるはずがない。
さっきも言った通り、咲夜と私は主と従者でしかない。
ただの主従関係だ、それ以上でもそれ以下でもない。
そんな咲夜が、私とフランの問題にどう関係してくるというのか。
実は生き別れの姉妹でした、なんて下らない冗談を言うわけでもあるまい。
ただの人間がそんな巫山戯たことを言おうものなら、この場で首を噛みちぎって殺してやる。

「……っ」
「言えないなら、さっさと片付けて部屋から出て行きなさい。
 それから……今日はゆっくり休むといいわ、やっぱり疲れてるのは咲夜の方なのよ。
 今日のことは全部咲夜の気のせいだった、それで終わ……」
「……き、だから……です」
「ん、何?」
「好き、だからです……」

……好き?
何を言い出すのかと思えば。
好きって、誰が、誰を?

「お嬢様のことが、好きなんです。愛して、います」

今度は私に逃げ道すら与えないように、はっきりと告げる。
好きなのは、私だと。
従者として”好き”なわけではなく、愛していると。

「咲夜、貴女……」

言葉に詰まっていたのは、決して屁理屈を考えていたからではなかった。
ただ、その言葉を口にするのが怖かったから。
今の私には、その言葉をなかなか口にすることが出来なかった咲夜の気持ちが痛いほどわかる。
「好き」だと、「愛している」とフランに伝える勇気が、私には無かった。
咲夜と私が過ごしてきた時間よりも遥かに長い時間、フランと一緒に過ごしてきたはずなのに、私は一度たりとも伝えることが出来なかったのだ。
一度でもそれを言葉にできていたら、私とフランの関係は変わっていたのだろうか。
今となってはそれもただの負け惜しみにすぎない。
私には出来なかった、それが結果なのだ。決定事項は揺るがない。
だがしかし、私には出来なかったそれを、咲夜は今やってのけた。
拳を力いっぱい握って、見てわかるほどに体を強ばらせながら。
そんな必死な咲夜の姿を見て、私は初めて――彼女に、従者以上の感情を抱いた。
それは「好き」とか「愛している」なんて大したものではなく、謂わば種のような些細な物。
しかし、今まで咲夜に対して感じたことのなかった、確かな変化であった。

「だ、だから……関係あるんです。
 私の好きなお嬢様は、いつだって諦めなかったから。
 いつも何とも思っていないような顔をしているのに、本当は一途で、一所懸命だったから!」
「……」
「お嬢様が私に興味がないことはわかってます。
 好きだとは言いましたけど、恋人になろうだなんてこれっぽっちも思っていません。
 だけど、お嬢様には幸せになって欲しいんです。
 私にはお嬢様を幸せにすることは出来ないけれど、お嬢様を幸せにできる誰かが居るのなら、その人と一緒に居られるようにお手伝いがしたいって、そう思ったんです!」

今まで咲夜がなぜここまで私に尽くしてくれるのか、疑問に感じたことは何度でもあった。
大した見返りは与えていないし、心から慕われるような何かをしたつもりもない。
お世辞にも私の性格が良いとは自分自身でも思わないし、咲夜に無理難題を押し付けたことだって一度や二度じゃないはずだ。
嫌われる理由はあっても、好かれる理由なんて無かったはずなのに。
だけど私は、その理由を深く考えることはなかった。
理由が何であろうが、私に尽くしてくれるのなら都合がいい――その程度にしか考えていなかった。
私はなんて過ちを犯していたのだろう。
ずっと前から、報われない恋の辛さに苦しんでいたのは私だけじゃなかった、私の最大の理解者は咲夜だったのかもしれない。
咲夜が私に尽くしたいと思う気持ちは、私がフランにクッキーを作りたい、そう思った気持ちと一緒だったんだ。
相手に何かを与えたい。
相手に笑って欲しい。
幸せになってほしい。
つまりは、相手のことを好きな気持ち。
例え相手が他の誰かのことを想っていても、自分のほうを見ていないと気付いていたとしても、それでも幸せになって欲しいと願う、強い気持ち。

