Coolier - 新生・東方創想話

或る冬のこと

2014/02/07 00:44:18
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 幻想郷は多種族で構成されている世界である。故に力の弱い者はその理の餌食となる事が多い。



「姉さん知ってる? 木材屋の喜八っつぁん死んだって」
「あら、病か何か?」
「山で妖怪にやられたんだって」
「……そう、残念ね。彼は腕も良かったし、お世話になってたのに」

 そんな彼女に静葉が言葉をかける。

「穣子。あなたが気に病む事ないわ。仕方ないのよ。人と妖怪が共に暮らしてる限りこういう事が起きるのは避けられないんだから」

穣子は顔を下げたまま静葉に言い返した。

「姉さんはそうやって割り切れるからいいわよ……だって私は……」

静葉の言葉が遮った。

「穣子の思いはよく分かるわ。あなたが人に近い神として、気を遣ってしまいがちなのもね」

穣子は再びため息をつくとそれっきり黙りこんでしまう。外の吹き荒れる風の唸りだけが辺りに響いていた。

暫くして穣子が一言つぶやいた。

「……腑に落ちないのよ」

静葉は残ってるお茶を全て飲み干すと穣子に尋ねる。

「まさか復讐でもする気?」

穣子は直ぐ様、首を横に振った。

「違う。そうじゃなくて」
「って言うと?」
「……なんて言うかな。私は人の考えてる事はまぁまぁそれなりにわかるのよ。きっと普段から交流があるからだろうし、人間に近い神様だって自覚もあるからだと思うんだけど。でも、妖怪の考えてる事はどうもいまいちわからないのよ。なんかいつも的が外れちゃうっていうかさ……」
「へえ……」

静葉は普段と変わらない笑みを浮かべたままだったが内心驚いていた。まさか穣子がそんな事を考えているとは思ってもいなかったし、特に他の妖怪達とわだかまりがあった様子も見受けられなかったからだ。

静葉は思わずふうむと言った具合に腕を組み、考える素振りを見せた後、穣子に問いかける。

「じゃあ、例えば、にとりとかはどうかしら」

にとりはよく遊びに来ている河童である。少々癖はあるが、人懐っこくて二人の家にもよく遊びに来ていた。そんな彼女だが、河童であると言う以上、れっきとした妖怪には違いない。

「あの子ねぇ~……」

穣子は、恐らく彼女のことを思い浮かべているのだろう。視線を泳がせながら問に答える。

「うーん……そうねー。あいつは悪い奴じゃないってのはわかるんだけど……やっぱり何考えてるかわからない時があるわ。なんて言うか妖怪特有の得体の知れない感じってのかな。姉さんはあいつと一緒にいて思わない?」
「ふむ……そうね。気にした事もなかったけど、私は逆にあの子は他の妖怪よりも人間臭い部分がある気がするわね。なんだかんだ言ってあの子は妙に人情味があるし、なんか憎めないのよ。もしかすると、小さい頃から人間に接したりしていたのかもしれないわ」

静葉の言葉を聞いた穣子は、何やらぶつぶつと独り言をつぶやいていたが、急にすっと立ち上がると入口の方へと向かう。驚いた静葉が彼女に聞いた。

「穣子。この寒い中どこか行く気?」
「うん。ちょっと妖怪観察に」

その言葉を聞いた静葉は暫く穣子の顔をじっと見つめていたが、ふっと笑みを浮かべると彼女に告げる。

「……そう。凍え死なない程度に戻って来なさいね」

静葉が特に呼び止めもしなかった事を不思議に思いながらも、穣子は一人冬の山へと向かった。


 山は既に冬の気配で満ち溢れていた。ほんの数週間前までは木々は綺麗に色づき、そこら中に木の実がたくさん転がっていたのだが今はもうその面影は殆ど無く、荒涼とした冬の山の様相を呈していた。かろうじて木ノ葉かぶりが地面から顔を出しているくらいだ。

「……にとりみたいな懐っこい妖怪じゃなくて、人に接した事なさそうな奴が対象よね。ようするに弾幕ごっこも出来ないような下等な妖怪って事か」

穣子は一人ごちると、辺りを見回す。
寒気を帯びた風は予想以上に彼女の体を蝕んでいく。褐色になり果てた枯葉が彼女の周りを渦を巻くように飛び交っている。そんな中でも彼女は妖怪を探し続けた。

