Coolier - 新生・東方創想話

茨歌仙脇道 -警告の光-

2013/08/11 15:22:05
最終更新
サイズ
17.09KB
ページ数
1
閲覧数
2003
評価数
9/26
POINT
1650
Rate
12.41

分類タグ

※この話は作品集187の「茨歌仙脇道 -夏の百鬼夜行-」の設定を引き継いでいる部分があります。
  単独でも読めますが、こちらを読んでいますと、楽しみが三割七分零厘増すかもしれません。
  では、本編をお楽しみください。



 ◆


 暗闇の中。
 計六十五個の光源が私達五人の顔を明るく照らし出していた。

「――これでこの話は終わりです」妖夢はそう言って、明かりを一つ消す。
「よし、次は三十七話目だな。次は誰だったっけ?」

 魔理沙がそう促すと、早苗が名乗りを上げる。

「はい! 私です!」
「あんたぁ?」霊夢が溜め息を吐く。「あんたの話、どうも怖くないのよね」
「そ、そんなことありません!」早苗は反論する。「とっておきの特ダネばかりですよ!」
「私は怖いの苦手なので助かっているのですが」妖夢が割と大きな小声で言う。
「妖夢さんまで!」
「まあ誰でもいい、怖くない話する早苗でもいいから、早く始めてくれ。こんなんじゃ百話目に行く前に夜が明けるぜ」
「うう……」早苗は涙目だ。「では、始めますよ……これは、私が外に居た時に聞いた話なのですが――」

 早苗が三十七話目を始める。
 勘の鋭い人でなくともお分かりの通り、私――茨華仙は百物語に参加していた。


 ◇


「はあ、百物語ですか」
「そうだ」

 昼。
 私は暑い夏への対抗手段、『納涼』を家に施して暇だったため、霊夢が巫女の務めをしっかり果たしているか見に、博麗神社を訪れていた。山の動物を正しい方向に導くことが私の役目(ちから)だけれど、巫女に勝手に動かれてそれが脅かされても困る。
 神社には、いつもどおり霊夢と魔理沙が居た。……本当に、魔理沙はいつ帰っているのだろう。本当に帰っていないのかしら? それと、今日の神社は幽霊がやけに多い気がしたが……何かあるのだろうか。

 私は空(に決まっている)の賽銭箱の付近まで行った時、魔理沙にその話を持ちかけられたのだった。

「お前も、参加しないか?」
「ええと、それは、いつやるのかしら?」
「今夜だ。今夜は新月だからな」
「今夜ですか……」

 今夜が新月なのは、もちろん知っていた。百物語は通例、新月に行われるものだということも、知っていた。
 だがなぜ、今、なのか。これまでにいくらでも開催のチャンスはあったはずだけど……。

「どうして、今になって?」
「なんだ、お前はてっきり知ってるものだと思ってたぜ」魔理沙は得意げだ。「今、里では百物語がホットなんだよ。暑いからなのかどうなのかは知らんが」
「はあ」私はなんとなく理解する。「肝試し、というわけね」
「まあそうだろうな。幻想郷じゃあ、迂闊に里の外でしようもんなら、肝試しが肝試されになりかねないからな。しかし、百鬼夜行騒動があったってのに、元気な奴らだぜ」

それもそうだろう。里の近況は訪れていないためによく判らないが、里の近くでさえ、ろくろ首やら唐傘お化けやらが居るのだから。百鬼夜行――鬼だったが――にすら怯える人間達には肝試しなんてレベルではないだろう。

「ま、理由はそれだけじゃないんだが」
「他の理由とは?」
「なんかな、里の人間の話によると、『九十九話目で現れる妖怪がいる』らしいんだよ。その真偽を知りたくてな」
「九十九話目で現れる妖怪……?」

 そんな妖怪は聞いたことがない。百話目の後に現れるならまだしも……。またまた私が無知なだけかもしれないが……今回は魔理沙も知らないようだし、そんなことはないと思うけれど。