「そう、だったの。
 貴女が私のことをそんな風に想ってくれていたなんて……全然気づかなかったわ」
「可能な限り、隠してきましたから」

私はフランのことが好きだった、咲夜はそれを知っていたから自分の気持ちを隠していたのだろう。
咲夜はあっさりと言ってのけたが、簡単にできることじゃない。
隠し通す想いが強ければ強いほどに、咲夜は大きく傷ついていく。
一緒に居る時間が長いのならなおさらだ。
咲夜は常に私のそばに居てくれた、私が咲夜に与えた傷の大きさは計り知れない。
でも……だとしても、私は咲夜のことを急に好きになれるわけではないし、私の意思が変わるわけでもない。
気持ちは嬉しいが、やはり今の私と咲夜は主と従者でしかないのだ。
私の心は、これぐらいじゃ動かない。

「でもね、もう決めたことなのよ。
 咲夜が私のことを想ってくれていたとしても、私が意思を変えることは無いわ。
 これ以上フランを追い続けても無駄なだけ」
「そ、そんなっ」
「フランには魔理沙っていう相手が居るんだもの、仮に私が諦めずにフランを自分の物にしようとするのなら、私は二人を引き裂かなければいけないことになるわ。
 そうなった時、間違いなくフランは傷つくでしょうね。
 万が一失敗するようなことがあれば、私とフランは姉妹という関係すら失ってしまうかもしれない。
 そんなことをするぐらいなら、私が身を引いて諦めたほうがずっとマシよ。
 だから、私は諦めるの。
 ……今まで心配してくれてありがとう、さっきは思わず怒ってしまってごめんなさい。
 諦めたとは言っても、やっぱりフランのことになると冷静になれないのよね」
「お嬢様……」

反抗には反抗で返せるが、感謝の気持ちには反抗では返せない。
私が諦めた理由もきっちりと説明した。
これで更に食い下がってきたらいよいよ実力行使しか無いかと思っていたけれど、どうやら杞憂で済んだらしい。
さすがの咲夜も、これ以上の追求はできないようだ。

「正直なことを言うとね、まだ完全にショックから回復できたわけじゃないのよ。
 ずーっと長い間片思いしてきたわけだし、そんな簡単に忘れられるわけがないわ」

私の片思いは、咲夜が私を想ってくれた時間よりもずっと長い。
恋心は心の隅から隅まで根を張っていたのだ、それを急に引っこ抜かれたらどうなるか、想像するのは難しくないだろう。
今の私は、穴ぼこだらけのがらんどう。
少し風が吹いただけで飛ばされてしまいそうなほどに軽い。

「咲夜の言う通りだったわ。
 きっと私は疲れてる、今だってきっとひどい顔してるんでしょうね。
 恋のことなんて忘れたんだって必死に自分に言い聞かせてたんだけど、本当は無理してただけなのかもしれないわ」
「何か……何か私にできることはありませんか? お嬢様の傷を癒やすために、少しでもお手伝いしたいんです」
「気持ちはありがたいけど、そう簡単に癒える傷じゃないの。どうやって癒やせばいいのかもよくわからないし」

私の初恋であり、私の初失恋でもあるわけだ。
きっと、立ち直るまでにはかなりの時間を要するだろう。
まずはぽっかりと空いた心の穴を何かで埋めなければならないし、埋めたものが馴染むまでさらに長い時間を要する。
何で埋めたらいいのか、どうやったら埋まるのか、全て手探り状態。
考えるだけでも気が滅入ってしまいそうだ。

「もう見てるだけなんて嫌なんです。
 私の想いは全部お嬢様に伝えてしまいましたから、この際隠すものなんて何もありません。
 好きです、好きだから苦しいんです、お嬢様が苦しんでいるのを見ていると私も苦しくなるんです。
 だから私にも何か手伝わせてください、お嬢様のために私にできること、何か教えてください!」
「だから方法なんて思いつかないって言ってるのに……」

