Coolier - 新生・東方創想話

BitterSweets(3)

2005/09/08 05:04:06
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 霊夢の後に続いて、家の外に出る。
 そして間合いを空けて立ち……霊夢は札と針を両手に構えた。
「随分な態度ね。いきなり人の家にやってきたと思えば弾幕ごっこ?」
 吐き捨てるように言いながら魔力を練り……その心許なさに衰弱ぶりを痛感する。
 正直、本調子だったとしても霊夢に勝てるかどうかは怪しいというのに。
「久々『らしい』アリスを見た気がするわ。ここのところずっとのほほんとしてたもの」
 言いざま、一挙動で札を放つ。
 予期していたアリスも寸でのところで避け……ようとして、腕を掠める。
「つぅっ……!」
 呻きながらも人形の布陣を展開して、弾幕を張る。
 しかし、アリスとは対称的に霊夢は危なげなくそれらをかわしていく。
「随分弱くなったじゃない。この前魔理沙のパートナーとか言ってた割には弱すぎね」
 あからさまな挑発。
 普段なら鼻で笑って済ませるのだが、今は心に強く突き刺さる。
「言ってくれるじゃない……!」
 スペルを解放すると同時に、上海人形を喚び出す。
 強力な魔力の篭ったレーザーを連射する。
「アリス、あんたむきになりすぎよ」
「一体何が!」
 霊夢は巧みにレーザーを見切り、同時に針を投げつけてくる。
 正確な投射に、仕方なくスペルの維持を諦める。
「言ったでしょ。あんたは人間じゃない。なのに人間と妖怪の境界を越えようとしてる」
「それが分からないって言ってるのよ!」
 いつも直球の霊夢からは想像もできないほど遠回しな話に、苛々としながら、アリスは更に人形を増やしていく。
 剣を携えた人形が、霊夢を四方から襲う。
「魔理沙のこと好きなんでしょ」
 僅かな隙間から、霊夢が包囲の外へ飛び出す。
 同時に追尾する護符を投げつける。
 それらを魔力弾で相殺し、叫ぶ。
「……そうよ、私は魔理沙が好き!」
 二人の動きが止まる。
 先程と変わらぬ調子の霊夢に比べ、アリスは既に息が上がっている。
 しかし、その瞳に宿る気迫は、死を考えていたとは思えないほどのものだった。
「魔理沙のことが好き! 愛してる! それのどこがいけないのよ!!」
 もう隠さない。
 何もかもかなぐり捨てて、ぶつける。
 だが、
「……あんた、本当に気付いてないの?」
 それに応える霊夢の声は、憐れみすら混じるものだった。
「どれだけ自分が不安定になってるか分からない? もう少しで死ぬところだったのよあんた!」
 怒鳴りつけられ、気が付く。
 揺らぐ心。
 かつてないほどの激昂。
 そして絶望感にすら囚われたこと。
 魔理沙を好きになればなるほど、心が追い込まれていったことに。
「わた、し……」
「あんた、元々妖怪っぽくはなかったけどさ。でも、人間と同じ生き方するのは難しいのよ」
 腕を下ろし、難しい表情で語る霊夢。
 アリスは、呆然とそれを聞いていた。
「うーん、何て言ったらいいのかしら……もう少し、距離置いて付き合えない?」
 アリスは俯いたまま、答えない。
 どうしたものか、と髪をかきあげ、霊夢はアリスに歩み寄った。
「ほら、もっとあんたも気楽に暮らせる程度に……」
「……それで、私に魔理沙と離れろっていうわけね」
「そういうわけじゃ……いや、あるんだけど」
「私が魔理沙と離れれば、自分は魔理沙と二人で仲良く暮らせるっていうわけね」
 アリスが顔を上げる。
「違うって。別にそういうつもりじゃ」
 ない、と続けようとして。
 霊夢は、初めてアリスに対して恐怖を感じた。
 ぎらぎらと光を反射する青い瞳。