 ちなみに霊夢は相変わらず――というか、いつもより、ぐてっとしていた。……恐らく、件の百鬼夜行騒動がフェイク――というか、萃香によるものだったため、魔理沙の言うようには事が運ばなかったからだろう。
 評判を呼ぶのは、いつの時代でも冒険譚や英雄譚である。アレは妖怪を退治したというより、妖怪と和解させたのだから、仕方ないと思う。実質的に、解決したのは魔理沙だったし……。深夜で、人通りも皆無だったし……。

「おい、聞いてるのか?」
「あ、はい?」
「やっぱり聞いてなかったか」魔理沙は呆れている。「もう一度言うぞ」
「はあ」
「人数が足りないんだ」
「へ?」
「人数が足りないんだ」
「いえ、聞こえているわ」
「じゃあ何だ」
「というか、何人参加する予定なの?」

 百物語は最低でも四、五人程度で集まり、やるものだと思うのだけど。

「お前を含めて、三人だ」
「まだ二人しか集まっていないのね……」

 少々――ではなく、かなり人数が足りないと思う。三人でも。……そうでもないのかもしれないが。

「お前が参加してさえくれれば、その点に関しては大丈夫だ」魔理沙は悪そうな笑みを浮かべる。「もう『エサ』は張ってある」
「『エサ』?」
「あれだ!」

 そう言って、魔理沙は鳥居の方を指さす。
 目を凝らしてみると、鳥居には何かが括り付けられているようだった。

「あれは何?」
「借り物だぜ」

 彼女がそう言う時、その大抵は盗品……。
 さすがに気になったので、鳥居の近くまで見に行った。

「これは……」

 どうやら借り物は二つあるようだ。参加メンバーはあと二人追加されるということか。
 一つは、手のひらサイズの行灯のようなもの。というか、行灯にしか見えない。なぜか火は灯っている。一体誰に対する『エサ』なのか……。
 もう一つは、見覚えのある髪留め。私はこれが明るい緑髪の上にあるのをよく見る。デフォルメされた蛙の髪留め……間違いない、これは東風谷早苗をおびき出すためのものだろう。
 ……やっぱり盗品じゃないか! しかし、こんなもので都合良く人が釣れるのだろうか?
 私は魔理沙の元へ戻った。

「魔理沙」
「何だ? もしかして、物で釣ってることを糾弾しに来たのか?」
「いえ」
「じゃあ何だ?」
「普通に誘えばいいのでは?」

 魔理沙は意外そうな顔をした。
 少女よ、それでいいのか。


 結果から言えば、都合良く『エサ』は成功した。
 髪留めは予想通り早苗の物で、早苗が取り戻しに来たし、行灯には何故か妖夢が食いついていた。まあ妖夢によると、行灯の正体は『人魂灯』という、幽霊を集めるための道具らしい。疑問なのは、なぜその時の妖夢がどこかやつれた様子だったのか、なのだが……それを訊くことは叶わなかった。本人が「訊かないでください」と言ってきたからだ。
 早苗は怪談話が割と好きなようで、すぐに参加を承諾したが、妖夢は違ったらしく、最後まで参加を渋っていた。そこで魔理沙は人質……もとい、物質(ものじち)をとって、嫌がる妖夢を無理矢理参加させた。
 でもやっぱり、最初から普通に誘えばよかったんじゃないか、とは思う。


 ◆


「――これで、この話は終わりよ」

 そう私は締めくくる。九十八話目、大詰めだ。明かりを一つ消す。

「じゃあ、次は私だな。九十九話目、行くぜ」魔理沙はそう前振りをする。「これは、私が里で聞いた話をパクっ――参考にしたものなんだが」
「また聞いたことある話かもね」霊夢が茶々を入れる。
「ちゃんとアレンジしたから安心しろ。さすがに九十九話目だからな」

 今までの話はまるパクリと考えて差し支えないようだ。

「怖いのももうあと二つね、頑張ろう!」妖夢がつぶやく。

 幽霊がお化けを怖がるというのも、滑稽なものを感じる。ちなみに妖夢は『皿屋敷』や『牡丹灯籠』などの、使い古された、しかしその怖さを現在まで保つメジャーな怪談ばかり話していた。彼女らしいといえば、彼女らしいのかもしれない。

