Coolier - 新生・東方創想話

上白沢慧音の歴史を呑む会

2013/10/19 09:05:26
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 『歴史を呑む会 ~お品書き~』
  ・発酵の妙
  ・お手頃
  ・マスパ
  ・匠の技
  ・郷土愛
  ・百年前の革新
  ・不明酒

 ◇ ◇ ◇ ◇

 歴史を呑む会in博麗神社

 「さぁ皆、自慢の酒は持ってきたか? 存分に語れ! そして、呑み明かせ!」

 上白沢慧音の音頭で『歴史を呑む会』が始まった。各々の自慢の一品を持ち寄り、好きに語り合う集まりだ。
 今回のテーマは『日本酒』らしい。
 さて、今日はどんな銘酒が拝めるのやら……




 「霊夢ーまだ始まんないのか?」
 「今準備してるところじゃない。妹紅を見習って、あんたも手伝いなさいよ」

 「へいへい」と魔理沙が重い腰を上げる。霊夢は流石に手慣れたもので、見る間に宴会場が出来上がる。妹紅も……うん、ちゃんと働いているな。
 調理場にはアリスと早苗か。和食か洋食か、それとも中華か。まぁ二人に任せておけば問題はないだろう。

 「先生、結界はこんなもんで足りるかな」
 「えぇ、十分です。いつもありがとうございます」

 神奈子様に結界を内から強化してもらい、建物にも被害が及ばない様にしている。酔っぱらいは何をするかわからないからな。気を付けるに越したことはない。
 さて、そろそろ良い頃合いだ。私も準備に取り掛かろう。今日も無事に終わってくれよ。


◆一番手「早苗の甘酒」

 「では一番手、東風谷早苗です。私のお酒は、これです!」

 利き猪口に液体が注がれる。白く、ドロドロしたそれは、あっと言う間に蛇の目を覆い隠した。

 「これは……『甘酒』じゃないか! 早苗、ふざけてるのか?」
 「えぇ、確かに甘酒です。アルコールもゼロ。ただし、酒粕と砂糖を使わない、米麹と発酵の甘酒です!」
 「なに? いや……そんな事言っても、所詮は甘酒じゃないか!」
 「魔理沙、まずは飲んでみなさいよ。美味しいわよ、これ」

 霊夢に窘められ、私はお猪口を見つめる。
 白い、いや、少し色が着いているか。米の粒も残っていて、緩いお粥の様にも見える。
 匂いは……甘い。でも、これは砂糖なんかじゃない、優しい、米の匂いだ。
 ……なんだよ皆、美味い美味いって。これ甘酒だろう?早苗に気でも遣ってるのか?
 やれやれと、お猪口を口に運び、一気に煽る。

 「……甘い。甘過ぎるぞ! これで砂糖を使ってないって言うのか?」
 「えぇ、その通りです。魔理沙さんも知っているでしょう? 『発酵の力』を!」
 「くっ!」

 甘い。凄く甘いのに、喉に刺すような違和感もない。自然な、純粋な甘さだ。

 「美味い……」
 「でしょう?」

 してやったり、と笑う早苗。悔しいが、この甘酒は美味い。『甘酒』というジャンルでありながら、米の美味さをこんなにも強く感じる。甘党、辛党入り混じるこの宴会でも、かなりの高評価だ。
 ポン! と膝を叩き、天を仰いで叫ぶ。

 「うまいぞーー!!」
 「うむ! 素晴らしい酒だった! 発酵の力とは、まるで奇跡の様だな! 次回も期待しているぞ!」
 「はい!」

 慧音が良いタイミングで場を進めていく。今日は期待できそうだ。


◆二番手「博麗のワンカップ」

 「二番手は私ね。有難く呑みなさい!」

 コトン、とガラスの瓶が置かれた。まさか、いや、見間違うはずもない! これは……

 「ワン……カップ?」
 「正しくは『ワンカップ博麗』よ。どうぞ召し上がれ」
 「いや、呑むけどさ。ワンカップって言ったら安酒の代名詞じゃないのか?私だって昔呑んだことあるけど……」
 「いいから呑め」

