Coolier - 新生・東方創想話

夜空へ指が記すもの

2013/09/10 02:29:53
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 京都の南、高度800メートルに天体望遠鏡を設置し終わり、マエリベリー・ハーンは浮遊座敷の上で一息をついた。望遠鏡の先には星々があり、彼女が見るべきはそのどれでもない、地球まで光が届かない星のひとつ。その星へ40年前、宇佐見蓮子は置き去りにされたのだ。
 最新式の半重力装置が使用されている四畳半の座敷に壁はなく、それでいて内部の防風も空調も完全なのは、座敷の床を取り囲む円環の内部にある、驚異的な質量圧縮処理を施された物質が空間ポテンシャルを歪めているからだった。
 マエリベリーは持ち込んだ携帯式の椅子と机に品よく座り、若い頃から変わらない冥い街を見下ろしながら、砂糖がたっぷり入ったお手製のコーヒーをすする。机上には煎れたときの温度を72時間は保つ瓶の他にカップがふたつ。
 彼女の目的は言うまでもなく天体観測であり、それに適した高所ならば京都にいくらでもあるのだが、豪遊とも言える金額を支払って浮遊座敷を借り、わざわざ山の無い市街南方で夜を見上げている。そのくせ口にしているのは、少女時代に飲んでいた粗悪な合成品の再現。これもわざわざ用意した物であり、現在ではマエリベリーの口に全く合わない代物となっていた。
 だが彼女はこの消え去ったレプリカを不味いとは思えない。金色の髪に白が混ざるなどと想像もしなかった時代の、思い出による感覚の改竄だと自嘲しながら、マエリベリーは郷愁を啜っている。
 郷愁の名は秘封倶楽部といい、生まれ故郷でもない京都で大学生よりずっと暮らしているにも関わらず、マエリベリーは在りし日に取りつかれていた。見よ、今も主観の横暴に関して思索を巡らせ、宇佐見蓮子に夢の話を聞いてもらった時の記憶を脳の奥より引きずり出してきたのではないか?

「あの時は言い返せなかったけど、やっぱり主観も真実なのよ」

 孤独な女性はつぶやいた後、己に苦笑した。
 夢の世界を現実に変えるのよ、と蓮子に決めつけられた時を思い出しながらの物言いが、我ながら可笑しくなるほど少女めいていたからだ。半ば忘れかけていた口調、脱ぎ捨てた仮面をメリーは再び見出した。

「誰も私をメリーなんて呼ばないのよ。あんなに見当違いで、ふざけた名前を付けるのは貴方だけ」

 陶器の杯を回してコーヒーの水面を波立たせながら、彼女は自分に独り言を許していた。呼びかける相手は失われて久しかったために、口へ出すことの無かった言葉をしゃべり、心に区切りをつける事を許した。なぜならば、二人は今夜再会するだろうとメリーは信じていたからだ。観測を初めて8日目の、根拠のない勘ではある。だが、宇佐見蓮子が信じていたメリーの勘を、今回ばかりは自身で信じてみる気になっていた。独り言は続く。

「人類は随分と軽々しく大空を見下ろせるようになった。軌道上を飛び交うシャトルの本数を教えたら貴方はきっと驚くわね。ラングランジェポイント――トリフネ、覚えてる?――に何人が寝起きしているかも知らせてあげたい。そこへ大掛かりな観測装置が建造されたから星空の見上げ方も巧くなって、今じゃ深宇宙をずいぶんと覗き見してるの。暗黒物質の抽出に成功してダークハローの構造解析が始まったし、クェーサー観測圏の外縁、150億光年を境界とする光の崖から一歩踏み出した観測が始まるって話もある。格別に貴方が好きそうなのは、銀河系を貫く全長4850光年のレーザー光束の存在かしら」

 メリーは片方の掌で筒を作り、夜空を覗く。

「貴方はこちらを見下ろすばかりね。可哀想に」

 一口含んだまずいコーヒーはずいぶんと冷えており、なけなしの香りも消えている。

「当時の貴方は私の目を通して、私は直に不思議を見たわね。メリーは窓。メリーは望遠鏡。メリーは万華鏡。40年前、貴方が消えるまではそうだった。でも、秘封倶楽部のメリーは今やただの女。人を寄せ付けない年かさの教授。そのマエリベリー・ハーンが」

 カップをテーブルに置くとメリーは口を噤み、続きの言葉を己の中で探した。今から自分は何を為そうとしているのか、それが分からなかったからだ。長年待ち続けた瞬間には違いない。だがその行動が単純すぎる故にメリーは惑った。夜空を見上げるだけでよかったのだ。他に何があるだろう? 何もなかった。
 すべき事は思い出したくないくらいあったし、ここまでに至る年月も決して余裕のある物ではなかった。ただ星空を観測すればいいだけだったのに最善を目指してしまったメリーを、年月は静かに、たゆまず削ったからだ。座敷の隅に置かれた手荷物に混ざっている小箱はその際たる物であったので、彼女はちらりと視線をやり、手に入れるためにかかった10年を思って目を閉じた。今回の件に縁ある神の一部であり、おそらく願掛けにしかならぬであろうという事も彼女は知っている。
 目を閉じようとも止まることのない思索が、メリーに秘封倶楽部の最終活動を思い出させる。今まで幾千も思い出した光景であり、時の流れに擦り切れて細部は見えなくなったにも関わらず、今なおメリーを動かすには十分な幻燈だった。

『この光景を見せたかったの』

 うれしそうに笑い、メリーの手を握り、笑う蓮子の顔。あの星の光景は確かに凄まじく、未だに人類があれを模倣できはしないだろうとメリーは考えている。仮に太陽系から離れられるほどになったとして、それより先、何十年もかかるだろう。
 たぶんメリーよりも興奮している蓮子の横顔の記憶を眺め、四十年後の彼女は笑った。

「よく言うわ。私と一緒で、初めて見たくせに」

 すでに彼女の視界は現実から遊離していた。当時を見つめるメリーの瞳は夢に烟っている。
 ここに隙間が生まれた。自らが現の向こう側を覗ける事を忘れ、蓮子を呼び寄せるために縁の品を携えてきた事を失念していた。もしくは侮っていたのか。いつだって覗き見てきた向こう側は、領域を離れれば何もしてこないのだと。

「姉さん、つまんない場所に出てきたわ」

 不意に聞こえた声にメリーが顔を上げると、二人の少女が浮遊座敷の中に居た。音も、気配も、センサーも、来訪者を告げるあらゆる兆候が排除された侵入だった。赤と青、違うデザインの、オールドファッションのメイド服を着た少女たちが物珍しそうに辺りを眺めている。メリーを完璧に無視して。

「そうね。舎密せいみにしては洒落っ気のある玩具だけど、地上を見下せる所しか良い点がないわね」
「何よりも」
「狭すぎる」

 完璧な動作で同時に振り返った二人の笑顔は晩秋の風、冬の前触れ。メリーは魂で凍えながら、眼前の幻想が悪意を指輪のようにして見せつけてくる類の存在なのだと知った。

「その老いぼれた眼でも私達が誰かわかったようね」
「そうよ。貴方が思っている通り。ここにいるのは人間以上、人間以外、人間以遠。私は夢月」
「私は幻月。夢幻を描く悪魔ですわ」

