Coolier - 新生・東方創想話

私と早苗は友達なんかじゃない

2013/08/24 18:08:11
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 何かを決定的に間違えたのだ、と思った。私は早苗に憎まれている。
 早苗の、憎しみの籠もった目が、私を射貫いている。身体は抑え付けられて、その力よりも、強い視線の圧力に晒されている。目を逸らすことが、できない。
 どうしてこうなったのだろう、と、早苗が激昂しているのに気付いて、私は途端に冷静になった。私を睨む早苗の目は憎しみに満ちていて、だけどどうして憎まれるようになったのか、私には分からないのだ。
 どうしてこうなったのだろう。私は考えてみることにした。

 始まりは、私の神社が倒壊したことだった。








 一




 ふむ、と私は考えた。土の上にはぼこぼこにしてやった天人が頭に札を生やして転がっていて、眼前には倒壊した博麗神社があった。天人が気紛れに起こした地震は老朽化の進みすぎていた神社をあっさりと倒壊させてしまって、それで私は困っている。
「修繕はこの天人にやらせるとして。どうしようかしら」
 当面の寝床を私は考えなければならなかった。口ではどうしよう、とは言っても、私はそこまで深刻に考えてはいなかった。魔理沙の所なら研究やら何やらで忙しいだろうが、寝床だけなら勝手に使えばいいし、アリスならば迷惑な顔をしても潜り込んだら無理に追い出さないのは知っていたし、その二人に断られても、誰彼なしに宿を頼んだら、一晩くらいなら貸してくれるくらいに顔は売ってある。そう困ることはないだろう、と私は考えていた。

 さっさと起きないかしら。

 足蹴にして叩き起こしても良いのだけど、と思っても、天人は気絶したまま起き上がってこなかった。私が天人を見下ろしていると、うわあと背後から声がした。

「あらら。……これは一体、何があったんです?」

 石段を上がってきたのは、山の神社の現人神、東風谷早苗だった。驚きと共に神社と私を見て、歩み寄って、それから足下に転がる天人を見た。

「参拝してきた方を怒らせちゃって、神社を壊されて怒った、みたいな感じですか?」
「何で私が先なのよ……こいつが気紛れで壊しやがったの」
「そう遠くないじゃありませんか」
「なんでよ」
「理由なく、と言うことはないでしょう。例えば妖怪を見れば理由なく襲いかかるからだとか、そういうのが気に入らなかったんじゃないですか? そうでなくても、霊夢さんは普段から信仰を疎かにしているから、いらない恨みを買うんですよ。それで、こちらの方は?」

 何だか何を言っても仕方がない気がした。恨みだろうが、憧れだろうが、退治されたいからだとか、何にしても、私は何かしら人に思われているのだ。面倒だ、と思った。溜息を一つついて、私は天人を見下ろした。

「天人とか言ってたけど。どうでも良いわ、神社を壊したんだから妖怪と一緒よ」
「そんな乱暴な……それにしても」

 早苗は呆れたように言って、天人から目を離し、神社をじっと眺めた。

「完全に倒壊してますねぇ。これからどうするんです? 泊まるところとか、あるんですか?」
「知らないわよ。こいつに直させて……寝床なんて、どうとでもなるわよ。無駄に知り合いは多いし。無かったら空家でも探して勝手に居座るわ。どうせ、直るまでの辛抱よ」
「前から思っていたけれど、霊夢さんはちょっと雑ですよ。いつか、後悔します。いくら、才能があるからと言って」

 才能。才能なんて、と思う。妖怪退治ができるから、色んなところに勘が働くからと言って、何なのだろう。少なくとも、私を幸せにしてくれることはないと思う。そもそも、自分に才能がある、なんて思っていない。思っていないことを責められるのは妙な気持ちだった。

「私の勝手でしょ」
「まあ、勝手ですけれど。……行くところが無いのなら、うちに来ます?」

 は? 私は聞き返した。

「どうして私があんたの所に行くのよ」
「はあ、まあ、特に理由はありませんけど。神社のこととか信仰のこととか、話してみたい気持ちもありますが、今は行くところが無いんでしょう? それなら、っていう、単なる善意ですよ」
「……んー」

 別に、拒む理由はないのだろう。どこだって良いのだから。
 でも、どうしてか私は早苗の所は嫌だった。どうしてだろう。自分でも分からないけれど。魔理沙やアリスなら一人だから、別に魔理沙やアリスに迷惑をかけたって問題ない。早苗の所には神奈子や諏訪子がいる。早苗に迷惑をかけるのは良くても、その二人にも迷惑がかかるからかもしれない。でも、別に神奈子や諏訪子に迷惑をかけたって良いし。

「うーん。……じゃあ、お邪魔していい?」

 自分でも分からないのに早苗の申し出を断るのも悪くて、私は頷いた。

「じゃ、さっそく行きましょうか」
「こいつに話をしてからにするわ。先に行っておいて」

 そうですか? と早苗は答えて、里の方へ飛んで行った。買い物のついでだったようで、私は山に行かないといけなくなったから天人を蹴り起こした。説教じみたものは嫌いだ。賠償がきちんとされれば良いから、私は神社を建て直すことだけをきちんと約束させて、山の神社に向かった。


 山に登り、神社に辿りついたのは、天狗と少しの間押し問答をしたこともあって、夕方が少し過ぎた頃だった。境内が、斜めに差し込む夕日で朱く染まっている。石でできた道が神社の拝殿に続いていて、道の脇には砂利が敷き詰められて、等間隔を置いて木で出来た燈籠が置いてあった。
 山の神社に、きちんと訪れたことはなかった。湖と共に神社が越してきたことを知り、山の神社を調べに来た時以来。その時も、神社そのものはすぐに通り抜けてしまったから、一番印象に残っているのは柱の立ち並ぶ湖だ。山の神様と戦った場所。私はぼうっとそのときのことを思い出しながら、境内を歩いていると、人影を見つけた。

「おや。里の巫女じゃないか。良く来たね」

 八坂神奈子だった。山の二神の一柱だというのに、杯を持って、境内に備え付きの木製の長椅子に座り込んでいた。ぺこりと頭を下げ、お邪魔するわよと答える。

「早苗は?」
「中だよ。今、あんたの部屋を用意してくれてる」

 それは、と思った。別に、布団がなくたってどこでだって寝るのに。正直なところそう思ったけれど、口にはしなかった。いくら何でも、準備をしてくれてるのに、それが失礼だということは分かっている。しかし、用意。何を用意してくれると言うんだろう。

「様子見てくるわ。入ってもいい?」
「あぁ、ついでに手伝ってやりな」

 お邪魔するわよ、ともう一度言って、私は中に入った。守矢神社の中に入るのは初めてだった。

「早苗ー、早苗ー」

 中の構造も分からないし、声を掛けながら部屋を覗いて回った。一つの六畳間で早苗を見つけて、その背中に声を掛けた。

「早苗」
「あ、霊夢さん。早かったですね。今部屋を作ったところです。どうですか?」

 早苗は机を拭いていたみたいだった。部屋の中心には机が置かれ、部屋の片隅には畳まれた布団が用意してあって、鏡台と小棚が置いてあった。それらのものを用意してくれていたのだった。

「ありがとう。こんな大袈裟にしてくれなくっても良かったのに」
「そんなそんな、好きでしてるだけですから。気に入って貰えたみたいで良かったです。じゃ、この部屋を好きに使って下さって構いませんから」

 ありがと、と私はもう一度言った。早苗はきちんとしている。時々突拍子もないことを言い出したり、勘違いする時はとことん勘違いしたりするけれど、礼節とか、気遣いとか、そういう部分では私はとてもじゃないが敵わない。
 私は何か言葉を続けるべきかな、と思ったけれど、何も出てこなかった。二人して少しの間、部屋を眺めていた。

「じゃ、くつろいでて下さい。私、そろそろ夕食の準備をしないと」

 その空気を断ち切るみたいに、早苗はそう言い残して、廊下を歩いて行った。おそらく台所の方に向かうのだろう。

「早苗!」

 私は、廊下に顔を出して、離れて行こうとする早苗を、少し大きな声を出して呼び止めた。私は何となく、ここで話が終わるのが悪いような、勿体ないような気がして、用もないのに呼び止めてしまったのだ。呼び止めてから、何も用事がないことに気付いた。私は口を閉じて、考えた。早苗が不思議そうな顔をした。

「……ありがと!」
「……どういたしまして!」

 早苗がにっと笑って、少し声を張った。それから、背を向けて、台所の方に入っていった。


 部屋に入ってじっと座っていると、早苗が来て、お茶を置いてすぐに戻っていった。お茶を飲みながら、ゆっくりしているつもりなのに、どうしてかそわそわした。
 魔理沙の所にいる時は、こんな風にはならない。魔理沙の家で魔理沙に放っておかれる時は、あの玩具箱みたいな家の中のものを弄くり回しているだけで時間が過ぎてゆくし、アリスの家でも大差はないが、アリス自身があまり他人を放ってはおかない。紅魔館では基本的に誰かが構ってくるから退屈はしない。冥界や、竹林の邸に泊まったことはあるけど、似たようなものだ。
 どこに遊びに行くときもそうだけど、誰も私をお客様扱いにしようとはしないのだ。平気で放っておくし、家主の方からお構いなしに好き勝手なことをする。幻想郷の連中は妖怪を始め基本的に異質な存在だから、人間と違って礼儀正しくなんてしないのは当然(魔理沙は素で失礼なだけ)だし、私も正直なところ、その方が気が楽だった。
 今私は、お客様扱いをされているのだ、と思った。泊まるにしても、部屋をきちんと用意されて、なんてことは初めてで、好き勝手に歩き回ったりしてはいけないような気持ちになる。
 早苗は礼儀正しい。きっと、外の世界できちんと教育を受けてきた。それが息苦しく感じるのは、きっと私が外の世界を知らないからだ。私はどっちかと言えば放っておかれる方が、気が楽で、思えば、ずっと一人だったから、他人に気を遣うこともどこか、他人事のように感じていて、無関心だ。私は急に自分を恥じたい気分になった。

「や、元気にやってるかい」

 酒臭い息を吐きながら、神様が一人。ずかずかと上がってくる。

「……あんたも幻想郷側?」
「何言ってんの。飲も飲も」

 片手に一升瓶、片手にお猪口が二つ。どちらかと言えば幻想郷側。うん。神奈子も、宴会終わりには縁側や部屋の隅に平気で寝ている方だ。お猪口を手に取る。早苗を目の前にして相手をしている時より、気が楽だった。

「霊夢が宴会でもないのにここに泊まりに来るなんて、珍しいじゃないか。何かあったの?」
「別に」

 どうせ、明日になれば天狗あたりからの情報網であっさりと伝わるのだから、別に今話す理由もなかった。神社が倒壊した、なんて言うのも恥ずかしかったし。

「早苗と急に仲良しになったみたいだねぇ」
「……別に。そういう理由でもないわ」
「おやおや。つれないね。こういう時は曖昧にでも頷くもんでしょ、せっかく泊めてもらってるのに」
「私から頼んだ訳じゃないわよ」
「そこまで否定してやらなくってもいいじゃないか。早苗が哀しむよ」

 ぐっと言葉に詰まった。私は、そういう、友達とか、そういうのを認めるのが苦手だ。魔理沙にだって今更のように確認されたら、黙り込んでからおずおずと認める程度だろうと思う。ましてや、まだ、会ったばかりの早苗となんて。私達の共通点なんて、巫女だということしかない。

「少なくとも、早苗は霊夢のことを気にしてるよ。外の世界じゃ、早苗と同じような人間はいなかった。私らはどうしたって神様で、古い存在だし、早苗はずっと独りぼっちだったんだ。早苗が、霊夢と仲良くしたいと思ったら自分から言うだろうし、私が言うことじゃないけれど。早苗と仲良くしてやってくれないか。あいつにとっては、同じものを見られる人間は初めてなんだ」

 そういうのは、苦手だった。約束事。別に仲良くしたいならすればいいし、そうじゃないなら離れればいい……早苗と仲良くしなくちゃいけない、なんて、縛られるのは苦手だ。別に、仲良くしたくないって訳じゃない。だけど、と思った。
 そもそも酒の場で真面目な話をするのも苦手だ。私は黙って杯を傾け、酒を飲んだ。

「別に、嫌ってる訳じゃないから、そんなこと念を押されなくたって、分かってるわよ」

 はは、と神奈子は笑った。少しお節介が過ぎたかな、と笑った。
 早苗が呼びに来て、二人してご飯の前から酔っ払って、と怒った。早苗も飲みなさいよと言う私がと、全くもう、自堕落なんですから、と怒りながらも、一杯だけ付き合った。


 いただきます、と三人の声が揃って調和した。早苗が作った夕食を前に、私は一人出遅れて、いただきます、と小さく唱えた。
 四人で囲むちゃぶ台は、少し狭く感じた。普段は三人で囲んでいるから、さほど不自由は感じないのだろう。だけど三人は、その不自由さも目新しさとして楽しんでいるように見えた。

「早苗、お茶取って」
「はいはい」

 諏訪子が早苗に声を掛けて、早苗が急須を諏訪子に手渡している。そんなやりとりが自然のままに交わされている。私はそれを眺めていた。

「諏訪の字や」
「何よ神奈の字」
「今日は何してた」
「今日? 今日は何もしてないなぁ。お酒持って、川に座ってた。流れを見ながら、酒を飲んでいたよ」
「おや奇遇だね、私も今日は酒を飲んでいたんだ。山に日が昇ってね、日が降りるまで、ずっと、眺めながら酒を飲んでいた」
「神奈子様、もう少し神としての自覚を持ってですね」
「ちゃんと参拝客の対応もしたよ」
「どんな?」
「皆にお猪口を渡して、お酒を注いであげたよ」
「全くもう……」

 私は、三人が楽しそうに話しているのを眺めていた。
 炊きたてのご飯は美味しかった。豚の生姜焼きも、さつまいもの煮物も、高野豆腐も、これまで食べた何よりも美味しかった。

「霊夢さんは」

 え、と私は答えた。急に振られたので、びっくりしたのだった。

「私、は、……えーと……神社が壊されたから、壊した奴を探して成敗してたわ」

 早苗が、神奈子が、諏訪子が……私を見ている。それ以上何かを言うつもりもなかったのに、言葉を待っているような気がして、言葉を続けた。

「いつもみたいにのんびりしてようと思ってたのに、台無しだわ、全く」
「らしいねぇ」

 神奈子が呆れたように言った。

「知らないでしょ」
「分霊をしてあるからね。ちょっと覗くなんてことは、簡単なことさ」
「やめてよ」
「霊夢さんって、前から思っていたんですけど」

 早苗が、口を開いて、会話に入ってくる。

「普段、あんまり修行とかはしていないんですか?」
「う、うるさいわね。修行なんてしてなくったって、しなきゃいけない時にうまくできたらいいのよ。困ったことはないし」

 早苗の表情がその一瞬、ひどく寂しそうに見えた。それは一瞬だけのことだった。すぐに、にっこりと笑った。

「羨ましいです。私、そんな風にはできないから。何か、コツとかはあるんですか?」

 そんなの、と私は言った。コツだって? そんなの。

「適当にやってりゃいいのよ。結果は後からついてくるわ」
「そりゃ乱暴だよねぇ、早苗」
「確かに。でも、そういうところからも学ぶところはあります。ね、神奈子様」
「あんまり真似はして欲しくないね。話半分に聞いておくくらいなら楽しい、で済むけどね。霊夢の言ってることを鵜呑みにするのは、向いてないと思うよ、早苗」
「何よ、人をサボり魔みたいに」

 誰も答えを返さなかった。その通りだと思ったのかもしれない。早苗がくすりと笑った。馬鹿にされたみたいで、ちょっとむかっとしたけれど、言っていることはもっともだし、私自身まあ、否定はできないと思っていたから、何も言わなかった。何よ、と拗ねたように重ねて言うと、その場に混ざれたようで、少し気が楽になった。


 夕食が終わると酒だった。一日中飲んでいたらしいのに神奈子も諏訪子もうわばみで、ぐいぐい飲むものだから、いい加減酔いが覚めかけていた私と、早苗は付き合う程度に済ませた。

「早苗、寝る前に、お風呂借りてもいいかしら」
「あ、はい。部屋に寝間着は置いてあります。……下着の替えは……」
「持ってきてないわ」
「……うーん。同じのを着させる訳にはいかないし、私ので申し訳ありませんが、使って下さい。新品という訳にはいきませんが、今日は洗濯をしたので洗いたてですし」
「早苗は几帳面だよねぇ、毎日洗濯するし」
「諏訪子様達が着替えなさすぎるんです。いくら昔は、頻繁に着替えることがなかったからと言って」

 今じゃ早苗に合わせて毎日風呂にも入るし着替えるからいいじゃないか。そう言って神奈子はからからと笑って、私はふっと笑いながら居間を抜け出した。

「あ、霊夢さん! 後で持って行きますね。先にお風呂行ってて下さい!」

 はいはい、と軽く手だけを部屋の方に振って、私は一度部屋に戻って、用意されていた寝間着代わりの浴衣を着た。本当にお客様だ、まるで旅館に来たみたい、と思いながら、うろうろしながらお風呂を探した。神社に来てすぐ、早苗を探していた時に、ちょっと見た覚えがある。探してみると、すぐに見つかった。少し生活感の残る脱衣所で、浴衣を脱いで髪を簡単に結い上げて、お風呂に入った。木枠で出来たお風呂場で、まだ真新しさがあった。多分、幻想郷に来てから、こっちの大工さんを呼んでしてもらったんだろう。もしくは、妖怪の間で大工のできる者にしてもらったのかもしれない。天狗社会とは、少し近しいようだから。私はほんの少し酔いの残る身体を、熱い湯の張られた湯船に沈めた。

「霊夢さーん。タオルと、着替え置いておきますねー」
「はーい」

 お風呂場の戸を隔てて、早苗の声がする。返事をすると、足音と気配はすぐに離れて行った。お客様。私はずっとそんなことばっかりを考え続けている。友達だと思うなら、もっと気楽にすればいいのに。ふう、と息を吐いて湯船に浸かった。髪を洗って、身体を洗って、しないといけない。だけど、どうにも面倒だ。今日はいいかな、と思った。身体だけ軽く擦っておくくらいで。


 お風呂を上がると、見慣れない下着が置いてあった。アリスの家で何度か見かけたような気もするけれど。とにかく、私がいつも身につけているドロワーズとさらし(っていう組み合わせも充分に変な気がするけど)とは全然違う。

「……どう着るのよ」

 何となく、分かる気はするけれど、間違って身につけるのも恥ずかしい。うーん、と身体を拭きながら考えて、早苗を呼ぶことにした。どのみちお客様なのだし。

「早苗ー!」

 私は大声で早苗を呼んで、まるで母親を呼ぶ子供のようだな、と思った。一度では、返事は帰って来なかった。二度、三度と声を上げて、廊下に顔を出してみた。

「早苗ー。早苗ー」
「はーい。何ですか、霊夢さん……って裸じゃないですかっ!」

 ぱたぱたと早苗が駆け寄ると、私を脱衣所に押し込んだ。ちょっともう、と文句を言った。

「痛い、いったいわよ、押さないでよ、早苗」
「いいから。とりあえず、タオル巻いて下さい。……それで、何なんですか、一体」
「これ。これよ、早苗」
「……下着ですよ。私が用意した」
「初めて見るわ」
「え! ……そうなんですか。じゃあ分かりませんよね、これは……こう」

