Coolier - 新生・東方創想話

「月と…」

2013/08/31 06:51:00
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秋の満月。
それは忘れていたものを思い出させる、魔法の鏡。
そして、その光に誘われて、森の中を歩く影ひとつ。

『足音をしのばせて、静かに歩こう 誰にも気付かれないように』

ひめやかに密やかに、影は歩く。足音も気配も、吐息さえ殺して。
『息をする時でさえも気をつけて、静かに、静かに!! ……今宵は普通の夜ではない』

用心しながら歩く影は、しかし、とても楽しそうな、ともすれば浮かれて踊りだしそうな風で、それでも周りに気をつけて歩く。
『今宵は満月、すばらしい夜』

浮かれるような人影を、森の奥に潜むもの達も認めているが、何故か手を出す者は居ない。
彼らもわかっているのだ。今夜が普通の月夜ではない事を。
『ひと言もいわず、森の泉へ行こう 静かに、静かに!!』

やがて、森の奥に、満月で彩られた光る景色が見えてくる。
少しずつ近づいていくと、森がひらけたそこには、深く澄んだ泉が波紋も無く、夜空を写していた。
影は森から辺りを見回し、夜空を少し仰いでから、そぞろ足で泉の水際まで近づく。
その影から光り輝く銀色が、泉の月を乱して、しかし音も無く吸い込まれていく。

影は静かに手を組んだ。それは祈りの形であり、その顔は真摯な願いに満ちている。
『泉に銀貨を投げて願いをかければ 月が願いをかなえてくれる』

長い様で短い時間の後、影は静かに、空気も乱さない動きで森の中へ消えた。
帰りの足は少し急ぎ足で、でも音は立てずに舞うが如く静かに歩みを進めて行く。
そして、森を抜けた時、月光は影を払い、その主を藍色の下にさらけ出す。
同時に、その目の前に誰かが居た。

いつものメイド服ではない、銀色のドレスに身を包む、緋色の目に月光をそのまま形にした銀髪の乙女。
冷厳ないつもの顔は静かな微笑みにあふれ、慈愛のまなざしで見つめてくる。
しばらく見つめあった後、乙女はドレスの端をつまみあげて、丁寧に礼をした。
(お迎えにあがりました。フランドール様)
無言の伝心は少女の顔を綻ばせる。
地面に映った影には、ステンドグラスの様な光がつつましく彩を添える。
(今夜はレミリア様もあなたに何も言いません。共に帰りましょう)
声無き言葉に、少女 ---フランドールは何も言わず、銀の乙女 ---十六夜咲夜に抱きついた。
咲夜はフランドールを抱いて、空へ飛び上がる。
銀光の残像を残して、彼女は行く。そして、咲夜は何も訊かない。
フランドールも、何も言わない。
まるで、それが遠い昔からの約束であるかのように、彼女達はお互いを見て微笑むだけ。
だが、それで通じ合うのだ。
咲夜が、フランドールを家族と思っているから。
フランドールが、咲夜を姉と同じくらい好きだから。

泉のある森が遠くなる。
その風景を、首を曲げてフランドールは見つめる。
二人の間に言葉は無い。微笑みと安らぎだけがそこにある。
それを微笑ましく見て、咲夜は言葉も無く月へ祈った。
(この幸せが、壊されないように)
偶然か必然なのか、それは彼女の腕に抱かれる少女と同じ願いだった。
『気をつけて、この秘密を誰にも言わないように 独り言を言う時でさえ、注意を払おう』
 
館に着いてからも、二人は何も言わず、各々の部屋へと歩を進める。
この夜の出来事は、この館の誰もが知ることだが、誰も何も言わない。言ってはいけないのだ。
何故なら…
『月は移り気、幸運が逃げてしまうから』

目の前にある何気ない幸せを逃がさないように、
いつも感じている気持ちを忘れてしまわない様に、館は静かに夜を明かす。
美しい夜に、言葉と言うノイズは無粋でしかないから。

少女の可憐な祈りと、乙女の一途な願いを月は受け止め、笑うが如く輝く。

ーーーあなたの為に、明かりをひとつ点して眠ります。おやすみなさい、大好きなひと。
言葉無き挨拶が二つ、最後に館のふたつの部屋で同時に響き、そして、眠りについた。
あとがき
月が好きなのは前にも書きましたが、自分は冬の青白い月が一番好きです。
無言で人を突き放すような冷たい光と、金属のような硬質の空気がとても好きです。
道路には星をブン撒いたような霜が降りて光の道を作っている時間、今でも覚えている風景です。
みかがみ
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コメント



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3.100非現実世界に棲む者削除
素敵ですね。
凛とした月夜の雰囲気が良く良く感じ取れました。
4.80名前が無い程度の能力削除
詩的で幻想的な、美しい情景が広がる作品でした。おとぎ話調が良い感じです。
5.100奇声を発する程度の能力削除
美しい雰囲気で素晴らしかったです
11.803削除
雰囲気系と言うんでしょうか、こういうSSも好きです。
レミリアは紅い月というイメージですが、フランは黄色くて、真ん丸の満月が似合いそうです。
森の奥に潜むもの達がフランを襲わなかったのは、フランを恐れて、とかだけじゃないといいなと個人的に。