Coolier - 新生・東方創想話

下賤な妖怪

2014/02/18 00:15:02
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長い縦穴を落ちていく……
射し込む光が徐々に小さくなっていくのを見ながら、地面まであとどれくらいだろうかと考える。
このまま落ちれば、私は消えるだろうか。
……いや、消える事はない。痛い想いをするだけだろう。
気を取り直して体制を整える。これ以上痛い想いをするのはごめんだ。

それにしても、今日は驚かされてばかりだった。
久しぶりに人間が現れたかと思えば、それは今まで出会った誰よりも強く、そして何者にも縛られない心をもっているように思えた。

「強い人間……」

__嫉ましい

「きっと彼女は苦い想いをした事もなく、誰かを妬んだ事なんてないんでしょうね」

__嫉ましい

「もしもあの子が嫉妬に囚われたら……」

……想像しただけでゾクゾクと震える。
身体の奥底から湧き上がるこれは、我が身も焦がす嫉妬の炎。
こんなに強く暗い感情は今までにも数えるくらいしかない代物だ。
「アぁ……なんだかとても……」
両腕で自分を抱きしめる。
この感情がどこかにいってしまわぬように、強く、強く。
ルールも、勝負も、役割も、どうでもいい。
この炎が、消えないうちに。
心を焼き尽くしてしまう前に。

「……お腹が空いちゃったわ」







旧都、歓楽街


あの人間を追って探しにきたのだが、ずいぶんとわかりやすい目印を見つけて立ち止まる。
街の一区画が派手に吹き飛んでいたのだった。
クレーターの中心では、見知った顔が一人酒宴を開こうとしていた。

「ずいぶんとご機嫌ね」
「おぉ、パルスィじゃないか。珍しいねこっちに来るなんて」
「人間を探してるの」
「なんだい、パルスィも会ってたのか」

間違いない。勇儀もあの人間と闘って、その結果がこの街並みだ。

「勇儀も会ったのね。それで、あの人間は?」

もしかすると、勇儀に殺されてしまったのだろうか。
そうすると、この想いは誰にぶつけるべきだろうか。
不意にそんな事を考えてしまう。

「人間なら地霊殿に向かったよ。温泉と怨霊がどうとか言ってたねぇ」
「なんだ……でも、そう、さとりの所に……」

安心したが、しかし……さとりは苦手だ。
あれほどの御馳走を前にしても、さとりには関わりたくない。
アレは、駄目なのだ……
特に、今の私の様な嫉妬に駆られている状態では。


「パルスィもあいつ等が気に入ったのかい?」

どうするかと思考を巡らせていたが、話しかけられて意識を戻した。

「……えぇ、とても」

それはもう、食べたいほどに。

「でも、もう一人の方……使い魔かしら?あれは気に入らないわ」
「もう一人っていうと……萃香の事か」
「あら、知り合いなの?」
「あれは使い魔なんかじゃないさ。私の仲間の、鬼だよ」

生まれ持っての絶対的強者。
あぁ、なるほど。だからアレはあんなにも……
あれには嫉みを通り越して別の感情が生まれてしまいそうだ。

「……私はアレに、『下賤な妖怪』だと蔑まれたわ」
「はッ……鬼なんて元を辿ればほとんどは、人の心から生まれたようなもんなんだが……萃香はあれでプライドが高いからな」

仕方ない奴だと軽く笑いながら言う。

「私という鬼はね……強く、強く、ただひたすらに強く在りたい。他の全てを捨ててまで。。。そんな、人の道を外れた、でもある意味で純粋な、人の心の結晶なんだ」
「……パルスィは、嫉妬に己を喰われて人がそのまま鬼と化してたモノだろ?」
「同じようで少し違う。純度の違いか……天然モノと人工モノの違いみたいなもんかね」

勇儀は語る。
こんな身の上話をされるのは初めてである。
よほどあの人間との勝負が面白かったのか、稀にみる上機嫌のようだ。

「で、お前さんはあの人間をどうするつもりだい」
「……もちろん、嫉妬で焦がして美味しくいただくつもりよ」
「そいつは困るね。あんなに面白い人間にゃそうそう巡り会えないんだ。食べられちゃ私の楽しみが減っちまう」
「私だってこのままじゃ、内から焼かれておかしくなってしまいそうなのよ」
「そりゃ困ったもんだね……」

一拍置いて、勇儀が言う。

「あー……私じゃ駄目かい?」
「は?」
「私の心じゃ、代わりにならないかって」
「……」

勇儀の心。
それは確かに、あの人間と比べても遜色ない、いや、あの人間より純粋なその心はとても美味しいかもしれないが……

「……なら聞くけど貴方、あの人間に負けて嫉妬した?」
「いんや、むしろスカッとしたね!面白い勝負ができて気持ち良かったよ」

心の底からそう思っているのだろう。勇儀はそんな顔をしていた。

「ほら、貴方全然嫉妬しないじゃない。それじゃ焦がしようがないわ」

それを見て、言いながら呆れて不意に笑みがこぼれてしまう。

「むぅ。じゃあ、お前さんの腹の中のその嫉妬、そのまま食べちゃったら駄目なのかい?」
「別にこのまま消化もできるけど、すぐそこに美味しそうな人間がいるのよ?嫉妬は調味料みたいなモノ。味噌をそのまま舐めるより、それを使って調理した方が美味しいに決まってるじゃない」
「んー……そこを我慢しとくれよ。私に免じてさ」

そう言って杯に残っていた酒を一気に飲み干し、また溢れんばかりに注ぐ
そうして私に『すべて呑め』と、グイっと突き出してくるのだ



「……ずるい」

勇儀と話していると、私の中の火が揺ぐ。
あれだけ大きくなっていた嫉妬が少しずつ霧散していくのがわかる。
私は無意識に、勇儀に嫉妬しているんだ。
でも勇儀はその炎に焼かれてくれない。
全て受け止めたうえで、変わらずそのまま私を見てくれる。
同じ鬼でも、萃香とかいう鬼とはずいぶんと違うものだ。
__もちろん、私とも



「……当然、介抱までしてくれるんでしょうね」

そう言って私は杯を奪い取り、一気にそれを飲み干した。
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コメント



0.370簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
パルスィもたいがい不幸の星の下に生まれた妖怪です。嫉妬した、食べたいー、でも食べられない。嫉妬するような相手だから必然的に格上になってしまうという。
2.70名前が無い程度の能力削除
そのまま霊夢に向かうパルなIFストーリーかとちょっと期待したw
3.80奇声を発する程度の能力削除
このパルスィ良いね
7.90名前が無い程度の能力削除
嫉妬で焦がして美味しくいただきたい、なんて良いですね
橋姫らしいパルスィです
10.100名前が無い程度の能力削除
つまりこの後介抱ついでに勇儀がパルスィさんを美味しく頂くんですね?
11.90名前が無い程度の能力削除
これは素敵な地霊殿アフター