「ああもう! 話してもいいのか?」魔理沙があまりの騒がしさに痺れを切らす。
「はい、大丈夫です! 早く聞かせてください!」早苗が溌剌と答える。

「じゃあ、改めて行くぜ」魔理沙はそう切り出した。「これは私が聞いた話なんだが、或るところに暴れ者の博打うちがいたんだ」

「前から思ってたけど、博打うちって、『打』が重複してるわよね」霊夢が言う。

「そいつは身なりは良かったが、働きもせずに毎日ブラブラしていた」魔理沙は霊夢を無視して続ける。「だがある日そいつは『自分に運が無いのはこの土地に居るからかもしれん』と考え、旅に出たそうだ」

「能天気な人も居たもんですねえ」早苗はあくびをする。能天気だなあ……。

「しかし当然、運なんて回って来ないわけで、遂にそいつは有り金を全部使っちまった。途方に暮れて、ある峠の地蔵さんの前で休んでいると、下の方から大きい荷物を背負った男が峠を登って来た。博打うちはその男を襲おう、と考えた。で、声を掛けてみれば、その男が『積み荷は食べ物だ』と言ったんだ。博打うちはその男を脅して食べ物を奪おうとするが、男も『俺には子供が居る』と言ってかなり抵抗した。男があまりにも抵抗するもんだから、博打うちはとうとう男を殺してしまった」

「ひええええ!」妖夢が頭を抱えて奇声を上げる。いくらなんでも、怖いのはここではないだろう。剣士が殺生を怖がるのも、なかなか可笑しかった。
「ここじゃまだ怖くないでしょ……」霊夢も同じことを考えたようだ。

「面白いのはここからだ」

 面白くていいのかしら?

「博打うちは辺りを見回し、人が居ないことを確認すると、地蔵さんにこう言った、『見ていたのはお前だけだ、誰にも言うなよ』と。そしたらなんと地蔵さんが『私は言わぬが、自分で言うなよ』と言ったんだ」

「お地蔵さんが喋ったんですか! すごい!」早苗は目を輝かせている。
「何がすごいのよ。普通じゃない」霊夢は巫女だから、普通なのだろう。

「まあ、博打うちにとっては普通じゃなかったんだろうな、そいつは驚いて急いでその場を立ち去ったんだ」

「成程……」私はつぶやく。

「それでそれから何十年も経った。博打うちはまだ旅をしていた。年をとり、物腰の柔らかい優しい老人になってな。彼は更生していたんだ。旅の途中で青年と出会い、道を共にしていた」

「な、なんだかいい話?」妖夢はまだ頭を抱えている。
「そうでもないと思うわ」私が諌める。

「或る時、青年が『私の家に寄らないか』と言ってきた。聞けば、青年の家は峠の上にあるという。博打うちは快くそれを承諾し、向かった。まあそこで通りかかるのがあの峠なわけだ。地蔵さんも健在だ。だが、地蔵さんが喋る様子は一切なかった」

「どういうことですか?」早苗は疑問を口にする。
「それ言ったら、ダメでしょ」霊夢がすぐさま応じる。

「博打うちは懐かしく感じ、青年に『この地蔵、喋るんだぞ。俺はその声を聞いたことがある』と言った。青年は当然、『じゃあ、なんて喋ったんだ?』と訊くわけだ。そんで博打うちは誰にも言うなよ、と念を押し、『実は俺は昔、ここで人を殺したことがあるんだ。俺も若い頃は悪行三昧でな、……』と、あの日のことを全部残らず喋っちまった」

「あらら」霊夢はオチを察したのか、そんな声を発する。緊張感も何もあったものではない。

「そうするとどうだ、青年の顔がみるみる赤くなっていった。博打うちがどうしたのか、と尋ねると、青年は『それは私の親だ。私はかたき捜し出し、そいつを討とうと、旅をしていたんだ。そのかたきがお前だったとは、おのれ!』と言って、刀で博打うちを切り殺してしまった」