 それは、紛れもなく妖怪の眼そのものだった。
「嘘だ。私が邪魔なんでしょ。霊夢が、魔理沙と一緒に暮らしたいから私が邪魔なんだ!」
「違う! あんた何を言って……」
「騙されない、騙されないんだからっ!!」
 身の危険を感じて飛び退く。
 が、遅い。
 信じられないほど素早く伸びたアリスの手が、霊夢の首筋を掴む。
「許さない……! 私のこと心配する振りして、体よく追い払おうとするなんて!」
「ち、がう……あ、アリス……!!」
 か細いはずの手が、ぎりぎりと首を締め上げる。
 両手で掴んで引き離そうとしても全く緩む気配はない。
「あなたがいなければ、魔理沙は私のことを……」
「……ぅ、……あ、ぁ」
 瞳の焦点が合わない。
 頚動脈を締められ、脳に酸素が行き渡らなくなっていく。
 意識が、薄れていく。
「さ・よ・な・ら」
 狂気の表情で、アリスが更に力を込める。
「やめろぉっ!!」
 そこへ、怒声が響き渡る。
 はっとしてアリスが力を緩めた瞬間、霊夢はアリスを蹴り飛ばし、逃れることができた。
「ごほ、ごほ……!! く……ぅ!」
「霊夢大丈夫か!!」
「魔理沙……!」
 急降下してきた魔理沙が、離れた二人の間に降り立つ。
 霊夢も息を整え立ち上がろうとしたが、起き上がることもままならない。
「しばらく休んでろ」
 魔理沙は霊夢にそう言い、アリスの方に向き直る。
「これは、どういうことなんだアリス!!」
「……霊夢が邪魔するからよ」
 先程とは打って変わって、無表情に淡々と答えるアリス。
 薄気味悪さを感じながらも、更に詰め寄る。
「今の、殺すつもりだったな!? 霊夢を殺すつもりだったんだろ! そこまでしなきゃならなかったって言うのか!!」
「そうよ。だって私と魔理沙の仲を引き裂こうとするんだもの」
 そう、微笑さえ浮かべて言う。
 あまりにもあっさりと殺意を認められ、魔理沙は唖然とするしかなかった。
「私、魔理沙のことが好き。この気持ちを邪魔なんてさせない」
 場違いが過ぎる告白に、魔理沙は顔を背ける。
 それを見たアリスは悲しそうに手を伸ばす。
「魔理沙……」
「触るな!」
 その手を魔理沙が鋭く払い除ける。
 今度はアリスが唖然とする番だった。
「魔理沙、どうして……?」
「私の知ってるアリスはそんなんじゃない! 一体どうしたんだよ!」
「いいえ、これが本当の私。魔理沙が知らなかっただけよ」
「違う……違う! アリスは、霊夢のこと殺そうとしたりしない!」
 それを聞いたアリスの表情が、また無表情に戻る。
 そして、また微かに憎しみを込めて呟く。
「そう……やっぱり魔理沙は私より霊夢が大事なんだ……」
「そうじゃない! そうじゃないんだよ!!」
「嘘。嘘! 二人して私のこと馬鹿にして……!」
「アリス!」
「もう信じられない!! みんな、みんな……私のことが嫌いなんだ!」
 絶叫してありったけの人形を放出する。
「くそ!」
 人形の放つ大量の弾幕を、箒に飛び乗りかわす。
 近くにいた霊夢が巻き添えになるのを防ぐため、そのまま上昇する。
「魔理沙!」
 飛び立つ魔理沙に、霊夢が声を振り絞る。
「今のアリスは人の話が聴ける状態じゃない! 何とか止めないと!」
 舌打ちする。
 アリスが纏う気配は、霊夢に向けていた殺意と遜色ない代物だ。
 明らかに弾幕ごっこの範囲を超えている。
 そのアリスを、手加減して止める。
 できるのか、自分に。
「……やるっきゃないか!」
 森の木々が邪魔をしない高さまで上昇する。
 アリスも遅れることなくついてきた。
「必ず、元のお前を取り戻してやるからな!」
「それは私の台詞よ。『私の魔理沙』を返してもらうわ」
 すれ違う言葉。
 お互いの心を掴みそこなった手が、同時に弾幕を放つ。