 彼女達は双子であり、普段は自らが作り出した世界で遊び続けている。夢と幻をふんだんに使って模造された宇宙へ象嵌された偽物の星が光る中を、宙へ浮いた島が点々と存在する世界であり、上も下も無いところは実在の宇宙そのものであったが、どのような角度へ移動してもにも島は常にその一番平たい部分を見せ、さらに島の形にはまるで法則性がなく、中には幼な児が途中で書くのに飽き、破り捨てたかのような跡が残る物すらあった。当然ではある。何しろこの世界を作り出した幻月、夢月姉妹の精神性は子供のそれであったのだ。
 今宵彼女達が住処から足を伸ばしたのは、老いた夢が放つ香りに誘われたがため。生乾きの麝香のような芳香と悪臭の境目にある匂いを探り来てみれば、人間にしては莫大な時間をかけて一心不乱に組まれた、そのくせ少女の面影を残している夢が織りなされていた。
 かぐわしい珍味に悪魔たちは喜び笑い、目の前に座る人間の脳を読み、その夢を完璧に理解した。退屈な絵本と同じで粗末な出来ではあるが、40年をかけて作り上げただけあってそそられた。あとは彼女達が自分好みに味付けし、飲み干すのみ。夢月は小さく唇を舐めて言った。

「素敵な夢ね。宇佐見蓮子の帰還」

 決して漏らすことのなかった秘密を暴かれ驚愕するメリーを二人は嗤う。

「人間が悪魔から隠し通せることなどひとつも無いの。ごちそうさま、マエリベリー・ハーン。そんなになるまで長く秘められた夢を見ると嬉しくなっちゃう。そうよね、姉さん?」
「もちろんよ、夢月。マエリベリー・ハーン、私からも賛辞を送らせてもらうわ」
「いらない」

 メリーは即答した。彼女が齢と共に得た知恵がそうさせた。宇佐見蓮子を迎えるために積み重ねた経験の中には幻想との対峙も含まれており、そこから得た多くはない教訓が、目の前の少女たちに関わるなと告げている。
 一方で彼女は逃げられなかった。怪奇が目の前で起き、現実と幻想の境界が薄れている今が向こう側へ行ったままの蓮子を迎え入れる好機であり、この渇望に付け入られているのだとも半ば知っていた。

「お利口さんね」
「でも知っていて? 月光を檻の中へ閉じ込めておくのは不可能なのよ」

 メリーの覚悟すら筒抜けなのだろう、愉快げに揶揄する幻月と夢月は指と指を絡め、餓えた犬へ見せる乳皿のように合わせた手をそっと差し出した。

「二人はいつも一緒じゃないと。でも貴方は一人ぼっちね」
「だから会わせてあげるわ。宇佐見蓮子に。ううん、連れてきてあげる。我ながら名案ね。そうよね、夢月? いいでしょう?」
「素敵よ姉さん。マエリベリーもきっと喜んでくれるわ」
「やめなさい。これは私だけの問題よ」

 だが、悪魔の姉妹は結んでいた手を離した。
 靴のつま先がかつりと浮遊座敷の床を鳴らし、宇佐見蓮子はそこに立っていた。小さな双子の間を割るようにして出てきた彼女はマエリベリー・ハーンの記憶のままであり、トレードマークだった黒い帽子を片手で押さえ、息を荒らげて肩を上下させている。認識の全てが曖昧となるほどメリーは動揺し、やがて長い夢の結実を味わいかけたが、成功の果実に歯先を沈める事ができないでいた。最後の一歩を阻む何かがメリーの中にあったのだ。
 蓮子の荒い呼吸と肌に張り付いた髪の毛が、狭い空間の中で少女の熱をメリーへ伝える。人間たちの間で交わされる視線はどこか噛み合わず、蓮子は目の前にいる壮年の女性をどう扱っていいのかわからないといった表情を浮かべ、辺りを見回し、再び困惑の表情をメリーへ向けた。メリーは予想通りの姿で現れた蓮子を受け入れようとして、為せず、やがて自らも理解できない言葉を口にした。

「貴方、私の知る宇佐見蓮子かしら」

 蓮子は意識的なまばたきを一度やり、メリーは唇を素早く閉じた。今やお互いが理解していた。彼女は未知のマエリベリー・ハーンであり、そして彼女はおそらく自分と過ごした宇佐見蓮子ではない事を。幻月と夢月は蓮子を中心として完璧に対称的な姿勢で口を掌で覆っており、そこからは抑えきれない笑い声が漏れている。蓮子は答えた。

「わかりません。でも、私は宇佐見蓮子で間違いないです。貴方は」

 言葉を詰まらせた少女をメリーは立ち所に理解した。いつも愛称で呼びかけていたから、咄嗟にマエリベリーという本名がなめらかに出てこないのだ。小さな思い出の煌きがメリーの心を温める。彼女達はお互いに全く重なる所が無い訳ではないようだった。

「マエリベリー・ハーン。メリーでいいし、できれば当時のように話してもらえると助かる。随分と老いたから、そっちは戸惑うかもしれないけれど」

 絶えず注がれる悪魔の歪んだ笑みを意識せぬよう努めながら、メリーは蓮子を椅子に腰掛けるよう勧め、同時に観察した。幻月、夢月達に蓮子は全く反応を示しておらず、かの双子はどうやら自分にしか認知できていないとメリーは判断し、わざわざ見えぬ脅威を示唆することはないだろうと少女らは無視する事に決めた。

「熱い物しかないけど、コーヒー飲む? 合成の」
「ありがとう。いただきます」

 何とかして素早く中身を飲もうとカップへ小刻みに口づけをしていた蓮子だったが、やがて諦めたのかここへ来る羽目になった顛末を語った。
 天岩戸を探すためのサークル活動中にメリーが忽然と消え、それと同時に大きな穴が、月から直接投げかけられたかのように丈長い縦の影が空いた。一瞬だけではあったが友人の手から先が飛び出し、吸い込まれていくのを見た蓮子はためらいも無くそれに飛び込み、そうして不可思議な旅が、蓮子に言わせれば韋駄天の旅路が始まった。
 穴の中では闇が全てであり、重力すら消え失せ、浮遊感を味わうとすぐさま新しい地面へ吐き出された。穴から道へ、道から穴へ。出口には常に道があり、蓮子はそこを走った。曲がり道の向こうや道へ落ちた陰の中には時折りメリーの後ろ姿が認められたため、後に戻ろうなど考えもしなかった。
 黒曜石からなる山腹を刳り貫いて作られた螺旋の回廊を駆け抜け、その次は小国ほどの広さを持つ荘厳な王宮の中、言葉を交わし合う幾万の王と御佩刀持ちみはかせもちの背中で区切られた道を駆け抜けた。生きた獅子の顎から上でびっしりと埋め尽くされた大湿原の木道を、めちゃくちゃな字を模した宝石が浮かぶ他には踏む場所のない、広大な雲の上を行った。
 手足は熱を帯び、肺は収縮して痛んだ。時間感覚はのたうつ鼓動の彼方へ追いやられたが、それでも身体は限界の手前で動き続ける事ができた。おそらくは現実ではない世界であり、夢の中をやってきたのだろうと蓮子は述べた(双子が笑う)。
 身体の全てを廻し、前へ前へと進み、この世界へ足を踏み込んだ。