「悪は去った!」早苗はノリノリだ。怪談話のはずだけど……。
「…………」妖夢は無言で自らの刀の鍔に触れる。

「まあ、ここがオチだ」魔理沙は急に低い声で話し出す。「そしてそのとき、あの地蔵さんが喋ったんだ。『馬鹿な奴だ、私は黙っていたのに、自分で喋ってしまったな』ってな」

「…………」早苗はさっきとは打って変わって無言で俯く。
「…………」妖夢は耳栓をしていた。一体どこから取り出したのか……。

 二人が黙るのも判る。なかなかに怖い、と思える。
 だが……私が思うに、これ、怪談話だけど――。

「……ねえ、魔理沙。それってさ、アレンジしてないわよね」霊夢も同じことを感じたようだ。
「……バレたか」舌を少し出し、ウィンクをする魔理沙。「そうだ、これは『言わぬ地蔵』っていう有名な話だ。ま、本当は紫の奴の入れ知恵なんだが」
「紫? 何でそこで紫が出てくるのよ」
「いや、さっき急に出てきたと思ったら、『この話を必ず聞かせなさい』とか言って来たんだ。ネタが足りなかったし、なにより、話すだけならロハだ」
「はあ……全然アレンジしてないじゃないの」
「なんだよ」魔理沙は反論する。「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。今までだってこんな感じだったし」

 土台、百物語はこんなに団欒とした催しだっただろうか? はっきり言って、合間合間の会話が多すぎる。
 というか、毎話ごとにこれ位の会話がなされて九十九話まで来たけれど、未だに夜が明けない。結構な時間が経過したと思うのだが……。
 これはもしかすると……。
 と、ここでまた明かりが一つ消される。部屋の明かりが残り一つになる。
 ふう、兎にも角にもやっと終わりか。長かったような気がする。

「さあ、終わりね」

 私はそう言って腰を上げようとする。
 が、上がらない。
 見ると、魔理沙に押さえられているようだ。

「何言ってんだ、まだ百話目が残ってるだろ」
「え、でも」

 百物語は、寸止めするべきでは――?

「そうそう。じゃあ、次は私の番だから。――ところで」

 霊夢もその気のようだ。が――。

「――あんた、誰?」

 霊夢はちょうど私と早苗の間の空間を見つめてそう言った。
 そして、私がその方向を向くと――

 手元から青い光を放ち、長い黒髪を持つ、鬼女が居たのである――!

 私は咄嗟に横に飛び退く。

「うわっ! 妖怪! ということは退治ですね!」早苗も横へ跳び退き戦闘態勢に入る。
「やれやれ、ようやくお出ましか」魔理沙は帽子からミニ八卦炉を取り出す。
「この楼観剣の錆にしてあげます!」妖夢は耳栓と刀を抜く。
「うちに忍び込むなんて、いい度胸ね!」霊夢はお札を手に持つ。

 みんな退治する気満々である。

 九十九話目で現れたと聞いていたから、気付けなかった――。
 やはり百物語の怪異は、『百話目が語られ終わり、最後の明かりを消す』と、現れる筈なのだ!
 しかし、まだ百話目は語られてすらいない。
 九十九話目が終わると現れるのではなく、百話目を始めようとすると現れる妖怪……とするとコイツは――。

「みんな、ちょっと待っ――」
「「「「問答無用!」」」」

 私の制止もむなしく、彼女らはその妖怪に跳びかかる――が。
 四人が一斉にその妖怪に攻撃しようとした途端、その妖怪は消えていた。

「!? 今の……」
「どこいったんだ?」
「みんな、ちょっと待ってってば!」

 私は大声を上げ、戸惑う四人に呼び掛ける。

「どうしたんですか、仙人さん」

 妖夢がきょとんとした顔で尋ねる。

「……私は、先ほどの妖怪に心当たりがあるのです」

 私は、そう切り出して話を始めた。
 朝日がいつの間にか顔を出していた頃だった。


 ◇


「恐らくあれは……青行灯、でしょう」
「あおあんどん? 何、うどんの仲間?」霊夢はお腹が空いているらしい。
「真面目になってよ!」妖夢がツッコむ。
「妖夢さん、お化けは苦手なのに妖怪となると平気なのね」早苗はまだ呑気だ。
「まあ、何でもいいぜ。で、その青ダヌキとやらは何なんだ? さっきの奴か?」
「魔理沙さん、青ダヌキって……」早苗が何やら反応する。青ダヌキに思い出があるのだろうか。

