Coolier - 新生・東方創想話

レッド・ダンスマカブル

2013/09/01 23:58:16
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 レミリア・スカーレットの朝は一杯の紅茶から始まる。咲夜特製の紅茶はレミリアお気に入りにブレンドされており、日常には欠かせない要素の一つと化している。
「おはようございます、お嬢様」
咲夜がレミリアのティーカップに紅茶を注ぐ。紅魔館の庭で咲夜が育てたハーブがトッピングされており、紅茶特有の芳香が更に際だっている。
咲夜がレミリアに彼女お気に入りのピンクのドレスを着用させる。桜花を連想させる桃色のそれはレミリアのシンボルのようなものだ。
「おはよう、咲夜。今日は気分が悪くなるほど良い朝ね」
雲一つ見あたらない快晴。吸血鬼以外の生き物ならば誰でも気分が高揚するほどの晴天である。だが、彼女は”吸血鬼らしくない”よう振る舞うよう努めている。
「お嬢様にとっては毒かもしれない太陽も私たちにとっては大切な必要不可欠なものですから」
レミリアは紅茶を一口啜ると窓の外を見やった。大嫌いな日光が差し込み、寝室を浸食している。
「気分が滅入るわね。夜型吸血鬼に出戻りするってのも一案ね」
レミリアは規則正しい。彼女が人間のように規則正しく生きることを強いられている理由はとても単純なことだ。
「夜じゃ遊び相手が誰もいませんよ?世話する人もいませんし、お嬢様一人で生活できるのかしら」
人々や魑魅魍魎が寝静まった幻想境で跋扈するのは夜雀や幽霊くらいである。幻想境中に霧を撒いて日光を遮ることも可能だがそんなことをして喜ぶのもやっぱり吸血鬼ぐらいなので選択肢に挙げることは出来なかった。
「もういいわ。朝食の準備は出来てるでしょ?さっさとご飯を食べてあげるから咲夜は自分の仕事に戻りなさいな」
「かしこまりました、お嬢様」



 咲夜手作りの朝食。今日はミルクとチーズをふんだんに使用した特製オムレツと朝一番で焼いたブレッドが二つだ。小柄な未発達な体型のまま吸血鬼と化したレミリアは基本的に小食である。大人の豊満なボディとスレンダーな高身長に憧れなくもないが、どう足掻いても刻が停止した身体が成長することはなく、考えることをやめてしまった。
「うん、おいしい!やっぱり、咲夜が作るオムレツは最高ね!」
レミリアはオムレツをあっという間に平らげ、ブレッドを二、三口かじっただけで満腹になった。彼女は満足げに口元に笑みを浮かべ、紅茶を啜る。紅茶は彼女にとっての別腹、一日を構成する上で必要不可欠なファクターなのである。
「また、パンだけこんなに残して・・・。こんなんじゃいつまで経っても大きくなれませんわよ?」
別にいいわよ。いくら食べようが大きくならないから。分かってるくせにと内心呆れると給仕のメイド妖精に皿を下げさせた。
「う~ん、満腹、満腹。さー、今日は何をして遊ぼうかしらね~」
「博霊神社に行ってみてはいかがですか?晴天の霹靂ともいえる日本晴れですからね、今日は。こんな雲一つない好天気なのですからきっと客人も集まりますよ」
咲夜なりのジョークなのか皮肉なのか存じないが、こうも天気のことを指摘されると逆に日光に身構えてしまう。
「もちろん、咲夜も来てくれるわよね?日光に怯えるか弱い主を放っておきはしないと思うけど。なおさら、今日は太陽から隠れる陰一つない晴天なのだからねー」
咲夜が露骨に嫌な顔をし、苦笑いを浮かべながらドアに向かって後退していく。あれだけ、主人を煽っておいて日傘持ちにならないとは言わせない。咲夜の仕事?なーに、帰ってきてからやらせれば良いのだ。



