Coolier - 新生・東方創想話

世にも迷惑な魔法使い

2005/08/31 00:34:12
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「うー、暑いー。」

夏の終わりも近い魔法の森。
生い茂った木々のおかげで森の中の気温はさほど高くないのだが、その分湿気があってなかなか蒸し暑い。森の外とは違った暑さがある。
そんな中を霧雨魔理沙は、大きな籠を抱えて汗だくで歩いていた。

「それにしても、少し張り切り過ぎたな。」

籠ではキノコが山盛りになっていた。

「あそこでアリスに会わなければ良かったんだが・・・・・・。」

元々は今日の夕飯のオカズになりそうな物は無いかと思って出掛けて来たのだが、途中で同じ目的でキノコ狩りをしていたアリスに出くわしてから、どういう訳かキノコ採り合戦が始まってしまい、必要以上にキノコを集めてしまったのだ。

「結局、勝負にも負けちまったし。」

無論、相手は多くの人形を連れていたのでキノコ狩り勝負では分が悪いという事は目に見えていたが。

「やっぱ箒持ってくりゃ良かったぜ。」

元々の目的が目的だけに、今日は箒を持たずに出掛けて来ていた。

「箒さえあれば、パッと帰れるんだがなぁ。」

一人愚痴をこぼしながら、ずっしり重くなった籠を抱えて歩く魔理沙。アリスの方はあれだけの人形が居るなら帰りにも苦労しないのだろう等と考えながらただひたすら歩く。今は夕方4時ごろであるというのに、この気だるい蒸し暑さのせいで、額からは玉のような汗が吹き出ていた。

「暑い、暑いぜ、暑すぎるぜ!」

暑いと思うから暑くなる。しかし、暑いと考えるなというのは、今の魔理沙には到底無理な話だった。










ふぅふぅ言いながら更に歩くこと約10分。

「ふぅーぃ、やっと着いたぜ愛する我が家よ!」

やっとたどり着いた自宅に向かって独り言を言ってみる。別に暑さで頭がやられた訳では無い。
山盛りキノコの籠を玄関脇に置いた魔理沙は、夕食の準備に取り掛かる前に、とにかく風呂で汗を流すことにした。

「ひゃー、やっとこの欝陶しい汗を流せるぜ。・・・・・・それぃっと。」

衣服を脱衣所に置き、霧雨邸自慢の露天風呂にダイブ。

だが、ここで魔理沙は一つ重大な事を忘れていた。この露天風呂は、元々冬期の暖房用に床下に召喚した温泉脈から引いている物。その温泉脈は夏には暑いからと言って、魔理沙自身の手で元の場所へ送り返されていた。



すなわち、熱源を失った風呂は今では水風呂状態……。



――ザッバーン



「・・・・・・っぎゃああぁぁぁ!!」

冷たさに震える魔理沙の悲鳴は、マーガトロイド邸にまで響き渡った。

「あら、毒キノコでも混ざってたかしら?」










「ななな何てこった・・・・・・。いいい一気に寒くなっちまったぜ・・・・・・。」

あれから慌てて水風呂から上がり、衣服を着直して、居間でガタガタと震える魔理沙。

「わわ私とした事が・・・・・・、おお温泉脈を・・・・・・、・・・・・・送り返したことを忘れるとは・・・・・・。」

忘れたのはそれだけではない。いつもはちゃんと暖め直してから入るのだが、今日はそれすら忘れていた。
まぁ、心の準備も無く突然水風呂に飛び込めば、大抵は風邪を引くだろう。その辺は魔理沙も例外ではなく・・・・・・。

「は、鼻・・・・・・鼻がムズムズしてき・・・・・・た・・・・・・ハックシュン!」



――ドゴォォォン

「んん!?」

くしゃみの音ではなく・・・・・・。それとほぼ同時に轟き響いた音に、魔理沙は耳を疑った。何が起こったのかを理解しようとするが、鼻のムズムズは容赦なく魔理沙を襲う。



「・・・・・・ハックシュン!!」



―――バァァァァン



まただ。二度もくしゃみと同時に発せられる轟音。それが一体何なのか、くしゃみの治まった魔理沙は改めて視界正面を見て、今度は自分の目を疑った。

「な・・・・・・、何だこりゃあ・・・・・・。」

見れば、自分の正面にある壁にぽっかりと大きな穴が開いてしまっているではないか。しかも二つも。これでは外から家の中の様子が丸見えだ。雨だって入ってくる。風が通って涼しいなんて言ってる場合じゃない。