 勝負は常にアリスが優勢だった。
 逃げ場を封じ、戦闘力を奪うことを目的とした魔理沙に対して、アリスは純粋に相手を撃墜するつもりで撃っているのだから。
「くぅ!?」
 レーザーが直撃しかける。
 身を捻って何とか避けようとするものの、二の腕に火傷の痛みが走る。
 だが痛がっている暇はない。
 少しでも意識を逸らせば畳み掛けるように幾条もの光が集中する。
 もし姿勢を崩せば、そこで終わりだ。
「冗談じゃないぜ!」
 アクロバティックに飛行しつつ、星型の弾をばら撒く。
 適当なようでいて計算されつくした弾幕がアリスを襲う。
 が、それでも通用しない。
 僅かな規則性を見抜き、瞬時にその隙間に身を投じる。
 アリスとは、幾度も手合わせしているのだ。
 既にお互いの手の内は殆ど読めていると言っていい。
「そうさ、お互いに、な!」
 魔理沙もまた、アリスのパターンは知り尽くしている。
 距離を詰めたときの対応。
 回避された際の追い撃ちを放つ方向。
 それらのパターンは、いつもと変わっていない。
 突如、魔理沙は急旋回する。
 そしてすぐさまターンすると、ろくに狙いも定めずにマジックミサイルを連射する。
「何のつもり!?」
 かすりもしない弾を無視し、更に数本のレーザーを照射するアリス。
 だが、その軌道が幾らかずれる。
 動揺しているのだ、パターンから外れた行動に。
「後は……出たとこ勝負!」
 急加速。
 慌てて人形の配置を変更し迎撃に移るものの、僅かに遅い。
 光は魔理沙のすぐ背後をかすめていく。
「もらった!!」
 至近距離。
 魔理沙がスペルカードを構える。
 マスタースパークだ、とアリスは読んだ。
 これだけリスクを冒してでも飛び込んでくるからには、確実に一撃で仕留めるつもりだろう。
 ならば最も回避しづらい至近からのマスタースパークの可能性が高い。
 だが、発動の瞬間さえ見切れば避けられないわけではない。
 そしてマスタースパークを放った直後は無防備だ。
 その一瞬に賭けて、アリスはスペルの発動に備えた。
 しかし、
「スターダストレヴァリエ!」
「!!」
 魔理沙を中心に形成される無数の星型弾幕。
 遠距離ならばその隙間を縫うことも可能、だがこの距離で放たれては潜る隙間などあろうはずもない。
「あああっ!!」
 かろうじて身を縮めて防御姿勢を取ったアリスを、幾つもの直撃弾が見舞う。
 一発の威力はさほどでもないが、全身にダメージを負うこととなった。
「弾幕はブレイン、だろ?」
 これまでの攻撃で幾つもの火傷を負った魔理沙。
 だが、この一瞬の攻防でアリスの被害はそれを上回った。
 これで降伏してくれれば。
 そう思うが、まだアリスの瞳から暗い闇が消えることはない。
「魔理沙……そんなに私のことが嫌いなの……?」
「嫌いなわけないだろ! 私だって、アリスのこと……」
「ならどうして!」
「それはこっちの台詞だ! 一体、一体どうしてこんなことになってしまったんだ!!」
