Coolier - 新生・東方創想話

大好きが地霊殿はこいしちゃんの

2014/01/26 20:35:21
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「私からね。りんご」
「ごはん」
「ごはんだめ、もっかい。りんご!」
「ごもくごはん」
「誠意が感じられないわ」
「こいし様、そんなことよりも、今は、その、静かに」
「そんなことってなによ! せっかく私はおくうと遊びたいのに!」

 正直、そんなこと言われても私は困ってしまうばかりだ。
 こいし様はぷくぷくばたばたしながら不満そうに私の周りを回る。
 周りながら回る。
 くるくる、くるくる。
 くるるんと丸まった髪の毛が、愉快に揺れた。

 夜の地霊殿は冷たい。
 地下だし、大きな館の中なんて大して温度が変わらなそうに
 思えるけれど、私には冷たく感じる。
 いつもいる友だちや主人がいなくて
 一人ぽっちの世界だから、かな。

「じゃあおくうの世界はそこなんだよ。
 お燐と、お姉ちゃんと、他のペットの友だち。そこが貴方の世界なの」
「私の世界ですか。私って、そんな小さな世界に住んでいたんですね」
「そうよ。世界は意外に小さいの」
「そうなんですね。でも、私の作る太陽は大きいですよ」
「蟻は自分の体重の300倍のものを持ち運べるのよ」
「へえ、蟻はすごいですね」
「うん、蟻はすごいの」
「でもなんで急にその話を?」

 こいし様は私の問には答えなかった。

「あ、そうそう、もうすぐにも倒れそうだった、あの烏のおじいちゃんはまだ元気してる?」
「してますよ。若い奴にはまだまだ負けられないって。張り切って仕事しています」
「はは、そうなんだ」

 くるくるこいし様は顔だけ愉快そうに、笑う。
 きっとおじいちゃんのことなど、ちっとも興味が無いのだろうと思う。
 くるくるまわるこいし様に反応したのか、私のお腹はぐるぐるとなった。
 腹ぺこ。
 はやくお勝手に行きたいな。

「藪から棒に聞くけどおくう」
「急に聞きますね、びっくりしました」
「なんでそんなほっかむりしてんの」

 おくう、もうあんなことしちゃダメだからね。
 今回は地上から来たお姉さん達が優しかったら
 あの程度で済んだんだよ。本当は殺されていたかもしれないよ。

 私が地上を征服しようとしてやっつけられた時、お燐が言ってくれた言葉だ。
 たぶん、きっと、ほぼ確実に、一字一句正確ではないけれど、たしかこんな感じのはず。
 もしあのお姉さんたちじゃあなかったら、私は悪者として
 殺されてたかもしれないんだって。怖いよね。
 思い出しただけで烏肌がたつ。

「へんなほっかむりね」
「こいし様、この、唐草模様のほっかむりをすると、悪いことをしてもあんまり怒られなくて済むんですよ」
「そうなの? すごいねこれ」
「そうです。お燐が言ってたんですもの」
「お燐が言ってたの。じゃあ間違いないかもね」
「お燐ですから」
「ていうことはだよ、おくうは今から悪いことをしようとしているわけね」
「さいです」
「さいですかー」

 こいし様はそう言って、ふわふわしながら何処かへ行ってしまった。
 再びぽっちの世界になった。
 そうそう、私はお勝手に行こうと思っていたのよ、と目的を思い出す。
 きゅう
 お腹がなった。
 さっきより可愛くお腹がなった。
 お腹が空いているから。
 お腹がなったのは私だから、私は今、お腹が空いている。

 あれ?

「こんな所に泥団子が落ちている。
 こいし様のかな」

 私は泥団子を拾い上げる。
 ふむ。
 手がこんでいる。
 こんなに綺麗な泥団子にするには
 黒い砂と、白い砂と、お水のちょうバランスを守らないといけないはずだ。
 にぎってこすってにぎってこすって。
 それを何回もやらなきゃあいけないはずだ。

「これは手のこんでいる一品である逸品。すばらしいのである」

 私は立派なそれをポッケに入れる。
 こんど、皆に見せてあげようっと。
 私は手をパンパンと払い、お勝手へと歩みを進める。
 そうっとそうっと。
 さとり様が起きちゃうから。
 しずかにしずかに。
 さとり様が起きちゃうから。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「りんご」
「ゴンザレス」
「すいか」
「カポエラ」
「……らっぱ」
「パンデモニウム」
「だめ! お姉ちゃんとのしりとりはなんか可愛くなくて嫌!」
「えぇ、しりとりって可愛くないといけなかったの。お姉ちゃん初耳よ」