スペルカードの応酬。視界を埋め尽くすほどの弾幕ごっこは熾烈を極め、観客の歓声もピークに達していた。咲夜が放った幾百、幾千のナイフは神社の境内の彼方此方に突き刺さり、石畳をハリネズミと化していた。一方、十六夜咲夜の対戦相手を務める魂魄妖夢は身に迫るナイフを凪払うのが精一杯で攻撃に転じられないでいた。
「妖夢~、攻撃は最大の防御って言うでしょ~!もっと頑張りなさいな!」
「ふん、無理言いなさんな。この有様じゃ反撃なんて無理無理。あんまり、自分の家来を虐めなさんな」
妖夢に声が届いているのかいざしらず、幽ゆ子は未熟で不肖な庭師を鼓舞する。それとは裏腹に、妖夢が劣勢を強いられている様子を一瞥し、レミリアは咲夜の勝利を確信した。
「あらあら、随分と慢心しているご様子ね。見てなさいな、今にうちの妖夢が逆転してあっと言わせるから」
「逆転してあっと言わせる・・・?だから、ムリムリ。これだから日和見主義者は現実を見ないのよ。あぁ、幽霊は足に地がつかないから仕方ないことなのかしら?」
西行寺幽々子はレミリア・スカーレットと相違なるタイプの主君である。彼女は亡霊である通りフワフワしていてつかみ所のない性格をしている。だが、彼女の達観は常者の”それ”とは確実に異なる。先見の明、とでも表現したら良いのだろうか。”霧”が掛かった先を見通し、導き、育ちきらない閉じた花弁を開花させる力がある。幽々子は魂魄妖夢が持つ”可能性”を信頼し、同時に信用していた。
同様にレミリアも十六夜咲夜を信じ切っていた。彼女の慢心は咲夜を全面的に信頼していることから生じるものであり、特別な絆、伴侶にもよく似たそれは咲夜の能力向上にも結果的に繋がるものとなった。彼女は主の温情と期待に報いるために働き、己を研磨し、やがてはレミリアは最高のパートナーへと成ることが出来た。そして、幸運なことに彼女は主君の”慢心”を受け継いではいなかった。
「このナイフの雨、勢いが途切れない・・・!動きを止めてこの次の攻撃で確実にしとめてくる魂胆?」
魂魄妖夢は激戦の中、防御に転じて咲夜の隙を伺っていた。紅魔館のメイドの時間停止、空間操作による弾幕は確実に妖夢を圧倒していたかのように視えた。にも関わらず、終息することを知らないナイフの濁流に翻弄されることはなく、明鏡止水、無我の境地で対戦相手の様子を観察していた。確かに、緻密かつ精到たる咲夜のナイフの雨は妖夢が一歩でも動くことを許そうとはしない。しかし、彼女はその規則的で単調に感じられる弾幕攻撃に殺気を嗅ぎ取ることは出来なかった。
(おそらく、この次の攻撃が決め手・・・!向こうにとってもこっちにとっても!)
彼奴が次の攻撃へと転ずる刹那、しゅゆを見逃すわけにはいかない。埒があかないのは向こうも同様、此方の出方を伺っているのだろう。妖夢は確信した。


珍妙である。幾千、いや、幾万だろうか・・・?どれだけの銀の矢で煽られ、振り回そうが、幼い剣士は僅かな焦燥も、動揺すら感じとる気配が感じとれない。十六夜咲夜は内心揺らぎ始める心の臓を抑えた。多くの大衆が集まっている。十数人の妖怪や人間達がこの闘いを見物し、扇動しているのだ。ここで焦燥し、戦敗してしまうようなことがあればレミリア・スカーレット、彼の紅い月の名を汚してしまう。そのような事態は許されない、許さないのだ。
レミリアからの失望、自己の名誉の喪失。
芳しくない。在っては成らない、許容出来ない。
十六夜咲夜はスペルカードを発動した。


消えた。小さな剣士の眼前より消失した肢体とナイフの雨。彼の者は、確信と同時に行動に移った。

飛ぶ。

魂魄妖夢は戦闘の残光の跡へ跳躍した。空虚な空間へ飛び出し、懐よりもう一つの愛刀、白楼剣を引き抜く。
その刹那、眼前に出現した瀟洒なメイドの外形を捉え、”両者とも”確信した。
此方の方が早い、と。

