Coolier - 新生・東方創想話

■Thanks Despair■

2013/10/20 10:27:59
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【数年後:民家】





「、先生…」


ゆったり纏めた赤髪を左肩に掛けた女性が顔を上げ、微笑む

ベッドに座った視線の先には、壁から首だけを突き出した亡霊が


「よっ   ッこらせっと」


手を突っ張り、ずるりと全身を引き抜く

霊体なのだからそんなアクションは要らない筈だろうに

現に三日前は暖炉から駆け込んで来たし


「…あんたが倒れたって言うから見に来たのに…元気そうじゃん」


「残念そうに言わないで下さい」


女性になった少女の返答は明るかった


「旦那は?」


椅子が二つ向かい合ったテーブルに座る

向かい合った女性 の座るベッド の脇にある窓 の外には沢山の大きな壺が並び、積み重なっている

中身は薬やそれに準ずるもの

全て亡霊と女性が調達し、作り、研究してるものだ


「介抱して下さった方の所に、お礼に参ってます」


「ふんふん…で?なんで倒れたの? 脳梗塞?」


「違います」


「心筋梗塞?」


「違います」


「ギックリ腰か」


「えらくしょうも無くなりましたね」


「月もの?」


「先生」


女性の遮りは柔らかく、余裕に溢れていた


「どうせ気付いてるんでしょ?」


やれやれと言われ、やれやれと手を上げる



「……四ヶ月と二十一日、かな」


視線は顔より大分下


「はい、四ヶ月と言われました」



ここまで幸せそうな笑顔があろうか


「逆算すると…」


「しないで下さい」


「そっかそっか…いや、おめでとう」


亡霊の方もそうそう見せない、腹黒さの無い笑顔で祝福した


「ありがとうございます」







「下ろしな」





「……は?」


「おろしなよ」


頬杖をついた亡霊は、笑顔のままだった

無表情に笑顔だった


「……続けて下さい」


女性は動じなかった

聞き直しこそしたが、言葉の意味が頭に入らなかった“だけ”である

こうなる事は、なんとなく予感があった


「…あんたの杖が折れてから、あっと言う間だったわね」


ふよふよと漂い、台所にあったベーコンを摘まむ


「魔法使いになるのを諦めたあんただったけど…まぁ私のやりたい事でもあったんだけどね、薬学やらは引き続き教え続けた…勉強時間はともかく、知識だけなら人間のままでも学べるからね」


ガムの様に噛み、脂ぎった指先を見つめる


「人間に出来る範疇の知識はあんたが結婚する頃には概ね教えきり、それからは共同研究の仲になった…」


「あ、そこの布巾使って下さい」


「んー」


干された布巾を水に漬け、絞り、手を拭く


「…まぁ薬学、特に身近な素材や手法を使ったものなら主婦行の片手間にも出来るからね ライフワークにもいいし」


あんたは頭もよかったし、と




「…子供が出来たらそうもいかないよ」



花瓶に生けられた萎れた花を眺める


「薬品が未熟な子供に与える影響もあるけど、子育てに入ったらいよいよそんな暇は無い 子供に掛かりきりだ」


その花の茎を摘まみ、クルクルと弄る

すると花は花瓶の水を吸い付くし、急激にみずみずしさを取り戻した



「それは困る 私が」


が、若返りを終えた途端巻き戻す様に、むしろそれ以上の早さで萎れだし、遂には粉となって崩れた


「折角の大切な学友を“そんな事”で失いたくないし、中途半端にされたくもない」


「…そうですか」


女性は立ち上がり、歩み寄り、花瓶を取り上げる



「お断りします」



残った枯れ花をゴミ箱に捨てる


「子育てか趣味か、となったらそれが当然でしょう?」


流しで花瓶を洗うと、底に溜まった汚れや草のカスが流れ落ちていく


「やりかけの研究も沢山残ってるぞ?」


「先生なら一人で出来るでしょう?」


「あんたは発想力もある」


「いつかは廃れます」


「……恩知らず」



花瓶が流しに置かれる



「…申し訳ないと、思います」


ようやっと、目を合わせる


「振り返って見ると、尻窄みに投げ出してる様にしか見えませんよね 魔法使いになるなんて息巻いて、色恋で諦めて、研究すら放り捨てて」


「あんたはそんな不誠実な女じゃないさ…」


だから投げ出すな、と
暗に脅迫めいた慰めを口にしながら女性の頭に触れる


「そのつもりです」


謙遜も傲慢も無く肯定し、その手を握り



「その誠実さを、家族に向けたいんです」



取った手を自分のお腹に触れさせる



「…!!」


バッっと、いつになく慌てて手を引き離す


引き離した手は、春の日差しの様な淡い光を放ちながら拡散しかけていた


「……亡霊の私にゃ、生気が強過ぎる」


その手を一振りすると手は元通りになり、淡い光は失われた


「ふふ…教わってませんでした」


ぐるんと動いたお腹を眺め、両手で撫でる


「………なら、最後の講義ね」


…女性自身、不思議と慌てずに顔を上げた



上げた顔を両手で包まれる


亡霊は身体すら無いのだから当然だが、体温や柔らかさは無い
生き物らしさすら無い

無いのに、この懐かしさは何だ



「………後悔は、無いのね?」



「……はい」


「本気で言ってるのね」


「はい」



「……狂ってるよ…」


亡霊の手が消えていく
霧の様に消えていく

霊魂の尻尾も、身体も


「………馬鹿な子………」


閉じた瞼の下で口元が消え、声が薄れる


「今は…親です」


瞼が開き




どんな目か確かめる間も無く、全てが消え失せた

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