 早苗が、下着に足を通す動作をして、で、胸につける下着の方は、と肩に引っかけて、後ろで留める動作をしてみせた。留める部分が分からなくて、私は聞き返した。

「ちょっと、分からないわ。どうするの」
「ですから、これにこれを引っかけて」

 早苗が実物を目の前に引っかけて形を作ってみても、つけてみたことのない私にはまるで勝手が分からないのだ。もういいわ、と私は言った。

「つけるから、早苗が留めてよ」

 え、と早苗が言っている間に、私はタオルをはだけて、早苗の手から下着を取った。

「わ、ちょっとちょっと! せめて向こうで、そこまでしてきて下さいよぉ」
「分かったわ、ちょっと待って」

 早苗が恥ずかしそうな顔をしてさっと顔を背けてしまったから、私も何だか悪いような気がして、早苗に背中を向けて、早苗がしていたように、下着に足を通した。ドロワーズより身体にぴったりと張り付くようで、足がより多く外に晒されているから、ちょっと不安感がある。まるで裸でいるみたい。胸につける下着の方は、ちょっと背中に手を伸ばして引っかける部分を触ってみたけれど、分からなくて、うーんと思った。

「早苗」
「あ、は、はいっ。大丈夫ですか?」

 早苗に背を向けたまま、首だけを早苗に向けて、早苗を呼んだ。早苗からは私の背中と、留められていない下着が見えているだろう。

「お願い」
「はい」

 早苗は両手を使って、あっさりとそれを留めた。音もなく、肋骨の辺りで巻かれる形になって、私の胸を隠すようになった。

「おお。こんな風になるのね」
「ちょっと大きいかな」

 うーん、と早苗が私の胸を……少し大きい下着を、確認するように覗き込んで、さっと目を逸らした。早苗の方が、私より少し背が高い。少し見下ろす形になる。身体も大きいから、胸も大きいのだろう。

「なによ」
「な、何もないですよ。早く浴衣着て、休んで下さい。今日は疲れたでしょうから。お酒も入っていますし」

 早苗はさっと脱衣所を出て、外へと行ってしまった。まあ、用が済んだのだし、それでいいのだけど。

「あ。……お礼言うの忘れた」

 今日は、そういうのが多い。どうしてだろう。素直になれないのかな。そういう訳でもないのだろうけど。まあ今度でいいやと思った。


 お風呂から戻ると、布団が敷かれていた。私がお風呂に行っている間に、早苗が敷いてくれたのだろう。旅行に行ったときってこんな感じかしら、と思った。私が脱ぎ散らかした巫女服はなかった。私は、割と眠かったから、そのまま布団に潜り込んだ。
 布団の中にいると、すぐに微睡みは来なくて、私はぼうっと考えた。主に家族のことだった。早苗は、あの二人とどうやって仲良くなったんだろう。最初から一緒だったのとは違う。そもそも、巫女と神様という間柄なのに、どうしてあんなにも家族らしいんだろう。私には分からない。まるであれは家族でありながら、友達同士のようにも見える。

「友達」

 声に出して、呟いてみた。友達。私には分からない、と思った。魔理沙やアリス。よく遊びに行く関係の、人のことを考えてみた。良く神社には来るし、良くお呼ばれもする。でも、友達? って言うと、何だか変に思った。それはどうしてかを考えてみた。そこには、理由がないように思えた。理由? 友達に、理由はいらないのだろうか。多分、ああいうのを友達と呼ぶ以上、いらないのだろう。変に突っかかってきて、突っかかり返して、冗談を言い合って。そういうのを、突っかかり合い、冗談の飛ばし合いとは言わずに、友達関係と呼ぶのだ。でも、それが本当のことじゃないのは分かってる。そんな風に、決められるものじゃない。だから、私には友達が分からない。私には友達がいない。
 眠気がやってきた。自分の考えていることが、夢の中へと沈んでゆき、分からなくなりながら、ぼうっと考えた。
 早苗は、毎日楽しそうだな、と思った。友達がいるせいかな。毎日、楽しそうなのは。私は眠りに落ちていった。お腹は一杯だし、お風呂は気持ちよかった。お酒も入っている。布団も、私のいつも使っている布団よりも質が良い。もしかしたら、私が生きてきた中で、一番上等な眠りかもしれなかった。




「霊夢さん、霊夢さん」

 起きて下さい、と。早苗が枕元で囁いている。むー、と呻いて、見上げると、早苗の顔が思ったより近くにあった。

「……何よ」
「霊夢さんって低血圧なんですね」
「耳慣れない言葉を使うんじゃない。……何よ、まだ朝でしょ……」
「まだ、って。もう朝なんですよ」

 むっくりと身体を起こすと、襖の向こうから光が、襖の枠に切り取られて部屋の中に落ちていた。日の出の光だ。朝焼け。私はそう思った。

「はい。私これから朝のお勤めなんですが、せっかくですから、ご一緒しませんか」
「げ。……遠慮しておくわ。お勤めの作法なんか忘れちゃった」
「忘れちゃったも何も、多分霊夢さんのところとは違いますよ。普段さぼってるんだから、こんな時くらいしておいた方がいいですよ。これも経験だと思って」
「嫌。……有事に備えて普段は身体を休めるのがうちの流儀なの」
「ダメです。うちにはうちの流儀があるんですから。さ、行きますよー」

 早苗が私の両脇を羽交い締めにして、立たせた。寝崩れた浴衣がずるずる落ちて、私は下着姿になって、早苗がはいっと修行に使う白衣を手渡してきた。

「下着脱いで、それだけ身につけてきて下さいね」

 待ってますよ、そう言って早苗は部屋を出て行った。
 布団に入った。
 布団をはがされた。
 早苗に見張られながら私は白衣を身につけた。
 まるで切腹をするみたいね、と冗談を言うと、早苗はあははと笑った。


 草履と、白衣だけの姿で、私は早苗の後について、神社の裏手を抜け、山の中を歩いていた。何でこんな格好でこんな山道を歩かなきゃいけないのよとか色々と思わないでもなかったが、朝の静謐な空気の中、自然に囲まれているのは開放感があって良かったのも事実だった。眠かったのにすっと目は冴えていた。守矢の神社がこの場所に降りてきたのは偶然ではなく、やはり零落に近い形で幻想郷に来たとは言え、神様が居着く場所は、それなりの理由があるのだと思った。霊的なものがこの辺りには満ちている感じがした。
 水音がした。早苗が私を待っている。早苗の隣に並ぶと、小さな滝と、滝壺から流れる小川が見えた。

「山から流れている、いくつかの支流の一つです。ここの水は、守矢神社の湖に流れ込んでいます」
「……分かったから。それで、何をするの」
「水垢離です」

 げ、と私は言った。何となく分かっていたけれど。早苗はすたすたと滝壺の方へと歩いていく。滝壺から溢れた水がゆるやかに流れている場所に、木で出来た小さな台が置いてあった。その側に、無造作に木桶が置かれている。台の材質は真新しさを感じるのに、僅かに苔生していて、こちらに来てから作ったのだろうけど、僅かな時間でも、急速に浸食されている感じを受けた。早苗が白い羽織を台の上に置き、木桶を拾い、水辺へと進んでゆく。水辺の前で草履を脱ぎ、素足を水に晒した。

「霊夢さん、こっちですよ」
「はぁ……ほんとに入るの?」

 仕方なしに、早苗について草履を脱ぎ、足を水につけた。

「冷たっ。うわっ。ちょっとこれ何でこんなに冷たいのよ、もう夏なのよ」
「あはは、山ですから。あんまり山で川遊びとか、したことないですか?」

 そう言えば、私も昔は、わざわざ神社から山に登って水垢離もしていた気がするけれど、今は全然していない。こんなに冷たかったかな、と思う。
 早苗は歩みを進めていて、太ももほどまで水の中に、身体をつけている。やがて川底に膝をつき、お腹の辺りまで水に浸けた。ばしゃり、と持っていた木枠で、自分の肩に水をかけ、二杯目を汲んで頭から被った。

「はい、霊夢さん。同じようにして下さい」

 はぁ、と溜息をついて、早苗の隣で、水の冷気を充分に感じながら身体を沈め、木桶を受けとって、早苗がしていたように水を二杯被った。

「冷たっ」
「あはは、この時期でもこんなものですよ」
「風邪引いちゃうわ」
「慣れれば大丈夫ですよ」

 早苗は小さく笑いながら、水の中に入っていく。うわ、と思いながら、仕方なく、私も続いた。水に触れた時、冷気は痛みのような鋭さで私の感覚に訴えかけたが、一度浸かってしまうと、最初の時ほど辛くは感じなくなった。

「はい、じゃあ、軽く祝詞を唱えますから。私に続けて、言って下さい」

 早苗は身体を腰の辺りまで水の中に沈めたまま、両手を合わせて、風祝の祝詞を唱え始めた。私も見よう見まねに目を閉じ、手を合わせ、早苗に続いた。言葉をゆっくりと一つ一つ、区切るように読み上げて、私が追いつくと、早苗はまた続けた。軽く、と言っていた言葉の通りに、五分もしないうちに、祝詞の暗唱は終わった。早苗は立ち上がって私を振り返り、軽く笑いかけた。私も合わせていた手を放し、自分を抱くように肩に手を回した。

「あんたこんなこと毎日やってんの? うー寒い」
「ええ、そうでないと力が維持できませんし、子供の時から続けていますから……。寒いけど、身体がぴりっとしますよ。力が入るというか、何か新しいものを得たような気分になります」

 水から上がった私に、早苗は白い羽織を手渡して、羽織るように促した。

「次は神社で祝詞の読謡ですよー」
「……まだあるの……」

 はあ、と溜息をついた。早苗はこんな面倒なこと、よくしていられるわね、と思って。


 さっきのことを思い出す。
 折られた白い紙を広げ、そこに書かれた祝詞を、読み上げていく。早苗は私に続けさせようとはしなかった。山で暗唱したのよりもずっと複雑で量も多いから、私に合わせている時間はないのだろう。自然、手を合わせたまま、早苗の後ろ姿を眺め続けることになる。
 背筋がぴんと伸びて、集中しているのが良く分かる。ああして、早苗はいつも、一人内なる神に向き合っているのだ。……自分はどうだろう。早苗と比べれば明瞭に、自分の姿が浮き彫りになる。修行するというのはただ、毎日決められた過程をこなすということではないのだ。日々、自分と向き合うということ。言うまでもない。

 格好良かったな。

 普段はおちゃらけてるみたいに、明るくて、笑っているけれど、色んなところがきちんきちんとしていて。私には、教えてくれる人がいなかった。だからと言って、今の自堕落さの責任を自分の外に求められるわけでもない。
 今も、それは同じ。神社の中で祝詞の読謡を終えると、朝食を取って、境内の掃除になった。社の隅々を特別細かく掃き清めて、素早くくるくると動き回る早苗を見ていると、あの神社の中での背中が思い出されるのだ。私は、私の中の、早苗に憧れている部分を見つけている。
 早苗がぱっと私を見て、少し不思議そうに私を眺めて、何を勘違いしたのか笑いかけて、私に手を振った。ふ、と笑いかけて、私は上手に笑えないことに気付いた。きちんと笑えないのが恥ずかしくて、私は目を逸らした。眩しいな、と思う。私は笑うことさえできない。

「手を動かして下さいねー」

 咎めるときだって、こんなにも屈託なく、棘がない。私は大人しく手を動かした。そうしていると、境内に続く階段を昇ってくる影が見えた。

「帰ってきたよー」

 声に顔を上げると、ジャージ姿の神奈子がや、と手を上げている。

「……何やってんの?」
「何って、ランニングだよ。好きなんだ。身体動かすの。いやー、しかしなんだ。霊夢は働いているのが似合わないね」
「お疲れ様です。食事の用意をしましょうか?」
「いや、筋トレをして汗を流してくる。それからまたもらうよ」

 私が呆れながら見ていると、早苗がその視線に気付いて、私を振り返った。

「神奈子様は、毎朝山を一回りして来るんですよ」
「……暇なのね」
「お、言うね。その暇な時間を使って鍛えてるんだよ。自分が弱かったら信仰どころじゃないし、いざ戦となった時に何もできないからね。霊夢も、暇があったら筋トレしてみたらどうだい」
「何よその筋トレって言うのは」
「要は運動だよ。腹筋や背筋を鍛えるんだ。触ってみる?」
「うわっ、何コレ固っ。しかも凄い割れてるし。気持ち悪っ」

 神奈子がぺろりと捲ったお腹は、綺麗に等間隔に割れていて、固くって、鉄板か何か入っているみたいだった。私のお腹とは全然違っていた。自分のを捲って触ってみると、余計な肉はついてないものの、ふにふにと柔らかくて、筋肉のかけらもなかった。

「うわ細っ。霊夢さんちゃんと食べてます?」
「ちょっと、触らないでよ。くすぐったいじゃない。早苗はどうなのよ」
「え? わ、私は……ふ、普通ですよ」

 早苗は出そうとはしなかった。私がじっと見ると、早苗は何ですか、と言った。

「そ、そもそも裸で歩き回って平気な方がおかしいんですよ、もっと恥じらいを持って下さい。昨日だって……」
「昨日?」

 神奈子が口を挟んでくる。

「何よ、お風呂のことまだ言うの」
「お風呂? おい早苗、一体何を」
「わー! 神奈子様、トレーニングですよね! 早く行って来てください、お掃除早く終わらせて食事の用意しますから!」

 勢い込んで言う早苗に、神奈子が分かった分かった、となだめるように言って去ってしまうと、早苗はがっくりと肩を落として溜息をつく。はぁぁ。ちょっと大袈裟すぎてわざとらしく思えるくらい。

「霊夢さんは良いですよね、細くって……私なんて……」
「なあに? 細いのがいいの?」
「な、何でもないです。さ、お掃除、さっと終わらせますよ」

 早苗は誤魔化した。

「何よ。全く。……ね、あとどれくらいするの」

 掃き掃除が終わると、木桶と雑巾を持って石灯籠の拭き掃除。それが終わったら神社。

 早苗はそう説明した。
 うえー。


 掃除が終わると、やっと朝食になった。諏訪子は一人で先に終えて、先に出たらしい。諏訪子様って結構気紛れなんですよ。早苗はそう言った。私はふぅんと思った。
 朝食は三人だった。一人でご飯を三杯もお代わりする神奈子を尻目に、私と早苗は一杯だけ貰った。早苗は少し、少なく盛っていたので、それで大丈夫なのかな、と他人事ながら思った。朝から食卓には肉が並んでいた。

「朝からお肉食べられるなんて、いいわね」

 牛のしぐれ煮だった。あとの献立はきのこの味噌汁と、山菜のおひたしだった。いつも思うけど、早苗の家はいつも、料理の手が込んでいる。いいなあ、と思うよりも、頑張ってるなあ、と思う方が先に立つ。美味しいことに越したことはないけれど、私は食べられればなんでもいい方だし、美味しさよりも安い方が大事だ。三日くらい同じ献立でも気にしない。一人だからそう思うのかな、と思った。他人に囲まれて暮らすのはどういう気分だろう。早苗のところで寝泊まりするのは何だかそわそわして落ち着かないから、やっぱり一人で気楽にやってる方が私には気楽だな、と思った。
 朝食が終わってようやく、お勤めは一段落したみたいだった。午前のうちに河童や天狗達が来て、御守りを作るのに使う材料の調達や加工について早苗と話し込んでいた。私にできることはもうなさそうだった。
 境内に出て、備え付けの腰掛けに座って、お茶をちびちび飲んだ。隣では昼から神奈子が酒を赤い盃でやっていた。
 思えば、早苗は昼間は大抵神社に遊びに来たり、里をうろついたり、何かしらしている。夕方には夕食や明日の準備など色々あるだろうから、それは忙しいはずだ、と思う。私はと顧みれば、食事も洗濯も自分の分だけ。掃除は気が向いたら。修行はしない。毎日昼過ぎまで寝てても毎日暇を抱えるわけだ。




 守矢神社で数週間を過ごした。早苗のところにいる間も、昼間はだらだらと過ごした。殆どは神奈子と雑談をして過ごすことが多かった。

「神奈子さ、毎日お酒飲んでて太らないの」
「馬っ鹿お前、酒は百薬の長なんだぞ」
「答えになってないけど」
「霊夢こそ毎日ぐうたらしてても太らないよね」
「欠食児童なのよ。めぐんで。ああそう、配食サービスなんてどうかしら。食の足りてない人間の為にテント作って炊き出しして、昔のソビエトみたいに皿を持って並んで……」
「よその神社の配給に毎日並ぶのか? 巫女がそれでいいのか?」
「心の信仰の自由は、誰だって妨げることはできないのよ」
「だいたい幻想郷なんて自給自足はできてるんでしょ。貧富の差なんてほとんどないし」
「通貨の概念が薄いからねぇ。多分紫あたりが全部管理してんじゃないの。知らないけど」
「人間を超越した存在が管理するってすごいわよね。完全な管理社会だもんね。まさにディストピア未来」
「何よそれ。訳分からないこと言わないでよ」
「SFよ。アイザック・アシモフとか、知らないの?」
「外来本なんて碌々読まないの」

 いつも神社にいて、暇をしているのが神奈子だった。色々としているらしいが、そうは見えなかった。神奈子に言わせると、『昼間に対話が通じるものは、早苗に任せてる。私らの界隈には夜にしか動かない、人とは対話しない者もいるのさ』ということだった。私にも、少しは覚えがあることだ。
 守矢神社のルーチンは、決まったことを繰り返す分、むしろ私の神社よりも退屈に思えた。だけど決まったことをするのは不思議に気力が満ちてくるようだった。

「外来本だけじゃないけれど、毎日を楽しく過ごすことは大事だよ。若いうちは、何だって楽しいからいいんだろうけどさ」
「あんたに若いなんて言われたら、だいたいの奴が若いでしょ」
「減らず口だねえ。することもなくてだらだら寝るくらいなら、本の一冊でも読んだらいいのに。誰か来たよ、あんたにじゃないのかい」

 剣を杖代わりにして、ボロボロになった天子が境内へ入ってくるのが、私にも見えていた。天子のような世間知らずはアポを取るなんてことも知らないだろうし、事務的な口調の天狗達に対する対話の仕方も知らない。大して傷も付かない天人の身体とは言えども、天狗にやたらと絡まれただろう天子は疲労困憊で口も利けないようだった。天子は身振りと手振りで用件を示した。

「何よ。何? ……神社が直ったの。……紫に脅かされて? ボコボコにされた? ああ、その傷紫とやりあったの。大変だったわね。結局紫と鬼達が直した? ふーん……大変だったのね。それで、とにかく、戻れるのね。分かったわ。帰っていいわよ」

 天子が行ってしまってから、私は神奈子としばらくだらだら話して、お酒がなくなると立ち上がった。

「じゃ、世話になったわね、神奈子」
「おいおい、帰るのかい」
「……? うん、そうだけど」
「せめて早苗に言ってやりなよ。あの子は今夕食の買い物に行ってるけど、たぶんお前の分も買っているよ。それに、友達だろう、早苗は。何も言わずに出て行くなんて、寂しいことをしてやらなくてもいいだろう」

 その通りだな、と思った。それで、私は座り直して、神奈子が次の一升瓶を探しに行くのを、見送った。それで、考えた。以前なら、こんな風にきちんと世話になっていなかったら、そのまま帰っていたと思う。いなくなっても、特別気にも掛けないだろうと思うからだ。今は……今は、事情があるとは言え、しばらく世話になる、というふうになっている。
 早苗に頼っているのだから、早苗に挨拶をして出て行かないのは失礼なことだ。神奈子に諭されて、そのまま素直に受け入れてしまった。私は一人ではない、と感じた。面倒なことだ。ふらふら、ふらふら、一人で出歩いて一人で帰り、一人で眠る。今は食事をするのも、眠るのも、守矢神社の連中に合わせないといけないというのは、面倒なことだ。
早苗に世話になっている。早苗に世話をされている。
 私には分からない。友達だなんて、と思う。友達。結局のところ、わがままをどれだけ押しつけられるかというものじゃないのかなと思う。他人の世話になる時はなるし、他人が求める時は他人の為にしてやる。それだけで良いのじゃないか。友達、だなんて、よく分からない。早苗は友達だろうか。いっそ、聞いてしまえばいいのかもしれない。早苗、私とあんたって友達かしら。友達って、どういうことをするの? 馬鹿みたいだ。友達なら、そういうことを確認するみたいに聞かないだろう。私は忘れてしまうことにした。早苗が帰ってきたら言ってしまおう。それで、早苗の都合のいい時に出て行こう。私はそう決めた。