スペルカード発動。


人鬼「未来永劫斬」



渾身の切り札は発動した。時符「パーフェクトスクウェア」により顕現した銀の短剣は確実に、率直に四方八方から、庭師へと突貫するであろう。にも関わらず、魂魄妖夢はナイフに埋め尽くされるであろう空間で突っ伏して静止している。

時間停止。魂魄妖夢がスペルカードを発動する瞬間、十六夜咲夜が”あらかじめ”発動しておいた罠に彼女はまんまとハマったのだ。時間を操る能力はスペルカードの発動すらも”操作”した。
「悪いわね、イカサマかもしれないけど、予め出しておいた。弾幕ごっこが始まる前からね」
最早、抵抗する術は無し。蠅一匹すら逃しはしないナイフの豪雨は確実に奴を刺突する。これは逃れられぬ運命。
「時は動き出す・・・」
停止した時は流動再度流動する。
咲夜は確信した勝利と共に、主たるレミリアからの賞賛を信望し、酔いしれた瞬間。

虚を突いた二つの閃光は、彼女を暗闇へと昏倒させた。



咲夜、お茶。

はい、お嬢様。

咲夜、お風呂の時間よ。

はい、お嬢様。

咲夜、散歩よ。

はい、日傘をお持ちします。

咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜・・・・・・・・・・・・。

主に与えられた名前が木霊する。夢を視ている。迷夢の直中であっても主は私を手放そうとはしない。安らぎ、安堵。自己に内包するありったけの自尊心を掻きだしても埋め尽くせないほどの優しさが彼女を包んでいた。

咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜・・・・・・・・・・・・。

解ってますよ、お嬢様。私、十六夜咲夜は、何があろうともお嬢様の傍から離れることはありません。決して、絶対に・・・・・・。

咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜、咲夜・・・・・・・・・・・・!。

どうしたのですか・・・?そんなに声を荒らげて。

咲夜!咲夜!咲夜!咲夜!咲夜!咲夜!

ああもう、一体何が起こったのです?また、妹様と喧嘩して負けたので・・・。

起きろォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!