「以上が私の今まで。次に向かうべき場所への穴が途切れたのも、座って一息ついているのも、ここが初めてよ」

 頷き返したメリーは視界の隅、蓮子が現れた場所で開いたままになっている結界の裂け目を意識していた。こんな空の上に結界が作られるなど有り得る話ではないし、話を聞く限りでは結界の裂け目とは違う類の扉を蓮子は抜けてきている。メリーはちらりと幻月と夢月へ視線を滑らせ、あとは黙っていた。蓮子は空になったカップを置いた。

「コーヒー、もう一杯頂戴」
「ええ」

 瓶を傾けて嬉しそうに飲み物を注ぎ足すメリーを見つめる蓮子の表情は測りがたい。ただこれだけのやりとりに喜びを感じるようになっている相棒へ何を思うのか。少なくとも楽しんではいない。

「何年ぶりになるの。私がここへ戻ってきたのは」
「40年ほどかしら」

 眉をひそめる蓮子にメリーは苦笑を返した。

「やっぱりおかしい? おばさんが子供のような話し方をするなんて」
「気にしないで。違うの。私は、その。コーヒーが熱かったから」
「ごめんなさい。もう少し冷ましておくべきだったわ」
「……うん」

 蓮子はコーヒーをちびりと啜った。

「聞かせて、メリー。貴方がこんな空の上で何をしてるのか」
「いいわよ」

 メリーは黙って椅子から手を伸ばし、望遠鏡の縁をしばらく指でなぞっていたが、おもむろに口を開いた。

「あの日、秘封倶楽部はニュースを見たの。もしかしたら、貴方も見たか、あるいは見ることになるのかしら」





 40年前のその日、衝撃的な、あらゆる人種の耳目を集めることになるニュースが世界中へ拡散された。ダイソン球――恒星を覆う巨大な殻を観測したかもしれぬと研究機関が発表したのだ。
 NGC6960と名付けられている星雲方向を観測していたところ、赤外線の放射を変則的な周期で増減させる星が見つかった。網状星雲からやって来るノイズだらけのデータの中から、距離にしておよそ40光年先にある該当星の物を吟味した所、おそらくそこにはダイソン球が存在する。そういった概要だった。カフェテラスで捲し立てる蓮子と同じくらい、自分もワクワクしていたのをメリーは覚えている。

「ダイソン球。ダイソン・スフィアとも言うんだけど、恒星のエネルギーを全部利用するための装置としてダイソンが提唱した仮説、というより空想の類になるかしら。ここを見て。この号外新聞にもあるように、すっぽりと恒星を人工の殻で包んで光も熱も余すことなく頂戴する仕組みなんだけど、廃棄するエネルギーも当然出てくる。それは熱となって排出されるだろうから、赤外線の観測によってこの造物は発見されるだろうってダイソンは考察したの。
 今回はそれにピッタリ当てはまった星が見つかったから、すわ世紀の大発見か、と大騒ぎしてるのね」
「すわなんて言い回し、何処で覚えてきたのよ」
「メリーこそ。通じるなんて思わなかったわ」
「私は現地へ入院してたでしょ。あの山奥に」

 昔の科学小説に出てくる天文学的な構造物の発見に世間は湧き立ち、もちろん秘封倶楽部も興奮していたのだ。月面へ思いを馳せた時のように。ラグランジェポイントの空中庭園を目指した時のように。
 そしてニュースからすぐに、メリーは夢を見た。
 凹凸の少ない野に少女はいた。足元には背の低い、葉を縦に茂らせた黒色の植物がびっしりと繁衍しており、息苦しく、身体は重かった。重力が強いのだとメリーはすぐに思い至った。遠方へ地球上に存在しない物があったからだ。
 それは山脈よりも巨大で長く、首が痛くなるまで見上げても果ての見えない、どこまでも続いている広大な光の帯だった。そこへ近いものほど昼のように明るく照らされており、逆に遠ざかると夜の暗さに染まっていく。ここでは昼夜が回らず、ただ明暗があるだけであり、メリーがいる場所は地球で言えば午後の下り坂、黄昏の外套がその端を見せ始める頃といったところだろうか。風と光の他に動くものが無い世界をメリーは散歩して回り、夢は終わった。
 翌日、その話をしたメリーを見る蓮子の瞳の輝きと言ったら。

「今度は私達で二番乗りよ!」

 常のごとくメリーの夢へと向かうために秘封倶楽部は動きだした。出発に使う結界の裂け目は大鳥神社で見出すことになった。祀られているのは大和武尊やまとたけるのみこと大鳥連祖神おおとりのむらじのおやがみ。双方ともに異界の開拓者であり、特に前者は白鳥に由来する伝説の持ち主だった。NGC6960。白鳥座に属する星雲より手前に存在する星、おそらく将来は白鳥座へ組み込まれることになる暗黒星へ向かうのに、これ以上の適格があっただろうか?
 予想を違わず彼女達は辿り着けた。夢と同じく息苦しい、横からの光に溢れた世界をはしゃいで回った。蓮子が地面を指差す。

「見てよ。植物が真っ黒なせいで私達の影が無くなったみたい。たぶん、僅かな光でも吸収できるように進化したんでしょうね」
「あら、地球のは薄暗いところに生えてるのも緑色してるじゃない」
「緑色なのは、緑の光を弾くようにできてるからなの。それがどうしてなのかは諸説あるんだけど、地球上の植物にとって緑の光は都合が悪いんでしょうね。で、ここに生えてる奴らには都合の悪い光が無いので全部いただいている、と」
「蓮子は生物学にも詳しいのねぇ」
「メリーがここの植物の色を教えてくれたからね。予習してきたのよ。それにしても高い光ねぇ」

 輝く山々を見上げた蓮子はそのまま夜空まで視線を移し、ある数字を、彼女達の生きる時間から数えて、およそ40年前に当たる時刻をつぶやいた。

「何よそれ」
「分からない。なんで解るのかしら」
「ここから地球まで40光年だっけ? JST日本標準時を元に逆算して時間がわかっちゃうんじゃないかしら」
「さすがにそれは。でも、実際わかっちゃってるし……うーん。あ、月もわかるんだ」
「ええ? どこにあるのよ」
「あっちかな。という事は、今いる面が地球に向いてるって事か。なんだか壮大な偶然ね。たまたま向こうに地球があるから気付けたなんて。私の目は地球外でも使えるんだわ」
「相変わらず気持ち悪い目ね」
「それ久しぶりに聞いたけど、やっぱりメリーの方が気持ち悪いよ」
「はいはい。で、月が見えるってことは現在地もわかるの?」
「それが、なんて言うべきか。アラビアの書翰ルクア体を脳の中に流し込まれてる感覚かしらね」
「じゃあ、次回はアラビア語の対訳辞典を持ってこようか」
「そしたらアトランティス語に変わるんじゃない、多分」

 大方はこのようにして二人は喋り続け、現地文明との接触も期待して歩き回ったが強い重量のためにすぐに疲れてしまい、座ってくつろいだ。

「おかしいわ。人造物どころか動物も未だに見かけないなんて。まるで初期の地球みたい」
「植物も草ばかりで、木のように進化したものが無い。ねぇ、蓮子。ダイソン球って恒星のエネルギーを全部吸うための仕組みなんでしょう? その表面に全ての光を受け止める植物が覆い茂っているって、なんだか皮肉よね」
「偶然にしては出来すぎだと思う。案外、この植物も科学的に生み出されたのかもね。少しでも光量のロストを削るために造られたのなら腑に落ちるもの。なんでこんなに大繁殖してるのかは謎だけど」