何が彼女をここまでにさせるのか、それは穣子自身にもよくわからなかった。
よくはわからないが、このままでは収まらないものが彼女の心の中にあるのは間違いなかった。

その時、突如目の前に黒い影が舞い降りる。穣子は思わず身構えたがその影が知った顔だと気づくと彼女は警戒を緩めた。

「おやおや。誰かと思えば、穣子さんじゃないですか。こんな寒風の中何をしてるんです?」

その正体は烏天狗の文だった。
彼女も秋姉妹の家によく遊びに来ている妖怪だ。しかし新聞記者という肩書きである以上、おそらくにとり以上に人間に近い妖怪だろう。彼女が『里に最も近い天狗』という二つ名を持っている事からもそれはうかがえる。

「静葉さんは一緒じゃないんですか?」

穣子は文の言葉に対しふるふると首を横に振った。それを見た文は団扇で口元を隠すような仕草をする。彼女は何かとこのポーズを取る事が多い。

「……ふむ、何の理由があるにせよ、こんな所にいたら凍えてしまいますよ。私の家で温まっていかれてはどうですか?」
「せっかくのご好意だけど遠慮しておくわ」
「ふむ、そうですか。それならば仕方ありませんね。せいぜい凍りつかないように気をつけてくださいね。それでは」

そう言って一礼すると文は、何やら面白くなさそうな顔をしながら穣子の前から姿を消してしまった。
それを見届けると穣子は思わず「ふう」と息をつく。

穣子にとって文は、にとり以上につかみ所のない妖怪でもあった。
静葉はよく彼女を利用しようとしているが、そんな狡猾さなんて穣子は持ち合わせていない。姉がいない状態で彼女に逢う事はなるべく避けたかった。故に穣子は彼女をまくためにそっけない態度に徹したのだ。

それから暫くの間、穣子は山の中を彷徨った。空はだんだん薄暗くなり、風の冷たさも度を増してきている。寒風に吹きつけられた体は、すっかり血の気が失せてしまった。それでも彼女の頭の中には家に帰るという選択はなかった。


 夕刻に差し掛かった頃、不意に草をかき分けるような音が彼女に耳に聞こえてくる。風で舞う枯葉の音とは明らかに違う音だった。
穣子が息を潜めてその音の方へと近づくと、この場には不釣り合いな紫色の肌をした、見るからに下等そうな妖怪の姿があった。その妖怪は充血させた眼をキョロキョロとさせながら辺りの様子を伺っている。

思わず穣子はしめた! とばかりに笑みを浮かべる。この妖怪は間違いなく人とは繋がりがないだろう。こいつの動きを観察していればきっと少しは妖怪の事が理解出来るかもしれない。
穣子は妖怪にばれないようにうまく気配を隠し、背後に回った。

妖怪は穣子に観察されてるという事に気づいていないらしく、草むらを出ると山道をゆっくり降りていく。一見、爬虫類のように見えるがこの寒風の中でも平気なところを見るとどうやら違うらしい。

やがてその妖怪は里の近くまで来ると岩場に身を潜めた。一休みかと思って穣子がそっと近づいてみると、なんと妖怪はその場でいびきをかいて眠りこけていた。

(ちょっと……こんな寒い中でどうして熟睡する事が出来るのよ)

やはり妖怪というのは色々違うんだなというのを実感しつつ彼女は寒風を避けるために身をかがめた。

それから妖怪はいっこうに起きる気配がなかった。辺りはもうすっかり暗くなり、寒さも厳しくなっている。流石に限界を感じた穣子は、諦めて家に帰ろうと思い始めていた。しかし、ここまで来て収穫がなしというのも納得がいかない。家に帰ってしまうと今までの苦労が全部無駄になってしまうのだ。果たして帰るべきか、ここに残るべきか、と彼女が悩んでいたその時だ。

今までぐっすり寝ていた妖怪が突如むくりと起き上がったかと思うと辺りをきょろきょろと見回し始める。

しまった。自分がいるのがバレてしまったのか。と、穣子はしぶしぶ迎撃準備に入るが、妖怪は穣子には目もくれずに里の方へと進み出す。慌てて穣子は妖怪を追いかけた。

妖怪はずるずると地をはうように進む。ふと前の方にふらふら揺れる明かりのようなものが見えた。穣子がよく目を凝らしてみるとそれは提灯の明かりだった。どうやら村人の誰かがこんな暗い中外へ出てきているらしい。そして妖怪はどうやらその村人の向かって進んでいるように見えた。