「はぇ・・・?」
「間抜けそうな声出して。私がどれだけ心配したか知ってる?」
目の前の暗闇が晴れるとそこにはお嬢様。・・・と、魂魄妖夢とその他有象無象もついでに確認する。
「いえ、ご存じないです」
「ご存じしろよッ!ずっっと、呼びかけても起きないからもう帰ってこなかと思ったわよッ!」
「ははっ、レミリアさ、咲夜が起きるまで名前呼んでたんだぜ?八十六回まで数えてたんだけど面倒くさくなっちゃった。」
「数えるなッッッ!!!」
白黒の魔法使いとお嬢様が戯れいる光景をぼんやりと注視しつつ、悟る。自分は妖夢との勝負に敗れたのだと。瞬間、深い懺悔と後悔の念がわき出るのを自覚した。
「申し訳ございません、お嬢様。私、十六夜咲夜はお嬢様に不甲斐ない姿を曝け出してしまいました。なんなりともお仕置きはお受けします」
レミリアは、はてな?と奇っ怪そうな表情を浮かべると一言放った。
「なんでお仕置きする必要があるの?咲夜は好く闘って、良い試合を見せてくれたのだから、私は満足よ。ま、負けたのは残念だけど、油断のせいよ、油断の。だから、今回はあいつのマグレ勝ち~」
レミリアはイーッと舌を出して、幽々子と妖夢を挑発する。その姿はさながら数百年生きた吸血鬼には見えなかったが、その光景を眺め、咲夜はレミリアがとても愛おしい存在に感じられた。
「あー・・・、申し訳ございませんでした。一応、峰打ちだったのですが・・・。私、やりすぎたみたいですね」
「何言ってるのよー。生きてりゃモーマンタイだと私は思うけど~。それにどう見ても向こうは完全に殺る気だったし、ズルもしていたじゃない」
気づかれていたか。生真面目な従者と掴み所がないが侮れない幽霊娘。相反する二者はそれぞれに持ち得ない何かを持っている。それはレミリアと咲夜も同様ではあるが。
「でもでも、妖夢ったらスゴいわね、見直したわ。メイドが勝負前に事前にスペルカードを発動していたのに気がついてたんでしょ?あえて、半霊を囮にして罠にハマって裏をかくなんてねー」
「刻の運が私に味方してくれていただけです。彼女が切り札のスペルカードで真っ向勝負を挑んでいたなら、勝負の結果は予測できなかったでしょうね」
試合に負けて勝負にも敗れる、一抹の名誉の為に卑怯な真似をとった結果、結局はそれが咲夜自信の恥に繋がってしまったのかもしれない。
「お嬢様、申し訳ございません。私が姑息な真似をとっていなければ、或いは・・・」
真心。咲夜はレミリアに対しては嘘と憂心を呟くことはない。勿論、レミリアも彼女の至情心を理解し、尊重していた。
「次は頑張ってね。また卑怯な真似して負けたら承知しないんだから」
「うぅ・・・お嬢様ぁ・・・」
目元から幾つもの水滴が伝う。その涙は後悔や戦いの無念が生み出した残滓ではない。
「お嬢様ぁ~~~~~~~~!!!」
十六夜咲夜はレミリアに抱きつく。一瞬戸惑った表情を見せたレミリアは優しく、しっとりと彼女を包む込む。
「泣いてますね、咲夜さん・・・」
妖夢はほんやりと、表現し難い嫉妬を感じていた。あの厳格なメイドがこのような一面を見せた意外さのせいか、公衆の面々は、狐につままれているような顔をしている。
「あら、違うわよ、妖夢。」
妖夢は幽々子に薄らと顔を向ける。
幽々子は赤ん坊にでも向けるかのような優艶な眼を彼女達に向けている。
扇子に覆われた口元は微笑しているのだろう。彼女の表情は穏和で気品に満ちあふれていた。


「これはね・・・・・・・雨よ」







帰宅。宴会で注ぎ込まれたアルコールに蝕まれ、理性をすっかり喪失したレミリアを抱え、メイド達は我が家に舞い戻った。家内の電灯に明かりを灯すと背中に背負い込んだ小さな吸血鬼を寝室へと運び込む。ベッドに臥せたレミリアはあっという間に寝入る。夢の国に誘われた少女はどんな夢を見るのか・・・咲夜は一抹を想像した。
「お休みなさいませ・・・お嬢様。」
(お休み・・・咲夜」

吸血鬼の朝は早い。人間達と同じように起床し、暮らし、就寝する。営みを有象無象と共にする紅い月は思い描く。総てが永久に不変でいますように、と。

そういえば、今日は望月の日だ。咲夜は窓から夜空を眺める。
そこには満月の夜。永遠に紅い月が夜空に漂っていた。
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コメント



0.310簡易評価
4.70非現実世界に棲む者削除
まあまあ面白かったです。しかし誤字が酷い。
5.50名前が無い程度の能力削除
それなりに書けているようで、よくよく見ると実のところ流れぶち切り系且つ単語の使い方が何だか妙な感じの書き方だったので、
前後の展開とか流れとか結局どう言う話だったのかが、よくわからずに終わってしまった感ががが
7.70奇声を発する程度の能力削除
所々、ん?となる場所がありましたが面白かったです
10.80名前が無い程度の能力削除
画竜点睛を欠く、というか。
ちょっと校正をすればずっとよくなるのに、と思いました。
実に惜しいことです。
13.603削除
小さなミスが重なっていますね。一つ一つは意識するほどのものではないのですが、
それが二つ、三つと重なると印象は加速度的に悪くなります。
今度からはしっかりと校正することをお勧めします。
>あえて、半霊を囮にして罠にハマって裏をかく
なるほど、確かにそれなら前の「完全に咲夜が勝ったと思われる状況」を逆転することが出来ますね。
この発想はなるほどと思いました。