Coolier - 新生・東方創想話

雪女と嫌悪

2013/09/07 22:55:58
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 言葉の意図が分からず、首を傾げてしまった。
「あなたの能力は吸血鬼と相性が良いと思うけど、違うのかしら。その能力で日の光を覆えば、吸血鬼にとって怖いものはなくなりそうなものじゃない」
「でも、そうしたところで全ての弱点を補えるわけじゃないわ」
「その吸血鬼のメイドと先日戦ったけど。そう考えると手下を使いにさせた、というよりは、自分にできない仕事を押しつけた、というべきかしら。時期か場所限定で最強なんて、なるほど巫女に勝てないわけだわ」
 ……なんか、機嫌が悪そうね。冬じゃないせいかしら。
「あなたは、外に出て大丈夫なの?」
 洞穴の中にいるにも関わらずそんな事を言ったせいか、目の前の妖怪はきょとんとしていた。
「えと、つまり、氷点下じゃない春の気候だけどあなたは存在できている。吸血鬼の致命傷になりうる日光に、あなたは当たっても大丈夫なのかしら」
 問いに対して、レティはおかしいといった様子で答えを返す。
「あなた、ここに入る私を見たんでしょう? 日に当たってもほんの少し程度なら平気よ。ただ暑いから苦手なだけ」
 彼女の言葉で、私は先程の仕返しを思いついた。もしかしたら怒られるかもしれないけど。
「チルノにお願いしたらどうかしら」
「ん?」
 訝しげな表情をされたけど、伊達に巫女へ悪戯をしてはいない。逃げ足は私の方が速そうだし。体格的に。
「吸血鬼が日を避けるために私がいれば便利だとあなたは言ったわ。それなら、あなたの側に氷精を置いておけばいいんじゃないかしら」
「論外よ」
 一蹴された。一応親切心で言ってあげたのに。
「あの子をこんな事で縛ってはいけないわ」
 ……ん?
「私一人の都合で、自由気ままに生きる妖精を監禁することはできないわよ」
 レティが言った言葉は、どう聞いても違和感を拭えない。妖怪でありながら、まるで妖精のチルノを想うような言葉だった。
「あなたが心配しなくても、あの子は勝手にここへ来る時があるわ。遊んでいる内に偶然ここへ来るのよ。本当、うるさくてかなわないわ」
 そう言っているレティの表情からはあまり、チルノに対して嫌悪を向けているようには見えなかった。
「本当はあなた、チルノの事が――」
「嫌いよ」
 一蹴された。何が何だかわからない。
「これ見よがしに、春も夏も秋も楽しんでいる姿を見せびらかしていって。嫌がらせ以外のなにものでもないわ。あげくの果てには夏でも涼しくしてしまうなんて荒技でもやってのける。その力で、この周辺も涼しくしてくれないものかしらね」
 まるでさっきと言っている事が違う。妖怪って、なんて胡散臭いのかしら。
「春に遊んで夏にはしゃぐ。秋は元気で冬を喜ぶ。自分とは価値観そのものが違う存在をどう好きになれというのかしら」
 そう言われると何も反論できない。
 ――一人で好き勝手暴れてればいつでも倒しに行くって言うのに、どうしてあいつらはこうも幻想郷全体を巻き込むのかしら。
 そう言っていた霊夢は、異変を起こした吸血鬼や亡霊の考えを理解することはないと思う。それが、スペルカードルールとして制定されたらしい正式な異変の起こし方に当てはまっているにも関わらず。
 ……でも、確か吸血鬼は積極的に霊夢と接するようになっていた気がする。まぁ、今はそんな事はどうでもいいわね。
 霊夢に対する一方的な好意ほど無駄なものもなさそうだし。……霊夢と行動を共にするような人外って現れるのかしら。
「正直、氷精は年に一回姿を見れれば十分よ。『ああ、まだ存在していたのか』って。気に入らない奴なんて、その程度で十分なのよ」
 考えごとにふけっていた私は不意に出たレティの言葉に対し、意地悪な問いを唱えることにする。
「一年に一度も嫌いな人と出会いたいの?」
「ええ、自分への戒めになるわ」
「?」
「仮にあなたが大妖怪を目指しているとして、自分より優れた者の真似をすることは中々難しい時もある。でもそれは、自分より劣っている者の真似をしない、という成果でも相対的には同じはずよ」
「それってただの現状維持じゃない」
「現状を維持すること自体相当な努力が必要だと私は思ってるわ。例えば館の吸血鬼のメイド。ただ座って眠っていただけでは、あっと言う間に館から追い出されてしまうでしょう?」

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