 蓮子は黒色植物の葉を一枚ちぎり、切り口に触れないようにしながらしげしげと観察した。

「一度滅びてるのかもしれないわ、ここ。完成したのか、する前に何らかの理由で使用されなくなってから土が地表を覆い、生き残った植物が征服する元ダイソン球。亀裂から吹き上げる恒星の光はもしかしたらそこかしこに広がり、ううん、球体にもなっていない、穴だらけの構造物の上に私達は居るのかもしれない」
「私は自然にできたんじゃないかと思う。そんな気がする。球体じゃないかもしれないっていうのは賛成ね。重力の生んだ奇跡の浮島が軌道を巡り、パンゲア大陸のように寄せては離れを繰り返す天体。変則的で平らかな惑星、天然のダイソン球って素敵よ」

 蓮子とメリーは笑いあった。

「どちらにしろ、風景だけ見納めて帰ることになりそうね」
「お弁当でも持ってくるんだったわ」
「帰ってから食べましょ。おにぎりを」

 すでに緊張は去り、彼女達は暢気に帰った後の予定を相談しはじめた。後にして思えば幸せな夢語り。購いを求める手はすぐ側まで差し伸べられていたのだ。今回の夢見の分か、価値を考えればこれまでの冒険全てに付けられた値だったやもしれぬが、メリーからすればどちらにしろ大きすぎた。
 蓮子は現実へ帰って来なかった。夢から醒めた後に彼女はどこへもおらず、メリーは恐怖に溺れながら京都の縁ある場所全てを探し、見つけられず、遂には日本中を探しに行かんとする直前、再びダイソン球の夢へと出かけた。はたして蓮子はいた。

「お腹減らないのよね。夢でよかった」

 メリーが実在を確かめるように詰め寄り、掴んだ肩を蓮子はそう言ってすくめた。その時に掌へ感じた震えをメリーは後になって何度思い出しただろうか。
 蓮子は夢に囚われ、戻れなくなってしまっていた。この時に何を話したのか、詳しい内容はメリーの中から失われてしまった。衝撃の中でなんとか知恵を繋ぎあわせて事態を収束しようとした記憶はある。蓮子は必要以上に落ち着いており、後になってメリーは思い至ったが、彼女の狂乱は再会までの時間の中で過ぎ去っていたのだろう。心に残された生傷も、目の前で次々と傷ついていくメリーがいたのであれば隠したはずだ。

「メリー。私と地球を繋ぐ糸が、まだ一つだけあるの」

 蓮子はそう言って天を指さした。暗い天にまばたく星。地球の夜空を見る時と同じ顔で月の光が見えることをメリーへ告げ、思い出させた。その証明のように、当時から40年前の時刻もまた口にする。

「なんとかするわ。あれに乗って帰るから、貴方は地球で私を観測して」

 地より逆巻く光の帯を指さして、蓮子は笑った。





 話を終えると、メリーは話しかけてくる悪魔を無視して眼の前に座る少女へ聞いた。

「コーヒーはまだいる?」

 蓮子は断り、メリーが自らのカップへ瓶を傾けているところを見ながら、この別の秘封倶楽部は恐ろしくか細い糸を信じているのだと考えていた。不確定要素が多すぎるこの試みは無謀であり、それは目の前のメリーもよく知っているのだと口ぶりから察しがついている。恐らくは成功しない約束のために消費された年月の大きさを想像しようとして、蓮子は自らが幼すぎる事を発見し、遂には目に映る光景を振り切るべく、しばし瞳を閉じて沈黙した。
 さて、幻月と夢月、双子の悪魔はメリーの物語りの間中、ずっと二人の周りをぐるぐる回り続けていた。時には女の脳から読み取った思い出に忠実たらんと、メリーにだけ見える巨大な光の山を夜空いっぱいに投影し、当時の秘封倶楽部そのままに夜空を見上げて感嘆する振りさえしてみせた。明らかに浮遊座敷の向こう側、虚空をも難なく歩き、演じながら少女たちは常に笑っていた。苦杯を呷る者に向けて浮かべる類の笑顔ではあったが。
 今や再びメリーの脇に立った悪魔たちは、左右より交互に囁きかけた。

「二人は一緒じゃないとね。一人では半人前だし」
「マエリベリーの願いも私達の願いも同じよ。二人になりたいと思う事。叶えてあげたいじゃない」
「そうすれば私達も笑えるの」
「お互いの笑顔のためにがんばるのは、人間も悪魔も同じ」
「私達二人が笑うために」

 悪魔へメリーは目で伝える。『この蓮子は違う』と。幻月と夢月は片足でステップを踏みながら、くるくると指を回した。

「そうね、違うわ」
「でもそれが何?」

 やがて踊りながら座敷の縁より足を踏み外し、悪魔たちは笑い声を響かせて地上へと落下していった。

「メリー。私、お邪魔かしら」

 瞑想から戻った蓮子が小さな声で聞いた。

「いいえ。考え事をしていたわ。居てもいいの。もう少し休んでいくといいわ」
「それなら、私が見てもわかりそうな古い本とか、情報はない? ニライカナイのように未来の情報を知るのも面白そうだけど、いきなりだと多分理解ができないから。有るならそれで時間を、穴が再び現れるまでを一人で待ってみるから。貴方は貴方で、こっちの蓮子のためにできる事をしてあげて」
「それは……いえ、そうね。そうする。少し待ってね」

 メリーはしばらく逡巡して立ち上がると、鞄などの手荷物を集めた場所を探った。自然と例の小箱へ、大和武尊にあやかった品へと視線が行く。メリーは人生における苦渋の象徴から目を逸らすと、紙を大量に挟み込まれて膨れ上がった古いノートを手に取り、蓮子へ渡した。

「蓮子と別れた星に関係する資料を集めたものよ。ノートにしておいてよかった。中身は当時の物ばかりで、後になって公表された情報なんかもあるけれど、理論や発見事態は古い物だから問題ないはずよ」

 見るからに年代物のノートを傷めないように、おそるおそるページを開く蓮子がメリーを見上げると、相手は微笑んだ。

「色はひどいけど、液状金属で補修してあるから普通に扱って大丈夫よ。帰ってきた蓮子が、きっと一番最初に知りたがると思って保管してたの」

 蓮子はページを丹念に読み始め、時折メリーが上から覗き込み、当時の、そして未来になって公開された情報を繋ぎあわせるべく解説を加えた。
 太陽風を利用して放流され、地球から5光日の距離に到達した観測機から異常値が報告されたのは今からおよそ45年前。恒星の存在しない区域にも関わらず、莫大な光――地球上で太陽から受ける光量の400倍にも及ぶ照射を確認したこの事件は、機器の故障や超新星爆発などが最初に疑われはしたものの、やがてそこに光の流れがあるという事実を突き止められるに至った。指向性が強いために地球からは見えない、巨大な光の柱とも言えるそれは、数年をかけた調査の末におおよその全貌を現す事になる。直径1650万キロメートル、長さ4850光年。もし天の川銀河全体を俯瞰して眺めることが可能であり、なおかつ全ての現象を理解できる神の視点があれば、そこに銀河を貫いて光る極細の糸を見ることができるだろう。