 さて、今日の業務も終わり、疲弊した体も精神もお風呂で癒やし
 トゥルトゥルになったお肌とするするになった髪の毛に満足しつつやっと筆が取れると思った矢先。
 私の執筆席には先客が存在し、なおかつそれが実の妹で、しかも私に極上の笑顔を向けたのならば
 その妹と一緒に遊ぶのが姉の仕事言うか義務というか。
 まあそんなこんなで対面しながらしりとりをしたのであるが上記の通りなのである。
 お姉ちゃん悲しい。
 頬をふくらませているこいしがなんとも可愛くて仕方がなかったが
 私は気を引き締め直す。こいしを満足させてあげたい。

「ねえこいし、お姉ちゃんもうちょっと可愛くやるからもっかいやろ?」
「……ほんとう?」
「本当よ。お姉ちゃん嘘付かない」
「ふふっ。じゃあ気を取り直して…… 『りんご』!」
「後鳥羽上皇」
「お姉ちゃんの嘘つき! 大嫌い!」
「ああ待ってこいし!」

 私は精一杯頭を捻ったのだけれど
 出てきた言葉がそれであった。なぜ、なぜなのかしら。

「お姉ちゃんなんて白い砂と黒い砂でもみくちゃにされて握りしめられればいいんだっ!」
「私、泥団子か何か?」
「知らない! お姉ちゃんの貧乳!」

 前者からは悪意は感じられなかったのだけれど
 後者からはメガトン級の殺意が感じられるこいしの言葉ですが
 お姉ちゃんは泣きません。
 だって、私よりもこいしが泣いているんだもの。

「こいし、ごめんねお姉ちゃん不器用で。でも、悪気があったんじゃないのよ。
 あとお姉ちゃんは貧乳じゃなくて美乳の類いなのよ。」
「ぷくー」
「すねないでちゃんと聞いてよこいし、今度は違うゲエムで遊びましょう」
「……次はちゃんとやる?」
「ちゃんとやりますよ。こいしのためだもの。あとお姉ちゃんは美乳」

 涙を目尻にためているこいしも可愛いのだけれども
 やっぱり私は笑顔のこいしがとても好きで。
 こいしには笑顔でずっと居てもらいたいななんて、日頃思っている。
 ああ、私。
 きっと今心を読まれたら恥ずかしいんだろうなあ。

「大丈夫よ。お姉ちゃんはそういう人だってみんな知ってるから。
 それはそうとね、さっきおくうが廊下を歩いていたよ」
「あら、おくうがこの時間に? 珍しいわね。あと今こいし、さらっとお姉ちゃんの心を読まなかった?」
「なんかほっかむりして、お勝手に向かっていたよ」
「キッチンに…… ああ、おくうったら」
「?」
「おくう、夕飯をあんまり食べなかったみたいなのよ。
 具合がわるいのかなと思ったけれど
 そういうことならきっとおやつを食べすぎたから夕飯があまり食べられなくなって
 今更お腹が空いてきたのでしょう。
 そういえば隠していたアーモンドチョコレートが無くなっていたわね」
「あのいつもの棚、じゃない普段は開けない方の棚にあったやつね」

 ええそうよ。
 と、こいしに同意してから思う。
 なぜ、それをこいしが知っているの?

「紅魔館ってね」
「え? え、あ、うん」

 突如のテーマチェンジに思わずうろたえる。

「パーリィをよくやるのよ」

 パーティのことだろうか?

「みんなとっても楽しそうで、みんなで集まって同じ釜の飯を食べるのよ。
 それってすごくいいことだと思うわ。
 だってみんなでご飯を食べるのだもの。
 うちはみんなばらばらじゃない。
「ちょっとその表現は常套句として存在するから、意味が違っちゃうわ、こいし」
「言葉の意味なんてそんなのものなのよ、お姉ちゃん。まあそんなことはどうでもいいの。
 紅魔館は綺麗でね。
 シャンデリアなんかもピカピカしてとても綺麗だし、皆が笑顔になるのよ。
 お姉ちゃん、シャンデリアは知っている?」

 こいしは私のデスク用のメガネをかけ、中指でくいいとやる。

「ええ、あの宙に浮いている綺麗なやつね。見たことは無いけれど」
「あれはとてもきれいなのよ。ああ、やっぱり見たことなかったのね。
 お姉ちゃんにも見せたくてちょうだいって言ったんだけど、やっぱりダメだって」
「そりゃそうよ……」
「でも良いんだ。ふふ」