「・・・・・・・・・・・・なるほどなぁ。」

唖然としていた魔理沙だったが、暫くして事の全貌を悟った。
くしゃみと同時に鳴り響いた轟音。どうやらその正体は魔法の暴発。しかも暴発しているのは恐らく、触れる物全てを消し飛ばさんと言わんばかりの威力を持つ魔砲マスタースパークだ。

「うーむ、こいつはちと厄介だな。このままじゃ家がもたん・・・・・・ぞ・・・・・・・・・・・・クシュン!」



――――ドォォォォォン

霧雨邸の壁に大きな穴が一つ増えた。















「だからって、何でここに来るのよ。」

「まぁそう言うな霊夢よ。少しくらいいいじゃないか。」
「少しとかそういう問題じゃなくて・・・・・・。」
「第一、あのまま家にいたら風邪が治る前に家が無くなっちまう。」
「それはここでも同じでしょうが・・・・・・。」

もうそろそろ日も沈もうかという時分、魔理沙は博麗神社の縁側にいた。というか避難してきていた。愛する我が家を守るために。

「大体あんたねぇ、風邪引きで来るのはまだ構わないけど、この壊した分は直してくれるんでしょうね?」

そういいながら霊夢は神社の庭を指差す。
地面は削れ、外壁には霧雨邸と同じような穴が複数開き、青々とした葉を茂らせていたはずの桜の木々は、幹や枝そのものは残っているものの、葉はほとんど消し飛んでしまっていた。一番酷いのは屋根が半分無くなった神社自体だろうか。ちなみに神社の鳥居は、魔理沙がここに来てから2分で瓦礫の山に姿を変えた。

「いやぁ、まぁ・・・・・・そのーなんだ、それは風邪が治ってから考えさせてくれ。な?今はそこまで考えたくな・・・・・・い・・・ぜ・・・。」

突然言葉を切る魔理沙。その顔は口が半開き、目は半閉じの状態のまま固まっている。自分の中から鼻に襲い掛かってくるものに抵抗している感じだ。つまりはくしゃみを耐えている状態・・・・・・。
霊夢は、そんな様子の魔理沙を見て咄嗟に身の危険を感じた。何故なら、魔理沙が霊夢の方に顔を向けたまま、そんな状態に陥っているからで・・・・・・。

「ちょ・・・・・・、魔理沙!」
「ふぁ・・・・・・・・・・・・、クシュン!」



――バキバキバキ

間一髪。魔理沙のくしゃみ発動より、霊夢が魔理沙の顔の向きを強引に変えさせるのが僅かに早かった。

「いててて・・・・・・。首攣ったぞ霊夢・・・・・・。」
「私が消しとぶよりマシよ。」

ほっと胸を撫で下ろす霊夢。しかしそれも束の間。暴発魔法が飛んでいった先を見て、霊夢は自分の顔が明らかに引きつるのを感じた。哀れかな・・・・・・霊夢の代わりに消しとんでいたのは、境内前に置かれている筈の木製の四角い箱だった物・・・・・・。

「ああぁぁぁ!素敵なお賽銭箱がぁぁぁ!!」

素敵どころか、今では破片の存在の是非すら怪しい。

「あぁ、目も当てられないぜ・・・・・・。」

魔理沙がボソッと言う。
次の瞬間には「誰のせいよ!」という声と共に、アミュレットが目も当てられない程の量で飛んできていたという。















「まいったなぁ、とうとう追い出されちまったぜ。」

日も沈み、身を寄せるあてが無くなってしまったので、とりあえず湖の上空を箒に俯せにもたれてふわふわ浮遊する魔理沙。
追い出される時に、霊夢愛用の庭掃き竹箒でバシバシ叩かれた背中がヒリヒリする。