 流石に悪ふざけが過ぎるぜ。匂いも、味も、全く良いイメージが沸かない。
 無色透明、香りも鼻にツンとして、「あぁ、間違いなくワンカップだ」と感じた。
 味は……

 「……悪くない」
 「相変わらず口が悪いわね」
 「いや、悪くないんだ。キレだって」
 「美味しい?」
 「……」
 「まぁ、あんたの趣味じゃないのは分かってたわ。早苗、例のものを皆に」
 「準備はできてますよ!」

 悪くない……想像よりも、ずっと。ちょっと戸惑ってしまうくらい。でも、好んで呑むかと訊かれれば、私の答えはノーだ。アルコールの香りが口内に残る。
 「どうぞ」と早苗が新たに皿を持ってきた。

 「焼き鳥、皮か」
 「そう、一緒に食べてみて」

 皮を噛むと鳥の油が口内に広がった。それを洗い流す様に、『博麗』を煽る。

 「……悪くない」
 「どっちの意味で?」
 「いや、美味いよ。皮も『博麗』も。お互いの良さを引き立たせている様で。うん、悪くない」

 霊夢は満足げに笑って見せた。こんな飲み方もあるのか。すごく落ち着ける呑み方だ。
 一杯のワンカップと、焼き鳥。悪くない。何よりも……

 「リーズナブルだしな」
 「大切よ、それ」
 「うむ! 私も大好きだ! しかし、安いと思って買い過ぎると痛い目を見るぞ!」

 いいタイミングだけど……この先生、何言ってるんだ?


◆三番手「魔理沙のスパークリング」

 「待たせたな! 私の酒はこれだ! 気を付けろよ、シャンパンみたいに吹き出すからな!」

 皆の前に四合瓶とタオルが置かれる。小気味良い音と共に小さく悲鳴が聞こえてきた。アリス、お前器用なんじゃないのかよ。

 「もう、こんなになるなんて聞いてないわよ……」
 「いや、私はちゃんと注意したぞ? まぁ無事開いたなら呑んでみてくれ」

 シュワシュワと白い泡が立つ。少しオリも見えるかな。小さな気泡が弾ける度に、微かに柑橘系の香りがするようだった。可愛いグラスに注いだら、日本酒には見えないだろう。

 「発泡してるけど、濁り酒とは少し違うのね……」
 「まぁ大本は同じじゃないか? ただ、この酒はもっと呑みやすいぞ」

 アリスが恐る恐る口を付け、確かめるように呑み込んだ。

 「あら? 炭酸がもっとキツイかと思ったけど、見た目よりずっと弱いのね。それに角が無くて凄く呑みやすい」
 「香りはどうだ?」
 「口に含む前と後で全然違うわね。後味や鼻腔から抜ける香りには、しっかりと日本酒らしさを感じられるわ」
 「よーし、味の方はどうだ?」

 スンスンと鼻を鳴らして、アリスは再度口に含み味わった。

 「少し甘い……かな? でも、舌でも香りを感じられるくらい、お米の香りがするの。しいて言うならお米の味?」
 「なるほどなぁ」
 「ねぇ魔理沙、なんだか舌がふわふわするの。ちょっと見てよ。べー」
 「おーい。早苗、水くれー」
 「そろそろだと思ってました!」

 口をもごもごさせるアリスに水を飲ませてやる。

 「うむ! 呑みやすいとはいえ酒だからな! 酔ったら水! 先生との約束だ!」

 ……先生、水飲みますか?


◆四番手「アリス8%」

 「復活よ! これでもくらいなさい!」

 フラフラなアリスとは対照的に、上海が器用に利き猪口に酒を注いでいく。こいつ実は自律してるんじゃないか?

 「お米ってこんなに小さくなるのね! 磨きの技を思い知るがいいわ!」

 本体はもう放っとこう。さて、色は無色透明、いや水か? 香りは、私の知っている日本酒じゃない。なんだ? よくわからないぞ?
 まぁ、酒は呑んでこそだ!