「私、こんなの知らないわ」

 蓮子がつぶやく。

「私の世界でこれが公表されたのは、30年前くらいだったかしら。ただ、貴方の世界じゃ発見されないかもしれないし、そもそも存在しないかもしれないわ」
「そんな。ずるいわ、メリー達だけ」
「光が片道を行くだけで、古代メソポタミアから現代までの人類史分の時間がかかる事にちなんだのかしらね。この銀河を貫く光束は、当時のシュメール王の名を取ってギルガメスと名付けられた。例のダイソン球は、その全長調査の途上で観測されたの」

 蓮子は目を輝かせてページをめくった。メリーは肩の荷が下りるような安堵を味わっている。長い間用意してきたプレゼントが、意中の通りに大喜びしてもらえる様を目の前にしているのだから。

「それが例え別の同一人物でも」

 悪魔の声が耳の直ぐ側で聞こえたため、メリーの身体が強張り、掌を握りしめたのは一瞬のこと。彼女はすぐに元の表情へ戻った。蓮子はノートに夢中だ。

「ダークマター、クェーサー。宇宙が好きね、宇佐美蓮子は。どっちも同じように」
「同じなんじゃないかしら。記憶が少し違うだけで。同じような夢を見るもの、この二人。そうよね、姉さん」
「ええ。ああ、マエリベリー、その疑問はごもっとも。『なぜ二人の比較ができるの?』」

 完璧に真似られたメリーの声が、本人の耳へと流し込まれる。

「でも私達に時間の流れはあんまり関係ないの。夢なのだから。貴方も若い頃は夢の中で時間を飛び越えていたんだから。もちろん、人間風の言い回しであるところの次元、平行世界も歩いていけるから、貴方の蓮子も、この蓮子も覗いてきたわ」
「あとね、あの箱の中身も楽しませてもらったの。無断でごめんなさい。でもいいわよね? あんなスゴい物を、幾千万の夢を吸ってグズグズになった蜜糖菓子を、たかだか虫取りの誘引剤にしようなんてもったいない」
「今にも染み出しそうなほど中に幻想と夢が詰まってるんだから。今から教える真実と交換しましょう」

 幻月と夢月の唇が、耳朶に触れそうなほど寄り添った。

「ねぇ、メリー」
「よく考えて」
「ただ一人の少女が、目視すらできぬ地球へどうやって帰るの?」
「貴方は40年間考え続けてきたけれど」
「一番最初に出した答えで正解よ」
「彼女は失敗した」
「もう戻れない」

 声は沈黙した。彼女達は、言葉が人間に染み透る時間をわきまえていた。悪魔であったから。

「だから、目の前の蓮子を助けてあげて。あの子も失敗する」
「彼女を進ませないのは簡単よ。入り口は貴方にしかわからないのだから、指し示さなければいい」
「あとは子供を連れて行くための、小さな小さな嘘をすこしの間重ねるだけ。ミルフィーユより繊細で、誰も傷つかない嘘。ほら、遠くから帰ってきた子供を助けるための準備をしていたお陰で、目の前の子供を助けることができるわ。貴方がやってきたことは無駄じゃなかったの」
「この宇佐見蓮子だって薄々は知ってるの。自分の旅は失敗するかもしれないって。思い出せない? この子がやって来た時の瞳に浮かんでいた感情を。覚悟よ、メリー。失う事への覚悟を育みつつあるの。40年前に貴方達がそうであったように。少女の美しい向こう見ずな勇気だろうと、失敗したのなら代償の請求は満遍なく行われる。今の貴方ならよく知ってることでしょう」
「これまでたくさん失ったものね」
「これまでたくさん奪われたものね」
「でも、メリーはこの蓮子を救えるのよ」
「貴方が無くした分を蓮子は健やかに消費していける。そのための40年でもあったわよね? もう家に帰りましょう。目の前の蓮子と一緒に」

 メリーは座ったまま、小さく蓮子の名前を読んだ。
 眼の前に居る蓮子が顔を上げる。外見のみならず、作る表情も、性格も同じであろう蓮子、記憶を共有していないだけの宇佐見蓮子がメリーを見ていた。夢月と幻月の手がメリーの肩に乗る。呻き声を上げかける程に温かく、柔らかな掌の上から同時に囁かれた。

「さぁ、夢の世界を現実に変えるのよ」

 この一言が引き金となり、メリーは蓮子へ告げた。

「そこに」
「うん」
「座敷の端辺りに、結界の裂け目がある。行きなさい」

 全てが静止した。星すらもだした。
 やがて蓮子は礼を言って立ち上がり、次の世界への扉に向かう。双子の悪魔が翻意を促す言葉をわめく中、メリーはじっと目を閉じたままだった。読みかけの古いノートを荷物が積まれた所へ置いてから、蓮子は示された場所に手を伸ばし、二の腕辺りから先が消えたのを確かめてから振り返って聞いた。

「ねぇ。私は、貴方の蓮子に似てる?」
「いいえ、ちっとも似てないわ」

 メリーは期待はずれだと言わんばかりの顔をする。

「そう。じゃあね、メリー」

 片手で帽子をしっかりと押さえ、蓮子は結界の向こう側へ飛び込んだ。

「度し難い馬鹿ね」

 悪魔はそれでもなお、笑みを浮かべたままだ。蓮子に似た声音を用いているのも苛むためだろう。だが今や、メリーも笑みを浮かべている。

「貴方達には感謝している。忘れていた思い出を掘り出してきてくれるなんて。夢も時には役に立つ」

 夢を現に、とメリーは呟いた。悪魔へ、とっておきの衣を見せびらかせる少女のように。

「お嬢様方のおっしゃる通り、秘封倶楽部は夢を現に変えるための集まりだった。あの蓮子にとって私は夢なのだから、現のメリーの元へ向かわせるべきなのは当然の事」
「あなたの夢はどうするの」
「醒める。最後に素敵な白昼夢を貴方たちからもらえたのだし」

 メリーの老いた目が悪魔を見据える。

「それだけに感謝する。帰りなさい。蓮子は40年前、夢に惑ったままいなくなった」
「それでいいの?」
「まだ私達にできることはあるのよ?」
「必要ない。私はもう、一人でいい」

 双子はそれぞれ首を傾け、共に悪意の凝り固まった視線をメリーへ注いだ。

「姉さん、こいつ生意気よ」
「よりにもよって一人がいいだなんて。愚か者、愚か者の女」
「二人であるならば、二人でなければならないの。一人でいいなんて事はありえない」

 幻月と夢月の顔によぎる禍々しさは筆舌に尽くしがたいものだった。さもあろう。メリーは飲み干せなかった盃となるばかりか、あろうことか自分達の在り方すら笑い飛ばしてのけたのだ。到底許せることではなく、二人は悪魔の習わし通り、もはや味わう気にもなれぬ残り物を消し去ることに決めた。

「おまえの蓮子はもういない。だけど別のが残ってるわね」
「片付けないと。この老いぼれではない方を、あちらのメリーもついでに添えてあげましょう。そうね、今しがた出かけた蓮子の旅は必ず成功させてあげるわ。私達が裏で手伝ってあげる」
「あいつは宇宙が好きだったわね。魂のすべてが肝のように苦くなるほどいじめてから、手の内で握りつぶして宇宙へ向けて撒くの。呪いとともに」
「その様をお前の夢で延々と見せてあげる。死ぬまで、ずっと」