「全く・・・・・・、病人はもっと労れよなぁ。」

随分と元気な病人だ。



くしゃみを一つ。轟音と大きな水飛沫(しぶき)付きで。



暫くして、このくしゃみに文句を付ける為か、何処からとも無く氷精チルノが現れた。

「そこの黒いの!さっきのうるっさいのはアンタの仕業!?」
「んぁー?」

その時魔理沙は、突然襲って来た強烈な睡魔と戦っている真っ最中だった。

「ちょっと!何とか言いなさいよ!!」

一方、チルノは大層御冠の御様子。
だが魔理沙の方は喋ろうにも喋れない。今日何度目だろうか、鼻ムズムズの来襲だ。



「ふが・・・・・・ハッ・・・・・・クシュン!」

―――ゴゥッ

「いきなり何よーーー!!」

―ジュッ

「あ・・・・・・。」



消えた。
いや、蒸発と言うべきか?文字通りに。
高熱な魔砲は氷精には辛かろう。
その後冬になるまで、チルノの姿を見た者はいたとかいなかったとか。
チルノの身に何が起こったのかは、この黒いののみが知る。

「・・・・・・まぁ、寒くなれば再結晶するだろ・・・・・・。」



合掌。










さて、チルノをくしゃみで撃退した黒いの、もとい魔理沙は、このままだと箒に乗ったまま本当に寝てしまいそうなので、一先ずここから一番近い所、紅魔館に降り立つことにした。
浮遊しているだけとはいえ、いくら魔理沙でも飛びながら寝るというのは少々危険だ。以前、うっかり居眠り運転をして博霊神社に突っ込み、霊夢に箒を没収されそうになった事があるのだ。



「むー、何だって急に眠くなるんだ?まだ日が沈んだばっかじゃないか・・・・・・。」

眠い目を擦りつつ、箒を引きずりながら紅魔館へと歩く魔理沙。
すると、その紅魔館の方から聞き慣れた、いや、聞き飽きた声が聞こえた。

「止まれ!そこの黒白!!」

紅魔館門番、紅美鈴だ。

「『黒いの』の次は『黒白』・・・・・・か。」
「今頃紅魔館に何の用だ?」

いつもならお構い無しで素通りなのだが、今日は眠くてそうも行かない。気を抜くと意識が旅立ってしまいそうなのだ。

「あー、悪いんだが少し休ませてくれないか?」
「・・・・・・は?」

ポカンとする美鈴。
普段、当たり前の様に自分を無視していく奴がいきなり頼み事をしてきたとなると、まず第一に出てくるのが驚きの念、そして第二に出てくるのが疑いの念であろう。

「残念だが、そんなホラが私に通じるとでも?」
「ふあ・・・・・・。」
「騙しで通ろうとするとは、お前らしく無いじゃないか。」
「また・・・・・・。」
「また・・・・・・?」
「くしゃみが出そう・・・・・・。」
「く、くしゃみ?」
「クシュン!」

くしゃみ魔砲暴発。
だが、流石は拳法の使い手と言うだけある美鈴。反射神経だけは良いようだ。ギリギリの所で必死に魔砲を避け、自分が避けた為に綺麗な真円が開いてしまった紅魔館正面門を見上げていた。

「あぁ、咲夜さんに殺されるぅ・・・・・・。」

恐らく館内部のエントランスホールも酷い有様だろう。巻き込まれた人が居なければ良いが・・・・・・。
こうなりゃヤケだとばかりに魔理沙に突っ込む紅美鈴。
しかし当の魔理沙は、その場に倒れ気絶していた。

「え?お、おい!どうしたんだ!?」

戦う気が一気に吹っ飛んでしまった美鈴は思わず駆け寄る。

「誰か、咲夜さんかパチュリー様を呼んで来て!」

門番詰め所に居る部下のメイド達にそう言うと、自分は他の部下に協力させ、魔理沙を一旦門番詰め所に運んだ。















「ん・・・・・・、ここは?」

魔理沙が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋のベッドの上だった。壁の造り等から見るに、多分紅魔館の中の何処かの部屋だろうということは分かる。

