Coolier - 新生・東方創想話

東方夢幻丘 下

2005/08/29 11:16:13
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魔理沙の眼前にあったのは、どこまでも黒く染め上げられた西行妖。墨よりも黒く、夜の闇よりも深く、氷よりも冷たい黒。
その視線を根元に向け、触れる。
流れ込む負の感情。耐え切れず手を離す。吐き気をこらえ、
「………参ったな」
手で帽子を深くかぶり、魔理沙は背後に声を投げた。
「そう思わないか?幽々子」
魔理沙の背を無表情に眺める視線。それは間違いなく西行寺幽々子のもの。
「ここまで固まった残滓は初めてだ。やっぱり専門外だったぜ。お茶巫女に任せたほうが正解だった」
振り向く。そこに、幽々子がいた。
魔理沙は凍りついた。その視線に心臓は鼓動を止め、背中を電流が走り、血流が音を立てて結晶化した。
そう錯覚した。
そうまでに幽々子の瞳は冷たかった。
「…魔理沙、あなたも私を邪魔者扱いするの?」
「………っ」
幽々子はまぶたをわずかに下ろし、睨みつける。
「無言の肯定…ね。妖夢と同じ。否定してくれないんだから。魔理沙、そういうことなら…………死んで」
一匹、西行妖と同じ色に染め上げられた蝶が、魔理沙に向かって揺らいでくる。
(……足が……動かない)
死が頭を過ぎる。
(冗談じゃない!)
腕を動かし、上手く集積することのできない魔力でなんとか、蝶の軌道をそらし自分は転ぶことで蝶をかわす。
西行妖が、幽々子の背後に来る。
「はぁ…はぁ……」
「必死ね。大丈夫、妖夢みたいに苦しめたりしないから」
魔理沙の視界が霞む。脳が機能していないのは確実だった。動きがもたつく。
そこに容赦なく幽々子は蝶を放つ。黒い蝶は魔理沙の視界を覆いつくし、いっせいに襲い掛かる。光の入り込む隙間もない、反則的な力。

が、それを打ち破る光が貫く。
まばゆい閃光が蝶をかき消してゆく。
八卦炉から放たれる彼女最大の魔法にして魔砲。
西行妖を巻き込み、強烈な衝撃波と熱が幽々子を襲う。
全てを吹き飛ばす…最終魔法(ファイナルスパーク)。
「悪いな幽々子…。私もまだ死にたくないからな。ま、お前のことだ、なんとか消えない程度には……」
「消えない程度には…なに?」
耳元で、唇が笑いにゆがむ音が聞こえた。
魔理沙は思った。今度こそ、終わりだ。と。
「やっぱり魔理沙、私が嫌いなんじゃない。だから本気であんなもの撃ったんでしょ?でも残念。私は西行妖の妖力をもらってるの。だから、その程度の霊力では、私は消えないわよ」
黒い蝶が、魔理沙の腕に舞い降りる。
「ぐ、あ…ああああああああああああ!」
黒く変色する腕。
八卦炉が落ちる。それが、抵抗とよべる手段を魔理沙から奪った。
「これで…最期。さようなら、魔理沙」
一瞬の間。
「……?」
魔理沙は眼を幽々子に向けた。俯いていた。表情はわからなかったが、懐かしい雰囲気がしたような気がした。
「…幽々子?」
その時魔理沙には見えた。背後から幽々子に黒い霧が進入していく様を。
(…原因は……やはり妖か…。それに…まだ正気の欠片は残ってるみたいだぜ)
「どうして……私が嫌われないといけないの?…どうし…て」
怒りと悲しみに満ちた黒い負の感情。それが幽々子に満ち、手のひらに蝶が生まれていく。
蝶が、ゆっくりと魔理沙の胸に舞い降りる。
(ああ……死ぬな。私)
蝶が魔理沙の胸の中に消えてゆく。
消えてゆく鼓動。
消えてゆく体温。
魔理沙の思考は、そこで途切れた。



