Coolier - 新生・東方創想話

ガール・ミーツ・ガール 後編

2005/09/08 11:36:55
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───話は肉騒動前日まで遡る

「よーし! じゃあトランプ配るよー!」
 てゐはそう元気よく言い放つ。

 ここは永遠亭。
 竹林の奥にひっそりとたたずむ屋敷。
 そんな屋敷で、今熱い戦いが繰り広げられていた。
 …え? 紅魔館はどうしたのかって? それはとりあえず置いときましょう。


「…てゐ。その服の下のトランプを混ぜてから配りなさい」
「…ん? 何のこと?」
「ふふ、いい根性してるわねぇ」
 そう言って永琳はてゐの服をめくる。
 多分何も知らない人が見たら、とんでもない誤解を招きかねないシーンだ。
 だが、そんな誤解とは裏腹に、服の下からは数枚のトランプがバラバラっと音を立てて床に落ちていく。
「6に8…って、てゐ!? まさかさっきの試合でもこれやってたの!?」
 七並べの鍵ともいえるカードが床に散らばっていく。
 
「う…えーと、トランプ切ってるときに入っちゃったかもしれない気がする…」
 仮に、もしもだが仮に百歩譲って服にトランプが紛れ込むことがあったとしよう。
 それが、全部6と8という可能性はどのくらいになるだろうか?
 そりゃあもうあの神社の賽銭箱にマネーが入ってくるくらいの確率になっちゃいますよ。

「いや、ありえないっしょ!!」
 当然のように鈴仙はツッコミを入れる。
 さすがの鈴仙にもその言い訳は無理でした。
「ほ、ほら、私って幸運を呼んじゃう可愛い兎さんじゃん?」
「あ、そっか…」
 鈴仙さん、信じちゃいました。




「よーし、じゃあ気を取り直して配るよー!」
「はぁ、気を取り直す必要があるのは誰のせいかしらねぇ…」
「ちょ、ちょっと永琳! あれは偶然だって!」
 そうして配られるトランプ。
 てゐの配り方が妙に手馴れていて怖かったりもしたが、無事に七並べはスタートした。
 ぽいぽいと場に出される7のカード。ハートの7を出した、鈴仙からのスタートとなった。
「はぁ…最初はやだなぁ…」
「まぁまぁ。早く出しなさいな」
「うう、分かりましたよぅ」
 


 何事もなく進む七並べ。
 鈴仙も最初はてゐの手や服、足などを凝視しまくったが、特に違和感がないので遊ぶのに専念しだした。
 そのとき、何故かてゐの顔が赤くなっていたのは多分気のせいだろう。
 そんな中、ついに試合の幕は閉じようとしていた。

「し、師匠! どうかご慈悲を!」
「ウドンゲ…この世に悪があるとすればきっとそれは人の心よ…」
 目をつぶりながら、永琳は最後のカードをパサッと出す。
 ハートの6。とりあえず最後に出すカードじゃなかった。

「じゃあ、鈴仙負けたから罰ゲームね」
「ふふ、そうね」
「罰ゲーム!? 初耳ですけど!?」
 鈴仙の言葉むなしく、てゐは部屋の隅からやや大きめの箱を持ってくる。
 箱には中が見えないように工夫してある穴と、横にはドクロマーク。
 なんでこんなのがあるの? より、なんでこんなに凝ってるの? という疑問が先に浮かんでしまう一品。

「じゃあ、ここから一枚紙を引いてね」
「え? え!? ホントに罰ゲームするの!?」
「まぁまぁ。書いてあることは簡単なものだからさ。引いてみてごらんよ」
「うー、気が進まないけど…」
 恐る恐る怪しいボックスに手を入れる鈴仙。
 中に入れると、そこには数枚の紙があることが窺える。
 間違ってもお米など入っていなかった。
「引くしかないのね…」
 意を決して一枚の紙を選ぶ。

「とりゃーーー!」
 
 引いた紙をバッと掲げる。
 その場にいる全員の視線がそこへ釘付けなった。

「えーと、なになに…『師匠がいたら、師匠をビンタする。いない場合は次の試合へ』」
「………てゐ、ちょっと」
 永琳はそれはもう気持ちのいい笑顔でてゐの頭を掴む。
 いや、掴むというより握る、に近い動作。
「てゐ。中々おもしろい罰ゲームが入ってるのね」
「そうよ! 無理に決まってるでしょう!」
「い、いや、ほんの出来心で!」
 足をバタバタさせながら、必死に弁解する。
 ちなみに、てゐ、ちょっと浮いてます。
 自分の力で飛ぶことも可能だが、今回は特別に永琳の助力つきだ。

「で、でもこれ永琳が引いたら何にも無い、いわばボーナスチャンスだよ!?」
「って、最初から私ターゲットの紙じゃん!」
「…くっ、さすがてゐね…。分かったわ。ウドンゲ! さぁ! ギブミーアビンタ!」
「えぇ!? 師匠マジっすか!?」 
「ウドンゲ! これも修行よ!」

 鈴仙は頭を抱えて悩みこむ。
 そりゃあ、師匠に恨みが無いわけじゃない。
 でも、殴るなんてできませんよ。
 あ、でもそういや一昨日プリン食べられたなぁ…。あれ楽しみに取っておいたのに…。
 しかも、食べ終わって「おいしかったわよ、ウドンゲ」だもんなぁ…。
 …うん。やろう。

「師匠いきます!」
「ちょ、ウドンゲ!? なんかさっきとテンション違うわよ!?」
「気合だーー!!」

バチコーン!
 
