Coolier - 新生・東方創想話

bloody

2013/10/13 16:32:56
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目が覚めた。

仰向けの姿勢で、ぼーっと、見慣れた天蓋の模様を視界に入れて、私は意識を少しずつ覚醒させる。
カーテンがしまったままの窓から僅かに漏れるぼんやりとした光を見るに、もう夜らしい。
私を不安にさせるほどの静寂が辺りを包んでいる。癖になってしまった溜息を一つ吐き出して、静かに上半身を起こした。
……寝苦しくはなかった。が、止まない頭の奥の痛みが、気分を憂鬱な世界に呼び戻す。

「…………」

世界は変わらず静かすぎた。それがいけない。鈍い痛みがはっきりしてしまう。
ベッドに備え付けられた呼び鈴を、もう半分忘れていたそれを、ただ視界に入ったからという理由で鳴らしてみる。
凛とした響きが静寂の中に溶け込んで、やっぱり、それだけで終わった。

どれだけ月がこの世界を巡っても、私がこの館の主であることには変わりが無い。
その当たり前の事実を今更見せ付けられたところで、残酷など。最初から分かっていた夢物語。
何も期待しちゃいないさ。

ゆっくりと立ち上がって、着ていた服を脱ぎ捨てるようにベッドに放り出すと、用意しておいたいつもの服に袖を通す。
私の部屋には鏡が存在しない。そもそも鏡には映らないんだったか。使った試しは無いから分からない。が、自分の姿を眺めることができないというのはどうしてこうも不便なのか。
つい先日、友人に後ろ髪が跳ねていると、散々笑われてから少しだけ身構えるようになった。
そっと髪に触れてみる。……たぶん、大丈夫。
そのたぶんは、いつまで経ってもたぶんのままだったけれど。

……くだらない。

はあ、とまた溜息を吐いてから、寝起きで喉がからからに渇いていることに初めて気がついた。
意識し出すとその欲求はじりじりと身を焦がすように広がって、居ても立ってもいられなくなる。
背丈の倍はある扉を押し開き、暗い昏い廊下へ足を踏み出した。

深呼吸。ああ、信じられないくらいに静か。

「御姉様」

突然、自分を呼び止める声がした。静かな館内には、そのソプラノの声は良く響く。
私は宙に投げていた視線をゆっくり声のする方へ動かした。

「御姉様。最近変よ」

紅く、ぎょろぎょろとした眼だった。人を殺せる眼。
そこに切なさや憂いを感じることは、私には出来なかった。
寧ろ感じるのは、好奇心の類。或いは、変わってしまった私を笑うのか。
にやりと、その悪魔は口端を吊り上げた。

「なんだか、お人形さんみたいね」

構わない。言わせておけ。元から気が触れているのだ。おかしくない、何も。
そう思っていたはずなのに、何故か私は紅い瞳から視線を外してしまう。
紅い絨毯が眼に映る。ああ、血の色。ああ。
意識しないうちに右手は拳を握っていた。そして小さく、震わせていた。

「……つまんないの」

もう顔を上げる勇気は無かった。が、どうやら彼女は私に飽きてくれたらしい。
吐き捨てるようにそれだけ言い残して、私とは逆方向に歩き出す。
私の知らないメロディを口ずさみながら。



気付くと、私は図書館に来ていた。
ここまでどうやって来たのかは、あまり正確に覚えていない。ゆっくりと、絨毯の模様を追って歩いていたら、自然とここに辿り着いたと思う。
重そうな扉は、私が手をかざすだけで音も無く開かれた。
相変わらず暗い室内だ。歩き出すと、ぼうっと仄かな光を漏らす謎の発光体が、私を避けるようにふわふわと道を作った。
頭では何も考えていなかった。ただ、体が覚えているままに進んだ。

彼女はそこにいた。
私に気付いてもない風に、静かにぱらりと乾いた音を立てながら、視線を文字に這わせている。
ずっと、ずっと昔から何も変わらない。
私は声を掛けることもなく、彼女と向かい合う場所に椅子を引き、腰掛けた。

「分かりきっていたことだと、思うのだけどね」

急に開かれた口に、はっとして視線を上げる。彼女は本に指を這わせながら、続けた。

「今更何を動揺しているの」

その言葉に棘は無かった。どちらかというと、赤子をあやすような甘い声。でもそんな声が、今の私を一番凍り付かせた。
掠れた声が、僅かに、喉の奥で鳴って、……私は。
そんな私の様子に見かねたように。

「……飲む、紅茶?」

すっと、彼女は自分の飲みかけのカップを持ち上げる。
渇きが激しい。更に嫌な動悸が出てきた。私は静かに首を振ってそれを断った。それだけだった。彼女は持ち上げたカップを下ろして、またすぐ本へと視線を落としてしまった。
私だけが異質なのだと感じた。ああ、もうここにはいられない。

ただ一つだけ思い立つことがあった。
私はまるで、自分の居場所を探すかのように図書館を後にした。


給湯室と古びたプレートが掛かった部屋には、まるで人の気が感じられない。
白い布を退かすと、以前は良く愛用していたカップがきちんと揃ったまま無機質に光っていた。
そのうちの一つを手にとってみる。冷たい。
私は半ば踊らされるようにケトルに水を入れると、それを火にかけた。待っている時間の静寂は、思った以上に長く感じた。
水が沸騰すると、それをポットとカップに入れてそれぞれを温める。ポットに茶葉を適量入れ、湯を注いで、蒸らして、スプーンでひとまぜ。
茶漉しを使って、カップに紅茶を最後の一滴まで。よくあいつが言っていた通りに注いだ。
それなのに、色が、香りが、温度が、……全てが違う。

紅い水面に映った歪んだ顔がとても不吉なものに見えて、私は口も付けないままに、それを床に投げ捨てた。
ガシャン、と大きな音を立ててティーカップは割れてしまった。その音に、私はびくりと身を震わせる。
支えを失くした紅茶は、床に広がり流れ出る。……ああ、血の色。……ああ。


……私は、もうこんなに、臆病になってしまった。昔は何もかもが怖くなかったはずなのに。
こんなとき駆けつけてくれるあいつはもういない。
どうしようもない絶望で終わる物語も、あると思います。
二作目。前作のほのぼのとは違った感じに書いてみました。前作との落差がすごいよ!
余談ですが、私はいつもタイトルを考えてから物語を作る派なんですが、今回は最後までタイトルが決まりませんでした。
この物語をまとめきれるような、すっきりとしたタイトルが思いつかなかったからです。みなさんなら、この物語にどんなタイトルをつけるでしょうか。
ふわふわおもち
http://twitter.com/R_R_fuwafuwa
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コメント



0.370簡易評価
2.80おちんこちんちん太郎削除
咲夜さんがいなくなった後の物語でしょうか。
普段は、人の生死など気にしないようなレミリアも、咲夜は特別なのでしょうね。
3.80名前が無い程度の能力削除
良い主人ですね、レミリア。従者の死去を、こうも感傷的に、激情でもって受け止めるなんて。
よくあるプロットゆえに、表現のうまさが際立ちます。
8.80恋視削除
ケトル幻想入りしてるwww