 どうして。
 二人に共通する気持ち。
 だが、完全に重なることは、ない。
「どうして? それを魔理沙が言うの!?」
 更なる人形をアリスが召喚する。
 剣を構え、魔力を解放しながら全てが魔理沙に襲いかかる。
「私がどうしたっていうんだよ! 私がアリスに何をしたっていうんだ!」
「そんなこと言って惚けるんだ!? 私の気持ちにだって気付いてたくせに!」
 アリス自身もまた魔力を練り上げ、スペルカードを構える。
 春の京人形。
「ちくしょう!」
 人形たちを撃墜し、京人形の攻撃を避けることに専念しようとするが……間に合わない。
「う、あく……!!」
 空中で多数の攻撃に揉みくちゃにされる。
 跳ね飛ばされ、その先でレーザーに背中を焼かれ、剣戟が腕を切り裂く。
「ここまで、なのか……」
 打つ手がない。
 受身を取ることもできず、ただ嵐のような弾幕に痛めつけられていく。
 悔しかった。
 何よりも、アリスの手にかかってしまうことが。
 そう思いながらも覚悟を決めたとき……突然、攻撃が止んだ。
「……アリス?」
 見れば、アリスは全くの無防備な状態でただ浮かんでいる。
 そして気付く。
 もうアリスには殆ど魔力が残っていないことに。
「アリス……」
「どうして……どうしてこんなことに……」
 涙。
 うな垂れるアリスが、顔をあげる。
 そこに浮かぶ表情は、悲痛で、見ているほうが痛々しいほどだった。
「私、魔理沙にもっと見てもらいたくて……色々頑張ったのよ」
 ぽつりと、アリスが語りだす。
 魔理沙も視線を外すことなく、黙ってそれを聴き入れる。
「もっと仲良くなりたくて、色々試して。いつも緊張したけど、魔理沙が笑ってくれると安心したの」
「……ああ」
 二人の胸に去来するのは、穏やかな日々。
 少し意外な、でも魅力的なアリス。
 魔理沙も驚きながらもそれを自然に受け入れていった。
 お互いに、笑顔でいられることが嬉しかった。
 それまでよりずっと仲良くなれた。
 これからも、もっと仲良くしていけると思っていた。
「……どうして、かしらね。私、どこかでおかしくなったの。霊夢が言ったとおり、私は変だった」
「…………」
 苦しそうに息を吐きながら、囁くような声で言う。
「やっぱり、私が人間じゃないから……?」
 魔理沙が俯く。
「霊夢が言ってた。私は人間じゃないから、人間同士がするみたいには魔理沙と仲良くなれないんだって」
「違う……違う、そんなことない!」
「聞いて魔理沙……私、他の人が魔理沙と仲良くしてるのが我慢できないの。魔理沙を独占したくて、邪魔者を殺したいって思うくらい」
 そう言って、顔が笑みのような形に歪む。
 もしそれが笑みなら、どれだけ悲しい笑みだろうか。
「妖怪、だよね。怖いよね……こんな私……私は……」
「やめろ……言うな!」
 アリスが何を言おうとしているか悟り、叫ぶ。
 だが、その口は止まらず、言葉を紡ぎ出した。