「じゃあ、もう帰るんですか。あっ、そうだ。霊夢さん、今度はあなたのところに、しばらく泊めてもらえませんか? 迷惑……だと思いますけど、できるだけ、迷惑はかけないようにしますから」

 ……………………はぁ?
 神社が直ったことを告げると、早苗はそう言った。私がびっくりしたのと同じように、神奈子もびっくりしたみたいで、神奈子の方が早苗に問いただした。神奈子にも相談どころか、そういうことを匂わせてさえいなかったようだった。

「早苗、そりゃどういう風の吹き回しだい」
「あ、神奈子様。見聞を広めるんですよ。霊夢さんは同じ巫女ですし、霊夢さんが普段どんな風に生活をしているのか、興味があります。ちょっとした変化でも、これまでとは違ったことが得られると思います。これまで、守矢神社で修行していたのをずっと続けていても、大きな変化はないと思いますし」

 私と神奈子は顔を見合わせた。考えてることは多分同じだと思う。『普段からぐうたらしてるだけで、早苗が見て有益なことなんて一つもない』と、神奈子は言いたげだった。自分で言うのも何だけど、私だってそう思う。早苗を見ると、早苗は言葉を重ねた。

「いいじゃないですか、守矢神社に泊まりに来た分、交流と思って。霊夢さんだってたまには共同生活も悪くないじゃないですか」

 私と神奈子は、また顔を見合わせた。

「そりゃ、霊夢のところに嫁入りする訳でもなし、一週間や二週間くらいなら、文句は言わないけどさ。諏訪子は怒らないかな」
「まぁ、それは追い追い。ね、霊夢さんはどうですか」
「私は……」

 じっ、と早苗は私を真っ直ぐに見つめてきた。嫌だ、と言うのは簡単だ。面倒だから、と言ってしまうのも簡単だ。でも、紫や魔理沙なら、勝手に一週間くらい泊まり込むこともある。だから、早苗はダメ、なんて言えないし、ここ数日はお世話になったし……ああもう、と思った。紫や魔理沙がするみたいに、勝手に来て勝手に帰ればいいのに。こうやって面と向かって許可を求められるのは苦手だった。

「勝手にしたらいいわ。でも、私、世話はしないわよ。ここみたいにきれいじゃないし」
「やった。ありがとうございます! そういう訳なので、神奈子様、霊夢さんのところにしばらくお世話になりますね」

 早苗は私の手を握って、嬉しそうに破顔して見せた。私のところに泊まりに来ることに、どんな楽しみを見出すんだろう。早苗の笑顔は可愛らしかったけど、私のところに来ることに、どうしてそんな笑顔ができるんだろう。

「うん……きちんと諏訪子には話をしておくんだぞ」
「はい、もちろん」そうと決まったら、と早苗は続けた。「こちらの家事を、まとめて済ませておかないと。ねえ、霊夢さん、どうですか。今夜まで付き合いませんか? 少しいいお酒を出しますから。私も久しぶりに酒盛りもしたいですし」

 ずずいと、けれど嫌らしさのない好意的な誘いを受けて、私はええいいわよと請け負ってしまった。じゃあ準備をしないと、と早苗は神社の方に戻っていった。そうして、神奈子と私は、何度目になるか分からないけど、また顔を見合わせたのだった。


 その夜はひどい酒盛りだった。神奈子は普段から人一倍に暴飲する奴だし、早苗も酔うとやたらと懐っこくなって抱き着くし、諏訪子は二人に便乗していいぞやれやれと騒ぐけど明らかに目が酔ってない。私は酔ってもどこかで冷静な自分がいて、神奈子や諏訪子が早苗の乳を揉んであれあれここに固いものがあるぞ? おやおやそれは何だいさくらんぼかな? などとひどいものを見てどん引きして混じることもできなかった。私には揉むほどの乳もなくて、それは女性的には……よく分からない感情だけれど、恥ずかしいというか、妬ましいというか、そういう感情を持つべきらしいけれど、私にはよく分からない。まあそれはどうでもいいけど、とりあえずひどい酒盛りだった。馬鹿みたいに酒を空けたから、色んなお酒を飲めるのは楽しかったし、やっぱりこんな風に馬鹿騒ぎをするのは……私自身が馬鹿になって騒ぐ訳ではないけれど、そういうのを眺めているのは、好きなようだ。

 朝になって、むっくりと起き出して厠に向かうと、早苗と神奈子が庭先にいて、早苗が洗濯物を干していた。神奈子は縁側に座っていて、下着姿で、髪はぼさぼさだった。洗濯をするからと服を脱がされてそのまま起き出してきたような格好だ。

「あんた、霊夢が好きなのかい」
「はい?」

 はい? 早苗と同じように、私もそう言いたいところだった。思わず早苗達から見えないように身体を隠した。

「どうしてそんなことを聞くんです」
「霊夢が好きだから、博麗神社に一緒に住むとか言い出されたら困るなと思ってさ。早苗の決めることだから止めはしないけど、それならそれで巫女を探さないといけない」
「そういう話なら、私はきちんと戻ります。『戻ってくるのか』とそれだけでいいじゃありませんか。博麗神社には守矢の分社もあるのですから、時々挨拶もできますし」
「うん、まあ、戻るなら構わないよ。それで、好きなのかい」
「何ですか、女子高生みたいに」
「それじゃまるで私が女子高生には見えないようじゃないか」
「その通りじゃないですか」

 不穏な沈黙があたりに流れた。殴り合いでも始まるんじゃないかなと私はひやひやしたけど、神奈子が、「まあいい、その話は後にしようじゃないか。それで」と言って、その問題はとりあえず置いておくことにしたようだった。

「……聞きたいんですか?」
「いいじゃないか。早苗の浮ついた話なんて聞いたことがないからさ。興味があるんだ」
「もう……」

 早苗は呆れたように言った。会話は途切れ、洗濯物を払う音がしばらく続いた。

「私、嘘はつきたくないですから、言いますけど。霊夢さんは好きですよ、もちろん、友達として。でも、正直なところで言うと、まだ分からない、というところですね」
「なんだい。誤魔化したのかい」
「嘘はつきたくないから、ってことです」
「そういうのが誤魔化しっぽいんだ」

 早苗はむきになるところがあるからなあ、と神奈子は溜息をつきながら言った。

「私は霊夢さんのこと好きだけど、まだ全然知らないから。こういうチャンスを拾っていかないと」
「既成事実でも作ってくるのかい」
「そういうの、お酒の席以外では言わないで下さい」

 ふん、と神奈子は言った。








 二




 友達をやる。
 そういう気分……

 早苗がうちの神社に来てから、微妙な緊張がずっと続いた。不快ではないけど。たぶん、ちょっとした変化に伴う座りの悪さみたいなものだ。
 早苗が来てから、生活のペースは守矢神社と同じになった。洗濯も掃除も一日刻み、起きる時間はきっちり決まり……うちの流儀を学ぶとか何とか言ってたくせに、『こういう生活のリズムとそれとは別の問題です』ときたものだから。私はと言えば、早苗にされるがままにしておいた。私だってしようしようとは思っている。しようしようと考えることに忙しいだけだ。だから、してくれる、あるいは私を引っ張ってやってくれるというのなら、文句は別になかった。
 実際、長いこと干しもしてなかった客用の布団はいつの間にか洗って干してあって、私の布団よりも綺麗にしてあったくらいだし、普段は適当にしか洗ってない鍋ややかんがいつの間にかぴかぴかになってたり、いつもきちんと取らない、部屋の角の埃がなくなってたりした。
 修行については、うちは特別毎日しなければいけない修行というものはないから、自分の分だけしているようだった。わざわざ奇蹟で水を出して水垢離をする。面倒なことだとか、山の神秘的な水とかじゃなくていいのかしらんとか思ったりしたけど、早苗がいいようにしているのだから別に構わないのだろう。
 早苗がいくらきっちりしても、私は別に早苗に合わせる気はなかったから、朝食で起こされた後に二度寝をしたり、昼寝をしたりして、早苗が家事をしているのを見つけたら、さすがに悪い気分になるから、むっくり起き上がって手伝ったりした。まあ、そういう訳で、生活のペースは微妙に変わった部分と変わらない部分が混じり合って、何だかうまくいっているようでいっていないような、そんな感じだった。
 早苗は案外素直なようでも、腹の底の底は見えないようなところがある。実は不満に思っているのではないかな、と思うところがあっても、そんな素振りは見せない。いつもにこにこしているのが、逆に不自然だ。いくら外界育ちで幻想郷に来たばかりとは言え、何もかもに満足しいてるのかな、と思う。
 時折、そんな風に思うことがあっても、むしろ早苗が笑っている時にこそそういうことを思うものだから、面と向かって問いただすのは何やら気が引けて、早苗の思うところについて分からないものを腹の中に溜めたまま、日々を過ごしている。
 早苗は微妙に、やりにくい。良い子だけど、素直じゃない。しばらく過ごして得た、私にとっての早苗の印象はそんな感じだった。




 その日は珍しく早苗と一緒に買い物に行った。早苗に誘われた時、『二人で連れ合って行くなんて非効率なだけだと思う』と言うと、『まあまあ』と早苗に押し切られてしまったのだ。でも途中、団子屋で早苗に白玉ぜんざいをおごってもらったので、まあいいか、という気分に変わっていた。

「美味しそうに食べますね」
「そう?」

 一人で食べている時に、自分の顔なんて意識しないから、少し困ってしまった。

「そんなこと言われたことないわ」
「幸せそうに食べてました」
「あんまり食べないからねえ」
「お金ないんですか?」
「あるわけないでしょ」
「ないなら努力すればいいじゃないですか」

 早苗は『パンがないならケーキを』と言わんばかりにさくっと言った。守矢神社は山の妖怪達にそれなりに慕われているから、収入も多いんだろうか。そういう話をするのは何やらちょっと汚い気分もする。私は木製のスプーンを指先に持ち上げて、ぼんやり眺めながら喋った。

「お金を儲けるったって、吐き出すのは人間なのよ」
「それがどうかしたんですか?」
「私が儲けようとして、何かをする。それで、お金があれば私が何かしてくれると里の人間が思う。で、お金が幅を利かせるようになる。お金を貯め込む人間が出て、お金の少ない人間を蔑むようになる」
「何が悪いんですか?」
「悪い悪くないじゃないわよ。そういう世の中は貧相だって思うってだけ。私はあくせく働く人間だけが偉いって世の中より、お金がなくたってぐーたら寝て過ごして、それが普通って世の中が好きなだけ」
「でも、それと霊夢さんが努力しないのは、別の話ですよね」

 う。い、痛いところをついてくるじゃないの。

「それに、楽してお金儲けしようとするの好きじゃないですか」
「うん……それは、まあ。暇潰しみたいなもんだしねぇ」

 話が一段落したのを感じて、早苗が湯飲みを持って立ち上がった。お店の人に声をかけて、お茶を入れてもらっていた。呼べばいいのに。そういう妙に律儀なところも早苗らしいと言えばらしいけど。早苗が両手にお茶を持って戻ってくる。

「霊夢さんはあんまり能力を使ったりしませんね。神様呼んだり……」
「うん? いやまぁ、そりゃ。私だけのお金儲けの為には神様も協力してくれないだろうし、何より、悪いでしょう」
「普通の人ができないのに、ってことですか」
「まあ、そう」
「でも、霊夢さんは神社を管理してるし、それが理由かどうかは分からないけど、能力がある。能力があるなら、使うべきじゃないんですか?」
「ううん……まあ、いいのよ。私は。必要があったら使うわよ。今は、毎日昼寝ができて、こんな風に時々おかしが食べれたらそれでいいの」

 私はスプーンを、少しぬるくなったぜんざいに入れて、もう一口食べた。食べてから、また表情を見られてるのかな、と思ってちらりと早苗を見た。早苗は微笑んでいて、私を見ていた。早苗と目が合って、少し首を傾げて、どうかしました? という表情をしてみせた。少し恥ずかしくなった。


 買い物から戻ると、早苗は夕食の用意を始めた。近頃、食事の用意は早苗に任せっぱなしだなあ、と思いながら、私は庭先に置いてある守矢の分社に足を運んだ。

「神奈子ー。神奈子ー。いないの? 神奈子ー」
「あんだい。そんな雑に呼ぶんじゃないよ。神様を呼ぶらしくちゃんと呼びなさい」
「うるさい。早苗から」

 早苗が団子屋で買ってきてたおみやげを、分社からにゅっと顔を出した神奈子に手渡すと、おうすまないねえと神奈子は言った。

「早苗が心配してたよ。ちゃんと食べてるかなあって」
「食べてるよ。聞いてくれよ昨日は諏訪子が当番だったんだけどさ。生の虫なんか出してきやがってさ。諏訪子は食えるかもしれないけど私は無理だって言ったんだよ。どこから採ってきたんだか……古生代に生きてるような……メガネウラみたいにでっかいやつ。どうにか言ってやってくれよ」
「それで神奈子はどうしたの」
「焼いて食ったよ」
「焼いたらいいんじゃないの」

 神奈子は諏訪子の、ちょっとした愚痴をこぼした。基本的に仲は良いから言わないんだろうけど、時にはこぼしたくもなるものらしい。私はそれを聞き流していると、話は早苗のことになった。

「早苗はよくしてるかい」
「うん。よくしてもらってる」
「あんた家主でしょ」
「仕方ないでしょ。今は侵略されたみたいなもんなんだから」
「うーん侵略かあ……血が疼くなあ……」
「神話の時代には、誰だかって神様に追い回されて諏訪まで逃げたくせに。呼んだっていいのよ。その何だかって神様」
「よ、よ、呼びたければ呼べばいいじゃないのよ。諏訪子が黙ってないよ」
「ごめん、悪かったって」

 急に怯え始めた神奈子に私は謝って、話を戻した。

「まあ、気楽にやってるみたいよ。色々してくれるし」
「そりゃ良かった。気の良い新妻が来たみたいなもんだね」
「私が亭主関白やってるって言いたいの」
「あんたが甲斐甲斐しい新妻っていうのは、ちょっと想像できないからね」
「見てなさいよ。私だって愛する夫さえいたらね」

 そう言うと、神奈子は微妙な顔をして見せた。

「うん、まあ、うまくやってるようなら良かったよ。飽きたら帰ってきなって言っておいて」
「うん。じゃあね神奈子」

 神奈子が分社の向こう側に消えてしまうと、ふっ、と一瞬、静寂が辺りに落ちたような気がした。風で揺れる木の葉の音がやたらと聞こえたせいかもしれない。

「こんばんは」
「…………」

 やっぱり、と声をかけられてから思った。紫が来るのは大抵こういう時だ。来てから、ああ今の間に来ていたんだな、と思う。振り返ると、縁側に腰掛けている紫の姿が見えた。

「何、紫」
「暇潰し。霊夢、なんか変なのが来てるじゃない」
「何日か泊まり込むことくらい、あんたや魔理沙だってするじゃないの」
「あら。着替えを用意して、住み込みの部屋まで作って?」
「まあ……私はしてないけど……早苗が勝手にしたんだけど」
「私や魔理沙には作らせないでしょう。ジェラシー感じちゃうわ」

 くすくす、くすくす。全くジェラシーなんて感じていない顔で紫は言った。

「それでちょっかい出しに来たの」
「まあちょっかいというか。あの子はどう? 愛らしいひと? それとも厄介者?」
「どっちでもないけど」

 にやにやと紫が笑っている。こいつはこういう奴だ。こいつはいつでも私達を眺めようと思ったらこっそりと眺められるし、私が早苗のことをどう思っているかなんて、ある程度予測はついているに違いない。だけど、確かめたいことがあると、こんな風ににやついたまま帰ろうとしない。それが紫の甘え方だっていうのは最近分かった。全く迷惑な話だけど、紫がこんな風に笑っている時は、話してやるしかないなと思うようになった。ただでさえ早苗もいるのに、居着かれても迷惑だ。

「……いやまあ、別に嫌ではないわよ」
「うんうん」
「いてもいなくても、何か変わる訳でもないし」
「うんうん」
「でも時々、不満があるなら言ってほしいというか」
「んー……」
「ちょっと本心が見えないところがあるのよね」
「それはそもそも霊夢が見せてないからじゃないの?」
「見せるべき本心も特にないんだけど」
「必要がなきゃ話しちゃいけないってことはないのよ」
「お見合いじゃあるまいし」

 紫がふぅ、と溜息をつく。やけに早苗のことを気にするんだなあ、と私は考える。

「紫、あんたも神奈子と一緒で、早苗と仲良くしろって言いたいの?」
「良い機会でしょう。まあ、仲良くするかどうかは別として……胸襟を開いてみて、早苗のことをもっと知ってみたらどうかしら。あんまりコミュニケーション不全の者を巫女においておくのも不安だから」
「あんたは忠告をしに来るのが好きね。母親ぶってるつもり?」
「ふふふ」
「早苗のことは考えとくわ。別に、仲良くしたくない、なんて思ってはないのよ。ただよく分からない奴だってだけ」

 紫としては、軽い忠告ができれば満足だったみたいで、すぅと姿を薄くして、消えていった。
 私が思うのは、早苗がどうして私と関わろうとするのか分からないことだ。好き、とか、守矢神社を出る時に聞いてしまったけれど、どうして早苗が私を好きになるのかも分からない。
 早苗と私は別人なのだから、早苗は守矢神社で巫女をするのだろうし、私は博麗神社で巫女だ。それだけの間柄。どこかに家を持って、一緒に暮らしたって構わないけれど、それがどういうことなのか、私には分からない。子供を作れる訳でもなし、一緒に暮らす必要もよく分からない。
 私が色恋を知らないだけなら単純な話だ。色恋以前に、情さえ私は分かっていないのかもしれない。私には家族はいない。家族がいないことが当たり前だったから、それが悪いことかどうかも分からない。
 幻想郷には家族を持たない人間もいる。迷い込んできた外来人は大抵そうだ。だけど、彼ら彼女らもかつては家族がいて、また新しく家族を持つ。
 早苗は、と考えてみた。早苗は神社の神が家族だ。外に家族がいるかいないかは知らないけど、今はいないにしても、かつていた家族の顔くらいは知っているだろう。

「早苗かあ……」

 私は一人、髪をかきながらぼうっと呟いた。

「よく分からない奴……」

 そのときは知らなかったのだけど、その呟きは、早苗に聞かれてたみたいだった。




 ご飯ができて、早苗が呼びに来たのはそれから五分くらいしてからだった。その時から、ちょっと変かな? という感じはした。表向きは変化がなかったので、ただの勘だけど。でも、私の勘は良く当たるから。