「魔理沙の質問に答えると、そう。私も初めて見たんだけど……噂には、聞いたことがあったから」
「そいつは何なの?」霊夢がマトモな問いをぶつける。
「『青行灯』は――百物語の『百話目』を話し始める時に姿を現す妖怪です。或いは、『百話目』を話し終わる時とも。とても怪談好きな妖怪だと言われているわ」
「そんなに好きなら、そいつも呼べば良かったな」

 ……呼んではいないだろう、現在の参加者も。

「冗談はやめてよ、魔理沙」霊夢が割り込む。「これ以上うちに妖怪が来たら、今度こそ妖怪神社って言われちゃうわ」

 言われてはいないが、そう認識されているとは思うのけれど……黙っておこう。

「でも」早苗が発言する。「百話目前後に現れるのはどうしてなんですか?」
「それは――」
「百物語を阻止するために決まってるぜ!」魔理沙が私のセリフを遮って言う。
「正解」
「お、そうなのか?」
「少しニュアンスが違うけど……大体合ってるわ。青行灯という妖怪は、人を救済する怪異なのよ」
「どう見ても、危険そうでしたけど」妖夢が苦言を呈する。
「そう、危険そう。それでいいの。いいえ、そうでなくてはならない。青行灯は、人間が踏み行ってはならない領域、つまり『百話目の向こう側』へ行かせないようにする怪異なのだから」
「そんな妖怪がいるの?」
「ええ。あの妖怪は、『青い行灯』を手に持っていた筈」
「確かに、持ってたな」
「百物語において行灯の数とは、『向こう側』との距離。それを一つ増やすことで、百を百一にし、『百物語』という儀式を有耶無耶にする」
「それは判りましたけど」妖夢は繰り返す。「それと危険そうだということに何の関係が?」
「いえ、直接の関係は無いわ」
「じゃあ何なんだ?」
「ほら、青行灯は『危険そう』なのよ。でも――百話目の『向こう側』は『危険そう』では済まされない」
「成程……つまり」ここで霊夢は気づいたようだ。「『危険そう』な姿をわざわざ曝すことによって、人間を怯えさせ、百物語を中断させる、ってことね」
「私らは退治しようとして、おじゃんになっちまったわけだが」

 魔理沙は残念そうだ。

「でも……何で消えちまったんだ? 消える根拠が見当たらないぜ」
「それが私にも判らないんだけれど……」
「私なら判るわ」霊夢が如何にも苛立っている様子で言う。「多分、紫の仕業ね」
「さっきの意趣返しみたいだが、なんで紫が出てくるんだ?」
「だって、青行灯……だっけ? が消えた時、スキマが見えた気がするもの」
「ずいぶん適当だな」
「でも、紫さんが魔理沙さんに怪談話を話させたってのも不自然ですね」
「人魂灯を捜索しろと命を出されたのも、紫様でした」
「ああ、そうなのか。じゃあ紫かもな。案外全部奴の思惑通りって感じか? 何が目的なのかは知らんが」

 …………。

「まあそれはそれとして。百話目は、タブーなのよ。びっくりさせないでほしいわ」
「だからお前、九十九話目で立とうとしたんだな」
「そうよ」
「……ねえ」

 霊夢はまだ納得いっていないらしい、不機嫌そうな顔をしている。

「何でしょう?」
「魔理沙が紫に話せって言われた怪談話って『言わぬ地蔵』よね? 何でそんなことさせたのかしら」
「……それは、『言わぬ地蔵』に込められたメッセージを考えれば判るでしょう」
「それは何なんです?」早苗はまだまだ元気らしい。
「……考えてもらった方がいいと思うのですが、まあいいでしょう」

 私は一息ついてから言う。

「恐らく、『言わぬが仏』ならぬ……ということでしょう」
「成程な。百物語は百まで語るな、か」
「そういうことでしょう。青行灯のことを考えても、それが判るでしょう」