「お目覚めのようね。」

不意に、背中を向けていた方から声が聞こえた。振り返ってみると、そこには椅子に座って本を読むパチュリーの姿があった。

「今何時だ?」
「夜の10時過ぎよ。」

どうやら3時間ほど気を失っていたらしい。

「パチュリーが居るって事は、ここは図書館か?」
「いいえ、違うわ。ここは紅魔館のただの空き部屋よ。」
「空き部屋?」

空き部屋だというのにそうとは感じさせられない所を見ると、咲夜によるメイドの統制がいかに徹底したものかが伺えるようだ。

「あら、空き部屋ではご不満だったかしら?」

そう言って部屋に入って来たのは、冷たい麦茶を持ってきた咲夜だ。

「おっと、盗み聞きは良くないぜ?」
「盗み聞いたんじゃなくてよ。偶然聞き耳を立てたのよ。」
「一緒じゃないか・・・・・・。」

不平を言いながら、魔理沙は咲夜から受け取った麦茶を一気に飲み干す。

「中国から聞いたわよ?魔砲を発動した直後に倒れたようね。」

今度はパチュリーが口を開く。

「ん?あぁ、よく覚えとらんけどな。」
「風邪を引いた状態であれだけ暴れれば、魔力が尽きて倒れもするわ。」
「・・・・・・確かに暴れたが、あれは不本意だ。それに、何でその事を知ってるんだ?」

そりゃそうだ。紅魔館に来たのは、今日はこれがはじめての筈だ。

「え?あ・・・・・・ゆ、夕方、魔砲が空に向かって何回も飛んで行くのがここからでも見えてたのよ・・・・・・。何をしてたのかは敢えて聞かないけど。」
「いやぁまぁ、それはだな・・・・・・、そういう気分の時もあるんだよ。」

とてもじゃ無いが、暴発だとは言えなかった。

「・・・・・・そう。じゃあ咲夜、私は図書館へ戻るわ。後はお願いね。」

パチュリーはあまり興味が無さそうに言った。体が小刻みに震えているので、興味が無いというよりは必死で笑いを押し止めているようだ。

「分かりました。」

咲夜が答えると、パチュリーはさっさと行ってしまった。





「風邪も治ったみたいだから、帰っても構わないわよ?」

咲夜がそう言ったのは、彼女がパチュリーの座っていた椅子を片付け、魔理沙の麦茶の3杯目を注いでいる時だった。

「悪いんだが、今夜はここに泊めてくれ。ちょいと訳ありで家が使えない状態なんだ。」
「・・・・・・。そうね、どうなっているか何となく想像つくわ。」

咲夜はそれだけ言うと、ひそかに笑いを堪えながら部屋から出て行ってしまった。「お気の毒。」という言葉を残して。

「・・・・・・?何だかあいつらに全てを知られてるような気がするぜ。」














魔理沙は知らない。たった今、この紅魔館の別室で霊夢がお茶を啜りながらくつろいでいる事を。
そしてその霊夢が夕食の席で、魔理沙が神社で起こした騒動を全て皆に話してしまった事や、「魔理沙の奴!この先2ヵ月間神社出入り禁止にしてやる!!」と叫んでいた事を・・・・・・。



幻想郷の夜は深ける。
読んで頂いた方ありがとう御座います。お初にお目にかかります、lesterという者です。
自分で作ったものを投稿するという事自体が初めてなのでちょっとガクガクブルブルしています。

夏も終わりに近づいたかな。そろそろ季節の変わり目ですね。暦上じゃとっくに秋ですが。
季節の変わり目ってちょっとした事で風邪とか引いちゃったりするんで、体調管理が本当に大切な時期だと思います。拙作中の魔理沙のようにならないようにしなくては・・・・・・。

この話は、普段からあれだけの威力を誇る魔理沙の魔法が制御できなくなったら・・・・・・?という発想から進めてみました。そうしたら博麗神社は半壊するし氷精は蒸発するしで色々大変な事になってしま・・・・・・(ぉ。
因みに、チルノは文字通り蒸発しただけです。気化してしまっただけです。冬になって寒くなれば元に戻ります(笑。


駄文ですが、ご指摘等頂けると幸いです。
いきなり長めのコメントですいません・・・・・・。
lester
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コメント



0.1600簡易評価
28.60名前が無い程度の能力削除
読んでて楽しい作品でした
にしても・・・チルノの扱いが哀れすぎるw

なんとなく、冬にチルノが魔理沙にリターンマッチ申し込んで
それが原因で魔理沙がまた風邪ひいて大騒動に成るんじゃないかと思ったり
35.無評価lester削除
ご感想ありがとう御座います。

冬にチルノが逆襲を、ですか(笑
それも考えていなかった訳じゃないんですが、何しろこの時初投稿だったんで気が回せずに……(ぇ
でも折角なんでいつか書いてみようかと思います。ありがとう御座いました。