「早苗、どうかしたの?」
「え? いえ、別に」

 そう言う顔も笑っていた。普段と変わりない笑顔だった。何か隠してるな、と思ったけど、何か隠してても笑顔は上手だった。我慢するのが慣れている感じだった。私にはできないことだ。怒りたいことや言いたいことがあれば言えばいいのに。
 ふん、と思った。言いたくないなら、別にいい。私には関わりのないことだ。どうかしたの、だって。私らしくないことを聞いたな、と思った。
 夕食の時も、片付けを一緒にしている時も、早苗は珍しく静かだった。意味もなく明るく笑ういつもの早苗はいなくて、ぽつりぽつり、と二言三言、言葉を交わしては会話は途切れた。私が会話を広げる気がないのはいつものことで、早苗がどうにかして話を繋げようとしないだけだった。やっぱり変だな、と感じたけれど、気分が良くない時もあるだろう、身体の調子が悪い訳ではないようだし、と私は思い、放っておいた。早苗の問題は早苗が解決することだし、それは私だって、別の誰かだって、皆そうだ。自分のことは自分で何とかするしかない。こういうことを、わざわざ意識し直さないといけないくらい、私は困っていた。魔理沙とかは、会いたくない時は来ないし、何か言いたい時、言われたい時は、自分から勝手に来る。誰だってそうだ。気ままで、自分本位で……早苗も、そう生きればいいのに。
 夕食が終わると、私は自分の寝室に一度戻った。何をするでもない。こういうとき私は無趣味だなと思うけど、大抵寝てさえいれば満足するから安上がりなものだと思う。夕食が終わったら一度眠って、夜中に目が覚めたらもう一度寝る。自堕落の極み。
 その日は妙にそわそわとして落ち着かなかった。早苗がどこにいるのかが気に掛かった。自分から構ってきてよく喋る早苗。私が自分の寝室でぼうっとしていても、平気で入ってきて居間に連れ出す早苗。今日は来ないだろうな、と思った。別に来なくたっていい。別に来なくたっていいし、私が探しに行く必要もない。たまには別々だっていい。でも、早苗が来てから、別々に時間を過ごすことの方が珍しくなってしまった。
 私は立ち上がった。早苗が元気で別々に過ごしてるなら気にもならないだろうけど、早苗が何か悩んでいて、別々で過ごしていると、気持ちが悪い。

 早苗を捜して少しうろつくと、早苗は、庭先に立ってぼうっとしていた。早苗らしくなかった。早苗だって悩むことはあるだろうけど、そういう姿を他人に晒すことが珍しかった。自分の中で何とかしてしまうことが多い。
 隣に立ってみると、早苗は私に気付き、少し目を泳がせてから、私を睨み付けた。それから微妙な笑いをしてみせた。まるで、泣きそうになっている子供みたいだ。「早苗」、と私が呼びかけてみると、

「……何ですか」

 と、答えた。受け答え自体にはおかしなところはなかったけど、私から声を掛けて、早苗が控え目に答える、ということ自体、既に違和感があった。
 二言三言、つまらない言葉を交わした後、早苗は先に立って、廊下を奥へと歩いて行った。早苗にあてがっている寝室に入ったようだった。私は追わなかった。友達なのに。私自身に、そう言う自分もどこかにいる。
 友達。
 元々、私は他人に、強い興味を持つ性質じゃない。魔理沙みたいに、誰かと会いに行くことも多くない。私は、人よりも行為の方に興味や目的があることが多い。
 人よりも行為だ、と思う。何をするかが、何をやらかすか、が私にとっては大切だ。悪事や問題事をやらかすことがあっても、人や妖怪自身は悪い訳ではない、その人物の善悪とは別だ、と思う。
 昔は良くても今は駄目、ということもあるし、そういう知識が無いだけだったりする。何かしら理由があることもある。だから、その人と仲が良いから問題を起こしても許す、だとか、良いことをしても仲が悪いから評価しない、とかいうことは良くない。好悪で付き合うということは、私には良く分からない。
 だから、普通に暮らしているうちに、他人と付き合うのは苦手だ。他人に踏み込んでゆくのは苦手だ。
 ……一人で、ああもう、と呟いた。こういうのは、苦手だっていうのに。


 襖を開けると、早苗はもう床に着こうとしていたところだった。早苗はびっくりしたように私を見返して、早苗の驚きが覚めきらない間に、早苗の布団にまくらを投げつけて、布団をめくって、潜り込んだ。

「な、何ですか、霊夢さん」
「一緒に寝ようと思って。友達だったらそれくらいするでしょ」

 友達。自分で言って空々しく思えた。早苗のことは早苗が何とかするだろうと思ってるし、別に一緒に寝たところで悩みが解決する訳でもない。ちょっと気分が別のところに行くくらいだ。それを、友達をやる、なんて言って。ふん。自分でも馬鹿みたいに思える。
 友達、と言った瞬間に、早苗はあ、と小さく呟き、くすくす笑った。馬鹿にされてるみたいに感じた。それから早苗は灯りを消して、布団をかけた。

「ほんとに、寝に来ただけですか? 何か聞きに来たとかじゃなくて?」
「あんた、なんか怒ってるでしょ。なんで怒ってるの」
「怒ってなんてないですよ。それを聞きに来たんですか?」

 灯りのない暗い部屋で、私と早苗は言葉を交わした。会話のテンポが戻っているように感じている。身体の、早苗の側の手が、近くにある早苗の手の存在を感じていて、置き場所に困っている。

「なんかあったでしょ。分かるのよ。あんた、いつもうるさいのに静かになったら」
「何かありましたよ。別に、大したことじゃないし、私も良くなかったから、言わないでおこうと思ってましたけど」

 ふう、と息をつくのが、分かった。私に怒っている感じではなくて、早苗が、それを私に言わなければいけない自分自身に、憤りを感じているような、踏ん切りの吐息に思えた。

「盗み聞き、じゃないんですけど。夕方、紫さんと話してたでしょう」
「うん。話してたわよ。それがどうかしたの?」
「紫さんの帰り際かな。その時ちょうど私、廊下を通りがかっちゃって、霊夢さんがよく分からない奴、みたいに私のことを言うの、聞いちゃったんです」
「ああ……うん、言ったわよ」
「私だって良くないんですよ。こっそり聞いちゃうのもそうだし、霊夢さんがそう思ったって勝手だし、言うのだって悪いことじゃないし……」
「ちょっと待って。それで、早苗は怒ってたの?」

 だから怒ってないんですって、と早苗は言った。分からないから分からないと言うことの、何が悪いんだろうと思う。

「だって、分からないのは分からないじゃない。私、早苗のこと、何も知らないもの」
「そうですよね。そうなんです。だから、霊夢さんは悪くないんです。でも、分からない奴、って変、ってことでしょう。それで、ちょっと考えちゃって」
「……別に、変ってことでも、ないと思うけど……それを言ったらここの連中だって変な奴ばっかりじゃない。変になったっていいし」
「そうなんですよね。でも……普通からはみ出すのって、すごく怖いんです。霊夢さんは、そういうこと、ありませんか?」

 普通と、変、どう違うのか、私には想像が付かなかった。幻想郷にいるのは皆変な奴ばかりだ。とは言っても――魔理沙や、レミリアや、紫……彼女らについて、深く知っている訳ではない。深く関わりがないのだから、当然、私の尺度で普通、普通じゃないを決めつけたり、押しつけたりしたこともない。他人に興味がないということは、自分自身の尺度にも興味がないということだ。私の行動はどこまでが普通で、普通じゃないんだろう。考えたこともない。

「……霊夢さんは、多分、そういうところも自由で、羨ましい、って思います。私は自分の思考にさえ囚われてるなあって。……霊夢さんのようになりたい、っていう気持ちもあります。私は私、だけど……」

 早苗がそう呟き、沈黙が暗い部屋の中に落ちた。早苗はしばらく黙っていた。早苗はそのまま眠ろうとしているようにも思えた。長い沈黙があった。もう眠ってしまったのかもしれない、私も眠ろうかな、と思った時、暗闇の中で、早苗が身体を横にして、私の方を向いたのが分かった。早苗の手が一瞬私の手に触れて、また早苗の方に行った。

「ねえ、霊夢さん、私のこと気にして、一緒に寝に来てくれたんですか?」
「な、何よ。友達だから、それくらいしたっていいでしょ」

 また、私はそう言った。早苗は友達をやりたがってる、早苗は私と友達になりたがってる。だから、そう言ったら早苗は黙る。そういう、切り札みたいになっていた。

「ねえ、霊夢さん、友達をする、ってそうじゃないですよ。霊夢さん、間違ってますよ」
「じゃあ何よ、早苗は友達のやり方知ってるっていうの」
「私も知りません。外の世界では友達はいたけど……何だか、今思うと、あれが友達だったのか、分からない気もします……そう思うことそのものが、友達だと思っていた人達に失礼なのかもしれないけど……でも、だから、私達、友達になれると思うんです。ねえ。霊夢さん、友達になりましょうよ。友達なんて、何かなんて、分からないけれど。そうですね。最終的には……他の誰かと比べた時、私にとって霊夢さんが、霊夢さんにとって私……東風谷早苗だけが、『友達』、って言えるような関係」
「早苗だけ……」
「そう。もちろん、そんなの、無理かもしれません。だから、最終目的。別に、無理だっていいですよ。たぶん、その過程で、友達って何か分かってくると思うから。ねえ、霊夢さん」

 友達になりましょうよ、と早苗は言った。私は答えることができなかった。私が誰かにとっての特別になる、早苗が私にとっての特別になる。想像ができなかった。それに、そうなると決める……早苗はできないかもしれない、と言ったけど……そうなるかもしれないことを許す、ということだ。私は答えなかった。ふいと顔を早苗からそらした。私は肯定しなかった。でも、否定もしなかった。早苗にとっては、それだけで、充分みたいだった。




 朝起きて布団からむっくり身体を起こすと、開け放たれた襖から、日射しが斜めに差し込んでいた。自分の部屋はこんなに光が差し込んだかな、と思っていると、昨日は早苗と寝たことを思い出した。いつもなら帯紐に引っかかっているだけの寝間着が今日はきちんとなっていて、蒸し暑くて、めくった。珍しく早苗に起こされる前に起きたのは、この蒸し暑さのせいだった。今日に限って、と考えたところで、隣にいない早苗のことに考えが及んだ。たぶん、寝相のよくない、寝たまま肌着をめくりあげた私の姿を、早苗は見た、んだろう。たぶん。私の寝間着の乱れを直す早苗を想像して、私は何となく申し訳なくなって、寝間着を着直した。
 早苗はどうしてるのかな。時計を探したけど、早苗がどこに置いてるのか分からなくて見当たらなかった。修行中かな。修行が終わる前に、食事でも作ってあげよう。くぅ、と伸びをしてから、一つ欠伸をして、それから立ち上がってもう一度伸びをした。廊下に出ると、早苗が部屋に戻ってくるところだった。

「あ、霊夢さん、起きましたか。朝ご飯出来てますよー」

 早苗はいそいそと部屋にエプロンを置いて、ささ、と私を押すようにして居間まで運んだ。なんだ。たまには朝食でも、って考えても早苗の方が先回りしてる。やっぱり私と早苗はこういう星回りになるようだった。他人の相手なんて、その場その場でしかやってこなかった私と、家族といて、家庭を知っていて、普段から切り回している早苗とでは、得意分野が違うのだ。
 居間ではやたらと豪華な朝食ができあがっていた。早苗がちゃぶ台の対面に着くのを待って、手を合わせ、箸をつける。おいしい。
 ふと顔を上げると、早苗が箸もつけず、にこにこ笑って私を見ていた。私は気恥ずかしいのと気味が悪いのとで、「何よ」と言った。

「いえ、霊夢さんはやっぱり美味しそうにごはんを食べるなあと思いまして」
「だから自分じゃ分からないってば。早苗も食べなさいよ。じっと見られてると食べにくいでしょ」
「はい、はい。分かりました。あ、お茶入れます?」

 貰うわ、と返事をすると、早苗はやかんから湯飲みに冷茶を注いでくれた。それからも、朝食の間、ご飯のお代わりはどうですか、みそ汁の味付けは悪くなかったですか、と気を遣ってくれたのだけど、私からすれば、うるさいくらいだった。

「早苗、あんたねえ、何なのよ。昨日言ったこと気にしてるの」
「ああ、友達のことですか? いいえ、そういう訳じゃないんですけど、どうも、何だか昨日から嬉しくって。どういう訳かは分からないですけども……」

 昨日も言いましたけど、と早苗は言った。

「私、友達はいましたけど、そもそも外の世界じゃ友達がいないのは普通じゃないから、作りたくもないのに作るってのが普通だったように思います。……私は……いるとか、いらないとか、そういうのさえ分かってなくて、とりあえず作ってて、でもそれが特別不満な訳じゃなくて……でも、やっぱり違うな、って思ったんです。皆、どこかで少しずつ、違うな、って部分を持ってるんだと思います。本当にわかり合うことはない、でも、それ、本当かな、って……わかり合うこと、できるんじゃないかな、って……」

 私は、早苗の言っていることを考えてみた。皆が違うのは当然のことだ。だけど、早苗の言う『皆』とは、人間のことだ。慧音の寺子屋のように、人間に囲まれて生きたことがないから、沢山の人間と付き合うことが分からない。妖怪は見た目から違うから、幻想郷の人間は他人と差異があることを、自然に受け入れているように見える。それさえも思い込みだろうか? 私は人間と深い仲になったことがない。一番仲がいいだろう魔理沙とさえ、魔理沙と私の違いについて、深く話し合ったことはない。だから友達でない、ということでもないけど……そういうことをしなければ、友達にはなれないものだろうか?
 それから早苗は慌てたように、私と早苗の共通点を挙げ始めた。同じ巫女だし、力を持った人間だし……

「とにかく、私、霊夢さんを見た時から、友達になれたらいいな、って思ってたんです。だから……」

 そこから先は同じような繰り返しだった。友達になりましょう、と、そういうことだった。「言っとくけどね。私、友達……が、どういうものか、分かってないから」私は茶碗をまとめて、立ち上がりながら言った。立ち上がり、茶碗を持って台所に運びながら、次の言葉を考えた。言葉と共に、考えをまとめた。私の中では、いつでも私の考えが、思考以前の形で、頭の中に留まっている。思考を言葉にして、吐き出すのは、とても難しい作業だった。早苗も私に従って、茶碗をまとめて、台所に運んだ。二人で並んで、洗い物をしながら、言葉を続けた。

「私だって、友達をやれるかどうかなんて、分からないわよ。別に、特別なことをしなくたって、このままでいいんじゃない、って気もするし、これこれをしたら友達、って枠組みがある訳でもないし」
「まあ、それはそうですよ。私だって、これまで付き合ってきた友達が友達っていうことじゃないとしたら、友達って何なのか分かりません」
「うん……だから、早苗の言う通りに、してみてもいいわ。友達って何なのか分からないけど、いいわよ」
「本当ですか。嬉しい……嬉しいですね。霊夢さんって、どこか遠ざけるところがあったから。ちょっと近付きがたいところもあって」
「あんたは考え過ぎよ。魔理沙みたいにしたらいいの」

 そういう風に、洗い物をしている間、私は早苗を話し続けていた。こういうのは誰とでもするけれど、これが早苗との友達第一歩かしら?


 洗い物を終えると、早苗も居間についてきた。今日の分は終わり? と聞くと、「もう少し日が昇ってから、洗濯物をします」と言った。

 気持ちのいい陽気だった。私は身体を縁側の板の上に横たえると、早苗が隣に座った。私の髪が、早苗の服の裾に触れるのが分かった。しばらくそうしていると、早苗が手持ち無沙汰に、私の髪に触れた。さら、さら、指を絡ませるでもなく、髪の一番表層の部分を撫でた。心地よかったので、私はされるがままにしておいた。何だか、眠くなってきて、子守歌を歌ってくれない、と私は囁いた。早苗は私を覗き込んで、「まだお昼ですよ」と言った。

「いいのよ、お昼だって。気持ちいいんだもの」

 熱の籠もった日射しが身体にかかって暑かったけれど、変に気持ちが良かった。目を閉じると、早苗が小さく、子守歌を歌うのが聞こえてきた。まるで、家族になったみたい。友達も恋人も通り越して? 馬鹿みたい、と思った。
 子守歌の向こうに、風で木の葉が鳴る音が聞こえた。静かで、穏やかで、気持ちが良かった。








 三




 その日は朝から物乞いが来た。
 時々、そういうのが来るのだ。里の家々を回って、良心につけ込んで、小金をせびって帰る輩……前にも相手をしたことのある物乞いで、そういうのを相手にしていると何度も来ることを学習していた。一度、失敗してしまって、切り詰めた生活費のうちから、ほんの少し、渡してやると、また次の日にも現れたのだ。これは良くない、と思ったし、一人に甘くすると他の者に不公平だから、今回も、少し話をはいはいと聞いてやって、諭して追い返した。やれやれ、と思う。紫は何だってああいうのを幻想郷で放っておくんだろう。

「霊夢さん、誰か来てました?」
「ああうん、いいのよ、早苗」

 早苗は不思議そうにしていたけど、私は早苗には何も言わなかった。何が何でも隠しておかなければならないものでもなかったけど、説明するのも面倒だったし、何より、物乞いのようなものと関わっていること自体が、みっともないことのように思えた。そういう姿を、早苗には見せたくないと思った。
 物乞いは褒められたことではないけど、可哀想なのは可哀想で、自分の行いのせいだとは言っても、同情を誘うから厄介で、その分面倒だった。ああ、くさくさする。気分が良くなくて、早苗と一緒にいても、どこかぎくしゃくするような気がした。普段通りの会話をしていても、どこかで変な感じになるんじゃないか……そんな不安感を、頭のどこかで感じていた。


「……西瓜、食べます?」

 一瞬、反応が遅れた。
 ああ、と曖昧に答えて、早苗に付き添って、夕食の買い物に来ていたことを思い出した。八百屋の前。早苗の目の前に、まん丸く育った豊かな西瓜があって、早苗が覗き込んでいる。

「ちょっと一人じゃ多いから。でも、残すのも勿体ないでしょう。霊夢さんも食べてくれるなら、買おうかな、って」

 手提げの籠を持ったまま、早苗は西瓜をすりすり撫でながら、考えているようだった。西瓜を買うか買わないか、別の何かを探すか……安いものは何で、料理に合わせて買ったものを、使い切れるかどうか……早苗の無防備な背中を見ながら、生返事にうん、と答えた。
 西瓜から離れて、他の野菜を眺め始めた。腰を落とし、顔を近付けて、手に取って眺めている。手に取ったところで違いが分かるわけでもなかろうに、と思うけれど、私も八百屋に来ると、そんな風にしてしまうから、私だって同じだ。なすを手に取っては自分で納得するみたいにふんふん、と頷いて、戻し、ごぼうを取って、ふーん、トマトを取っては、んー……と小首を傾げて……早苗はよくよく見ると動作がやたら多い奴だった。私や誰かに構う時のオーバーリアクションは、狙ってやってるのではなくて素なのかも知れない。早苗が私を見た。視線が重なって、私が早苗を見ていたのがはっきりと早苗にも伝わった。早苗はふっと笑いかけた。膝を払って立ち上がり、私の方に歩いてきた。

「ね、霊夢さん、今日の夕食、何か食べたいものありますか?」
「……ないわよ。何でもいい」
「何でもいいは困るんですよ。あんまり昨日とかと被ってもいけないし。確かにんじんが少し古くなってたから、今日のうちに使っておきたいなって思ってて……」
「キャベツ買って、醤油で炒めたらいいわよ。私は何でもそうするから。くず肉でももらって混ぜたら、それなりに満足できるし」
「男の料理ですね。学校行ってた頃、男の子の友達は夜中にそんなの作るって言ってたなぁ。懐かしい……」

 私はもうちょっと凝りたいんです、と早苗は行って、また、野菜を眺めに行った。はー。早苗に気付かれないように、溜息をついた。早苗が原因じゃない。里に来ると、朝来ていた物乞いのことを思い出す。もし出会うんじゃないか、と思うと、別に出会ったって平気な顔をしていればいいけれど、顔を見られると気まずいのが、嫌だった。そんなことを気にしてしまう自分も嫌だった。はー。早苗がいないうちに、もう一度溜息をついた。気付かれるのも嫌だし、気付かれないようにこそこそするのも……何もかもが嫌になりそうで、駄目だ、と自分を鼓舞しなおした。