 しかし、と魔理沙はつぶやく。

「もうとっくに朝が来てたんだな」
「やっぱり紫ね。夜と昼の境界を弄ってたみたい」

 どおりで永い夜だった筈だ。


 ◆


 数日後のある夜の小路。

「あらあら」

 どこからか声が聞こえる。

「貴方、あの子たちに言っていないことがあるのに……いいのかしら?」

「いいのです。このことは伝えても意味のないことですから。それ以前に、私が嫌です」

「……貴方がいいのなら、いいのですけれど」

 そう聞こえたきり、声は聞こえなくなった。

「…………」

 私が青行灯に詳しい理由。
 それは、青行灯が鬼の一種だからだ。
 みんなに伝えた役割も、あるにはある。だが青行灯の本来の姿は、『向こう側のほんの断片』。それは氷山の一角、どころか、砂漠を構成する砂のほんの一粒に過ぎない。
 『向こう側』に行ってしまえば、もうどこにも――顕界にも、冥界にも、地獄にも、彼岸にも、外の世界にも――行けないのだ。
 怖がりもいたことだし、無理に恐怖を煽る必要もないと思ったまでだ。

 外の、さらに外で、誰かが言ったという言葉、『嘘も百回重ねれば真となる』――それが百物語。
 妖怪は人が信じなければ存在できない者。人は「こんなことありはしない」と思うことでも、百回も繰り返されれば、信じてしまうだろう。それが暗示、いわゆる盲信である。気付かないうちに、信じさせられている。つまり百物語は、妖怪が仕組んだ、自分たちが生き残るための知恵だったのだ。
 ある程度妖怪が自由である幻想郷では、そこまでする必要はない筈なのに……何故か人里で流行しているらしい。ただの肝試しの代替物で済んでいればいいのだけれど……。

 結局、真実が一番恐ろしい。それはこの幻想郷でも変わらないようだった。

 私は、この真夏に、何とも言えない寒気を感じた。
どうも、神社音です。二作目です。
茨歌仙を目指しました、第二弾です。
今回時から、シリーズ的に『茨歌仙脇道』という主題を付けさせて頂きました。
それに伴い、前作のタイトルも変更致しました。ご了承ください。

発想元は『嘘も百回繰り返せば真実となる』という有名な格言です。
百物語もそういうところあるかな、と考えた次第です。

相変わらずの拙い文章ですが、ご指摘、ご感想などありましたらコメントにてお願い致します。
神社音
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.790簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
昼と夜の境界って…それ輝夜?

あっさりまとまっていて良い感じでした。退治屋たちの百物語のグダグダ感がうまく演出されていたと思います。
5.100非現実世界に棲む者削除
やっぱり上手いこと行かなくて不貞腐れてたか(笑)。
今回も茨歌仙らしくて良い作品でした。
ただ、早苗が二回目に妖夢の名前を言ったときにさん付けしていなかったんですが、どうしてですか?
色々と面白かったです。次回も楽しみにしています。
7.100奇声を発する程度の能力削除
纏まっていて雰囲気も良く面白かったです
8.無評価神社音削除
>>5 非現実世界に棲む者さん
ご指摘ありがとうございます。
どうやら添削が足りなかったようです。
修正させていただきました。
10.90名前が無い程度の能力削除
いかにも原作にありそうな話で、面白かったです!
13.80名前が無い程度の能力削除
もっと読みたくなるような不思議な魅力がありますね。次回が楽しみだ。
15.100名前が無い程度の能力削除
茨華仙っぽくて良かったです。
16.100名前が無い程度の能力削除
この雰囲気、実に茨歌仙ですねぇ
退治屋四人もそれぞれの性格が面白かったです
19.100名前が無い程度の能力削除
面白かったー。満足です
22.100名前が無い程度の能力削除
きっと他にも同じことを思う方がいるやも知れませんが、地獄先生ぬ~べ~の百物語のお話を思い出しました。読み始めて、青行灯の話しかなぁと思っていたらドンピシャリ。面白かったです。