Coolier - 新生・東方創想話

秘封どうでしょう

2014/01/27 16:08:38
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「メリー、見てみてこれ、狐を捕まえたのよ」
「こーん…………」

蓮子に呼び出されて校舎裏側の人気の無い場所。
尻尾を掴み掲げられる狐が居た。

美しい金色の毛並み。シャープな体のフォルム。
小さい顔に高い鼻。どこか理知的な印象を抱かせる鋭い瞳。

「凄いよねメリー、この狐、尻尾が九本もあるのよ!」
「こーん…………」

っていうかこれ、藍だ。

私は即座に妖力会話接続要求を投げ、プロトコルには全二重通信方式を採用。
SYN、SYN/ACK、ACK、コネクション確立。通話開始。音声を使用しない妖力通信だ。

(はぁ!? なんであんた捕まっちゃってんの!?)
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 許してください紫様!)
(ごめんなさいじゃないでしょ! これどうするつもり!?)
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 助けてください紫様!)
(九尾の狐ともあろう者が霊力さえ使えない一般人に! って言うか蓮子に! 何で捕まるのよ!)
(木に油揚げが吊るされていたんです! 長岡でしか手に入らないウルトラ油揚げだったんです!)
(それって蓮子の罠よね?)
(巧妙な罠でした)
(ただの逆さ吊りトラップよね?)
(死に掛けましたよ)
(あなたバカなの?)

「ねね、スッゴク綺麗だよね! 九尾の狐なんてびっくりだよねメリー!」
「まあ、――ええ、そうね。確かに綺麗だけど」

(なんで外界に来てる訳? 幻想郷の仕事はどうしたのよ!)
(天魔様に、紫様を呼んでくるように言われまして)
(寝てたでしょ?)
(はい寝てました)
(この時間は非接続状態だって知ってるでしょ?)
(はい知っています。蓮子様と一緒だという事も知っています)
(蓮子とちゅっちゅするために来てるの、知ってるでしょ?)
(知っています。仕事を放りだしてでも毎日ちゅっちゅしてるのも、知ってます)
(じゃあなんで来たの?)
(だから、天魔様に呼ばれまして)
(何の用件よ! 後にしてって言えなかったの!?)
(……紫様、覚えがある筈ですよ?)
(何を偉そうに! 私の手を煩わせておきながら!)

この間、わずか0.5秒。

「きっとその狐、腹黒いわよ」
「ええ!? なんて!?」
「綺麗だけど、見た目に惑わされちゃダメよ」
「そ、そうなの? なんで?」
「どこかで飼い主の悪口も言ってるかも」
「ちょ、ちょっと、メリーさーん?」

(今日は年末の帳簿締め切りの日です。それで報告書を天魔様に提出したんです。
 そうしたら突っ込まれました。雑費が¥30,000、実額と合わないんですよ)
(え、そうなの。そ、そう。ふぅん。それで、調査をしろって天魔に言われたわけね?)
(違います。調査なら私がしました。あちこち駆けずり回って大変でしたよ紫様)
(あらご苦労様。それで原因は、……分かったのかしら?)
(分かりました)
(流石私の式ね。優秀だわ。今日帰ったら人里で油揚げを買ってあげ――、)
(紫様、白状するなら今の内ですよ。全てわかってるんですからね)
(あら、何が分かってるっていうのかしら? 勘定科目の不整合くらい計算し直せば見つかるでしょう?)
(そうですね。いつも通り“河童皿データセンタ”へ問い合わせて、ログを出力しました。
 1年のレコードを全て抽出してもらって、総数3億レコードにも及びました。
 それを一つずつ調べるわけです。かなりの労働でしたよ)
(藍?)
(なんでしょうか)
(取引をしましょう)
(いいですよ)
(聞き分けが良い部下で助かるわ)