 結局買った西瓜と、夕食の食材を抱えて、台所に運び込んだ。早苗は大たらいに西瓜を入れ、水を張って、買ってきた氷を砕いて入れた。西瓜が氷の中で浮かんでいるのを見て、早苗は「よし」と満足げに言った。

「さ、夕食の用意、しましょうか」
「手伝うわ。あんまり難しいことはできないけど」
「ありがとうございます。何かあったら言ってくれていいですよ。たぶん、家で誰かと一緒にするよりは楽ですから。諏訪子様や神奈子様は味付けにこだわりがあるから……一人ならまだいいですけど、二人とも来たら、喧嘩になっちゃうんです。そういう時、私はあんまり入らないようにします。ややこしいから」

 早苗はくすくす笑いながら、台所の隅に掛けてあるエプロンを取った。陰口は、気持ちの良い語り口で、嫌に聞こえなかった。

「面倒じゃないの?」
「いいえ、神奈子様や諏訪子様があれこれ口を出すのは、私や、神奈子様、諏訪子様……誰かを思ってのことですから。より美味しく食べようって……私に辛く当たる為にやってるんじゃないですから。それに、あれこれ騒ぎながらするのも、楽しいですよ」
「ふうん……」

 経験のないことだ。私はそうとしか言えなかった。神奈子様は濃いめの味付けが好きで、諏訪子様はできるだけ生々しい味が好きで。好物の時なんかは、別々に作ることもざらで……早苗は喋りながら、手を休めることもなかった。視線は手元の包丁と、野菜炒めの材料に注がれていた。包丁に左手を添えてざぐ、ざぐとキャベツを押し切り、とんとんと音を立ててにんじんを短冊切りにするその手元と、横顔と、俯いてさらされた白いうなじが、私からは見えた。豚肉、取って貰えます、と早苗に言われて、初めて、私は何もしてなかったことを思い出した。サボっていたと思われたかな、と思いながら早苗に手渡した。

「あんまり日を置いても悪くなっちゃいそうだし。全部入れちゃいましょうか」

 笹の包みをほどき、豚肉を鍋に放り込みながら早苗は言った。霊夢さんも若いし、いくらでも入りますよね。油と火で、鍋の中から快い音が鳴り始める。早苗が何気ないことを喋りながら手際よく、料理を仕上げてゆくのを、結局のところ、私はぼうっと見ていた。


 夕食のあと、たらいから西瓜を引き上げて、食べた。水に浮かぶ氷が溶けて、小さくなっていた。水に濡れていて、よく冷えた西瓜を引き上げて、十六分ほどに切り分けた。多いくらいだったけど、少ないことならともかく、多いことに文句は言わない。守矢の分社に声をかけて、神奈子と諏訪子にお裾分けをしてから、早苗と二人して縁側に並んで、西瓜を食べた。
 西瓜なんて、食べても腹にたまらないから、滅多に食べることはなくて、久しぶりだった。数年前、縁日で無料だった時に食べた覚えがあった。水っぽくて大して美味しいものではないと思ってたけど、久々に食べると妙に甘くて美味しい気がした。

「いい西瓜ですね、よく熟れてる」

 西瓜を食べながら、早苗はそう言った。半月の形をした西瓜をかじり、種に気付いては小皿を取って唇からこぼし、をゆっくりと繰り返した。唾液に混じって、なめらかに濡れた種が皿の上に溜まった。早苗のそんな仕草をぼうっと眺めながら、私も似たような動作を繰り返した。やがて西瓜がなくなると、早苗が用意していた手ぬぐいを私に手渡した。

「西瓜は夏っぽくて好きなんですけど、この、べたつくのだけ、あんまり好きじゃないんですよね」
「そんなもんじゃない。西瓜なんて。ん、おいし」

 冷たくて、水っぽいのが心地よい。地面に染み込んだ太陽の熱は、足下にまだ残っていたけれど、空気は少しずつ冷えてきた。夜くらい涼しくなくちゃ困る。昼間は気付けなかった涼風が吹き抜けて、さあ、ああ、ああ……と遠くまで、木々を揺らしていくのが分かった。空には下弦の月があって、風の速度で雲が流れていた。
 いい加減食べ飽きた頃にも、西瓜はまだ三切れほど残っていた。さすがに一玉は多かったかも、と思った。早苗も似たようなことを考えていると思う。片付けたい、けれど、ちょっとしんどい、相手が食べてくれるかな、という微妙な思考のやりとり……私は意地汚く西瓜の汁で甘くなった指先を舐めて、立ち上がった。台所に入り、二つの湯飲みと、日本酒の瓶、オレンジ色したカクテルの瓶、を取って、縁側に戻った。特に理由はないけれど、今日は晩酌をしたい気分だった。気分、そう、気分。私には理由はなくて、いつも気分だけがある。そういう所は幻想郷的だ。妖怪的と言い換えてもいい。その理由の部分を、巫女という立場、役目が、ぎりぎりのところで、私を人間の側に置いている気がする。今、なんとなく思っただけだ。理由はない。
 湯飲みを私に一つ、早苗の方に一つ押しやる。酒を手酌して傾けるのを、早苗がぼうっと見ていた。酒精が喉を焼いて、私の身体の奥に落ちる。特別、頭で考える訳ではない幸福感。

「私も、もらっていいですか」
「別に聞かなくったって、欲しかったら飲んだらいいのよ。はい」

 早苗が差し出す湯飲みに、透明な液体を注ぐ。両手で持った湯飲みを口元に運んで、一口飲み込んでから、だって、と早苗は言った。

「勝手にやるのって、悪いじゃないですか」
「ここは勝手にやるやつばっかりよ」

 そう言うと、早苗は理不尽な、けれど、反論できないものを感じたようで、黙り込んだ。そういうものだ、という無言のルールには、抗うことは難しい。自分の幸福を確保する為に、自分のしたいようにする。そういう世界とは別のところで、早苗は生きてきたのだろうと感じる。湯飲みを傾ける。好きにすればいい、と思う。早苗は早苗なりに、ここと外の考えを合わせて、それらしい、中庸な部分を見つけていけばいい。早苗はどちらにも成りきれないで、悩んでいるように見えた。早苗も、湯飲みを傾けて、日本酒を減らした。

「おつまみ、欲しいですね」
「うちにはないわね。今のところは。買いに行く?」

 正直なところ面倒だけど、そう提案してみる。早苗もうーん、と嫌そうな声を出してから、分社をこんこん叩いて「神奈子様? 神奈子様ー?」と呼びかけはじめた。おつまみをよこせと交渉を始める早苗を横目にして、私は放っておくことにした。西瓜を小さくちぎって口の中に運んだ。甘いものを酒のあてにして悪い法もない。西瓜をちびちび、日本酒をちびちびやりながら、夜の風を感じていた。早苗の交渉は長引いてたみたいだったけど、そのうち、醤油漬けの干しきのこを持って帰ってきた。

「勝った」

ちょっと意地悪そうに笑うのが、どうしてか魅力的に見えた。


 飲み過ぎた。
 というより、飲み過ぎている。気付きながら、杯を重ねた。早苗の話が魅力的だったからもある。話の中身というよりは、早苗の方でも喋っているという気分の高揚が、そうさせたようだった。

「だからね霊夢さん、巫女はもっと、自分の身の振り方を考えていかなければならないと思うんです。ここの方々は勘違いしているかもしれませんが、巫女は本来はこんな風にしてるべきじゃないと思うんですね。私もそうだし、失礼だけど霊夢さんもそうです。そもそも巫女は神と人を結ぶものです。ここで言う神は明確な名前のある神ではなくて、あらゆるモノに宿る八百万の神、あるいは妖怪や鬼などの神と同一視された部分のあるもの、更には力そのもの、つまり巫女は人ならざる力を持つものです。私達はこの力を効率的に使わなくちゃいけない。分かりますか」

 百倍くらい冗長に、噛みながら、呂律が崩壊して、長い時間をかけて喋ったことをまとめるとこういうことになる。どういう理由かは分からないけれど早苗は私を啓蒙しようとしているみたいだった。
 私からすれば、早苗は自分の立ち位置を考えすぎる、と思う。人や妖怪、神達にどう見られるか、どういう風に力を示して見せるか、なんて考える必要のないことだ。力を持った巫女でありさえしていればいい、と思う。だけど、それを、こんな風に考えてみたところで、そのまま言葉にしても、伝わらない気がした。だからうん、うん、と受け答えながら、早苗の湯飲みに酒を注いで、自分でも注いで、最早何を喋ってるのか分からなくなっても、そうしていた。そのうちに西瓜も酒もキノコもどっか行って、あとには早苗が転がっていた。私は放り出すのも悪いなと思って早苗を早苗の部屋の布団に引き摺っていって、放り投げ、部屋に戻ろうとして、面倒になり、そのまま早苗のところに転がり込んだ。迷惑だとかは一瞬考えたけどもう一回やったことだし構わないだろう。布団の柔らかさと、身体に当たる、早苗の肢体のどこかを感じながら、横たわって重力を感じていると、すぐに意識は沈んでいった。


 朝になって目を覚ますと、早苗はまだ布団に横になっていた。珍しい、早苗より先に起きた。身体を起こすと、ずきり、と頭が痛んだ。飲み過ぎたかな、と思う。ううん。
 半身を起こして、早苗を見下ろすと、まるで幼子が午睡でもするみたいに、口を小さく開いて、眠っていた。早苗がこんな可愛らしい眠り方をする娘だとは知らなかった。いつも早苗の方が先に起きてるのだから当然と言えば当然だった。
 立ち上がって、台所まで歩いているうちに、頭の痛みがはっきりとしてきて、そのぶん気分が落ち着いてきた。湯飲みに水を入れて飲むと、少し和らいだ。もう一杯飲んで、もう一杯注いで、部屋に戻った。布団の上にぺたんと座り込んで、水をちょっとずつ飲みながら、しばらく早苗を見下ろしていた。時折、手持ち無沙汰に、早苗の髪の毛の先を触った。私の、くせのあって固い髪よりも、手入れがしてあってつやつやと、真っ直ぐな感じだ。早苗に比べると、自分の髪は、手入れがしてなくて枝毛が多いように感じる。早苗は都会っ子で私は野生児だ。早苗は髪の手入れの方法も沢山知ってるのかな。でも、それは都会云々は関係なくて、私が知ろうとしなかっただけだ。今こうやって触っていれば羨ましくも感じるけど、どうせお風呂に入る時は、面倒になって手入れなんてしないのは分かっている。
 そうしているうちに、うう、と呻き声をあげて、早苗が目を覚ました。薄目を開けて、私が見下ろしているのに気付くと、お早うございます、と言った。

「はい、おはよう」
「……頭が痛いですね」

 早苗は頭を持ち上げようとして、顔をしかめ、頭痛を感じながら起き上がった。水の入った湯飲みを渡す。早苗が私を見返す。

「水飲んで、ちょっと寝てなさい」
「……はい。優しいですね、霊夢さん。まるで霊夢さんじゃないみたい」
「どういう意味」

 大人しく早苗が水を飲み干すと、私は早苗の肩を軽く押して、寝転ぶように促した。早苗は大人しく寝転がった。昨日あれだけ飲んだ割には、早苗は平気そうだった。水のおかわりを持ってきて、早苗が飲みたそうな時に飲ませてやった。水もいらなさそうになった時、私も気怠くなって、横になった。早苗が横にずれて、私に場所を譲った。しばらく、二人して、寝転がっていた。柔らかい布団の上に、全身の力を抜いて横たわっているのが、これ以上ないほど気持ちよかった。

「朝のお勤め、さぼっちゃいました。朝ご飯も」
「気にしなくていいわ。私なんていつもよ」

 霊夢さんは、と早苗がくすくす笑う。「もうちょっとしっかりしてください」うるさいわね、と私は答える。

「なんとなく……私はいいこじゃなきゃいけないって思い込みが……」
「どうして?」
「どうしてですかね……家の人は、ずっと神社に仕えてきて、それが立派に見えたからかな……別に、父親だって望んでた訳でもなかったのに……」

 ふうん、と思った。家族がいて、家族を見て育つこと……私にはさっぱり分からない。でも、それはそれで、楽なことがあっても、やっぱり辛いんだろうな、と思う。実感として理解することはできないけど……
 私は身体を持ち上げた。だいぶしばらく、横になっていたから、頭痛もかなり収まってきた。早苗も身体を持ち上げた。座ったまま、私と早苗は互いを見つめた。ごく近い距離だった。

「霊夢さんは……私を特別に見ないから、気が楽です」
「……特別なんて。特別な奴なんて、どこにもいないわよ。早苗が考えすぎなの」
「それでも……」

 早苗の唇が妙に近くに見えた。
 口づけをするのかもしれない、と私は思った。唇が近いせいもあったけど、早苗の表情とかで、何となく、そう思った。
 早苗とキスをするのかもしれない。そんなこと、今の今まで、考えもしなかったけれど、それも良いかもしれない……早苗が喜ぶ。私も、してみないと分からないけれど、気持ちいいかもしれない……そんなことを思ってたのは、二日酔いのせいで、頭がぼうっとしているからだ。でも、心地よくて、頭がぼうっとしている……これは二日酔いの感じじゃない。……そこにいるだけで、心地よくてたまらない。
 黒曜石の色した、早苗の瞳が、やたらきらきら光って見えた。早苗、と名前を呼びそうになった。早苗の目が、他のことなど何もかも放り捨てて、私を見つめている。




 博麗様。
 博麗の巫女さま。私です。昨日もここへ来た、哀れな乞食です。博麗の巫女様。おられるのでしょう、どうか、放っておかないで下さい。

 巫女様、と続けて声が響いた。あの物乞い、と、思わず私はかっとなった。昨日追い返してやったのに。二日も続けて。
 博麗の巫女さま、と物乞いは続けた。こんな朝から大声を出して、恥知らずなことを、とますます苛立ちは高まった。目の前では早苗がきょとんとして、物事が理解できない顔で、私を見ている。

 博麗の巫女様。私は自分のしていることが、良くないことだと分かっています。けれど、分かってしているのです。私は永いこと一人で生きてきました。永いこと、私は辛いことも苦しいことも、一人で抱え込んできました。
 幻想郷で生まれてすぐに、両親は妖怪に喰い殺されました。どうにか逃げて生き延びた私は、妖怪を憎んで、殺意を抱きました。その報いとして私は足の腱をやられて足萎えになりました。ええ。ええ。分かっております。これは自分の行いの報いです。妖怪であっても殺そうとしたのは良くない行いです。
 私は若くして足萎えになり、それからは辛い生活を送りました。耕すもままならず、足を引きずるような動きではどこかで雇ってもらうこともままならず、私は窮乏しました。時には残飯を漁ることもありました。そんな風にしているのを見つかれば、野良犬のように怒鳴られ、蹴り出され、私は人でないような扱いを受けました。野山に入って野草を食べたこともあります。しかし野山には妖怪がいて、私のようなものは格好の獲物で、襲われる心構えで、足を引きずり引きずり、何とか生き延びてきたのです。妖怪に襲われるたび、私は身体を傷つけられました。
 私は、どうして、こんな目に合わなければならんのでしょう。非道い、非道い、あんまりに非道い――だけど、分かっています、これは全て、私の行いの報いなのです。
 そんな私にも、ささやかな救いもありました。私と同じように、みなしごになった子供を一人拾いました……数ヶ月前のことです、その子は捨てられ子でした……この幻想郷の人々は、なんとも無関心なことで、それも身寄りのない、起き上がる力もない子供を、放っておいたらどうなるかという、想像力もないのです……私はその子を助けてやりました。いえ、助けてやった、なんて見下すような関係ではありません。互いに生きてゆくことにしたのです。確かに最初は食事を分けたかもしれません。ですが、時にはその子が口にできるものを調達して来ることもあり、時には私が寝床を見つけることもあり、まさに互いに助け合って生き延びてきたのです。ですが、もう限界です。
 どうにか、今日までの年月を、生き延びてきました。けれども、もう、おしまいかもしれません。どうにか、お助けいただく訳には、お慈悲をいただく訳には、いきませんでしょうか。いま、この一人の乞食が、死に行こうとしているのです。それと、小さな子供もです。私達は褒められたことをしている訳ではなく、世間に迷惑ばかりかけて生きてきました、けれど、こんなに非道い、道端でのたれ死んでゆくなんて……どうか、巫女様、お助け下さい。
 どうか。どうか。巫女様……




 長いこと、物乞いは喋っていた。早くどこかに行けばいいのに、構っても良いことはないんだから。私はそう思って俯いていた。正面に座っている早苗は、私と物乞いの両方を気にしていた。
 早苗が立ち上がろうとする気配を、感じて、手を伸ばす。早苗の腕を掴んで、私は早苗を止めた。

「何をするんですか」
「……止めときなさい」

 私がそう言うと、早苗は私をきっと睨んだ。早苗は正直で真っ直ぐだ。山の神社にもこういう手合いは来るだろうか? 多分、来ないだろう。こういう手合いは面倒を極端に嫌がる。山の神社にまで毎度毎度たかりに行く元気があれば、何かしら仕事を始めるだろう。

「どうしてですか。いくら霊夢さんの神社でも、私は放っておけません。神社を乗っ取るとかそういうのではないですよ。霊夢さんが嫌でも、私が何とかします」

 私は首を振った。ああ、早苗、早苗。どう説明すればいいだろう? 早苗は何も知らないのだ。

「……放っておきなさい。私、何度も相手をしたことがあるし、どういう奴か、大体知ってるのよ。あいつの言うことは嘘よ。確かに両親はいないけど、足が萎えているのだって妖怪に襲われたせいじゃないし、転んで折った骨を放っておいたから、走れなくなったのよ。子供だって、どこまで善意で助けたか……子供を連れて、里の家を回って物乞いをしてたのよ。子供がいたら断りにくいでしょう。それで、里の方から文句も何度か言われたわ」
「だから、何だって言うんですか。それで、放っておくんですか」
「あんたは何も知らないのよ。あいつには自分で何とかしようって気は全く無い。断言してもいいわ。金もやったし、飯もやった。良くないと思って、里の方に……里でも迷惑をかけてたからなかなか受け入れてはもらえなかったけど……なんとか話して、働き口を見つけてやったのよ。皆が嫌がるような仕事だったけど、それでも、自分でなんとかできるようにはしてやった。それで、三日もしないうちにまた元に戻ったのよ。諭してやっても、ぽかん、としていたり、はい、はい、と口先が良いだけよ」
「面倒が見きれない、から放っておくんですか。その結果死んだりしても、いいんですか」
「じゃあ言うけどね、そうやって自分の面倒も見れない奴を、皆が皆世話してやるの。早苗はそれが神社の役目だって聞いたの。向こうでもこっちでも、巫女として物乞いの世話をしてきたの? 私は違うと思う。里でも、物乞いに近いような奴はいるし、妖怪に襲われて腕のない奴も足のない奴もいるわ。それでも、働くなり、畑を作るなりして生きてるのよ。一人助けたら次々やってくるわよ。皆助けるの?」
「何にしても話を聞かないと始まらないでしょう」
「昨日聞いてやったわよ。昨日も来たの。それで、続けて来ても私は何もしてやれないわ」
「霊夢さんがしないんなら、私がします」
「最後まで言わないと分からないの? 迷惑だ、って言ってるのよ。早苗、あんたがここであの物乞いを助けたら、また次の物乞いがここに来るでしょ。あんたが山にいる時に、自分の所に来た物乞いを助けるんならいいわよ。ここで人助けをしたって、迷惑なだけよ。それに、想像になるけどね。どうせ、次から困ったら山に来るように、って言っても、たぶん来ないわよ。あんな山奥まで登るくらいなら、道端でむしろを引いて座って、小銭が落ちてくるのを待ってるわよ、ああいう手合いは」