(暗闇の中に村人と下等妖怪、この組み合わせは……)

最早彼女には最悪な結果しか思い浮かばなかった。妖怪は村人へと音もなく近づいていく。
村人は依然として妖怪に気づく様子はなかった。それから少しもしないうちに男の張り裂けるような悲鳴が辺りに響く。

「……!!」

その悲鳴を聞いた穣子は、とっさに弾幕を妖怪に向かって放った。弾幕は妖怪の顔に直撃し、妖怪は苦しそうにその場をのたうち回ったのちやがて微動だにしなくなった。その間に村人の男は脱兎のごとく村へと姿を消してしまった。

「あ~……やっちゃった」

穣子は、妖怪の亡骸に触れてみる。まだ生暖かく、すぐにでも目を開けて動き出しそうな様子であった。いくら止むを得ない状況だったとは言え、やっとの思いで見つけた観察対象を自らの手で殺めてしまった事を彼女は悔やんだ。
気持ちが沈んだせいか、はたまた無理して弾幕を放ったせいなのか、さっきよりも一層彼女の体に負担がかかる。穣子はやっとの思いで足を動かし住処へと進み始めた。


 気がつくと穣子は布団に寝ていた。しかもそこは自分の家ではなく、あまり見覚えのない場所だった。思わず彼女は布団をはねのけるように体を起こす。

「おや、起きましたか?」

彼女が声の方を振り向くと、そこには湯のみが乗ったお盆を抱えている文の姿があった。一体どういう事なのかわからなかった穣子がなんとも言えない表情をしていると文が告げた。

「穣子さん倒れていたんですよ。山の中で。だから勝手ながら私の家まで運ばせてもらいました」

ようやく状況を理解した穣子は、再び布団に倒れ込む。

「静葉さんには伝えておきましたから今夜は嫌でも泊まっていってください」

そう言うと文は穣子の枕元に湯気の上がっている湯のみを置いた。しかし穣子はそっぽを向いて寝そべったまま動こうとしなかった。

「さて、穣子さん。一体何をしていたのですか? あんな寒い中たった一人で」
「……あんたには関係ないわよ」

文の問いかけに穣子はそっぽを向いたままぶっきらぼうに答える。すると文は呆れたような表情をしながら彼女に言う。

「おやおや、困りましたね。せっかく助けてあげたというのにその言いぶりはないでしょう。ましてや私はあなたに一回忠告までしていたんですよ? 流石に無関係とは言わせませんよ?」

彼女があまりにも厭味ったらしく言ってきたので思わず穣子は彼女の方を振り向くと怒鳴りつけた。

「五月蠅いわね! 助けたのはあんたの勝手でしょうが! 私は別にあんたに助けられたいとは思ってなかったわよ!」

穣子はきっと文の顔を睨むが、あろうことか彼女は穣子に笑みを向けてきた。

「やっとこっち向いてくれたわね。さ、そこにお茶があるから飲みなさい」

更に文が急に口調を変えて来たので穣子は面食らってしまう。

「な、何のつもりよ。急に口調なんか変えちゃって……」
「少しでも場の空気を変えたかったの」
「空気?」
「あなた私の事嫌いなんでしょ?」

そう言った文は特に悪びれる様子もないいつもどおりの表情だった。

「別に嫌われる事自体は慣れてるわ。職業柄、どうしても敵は多くなっちゃうもの」
「ふーん。意外ね。あんたからそんな言葉出るなんて。あんたの事だから誰かに嫌われようが気にしないと思っていたわ。天狗ってそういう奴多そうだし」
「……失礼ね。私だって、天狗とか以前に生き物よ。血も涙もない剥製じゃないんだから少しは気にするわよ」

そう言う彼女の表情はどことなく淋しげだった。流石に言い過ぎたかと穣子は思わずバツが悪そうに頬を掻く。

「あー……ちょっと言い過ぎたわね。別にそんなつもりで言ったわけじゃないのよ? ただ、何て言うか……」
「……妖怪観察をしてたんですって?」
「え……?」
「さっき静葉さんから聞いたわ」

そう言って文はにこりと笑みを浮かべる。話題を急に変えられた穣子はあっけに取られてしまうが、言葉に意味を理解すると不機嫌そうに彼女を軽く睨んだ。

「本当嫌らしいやつね。知ってた上でわざわざ私に聞いたわけ?」
「ごめんなさいね。あなたの口から聞きたかったのよ。どういう理由でそんな事をしていたのか」
「そんなの知ってどうするのよ! どーせ、新聞のネタにでもするつもりでしょ?」
「いいえ。今の私は一天狗としての射命丸文よ。記事にしたりはしないわ。純粋に興味があるの。神様が普段どんな事を考えてるか」