「幽々子様!」
搾り出した声が、幽々子に届く。幽々子の腕には魔理沙。黒い帽子が、ゆっくりと地に落ちる。
(まさか………)
幽々子に寄りかかるように動かない魔理沙。力の無い、寝顔のような表情。
そして、残酷な言葉。
「私がやったわ」
告げた言葉が頭を真っ白にする。
主はそんなことをすることは無かった。迎えられるべき人間を冥府に誘う。それしかしてこなかった。それなのに。
(魔理沙を……殺した。幽々子様が……魔理沙…を)
「幽々子様……あなたは…!」
まさに刀を抜こうとしたときだった。風も無く、重い空気は凍てついているというのに、魔理沙の黒帽子が、動いた。
その帽子は、西行妖を指していた。
「!」
目を見張り、よく見たときには既にその帽子は動かなくなっていた。
「魔理沙……?」
幽々子はそれに気付かず、魔理沙を地面にゆっくりと横たえると、妖夢に向く。瞳は妖夢を映していなかった。
「………しぶとく起き上がってきたの。あのまま……寝ていれば楽になれたでしょうに。妖夢、そんなに私が気に入らないのなら私を消したほうがいいわよ。…消される前に……ね」
「私は消されたりなんかしません。そして…」
はっきりと、妖夢が言い放った。
「私はあなたを消したりなんてしません」
一歩、幽々子に歩み寄る。
「そんな言葉信用できないわ。あなたは私のこと…嫌いになったんでしょう?」
「違います。あの言葉は……私の本当の気持ちではなかったんです」
また一歩、距離が縮まる。
「そんなこと……信じない。……信じられない………。向こうに…行って。魔理沙と一緒に」
「……幽々子様………」
幽々子は魔理沙から距離をとる。
妖夢は何も言えず、ただ歩み寄った。
震える手で魔理沙の頬を触る。まだ…かろうじて生きていた。
(よかった…)
さっき魔理沙に貰った護符を返す。
淡い光が、魔理沙を包む。
妖夢は立ち上がった。そして、幽々子に向きなおす。
「……こないで」
「…………」
「こないでよ!」
蝶が放たれる。身体をかすめ、弱った妖夢の身体を焼く。
「無理です。だって……私は、幽々子様が好きですから」
「嘘よ!だって妖夢は否定しなかったじゃない!廊下ですれ違ったとき、あなたは地面を睨みつけていたじゃない!ゴハンだってきちんと作ってくれなかったじゃない!さっきだって、私が悪いって…!妖夢は私のこと嫌いなんでしょう!?」
首を振り、子供のように否定する幽々子。
蝶がいっそう激しく放たれる。妖夢は抵抗しない。ただ、その蝶の中を突き進む。
黒く黒く沈んでいく体の色。半分は生きていないとはいえ、その苦痛は、どれほどのものだろうか。
だが少女はかまわない。ただ一心に、主へと歩み寄る。

そして、妖夢は幽々子の前に立った。

「妖夢……。私は………」
幽々子の瞳が、揺れる。
「大丈夫です…幽々子様…」
妖夢が、儚く笑う。
「酷い事を言ってすいませんでした……。ゴハンも、おいしいと言ってもらえるよう……頑張ります…。…そして………ごめんなさい…。本当に……ごめんなさい…」
変色したその腕で、妖夢は白楼剣を抜いた。白銀の光を宿した刀身は、鏡。
その刀を、振りぬき…

一閃が西行妖と、幽々子を通過した。

その瞬間。黒く固まった残滓が空中へと霧散してゆく。
凍てついた空気は溶け始め、わずかな桜の香りが漂っていた。



「幽々子様……大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。……ごめんなさいね…。あんなこといってしまって……」
幽々子は、その小さな身体をやさしく包んでいた。寄り添うように、西行妖の下で。
「私が…弱かったからいけなかったわ…。ちょっとした不安が、西行妖にうつってしまった。それが、冥界の残滓を取り込んで……。私は……」
妖夢が腕を回し、強く抱く。
「それ以上は……言わないで下さい…」
「……そうね……」
幽々子が、微笑む。
(少しだけ、大きくなったいたのね……。妖夢は…)
「魔理沙には、後で謝っておかないとね……。本当に悪いことをしたわ」
妖夢の視線の先に、魔法使いはいなかった。こんなときに気を使わせてしまって、本当に申し訳ない気がした。



「とんだ骨折りだったぜ。…ま、悪い儲けじゃなかったが」
月が出ていた。
幻想郷の本当の月。少し危ない気がしたが、いい月だ。
身体は重いけれど、気分は蒼天同様澄んでいた。
「お茶巫女と一緒に飲もうかな。ま、嫌がったらいつもどおり強引に飲めばいいことだぜ」
魔法使いは、楽しげに笑っていた。



妖夢が、いっそう力強く幽々子に顔を押し付ける。
声は、震えていた。
「……また、明日からは……いつもどおりですから……。だから……今日が終るまで……は…こう…させて…ください…」
「ええ…」
妖夢は泣いていた。安堵と、申し訳なさと、色々で。
「…よかった…幽々…子様ぁ……ぅ…ぅ………っ」
(でも…やっぱり頼りない)
幽々子も強く、離れないよう、妖夢を腕に包むのだった。



冥界の桜。
花びらに全てが覆いつくされてゆく幻想の夜。

おしまい
 
出演 西行寺幽々子 魂魄妖夢 霧雨魔理沙 様
ええと、もし、最後まで読んでいただけたのでしたら、感謝感激です。
子供っぽい幽々子様を書きたくて、気付いたらこんな感じになってました。
まだまだ未熟者ですが、これからも東方界隈で頑張って行きたいと思いますので、笑ってみていてください。

                                            蓬籠ノラ       
蓬籠ノラ
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コメント



0.750簡易評価
30.100どどど削除
よくやった!w