 巫女様、と物乞いはまだ声を上げていた。ああ、苛々する。情けない声を出して。醜く、哀れだった。ああいうことをするのはまだしも、嘘をついてまで、自分を哀れっぽく見せかけているのが、余計に苛立つのだった。
 早苗の言うことも正しいのかもしれない。私は私の主観でものを見過ぎている。何度でも、来るなら来ただけ、おっぱらってやればいい。それだけの話だ。
 早苗と私は、黙り込んで、目だけが互いの苛立ちを伝達している。

「……助けてあげればいいじゃないですか! 何が駄目だって言うんです。何ができないって言うんです。皆、皆、助けてあげればいいじゃないですか。助けを求めて来てるんだから、出来る限りのことをしてあげればいいんです。霊夢さんは毎日だらだらとしているだけじゃないですか。どうしてできることをしようとしないんですか!」
「だから、したければ、あんたのところですればいいって言ってるんでしょ! それに、一度だけじゃなくて何度も助けたような奴を、どうして何度も助けなきゃいけないの。もう助けたわ。充分よ! 私が、他の誰かが、ずっと面倒を見なきゃいけないような奴なら、どうしたって仕方ないじゃない! 私が自分の身を削ってでも助けなきゃいけないの!?」
「できる限りのことをすればいいって言ってるんです、私は!」
「ああもう、いいわよ。好きにすればいいじゃない。話を聞いてやって、山の神社でも何でも助けてやればいいでしょ。でも、もううちには来させないで」

 私が打ち捨てるようにそう言うと、早苗は私の腕を振り払って、私を睨み、背を向けた。好きにすればいい。

 早苗が出て行ってから、私は少し考えた。幻想郷にも貧富の差があり、その上で生き意地の汚いのと潔いのがいること……私と、早苗のやり方について。不思議と早苗に苛立ちは感じなかった。ただ、ああいう、生き意地の汚い物乞いのようなやつがいることに苛立った。
 だけど、その苛立ちも、すぐに消えていって、早苗がいないことも、まるで元々なかったみたいに、私はいつも通りに戻った。元々、何か一つの事柄でうじうじ悩み込んだり考えたりすることは少ない。
 早苗が私のやり方に憤るのは仕方ない、と思った。だから、早苗が戻ってくるかどうかは、早苗の問題だ。
 私は冷たいのかもしれない。私は、私が自分をそんな風に顧みたことが新鮮だった。以前なら考えもしなかった。せいせいした、くらいにしか思わなかっただろう。今、私は、早苗がいなくなることを、惜しいと思っている。寂しい、とまでは思わない。もう少し、一緒にいられれば、何かが分かるかもしれない、という気持ちだ。早苗のように言えば、友達、かもしれない。友達。もう少しで、私は早苗と友達になれたのかもしれない。寂しい、とは微妙に違う。得られていないものを、惜しいと思う気持ちはない……けれど、この友情未満のものが、永遠に失われてしまったかと思うと、少し妙な気持ちになる。私は元々一人だけど、一人でなくなるのは、どんな気持ちだろう、と思った。
 早苗は出て行ったっきり、戻って来なかった。次の日も、また次の日も。もう戻って来ないかもしれない。だけど、それで元々だから、少し寂しく感じたほかは、私は気にしなかった。




 早苗が戻ってきたのは三日後のことだった。その時私はちょうど朝食を食べ終わって、もう少ししたら境内の掃除でもしよう、と思っていたところだった。庭先には朝だというのに嫌と言うほど照りつける太陽の光と、神社の裏で喚いている蝉の声に満ちていた。その中に、自信の感じられない足取りで、早苗がゆっくりと踏み入ってきた。
 あのひと、来てますか、と、ぽつり、こぼすように、早苗は言った。感情のこもっていない声。夏の日射しが屋根から庭先に伸びる影にかかっている。縁側に座る私を、早苗が見下ろしている。

「話を聞いてあげたんです。霊夢さんの言うように、不明瞭と言うか、子供はどうしたのか、と聞いても、あやふやな答えしか帰ってこないし、変だなとは思ったけど……でも、とりあえず話を聞いてあげて、また後日に、山の方に来るように、って言ったんです。来ませんでした。霊夢さんの言う通り」

 言ったでしょう、と私は思いながら、言うことはしなかった。早苗は傷付いているように見えた。これ以上痛めつけてやることもない。

「座りなさいよ」

 私がそう言うと、早苗は放心したまま、ゆっくりと縁側に腰を下ろした。私は早苗を気遣っていた。どんな風に言葉をかけたら良いだろう、と考えて……私は、早苗にかけるべき言葉を持っていないのに気付いた。私は立ち上がって、台所に行き、りんごと果物包丁を持って戻った。早苗は別に何も言わなくてもいいし、気が楽になるなら、喋りたいことは喋ったらいいと思った。早苗は最終的には言いたいことを言って楽になるだろうとも。
 だから、私は、別に何も言わなくてもいい。私はりんごを切って皮を剥き、更に並べた。早苗が見ているのに気付くと、「食べなさいよ」と言った。それで、早苗はゆっくりと食べ始めた。包丁を置いて、早苗の頭を撫でてやった。そうするのは不自然だった。早苗の方が背が高いから、どことなくアンバランスな感じがする。早苗の感情は分かりにくかったけど、嫌そうではなかったから、しばらくそうしていた。りんごがなくなって、二つめを剥き始めると、早苗はぽつりぽつりと話し始めた。

「私、待ってたんですよ。その場で、お金をあげたって、助けたことにはならないでしょう。しばらく守矢の神社の方で、住み込みでもさせてあげながら、里の方にも働きかけてみようって思って……そう言って説得したから、すぐにでも来てくれるって思ったんです。でも、来ませんでした。三日待ったけど……また、霊夢さんのところに来てたら、あれだけ言っておいて、また迷惑をかけたと思って……」

 ぐっと、早苗は黙り込んだ。俯いて、顔が見えない。膝の上で握り締めた拳が震えているのに私は気付いた。頭をもう一度撫でようかなと思ったけど、早苗は怒るかもしれない。哀れみのように感じて。早苗は続けた。

「私……正直に言ったら、すごく、悔しいんです。裏切られた気持ちです。自分のところで待っている間、また霊夢さんのところに行ってたら、って思うと……よその、里の人のところでまた物乞いをしているかと思うと……私のところに来るより、そんな風にして、まるで人間とは思えないようなことをしてた方が、いいのかって……私……」

 私はりんごの皮を剥く作業を続けながら、「そういう奴よ」と言った。言ってから、言う口ぶりにも、馬鹿にしたような響きはなかったかな、と気に掛かった。

「悔しいけど……霊夢さんの言う通りで……でも、あの時霊夢さんが取った態度も、正しいとは思いません。どうにかしてあげられるはずなんです。きっと、私の説得が足りなかったんです」

 言うべきか、言わないべきか、悩んだ。早苗はたぶん、自分の正しさと、現実の合間で悩んでいる。私が言わなくても、そのうち現実を知るだろう。あの物乞いによってか、別のものかは分からないけど……でも、問題なのは、私が早苗に、それを言ってやるかどうかだ。私の問題だ。早苗は戻ってきた。私に何かを期待して、だと私は感じた。なら、返してやるべきなのだ。

「言っておくけれど。他人のことをどうこう、なんて考えない方がいいのよ。結局、自分でどうにかしようって、思わなければ、仕方ないんだから。あの物乞いに限ったことではないけど……」

 分かってます、と早苗は短く言った。言ったきり、黙り込んだ。言うべきでなかったのかもしれない、と私は瞬間的に思った、だけど、考えていることを、早苗の為を思ったことを、言わないことの方が不徳なはずだ……本当に? 私は焦燥を感じながら、早苗の沈黙に耐えていた。
 歯を噛み締めて、長い間、早苗は俯いていた。地面を睨み付けていた。……その目が、私を真っ直ぐに見た時、早苗の目に私はどう映っていただろう。早苗が何よりも苛立ちを感じたのは、私の、だらしなく何も考えていない、何を考えているのか分からないような、表情にだったのではないだろうか。実際のところ私は何があっても表情に何かが表れるような性質ではなかった。そういうところが、早苗を苛立たせたのではないだろうか。霊夢さんは、と早苗は言った。

「…………ッ……」

 吐き出しかけた言葉が、早苗の口の中で、掠れて切れ切れになって、消える。視線を逸らして、地面を睨み付ける。早苗が耐えているものを、我慢している何かを、私は想像することもできなかった。ただ、失われることだけを思った。私と早苗はどこか決定的なところで隔たりがある。

「帰りませんから」

 早苗は、じっと地面を睨み付けたまま、吐き捨てるようにそう言った。

「私、絶対に帰りませんから。絶対に……」

 早苗は、それ以上、何も言わなかった。




 その物乞いは、それからも里で数度見かけた。早苗はしぶとく説得していたようだったが、早苗は守矢神社の方に戻って、どうこうすることはなかった。つまり、功を奏さなかったということだ。物乞いの方でも、博麗神社には来なくなった。先のことは分からないから、また来ることもあるかもしれない。どのみち、あの物乞いが来なくなっても、また新しい物乞いは、私が大人になっても、また新しい巫女が神社を継いでも、神社や里に現れることだと思う。そういうものは、いなくなることはないのだ。幻想郷は楽園じゃない。早苗や私が一人や二人どうにかしたって、根絶やしにできるものではないのだ。早苗がそのことを飲み込むまでは、まだかかりそうだった。
 そうして、その日から、早苗は笑わなくなった。必要があるからするのだ、という時のほかは、私に声をかけることもなくなった。最早、早苗にとって、ここにいることで、何の得があるのかさえ、私には分からなくなった……だけど、早苗は帰ろうとはしなかった。
 私と早苗の間には、他の人と同じように分かり合えない溝があって、それが大きく広がってしまったような気がした。だけど、早苗はそれを認めようとはしない。私が早苗の行動が理解できないように、早苗も、早苗自身で、自分の行動の意味が分かっていないような気がした。
 理解できないものを、自分の中で消化できなくても、世の中は動いている。私も、早苗も……そういうものの間で、私も早苗も立ち尽くしている。








 四




 私と早苗の間は、あからさまに歪み始めた。態度が明らかに変わったのは早苗の方で、だけど、そうさせたのは私かもしれなかった。だから、この歪みは、互いの不和は、決まっていたことかもしれない。
 あの物乞いが悪いのか? それとも、物乞いを生んだ里が……幻想郷に繋がる外界が……きりがない。どこまでいっても、結局は、私と早苗の問題だ。物乞いでさえ、私と早苗の仲を裂く障害ではなかった。早苗と私の間に存在する因果の裂け目を、引っ張って露わにし、互いの違和を明確にしただけなのだ……問題は、元々、私と早苗の中にあったものだ。
 表向き、私と早苗の関係は、変わらないように見えた。必要最低限の言葉しか交わさず、肉体の接触は絶え、互いの姿を避けるようになった。早苗は私に姿を見せないようにするし、私の方でも、早苗に姿を見せれば、早苗が傷付くかも知れないと思うようになった。どうしようもないことなのかもしれない。私の考えがどうあれ、私の存在そのものが、早苗を傷つけるのなら、私に何ができるだろう?
 私と早苗の内側は変わってゆくのに、表向きの関係は……早苗が博麗神社で寝泊まりし、修行の一環にするということは……変わらなかった。だけど、外側と内側で不和を起こし、歪んでめくれ上がってゆくように、違和感が戻ることはない……どうすればよいのだろう? 私が歩み寄れば良いのか? 早苗にとっては、それこそ、最も早苗を傷付けるように思えた。

「あんたからも言ってやってよ」

 言葉は、まるで私の思考の外の外、想像も寄らない外界から降ってくるように届いた。神奈子が分社から半身を出して、私に呼びかけていた。
 分社のある庭先、まだらに落ちる陰った日射し、ぬるい空気……現実の方がゆっくりと肌に、視覚に戻ってくる。
 ゆらり、身体を傾けるように、神奈子に意識を向けた。

「何をよ」
「早苗にだよ。そろそろ、いい加減帰ってきなってさ」

 早苗に、一体何を言ってやれるというのだろう。早苗のことを思って神奈子は言っていて、それを早苗が聞かないというのなら、私が言って、早苗の為になるのかどうかだって、分からない。

「早苗にも何度か言ったんだけどね。こないだ少し戻ってきたっきり、帰ってくる気配もないし……帰ってきた時だって様子は変だったしさ。霊夢は何か聞いてないの? 友達でしょう」

 また友達か。今になっては虚しい言葉になってしまったように思う。私と早苗の間にあるのは、形骸化した関係性だけで、最早友達という言葉の持つ神秘性のようなものは、失われてしまっている。
 早苗に、帰れ、と言うべきだと思った。だけど、言いたくない。言ってしまえば、早苗がこのまま帰ってしまえば、例え以前のように笑って、声をかけても、それ以上ではなくなる。以前よりも、もっと冷たい間柄になってしまうかもしれない。私も早苗も、時が経てば、過去のことだ、と考えることができるだろう。だけど、この関係が終わってしまえば、二度とそれ以上にはなれない……そんな気がする。幼さゆえの偏狭だろうか? 私には判断がつかない。

「……友達」
「そうだよ。あんたは早苗の友達なんだ。ちょっとは心配してあげてもいいだろう」
「友達、だったのかな。友達って何なの? 神奈子は知っているの、友達って、何か……」
「冷たい奴だねぇ」
「そうよ、私、冷たいの。どうして早苗が私と遊びたいとか思うのか、分からないわ」
「早苗はお前のこと好きなんだよ」
「不思議だわ。神奈子や諏訪子だっているし、早苗は友達が多そうだし。私なんて、選ぶ必要もなさそうなのに」
「そういうのじゃないんだよ。他の誰かじゃない、あんたと一緒にいたいっていう……私は早苗じゃないからさ、私だってどうしてこんな奴、って思うけどさ。別に早苗が好きなんだから、早苗が好きにしたらいいだろうと思うけどさ」

 神奈子は頭をがりがり掻いて、どんな風に言えばいいのかな、って感じで考え考え、しながら、喋っていた。私はどうでもよくて、聞き流していた。
 私はいつだって、人やら妖怪やらが寄ってくる。私は好かれる素質なんて大してない。誰も彼もが、何かを求めている……だけど、求めて、与えられないと傷付くから、帰ってこなさそうなところに、行くのだと思う。私に、誰も期待なんてしない。とりあえずの暇潰しとしては最適だ。早苗は違う。私に、何かを求めている。何か、決定的なものを求めている。
 私に一体何がしてやれる?


「まあ、とにかく、言っておいてやってくれよ。何をってそりゃ、うまいこと言って、帰ってこいとか、つまりそういうことだよ。私だって言うけどさ」

 神奈子は最終的に、そういう感じのことをごにょごにょ言って帰っていった。肩の荷が重い。私がそれを言うことさえ、早苗をどんな風に追い詰めるのだろう。神奈子がどっかに行ってしまった後、いつもなら落ち着くはずの庭先も、なんとなく、重苦しい雰囲気に感じられた。私は立ち上がった。お茶とお菓子を持ち上げて、台所に運んで、それからまたどっかで時間を潰そうと思った。台所は、何もかもが綺麗で、洗い物はたまっていないし、くず入れは一日分のものしか残っていないし、流しも綺麗に磨いてあるしで、早苗が来る前とは何もかもが違ってしまったみたいだった。なんとなく、洗い物を溜めていてはいけない気分になる。湯飲みを洗って、かごに逆さにして置いて、代わりの湯飲みにお茶を入れる。早苗が来てから、何もかも変わってしまった。生活も変わってしまったなら、私も早苗に変えられてしまったような気もしている。だけど、所詮は一過性のことで、早苗が帰ったら、掃除も洗濯も、料理も元のように適当になるし、早苗がいなければいないで、別に気にしないと思う。早苗はどうしてここにいようと思うんだろう? 私のような、つまらない奴のいるところに。
 帰ってほしい、という訳ではないけれど、帰ればいいのに、と思う。別に、私と四六時中一緒にいなくたって、死ぬ訳でもないだろうし。
 私は思い立って、湯飲みをもう一つ取ってきて、お茶を入れた。何となしに持って、早苗のところへ行く。そう、お茶のついでに、軽く世間話をしに、私は行くのだ。特別早苗に何かを言う訳でもなく……いつ帰るの、とかそんな感じで。そう、そんな感じで、と自分に言い聞かせて、早苗の部屋に使っている、六畳間の襖の前に立った。大事なのは、私がそれを重要に捉えている訳じゃない、と思わせることだ。何もそんなに大切なことでもないのだ。早苗、入るわよ、と言ったけれど答えがない。もう一度呼びかけて、返事がないので、早苗、と小さく呼んで、襖を開けてみた。
 早苗の部屋はどことなく、早苗らしい感じになってきていた。特別、何かがある、という訳ではないのだけど、布団のたたみ方とか、机に乗っている小物や雑誌や……早苗の部屋の中で、早苗は眠っていた。柱にもたれかかって、不意にうたた寝をしてしまったという感じだった。少し、だらしない様子で、珍しく、部屋と比べてアンバランスで、でも、普段見ない早苗らしくて可愛らしく思えた。私は少しほっとした気持ちになって、せっかくお茶を入れてきたけど、どうしようかな、と思い、とりあえず置いておくことにして部屋に入った。
 何となく起こしてはいけない気持ちになって、そうっと机に湯飲みを置いた。冷めるかもしれないけれど。まあ、いいだろう。私はそれで、早苗の部屋を退散することにした。
 早苗が薄目を開けて、私を見た。あっと私は思ったけど、驚いたら泥棒みたいで、悪いことをしたみたいだから、あくまで自然に振る舞った。早苗は目を開けて、一瞬あとに驚いた顔をしてから、顔を擦って、私を見た。

「お茶入れたから。早苗にもどうかなって思って」

 早苗は私を、じっと睨み付けていた。一体何の目的で、と言わんばかりの……迷惑だったかな、と思った。寝てたのに勝手に入ったのが良くなかったかな。まあいいや。迷惑ならさっさと出て行こう。

「黙って入って、悪かったわね。お茶だけ置いていくつもりだったのよ。何もしてないんだから。本当にそれだけ。じゃあね」
「……はい」

 早苗はそう言って、続けて、ありがとうございます、と冷たい口調で言った。じゃあね、と私は言って、早苗の部屋を出た。


 夕食の時も、お風呂が空いたと言いに言った時も、廊下で擦れ違った時も、何かを言い出せる雰囲気じゃなかった。早苗は私に何も言うな、と言わんばかりに尖っていて、まるで、私は知らないけど、思春期の娘を抱えているみたいだった。いや、その通りなのか。早苗は思春期の娘そのままの反応な気がした。これが思春期か。私はまるで何も知らないから、素直な感動を受けながら、このままじゃいけないな、とも思った。
 早苗の姿を、どことなく探して、神社の中を歩いた。早苗は庭先に立っていた。手ぬぐいを首にかけて、寝間着だけの姿で、夜気に身体を当てていた。湯冷ましにしていたのだろうと思うと、頬にひやりとした、心地よい空気が当たった。早苗は瞳を閉じていて、夜気の内側にある何かを見通そうとしているみたいに見えた。まだ、私に気付いていない。声をかけようとして、躊躇った。私は言葉をかけることを諦めて、縁側に座り込んだ。
 私は、しばらく、早苗の姿をぼうっと見つめていた。何が、どう変わるという訳でもないけれど、私は早苗を理解してみようとした。だけど、その試みは、これまで試して失敗したように、今回もうまくいかなかった。やっぱり早苗のことはよく分からなかった。むしろ、私が、誰かのことを理解できた試しがないのだから、それは当然のことだとも言えた。そういう、無意味な思考と夜の空気に身を浸しているうちに、早苗が私に気付いた。
 早苗は何も言わず、私を一瞥して、縁側に座ると、手ぬぐいで足を拭いた。私は久しぶりに早苗を近くで見た気がした。仕草が気になった訳ではないけれど、無意識に早苗をじっと見つめてしまってから、私はこういうのが早苗を傷付けているのではないかな、と思った。早苗は、足を拭いてしまうと、そのまま廊下の奥へ消えていった。私は上半身を廊下に投げ出してみた。声を上げるほど悔しいわけでもなく、何事もなかったように立ち去るほどどうでもいい訳でもなく、ただごろりと転がってみたかっただけでもあり、私は私自身、何を考えているのか、微妙に分からない。