「ねえ蓮子、ところでその狐をどうするつもりなの?」
「そりゃ、ケージを買って家で飼うか、狐鍋にするか、解剖するか」
「可哀そうよ蓮子。離してあげない?」
「えー? だって九尾だよ? 何か特別な“力”があってもおかしくないよ」
「じゃあもし特別な能力を持ってたとしても、蓮子はそれを調べられるのかしら?」
「あ、そうだね。じゃあ国立異能力研究センターに引き渡すのもいいかもね。
 近頃は“能力”の研究も進んでるみたいだし、きっと有益な材料になるよ」
「こーん…………」

(あなたは、私の記録をごまかす。私は、あなたを助ける)
(シンプルでいいですね。私も死にたくないですから)
(で、あなたの調査の結果を聞きましょうか)
(雑費勘定科目が不正に操作されていないかレコードを調べました。その結果、数レコードが見つかりました。
 しかし、全て週次の帳簿整理で、河童のオペレーターさんが操作する時期と重なっていました。
 そのため、週次作業上の操作ミスをオペレーターさんが隠そうとしたものだと。
 それで結果年次締切で不整合が出てしまったと、そう思ったんです。
 事実、結果的にはこれでもつじつまが合います)
(ええ、その後あなたは?)
(私はさらに、その日の入館履歴を調べました。C6F9-G05ラックの開錠履歴を調べました。
 その結果、週次作業の際の時間帯、まさしくそのレコードが発生する時間帯に。
 紫様がピンポイントで、勘定操作DBコンソールであるMDB06を使用していた記録が見つかりました)
(MDB06の操作ログは調べた?)
(はい調べました)
(おかしい所は無かったはずよ)
(はい。紫様は3レコードほどログを参照し、5分ほどでログアウトしています。
 その操作は閲覧アカウントだったので、内部情報に変更はありません)
(じゃあ――、)
(しかし、その時刻に紫様が河童皿DCへ来ていたことは事実です)
(ふふふ、証拠にはならないわ)
(そして私は、当時紫様を見た者はいないか、オペレーターさんに尋ねました。
 オペレーターさんだけでも400人を超えます。ですが片っ端から聞きました。
 その結果、紫様がMDB06へ操作を行った動画が見つかったのです)
(いいえ、おかしいわ。あれはコントロールルームから内部接続で使ったはずよ。
 河童のコマンダさんに掛け合って使わせてもらったの。だから記録は残っていないわ)
(その河童のコマンダさんが、記録を取っていたんです)
(なんと)
(リモートデスクトップを記録する動画ソフトです。
 コマンダさんが自主的に作業証跡を残していたんです。
 ログイン履歴はコマンダで残りますが、口に戸は立てられません。
 あとは簡単です。紫様が操作した履歴から動画を見るだけです)
(やられたわ。さすが河童皿DCね。すばらしい対応だわ)

「うーん、分かったわ。じゃあ蓮子、引き渡す前に私にもその狐、だっこさせてよ。
 見れば見るほど綺麗な毛並みね。顔だって小さい美人さんだわ。
 鳴き声だって綺麗に違いないし、きっと特別なのね。ね? 良いでしょ蓮子」
「いいよ。噛まれない様にね。まあこの子凄く大人しいから心配ないと思うけれど」

(それでちょっとこれは私の興味のために聞きたいのですが)
(ええ良いわよ。なにかしら)
(そこまで操作して手に入れた¥30,000を、何に使ったのですか?)
(そりゃ、蓮子とのデートに)
(は? デート?)
(そそ。こっちの私の財布が寂しくなっちゃってね。それで)
(余ったんですよね?)
(いいえ綺麗に使ったわ)
(1円も残らなかったんですか?)
(うん)
(一日で?)
(ええ)
(結構大金ですよね?)
(まあね)
(一番大きな出費は?)
(宿泊代。そこらのうす汚いホテルは嫌だったの)
(はあ、……お盛んですね)
(素晴らしい一日になったわ)
(……では紫様、軽く腕を噛むので、タイミングを合わせてくださいね)
(ええ、それじゃ、せーのっ)
(せーのっ)