 それはもう、爽快な音が響く。
 へたりと座り込む永琳。そしてその状態でフフフ、と不気味な笑い声を漏らす。
「だ、大丈夫永琳…?」
「…ええ。問題ないわ。じゃあ早く次の試合にいきましょうか?」
 頬に赤い、いや、紅い痕を残し笑う永琳。
 その笑みの真意はなんだろうか。とりあえず、好意ではなさそうな笑みだ。
「し、師匠! すいませんでした! つい出来心で…」
「しょうがないわよ、罰ゲームだもの。怒ってないわ。…ええ、怒ってないわよ」
 不気味なオーラが場を包む。
 前回とは打って変わって、重い空気の中で次の試合は行われるのであった。 




「じゃあ、私からね。はい」
「…パス」
「…パス」
「あら? 二人ともださないの? じゃあ私は遠慮なく」
「……パス」
「……パス」
「あらあら。そんなに手札が悪かった? それとも作戦かしら? じゃあ出すわね」
「パーーーース!」
「ヘイ! パス!」
「これで最後のターンになっちゃうのかしら?」
「あ、鈴仙。そういえばにんじん冷やしてたっけ?」
「あ、そうだったね。多分おいしく冷えてるよ! 行こっか!」
「フフフ」
 ズッ、と伸びる永琳の手。その速度、速し。
 永琳の両手には兎。二兎追うものは一兎も得ずというが、それはどこかの⑨の話。
 真の天才とは、二兎追えば二兎手に入れるものなのだ。

「逃げるのはよくないわよ?」
「イ、 イカサマだー!」
「そうだー! 横暴ですー!」
「よく言うじゃない? イカサマはばれなきゃイカサマじゃないって」
「えぇ!? してたの!?」
「例えの話よ。ふぅ…じゃあ罰ゲームを執行しようかしら」
 部屋の隅から例の箱を持ち出す。
 だが、てゐほどの兎。こんなことも予測済み。中に入っている紙は全て自分に無害なものなのだ。
 内心ほくそえんでいるのは誰も知らない事実であった。

「じゃあ引いてもらおうかしら。
 あ、今回は二人だから、どっちかが引いたのを二人でやってね」
「よし、鈴仙! 私が引くよ! 私の幸運をなめてもらっちゃ困るね!」
「う、うん! てゐ! お願い!」
 この場の勢いに任せ、てゐに任せる鈴仙。
 いや、きっとてゐならやってくれるだろうという想いから任せたのだろう。
 

「とりゃーーー!!」
 箱が、そして、この家が揺れるほどの勢いで紙を出す。
 まぁ家が揺れたらそりゃ大変なことなのだけど。


「ど、どうなの?」
「えーと、なになに。…『レミリアの顔に落書きをする』」
「……」
「……」
「……鈴仙、聞いてね。私こんなのいれてないんだよ?」
「……うん。そうだよね。これ罰ゲームというか、ただの罰だよね」
「ふふふ、じゃあふたりとも、がんばってね」
 今日一番ともいえる笑顔で応援する永琳。
 問題の二人といえば、あはは、うふふ、といいながら追いかけっこをしている。
 
「大丈夫よ、ウドンゲ。ビンタができる勇気があるならきっと出来るわ」
「…うぅ~、すいません~。だからこれだけは勘弁を~…」
「……気合、よ」
「む、無理だぁーーー!!」
「鈴仙! 逃げるよ!!」
「…ええ。まぁ逃げてもいいわ。でもそのときは……」
 チラッと見せる注射器数本。
 その中身は、金、銀、銅からパールまでも思わせる。
 人体に影響があるのかといわれたら、たぶん致死ですといわざるえない代物。
 もしかしたら打たれたら首を掻き毟って死ぬとか無残な結果も想定できてしまう。

「い、行きますから、そのナイトメアを具現化したものを収めてください…」
「あら? さすがてゐね。いい判断だわ」
「うぅ…じゃあ行ってきますね…」

 そうして二人は空を飛ぶ。
 目指すところは紅魔館。
 いったい何が起こるのだろう、考えただけで吐血もの、と。


「…てゐ、なんか作戦ある?」
「んー…まぁ、なんとかなるんじゃない?」
「そうね。何か考えてもそれ通り実行できるわけないもんね、あの館だし」
 多分てゐはそこまで考えて発言していないだろうが、鈴仙の言うことはもっともだと言えた。
 あの館、つまり紅魔館にはまず、門場なんて大層なものがいる。
 この門番の力も相当なものがあるのだから、入るのに一苦労するだろう。
 次に噂のメイド長。時を止めるなんて反則なことをしてくる。
 最後に紅魔館の主、レミリア。
 身のこなし、カリスマ、ちっちゃい、など色々反則だ。
 これにくわえ、まだ見ぬ何かがあるのだろうから、作戦なんて本当に意味がなく思えてしまう。

「臨機応変ってのもなんかかっこいいよね…ははは…」
「うん…まぁがんばろうね…」
 二人して乾いた笑みを浮かべる。
 今の二人の周辺の空気は、何故か他のところより重く感じられた。






「あ、見えてきた」
「はぁ…やっぱやるんだよねぇ…」
 二人が飛ぶこと数分、何事もなく紅魔館まで到着していた。
 時刻は陽が頂点よりやや傾く昼時。奇襲にはあまり適してない時間。
 まぁ二人はそんなことまで考えてなかったのだけれども。
「じゃあばれないようにこっそり行きますか」
「うん。そうしよっか」
 忍び足でゆっくりと門のほうへ向かう。
 ここでばれたら、それはもう連鎖的に中に入るのは大変になるだろう。
 門番を瞬殺するという血なまぐさい案もあったが、あいにく二人にはその技量はなかった。