 次の日も、私と早苗は不和そのものの姿で、雑談を受け入れる気配を一切漂わせなかった。私も、早苗に付き合うことで、この不和を形成している。一人で修行をし、雑務をし……神社のことなんて、元々大抵何もしていないから、働いているのは早苗ばかりのように見える。早苗が一人働いているのが目立って、どうにも悪い気がして、手を出す。そうしても、早苗は断らない。
 例えば洗濯物を取り込む時、早苗が籠に集めて、縁側に座っている私のところへ持ってくる。そうすると、私は洗濯物を折り畳んで、別の籠にしまう。早苗が座敷の掃き掃除をした後、私は後からついていって、畳を固く絞った雑巾で拭く。ふと気がつくと、早苗が持ってきたらしい、私の持ってきた覚えのない水の入ったバケツが置いてあったりする。そうして、無言の共同作業をする。
 言葉の繋がりがないだけで、むしろ、言葉を交わしている時よりも、早苗の考えていることが分かるようになってきた。早苗のやり方に慣れてきた感じがする。黙って仕事をしていると、早苗が普段、いくら喋るかよく分かる。早苗はとにかく喋る。(魔理沙と同じように)話し好きなのもあるのだろうけど、早苗は空白を埋めるみたいに、話していないと、相手をもてなしていないことになるのか、無言の空気を嫌がるところがある。好きなのは外とこっちに来てからの違いの話で、あとは自分のこと、私のこと、神社のこと、巫女のこと、里のこと、守矢の、二柱の神様のこと……大抵は、興味の引かない、どうでもいいことを、話すことそのものを楽しむ為のように。
 私は、別にどうでもいい話だし、退屈よりは好きだと言っても、あまり自分から話すこともないから、早苗の話を聞き流すことになる。こうしてみると、こういう空気の方が、早苗が何かに怒っていることは明らかだからそれは別として、割合私に合っているのが分かる。私は沈黙が苦にならない。沈黙を押しつけるというのも変な話だけど、私のやり方を押しつけるようにしてみるのも、良いかも知れない。早苗は多分、悩んでいることの一つに、私のことを理解できないでいるような気がする。私だって早苗のことも理解していない。けれど、それで別に困ったり悩むことはない。早苗は違うようで、そういうところも理解できない。でも、別にそれはそれでいいじゃないというような気分がある。早苗にとってはこういうところも理解できないのだと思う。

 夕方になって、私は部屋の襖を開け放って、風を通しながら、横になっていた。特別することもなく、夕食の用意をするにも早い、けだるい時間だ。早苗も動いている気配がない。自分の部屋かどこかで、休んでいるだろう。
 日の長い、夏の日射しが、昼間よりも本当に少し和らいで、屋根に当たって、影になって長く伸びていた。惚けたように繰り返すつくつくほうしの声が響くのは、物悲しい感じがした。私はずるずる身体を持ち上げて、縁側に座り込んだ。足を投げ出して、柱にもたれた。太陽は見えず、太陽の色で白と橙の混じった色をした雲が見えた。つくつくほうしの声に混じって、神社の石段の下から、氷屋の声が聞こえてきた。
 夏になると、里に氷屋が出る。古いかき氷の機械を小さな屋台に積んで、歩いて売り回る。気のいい年嵩のおじいさんがこおり、こおり、と言って回るのはこの季節の風物詩だ。氷か、と考えてから、早苗は欲しいかな、と思った。立ち上がって、ひとまず財布を持ってきて、氷屋を追い掛けた。ゆっくりゆっくり歩いている氷屋さんにはすぐに追いついて、呼び止める。

「おじさん、いちご二つお願い」
「あいよう」

 早苗がいらなかったら私が二つ食べたらいいし、と思った。おじさんが機械を操って、しゃりしゃり削っているのを見ているうちに、赤い蜜をかけて、氷いちごが二つ、すぐに出来あがった。お代を払って、氷屋さんと別れる。氷を二つ手に持って、石段を上がると、私の心は珍しくうきうきした。他人に何かしらしてやるのは、割と嫌いじゃない。だけど、嬉しい気分のまま誰彼なしに善意を振りまくとしまいには疲れてしまうし、きりがないから、本当に時々しかしない。単純に面倒が嫌いなのももちろんあった。
 早苗を探すと、早苗は部屋にいた。

「入るわよ」
「……はい」

 声をかけると、少しの間があってから、返事があった。両手が使えないから足で襖を押し開けて、早苗のところへかき氷を持っていった。目の前に差し出された氷を見て、早苗はそれを受け取った。

「氷屋さん来たから。早苗もいるでしょ」
「あ……ありがとうございます。暑いですもんね」

 私は早苗の前に座って、氷の中に突っ込まれた、よく冷えたスプーンを手に取って、氷を口に運ぶと、口の中が冷気でいっぱいになった。おなかに溜まるものでもないけど、かき氷はひたすらに冷たくて、甘い。この感じがいい。食べながら、早苗を見ると、早苗は相変わらず不機嫌そうな、無表情に近い顔だったけど、少し気まずそうに見えた。良い方向じゃないかもしれないけど、ちょっと気分が変わったのかもしれない。
 食べ終わってガラスの容器を置くと、早苗はまだ食べていた。

「いちご、あんまり好きじゃなかった?」
「……いえ、そういうことじゃないです。美味しいです」

 そうは言ったけど、早苗はスプーンをくわえて、ちょっと黙り込んだ。それから、スプーンを離して、言った。

「……近頃、霊夢さんが優しいから。何だか、優しくされたい為に、私がわざと冷たくしているのだと思われたら、嫌だなと思って……」
「はあ? どうして私がそんなこと思うのよ」
「ですよね、ごめんなさい、気にしないで下さい」

 会話が一段落して、私は足を伸ばして座り直し、何となく天井を眺めた。別に見たかった訳じゃないけど、他にすることもなかった。かき氷を食べている早苗に視線を戻すと、早苗が私を見ていた。私が早苗を見るのに合わせて、早苗は、すぐに俯いて、かき氷をゆっくりと食べた。
 早苗が食べ終わっても、私は、居座ってみた。嫌がるかな。そう思った。でも、嫌がっても、いつまでも、互いにだんまりを決め込んでいる訳にもいかない。嫌がられてるなら、と思って、私は言葉を吐き出した。いつか言わなきゃいけないことだった。

「……早苗、あんたさ。そろそろ、一度帰ってきなってさ。神奈子が」

 私が、そう言うと、早苗は明らかに表情を固くした。正座した足の上で、拳が固くなるのが分かった。

「……私も、神奈子様に言われてます。……そろそろ、霊夢さんにも言われる気がしてました。……迷惑をかけて、悪いとは、思っています」
「……別に、迷惑とは思ってないわよ。いたかったらいてもいいし」
「……じゃあ、どうして、帰れ、なんて言うんですか」
「神奈子が言ったから、伝えただけよ。霊夢からも言ってくれってさ」
「神奈子様は関係ありません」

 何をそこまで意地になる理由があるのか、私には分からなかった。早苗の気が済むようにしたらいいと思って、ひとまず、伝えるべきことは伝えたから、帰ろうと思った。

「……別に、いいけどね。伝えたから」
「待って下さい。……少しだけ」

 早苗は私を呼び止めたくせに、続く言葉を持っていなくて、黙り込んだ。私は我慢強くないから、五分も黙ったままでいられると、私の方が黙っていられなくなる。俯いたままの早苗に、諭すように声をかけた。

「別にね、早苗。いなくったって、誰も困りやしないのよ。早苗はいたいとこにいていいし、また来たくなったらくればいいじゃない。神奈子は別に、二度とここに来るなって言ってる訳じゃないし……」
「……霊夢さんは、一人でもいいんですか」

 早苗が私を見た。

「私がどう、という話ではありません。私ではなくても、誰もいなくても、いいんですか。ずっと、一人で生きていくんですか」
「別に、私は一人でだって、構わないのよ。これまでだって、ずっと一人だったんだから」

 そう言ってから、私は私の孤独を思った。私を生んだ親くらいはいるだろうけど、私はその顔を見たことも、声を聞いたこともなければ、存在を感じたことさえなかった。私が記憶の原初で覚えているのは、神社の中で一人、暗闇の中、目を覚ましたことだ。乳飲み子の私は誰もいない不安に泣いた……神社の中には誰もいなかった。起きて、生活をする時、眠りに落ちる時、側に誰かがいた記憶は私の中にはない。時折、神社の中に、姿のない何かの存在を感じることがあった。時に霧のように明確な形を持たず、時に動物のように床に座り込んでいたり、時に複数人で人間のように酒を酌み交わして騒ぎ……だけど、その何者かは、私のことを顧みることはなく、また、同じものが連続して現れることはなかった……たぶん、あれは、神様のようなものだった。私が力を得るにつれて、会話をし、関わることができるようになった。私は人ならざるものに、人よりも先に触れた。
 私は人間から隔離されて育った……私は、一人だった。誰かに愛されないというよりも、愛されるということ、他人の存在そのもの、から阻害されて育った。唯一、私の世話をしていた誰かの記憶だけが朧気にある。おそらく紫だったそれは、自身の存在を表そうとはせず、私がその存在を認識しはじめた頃、私が求めれば、遠ざかった。そのくせ私のできないこと、足りないことがあると、ひっそりと現れ、私の知覚できる感覚のぎりぎりの部分で、私に与えた。だから、私が寂しいと思う時、私が人との関わりを求めた時、紫の方は意地悪く遠ざかった。だけど、そのことで、紫を恨めしくは思わなかった。紫はあの神達と同じだ。そういうものなのだ。紫は、そういうものだ、と私は思った。
 そのほかのことは、私にとっては、何もかも同じだ。私の世界の外のことだ。里で困ったことがあれば、誰かに相談して、その通りにすれば、大抵のことはうまくいった。妖怪が相手で、話が通じなさそうだったら、殺す気で、あらゆる方法で、動けなくすればよかった。
 誰かが私を求めるなら、私のできる範囲で応えてやればよかった。
 早苗だけが別だった。早苗は、私に、何か、他の誰もが求めていないものを求めている。
 何をしてやればいい? 私は早苗が求めるものに、どう返してやればいい。この、目の前の不可解な少女に、私は何をしてやれるのだろう、と思った。
 人間は、大抵のことは、うまく行かなくても、他の何かで癒される。やがて辛いことは忘却して、他の良いものを求める……だけど、早苗にとっては、私でなくてはいけないものなのだろう。早苗が求めているのは、友情ではなくて、私そのものだ。私に何をしてやれる?
 結局、早苗はそれっきり黙り込んだ。私は仕方なく器を持って、早苗の部屋を出た。雨が降り始めていた。




 雨が降っていて、部屋は薄暗かった。襖の開く音でそちらを見ると、暗い表情をした早苗が立っていた。何も言わず、ゆっくりと私の部屋に足を踏み入れた。数歩進んで、立ち止まる。あまりに異様な雰囲気だから、私は思わず立ち上がって、早苗に歩み寄った。どうしたの、と声をかける。肩に手を触れようとした時、早苗に腕を掴まれたかと思うと、次の瞬間には、壁に押しつけられていた。
 早苗の腕には力が籠もっていて私を押さえつけていた。右腕は掴まれて壁に押しつけられ、早苗の左手は私の髪を乱暴に掴んで、顔が早苗の方を向くように押さえつけられていた。鬼気迫るような早苗の顔が、腕に込められた力以上に私を縛っているようで、私は目をそらすことができなかった。だらりと垂れ下がった左手は私の萎えた意志のようで、時折緊張からぴくりと不意に動く程度だった。硬い壁と強い力の間で、右腕は締め上げられて痛んだが、私は痛みを叫ぶことは出来なかった。
 早苗のことが分からなかった。早苗は私を憎んでいる。何が、早苗にこうさせるのだ。早苗は私を求めながら、私を憎んでいた。その間にあるものが、私には理解できなかった。

「霊夢さんは」

 早苗が、こぼすように言葉を落とした。怒りの中に、哀しみが混じった。

「霊夢さん、は――、……ッ!」

 早苗に押さえつけられたまま。拳でも飛んでくるかと、身体は強張った。目を逸らすことは出来なかった。早苗の腕が振り上げられることはなく、代わりに、強引に唇が重ねられた。
 思わず腕に力を込めて抵抗しようとしたけれど、早苗はより強い力で私を抑え付けていて、私を離そうとはしなかった。髪を掴まれた顔は、逸らすことさえ出来なかった。驚きの声を上げて目を見開き、けれど、私はそれを受け入れた。

「むっ、ん――ッ、ん、ぅ、ん――っ……」

 優しくも、穏やかさも気遣いもない、強引で乱暴な私のファーストキス。最低だ。最低のはずなのに。どうしてこんなにも素敵に感じているんだろう。私は奪われることを嗜好している。
 歯を閉じるということさえ考える間もなく、早苗の舌が滑り込んできて私の口内を滅茶苦茶に掻き回した。口の中に充ちる液体は私のか早苗のか分からなくなった。

「んん…ぅ、ぁ、あぁ…は…っ…」

 てろりと透明な糸を引いて唇が離れて、唇を半開きにしたまま私と早苗は睨み合っていた。憎しみじゃない。最早、相手を求めるだけの強さだ。もっと。もっとと、何かが頭で叫んでいる。はぁはぁと荒い息をして、早苗が私を見下ろしている。見上げる私の息も荒い。呼吸を整える僅かな時間を隔てて、また互いを求めた、最早早苗にされているという感覚もなかった。互いに互いを求めていた。獣のように意味の成さない呻き声ばかりを上げて、私達の間にあるのはただただ奪い合うように争うように相手が欲しいという乱暴な感情ばかりだった。乱雑に丹念に相手の口内を舌でなぞって、唇が動くたび、唾液が混じり合ってこぼれた。美しさも倒錯もなくて、ただ求める欲望の強さだけが、私の中に満ちていて、その強さに引っ張られるように、欲するままに奪って奪われていた。
 早苗が両手で私の頬を挟み込むようにして、私の顎を上向きにして私の中から全て吸い出すみたいに強く吸った。唾液が上がっていく感覚がして、絡み合っている舌を離したくない強さで私の唇から舌が引っ張り出されて空気に触れながら一滴の水分も残さないと言わんばかりに空気中で舌を吸われて、離れて、唾液が落ちてきた。私は馬鹿みたいに舌を突き出した格好のまま流し込まれるがままに唾液を口内に導いて飲み込んだ。混じり合った体液は味のないねばつきだけで、私の喉をさらりと通り抜けていった。私と早苗が混じり合ったのだ、早苗と私は同じものだ、と私は思った。そしてまた唇が下りてきて、互いを貪るように求め合った。早苗が私の頬を挟んで、私もまた早苗の頬を挟んで、まるで鏡写しのように、秘やかな交わりのように、私達は重なり合って溶け合って一つになっていった。




 長い時間が経った気がする。互いの荒い息遣いの他は、何も聞こえなかった。荒い息をした私は、そのことが終わると、早苗に問いかけた。

「気でも違ったの。どういうつもりよ」
「霊夢さんの方だって……あんなに激しく、したくせに……」

 私も、早苗も、呼気を使い切って、疲労と倒錯とで荒い息のまま、壁にもたれかかってへたりこんでいた。私の上になった早苗は首を私の肩に乗せて、壁に頭を当てている。気付くと、私の両手は、早苗の背に回されていた。異様に昂ぶった感情のままにしたことに、自分で気付いていなかった。ただ行為だけを求めた。かつて意味も分からずこの行為を重ねたような記憶が……いや、気のせいかもしれない。はっきりとしない。

「……好き、なんです。霊夢さんのことが」

 ぽつり、とこぼすように、早苗は言った。首に回された早苗の腕が、覆い被さっている早苗の身体が、緊張で固くなっているのに気付いていた。

「……でも、私は、霊夢さんが憎いんです。何でも、うまくやれて……あの、物乞いの人のことだって、霊夢さんなら、どうにかするんだろうって。それだけじゃなくて。何でも、霊夢さんはうまくこなしてしまう。それも、私は毎日修行をして、能力を保っているのに……霊夢さんは何もしないままで。私、霊夢さんが憎くて……」

 早苗が身体を離し、肩を掴んで、私を見下ろした。私の顔を見た瞬間に、早苗は涙を溢れさせた。泣いて、涙を払って、それでも、抑えきれない涙を隠そうと顔を隠して……早苗は涙声で、呻くように言った。

「私、こ、こんな気持ちを、霊夢さんに知られたくな、なくって……! でも、うまく、整理をつけられなくて……! 泣きたくなんてないのに、でも、霊夢さんに見られて……私は……」

 しゃくりあげて、早苗は呻いて、涙を堪えようとした。

「どうしたらいいんですか。私は。どうしたら、いいんですか……!」

 私は溜息をついて、天井を見上げた。そんなもの、分かりやしない。早苗は私を特別だと思ってるかもしれないけど、私はただの人間だ。何だってさっくりとやってしまえるような能力なんてない。仮に、やれているのだとしたら、私のそれなりの努力が実を結んでいるだけだと思うし、それにしたって、才能があったって、何一つ早苗が羨む部分なんてないように思う。家族がいて、友達がいて、明るくやれて、辛くなれば帰る場所がある、というのは、端から見ていて、私よりも幸福なのではないかなと思う。その幸福そうに見える早苗がどうしたらいいのかなんて、私にはさっぱり分からない。
 でも、早苗に対して私がどうしてやればいいのかは、何となく分かった。
 早苗の両手を持って、手をよけさせると、涙だらけの頬に、一度キスをしてやった。続けて、唇に荒っぽい口づけをする。早苗の頭の後ろに手を回して、抱きかかえるみたいにして、唇を擦り抜けて舌を入れて、舌先で早苗の舌を探して重ねた。早苗はすぐに応えてきて、舌の動きで、元気になったことが知れた。
 一通り気が済むまで重ねて、唇が離れると、早苗を真っ直ぐに見て言った。

「言っておくけど。私、良い女じゃないわよ。誰とも付き合ったことはないし、付き合い方だって知らないし」
「……いいんです。そういうところが、好きなんです」

 早苗は笑った。久々に笑ったな、はぁ、と頭を掻いた。

「私も、早苗のことは、嫌いじゃないみたい。だから、いいわよ、付き合うのだって友達になるのだって」
「……ありがとう、ございます」
「あんたのことは全然分からないけどね、したいようにすればいいのよ。私の方だって……早苗のことを、ずっと好きでいるかどうかなんて、分からないし。気持ちだって変わるかも知れない。でも、早苗のことは嫌いじゃないわよ。それだけは覚えてて」

 はい、と早苗は頷いた。早苗のような純情さからすれば、私は誰にだって開く売春婦のようなものかもしれない。私は恋だとか友情だとか、その価値を知らない。だけど、だから、踏み込まないのは、違うのだ、と思う。
 友達になろう、と言ってくれたのは早苗が初めてだった。私に踏み込んできて、私もそれで良いと思った。私は早苗のことを何も特別だと思っていないのかもしれない。だけど、早苗は私のことを特別だと思っていてくれている。
 だったら、それに応えていったら、いつか早苗が、私にとって、本当の特別になる日が来るのかも知れない。
 雨の音が聞こえた。ずっと聞こえていたのに、初めて気付いたような気持ちだった。雨はゆっくりと優しい音に変わっていったけど、そのままずっと、早苗を抱き締めていた。いつも、早苗の方が私の手を引いてくれていたような気がする。だけど、今は、早苗を甘やかしているような気がする。