いつもの冷静な咲夜らしくない、理屈を無視した実に熱い主張だった。
私も思わず赤面してしまう程にまっすぐで、純粋な私への好意。
例え私が咲夜に対して特別な感情を抱いていないとしても、これでうれしくならないわけがない。
一度想いを伝えたからか、今日の咲夜はやけに大胆だ。ここまで言われると逆に遠慮する方が申し訳ない。
私の傷を癒やすために、咲夜にできること。
傷を癒やす、穴を埋める。
失った体はどうやって補えばいいのか、代用品が必要だ。
掘った穴はどうやって埋めればいいのか、空いた穴の分の土が必要だ。
こんな単純な方法でいいのかわからないけれど――合理的な答えを、一つ見つけられた気がする。
これなら咲夜だって満足してくれるだろうし、私の傷だって癒せるかもしれない。まさに一石二鳥だ。

「ふぅ……そうね、それじゃあ、咲夜に提案があるのだけれど」
「はい、私にできることでしたらなんでも協力します」

もしかすると、私はとんでもないことをしようとしているのかもしれない。
いや、もしかしなくてもそうだ。そうに決まってる。
一言で言えば、馬鹿げている。
傷を癒すために、それは確かに単純で、簡単で、合理的な方法だ。
だけどその方法は、下手をするとまた同じ傷を負ってしまうかもしれない方法なのだ。
でも――もし、誰かに喜んで欲しい、笑って欲しいと願う気持ちが”好き”とか”愛”と呼ばれる感情だとするのなら、私が今、咲夜に幸せになって欲しいと願うこの気持ちは、間違いなく愛なんだと思う。
昨日まではゼロだったかもしれない、けれど咲夜の告白を聞いて、私のために必死になってくれる姿を見て、ほんの少しだけ私の気持ちが揺らぐのを感じた。
それが種、恋の種だ。
言い換えれば予感のような物。
まだ恋と呼べる物ではないし、成長するかもわからない。
だけど、もしその気持ちが芽吹くのなら、一緒に私の傷だって癒えるんじゃないだろうか。

「私ね、新しく恋をしようと思うの」
「こ、恋……ですか?」

なんでもする、と宣言した咲夜も、さすがに私のこの提案は想像できなかったらしい。
私自身も、いくらなんでも急すぎるとは思っている。
けれど、咲夜を傷つけず、私も傷を癒せる方法がこれしか思いつかなかったのだ。
一石二鳥の方法を試さない理由は無いし、ここで悩んでたって前には進めない。
咲夜が勇気を出して私に告白してくれたように、私もありったけの勇気を絞り出して、咲夜に伝えよう。

「ええ、恋で負った傷は恋で埋めるのが一番だと思わない?」
「確かに、そう言われればそうかもしれませんけど……その、私は相手を探すのを手伝えばいいのでしょうか」
「ふふっ、まさかそんなわけはないわ、私が咲夜にそんな酷いことをすると思った?」
「そ、そうですよね……ちょっと驚いてしまいました。
 それでは、一体私は何をすればいいのでしょう?」
「何って、単純なことじゃない」
「単純、ですか?」
「咲夜が……私の相手になればいいのよ」

ああ……言った。言ってしまった。
咲夜は私の言葉を理解できないのか、首を傾げながらきょとんとした表情で私の方を見ている。
しばし沈黙が続く。
まるでゼンマイの切れたおもちゃのように動かない咲夜だったが、ようやく脳にまで私の言葉が達したのか、傾いていた首が少しずつ起き上がっていく。
そして頭がちょうど十二時の角度に達した時、

「え、え、えええええええぇぇぇっ!?」

絶叫が私の部屋に響いた。

「い、いや、待ってくださいお嬢様っ、だって、お嬢様は妹様のことが好きで、私のことなんて何とも思って無いはずじゃっ!
 そうだっ、そもそも私とお嬢様は女同士ですしっ! 女同士が、そんな、急に、こ、ここ、こここ、恋人なんてっ!!」

女同士がどうこうなんて、今更何を言っているのか。咲夜の方から私に告白したくせに。
それにしても、慌てふためく咲夜というのもなかなかに新鮮だ。
さすがに、恋をしたいと伝えるのは私も恥ずかしかったが、咲夜のこんな姿を見れるのなら恥をかいた甲斐があるというものだ。