「(いた! 門番だ!)」
「(やっぱりあの人をどうにかしなきゃ中に入れないか…)」
 さすがにここまで近づいて声を出して会話などという愚行はしない。
 会話のモードをアイコンタクトへシフトする。
 アイコンタクトを始める…つまり、彼女達も本気なのだった。


「ぎょ、餃子!!」


 いきなり奇声を発する門番。
 予期せぬ事態に二人は取り乱す。
「(ばれたか!?)」
「(いや、ばれて餃子! ってのはおかしいでしょう!?
  え、もしかして私達って自分達が気づいてないだけで餃子に見えるの!?)」
「(あ、鈴仙はちょっと見えるよ)」
「(マジで!?)」
 そもそも餃子に見えるってのが、まことに意味が分からないのだが、
 緊迫した状況だけあって鈴仙も普段の思慮はなかったのだと思う。
 鈴仙が「餃子かぁ…せめて生命体がよかったなぁ…」なんて言ってるうちに、
 門番が新たなアクションを起こした。

「しょ、小籠包!?」

「(あー、確かに。そっちのほうが近いかも)」
「(どの辺が!? どの辺が餃子より小籠包ですか!?)」
「(ほら…その耳とか…)」
「(マジっすか!?)」
 いや、多分餃子のほうが近いです、なんて気のきいたものもなく門番は言葉を続ける。

「いや、もう勘弁してください咲夜さん…そんなに食べれませんよぅ…」

 今この時点で門番は一人だ。
 ならば、この門番は誰に向かって喋っているのだろうか?
 もしかしたら、この門番は色々と末期症状で見えちゃいけないものが見えてる可能性もある。
 だが、この場合適切なのは多分……寝言だろう。
 その証拠にと言わんばかりに、門番は古典的なフレーズを口ずさむ。
「ZZZ……」
 立ったまま寝るなんて器用な真似をするのは、そうしなきゃいけないぐらい苦労しているのか。
 それとも門番の只の怠惰か。
 なんとなく後者の気がしてしまうのは、門番の安らかの寝顔を見たからだろう。

「(寝言かよ! てゐ嘘言ってたの!?)」
「(え? ああ、うん。餃子に見えるとか意味分かんないし)」
「(むきぃぃぃーー!)」
「(あ、今餃子に似てるよ)」
「(はい!?」
 そんなわけで何事もなく紅魔館侵入は成功した。
 門番さんそれでいいのかよ、と問いたくなる暖かい午後のひと時だった。


「さて、玄関前に至ったわけですけど…入る?」
「いや、正面から突破できるならこんなにこそこそしないでしょ」
「じゃあ裏口にでも行きますかー」
 中々むかつくくらい広大な庭を歩く。
 時々メイド達と「こんにちわー」なんてすれ違いながら、二人は裏のほうへ向かっていった。

「あれ、ここからならばれないで行けるんじゃない?」
「ん? 確かに…。この怪しさは行くには充分に値するかも」
 二人の前には木で出来た古めかしい大きめの扉。
 開けるな危険という空気も出ているが、開けるなといわれたら開けたくなるのが性というもの。
 二人は空気なんて関係なしに、笑顔で扉を開けることしましたとさ。

ギィィィイィ!

 重苦しい音と共に開かれる扉。
 その中には、無限ともいえてしまうほどの本、本、本…。
 見渡す限り、本棚、もしくは本、あるいはブックカバーだけだった。

「……何奴だ?」

 その重苦しい空気と共に現れる、漆黒を纏う悪魔。
 悪魔といえば色々な逸話を持つ、強者。
 それが今二人の目の前に存在する。一瞬にして状況は最悪になってしまった。

「用無き者は去れ。さもなければ、すり潰すぞ…?」
「いや、レミリアさんに用があってきたんですけど…」
「ちょ、ちょっとてゐ! それ秘密!」
「ほう…? レミリアに用事があるのか。しかも内密に動くとなると…貴様ら、狙うは命か?」
「いや、命っていうか…顔?」
「てゐ! だから秘密じゃんそれ!」
「ふふふ…久方ぶりだぞ、敵として訪れる者は。よかろう、まずは中に入るがよい。話を聞こう」
「お、話が分かるねぇ」
「えぇ!? いいんですか!?」
 そうして二人は、苦もなく中に進入することに成功した。










「えぇーーー!? 罰ゲームで来たんですかー!?」
「え、いやまぁ…ねぇ?」
「ははは。小悪魔さんも七並べとかやるんですか?」
「ええ。門番隊の方達とは結構やりますよー」
 図書室の一室にて、三人は座りながらお茶を飲み話に花を咲かせていた。
 端的にいうと、和んでいた。
「ふぅ、でもあんな喋り方してたから最初は驚きましたよ」
「いやー、一度やってみたかったんですよねぇ。どうですか? 悪魔っぽかったですか?」
「なんていうか、魔界神じゃないかと思ったよ」
「いえいえ。実際の魔界の神はあんなんじゃないですよ」
「へぇ~」
 もうこれでもかってぐらい和む三人。
 なんていうか私たちはここに遊びにきたんですよ、と言わんばかりに。
 だが夢中になるということは、時間が早く過ぎるということ。
 そんなこんなで話し込んでいるうちにとっぷりと陽は落ちていた。

「うーん、お腹すきませんか?」
「あ、そうですねぇ」
「じゃあちょっとご飯作ってきますね~」
「え? いや、私たちの分は別に…」
「いえ、いいんですよ。お客様なのですからどうぞお待ちください」
 客? いえ、敵ですけど。という間もなく小悪魔は駆けていく。
 てゐに至っては、先ほどから眠っている。
 こうやって眠っている姿だけを見ていたらかわいい兎なのに。
 鈴仙は、人知れず…いや、兎知れず? 語呂が悪いですね。まぁ人知れず深いため息をついていた。