 「美味いけど、なんだ? ……薄いのか?」
 「ふふふ、磨きの技を体感したようね」
 「あぁそうだな。アリス、これはどんな酒なんだ」
 「言った通りよ。お米を磨いて、磨いて。8%まで磨いたお米で作った日本酒よ!」
 「ふーん……ってそれを今出したのか!?」
 「えぇ、とっておきのお酒よ」
 「だー! もったいねー! 早苗! 水!」
 「えぇっ? ど、どうぞ!」

 早苗から水を受け取り、口をゆすぐ。塩を舐めて、水を飲んで、集中!

 「もう、どうしたのよ」
 「……データが全てじゃないけどさ。8%磨きなんて正気の沙汰じゃないぜ。まさしく逸品だ」
 「だからとっておきって言ったじゃない」
 「くっ……もう一杯だ」

 酒が再びお猪口を満たす。今度はもっと味に集中して……うん、やっぱり凄く呑みやすい。すっと入ってくる。微かに、、フルーティーな、香りが……

 「……のみやすくておいしいです」
 「でしょー?」

 ニコニコと得意そうな顔のアリスが恨めしい。

 「うむ! 私も酔っていて味がわからなかったぞ! 高い酒は最初に開けるに限るな! あっはっはっはっ!」

 先生、あんたもか! これを最初に呑みたかったです!


◆五番手「神奈子の地酒」

 「だいぶ出来上がって来たみたいだね……っしゃあぁぁぁ! 神の酒を呑めえぇぇ!」

 テンション高いよ!
 神奈子の酒が注がれる。色は、薄くついてるな。爽やかな良い香りだ。

 「っおおー! 辛いぞー! なんか重みが凄いぃぃ!」
 「そうか? 辛くも甘くもないし、まさに水の様に呑めるぞ」
 「いや、冷静かよ。美味いのはわかるんだけど、私にはちょっと辛過ぎるぜ」

 ぐいぐい呑み進める神奈子に対抗してみるが、いかんせんペースが上がらない。霊夢だって美味しそうに呑んでるのに。

 「これは私の地元の酒でな。料理にも使ったりするし、すっかり身体に馴染んでいるのかもしれん」
 「そんなもんかなぁ」
 「まぁ、無理をせずに好きな酒を呑め。他人の逸品が、必ずしも自分にとってもそうだとは限らんからな」
 「それもそうだな、ごちそうさま! 美味かったぜ!」
 「私はもう一杯いただくわ」

 霊夢の奴。あんなに美味そうに呑みやがって。

 「私もこの酒が好きだぞ! 美味い! 水みてぇだあぁぁ!」

 先生! そろそろ戻ってきて!


◆六番手「妹紅の山廃」

 「私の酒は癖が強いぞー! 山廃の癖は世界一ぃぃぃ!」
 「キャー! もこもこたーん!」

 なんで満月でもないのに変身してんだよ! 先生興奮しすぎだよ!
 何もなかったかの様に、妹紅の酒が注がれる。色は今日一番だ、少し茶色く見える。それに、熟成しきったような、甘ったるい香りがする。

 「甘い? コクって言うか独特な重みが。それに香り! 強すぎ!」
 「それが『山廃』の実力さ! 一度呑んだら忘れられない、癖になったら止まらない!」
 「確かに、この味は一度呑んだら忘れないぜ」

 本当に独特。新しく『山廃』ってカテゴリーが私の中にできてしまった。

 「どう、癖になりそう?」
 「独特な酒だよなぁ……私はぐいぐい呑めそうにないけど、偶に呑むたくなるかも」
 「それで十分! そうして繰り返し呑むうちに、虜になってしまうのさ!」

 なるほどな。んー今度里の酒屋で探してみるか!

 「キャー! もこ……流石は妹紅だな! 私も虜になってしまったぞ!」

 戻ってきたか! ……いや、本当に大丈夫か?