「女同士なんて些細な問題よ」
「で、ですがっ!」
「でも……そうね、確かに咲夜の言う通りだわ。
 今の私は咲夜のことが好きなわけじゃないし、フランのことを忘れたわけでもない。
 フランのことはしばらくは忘れられないだろうし、フランと魔理沙が仲良くしてる所を見る度に傷つくんでしょうね。
 仕方ないわ、失恋ってそういう物だし、元を正せば妹なんかに恋をした私が悪いのだから」
「じゃあ、なんで急に私となんて……」
「私だって、いつまでも過去にしがみつくつもりはないの。
 だけど、次の恋なんていつできるかわからないし、好き好んで吸血鬼に近づいてくる奴なんてそうそう居ないわ。
 だったら、一番近い咲夜を頼るのが合理的だと思わない?」
「近いから? それだけ……ですか?」

あまりに短絡的な私の話に、咲夜の肩を落としてがっかりしている。
見方によっては、飼い主に捨てられた犬に見えないことも無い。
耳が生えていたら、きっとしなだれているはずだ。
しょんぼりしている咲夜も、これはこれで可愛いわね。

「まさか、それだけの理由で咲夜を選んだわけじゃないわ。
 とはいえ、胸を張って言い切れるほどはっきりとした根拠があるわけでもないんだけれど。
 簡単に言えば、直感よ。
 なんとなくだけどね、これからずっと一緒にいれば、咲夜のことが好きになれるような気がしたの」
「お、お嬢様が……わ、私の……ことを、ですか……?」
「貴女以外にこの場に咲夜は居たかしら?
 それにしても、今まで見たこと無かったけど……ふふっ、咲夜の慌てた顔、結構可愛いのね」
「あわわわ……! そ、そんな、お嬢様が私のことかわいいだなんてっ……ああ、夢みたい……いや、夢なのかしら……」
「もぅ、いくらなんでも大げさよ。この程度ならいくらでも言ってあげるのに」

”夢みたい”だなんて、そこまで言われると私の方が照れてしまう。
けれど、それは咲夜が夢に見るほど私のことを想ってくれている、という証拠でもある。
人を想うのもいいけれど、人に想われるのも悪くない。
誰かに想われたい、想ってくれる人を想いたい、両思いになりたい。
この気持ちが今の調子でどんどん大きくなれば、私の傷が埋まる日もそう遠くないのかもしれない。

「とはいえ、私が咲夜のことを好きになれるかどうかは咲夜次第よ。
 今まで通りにやってたんじゃ、従者と主の枠は超えられないでしょうね」
「今までと、違うやり方……ですか」
「そうよ、咲夜はこれから私の隣で一緒に歩いて行かなくちゃならないんだから。
 今までみたいに、私の後ろを歩くだけじゃだめなのよ」
「私なんかがお嬢様の隣を歩いて、いいのでしょうか……」
「私が許可したの、むしろ命令してもいいぐらいよ」
「ありがとうございますっ」

いちいち細かいことで喜ばれると、こっちまで嬉しくなってしまう。

「あ、あの……お嬢様、私からも一つ提案があるのですが」
「何かしら?」

今の咲夜は大胆になっている、ろくでもない提案をしないといいけど。

「えっと、その、隣を歩くとき……手を握ってもいいでしょうか」

どうやら心配は空振りだったようだ。
実を言うと、キスとかハグとか要求されるんじゃないかと、ちょっと期待していたのだけれど。
もちろんそんなことを言ってきたら、平手打ちで一蹴するつもりだったんだけどね。
それにしても、手を繋ぎたい……か。
私にはよくわからないけれど、人間たちは互いの想いを確かめるとき、手を握り合うことがよくあるらしい。
握手ぐらいなら誰とでもしているじゃないか、と私は思うのだけれど、咲夜がそれを恋人に至るまでの第一歩として考えているのなら、それに乗ってみるのも良いだろう。