─── 数分後

「どうぞー。お待たせしました」
 小悪魔が料理を持って現れる。その両手には大量の料理。
 にんじんスティック、にんじんスープ、にんじんステーキに、にんじんご飯。
 にんじんジュース、にんじんの姿焼き、にんじんとキャロットの炒め物など、
 好意で出してくれているのだろうが、何故かケンカを売られているような気がしてならない献立。
「わあ、おいしそうなにんじんだなあ」
「あはは、わたしもとてもうれしいな」
 二人の言葉も棒読みになる。 
 確かに兎なのだから当然にんじんは好物だ。だが、量が量である。
 たとえば、肉が好きな人に肉だけ出してもそれはキツイものがあるだろう。
 今のそれは、まさにこれだった。

「喜んでもらえて私も嬉しいです! どうそ、遠慮なさらず食べてくださいね」
 小悪魔は、あいにく棒読みなんてものが効かない体質だった。
 マジメ、天然、いじられ役…あぁ、つまり鈴仙と同じタイプか、とてゐも頷く。
 そういえば、白玉楼の庭師もそんな属性の持ち主だったと聞く。
 この三人を集合さしてみたいなぁ…などてゐは思っていた。

「「「いただきまーす」」」

 そうしてにんじんを食べだす三人。
 そりゃあにんじん尽くしってのも癪だけど、それとは関係なく料理はおいしかった。
「すごいおいしいですよ! 小悪魔さん! 天才ですか!?」
「た、確かに…これは私以上だ…」
「いやぁ、お口に合ったみたいで幸いです」

 料理がおいしい、というのは問題はなかった。
 唯一問題があるのだとしたら、この料理の量だっただろう。
 三人しかいない食卓に並ぶは、役十枚ほどの皿。
 これらから導き出される答えは一つ、倒れるのも時間の問題、というものだった。



 
「てゐ…私のことはいいから…先に食べて…」
「ば、馬鹿鈴仙! 諦めちゃ駄目だ! ほら! 早く立って!」
「て、てゐさん…私ももう駄目みたいです…後のことは、お願いします…」
「こ、小悪魔! え!? 後のことって後片付け!?」
「てゐ…実は私…あなたのこと最初に見たときから……ぐふっ!!」
「鈴仙!? 鈴仙!! れいせーーーん!!!」
 鈴仙は、最後に想いを伝えれたことに満足したのか、笑顔でゆっくりと目を瞑っていく。
「れ、鈴仙! 目を開けてよ!」
 てゐは鈴仙の胸に手を当て、タイミングを合わせて押すというものを繰り返す。
 俗に言う心臓マッサージだ。
 まぁ、満腹で動けない人間にこれをやったとしたら、結果はどうなるか。
 専門用語では、リバース、逆流、などいう現象が起こる。
 今の状況をかっこよく言うならば、レイセン・オブ・リバースと言えるだろう。

「ちょ、ちょっとタイム! てゐ! 私が悪かったから止めて! で、出る!」
「ん? 何が?」
「主に乙女の口からは言えないようなものが! や、止めて! 無理! キブギブ!」
「んー。しょうがないなぁ。じゃあ後片付けお願いね」
「え!? なんで!? って分かったから押さないで! 出るから!」



 ジャブジャブジャブ……。
 鈴仙食器洗い中。
 
「すいませんねぇ、お客様にこんなことして頂いて」
「そういえば、私たちってレミリアの顔に落書きしにきたんだよ? それなのにお客様?」
「何を言ってらっしゃいますか。そんなおもしろ……もとい勇気のある行動、
 応援だけでもしたくなっちゃいますよ」
 一瞬、小悪魔が悪魔っぽさを垣間見せていた気がした。
 やっぱり、小悪魔だけあってこういったことには興味津々なのだろう。
 まぁ内部と通じるのは効率のよいものなので、問題はなかったが。

「じゃあさ、レミリアの部屋の位置とか教えてもらえる?」
「ええ、もちろんですとも! 身長、体重、スリーサイズまでばっちしお教えします!」
 渡りに船、といわんばかりに教えてもらう。もちろん全部。
 何故小悪魔がこんなことを知っているかはこの際気にしないことにした。
 なお、この後てゐから「なっ!? あの小さい体のどこにこれだけのパワーが!?」等の謎の発言があったが、
 そのときに話に参加した鈴仙には何のことか分からなかったみたいだ。

「よし、じゃあ行くよ鈴仙!」
「OK! お腹も膨れたし、準備万端!」
「あ、そうだ。これ、メイド避けのお守りです。どうぞ持っていってください」
「ん? これは…。ありがとう、小悪魔さん! じゃあ行ってきますね!」
「はい! 吉報をお待ちしてます!」
「じゃあ終わったらまた来るからさ。首を長くして待っててよ」
「はい。ではお気をつけて~」




 駆ける二人。目指すは、レミリアの部屋。
 この館内のマップはもう頭に入っているので、最短ルートを行く。
 図書館、というものもいい場所だった。レミリアの部屋まで安全に行けるルートが確保しやすい。
 そう、小悪魔の手助けは相当に力強いものだったのだ。
 入って迷いました、じゃあ意味もへったくれもない。
 
 そうして順調に進む二人。
 しかし、得てして問題はこういうときに起きるものだ。
 だがラスボスの前の中ボスなんて決まっているもの。
 逆に言えばレミリアはもう、すぐ目の前だった。

