Coolier - 新生・東方創想話

月光

2013/11/18 18:29:48
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 結局何も変わらなかった夜が明けていく。若い兎が中心になって後処理の為にいくつもの班に分かれてそこらに腰かけている。子供たちは竹林中に散らばっているからもう少し時間がかかるだろう、そのほうが良かった。
 古い者も若いのも皆私の指示を待っているけれど、本当は子供たちのところに行きたいだろう。屋敷の主人達を心配している者はどれだけいるだろうか。私は、どうか。
「見に行きますか?」
 気をつかってくれるけれど、今はもう少し様子をみよう、徐々にではなくそれこそ一瞬で夜が明けた。時刻通り明け方だ。あの巫女達がどうにかしたんだろうけど、どうにかの部分がわからないから待つしかできない。あの二人はどうしているんだろう、死なないけれど負けたとするならどんな顔をしているのか。それを思うと私もこの子達もまだ中に入れたくない。
「あの方達は大丈夫ですかね?」
「死にはしないからね、鈴仙はけちょんけちょんにやられてたけど」
 それでもすぐに巫女とあの妖怪の後を追っていった。あの子の顔はわかりやすいんだ、失わないように必死な顔。

「眠いのか眠くないのか分からないわね」
 誰が言ったのか分からなかった。戸が開いた音と鈴仙の泣きそうな顔の間をすり抜ける様に巫女が屋敷から出てきた。あまりに自然な、まるでこの屋敷の人間みたいだ。
「まるでここの住人のようだね、あんた達」
「幻想郷の住人よ」
 どうしても代表として私が話すことになるけれど、何から話すべきだろう。何を聞くべきだろう? 
「さすがだねぇ、夜が明けちゃったよ」
「もうこんなのごめんよ、不死身だか何だかしらないけど隠れるなら土の中にでも隠れていればいいのに」
「それだと土にもどってしまうわよ、永遠に」
 あの妖怪は屋敷に視線を残したまま巫女の後ろで笑みを浮かべている。本当に嬉しそうな顔をしてるので良いことは無さそうだ。
「悪かったね、あのお二人はいろいろ訳ありだからさ」
「私だって訳ありよ、幻想郷の訳ありと一緒に来たんだから」
「あら、幻想郷は全て訳ありよ」
「とにかくもう帰るから反省しなさいよ、じゃあね」
 巫女のあっけらかんとした態度が片割れの纏わりつくような視線と対照的で、いいコンビなのかもしれない。

 みんな緊張が解けたのだろう、騒がしくなった。合図をよこして屋敷の中へ何人か古い兎が向かっていく。私はまだ空を高く飛んでいく巫女の後姿を眺めていた。
「あれが今の巫女か」
 なんと表現すればいいのかわからないけれど、幻想郷的だ。姫とお師匠はあの巫女に触れて何を思っただろう。汚れた地上にはあんな人間がいる、それは良いこと? あの二人はこれから幻想郷で、この竹藪の中でどう暮らしていく? 私はどう関わっていきたいんだろう。
「てゐ、もう行った?」
「行ったよ」
「永琳、行ったって」
 この二人の顔は、本当にわからない。今何を思うのだろう。長く生きてもやっぱり月のお方の内面には届かないのかな。
「巫女はどうでしたか?」
「穢れの塊みたいな、普通の人間よ。ただ私達よりずっと無垢で、罪がないわ」
 お師匠は相変わらずの言い方ではあるが、どこかいつもと違う声音がする。
「でも永琳、地上の人間はみな罪人なんでしょう?」
 姫も、なんだろう、何か違う。この人の声はこんな色をしていたかな?
「そうよ、だから罪が無い処から始められるのよ」
「私達も?」
「いいえ、この罪だけは消えない。でも」
 二人から月が薄れている、そう感じた。
「私達はもう地上人だから、月のことなんて知らないふりをしましょう」
「そんなんでいいウサ? あっちの方からは忘れてくれないんじゃないの」
「大丈夫よ、薄々わかってたけどここに月の使者は来ない」
「あなたもわかってるんでしょ?」
 姫は微笑みながら私を見た、初めて月人に見られている気がする、もう地上人だそうだけど。初めて目が合った気がする。
「これからどうするウサ? どこか別の所に移るの?」
「ううん、このままここで暮らす。それでいいよね永琳」
「ええ、そうしましょう」
 二人は巫女に触れて、幻想郷に触れて変わったんじゃない。これから変わっていくんだろう。きっとそれは私達との関係も変化させていくのだろう。それが私にとってやりやすいものであればいいけれど。
「鈴仙、出ておいで。見えないけど月がきれいよ」


 
 散らかった屋敷の片付けが済んだ頃、姫が月を見に行こうと言い出した。いつもの縁側では無くて竹林を歩きながら見るというのは珍しい。それに私を連れていくのはもっと珍しいことだ。
「月の光ってやっぱり柔いものね」
 姫は今更の様に月を楽しんでいる、私にはもうずっと見慣れたものだけど彼女達にとっては変わり続けるものなのかな。永遠の彼女達にはここ数日の変化はあくまで些細な部分に過ぎないのだろうけど、私達にとっては大きなものだった。
 特に子供たちや若い兎にはその影響が出始めている。あの子達は少しづつ月を知ろうとしているし、二人の蓬莱人を知ろうとしている。二人がやってきてから今まであった薄いけれど固い壁が、あの日からどんどん透かされている。それは私がこの何百年かけてもできなかったことだった。
「ねえ、鈴仙置いてきて……良かったよね? あの子とはこれからゆっくりやっていく方が良いと思ったんだけど、逆効果かな?」
 こんな風に相談されることなんてありえなかった。鈴仙のことも、他の兎達のことも在って無いように接してきた今までの時間が嘘のよう。
 少しの腹立ちと、安堵を抱えて私はあいまいに頷くだけだった。屋敷を出る前お師匠様は、とてもでは無いけど見せたことの無い顔で私に礼をいった。
「てゐ、今まで本当にありがとう、今までをごめんなさい。私と輝夜はあなた達の時間のことを考えなかった、もう私達は人間とはいえないけれど、人間らしく生きることはできたはずなのに。時と共に変化することを放棄していたわ。」
 これからも兎達と良い関係を保つために、とお願いされたけれどそんな事は私が生きるために当然のことだった。時間に追われて生きるものには当然のことがわからない、そんな二人がひどく憐れだ。でも生きるということは誰でも哀しいことでもある。
「しょうがない」
 二人に聞こえないように、でも聞こえてもいいと思いながら呟いた。年の重ね方が違うのだから、しょうがない。
「永琳、てゐ、月はあそこよ。地上の人間が見る月はあそこ。きれいね」
 姫の横顔に光が降り注いで、竹林はその輝きを増していく。
 見てもらえて嬉しいです、ありがとうございました。
 てゐが言う「子供たち」は普通の兎です、それ以外が新旧の妖怪兎です。
つつみ
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コメント



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3.70非現実世界に棲む者削除
凛とした雰囲気が素敵です。
8.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良かったです
10.90名前が無い程度の能力削除
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11.100やくたみ削除
よく考察の入った奥深いお話で、何回もハッとさせられました。
永夜抄の切なくも美しい雰囲気がきれいに表現されていて、しんみりと読ませていただきました。
14.100名前が無い程度の能力削除
作品の理解が深いって感じがする
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