「私、魔理沙と出会わなければよかった」

 魔理沙の肩が震える。。
 アリスは自嘲するように笑った。
「迷惑、かけちゃったね。魔理沙にも、霊夢にも。もっと、早く気付けば……」
「……黙れ、黙れよ!!」
 アリスの声を遮って、魔理沙が一喝する。
「馬鹿、この大馬鹿! 迷惑だなんて言うなっ!!」
 子供が癇癪を起こしたように怒鳴り散らす。
 だが、その声には嗚咽が混じっていた。
「私はアリスと出会ったことを後悔なんてしてない! 今でも! もし、アリスに殺されることがあってもだ!!」
「まり、さ……」
 二人の涙を湛えた目が合う。
 魔理沙は一度だけ深呼吸すると、今度は落ち着いた声でアリスに語りかけた。
「アリス、お前の気持ちは分かったよ。だけど……それって当たり前のことなんじゃないのか?」
「当たり前……?」
「他人を独占したいって、そういう気持ちは人間だとかそういうのは関係、ないだろ」
「分からない……そんなの、私には分からない!」
「だって! 私にだって、あるんだ!」
 そこで息を呑み、震える声で告げる。
「アリス……私達、一緒に暮らしてみないか?」
「え……?」
 信じられない、というようにアリスが魔理沙を見つめる。
 だが、魔理沙の表情は真剣そのものだ。
「一緒じゃないと不安なんだ。アリスがどこかに行ってしまわないか……」
「でも魔理沙……それ、霊夢にも……」
「……もしかして、聞いてたのか?」
 頷くアリス。
 魔理沙は困った、というように顔を逸らした。
「それは、な。その……恥ずかしくて。霊夢のほうからアリスにそれとなく言ってみてくれないか、とかって」
「そ、それって……」
 とうとう、アリスは気付いた。
 全て自分の早とちりだったことに。
 思えば、別に魔理沙は直接霊夢に「一緒に暮らそう」と言っていたわけではないのだ。
「あは……あはははは……!」
 今度こそ本当に笑うしかない。
 勘違いで殺しかけてしまった二人に対してはあまりにも申し訳ないが、それよりも自分の馬鹿さ加減に呆れてしまった。
「わ、分かったか! 私もちゃんとアリス一筋だぜ……」
「……うん」
「だから……これからは一緒にいよう。もう出会わなければよかったなんて、寂しいことは二度と言わせないから」
「ありがとう……魔理沙……」
 アリスの頬を涙が伝う。
 同時に、本当の笑顔が戻る。
 だが、突然アリスの体が崩れる。
「アリス!?」
「だけど、ごめんね。もう私、駄目、みたい……」
 浮力をなくしてアリスの体が落下していく。
 最後に残った魔力すらも尽きたのだ。
「諦めるな! 諦めるなぁっ!!」
 笑顔のままアリスは落ちていく。
 魔理沙は必死に手を伸ばしたが、
 その手が届くことは、ない。
 アリスの体が、木々の間に消える。
「あ……あぁ……」
 差し出した手が震える。
 最後まで掴めなかったその手を。
 消えていった笑顔を。
 失った大事なものを。
「アリス……アリスっ!!! う、あああああああああああああああああああああっ!!!」
 全てを嘆き、魔理沙は泣いた。












「……それで、どうなの?」
「ああ……多分そろそろ、かな?」
「そう……」
「ありがとな。心配してわざわざ来てくれて」
「もう少し、話をしてみたいと思ったの。気が、合いそうだったし」
「……頼む。友達になってやってくれよ」
「まあ気長にね」
「分かった。あー、それと前から話してる……」
「……魔法使い三人合体スペル? 私よりも彼女に訊くべきね」
「お、ということはオッケーなんだな」
「彼女次第」
「任せろ。必ず説得するから」
「好きにして頂戴……そろそろ帰るわ」
「ああ。またな、パチュリー」