 
「あれ? なんかおもしろいのがいる」
「……」
「……」
「ん? どうしたの? この耳は飾りなの?」
「……えーと、誰?」
「って、この館にいるのにあなた達知らないの? 私はフランドール。フランドール・スカーレットよ」
「あぁ。あの噂の妹君かー。よく壊すっていう」
 フランドールを見ても特にたじろぐこともなく話を続ける。
 てゐは案外図太い神経を持っているのかもしれない。
「じゃあさ…何して遊ぶ?」
「ん? なんか話が飛んでない?」
「私の家で私の前に現れる。つまり、私と遊ぶってことでしょ?」
「あー、なるほど。理は適ってるねぇ」
「そういうこと。じゃあ遊ぼっか?」
「いくら出す?」
「にんじんいっこ」
「にんじん一個じゃ、兎一匹買えないよ」
「あなたが、ピョンピョン出来ないのさ!」
 
 いや、もう話の意味が分からなくなっている。さすがはスカーレットの血を引くもの。
 わがままというスキルはデフォルトで装備済みだ。

「よし! 鈴仙任せた!」
「え!? そこまでかっこよく決めたなら自分でやりなよ!!」
「あ、あいたたた…ぽんぽんが痛い…というわけで先に行ってるね…」
「ちょ、てゐ! てゐ!! てーゐ、カムバーック!!」
 全速力で駆けてくてゐ。
 もう、お腹痛いとかそんなレベルじゃないほど腕を振って走っていく。
 妙に洗練されたその走りのフォームに、鈴仙は悲しみしか沸かなかった。


「…ごめんね、フランドールちゃん…。あの子、ちょっとわがままで」
「え、いや、まぁ、うん。あなたも苦労してるんだね。…じゃあさ、私と一緒に遊ぶ?」
「…うん。そうしよっか」
「じゃあ七並べでもやろっか」
「…うん」
 あ、弾幕とかじゃないんだ、と内心ほっとするする鈴仙。
 そんな中フランドールは鈴仙の腕を引っ張り歩いていく。
 まぁここで戦闘云々になるよりは、どっちかが遊んでいたほうが効率はよいだろう。
 てゐはきっとそこまで考えていたのだと思う。いや、そう思いたい。そう願っています。




「部屋の前にメイド長が一人、か」
 レミリアの部屋のすぐ近くまで到着したてゐは、冷静に今の状況を観察していた。
 部屋の前にはメイド長一人。これを乗り切れば晴れて対面だ。
 さっき小悪魔にもらった例のアイテムを取り出す。
 ちなみにこれは鈴仙からここまで来る過程で譲り受けていた。

ポイッ!

 それを、うまくメイド長の前に来るように投げる。
 投げたもの、それは──デフォルメレミリア人形。
 某人形師が作成したといわれる、それはもうとてもかわいらしい人形。
 携帯のストラップに、アクセサリーに、部屋の潤いに、など用途は様々。
 今ではもう手に入らないとされている、レアな一品だ。

「な、これは!? 徹夜で並んでも手に入らなかったお嬢様の人形!!
 何故こんなところに?! いや、これは僥倖よ! レッツネコババ!!」

 てゐがまばたきをした瞬間の出来事だった。
 てゐからしてみれば、あれを投げた次の瞬間、メイド長と共に人形が消えていた。
 何か、空間に作用して違う空間に飛ばすアイテムかと思ってしまうぐらいに不思議な光景。
 とんでもないアイテムを授けたものだと、小悪魔に感謝をしつつレミリアの部屋の扉を開けるのであった。


「たのもー!!」

 豪快に叫ぶてゐ。
 そんな大声で叫んだら誰か駆けつけてもおかしくないが、
 そんなことも考えれないくらいテンションはあがっていた。
 それはRPGで初めてラスボスにいったときの高揚感みたいなあの状態だ。

「って、誰もいないじゃん…」

 考えてみれば、部屋がわかっても部屋にいなければ意味はない。
 こんなことに気づかないなんて、なんて失態だろう。
 ちょっと春度が高まりすぎて、我を見失っていた。

「まぁでもこのまま部屋に忍んで寝たところに書けば万事おっけーか」

 そうして、てゐは部屋に進入して身を潜めることにした。
 まぁこの状況だからいえるが、そもそも最初はどうやって書くつもりだったのだろうか。
 レミリアにすいません、ちょっと書いていいですか? といって、はい、と答えるわけがない。
 いや、むしろ、この質問に対してはいと答える人は色々とまずいだろう。
 力ずくでは圧倒的不利といえる。
 そういった点から考えて、逆に言えばこの状況、実に最高の状況だったのだ。




 ガチャッ!
「ふぅー、今日も今日で疲れたわねぇ」
「(うわ! 帰ってきた!)」
「まさかあそこで咲夜が餃子と小籠包を使ってくるなんてね…。さすが私の従者ね」
「(くっ、何の話なの…激しく気になるじゃないの…)」
「まぁでもあのコンボの最後の春巻は余計だったわね。まだまだ精進が足りないわ」
「(な、何の話なんだ!? くそう、気になる)」
 謎の話を繰り広げるレミリア。
 その話について、大層興味を惹かれるてゐ。
 まぁ実際気になるのは否定できない。なんだろう、春巻って。

「さて、寝ましょうかな……ってその前にやることがあったわ」
「(ん? 寝るのかな? やったチャンスだ!)」
 


「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない?」

 レミリアは自室の闇に向かい問いかける。

「ふふふ、よく分かったねぇ」

 てゐは、ばれたらしょうがねぇなぁと言わんばかりに出てく。
 その姿は、まるで三流悪役だった。


「…で、こんな夜中に何か用?」
「(さて、どうしたものかな)」
「…まさか私には言えない用なのかしら?」
 ギラッ、と睨みつける。
 殺気が一瞬にしてこの空間を包む。
 この場にいたくない、この場から離れたいという衝動に駆られるが、
 てゐはそれを相手に悟られないようにと口を開いた。