「あイタッ!」
「わ!? 大丈夫メリー!?」
「大丈夫。甘噛みされただけよ」
「傷見せてみなさい。……あら、本当に甘噛みだったのね」
「うん、でも蓮子、狐逃がしちゃったわ。ごめんなさい」
「心配ご無用よ。遠隔操作で電撃を与えるようにしてあるから」
「え? 電撃?」
「うん。薄いチップにスタンガン機能があるのよ。えいっ」
「こおおおおぉぉおおぉぉおおおおおぉぉぉおおおおぉぉぉん!?」
「あっちね。行きましょうメリー」
「え、ええ」

(藍、大丈夫?)
(…………)
(らーん、応答しなさーい)
(…………ピピッ! 接続がタイムアウトしました。NO SIGNAL)
(あらら、電気ショックで気絶しちゃったみたいね)

意識が戻れは接続は回復する為、そのままにして蓮子と走る。
20メートルほど行ったところに白煙を細く上げて倒れる藍が居た。
心なしか金色の毛並みが四方に広がり、フグみたいな見かけになっている。

「ああ、かわいそうに!」
「ちょっと、強すぎたかな」

私は藍を抱き上げ、体に貼られている筈のチップを探した。
だが、見つからない。チップなどどこにも貼られていないのだ。

「ちょっと蓮子! 流石にやり過ぎよ! ひどいじゃない!」
「ご、ごめん、反省する」
「チップはどこに貼ったの!? 取ってあげましょうよ!」
「そんな事言われましても」
「埋め込んだの!? まさか注射器で!?」
「いんや。油揚げに挟んだ」
「え? お腹の中?」
「極小だから、排泄物と一緒に出てくるよ」

(ピピッ! 接続が回復しました。通話を再開します。――う、うう、ゆかり、さま?)
(聞いた藍!? 食べた油揚げにチップが埋め込まれていたの! 吐き出しなさい!)
(うう、イヤ、です)
(どうして!?)
(ウルトラ油揚げを、吐くくらいなら――)
(バカ言ってんじゃないわよ!)
(電撃の方がマシ、です)
(あなたが死んだら私の粉飾疑惑を誰が撤回するのよ!)
(絶対に吐きませんよ。うぐぐ、ウルトラ油揚げは、――私が守るッ!)

私は藍の尻尾を掴み、逆さ吊りにして背中を叩いた。

「吐け! 吐くのよ! さあ早く!」
「ちょ、ちょっとメリー!? いきなりそんな」
「蓮子は黙ってて! さあ吐け! 吐き出せこのバカ狐!」
「うぐぐぐ! 吐きませんッ! ウルトラ油揚げは私の物ですッ!」
「ぎゃあああああああしゃべったああああああ!?」
「ぎゃあああああああしゃべったああああああ!?」

蓮子がいきなりテンションを上げて、藍の頬を両手で挟み込んだ。

「ねえ今あなた喋ったよね!? 吐きませんって言ったよね!?」
「……こーん」

藍の頭を上下に揺さぶる蓮子。

「お願い! 喋って! 何でもいいから! 人語を喋れる狐がいたんだ!?」
「こ、お、お、お、ん、ん、ん」

(ちょっとあんた、なに喋ってるワケ!? 死にたいの!?)
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ついつい!)
(いいこと!? もう二度と喋るんじゃないわよ! フォローしきれないからね!?)
(はい、大丈夫です! もう喋りませんから! 絶対喋りませんから!)