そういう彼女の表情は普段よりどことなく柔らかい表情に見える。どうやら記者じゃない姿だということを強調しているらしい。彼女を信用していいのかどうか穣子は迷ったが、不本意とは言え、助けてもらった事に違いはないので結局、彼女に事の顛末を説明することにした。穣子の説明を聞いた文は暫く不思議そうな表情をしていたが不意に一言ぽつりとつぶやく。

「なんだ。結構普通ね」
「へ?」
「神様ってなんかもっと凄い事考えてるのかと思ったわ」

文の言葉を聞いた穣子は、思わずため息を付いて彼女に告げた。

「神様ったって日々の生活ってのがあるのよ。そんなさー。神様だからって森羅万象皆同等うんたらとか小難しい事ばっか考えてるわけ無いでしょ。そういうあんたら妖怪が考えてることだって私からすれば理解出来ないわよ」

文は思わずふうむと言った具合に腕を組み、考えるような素振りを見せる。穣子は同じような仕草をどこかで見たことある気がしたが、思い出せなかった。やがて文が口を開く。

「妖怪の考えていることって言ったって十人十色よ。そりゃまぁ種族や等級によって多少は思考の傾向とかは変わるでしょうけど……あくまでそんなのは本能的部分の話だし。……それに私なんかは職業柄いろんな種族の人と会っているけど、実際そんなに大差はないわよ?」



 数日後、寒風に痛めつけられた穣子はすっかり体を悪くして寝込んでしまっていた。そばでは静葉が呆れた顔で穣子の顔を眺めている。

「……まったく、ばかねぇ。凍りつかない程度に戻って来なさいって言ったでしょ。文があなたが倒れてるのを見つけてくれたから良かったけど、あのままだったら、本当に凍りついてたわよ?」

それに対し穣子は「う゛ー」と言葉にならないうめき声を上げる。

彼女の横には大きな装置が置かれていた。にとり特製のヒーターだ。ヒーターはぐおんぐおんと駆動音を放ちながら穣子たちに温風を送り続けている。おかげで家の中は驚くほど温かい。

「あ、そうそう。そういえば、あなたがやっつけた妖怪。木材屋を襲った妖怪だったらしいわね。」
「ふーん……」

穣子は憮然とした表情を姉に向ける。静葉はいつもと変わらない不敵な笑みを浮かべている。

「……それで、わかったのかしら。妖怪の考えてる事」

穣子は何も答えようとしなかった。静葉は穣子の頭を撫でながら言い聞かせるように告げた。

「穣子。種族が何であろうと何考えてるかわからない奴はわからないのよ。人間にだっているでしょ? それに人間や妖怪からすれば神様の考えてる事は理解出来ないそうだし。そういうことなのよ。妖怪が何を考えていようとそれは大した問題じゃないわ。大事なのはこの幻想郷は妖怪と人間とそして我々神様が存在して成り立っているって事なのよ」

静葉がふと穣子の方を覗き込むと、彼女はいつの間にか寝息を立てていた。静葉は「仕方ないわねぇ」と言いながら布団をかけなおしてやる。

外では寒風が吹きすさみ、その寒風と共に初雪が舞っていた。

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コメント



0.360簡易評価
1.80燕三条削除
ちょっといつもより張りつめた雰囲気の作品でしたね。冬ですから。
3.90名前が無い程度の能力削除
ちょっとマジメな秋姉妹だったな
4.70名前が無い程度の能力削除
穣子と静葉の間で人妖の考え方が全然違いそうでちょっと怖い
皆わからないから「大差ない」のか、「妖怪が何を考えていようとそれは大した問題じゃない」のか
6.80名前が無い程度の能力削除
理解し合えないけれど共存することを選んだのです。やっぱり残酷ですね。
9.80奇声を発する程度の能力削除
こういう雰囲気もまた
10.70とーなす削除
うーん、この結論は、理解はできるけど、胸にすとんと落ちて来ない。
いろいろ引っ張った割には、結局「ふーん」で終わる結論に着地しちゃうのが物足りない感じ。全体的にシリアス然としているだけに、余計にもっと肉厚なものが欲しくなってしまう。