 瞬きの後、双子の悪魔は消え去っていた。
 メリーは瞼を閉じた。そうして目覚める直前のように大きく深呼吸をすると、床へ引き倒すべく望遠鏡を乱暴に払った。





「こんばんわ」
「こんばんわ」

 二人の悪魔が秘封倶楽部の前に現れた。その夜は深く黒く、所々に月の光を浴びた杉や檜が見える鄙びた原野の上に広がっている。
 天岩戸から始まった冒険の終わりより、数日が経っていた。老いたメリーを悪意で踏みしだくべく、惨憺たる結末を描き出すため、双子は秘封倶楽部の心身が落ち着くまで待っていたのだ。機を逸するなどということはありえなかった。幻月と夢月にとって、夢の入り口で跳ね回る人間を補足するなど朝飯前なのだから。
 蓮子とメリーは落ち着いている。今宵の夢の先触れが現れたのだと思っているのだろうか? 間違いではない。獣の顎が喉にかけられる先触れもある。

「いくつか質問を持って来たの。貴方達が答えてくれるのかしら」

 蓮子の問いに悪魔達はほくそ笑んだ。おそらくはそういう類の夢を選んで揺蕩っていたのだろう。夢はただ応えるばかりだと信じている愚鈍さを見せつけられ、双子は摘み取る前の花を好きな様に好きに喋らせ、愛でる事に決めた。

「いいわよ」
「何を聞きたいの」
「光の閉じ込め方は知ってる?」
「ブラックホール」
「鏡の迷宮」

 間髪入れずに答えられる。

「私が聞きたかった答えは後者。でも、鏡で光を捕まえるには、出口を光と同じ速度で閉じる必要があるの。古典的な方法ならば、不透明な結晶と、照射中はそれを透明に変質させる特殊な光線を使うわね。そこへただの光を通し、透明化させる光線を止めれば結晶の中へ光は留まる。
 それを踏まえて。夢を閉じ込めるにはどうしたらいい?」
「すでに閉じ込められているのよ。頭蓋に詰まってるわ」
「または魂に詰まってるわ」

 今度も流れるように問は答えられた。

「私が聞きたい答えじゃないね。メリー、夢を閉じ込める速度ってどうやって出せばいいかな」

 蓮子は相棒を見た。メリーは頷く。

「簡単よ。夢と現実の区別をつけない人間がいればいい」

 その答えを少女二人は笑った。音を外す下手な奏者への嗤いさながら。辺りに生える槙や樟の間を、銀の哄笑が流れていった。

「お立ち会い」

 蓮子はひとつまみの欠片を悪魔たちに見せつけた。

「貴方達は見たところ外来の幻想のようだけど、草薙剣はご存知? これはその欠片よ。こんなものを手元に置くなんて、メリーも随分な無茶をやったものね。日本人の夢を含み続けた剣の欠片には、きっと数多の夢が収められていることでしょう。
 ところで知っているかしら? 日本の神話って、妙に星天に関しての記述が少ないの。星や月の神様がいるってだけで、古代シュメールの宇宙論に比べたらお粗末この上ないのよ」

 夜空を見上げた夢月の顔が凍りつく。

「姉さん」

 蓮子は瞳を閉じた。

「メリー」

 幻月も視線を上げた。夜空に燃え上がるのは星と雲、月。どれも光り輝いている。輝いてはいるのだが細部などまるでない光、最も稚拙な筆さばきで塗られた白よりもなお平坦な光が満天にぶら下げられている。夢月の世界であれば、存在を許さぬほどに雑な輝きだった。
 メリーはすぐ側にある現実への裂け目を覗きこみ、掌を蓮子の瞼に当てた。彼女の瞳に映るのは向こう側にある、現実世界の夜空と月。

1時32分17秒さようなら

 野には双子だけが残っていた。
 闇の中、例の如く勝手に入り込んだ社の境内を移動しながら、秘封倶楽部は少ない言葉でこれからの事を確認し合った。現実は蓮子にとっては目覚めだったが、メリーにとっては夢の近似値への移動にすぎぬ。夢と現実の区別が付いていないとも言えた。
 冒険の後、熱田神宮の結界のほつれを目指そうと言い出したのは蓮子だった。
 別世界のメリーが視線を意識的に逸らしていた箱を拝借してきた蓮子は、その中身が草薙剣の欠片であることを知り、これに幻想を吸収させる方法を模索した。これだけの存在であるならば、神籬ひもろぎどころではない、分社そのものとして通用するほどの格があり、許容量も相応にあると考えたからだ。夢をたっぷり含んだ高野豆腐のようなものだと、彼女はメリーへ説明した。

「もっといい例えはないの? 同じ食べ物にするなら、クリームの詰まったワッフルとか」
「それはもう使われたの。あいつら、絶対に私達の所へ来るわ」
「あいつらって?」
「悪魔よ。あっちのメリーにまとわり付いて、言いたい放題。ああもう、まだ頭に来るったら」

 蓮子には幻月と夢月が知覚できていたのだ。突然放り込まれた異界で、最初にあちら側のメリーだけを視界に収めることができたのは僥倖だった。おかげで蓮子は頭の反応が麻痺している間に人間以外の存在を肌で感じ取れたし、メリーに倣って悪魔たちを居ないかのように振る舞うこともできた。彼女達の会話は囁きも多く、蓮子はその全てを聞いたわけではないが悪魔の思惑は外れたようだった。となると、そんな人間に対して悪魔はどのような報復をするだろうか? その予測は容易だった。古今東西、悪魔の性癖については多くの伝説が語っていたのだ。
 幻月と夢月が豪語していた、すべての夢へ通じているという言葉を蓮子は信じていない。そんな悪魔が失敗などするはずはない。これも残された物語通りであり、英雄や勇者と同じくやり込める事も可能だろうと信じた。
 秘封倶楽部が取った方法は、草薙剣の夢へ侵入するという方法だった。メリーが手にした時、彼女はそこへ一つの小世界を幻視していた。鄙びた光景、日本から失われた神代の原風景。そこから醒めること無く出てゆけば、夢に取り憑く悪魔たちを閉じ込める事ができるかもしれなかったからであり、事実、成功した。
 人に見つかる面倒を避けるため、月を遮る木立の中で二人は休息している。蓮子は草薙剣の欠片を取り出し、つまんで撫でた。メリーはそれをじっと見ている。

「メリー、なんで不機嫌なの」

 蓮子が言った。

「それ、あっちの蓮子が戻ってくるために必要なのかもしれないんでしょう。なんで勝手に持ってきたの」
「必要条件じゃないし、たぶん無理だから。あっちにあっても役に立たない」

 メリーは目を逸らし、俯いた。

「あっちの私もそう言うはずよ。同じ立場で、こっちの考えがわかるのであれば。ねぇメリー、こっちを向いて。私たちは今から、のろまなサークルメンバーを迎えに行かないといけないの。私たちにしかできない事で、この高野豆腐じゃないとできない事。
 正直に言えば他人事よ。それどころか、あっちのメリーは私の進むべき場所が見えていながら教えなかったんだから、貸しさえあるわね。脅かす悪魔はもう退治されてるし、これ以上は関与せず、私達は私達の秘封倶楽部を楽しむべきなのかもしれない。
 でも、何処であろうと宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンがいるのであれば、せめてこれくらいの距離でお話できるようになるべきじゃない?」

