Coolier - 新生・東方創想話

■Thanks Despair■

2013/10/20 10:27:59
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【その昔:どこかの森】
「……」


さ迷う 移ろう 漂う


女に目的地は無かった
目的も無かった
記憶も、名前も無かった
何も無かった

ただただ目の向いた方向へ進み、先々での出会いに応対し、時間と思考を消費した

食べ物があれば食べ、動物がいたら頭を撫で、川があれば手を濯(すす)ぎ、襲われたら殺し返した


覚えているのは、かつての自分は魔法使いで、今の自分は亡霊だった 筈だと言う事

魔法使いだった頃に学んだ(らしき)知識は身体で覚えているが、魔法使いとしてどう生きたかまでは覚えていない

自分がどう死んで、何故か未だに現世に留まっている理由も知らない

ただ分かるのは、魔法使いとして長い長い時間を生き続け、亡霊として永い永い時間を逝き続けていると言う事


だからこそ


(…退屈ね)


その一言に尽きる

退屈退屈退屈

もう何百年何千年と退屈だ

退屈じゃなかった時を思い出せない位に退屈だ

何かワンダフルな出来事でも起きないかしら



(……いや)


目的は、ある事にはある

あるが、それは果たして目的と言えるかどうか

例えるなら朝昼晩の食事をお腹一杯取る事と似ているが、食事が目的と言うのはだいそれてはいまいか



そんな事を考えながら俯いて漂いつつ、さっき拾った杖を手で擦っていた

両手には魔力が纏われており、先端の“弧”を絞る様に擦る度に綻びや砕けたギザギザが研がれ、綺麗な三日月形になった

柄の部分のも磨きあげ、それなりに立派なものとなった


「よし…」


善し悪しは重要ではないが、ひとまずの小さな達成感が口から漏れる


そうして杖を肩に担ぎ、もう片手を腰に当て、視線を上げ




切り株に腰掛け膝に本を置き、目を丸くした女の子と対面した




「……」


亡霊は少し高い位置からつまらなそうに見下ろし


「……」


女の子は低い位置から呆然と見上げた


「……」


いつの間にここまで近寄り、そして気付かなかったのか


「……けほっ」


女の子は咳き込んだ


長い赤髪が揺れ、口元を両手で覆った顔を更に覆う

膝から分厚い本が落ちる

女の子はますます咳き込み、小さな背中を丸める


「けほっ!けほんッ! ッッかはっ…!!」


しばしその様子を傍観していた亡霊だったが、ゆっくりと手を差し出して身体を屈め



地面に落ちた本を拾った



(魔法の本 …薬学込み、か)


「けほっ、けはぁっ、…んんっ…」


(お~中々解りやすく…はいはいはい…)


「ぐぇ…がっがはっ!!げぼぁ!!」


「うるさい」


亡霊は何とは無しに杖を振るう(おお、魔法使いっぽい)

適当な治療魔法を浴びせ、水湧き魔法を“女の子の喉に直接”放った


「!?ご、ごぼぼぼば!!?」


(…あれ、この術って…あー、はいはい道理で…)


「ごばばば、ごばばばば…」


(…あれ、この呪文私が知ってるのと序列が違う)


「……」


(……おおおおお、お)


てし てし!


(……うへぇ そうだったの…)


てしてしてし!


「ほい」


喉の間欠泉に溺れながらも切り株を叩いて訴える少女に再び杖を振るう

間欠泉は消え、少女の喉から潤いに満ちた咳が溢れる


分厚い本を閉じる


「少しは楽になったかい?」


ここでようやく少女に目を向ける


「………げほぁっ」


水が一塊吐き出される


「じゃ、私はこれで」


再び杖を担ぎ本を抱え、亡霊はその場からふわりと浮き上がった


「まっ…て!!」


少女が飛び付き、スカートにしがみつく


「!?ちょ、破けちゃ…!?」


「わたしのほんッ…かえして!!」


「?あぁこれ?」


当然の様に抱えていた本を手の上に置くと、パラパラと勝手に捲れ出す


「何よあんた、魔法使いにでもなりたいの?」


「なるの!!」


「無理だよ やめときな」


「なんッ…!?」


「ふん、こんなもん…」


捲れ続けていたページが、突然燃え上がった


「!!いやぁああああああぁぁ!!?」


燃えながらも捲れ続けるページは、火の粉になりながら宙に舞っていく


「やめてよおお!! ばかああああぁ!!」


涙目で叫び、グイグイとスカートを引っ張る


「こんな薄っぺらい本読んだって、ロクに身に付かないよ」


手にした杖の尖端で、もはや火が燃え移った革表紙しか残ってない、篝火と化した本を叩く


散り散りに舞っていた火の粉達が突然止まり、逆に渦を巻きながら革表紙に戻って行く

映像が巻き戻されるかの様に


「…!!」


「最低でも…こんなもんかね」


そして火は吸い込まれる様に収束し


後には厚さが五倍にはなった本が在った

革や装飾もつき、鍵まで備わっている


「ほれ」


ぽいっ と軽く放り投げ


「ぎゃんッ!?」


只でさえ少女には重かった本が重さも五倍近くなって頭上から落ちてきたのだ

手でも受けきれず、のし掛かられる


「けどまぁ 最低限の本を読んでるだけじゃあただの知識人止まりだけどね」


お腹の上に本を乗せ仰向けに倒れた少女と向かい合う様に、亡霊はうつ伏せに浮かんだ



「教えてやろうかい?」



亡霊は、差し当っての“出会い”を見つけた

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