「ん……?」
 話し声が聞こえた気がする。
 そう感じてから、自分が目を閉じて眠っていたことを理解する。
 重い瞼を、ゆっくりとこじ開ける。
「やっと気付いたか」
 そこには微笑む魔理沙の顔があった。
「あれ、私……」
「長かったな。もう一週間近く眠ってたんだぜ」
 一週間。
 寝ぼけた頭が活動を再開し、そのキーワードに反応して次々と状況を把握していく。
「あっ! 私……生きてる?」
「ああ、生きてるとも。保証してやる」
「でも……私、魔力を失って地面に」
「あの時、状況を察知した霊夢が受け止めてくれたんだよ。まあ私も一瞬死んだと思ったんだけどな」
 そう言って照れ臭そうに笑う。
 この一週間、霊夢にはずっとそれを笑われているのだ。
「私あんなことしたのに……助けてくれたんだ」
「なんせ霊夢だからな。全然拘ってなかったぞ。まあ、礼くらいは言いにいったほうがいいだろうけどな」
 茶菓子でも持っていけば完全に綺麗さっぱりだろう、と茶化して二人で笑う。
「それでも消耗と衰弱は激しかったからな。実のところしばらくは生きるか死ぬかの境だった」
 真面目な表情を取り戻して魔理沙が言う。
 ただでさえ衰弱していたアリスは、飛行できないほどに魔力を消耗することにより生命力の大半を喪失してしまった。
 放っておけば命はなかったに違いない。
「あちこち駆けずり回って医者だの霊薬だのかき集めたんだぜ。お陰でちと物品を工面する羽目になったが」
「ふふ、ありがとう」
 きっと魔理沙のことだ、一瞬躊躇いながらも大事な蒐集物を売り払ったに違いない。
 仕方なくとはいえ、さぞ名残惜しそうに手放しただろうと想像すると、笑ってしまう。
「さて、そろそろ目覚める頃だろうと思ってちゃんと食事を用意してあるぞ」
「いい勘してるわね」
 少しだけ嘘をついた。
 実のところいつ目を覚ましてもいいように食事は常に準備してあったのである。
 もっとも、冷めたら自分で食べてしまっていたが。
「あんまりがっつくなよ。胃が小さくなってるからな」
「分かってるわよ。お粥ならそう心配いらないでしょ」
 白粥で胃を満たす。
 空腹感も消え、ようやく人心地ついた気分だった。
「……ねえ、魔理沙」
「ん、まだ足りないか?」
「この前のこと、ごめん」
 皿を片付けながら、魔理沙は聞き流す。
 素直に聞き入れるつもりはないようだった。
「ごめんじゃ済まないから、ごめんはいらない」
「私にとってのけじめよ。……ごめんなさい」
 頭を下げるアリス。
「私のほうこそ、悪かった。お前が苦しんでるのに、気付いてやれなくて」
 顔をあげると、魔理沙も頭を下げている。
 アリスは両手で魔理沙の顔を挟み、あげさせる。
「なら……お互い様。これでおしまい、もう言いっこなし」
「ああ……そうだな」
 二人同時に微笑む。
 魔理沙がアリスの手を掴み、両手で抱く。
 今度こそ、手が届いた。
「魔理沙、好きよ」
「私も好きだ、アリス」
 確かめ合うように囁く。
 そして、ごく自然に口付けをする。
 軽く唇が触れ合って、離れた。
「さ、もうしばらく休んでおけよ。まだ本調子じゃないだろ?」
「そうね。もう少し眠らせてもらうわ」
 魔理沙がアリスに布団をかけ直し、ゆっくりと頭を撫でる。
 アリスは気持ちよさそうにそれを受け入れていた。
「……あ、そうだ」
「どうしたの?」
 魔理沙がふと思い出したように言う。
 じっと真剣にアリスの目を見て、
「まだ、あのときの返事を聞いてない」
 一緒に暮らしてみないか。
 アリスもまた、そのことを思い出した。
「そう……そうだったわね」
「で、どうなんだ、返事は?」
 急かすように、魔理沙が顔を近付ける。
 アリスは、くすりと笑って言った。
「決まってるわ魔理沙。勿論、答えは……」



 End
BitterSweets後篇です。
長い作品読んでくださってありがとうございました。

作品に関してですが……
なんかくっついちゃってますね、二人(汗
この後どうなっていくのか書きたいやらやめておいたほうがいいやら……。

書く際のテンションの調整が難しかったです。
……主に戦闘シーンとかね。
ムズカシイヨorz
その他の部分も、まだまだあんまりSS書いたことないので突っ込みどころは色々あるかと。
もしここをこうしたほうが、という批評がございましたら遠慮なくお願いします。
どうぞ、よろしくお願いします。



それでは、とりあえず今回はこれにて締めとさせていただきます。
繰り返しまして、読んでいただいてどうもありがとうございました。
lunarkami
[email protected]
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コメント



0.2280簡易評価
14.60名前が無い程度の能力削除
甘っ! 苦っ! そして甘っ!!!
派生しうる救いの無い真っ黒な話も見たいとか思ったり

今後に期待です
17.70SETH削除
ー!-!
28.80懐兎きっさ削除
アリスの身を切るような胸の内がひしひしと……!
鬼気迫る様にハラハラさせられただけに、最後の甘さが引き立ちますね。満腹。
31.80名前があるかも知れない程度の能力削除
いいっ!とてもいいっ!!
36.90名前が無い程度の能力削除
俺の中の全米が泣いている
48.90bobu削除
これはとても良いものだ。