 こいしは何かを含ませて笑った。

「それ(パーリィ)って、私たちには足りないことだわ」
「……? 私たちに」
「うん。だって、お姉ちゃんは引きこもっているし。
 おくうとお燐はお仕事だし。私は風来坊だから」

 こいしはメガネをもう一度くいいとやる。
 こいしの表情が、私の瞳に、何故か鮮明にうつる。
 こいしの表情はどれも知っているはずなのに、私はそれをまるで初めて見るかのように
 なんというか、経験値を得た感覚に陥る。

「こいし、地上は楽しいの? お姉ちゃん、こいしの話が聞きたいな」

 なぜか急にそんなことが聞きたくなった。
 こいしはメガネを一度取ってから
 グラスにはあと暖かい空気を吹きかけ、服で拭いた。

「あのね」
「うん」
「集中するには、グラスいっぱいの水を飲むといいのよ」
「?」
「紅魔館のパジャマーという魔女から教えてもらったの。
 集中するには、コップ1杯の水を飲むの」
「うーんと」

 こいしと意思疎通が取れなくなることはままある。
 だから、一度質問は置いておいて、こいしの話に乗るのが正解だと私は知っている。
 質問の答など、この後いつか帰ってくるのは確かだ。
 明日なのか、5年後なのかわからないけれど。

「こいし、お姉ちゃん、それを実践するわ。詳細を教えてちょうだいな。
 それはグラスなの、コップなの?
 あとお水はいっぱい? それとも1杯?」
「さあ、お姉ちゃんの好きにすればいいんじゃないかな。
 アルコールでも集中は出来る人は出来るんだから」
「それもそうね」
「それもそうよ」

 こいしはふわりと浮いたかと思うと
 私の周りをくるくると回った。
 こいしと、こいしの匂いが部屋に舞う。

「お姉ちゃんの小説、読みたいな」
「ええ。きっと面白くするわ」
「うん。じゃあまたね、お姉ちゃん」


 こいしは部屋から音もなく出て行く。

「妹(こいし)に期待されているんだもん。
 頑張りましょう」

 私は、両手で頬をぱちりと叩いて、筆を手にとった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「りんご」
「ゴール」
「ルビー」
「ビール」
「瑠璃」
「リール」
「……る、る、る」
「もう無いのですか?」
「あ、ルール! お燐、『る』だよ! へへーん」
「ルーズボール」
「もうやだ! お燐嫌い!」
「くくく、ゲエムに負けてふてくされるなんて、こいし様はまだまだですね」
「ぷんぷん!」
「こらこら、ぷんぷん言いながらベッドに潜るんじゃないですよ」

 
 こいし様がアーモンドチョコレートをかじりながらやってきたのは二分前のこと。
 右手には自分が食べる用。もうひとつはあたいにくれる用だという。
 「ん」と裸のまま差し出したアーモンドチョコレートはすでに溶けかけていて
 なぜかあたいは少しほっとした。
 こいし様でもチョコレートを溶かすことが出来るんだな、なんて
 当たり前の事に少し感動というか、なんというか、安堵してしっぽがふにゃりと曲がってしまった。

「ぶうぶう」
「こらこら、ぶうぶう言いながらお布団に丸まるんじゃありませんよ」
「だってお燐がもうお燐が」
「ごめんなさい、ちょっと大人気なかったですね」
「子供扱いして! 怒るわよ」
「もう怒っているじゃあないですかにゃあ」

 こいし様はしばらくあたいのベッドの上で静かになった。
 布団のなかに完全に入ってしまったので、そのきれいなおみ足は見えなくなってしまったけれど
 布団はこんもりと盛り上がり、こいし様の存在を主張している。
 布団に潜る前よりも、なんとなく存在感が増したような気がするのはきっと気のせいではない。
 自分のベッドがこんなにも盛り上がっているのはよく見る光景ではないのだから。