 しばらく、どちらも黙っていた。

「出てこないわね、あいつら。神器がちっぽけな封魔に使われるなんて、神様でも予想できなかったでしょうね」
「そろそろ行こうか」
「うん」

 メリーは蓮子をじっと見据えた。

「何よ」
「どこの蓮子も無茶ばかり。40年も付き合った、あっちのメリーは馬鹿ね」
「あら。じゃあ、私を欠片の中へ送り返すの、止める?」

 メリーは鼻を鳴らし、さっさと陰から歩き出た。

「私は馬鹿じゃないけれど、止めないからおいでなさい。ちゃんと悪魔と交渉させてあげるわよ」
「まかせといて。あいつら、メリーが出してあげないと何処にもいけないんだから」

 腕を振り回して蓮子も歩き出す。

「弱みを握られた悪魔から契約をもぎ取るなんて、使い古された朝飯前よ!」

 金属片をメリーの掌の上に、握るようにして渡した蓮子が言った。

「行ってくる。蓮子とメリーが笑うために」





 地球から見て星々の彼方、遠いダイソン球の夢に囚われた宇佐見蓮子は、地表より立ち上る光の山の縁までやって来ていた。メリーと別れてより幾日が費やされたことだろう。昼も夜もない世界の事とて時間感覚などとうに狂っていたが、眠気は地球上と変わらず律儀に訪ねて来たため、蓮子はやむを得ず膝を屈して寝つく事もしばしばだった。
 すでに視界はほとんど光に塗りつぶされており、現であれば目が潰れていた事に疑いの余地はない。自らが異常である事を初めて強く意識しながら、蓮子は歩いている。地球へ帰るには恒星の光に混ざる以外に道はないと少女は決断していた。地球へ辿り着く可能性のある物はこの光を以って他になく、ゆくべき道はこの目が教えてくれる。宇宙の闇に閉ざされているはずの月光を道標に、地球へ40年の旅に出るのだ。
 全てが甘い妄想である事は彼女にもわかっていた。だが他にどうしようがあっただろうか。メリーは一人で帰った。40年に及ぶ約束を課した事は蓮子の肩に重くのしかかっていたし、何より約束を果たして欲しくはなかった。できもしない事でメリーを縛るのか? 
 待っていてほしかった。受け止めてくれる者がいないのであれば、どこへ向かおうと消え去るしかない。
 蓮子は考えるのを止めている。
 このまま地の裂け目より恒星へ向かって飛び降り、そこで光となる。この莫大な熱量があれば自らを光と化すこともできるだろう(何故?)。地球へ辿り着いた後は、メリーがなんとかしてくれる(どうやって?)。
 蓮子は考えるの止めている。
 崖の一歩手前まで来ると、蓮子の足は動けなくなった。押し込めていた分別と恐怖とが顔を出し、自らの背骨を這い回りながら告げる。

『夢とはいえ、物理法則に縛られた貴方が恒星に飛び込むことはただの自殺にすぎない。ならば地表で生き続け、別の手段を作り出すことが最たる生存方法ではないだろうか。光になろうというのは荒唐無稽がすぎるというもの』

 彼らはまた、恒星に飛び込んで粉微塵になることなく、そのままであったならばどうなるだろうかとも想像させた。巨大な重力に縛られ、この星が死ぬまで何十億年も核融合の中で生き続けるのだろうか。汗一つ、垢一つ浮かべておらぬ自らの膚を蓮子は見た。夢であるならば死なぬという事もありうる。トリフネの中で合成獣に襲われ、その身は傷ひとつ付かなかったのだ。メリーと違って。
 蓮子は空を見上げた。光に塗り潰された視界でも、月はそこに見えている。幸運にも自転周期と星間の相対速度が地球から顔を背けていないおかげで、未だに終点は見えていた。
 蓮子はメリーを思い出し、自らが口にした言葉をも思い出した。

「なんとかするんだったわ」

 蓮子は、崖へ右足を突き入れた。
 浮遊感に包まれかけたその刹那、彼女は突然左腕から後方へ引き戻され、地面へ引き倒された。混乱する蓮子の目に写る物は相変わらず光の白だけであり、他の全ては奪われたままだ。逃げるにしろ再度星へ飛び込むにしろ、全力で跳ね起きねばならないと蓮子の爪先が地面を掻いたその時、相手は言葉を発した。

「このまま地球へ向かっては駄目よ」

 蓮子は自分の精神が破綻したのだと信じ、全身の力が抜けていくのを感じた。こうもはっきりと自らの声が耳より聞こえるのが、狂気以外の何であろう。

「貴方にも分かっているはず。このままでは万に一つも帰還は叶わない。だから、来たわ」
「誰」

 声のする辺りへ向かって、投げやりに蓮子は言った。

「秘封倶楽部」

 返ってきたのがもう聞くこともないと思っていた少女の声、メリーの声だったために再び蓮子は衝撃を受けた。その隙を狙うかのように話は続けられる。

「まだ公表されてない、全長4850光年、直径1600万キロメートルに及ぶ光の束が地球から5光日のところにある。それはこの近くにも通ってて、この星は光束の全長を調べる際、副次的に見つかったものにすぎない」

 蓮子と同じ声がゆっくりとした口調で未来の知識を説明をする間、地面に転がった少女にもじわじわとその現象が想像されていった。

「指向性の強い強烈な定在波のレーザーであるそれと太陽系との相対速度も毎年プラス140キロメートルといったところで、常に地球の側にあると言っていい。線の両端に莫大な重力場が形成されてる……のは余談ね。今はまだ発見されてないはずだし。貴方はそれに、やがてギルガメスと名付けられる光へ乗ればいいわ」
「地球側からの観測はどうするの。指向性が強いなら、普通の方法じゃ観測できないはずよ」

 何も考えられないはずだったが、蓮子の口はひとりでに質問を発した。

「そこは私も疑問だったんだけど、なんとかなるみたい。個人的に腹立たしいというか、あいつらに神様のサイコロについて言及されるなんて……ああ、もう! とにかく大丈夫よ。メリーがいるから」