◆大取り「慧音の不明酒」

 「うむ、楽しかった会も私で最後か。さぁ! 存分に味わってくれ!」

 言葉はしっかりしてるけど、まだ変身解けてないよ? 大丈夫?
 ドン、と新聞紙で包まれた一升瓶が出てきた。お猪口に注がれたお酒は、薄く色づいている。それに、なんだか深みのある香りだ。

 「不思議な香りがします!」
 「なんだか複雑な味ね」
 「私にはわかるぜ! 山廃だ!」
 「この磨き! 大吟醸ね!」
 「それにしては香りがなぁ……」
 「吟醸くらいじゃない?」

 口々に感想を述べるが、皆バラバラだった。

 「先生お手上げだぜ。これは何の酒なんだ?」
 「不明だ」
 「えっ?」
 「まぁ、今皆が言ったもの全てだ。吟醸、大吟醸、山廃、全て混ざったものだな」

 そう言って新聞紙を外すと、今言ったものが全てラベルに書かれていた。
 ウィスキーやワインだってブレンドしたものがあるし、日本酒にもそういうのがあるのかな?
 それにしたって欲張りだぜ。

 「まぁ、呑みやすい酒だな。少し山廃の存在感が強いけど、かなりまろやかになってる」
 「美味いか?」
 「不思議な味だな。でも美味いよ」

 「そうか」と先生はなんだか満足そうだ。

 「二度と呑めない酒だ、よく味わえよ」
 「混ぜればいいだけだろ? なんで呑めないんだよ」
 「さてな。まぁ味わって呑め」

 呑みやすくて、あっと言う間に先生の酒は空になった。


 「……さて、歴史を呑む会はここまでだ! おまえらー! 朝まで呑むぞー!」
 「「っしゃおらー!」」
難しく考えるな。楽しみながら、素直な感想を交換しながら、一口一口大切に呑めば十分だ、って先生が言ってた!
言いたい事は、全てあらすじに。

慧音のお酒が何か知っているかどうかで、伝えたい事が変わります。

P.S
甘酒とスパークリングは、日本酒が苦手な方でも美味しく頂けると思います。
ししとう
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コメント



0.550簡易評価
1.無評価金細工師削除
朝から酒のみたくなったわ…自分はスパークリング日本酒好きだ
2.90名前が無い程度の能力削除
事前にもやしもんを読んで大雑把な日本酒知識を手にいれていた私に隙は無かった。
特にアリスの8%の意味が分かったのが満足。アリス流石やわ。
3.90名前が無い程度の能力削除
いかにも楽しそうな空気が伝わってきて良い感じです。はっちゃけたノリが幻想郷らしい。
そしてそうでありながらも、発酵の発見から精米、明治の新製法、東日本大震災まで、歴史を辿る構成になっているのがすごいです。慧音らしい取り組みかなと。
5.90奇声を発する程度の能力削除
楽しそうな良い雰囲気でした
6.100名前が無い程度の能力削除
 お酒の知識がなくても楽しめました。美味しそう!
 それゆえに後書きも含めて解けない謎も分からない部分もあった。悔しいぜ。
13.100名前が無い程度の能力削除
お酒は良いものだ...
14.80沙門削除
 うーわー、日本酒飲みたいー。
 だから買ってきてしまったよ、お酒。
 特に山廃に興味があります。
 このお話は飯テロならぬ酒テロかな?
 ご馳走様でした。
15.90名前が無い程度の能力削除
常時テンション一番高い先生はめずらしいけどかわいい
半分は知らないけど興味湧いてとりあえず軽く調べましたよ
ワンカップ博麗はどこから出てますか
16.無評価ししとう削除
日本酒美味しいですよね!興味を持って頂けたなら嬉しいです。
磨きや、先生のお酒を知っている方がいてビックリしてます。

あとがきの補足って程でもないですが、知らない方にとっては日本酒の歴史、知っている方にとっては日本酒と歴史(災害)の備忘録、って事になるかと思います。

ワンカップ博麗はネーミングを某大関から。中身は地酒ワンカップも増えてきたので色々です。
とりあえず、幻想郷に行けば呑めます!