 こいし様は動かない。
 落ち着いているのかな。

「それにしてもこいし様。それって」
「あ、メガネのこと? いいでしょ。探しものもすぐ見つかりそう」
「なにか探しているんですか?」
「うん、ちょっとね」

 こいし様はそういって
 また布団に完全に潜る。

「こいし様、ここから見ると、どこに居るかわかりません」
「うへへ。どこに居るか当ててみな」
「そですか。それでは」

 両手をわきわきとやる。

「こいし様捕まえたー!」

 布団ごとこいし様に覆いかぶさる。
 しかし、手応えが妙に……

「あれ? いない」
「残念でした、私はここです」
「うわ! え? どうやったんです」
「簡単な事だよワトソンくん」
「お燐です」 
「お燐のスカートは隠れやすいってことさ」
「でも、さっき布団に潜ってたのになんであたいのスカートの中から出るんですか」
「そんなの簡単じゃない」
「?」
「風が吹いたからよ」
「???」

 こいし様は小さな胸をそらし、必至にアッピールして「えっへん」をやっている。
 しかし、答えの意味がわからなかったのでどう褒めるか悩んでしまう。

「えーと、すごいですね」
「だしょ」
「だしょって」
「それにしても寒いね。またお布団に入ろうかな」
「寝るんですか?」
「ううん、寒いから入りたいの。
 見て見て、さらしくびー」
 
 こいし様は布団にまたもぐり、顔だけ外に出してあたいのほうへむける。
 かわいい。

「寝るときくらい帽子はとりましょうよ、ありゃ」
「どうしたのー」
「こいし様、ここ、つばの所、汚れていますよ。なんですかこれ」
「ああ、さっきワンポイントオシャレを取り入れようとして泥団子をそこに乗せていたのよ」
「なんですかその常軌を逸したオシャレ」

 泥団子が乗っていたであろう部分を擦ってみるが
 中々落ちてくれない。
 むしろ、あたいの指が汚れてしまった。

「ありゃあ、ばっちい」
「おりーん」
「何ですか?」
「帽子は私のアイデンティティだから、かえしてー」
「でもこればっちいですよ。
 綺麗にしていなくては、さとり様に怒られてしまいます」
「お姉ちゃんなんてずっと書斎にこもって机に座っているからおしりが蒸れて
 たまに、ばりいかつい匂いがするじゃない。あれもばっちい」
「それにはあたいもほとほと困っています。ですが、だからといって」
「じゃあお燐が綺麗にしてよう。私はさーむーい」
「まったく、しょうがないにゃあ」
「お燐、そのセリフよく使うねえ」
「猫ですから」

 ふむ、しょうがない。
 あたいが洗濯してあげましょう。

「じゃあこれ、洗ってきますね」
「えー遊んでよ」
「でもこれ綺麗にするにはお洗濯しないと」
「いいのよお燐、こういうのはね」

 こいし様は布団から出てきたかと思うと
 急にグラス1杯の水を取り出した。
 どこから出した。

「ばしゃあ」
「ああ、ちょっと!」
「ほら綺麗」
「ああ、床が水浸しですよう!」

 こいし様は水を思い切り帽子にぶちまける。

「出来た」
「出来てないですよ。ああもう、床がびちゃびちゃだし
 ……あ、そのびちゃびちゃ帽子をそのままかぶらないでください!」
「えー?」

 こいし様はびちゃびちゃの帽子をそのままかぶった。
 案の定、帽子の中に入っていた水がこいし様にかかる。
 なんできょとんとしているのですか、こいし様。

「あは、濡れちゃった」
「そりゃそうですよ。ああもう、早くおべべを脱いでください。
 風邪引いちゃうから着替えますよ」
「大丈夫だよ。お燐心配しすぎックス!」
「ほらくしゃみ」
「くしゃみなんて走ってから急に止まる時にいつも出るもん。大丈夫だよ」
「?」

 何やら訳のわからないことを言っているけど
 こいし様をこのままにしておくほどあたいは冷たいやつじゃない。
 まあいま冷たいのはこいし様だけど。

「お風呂いきますよ」
「ぶう、めんどう」
「じゃあその後、ホットミルクをつくってあげますから」
「わあい、ホットミルク! こいしホットミルク大好き!」
「しょうがも入れてあげますよ。あったまりますよ」
「ええ、しょうがはやだな。その仕様のホットミルクはやめてちょうだいな」
「しようがないにゃあ」