「いや、ちょっと賭けをしようかな、と思ってね」
「……賭け? へぇ、おもしろそうじゃない」
「(やった! 食いついた!)」
 てゐにしてみれば、これが賭けだった。
 この話に食いつかず、いきなり戦闘になっていればそれこそ最悪だ。
 こうなってしまえばこっちのもの。
 恐怖などはもうない。あとはいかにして騙すか、だ。

「はい、では説明しますね。まず、あなたに私が何かする…まぁこの際は髪型を変えるとかでもいいんですけど、
 それで、あなたは明日一日誰にも何も言われなかったら、私の勝ちで」
「へぇ…それで、勝ったら何がもらえるのかしら?」
「そうだなぁ…トマトジュース?」
「ふっ。この賭け、成立は無いみたいね。じゃあ色々と目も当てられない状態になってもらおうかしら?」
 指をパキパキと鳴らしながら、近づくお嬢様。
 まぁぶっちゃけ、このお嬢様がどんな動作をやっても、
 恐怖よりも先に、うわ、かわいいーって言葉が出てしまうのはいかがなものか。
 てゐも何故かその動作に畏怖は感じなかった。

「まぁまぁ。これは髪型を変える、とかだった場合の話。賭けをするなら、
 リスクが大きいほど、リターンも大きくなるものでしょ?」
「あら、おもしろいことを言うのね。じゃあ私が欲しいもの、例えば高級なワインなどを指定した場合、
 それはやはりリスクは大きくなるのかしら?」
「そうだねぇ…。顔にちょっとだけ落書きをして、それに誰か気づいたら勝ち、でいいよ」
「……それでワインが手に入るなら楽なものね」
「……やる?」
「ええ、やってやろうじゃない。…それであなたは何を望むのかしら?」
「ん? じゃあ私もワインでいいよ。適当に2,3本もらってくから」
「分かったわ。じゃあ、賭けは成立ね。明日が楽しみだわ、フフフ…」
 巧みな話術で相手の心理の裏をとり、確実にこの賭けを成立させた。
 まぁ実際巧みなのかは非常に分かりづらいところがあるのだが。
 レミリアが単純なだけかもしれなし、てゐが巧みなのかもしれない。
 絶妙に微妙な攻防だったといえるだろう。
 何はさておき、こうしててゐは落書きミッションを無事完了さしたのだった。


キュキュキュ…。
 
「よし、完璧」
「……何を書いたのかしら?」
「ん? ああ、額に瞼を書いてみたんだけど」
「それに誰かが気づけば私の勝ち、ね。簡単ねぇ」
 まぁ、ここで嘘を言う必要はあまりなかったのだが、最後くらいこっちがやってやる、みたいなものなのか。
 レミリアの額には、この瞬間ついに『 肉 』が降臨したのであった。

「じゃあ、また明日来るから~」
「ええ。おいしいワインを持ってきてね?」
「ははは。そっちこそおいしいワインを用意しておいてよ?」


バタン! 


「よし、小悪魔のところに戻ろうかな」
 任務の成功の報告、それにこれまでのお礼も兼ねて小悪魔の部屋へ向かう。
 まだ侵入者なのだから、もうちょっと落ち着いて歩こうよ、みたいなことも言いたくなるが、
 テンションもあがりっぱなしなので、走るという選択肢しか頭に無かったみたいだ。



ガチャッ。
「小悪魔―! 成功したよー!」

「あ、てゐ!! さっきのはひどいんじゃない!?」
「あ、てゐさん。成功したんですねー。良かったです」
「あ、さっきの兎。ん? 何かしたの?」
 三人三様、様々な言葉に迎えられた。
 怒り、喜び、質問、この状況に対して言葉一つで返せというのか、この娘達は。
 さすがのてゐもたじろぐという行動しかできなかった。

「まぁ成功したからさ。明日楽しみしてるといいよー」
「で、何したの?」
 今回の事件についてまったく無知なフランドールが疑問を投げる。
 そりゃあ、いきなり成功したーとか飛び込んできたら、気にするなというほうが酷だろう。
「いや、ちょっとあなたのお姉様の顔に落書きしてきた」
「……おもしろいことするわね」
「あ、なんだ。フランドールもこっちサイドの人なの」
「あー、私も誘ってくれたら顔と言わず全身に落書きしたのにー」
 いや、全身に落書きはまずいですよ、とは誰も言わなかった。
 興味はある。でもさすがに出来ないだろう、いろんな意味で。
 まぁやる機会があったら呼んでください、見たいから、とだけ付け加えていた。

「明日会う機会があったら楽しみにしておくんだよ」
「「あーおもしろそー」」
 小悪魔とフランドールは二人して目を輝かす。
 獅子身中の虫、とはよく言ったもの。
 姉の痴態に喜ぶ妹に、館の主の痴態に喜ぶ図書館の司書。
 中々の荒廃模様だといえるだろう。

「って私見る機会ないじゃん!?」
「「「あ」」」
 不意に叫ぶ鈴仙。
 そうだった。もう帰るじゃん。ワインのことはてゐだけの秘密。
 ならば、鈴仙はこんなおいしい状況なのに見れないということとなる。

「あ、あの…なんなら泊まっていきますか? そうすれば明日見れるかもしれないですし…」
「え? いいの?」
「ええ、いいですよ! 図書館なんて部屋が余りに余ってますから!!」
「じゃあ、お願いします…」
「分かりましたー。では七並べの続きでもやりましょうか。てゐさんも、やりましょう!」
 そうして、雰囲気はお泊り会モードへと一転。
 わいわいがやがやと、夜遅くまでその部屋の明かりは消えなかった。