 そうか、と蓮子は腑に落ちた。そうとなれば、自分の為すべきことを違えるような娘ではなかった。

「ギルガメスがどっちにあるか教えて。私、月しか見えないの」
「願いなさい」

 今度はメリーの声が答えた。

「願いこそ全てを可能にする」
「わかった。ありがとう」

 蓮子は立ち上がった。あの冥い街で、相棒と駆け巡った時の気持ちが胸にあふれている。返事はなかったが構わずに断崖のあるであろう方向へ向き直り、帽子を落とさないように手でしっかりと押さえ、思い切り飛び出した。
 想像通りに落下するより早く、衝撃が全身を揺るがした。恒星が発する膨大なエネルギーにより、視界だけではなく認識の全てが白へと欠落していく中において、蓮子はもはや恐れずに願い、意識を失った。
 次に目へ飛び込んできたのは冷たい冷たい鋼の青だったろうか。それらは星雲の色であり、別の場所ではダークハローが真っ黒な口を開け、その中で緑や青や橙色の星が見えている。後ろへ流れていく宇宙を見て動きのある事を知り、自らを思い出した蓮子は体を眺めた。少なくとも見かけは先ほどまでと同じ服であり、人の形をして存在している。
 蓮子はまばゆい光の固まりに、巨大な光の白鳥に跨って宇宙を推進していた。鳥の身体の縁は霧のようになって黒い宇宙へ散っており、消えていく光の粒が孤独を強く思わせている。だが周りに不可視の凄まじいエネルギーが奔流となって在る事を蓮子は肌で感じていた。星よりもなお輝く光も、当然それに伴うはずの身を焼く熱も感知できなかったが、蓮子が夢でなければ確かそこへ流れているのだった。おそらくそれこそが不可視の光束、ギルガメスなのだろう。
 進路の小星や隕石いしを飲み込みながら、白鳥は翼を羽ばたかせて進んだ。蓮子は千変万化の宇宙を眺めながら、光で作られている骨が軋んで奏でられる音楽をいつまでも飽きることなく聞いていた。
 どれほどの時間が経っただろうか。不思議と自らの過去の全てを忘れていた蓮子は、唐突に道の終わりを知った。彼女は首を巡らせ、とある一点を、目的地を発見した。無論ギルガメスは直接地球へは到達していない。蓮子はどうすべきかをしばらく考えたが、初めと同じようにして家路を思い浮かべながら、ただ願った。
 鳥が消えた。次いで流れていた星が、暗黒が、空間から全てが消えた。
 蓮子は浮遊感に包まれ、そして完全に重力が無くなってしまう前に、ゆっくりと足先が何処かへ着地するのを感じた。しっかりとした強固な地面は、正確には浮遊座敷と呼ばれる物の床であり、望遠鏡がそこへ転ぶのと同時であったために、多くの音はかき消された。
 地球の星空の下で、蓮子は褪せた黄金色の髪を持つ女性と目を合わせた。





 京都の南、高度800メートルの夜空に浮遊座敷が浮かんでいる。最新の結界学と力場維持装置の結晶であるそれの広さは四畳半。完璧な空調の効いた空間内では二人の女性がテーブルに座って談笑しており、古くからの付き合いなのか、壮年であろう年齢の割に若やいだ身振りが繰り返され、しばしば飲み物や小さな食べ物が口へ運ばれていた。
 話すうちに一方が足音に気づいた。遠くから木の葉を踏みしだくに似た音が近づいてきており、やがて空中を歩み来る第三者を発見した。奇妙であったのは、座敷に座る二人の女が空中を歩く人間を見知っているかのように待ち受けており、むしろ怖気づいていたのは来訪者の方であった。
 座敷を包む透明金属を通り抜けて入り込んできたのは、帽子、ショール、スカートの全てを黒で統べている少女であり、先客へ向けて無言で軽く頭を下げた。
 幽霊でもなければ為せない仕業を目の前で見せられたにも関わらず、女たちの反応は落ち着いており、また素早かった。金髪の女性が静かな声で挨拶をすると椅子から立ち上がり、着座と飲み物を勧めた。黒髪の女性も席を離れ、床に積んであった荷物の中から幾つかの菓子を取り出し、並べた。
 少女は歓迎に対して居心地が悪そうにしており、二人の様子を眺めながら言った。

「私の名前は宇佐見蓮子です。飲み物は、失礼ですが立ったままで頂きます。すぐに行かなくちゃいけないから」

 女性達は瞬時に察した。宇佐見蓮子の瞳の色が左右で違っていたからだ。片方は蓮子の物、もう片方はおそらく急ぐ理由となっているであろう、友人の物。女性達それぞれが見慣れた目だ。見間違うはずもない。
 宇佐見蓮子は菓子へ手を付けずにアイスティーを飲み干すと、礼をしてから直ぐに夜空の道へ戻り、歩み去った。歩きぶりから見て、あるいは娘にとってここは夜空ではなく別の場所であったのかもしれぬ。
 女達は顔を見合わせた。

「私、あんなだった?」
「そうでしょうよ。今となっては腹立たしいね、若い娘のああいう所は。あの子、私達がおばさんになった秘封倶楽部だって気づいてたわ。それなのに頼りもしないで、さっさと行ってしまった」
「急いでいたし、サークル活動中に未来の自分なんて相手にするわけがない」

 蓮子は荷物の中からショールを取り出し、メリーに渡した。

「今ですら、きっとそうでしょう。未来の自分なんて相手にしていられない。未来の貴方ならともかく」
「認める」

 二人は杖やパックフォルダ、手袋などを取り出しては身に付け、靴まで履き替えた。蓮子がそれぞれの帽子を取り出して型を整える間、メリーはたっぷりとした布をテーブルの上へ広げ、中にあった小さな欠片をなぞって言った。

「幻月。夢月」

 空席に、双子の悪魔が座って現れた。

「お菓子は?」
「ミルクティーは?」

 頬杖を付く二人の顔は見るからに退屈そうで馴れ馴れしく、40年ぶりに再会したとはとても思えない態度にメリーはつい微笑んだ。

「そこの欠片をあげる。いま去っていった宇佐見蓮子の後ろへ連れて行って頂戴。ついでに契約も破棄するから、あの蓮子の手助けをして。裁量は貴方達に任せるから」

 その時に少女たちが浮かべた笑顔は夜そのものであり、冷たい風、葉の散った木であった。

「素敵。夢月、あんたが欠片を持ってなさい」
「姉さんが持ってよ」
「何だって?」
「わかりました」

 幻月が指を振ると、浮遊座敷の中に人が通り抜けられるほどの結界の裂け目が開いた。

「蓮子」
「はいはい」

 蓮子は片手で自分の頭に帽子を乗せ、もう片方の手でメリーにも帽子を被らせる。
 夢月が草薙剣の破片を元の布にくるんでポケットへ入れようと四苦八苦する間、幻月は足を振って秘封倶楽部を眺めていたが、やがて双子はいなくなった。
 蓮子とメリーも準備ができるや結界の裂け目に足を踏み入れ、浮遊座敷から跡も残さず消えた。
 静かにかかった月の下に、もう誰も取り残されてはいない。
読んでいただきありがとうございました。
楽しんでいただければ幸いです。

http://twitter.com/kawagopo
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コメント



0.240簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
とても素敵な夢幻の組み合わせでした。ごちそうさまです。
4.90奇声を発する程度の能力削除
組み合わせが素晴らしく良かったです
5.100名前が無い程度の能力削除
毎度ながら、イマジネーションがすごい。
夢幻姉妹が悪魔可愛いです。結末もよかった……。
6.90名前が無い程度の能力削除
スケールの大きなギミックが宇宙って感じがしました。
蓮子とメリーには大きすぎる気もしますが楽しかったです。
7.無評価削除
コメントありがとうございます。いただく言葉の全てに助けられております。

会話文や誤字の編集をさせていただきました。
10.803削除
感想としては、よくこれだけのSFを書き上げたなというもの。
正直よく分からない箇所もあったし、もっとこうすればいいのにという箇所もありました。
ですが、その壮大なスケールの作品の前にはそれらの感想がちっぽけなものになってしまいますね。
夢幻姉妹も今までに見ないタイプで良かったです。
12.100疾楓迅蕾削除
「でも、何処であろうと宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンがいるのであれば、せめてこれくらいの距離でお話できるようになるべきじゃない?」←ここすき
13.100サク_ウマ削除
二つの秘封俱楽部の要素が緻密に見事に噛み合った素晴らしい作品でした。お見事でした。
14.100牛丼ねこ削除
幻想と科学のどちらも対立させず、内包しているのが秘封倶楽部なのかもしれない、そう思わせてくれる良い作品でした。