Coolier - 新生・東方創想話

午後の二人

2005/09/07 10:25:43
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秋の幻想郷。
山の木々は徐々に精力を失い、青々とした葉は徐々に枯れて行く。
その舞い散る寸前の、美しい葉の色合いは自然の織り成す芸術と言えるかもしれない。
燃えるように赤く染め上がる山。
ここ博麗神社境内にある木々も例外ではなく、神社の景色をいっそう風情あるものにしてくれていた。

「綺麗なのはいいんだけど」

毎年この時期になると、舞い落ちてきた枯葉の掃除が日課となる。
人の目を楽しませるだけでは済ますまいという葉っぱ達の最後の抵抗だろうか、まったく掃いても掃いても次の日にはまた大量の落ち葉が広がっているので始末が悪い。
まあ、文句を言ってみたところでどうにもならないのでこうして落ち葉掃除をしているんだけど。
ふと空を見上げると、接近してくる黒い影があった。
空からやってくる黒装束で思い当たる人間は一人しかいない。
霧雨魔理沙。
彼女は暇さえあればこの神社へ冷やかしにやってくる。
こっちも暇なときは、まあ退屈はしないからいいんだけれど、こういう忙しい時期に来られるのはちょっと困る。
そして彼女は、どう見ても暇には見えないであろう私の姿を見てしれっとこう言うのだ。

暇してると思ったから遊びに来てやったぜ。

「暇してると思ったから遊びに来てやったぜ」

「あのね、どこをどうみたらこの姿が暇に見える?」

せっかく集めた落ち葉が魔理沙の乱暴な着陸に吹き上げられてまた散らばってしまう。
まったく、彼女が来るとろくなことが無い。

「ああ、見えるぜ。霊夢は暇をしている。そして私の来訪を喜んでいる」

「あんたが増やした余計な仕事をやっている姿を目の当たりにしてそれだけ言えれば大したものよ」

「それほどでもないぜ」

魔理沙は、自らが吹っ飛ばした枯葉を再び集めている私を尻目に、ずかずかと奥へ進んで行き、勝手に建物内に進入していった。
どうせお茶でも勝手に淹れてくるのだろう。
もう慣れっこだし、下手にここで暴れまわられるよりよほどましなので黙認。
それに、取って置きのお茶請けも今は無いので魔理沙に勝手に食べられる恐れも無いしね。

「・・・まったく、しけた茶箪笥だぜ」

開口一番そんな悪態をつきながら、黒い魔女が縁側へと戻ってくる。
手には案の定湯飲みがあった。
ここで2人分ではなく、自分の分だけしか淹れてこないというのもある意味凄い才能だと思う。
まるで我が家でくつろぐように、行儀悪く縁側にあぐらをかいて腰を下ろす魔理沙。

「おっ、霊夢。なにやってんだ?」

ここにきてやっとこの質問。
絶対わざとだと思うけど、彼女の場合本当に今気づいた恐れがあるのが怖いところだ。

「落ち葉掃除よ。ほとんど終わってたところを誰かさんが集めた落ち葉を吹っ飛ばしてくれたおかげでもう一度ね」

「そりゃ災難だったな」

いちいち怒っていたらきりが無いので黙殺。
ていうか、乗ってきた箒で手伝おうという気は起きないものだろうか。

「これは移動用で掃除用じゃないぜ」

「あ、そ」

読心術でも心得たのか、言わんとしている事を察知したのか先手を打たれた。

「奥にもう1本掃除用の箒があるから手伝いたいなら止めないわよ」

「いや、遠慮しておく」

「あ、そ」

そのまま魔理沙はお茶を啜りながら、じっと私が落ち葉を集める様子を眺めていた。
どのくらいそうしていただろうか。
ようやく魔理沙が吹き飛ばした分の落ち葉を、再び掃き終えた頃。

「そうだ!焼き芋やろうぜ」

なんて、集まった落ち葉を見た子供が絶対にするような提案を魔理沙はしてきた。

「お芋なんて無いわよ」

これから休憩しようと思っていたし、お茶請けも無いので焼き芋も悪くは無いけど、肝心のお芋がなければ始まらない。
すると魔理沙は、手に持っていた湯飲みを置いて、縁側から勢いよく飛び上がり、立てかけてあった自称移動用の箒を引っつかんだ。

「私がとってくるぜ」

そう言うやいなや、黒いスカートをひるがえて箒にまたがり、勢いよく空へと舞い上がる魔理沙。
その風圧で、魔理沙を焼き芋の気分にさせた落ち葉の山も、再び吹っ飛ばされるのだった。

はぁ・・・。



    ****



私が三度目の落ち葉集めを追えた頃、魔理沙は再び神社へとやってきた。
空からではなく、きちんと境内へ続く階段から徒歩で現れた魔理沙は、手には何故かぼろぼろになっている箒と、恐らくお芋が入っているのであろう袋を抱えていた。