「そういえばさ、小悪魔ってワインとか好き?」
「ええ、好きですよー。最近は赤いのにちょっと凝ってまして」
「ああ、ならさ。明日雨降らしてくれないかな?」
「パチュリー様に頼めば多分出来ますけど…なんでですか?」
「いや、雨さえ降れば十中八九おいしいワインが手に入るからさ」
「……? まぁ善処してみますね」
「うん、お願いするね」
 意味深なやりとりを繰り広げる。
 小悪魔には、まったく意味がわからなかっただろうが、てゐ的には重大な問題。
 勝ちへの執念が、一匹の兎をここまで駆り立てているのだった。
「あ、あとレミリアには書いてあること言わないほうがいいかも」
「当たり前じゃないですかー。そんな野暮な真似しませんよ」
 小悪魔はあの賭けを知らない。
 つまり、寝てるうちに書いたとでも思っているのだろう。
 それでいてこの発言ができるなんて、やはり小悪魔だけに根っからの悪魔ということか。
 最後に、妹様も多分そんな野暮な真似はしませんから安心してください、と言う。
 この館、やはり中々侮れない人間関係をしているみたいだった。


「じゃあ、よい夢を。おやすみなさい~」
「あい。おやすみー」

 今日という、長い長い一日にピリオドを打つかのように眠りにつく。
 もう罰ゲームは終わった。残すものは何も無い。
 いや、この新たな出会いがあったことには、この罰にも感謝しなきゃいけないか。
 そんなことを考えつつ、徐々に深い眠りに誘われていった。






 チュンチュンチュン──。
 何か外が騒がしい。門番の声と、鳥の断末魔が聞こえた気がするところでてゐは目を覚ました。
「んー? あー、朝かー」
 さすがに健康第一ということだろうか。
 たとえ違うところで眠ったとしても、早起きは欠かさないその姿勢。
 あの迷惑なスキマさんにも見習って欲しいものだ。
「れいせーん、朝だよー」
 隣で寝ている鈴仙の体をゆさゆさと揺らす。
「あ、てゐさん。私達ちょっと行ってきますので戻ってくるときに朝ごはん持ってきますね~」
「う~、楽しみ~。早く行こうよ小悪魔!!」
「あぁ、分かりましたから引っ張らないでくださいーーー……」
 すごい勢いで引っ張っていくフランドール。
 昨日遅くまで遊びすぎたせいか、結局ここに泊まっていったみたいだった。

「ふぅ。ほら、鈴仙! 朝ですよー。起きないと色んなとこ触りますよー」
「う~ん…あと17分……」
「よし、その返事承諾と受け取ります」
 ゴソゴソと手を入れるてゐ。
 え? どこにだって? それは皆さんの想像の自由です。

「ひゃう!?」
「あ、起きた?」
「ちょ、てゐ今何した!?」
「いや、何もしてないけど」
「え!? 夢!? あ、そうか…だからてゐが…」
 自分の夢だったということで鈴仙は事なきを得たみたいだった。
 いったいどんな夢を見ていたのだろうか。気になるところだ。


 ちょうどその時、フランドールと小悪魔が朝のコーンスープを吹いていた。
 言い訳はちょっと寝不足気味で…らしい。


「ふぅ、じゃあ朝ごはん待とうか。もうすぐ持ってきてくれるって」
「うーん、なんか至れり尽くせりだね」
 実際いきなり来た客にご飯までご馳走してくれるなんて、とても出来ない。
 ここの住人にはそれだけの人望があるということだろう。
 
「ちょっとでいいからレミリアさん来ないかな…」
「あ、鈴仙まだ見てないのか」
 期待に目をやり外と図書館の入り口に目をやる。
 今いる場所は死角になっているので、来てもばれることなく観察ができる。
 まぁあとで正式に客として入ればいいのだが、そこまで頭が回らない鈴仙はやっぱり鈴仙だった。




「いやー、てゐさん超グッジョブでしたねぇ」
「うん。あの肉はさすがにおもしろすぎるって」
 二人の談笑をさえぎるように、メイド長と門番長がパチュリーのほうへ走っていく。
 きっとあの肉について聞くのだろう。
「私たちに聞けば一発なんですけどねぇ…」
「あ、そういえばパチェも知らないんだ」
 まぁ、何も知らないで見たとしても強烈なインパクトだ。
 気にならないほうが普通じゃないといえるだろう。

「じゃあ妹様はどうします? 私は部屋に朝ごはんをもって行きますけど」
「ん? 私も行くよ。てゐに昨日のリベンジしないとね」
「ははは。そうですね。今日も七並べでもやりますか?」
「うん!」
 手際よく朝ごはんを作りながら話をする。
 その手際は、メイド長と同レベルといってもいいほどの動き。
 二人の去ったあとのゴミ箱にはにんじんの皮がこれでもか、というくらい入っていた。



ガチャッ!
「朝ごはんですよ~」
「あ、悪いねぇ」
「わぁ、ありがとうございます」
「あれ、鈴仙さん……」
「ん? どうしました?」
「あ、いえ、ちょっと今レミリア様に似ていたので驚きました」
「え? そうですか? ふふ、それはちょっと嬉しいですね」
「まぁ多分私の見間違えなのであんまり気にしないでくださいね」
 そうして、朝ごはんを受け取る二人。
 献立は、にんじんの味噌汁、にんじんの開き、にんじんご飯に、にんじん茶だ。
 まぁアレなメニューだが、味だけは昨日で保障されている。
 量も今回はちゃんとしているので、問題は無く平らげる二人だった。