 など、下らぬことをいいながら笑いあう。
 タンスからバスタオルを二枚引っ張りだし、あたいたちはお風呂場へと向かった。

「ねえお燐」
「はい?」
「お燐のお仕事は明日お休み?」
「はい」
「ふうん、そっか」
「? じゃあ行きましょうか」




 こいし様が、心なしかさっきよりふわふわしてる気がする。
 あ、心がないのは当たり前か。












◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








 普段は五分歩けばたどり着くお勝手だけど
 やっぱりさとり様の部屋の近くは通れないし
 そうっと歩かなきゃいけないからそれなりに時間がかかっちゃう。
 今、部屋を出てからどのくらい立ったかな。
 さっきこいし様と別れてからどのくらい立ったかな。
 廊下から見える窓の外はまっくらくらすけで、とても時間を測る材料にはならなかった。
 まあいいか。もうちょっと。
 もうちょっと歩けばお勝手だ。
 さあ、目指せやお勝手(この場合『キッチン』と読む)。

「わあ」
「ふひい!」

 そうっと歩く私の肩に当然手が乗って、背中に大きな声が投げかけられた!
 気配など微塵も感じなかったので思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「こ、こいし様!」
「ねえねえ、びっくりした? びっくりした?」
「しましたよ! もう、さとり様が起きちゃうから大きな声を出させないでください! ひそひそ」
「おくう。最後に『ひそひそ』って言ってもあんまり意味ないからね」

 びっくりした!
 いなくなったと思ったこいし様に急にエンカウントするなんて。
 くるくるこいし様はまた私の頭をくるくる周りながら
 興味無さげに津々とほっかむりを観察する。

「それ、そのほっかむりもいっこないの? 私も欲しいな」
「もいっこですか。いやあこれは一張羅なので」
「一張羅なの。じゃあもらうわけにもいかないわね」
「すみません、一張羅なもので」
「一張羅なら仕方ないね」
「そういえば、いつものオシャレハットはどうしたのですか? 代わりにメガネをかけているようですけど」
「このメガネセンス無いでしょ」
「はい。ばりダサいです。それはもうバリバリの財布がごとく。
 それで帽子は?」
「ああ帽子。あれはいま」
「あれはいま?」
「くるくるまわっているのよ」
「?」

 こいし様のいうことはたまにわからないなあ。
 あれ?
 なぜか心なしか、こいし様がほかほかしている気がする。
 あ、心がないのは当たり前か。

「こいし様、なんとなしにほかほかしてません?」
「お弁当屋さんの話?」
「え、違いますよ。あ、こいし様がお弁当とかいうから
 お腹のやつがまだぐるぐる言い出しちゃったじゃないですか」
「あ、そうそう。それで提案なんだけど、お姉ちゃんもつまみ食いに誘おうよ」
「それは駄目なんです。つまみ食いはいけないことで、さとり様がダメって言っていたから
 隠れていこうとしているのに、さとり様を誘ってしまったら、怒られてしまいます。
 ええと、それって、それはもう怒られてしまいます」
「だれに?」
「さとり様です!」
「お姉ちゃんをつまみ食いに誘ったらお姉ちゃんが怒るの? つまみ食いは美味しいのに」
「つまみ食いは美味しいですけどさとり様がダメって言ったらダメなんですよう」
「じゃあお姉ちゃんがつまみ食いしたときは、お姉ちゃんが自分自身を怒るのかしら。
 だってつまみ食いはいけないから」
「……? うん? そうなるんじゃないんですか?」
「おくう、ちょっとその時のお姉ちゃんの真似してみて」
「『わあ、美味しそうなローストビーフ! 夜中だけど食べちゃおう。もぐもぐ、おいしい!
 こら、夜中につまみ食いはダメでしょ私! デコピンです! ピン! いたい!』」
「けらけら」
「おかしい気もしますけど、こうなるんじゃないんですかね。
 だってつまみ食いは禁止されてて怒られるものだからもしさとり様がつまみ食いに行ったら
 さとり様に怒られるわけです、さとり様が。……あれ?」
「そうね。おくうはおかしいなあ」
「おかしい、ってどっちの意味です?」

 こいし様は目の端にたまった涙を拭い
 私の質問にはまた答えず、またどこかへ行ってしまった。
 額の汗を手で拭う。
 なんというか、いっぱい緊張したのと、必死にこいし様に説明したせいか
 汗が止まらない。
 ほっかむりも蒸れて、すこし頭がかゆい。 

「冷蔵庫には何があるかなあ」

 ダメって言われてることをやる時って妙にわくわくするよね。
 
 この前、お燐が言ってた。
 それが今すごくわかる。
 だって、私すごくドキドキしているから。

「あまいパンケーキなんてのがあったらいいなあ。ほわほわの」

 お勝手に近づくにつれて私のお腹はますます激しさが増す。
 更にこんなに香ばしい匂いもしてしまうと、こいつはもう堪らない。
 涎があごの先からたれて、床にシミを作ってしまう。