「おかえり」

「箒で神社に近づいたら叩き落された。何故だ」

また集めた落ち葉を吹き飛ばされてはかなわないので、結界を張っておいて正解だったようだ。
と言ってもそんなに強い結界じゃないので、命に別状は無いだろう。
実際魔理沙も、服が多少よごれて箒がぼろぼろになっているだけで、ぴんぴんしているし。

「危うく落下死するところだったぜ」

「そりゃ災難だったわね」

「それでも巫女かお前は」

「巫女には神社を守る義務があるのよ」

「はぁ、まあいいぜ。ほら、芋だ」

そう言って、ずい、と私にお芋の入った袋を押し付けてくる魔理沙。
箒や衣装はぼろぼろなのに、この袋だけ無傷なのは、彼女が身を挺して守ったからだろうか。
ちょっとだけ悪いことしたかな・・・。
受け取った袋を開けると、どこから入手してきたんだか知らないけど、大きなさつまいもが5つ入っていた。

「いいお芋ね」

「だろ?いやー、あそこの親父が意外にしつこくて手間取ったぜ」

絶対不穏なことを言っているが、あえて深くは聞かないでおこう。
お芋を横において、あらかじめ用意していたマッチを擦って、落ち葉の山に火をつける。
落ちたばかりの葉は水分を含んでいてなかなか燃えないが、徐々に燃え広がり、ぱちぱちと小気味の良い音を立て始めた。

「いやー、風流だねえ」

「あんたに風流なんてわかるのかしら」

「失敬だな。私は花見も月見も祭りも大好きだぜ」

「お酒が飲めて騒げるからでしょ」

そんな憎まれ口を叩き合いながら、もうすっかり火のついた落ち葉の山にお芋を投げ入れた。
後は焦げないように注意しながら、お芋が焼きあがるのを待つだけだ。


   ****


お茶を淹れて、魔理沙と二人縁側に座り、お芋が焼けるのを待っていた。
最近ではすっかり日も短くなって、いつのまにやら神社は夕焼け空に包まれていた。
ふと横を見る。
魔理沙の顔も、オレンジ。

「ん?どうした?」

「別に」

何気ない仕草を見止められて、なんとなく気恥ずかしくなって正面に向きなおした。
明日にはまた大量の落ち葉を舞わせて私を困らせるであろう木々も、夕焼けに照らされてよりいっそう紅色に輝く。
そんな幻想郷の、昼と夜の境界。
夕焼け時を、逢魔ヶ時とはよく言ったものだ。
こうして焼き芋の焼ける匂いにつられて、ふらりふらりと妖怪が現れるのだから。

「あら、良い匂いね」

「どこから沸きやがった。このスキマ妖怪」

本当にどこから現れたのか、いつのまにか私たちの目の前に、境界を操る妖怪が立っていた。
八雲紫。
彼女は焚き火の前に屈むと、落ちていた木の枝で楽しそうに芋をつつき始めた。

「いじるないじるな」

「少しくらい良いじゃないの。ケチねえ。それとも二人の間をお邪魔しちゃったかしら」

そう言って紫はいたずらっぽく微笑む。
まったく。この妖怪はなにを言っているんだか。
何気なしに魔理沙の横顔をちらりと見る。
魔理沙は、自信に満ち溢れた顔で紫を見ていた。

「ああ、邪魔だぜ」

なんて恥ずかしいことを堂々と言っているように見えるが、そうではないのだ。
なぜなら絶対に、魔理沙はこの後こう続けるから。

私の食べる分が少なくなるからな。

「私の食べる分が少なくなるからな」




幻想郷は、今日も平和。

長い間東方のお話を書いていなかったので、リハビリにメインキャラ二人のお話。

本当になんでもない三百六十五分の一日。
MIZ
http://www.geocities.jp/mizthss/
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コメント



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7.50名前が無い程度の能力削除
年月は緩やかに。まったりまったり。
9.80ABYSS削除
うっわぁ…やばい…こういうの私の理想の極地だ。っというよりこの二人の日常はこんなんだろうな、っていうのがまんま取り出された感じ…。
秋の日常、緩やかに過ぎ行く時間、素晴らしいものだと確信させてくれました。ありがとうございます。
15.60七死削除
飄々。 突然漢字で書けといわれてもなかなか書けるもんじゃないですが、でもこの言葉に幻想郷の魅力の80%が凝縮していると思うのです。

万事万物に対し、力まず緩まず拘らず。 格好良く生きるってこう言う事じゃないですかね。

飄々。 突然感じで書けと言われてもなかなか書けるもんじゃないですが、筆主殿におかれましては、お見事に御座います。
45.70床間たろひ削除
あー良いですねーこののんびりとした空気。
雲は行き水は流れ、当たり前のように過ぎていく日常。
堪能させて頂きました♪
61.80bobu削除
ほのぼのとしていて良かった。
この後に吸血鬼主従が来てお芋が一本ずつ。
遅れてきたアリスはもらえず涙目と妄想してしまいました。
65.90名前が無い程度の能力削除
ああーこの空気良いなぁ
こんなSS一本で良いから書いてみたい
72.90名前が無い程度の能力削除
こういう綺麗なお話、好きですよ。