「よし! てゐ! 再戦だ!!」
「おもしろい! かかってくるがいい!!」
「とりゃーー!!」
「甘い甘い! そんなんじゃ蝿が止まっちゃうよ!」
「くっ、私じゃ勝てないのか…!」
「フランちゃん! これを使って!」
「こ、これは…!! ありがとう鈴仙! これでどうだ!!」
「いや、今の反則でしょ」
 昨日の夜のリプレイかのように繰り広げられる七並べ。
 白熱した試合は、時間さえも忘れさせた。
 こうして四人は陽が落ちるまで、とっぷりと遊んでいた。
 外も十分に暗くなり始めて、頃合か、と呟きながらてゐは席を立った。

「じゃあ、ちょっと待っててね。ワイン持ってくるから」
「えーと、どういうことですか?」
「まぁまぁ、ちょいと待っててみてごらんなさいな」
 怪しい笑みを残し、てゐは駆けていく。
 若干不安はあるものの、結局待つしかないので三人はまた試合を再開するのであった。




─── 数分後

「はい、あげる」
「ってこれ高級ワインじゃないですか! どうしたんですか!?」
「まぁ悪いことをしたものじゃないからさ。存分に飲んでよ。二本あるうちの一本だし」
「えぇ!? いいんですか!? これ一本で巫女が一ヶ月過ごせる金額ですよ!?」
「……うん。いいよ」
 目に涙をこらえながらてゐは承諾する。
 まぁ確かに高いワインだ。でも一ヶ月は無理だろう。いや、あの巫女ならあるいは…。
 そんな悲しい想像をしつつもてゐは手渡すのだった。

「まぁお礼ってことで。私たちはもうそろそろ帰るからさ」
「うん。本当にありがとうございました」
「はぁ、こんなものまで頂いてこちらこそありがとうございます」
「また来てねー」
「うん、近いうち来るよ」

 そうして全員手を振りながら、二人は我が家へ飛んでいく。
 この出会い、そしてこのワイン。
 大切にしようと思うてゐだった。






「ただいま戻りましたー」
「ただいまー」
 一日ぶりの我が家。
 それは慣れ親しんだものであり、やはりここに来ると落ち着くというものがある。

「あら、ウドンゲにてゐ。お帰りなさい」
「いやー、大変でしたよ師匠―」
「それで? 成功したのかしら?」
「そりゃもうバッチシ。私の腕にかかればたやすいもんだよ」
「へぇ。私も見たかったわねぇ」
 皆と一緒になって笑顔で喋る永琳。
 なんだかんだいってこの二人が心配だったのかもしれない。

「……そういや師匠、どうやって確かめる気だったんですか?」
「あら、そういえばそうね…」
「って私達無駄足!?」
「まぁまぁ。その努力が大切なのよ」
「うぅ…私お風呂に入ってきますね~…」
「あ、ウドンゲ……ちょっと」
「はいー…どうしましたー?」
「いえ、まぁいいわ。ちゃんと洗うのよ?」
「…はい。わかりました~」
 重い足取りで風呂場へ向かう。
 そこで鈴仙は特に意味もなくそこにある鏡を覗く。
 そこにはいつも通り、いや、ちょっと疲れているだろう自分の顔がある。
 ── 筈だった。


「え!? ちょ、何これ!?」


 そこには、いつもと違う自分の顔がある。
 いや、違うといっても額の一点のみなのだが。

 いつもと違う自分の額──達筆な文字で書かれた、『 肉 』。


「てゐーーーーーー!!」

 半裸で走り出す鈴仙。
 もうこの永遠亭では見慣れた風景といっても過言ではないだろう。半裸以外。
 そんな平和なやりとりが、今日も今日とて繰り返されるのであった。


~ 終 ~






Q.なんでスキマや黒白じゃなくて兎なんですか?

A.兎が好きだからです。


どうも、2BAです。
いや~、やっと終わりましたよ。
自分で書いた伏線が、自分の首を絞めるという愚かな状況になっていました。
計画はご利用的に、ってことを身をもって実感しましたね。
あ、あと題名のミーツは肉の複数形です。え?文法が変になる?いや、そんな難しいことは分かりません。

何はともあれ長い話に付き合って頂いて、どうもありがとうございました。


2BA
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コメント



0.2410簡易評価
4.70ABYSS削除
アンタ大好きだ!
なんていうか平和ですねぇっていうかどうしてそこまで七並べにこだわるんだみんな…。

後最後に一言
>あの神社の賽銭箱にマネーが入ってくるくらいの確率
それってゼロじゃないのk(夢想封印
15.70rock削除
「しょ、小籠包!?」
ブハッ(笑血)
22.無評価名前が無い程度の能力削除
なんかいいなぁ。小中学生のお泊り会の雰囲気だ。
額に肉、が幻想郷でも広く認知されている、ということは、このイタズラは既に一つの幻想なわけですな。
……しかし、紅魔館の警備体制はそれでいいのか、門番&メイド長
23.80名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れです。
29.80名前が無い程度の能力削除
たしかにお泊まり会みたいな雰囲気だ
フランも弾幕少女のようなイメージがなくてすごく可愛らしかった
てゐとウドンゲはあいかわらずということでw

前後作、非常に楽しめました
38.80名前が無い程度の能力削除
なぜか不幸に巡り合い続ける鈴仙、舌先八寸なてゐ、ブラック極まりない永琳、
悪魔な小悪魔&妹様・・・みんな実にいい味でてますねぇ

前作で咲夜さんと中国の苦悩に少々同情しましたが、よく考えると
この二人ってある意味自業自得だったんですね