「うへへえ、ダメダメ私、我慢我慢」

 さあ、お勝手はもうすぐそば。
 そして、こんな魅力的な匂いがするのであれば。
 私はお勝手にふらふらと吸い寄せられていくのは
 避けることの出来ない、必然なのでありました まる






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「はあ、貴方達……」
「あ、さとり様」
「さ、さとり様! ちがうんです。
 だって、その、おやつがアーモンドチョコレートだったから。
 こいし様が『秘密の棚』から取り出したっていう
 美味しい美味しいアーモンドチョコレートだったからつい食べ過ぎちゃって
 あ、こいし様が悪いんじゃなくて、悪いのは私で、でもいつもチョコレートは
 数が決められてるから、その、ついパクパクもぐもぐそれはもう妖怪火力発電所のごとく」
「わかりました。はあ、二人揃ってつまみ食いですか?」
「おくうはそうみたいだったらしいけど、あたいはこいし様にホットミルクをと」
「あ、お燐! 抜けがけずるいよ!」
「だって私のはほんとだもーん」
「『まあ隙をみてちょっとつまみ食いしようと思っていたけどね』
 ですか。全く仕方がないですね」
「にゃはは、バレちゃった」

 
 あの後、さあ執筆だと意気込んでみたもののメガネがないことに気づいた。
 たしか、こいしがかけていたような。
 予備を探してみたけどどうにも見つからない。
 がーんと出鼻をくじかれた私はこいしを探すついでに
 『水をいっぱい』飲もうとキッチンにやって来たわけだ。
 そしたら電気が付いていて、お燐とおくうが何やら鍋の前で
 ぐつぐつやっている、という次第であった。
 私は一度大きくため息を付いてから、彼女たちに警告しておく。

「お燐、おくう、深夜の飲食はにきびもできますし
 お腹の肉もぷよぷよフィーバーになります。
 それを心してつまみ食いしているのでしょうね?」
「う……」
「まああたいは、覚悟してのことです。
 おくうはどうだか知らないけど。
 はいこいし様、ミルクが出来ましたよって、あれ?」

 お燐は周りを見渡す。
 そういえば、こいしにミルクを、と言っていたけどこいしの姿が見つからない。
 はて。

「むう、せっかくこいし様につくったのに」
「ねえお燐、私のは無いの?」
「すぐつくれるよ。さとり様も飲みますか?」
「ええ、そうね。お水よりも
 ホットミルクのほうが集中できそう」

 そういえば、先ほどのお空の弁明で気になったところがある。

「おくう、『秘密の棚』とはなんですか?」
「え、ええと、こいし様が見つけた秘密の棚だそうです。
 なんでも、知らぬ間に美味しそうなお菓子が、しかも大量に入ってるという!」
「へえ、そうなのがあるんだ」
「はあ、バレてしまっては仕方ない。
 確かにあそこはお客様用のお菓子棚です。勝手にとっちゃいけませんよ」
「えーでも、さとり様。あたい、地霊殿にお客様なんて来たの見たこと」
「それは言っちゃあいけません。泣きますよ」
「ごめんなさい」

 あのアーモンドチョコレートも結構長い時間忍ばせていたものだ。
 まあ、チョコレートゆえそんなに早く腐ることはないだろう。
 お燐がまもなくできると言っていたので、カップを用意することにする。
 結局グラスでもなくコップでもなくカップで飲むはめになってしまった。

「でも、楽しいですねさとり様!」

 お空が高いところにあるティーカップを取り出しながら言う。

「なにが?」
「こうやって、皆の分の食器をいっぺんにつかうのって、最近なかったじゃないですか」

 ……そういえば、そうだ。

「それに、こんな夜遅く。なんだかわくわくします」
「……そうね。それじゃあおくう」
「はい?」
「『秘密の棚』も開けてしまいましょう。そろそろ中身を入れ替えたいと思っていたのです」
「それってつまり……」
「ミルクと一緒にお菓子も食べちゃいましょう。今夜限りですよ」
「ええ! やったあ」

 おくうは持っていた食器を落としそうになりながらも
 大喜びし、お燐の元へと駆け寄っていった。
 さて、じゃあ私は秘密の棚のものをぶちまけましょう。
 きっと大量に出てくるはずだから。






「うわあすごいねえ」
「えへへ、さとり様これ全部食べていいのえへへ」
「ほどほどに。お燐のミルクはありがたいですね。
 こんなに甘いものを食べたならきっと胸焼けしてしまいます」