 その後




「霊夢さん。少しお話が」
「はい。なんでしょう」
「一度、帰ることにします。少しばかり長居しすぎました」
「はい、分かりました。後片付けはしておきますから、別にそのまま帰ってくれても構いませんよ」
「いえ、それも悪いですから。きちんと後片付けはします」

 ……早苗のキス事件から更に数日が経っていた。早苗が帰ると言いだした時、私は思わず敬語で返した。最初は流したけど、やっぱり変に思ったみたいで、私と早苗の間に沈黙が流れた。正座したまま向き合っている私に、早苗はどうしたらいいか、微妙に迷っているような気持ちに違いない。

「……それと、霊夢さん。さっきから何なんですか」
「いや、なんか、真面目な話っぽかったからちょっと真面目にしようと思って……」
「私、そんな怒ってるように見えました?」
「早苗って分からないからさ。怒ってるように見えなくて。笑っててもいきなり怒り出したり、キスされたりしそうだから」
「そのことはいいですから」

 それで、と少し赤くなって早苗は続けた。あれから、早苗は明るい普段の態度に戻ったけれど、二人の時、少しいい感じになると誤魔化してどこかに行ってしまう。だから、あのキス事件以来、あんな風になったことはない。

「本当に帰ります。これまで本当にありがとうございました」
「はい。早苗さんも元気でいて下さいね」
「もういいです。霊夢さんのそれ変ですから」
「早苗のまねしてみたんだけどな」
「分かりましたから。帰りますから」
「帰るの?」
「帰りますってば」
「飽きたの?」
「いや、まあ……悪いなあ、と思って……」
「今更じゃない。しばらくいれば」
「神奈子様も帰れって言ってますし」

 神奈子に言われたから帰るの、と思って、私はちょっとむっとした。むっとして、言ってやった。

「……キスだけで満足したの」
「あ、あれは、その、カッとなってやってしまった、とか、そういうやつです」
「私のことは遊びだったのね」
「そ、そんなことないです。本気です。私は霊夢さんのこと本気で好きですから」
「早苗……」
「じゃなくって、何を言わせるんですか。とにかく、霊夢さんのことが嫌いになった訳でもなく、後悔もしてないですし、怒ってもいません、一度帰ります」

 そういうことで、早苗は一度帰ることになりそうだった。私は何だかどういう風に思っていいんだか複雑だった。

「霊夢さんは寂しいんですか」
「正直に言うと別に。でも、早苗が甘えてくるみたいに、甘えていいんだなって思うと、ちょっと楽」
「私は寂しいですよ。正直に言って寂しいです。でも、しょうがないじゃないですか。そうしているうちに、霊夢さんの気持ちが離れてったら、とか思うと、余計に寂しくて哀しいです」
「ふうん……」

 早苗はやっぱりよく分からなかった。恋愛もよく知らないし、分からないままでもいいのかもしれないけれど、早苗が求めているものと、私が求めているものは違うものな気もした。

「……あのさ、早苗。別に、やっぱり、部屋は片付けなくていいわよ」
「いや、悪いですから」
「そうじゃなくってね。……あのままにしといたら、来やすいから」

 霊夢さん、と早苗は言って、嬉しそうな顔をした。

「言っとくけどね。一々片付けるのが面倒なだけだから」
「いいですよ。そういうことにしときます。うちの神社には、霊夢さんの部屋は作りませんよ。私の部屋に泊まったらいいですから」

 途端に嬉しそうな顔をして、早苗は上機嫌になった。現金なんだから。

「別に一度帰ったって、また来ちゃいけないってわけでもないし。また、来なさいよ。神奈子に反対されたら言いなさいよ。喧嘩しに行くから」
「はい。ありがとうございます。……なんだか、霊夢さん、こないだから親切ですね」
「そんなことはないわよ。中途半端は嫌いだから、やるって決めたら最後までやりたいだけ」

 ありがとうございます、と早苗はもう一度言った。私がやりたいようにやるだけなんだから、早苗が礼を言うことでもない気はする……けど、早苗はそういうものなのだから、分からない、で済ませるのではなくて、それが早苗なんだ、と思うようにした。
 ぽつり、と私は、こぼすように呟いた。

「あのね、早苗、私考えたんだけどさ」

 考えてることをそのまま、吐き出すみたいにして喋った。言葉がもしも伝わらなかったり、早苗を傷付けることになったとしても、言葉にしないと、多分何も伝わらない。

「私と早苗が分かり合えるなんて、絶対にないと思う。でも、なんていうのかな。互いのことが分かったうえで、互いに必要としてるものが、分かって、それが私に用意できないものだとしても、別にいいんだ、って……そういう風に思えてくるんじゃないかなって。だから」

 気恥ずかしくなって、言葉を切った。早苗もこういう気持ちだったのかな。

「だからね、早苗。友達になりましょう。友達になるとかならないとかじゃなくって、友達って形も契約もないものを、ただ互いに求めるってだけでいいって思うの。言葉にしたら友達だけど……」

 言葉に迷って、困っても、早苗は笑ったまま、私の言葉を聞いていた。いつも面倒になってやめてしまうようなことを、早苗は黙って聞いていてくれるのが、嬉しい。

「別に、友達以上のものでもいいけど。でもさ、恋人になったって、それをやめたって、友達は友達でいいんじゃないのかな、って思うのよ。友達っていうか腐れ縁でもいいけどさ。そこまでいくと、もう、互いに、互いがいない、ってことが想像できないんじゃないかなって。そう、なれたらいいなって……」

 はい、と早苗は答えた。否定でも肯定でもない、と私は思った。たぶん、私の思うように、早苗が受け取って、全部が全部飲み込んで、ってことはないと思う。たぶん、早苗の受け取り方は、私の考えと、微妙に違っている。でも、言っていることは、なんとなく分かる。そういうものでいいのだと思う。何を言ったっていい、何か語弊があれば補えばいい、そういう風に私達は繋がっていけるのだと思う。

 何をしたっていい、何を言ったっていい。こんな風に甘えられる関係は初めてで、私は途端に嬉しくなってしまった。
おまけ

 家政婦もとい神様とスキマは見た 巫女×巫女爛れた昼下がり


 「――霊夢さんは……」




 ――早苗が霊夢に掴みかかっている時、その姿をスキマの中から伺う二つの影があった――


 ……早苗は気付いているよ。あの子は霊夢と仲良くなりたくて、仕方ないだけなんだって。
 でもね、それはあの子自身のプライドが許さない。自分が特別だと思っていたことはまだいいさ、こっちじゃそれが普通で、現人神なんて言ったって、それより強い奴だって沢山いて。でもそれは仲間が増えたってことで、早苗にとっては良いことだろうさ。だけど、霊夢は違う。博麗霊夢は、そういうのとは一切が違う。
 あれは特別の中でも特別だよ。何もかもが、他の全てを圧倒する。日頃はあれだけぐうたらしてるってのにさ。それが、毎日きちんとお勤めをしている早苗には我慢できない。相手を理想化してしまったんだろう。それは、早苗の幼さ故でもあるんだろうね。私が見出したひと、私の出会った美しく強い人。もしかしたら早苗だけじゃなくて、誰もが博麗霊夢にはそうした思い込みを抱くのかも知れない。力と美麗さに満ちた、けれど、ただの人間。そこには弛まぬ研鑽と、高潔な魂の同居していると思い込む。……そして、その、まるで神か何かに与えられたかのような力を羨み、妬む。私の方が努力しているのに、どうして、私が。あんな、ぐうたらしてへらへら笑っているだけの奴に。
 それでも、仲良くなれるかって、仲良くなりたいって、思ってたのにね。


 霊夢は、早苗が何を考えているのかなんて、全然分かってないと思うわ。あの子はずっと一人だったから。(そうしたのはあんただろうに、と神奈子は憎まれ口を叩いた)
 あの子はきっと、誰のことも理解していないわ。友達っていうのがどんなものかなんて、言葉では分かっていても、きっと本当のところは分かっていないのじゃないかしら。
 ただ、分かっているのは、早苗は恵まれているってこと。早苗には家族がいる。霊夢にはいない。それを、あの子は分かっているでしょうけれど、霊夢にはいないのが普通だから。友達も一緒。早苗は明るくて誰とでも親しく付き合うから。霊夢にとっては必要のあるないではなく、あるかどうかさえ分からないもの。だけど、眩しくは見えるものでしょう。霊夢にとっては、どこか諦めているものよ。
 だから、霊夢よりも恵まれているはずの早苗が、どうして霊夢に突っかかってくるのか、あの子には分からない。あの子は、あの子自身の力には、大して頓着していない。
 その結果が、アレかい。
 神奈子が結界の向こうの二人を示した。霊夢の片腕を掴み、睨み付けている早苗。


 うん。まあ……こんなに荒々しくするとは思ってなかったわ。……どういう教育をしてるのよ。神奈子のところの巫女は。
 あんたんとこの巫女こそ、情緒が足りてないんじゃないのかい。
 うーん……
 あっ。
 あっ。
 キスしたね。
 うん……あっ、あ――…………
 …………
 …………
 み、見ないでおきましょうか。
 そ、そうだね、早苗に悪いよ。こんなの見てるってバレたら、すっごい怒られるよ。
RingGing
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コメント



0.4510簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙は霊夢にとって友達ではあるけど、「悪友」とか、「腐れ縁」みたいな感じに見える
早苗さんは霊夢と本当に終生付き合っていく友達って感じになれそうな雰囲気がある
何が言いたいかと言うとレイサナ増えろ
4.100名前が無い程度の能力削除
作者さん、相変わらず心の機微を書くのが上手い。
感情の揺れ動く様がじっくり読めてよかったです(小並感)
6.80奇声を発する程度の能力削除
とても良く面白かったです
12.80絶望を司る程度の能力削除
おまけの二人は紫と神奈子かな?
物語に引き込まれるぐらいおもしろかったです。あと乞食はギルティ。
13.100名前が無い程度の能力削除
これは本当に良かった
15.100名前が無い程度の能力削除
あっ・・・これは覗きがバレておしおきですね・・・
読み応え抜群で大満足でした
やはりレイサナはいいものだ
16.100名前が無い程度の能力削除
太宰とかが好みそうな話。形を見出せない漠とした焦慮を儀式によって閉じ込めようとする。
まあ宜くこんなまどろっこしいものを書く。
それにしても神社には結界でも張られているのかしら。何と云う隔離世、二人の世界。
じとじとした流れからの一転、少女が獣の如く貪り合う交感の儀は圧巻。やはり本場の巫女は色色桁が違いますね。
(意訳:巫女さん組んず解れつ最高!)
18.90名前が無い程度の能力削除
最後が激しかった(小並感)
19.100名前が無い程度の能力削除
おい保護者どもwww
最初はどうなることかと思いましたが…。
これからの二人の未来は明るい…かな?
早苗さんみたいなタイプは本当に溜め込んだものが爆発するとこうなりそう。
21.100名前が無い程度の能力削除
キスシーンの、美しさも倒錯もないという一文からビンビンきますね
論理のつながりと逆説は言葉で説明できるけど、それ以外を伝えるには全人的コミュニケーションという名のちゅっちゅが必要なのかもしれません
感情と言葉ではどちらが先なのか、早苗ちゃんがキスするのが先か霊夢がキスするのが先かという鶏と卵問題に対して、やっぱり感情は我慢できなかったよ早苗ちゃんルートはとっても素敵です
いや、同衾したのは霊夢が先だったな・・・とするとこれは・・・うむ
感情が言葉をうみ、言葉は感情をうみ、卵はにわとりをうみ、にわとりは卵をうむ
1=1、これはちゅっちゅするしかないってはっきりわかんだね
26.80名前が無い程度の能力削除
分かり合えない二人の恋。同じ巫女(風祝)なのに共通点はそこまでで、力も、生活習慣も、人との触れ合い方も、家族も、考え方も、相手に求めるものもまったく異なる二人。

粛々と描かれる圧倒的な感情の渦に感服です。
27.100名前が無い程度の能力削除
あとがき欄のお二方に吹いてしまった。いい話でした。
29.100名前が無い程度の能力削除
淡々とした雰囲気の中に存在する激情にただただ圧倒されました。
感謝致します。
30.90非現実世界に棲む者削除
不意打ちを喰らって一瞬桃源郷が見えたぜ。
良いレイサナでした。
32.90とーなす削除
濃厚なちゅっちゅでした。
35.無評価名前が無い程度の能力削除
ベタだけどだからこそ下手したらダレるだけに山場もちゅっちゅもあって満足。でも後書きの捕捉はくどかったかなぁ。というか霊夢は気付いてて後からボコッたか...w
36.90名前が無い程度の能力削除
↑点数入れ忘れ失礼
37.100名前が無い程度の能力削除
精緻な描写が素晴らしかったです
40.100名前が無い程度の能力削除
最初の流れからこんなちゅっちゅになるとは…
良いレイサナでございました
42.60細かいことですが削除
建御名方が武御雷に諏訪へ追いやられたのは古事記の話で、
神奈子は諏訪神話の諏訪明神をベースにした別の神様です。
風神録テキストや儚月抄底巻を読めば、それがわかる筈です。
神話を引き合いに出すなら、勉強すべきことと思います。
43.無評価細かいことですが削除
失礼、武御雷→建御雷でした。
自動変換機能に頼ってはダメですね……。
48.100名前が無い程度の能力削除
エロい
描写の丁寧さがそれを際立たせてるように見えました
シーンだけじゃなく、そういうところが本当にエロいと思います
49.100名前が無い程度の能力削除
喧嘩の後のセックスって燃えるよね(ゲス顔)

冗談はさておき、とても良かったです。二人ともシリアスに煮詰めるとこんなキャラになりそう。
なんとなく夏の終わりを感じさせる雰囲気も時候にあってた気がします。
51.100名前が無い程度の能力削除
後書きがかわいい(迫真)
レイサナのような違うような、何を言っているか理解できるようで完璧にはわからないような。
とりあえずちゅっちゅしてるのがよかったです(小並感)
54.90名前が無い程度の能力削除
これはゴボウを突っ込みたくなる霊夢。
神奈子が古事記の「タケミナカタ」そのものじゃなく、その性格と名前を持つ神っていうのが多分正しい訳だけど、
それは別に「タケミナカタ」のエピソードを神奈子が持ってないという意味にはならない気がして悶々。
解釈とかで片付けてもいいんだけど、間違ってるわけじゃないよなと一応ね。
そして感想は……毎朝の味噌汁がおいしそうねって感じです。
56.無評価細かいことですが削除
54さんへ
私の書き込みに対するご意見と推察します。
一応私が上にあるような書き込みをした根拠を述べます。

①大前提として、元ネタのエピソードを東方にそのまま当てはめることはできない。
(もちろん当てはめるかどうかは作者さんの裁量次第です)

②そもそも神奈子のエピソードの出自は諏訪明神絵詞であり、古事記は元ネタですらない。
(古事記と諏訪神話が別物であることは、ちょっと調べればわかる程度の知識です)

③儚月抄で、建御名方は注連縄で封印された神として神奈子とは別に語られている。
※風神録テキストにある、洩矢の神と融合した新しい神=大和の神話の名目を保たせるため
の名前だけの神(王国では守矢、外では違う名前で呼ばれた)が建御名方と思われます。

「作者さんが間違っている」とか原作の解釈に対し、私にどうこう言う権利は当然ありません。

ただ物語を進めるうえで、別に必要とも思えない古事記(元ネタとすらいえない)のエピソード
が唐突に出てきた感があり、神奈子というキャラクターを貶めるためだけに作られた場面に
見えたので、異議を唱えさせていただいた次第です。
57.100名前が無い程度の能力削除
…その返信の最後の三行だけ書けば充分じゃね?考察研究の場でもなし
神奈子様への信仰心溢れ返ってるのは良く解ったけどね…

あぁそうそう、なんだか濃密さがあって胸焼けがしたので100点!
62.20名前が無い程度の能力削除
単純につまらない
66.80通りすがりの酒好き削除
どうしようもなく分かりあえない部分と分かりあいたい部分,あとがきの保護者達の会話にあるようにこの二人はとりわけ異色であるからなおさらなんでしょうね.
埋められない,埋めようのない溝への葛藤がとても好みでした.
67.100名前が無い程度の能力削除
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(コメントはあくまでも、投稿された作品に対してのもののみです)

あとがきに笑ってしまったw
怒られてしまえw
本編、読み入りました。本当に素晴らしかったです。
71.90ばかのひ削除
おもしろかった!
霊夢はしかたのないやつだなー
73.80名前が無い程度の能力削除
うん、なんていうか……。
自分にわかる感覚で、幻想郷を焼き直すというのも、実に大切ですよね。
この早苗さんの面倒くささ、好きですわ。
76.100名前が無い程度の能力削除
私の想像とちがったお話。
霊夢の考え方は年齢のわりに淡白ね。でも好きよw
良いレイサナで新たな扉が開き切った
83.90名前が無い程度の能力削除
少し冗長な感があったのですが、裏を返せば丁寧にして順をおった一人称心理描写が素晴らしい作品でした。
悶々としていても、一度火が着いたら燃え上がるミコミコゆりりん流行る。
84.60名前が無い程度の能力削除
見事な文章だけど、そこに着地するかなあという感想。
霊夢というキャラクターは本当にいいキャラですな。
87.70名前が無い程度の能力削除
冗長でひどく退屈だったけど、乞食の話からの急行落下の勢いが凄まじくて目が覚めた。
でもキスが終わり切ってからのゴール地点が、あれ?そんなものなの??って感じで
少し拍子抜けでした。
霊夢のキャラ付けを妥協しなかったのはいいと思います。たかだか日常の一ページで彼女の信条がぶれてしまうと
つまらないですからね。
あなたはもっと深くエグく書けるはずです。
もっと面白い話をまた投稿してください。楽しみに待っています。
91.90愚迂多良童子削除
きっと霊夢にとっては初めての一肌の暖かさだったんだろうなあ。一方の早苗としても精神的に裸の付き合いが出来る相手は初めてなのかな。この先二人はきっと良い仲になるでしょうね。
ひとつ気になったのが、氷屋のおじいさんの件を見るに、些か里と博例神社が近いような気がしました。博例神社は幻想郷の東端にあって、里からは離れているそうなので、そこがちょっと違和感があった。
96.100名前が無い程度の能力削除
あえてここは一言で言わせていただくと「大好き」
104.無評価名前が無い程度の能力削除
友情ものと思い、その文章力に引き込まれて読みふけっていたぶん、百合かよと思った
レイサナと書いてほしかったです
111.100名前が無い程度の能力削除
とても面白かったです。自分にない物を求める関係を「友達」や「恋人」という言葉に当てはめないで、丁寧で綺麗な物語の中で示していて、読んでいてぐっときました。
112.100名前が無い程度の能力削除
他の人には書けない作品
文句を言うことも愚かしい
113.100名前が無い程度の能力削除
と思った。が多すぎて不自然な気もする、と思った。

れいさな最高
114.1003削除
機微な人間の感情や心の揺れ動きを非常に上手く書いた作品だと感じました。
一つ一つの展開、行動がそれまでの記述に沿って動き、
全体を通して非常に説得力がある物語となっています。
冒頭の段落の只ならぬ雰囲気が非常に効果的で、
その後の段落を読んでいる最中に常に頭にちらつき、
「今はあのような事が起きる雰囲気ではないのに」「段々と仲良くなってきたのに」と、
いつ少しずつ積み上がってきた二人の「友情」が壊れてしまうのかと戦々恐々としていました。
また個人的な感想になりますが、早苗のこのキャラクターは大変に好みでした。
どれを取っても素晴らしい作品でした。ごちそうさまです。
116.100名前が無い程度の能力削除
おとなしい早苗さんが突然狂ったようにチュッチュしだしたのが、かなりツボでした。
レイサナ最高です
124.100名前が無い程度の能力削除
良かったです