「それぐらいなら良いわよ。
 いきなりキスしたいとか言ってきたら、平手打ちをお見舞いするつもりだったけど」
「ふふふ、さすがに私もそこまでは大胆にはなれません。
 そういう行為は、お嬢様が私のことを好きになってくれる時までとっておきます」
「そうね、まだ始まったばかりだもの、今はこれぐらいがちょうどいいのかもしれないわ」

私は咲夜の手を取ると、指と指を絡め、手のひらを合わせるようにして握りしめる。
咲夜は戸惑いながらも、おずおずと私の手を握ってくる。
私の手が咲夜よりも小さいのはわかりきったことではあるけれど、こんなにも差があるとは思わなかった。
今まで手を合わせたことなんてなかったし、気づかないのも当然なのだけれど、これじゃあまるで子どもと大人じゃないか。
もっと大人な相手だっていたろうに、なんで咲夜は私のことを好きになったのだろう。
わからない。
これだけ近くに居たのに、手の大きさはおろか、咲夜が何を考えているのかもこれっぽっちもわからない。

「私ね、咲夜の気持ちを今日初めて知ったわ。
 実は恥ずかしがり屋なことも、冷静と思ってたのに実は可愛いところがあるんだってことも、こんなにも手が大きいってことも、今日初めて知ったの」

たぶん、咲夜が知っている私の情報よりも、私が知っている咲夜の情報は遥かに少ない。
咲夜は私の気持ちにも気付いていたし、手の大きさどころか、体の寸法だって全部把握しているだろう。
知らないのは私の方ばかり。

「今、私は咲夜のことを知りたいと思っているわ。
 咲夜のことをもっと沢山知って、好きになるか嫌いになるかはわからないけれど、好奇心は確かに咲夜の方を向いているの」
「お嬢様が私に興味を持ってくれるなんて、こんなに嬉しいことはありません」

今のことだってわからないのに、先のことなんてわかるはずがない。
今日はただのスタート地点であって、この先本当に咲夜と私が恋人になるかどうかなんて、その時になってみないとわからないのだ。
それどころか、明日のことだって、一秒後のことだって私にはわからない。
運命は、そんな細かい未来まで指し示してはくれない。
それでも、未来予知はできなくとも、予想ぐらいはできるはずだ。
はっきりとしていることは、一つ。
咲夜が私を想う気持ちはずっと変わらないということ。
誰かに無償で尽くすほどの強い想いなのだ、そう簡単に変わられちゃ私の方が困る。
だから確信している、咲夜はいつまでも私のことを好きで居てくれることを。
はっきりとしないことが、一つ。
私が咲夜のことを好きになれるかどうかということ。
咲夜のことを好きになりたいとは思っている、だけどこの感情は愛とも呼べないし、恋とも呼べない。
まだそれよりも前の段階だ。
こうして咲夜の手を握っていると、ほんの少し気持ちが高まる気がする。
咲夜を好きになれば、この感覚はもっと強くなるのだろうか。

「私は貴女を好きになりたいの。
 だから頑張ってね、期待してるわ」
「はい、絶対にお嬢様を振り向かせてみせますっ」

私はこの気持ちが、このまま成長して欲しいと願っている。
恋になって、愛になって、フランのことも笑って祝福できるようになればいいと、そう願っているのだ。
きっとその時、私は幸せになれるはずだから。

……ま、それもこれも全部、これからの咲夜次第なんだけどね。
はじめまして、kikiと言います。どこかで見たことある人はお久しぶりです。
ふとした時に思いついた百合妄想をそのまま書きなぐったような話です、楽しんでもらえれば幸いです。
kiki
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.550簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
失恋の傷は新しい恋で癒す
失恋相手がすぐ近くに居るしなかなか難しそうだけど、レミリアには頑張って貰いたいですね
いいレミ咲でした
3.100名前が無い程度の能力削除
こういう話は大好きです
初々しい二人の未来に満点を
6.90奇声を発する程度の能力削除
良いですね
11.100名前が無い程度の能力削除
いい話です