 テーブルにぶちまけられたお菓子の山はそれはもう
 お花見で出されるお重かの如く、私四人分くらいのテーブルを占拠し
 ミルクのおまけだとは思えぬほどであった。
 
「これはすごいですねえ。あたい柄になくテンションが上がってきました」
「早く食べましょう食しましょう食みましょう!」
「こんなにあるとはね」
「お燐、さとり様。早く席に。すごい、夜中なのに。まるでパーティみたい!」

 パーティ。
 パーティ?
 そういえば、こいしがそんなことを。
 と思っているとお勝手のドアが開かれた。
 みなが注目するそこには。




「こ、こいし様!」「こいし様!」
「こいし、どうしたの?!」
「うぐっ、ひぐっ」

 泣いている、こいしがいた。
 いそいで駆け寄る。

「どうしたの? 悲しい夢を見たの? 怖いことがあったの?
 お姉ちゃんに話してね、こいし」

 こいしは両手で目をこすり、なお涙を流し続ける。

「こいし、言ってくれないとお姉ちゃんわからないわ。
 教えて。何があったの?」
「うー、ひぐっ、……無いの」
「無い?」
「……ピカピカがないの」
「ピカピカ?」
「……有ると思ったのに。きっとさっきはあったから
 どこかくるくる回った時に落としちゃったのかなって思って
 いっぱい探したのに無くて、よく見えるようにってメガネを掛けたのに
 やっぱり無くて、必要なのに、ぜったい必要なのに。皆が笑うから必要なのに!」
「こいし、おちついて。
 そのピカピカを落としてしまったのね。
 それじゃあ探しに行きましょう。ね?」
「……もうきっと無いよ。私はいっぱい探したもの」
「そんなことないわ。きっと私たち四人で探せばみつかるわ。
 必要なんでしょう?」
「……うん、ひつよう…… ひつようなの……」

 なんとかこいしが泣き止んでくれた。
 よし、ひとまずは安心。

「貴方達、ごめんなさいね。
 ひとまずこっちに付き合ってくれないかしら」
「がってんです!」
「じゅるる。いいですよじゅるるる」

 お燐もおくうもこころよく引き受けてくれた。

「それでこいし様、そのピカピカというのはどんなものなんです?」
「……ピカピカしてる」
「それはそうだと思いますが」
「お燐、聞き方がだめよう。
 こいし様。それはどんなピカピカ具合でした?
 ええと…… あったあった。
 ほら、この泥団子を見てください。
 こんな感じにピカピカでした?
 それとも何日もお風呂に入っていないさとり様のおでこくらいピカピカでした?
 あれ汚いですよね」
「おくう今なんて言いました?」
「あ! おくう!」
「はいおくうです」
「それ! ピカピカだ!」
「はいこれはピカピカですよ。
 こんなかんじにピカピカだったんですね。
 分かりました。さとり様、お燐、こいし様が探しているピカピカは
 この泥団子みたいにピカピカだったようです。じゃあ手がかりが見つかったところで探しに行きましょう!」
「ああもう、あんたはややこしいから黙ってて!
 こいし様、探しているピカピカってこの泥団子なんですね?」
「うんそうよ。おくうありがとう!」
「え? いえ、それはいいですけど、早く探しにいかないんですか?」

 と、このようになんというか
 探しに行く前に見つかってしまった。
 まあこいしは嬉しそうだし、それで良い。

「良かったですね、こいし様」
「うん、お燐、ちょっとテーブルを空けて」
「うん? ほいさ」

 そう言うと、こいしはテーブルの真ん中に泥団子を置いた。

「ふふふ。ね?」

 満面の笑みである。
 何が何だか分からないが、私はそうね、とこいしに返した。
 
「こいし様、やりますね」
「おくうはお姉ちゃんと違ってこの泥団子の価値がわかるの?」

 ばれてた。

「もちろん、私はときおり仕事中に泥団子を作りますけど
 ここまで手のこんだものは作れないですね」
「でしょ? 苦労したんだから」
「すごいですねえ。こんなにピカピカの泥団子。
 きっと極意や匠の技が無いと出来ないですよ」
「今度おくうにもおしえたげるね」
「やったあ!」
「はいはいふたりとも、ミルクが出来たよ」