そこで蓮子は藍の瞳を見詰め、至近距離でこう言った。

「喋ったらウルトラ油揚げ100枚あげるから!」
「こんにちは蓮子様。ご機嫌うるわしゅう。私は藍と言います以後お見知りおきを」
「うおおおおおおおいいいいいいいおまええええええ!?」

結局この後、私が幻想郷で大妖怪をやっている事も。
博麗大結界の存在も、幻想郷の事も、全部蓮子にバレました。

めでたしめでたし。
■“バッドエンドとか堕落エンドとか沢山報われないシナリオがあるけれど、やっぱりハッピーエンドがいいよね!
 だからあらゆる悲しいエンドに対して対抗策を集めてみたよ! ってことでこんな秘封どうでしょうか!”
 が正式名称です。なので概要にも書いた通り、各話に繋がりはありません。
→1話目に書くべきだった。……期待させてしまってごめんなさい。
■はい、紫=メリーです。メリー→紫だとシリアスなのに、これだと途端にギャグになるから不思議。
■当作品の立ち位置は、作者が長編の執筆で行き詰った際、息抜きで書く短編って感じです。
 え? 黙って長編書いてさっさと完結させろ? はいおっしゃる通りでございます。
■紛らわしい真似をして申し訳ありませんでした。下編を書いてきます。

2014/01/28
■コネクション確立の順番を間違えていたので訂正。お恥ずかしい限りです……。
■読解のヒント→
Q.なんで消えた三万円は雑費で計上されていたの?
A.簿記とは金額が一致しなかったら雑費で仕訳してごまかすものです(しれっ
ボムの人■
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コメント



0.400簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
やっぱり面白いんだよなあ、この人の話。
一度、ラストまで考えぬいた作品とか読んでみたいです。
というか早く長編ry
2.100名前が無い程度の能力削除
いちいち設定がらしくて良いです。妖怪の怪奇譚に給料やら需要やら通信装置やらマスゴミやらやけに現実的なワードを混ぜて、それにより逆にリアリティを増すのが原作の手法ですが、それを見事に踏襲しています。
3.100非現実世界に棲む者削除
藍様軽っ!
ゆかりんもゆかりんで思わずにやけてしまった。
蓮子とちゅっちゅするためとかすげー欲望。
恐れ入りました(作者さんに)。
4.100名前が無い程度の能力削除
個人的にこっちの短編の方が好みなんだよなw
いい具合の壊れ方で面白いし
5.100名前が無い程度の能力削除
えっ?あれっ?粉飾というか横領の件はどうなったんですか?…幻想郷の存在がバレるのと比べれば些事ですか。ウルトラ油揚げ、やはり天然物か。それじゃあ仕方ないですね。
7.100名前が無い程度の能力削除
スタンガンのところで吹き出してしまいました。
コーヒー吹いた、なんてありきたりなことはいいません。
鼻水がディスプレイに飛びました。
面白かったです!
8.100名前が無い程度の能力削除
紫が同時進行でメリー・・・なるほど、そういうのもあるのか・・・
9.100名前が無い程度の能力削除
単純な話なのにおもしろい。GJ!
12.100名前が無い程度の能力削除
これだけ短く面白くまとめられるのは凄いと思います
14.100名前が無い程度の能力削除
栃尾のあぶらげ!

長編の続きお待ちしてます。
15.100名前が無い程度の能力削除
いいじゃない
こうゆう緩い感じ、嫌いじゃないっす
17.100とーなす削除
ネタとネタとの間に挟まれる、作者さんの幻想郷観(秘封だから幻想郷じゃないけど)が分かる小道具が、妙にリアリティがあって面白い。式神はプログラムなんだから、通信がTCPだっていいよね。
18.100名前が無い程度の能力削除
わらった
20.無評価スポルト削除
幻想郷で30000円って言うと、こっちで30万くらいか。大金じゃないか
21.90名前が無い程度の能力削除
長岡?ウルトラ油揚げ?
…よしちょっと新潟行ってくる
23.100名前が無い程度の能力削除
科学ファンタジーと魔法ファンタジーの融合が面白い
25.100名前が無い程度の能力削除
ゆかりんかわいいよ!
28.100名前が無い程度の能力削除
なんだこりゃゆるい(笑)
長編より、するっと読めて良かったです。

・・・現金三十万相当のまとまったお金が雑費でごまかせるのだろうか・・・?(結局わかってない