 お燐がカップを4つ、テーブルの上に置き
 みなはそれぞれ自分の席へと座る。
 確かに、このテーブルに全員が座るってのは久しぶりかもしれない。

「はい、それじゃあ」
「ええ。じゃあこんなに夜中ですけど
 私たちのパーティを始めたいと思います」
「わー!」
「よ! お姉ちゃんかっこいい!」
「やめなさい。
 ええでは、お手を拝借」

 胸の前に手を合わせ。

「いーたーだーきーます」
「いーたーだーきーます」

 こうして、深夜のパーティは開かれたのだった。



















「苦しい……」

 パーティの後、なにやら流れ作業で
 四人で寝ることになった。
 私のベッドは一人用だ。
 私とこいしは体が小さいので二人でも
 なんとか入るのだけれど、さすがに四人となると体が更に小さくなってしまう。
 加えて、私の隣のお燐はいびきがうるさいし(あとなんかごろごろいってる)
 隣の隣のおくうは寝言がうるさい。
 「驚きの白さ!」
 あ、また言ってる。

「お姉ちゃん」

 こいしが小さく耳元でささやく。
 こいしもどうやらまだ眠れていないみたいだ。

「なあに、眠れないの」
「お話しようよ。今日お姉ちゃんは何をしていたの?」

 どうやら、さっき自室で話した内容の続きのようだ。

「今日、今日はね」

 私はこいしに語りかけた。
 懐かしい。
 昔はこうして、二人で眠くなるまで話していた気がする。
 こいしは私の話を真剣に聞き
 ときおり興奮し、ときおり笑いをこぼし、ときおり残念がる。
 私はこういったこいしの反応が大好きだ。

「私も好きよ、お姉ちゃん」
「ありがとう。それで、こいしは今日何をしていたの?」
「今日はいろんなことをやった気がするわ」

 しばらく、沈黙が続く。

「でも、ほとんど忘れちゃった」
「あらそうなの。残念ね。あ、でもほらあれは?」
「なあに?」
「ほら、テーブルに飾っていた泥団子よ」
「あ、そうね。そういえば」

 こいしは天井を見つめながら私に問う。

「お姉ちゃん、あれをみてどうだった?」
「ええと、ピカピカしてるなあって」
「それなら良かった。お姉ちゃんに見せてあげられた」
「うん?」
「お姉ちゃん、思い出したよ。私が今日していたこと」


 こいしは私の方を振り向き
 天使のような笑顔で、こう言い放った。


「私は今日、ずーっと、パーティの準備をしていたの!」















『大好きが地霊殿はこいしちゃんの』
終わり
おくうにいっぱいアーモンドチョコレートをあげて
お姉ちゃんに魔女直伝のトリビアを披露し
お燐の前で水をかぶっただけなのに
こいしちゃんは大好きな家族とパーリィを楽しむことが出来ました。
意識的にやったのか、無意識でそうなったのかはわかりませんが
こいしちゃんって、こういうことを簡単にやってのけそうです。

ここまでありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ばかのひ
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コメント



0.1060簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
仕事言うか じゃない。ちょっと

こころなしかこころあたたまるお話でした。それは絵本のような物語で。
5.100名前が無い程度の能力削除
こいしちゃんはやっぱり天使
6.100名前が無い程度の能力削除
これは面白かった
ありがとうございます
7.100名前が無い程度の能力削除
絵本を読み終えたようなほっこり気分。
素敵なお話でした
8.80奇声を発する程度の能力削除
素敵でした
10.100名前が無い程度の能力削除
こころなしか涙が……
11.100とーなす削除
支離滅裂に見えて、きちんと意味があったのか、と最後に気づいてなるほどなと納得。無意識と言いつつ、どこか意識が混じっていたんだじゃないかなあ、この結末は。
そして最後に概要を見てやっと、ピカピカの泥団子の意味に気づく。なるほどお。
12.100非現実世界に棲む者削除
こいしちゃんは本当に天使だなあ。
13.90長久手削除
ほんわかと可愛くて、でもそれだけじゃなく、お話の向こうにしっとりとした奥行きもあって、それが大変良い案配で、とても好きです
26.100名前が無い程度の能力削除
温まるね、うん
不思議でばらばらな感じでまとまった
29.100名前が無い程度の能力削除
この軽快な感じが良かったです!
30.100名前が無い程度の能力削除
このタイトルはトラウマを思い出す……
良いお話でした。あなたにの作品の雰囲気は本当に良いですね。
35.100詠み人知らず削除
最新作から作品を読ませて頂きましたが、いや凄いなと。御自身の文体と構成を崩さずに作品を作り続けるのは並大抵の事ではないのに。感服しました。