Coolier - 新生・東方創想話

紫がおばさんになっても

2013/07/21 20:02:16
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「あら、いらっしゃい、橙」
 紫が笑顔を向けると、藍に連れられた橙は晴れやかな笑顔を浮かべた。
「こんにちは、紫様! 遊びに来ました」
「待ってたわぁ。元気にしてた? さあ、上がって上がって」
 橙を居間に通すと、紫は問い尋ねる。
「飲み物は麦茶とサイダーがあるけど、どちらが良い?」
 すると橙が口を開いたまま驚いた様に言った。
「やっぱり何ですね」
 何だか嬉しそうな顔をしない橙に、もしかして麦茶もサイダーも嫌だったのかと紫は心配になる。
「もしかして他の飲み物が良かった」
「違います。ただ友達が言ってて。人間のおばあ……おばちゃんは夏になると孫に麦茶を振る舞うんだって。それで紫様がその通りにするから、なんだかおかしくて」
 そう言って橙が笑った。
「おかしい? 私が、おばちゃん?」
 藍が慌てて橙をたしなめた。
「こら、橙!」
「え? はい! 何ですか、藍様」
「そういう事を言うんじゃない!」
「そういう事?」
 橙が不思議そうな顔をする。
 藍が心配そうな顔で紫を見ると、紫の姿が消えていた。

「っていう事なんだけど、どうすれば良いと思う?」
 紫が座卓につっぷしてそんな事を言った。
 幽々子は身を乗り出して問い返す。
「どうすればって?」
「だから私はおばちゃんに見られてるみたいなのよ! だからどうすれば良いのかなって」
「おばちゃんに見られるのが嫌なの? でもしょうがないじゃない。実際橙に比べたら私達お年寄りよ?」
「うん。でも外見は」
「外見はそうかもしれないけどねぇ。別に良いんじゃないの? おばちゃんて言われたって。橙だって、そんな心底嫌そうに言った訳じゃないんでしょ?」
「そうだけど、でも橙が友達に馬鹿にされるかもしれないじゃない。お前の主人はおばちゃんだって、それでいじめられたりしたら」
「そんな事無いと思うけど」
「子供は残酷よ」
 紫が重たい溜息を吐いたので、幽々子が殊更明るくする様な声を出した。
「でも、ほら! 麦茶を出さなければ良いんでしょ? それで解決じゃない!」
「そうかしら? 麦茶なんて氷山の一角で、実は他にも色々おばちゃん臭い行為をしているかもしれない。知ってた? 化粧だって流行りとかあるみたいよ? 白粉に口紅塗るだけじゃないんだって。でね、それでもし、橙の友達が遊びに来て、やっぱりおばちゃんなんだって話になったらって考えると。それだけじゃない。私がおばちゃんだって広まって、私の威厳が地に落ちたら、橙や藍は、私の式があんまりにも可哀想じゃない」
「うーん、考えすぎだと思うけど。あ、なんなら若い子に聞いて勉強すれば良いんじゃない? 若い子らしさを」
「若い子らしさ? 霊夢や魔理沙に」
「それも良いけど。ほら、守矢神社の早苗ちゃん! あの子はずっと外の世界に居たんでしょ? なら流行だとか、そういうのにも詳しいんじゃない?」
「そうね。それは良い考えかも」
「でもそんな、考えすぎだと思うけど。あなたはまだまだ若いわよ」
 その時、妖夢がお茶を持って入ってきた。
「あ、妖夢。丁度良かった。ねえ、妖夢。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「え? はい、何でしょう?」
「紫の事なんだけど」
「はい」
「全然おばちゃんなんかじゃないわよね? まだまだ若いわよね?」
「え?」
 妖夢が紫を見て固まった。息を飲み、それから唇を震わせながら俯いて、小さく呟いた。
「えっと……はい、紫様はまだまだお若くて。あの、まだまだ全然おばちゃんだなんて」
 紫は居ても立っても居られなくて、隙間の中に消えた。
 紫の消えた虚空を眺めながら、幽々子が静かに息を吐く。
「妖夢」
 妖夢が慌てて平伏する。
「はい! 申し訳ございません!」
「もう少し上手く嘘が吐ける様になりなさい」
「はい! すみません!」
 幽々子はゆっくりと目を閉じて、お茶を啜った。遠くから紫の泣き声が聞こえてくる様な気がした。

「おや、これはこれは珍しい。今日は一体どの様なご用件で?」
 神奈子が慇懃無礼に出迎えると、紫が睨む様に睨めあげる。
「早苗に会わせなさい」」
「ご用件は?」
「若者について学びに来たの。会わせなさい」
「何で?」
 紫が通された先で、早苗が嬉しそうに出迎えた。
「いらっしゃい、紫さん! お久しぶりです!」
「一昨日道端であった以来かしら?」
「そうでしたっけ? まあ、いいや。で、若者について学びたいと」
「ええ。教えてくれるかしら」
「それは構いませんけど、紫さんは何がしたいんですか?」
 紫が経緯を話すと、早苗は得心した様子で何度か頷いてみせた。
「つまり、おばさんと思われたくないわけですね?」
「ええ、そうね」
 紫が頷くと神奈子が横から口を出した。
「でもそれなら若い人の事を取り入れるより、年寄りっぽさを捨てた方が良いんじゃない?」
「どちらでも。おばさんだと思われなければ」
 早苗が感じ入った様子で頷いて見せる。
「私の友達にも居ましたよ。おばさんて呼ばれてる人。おばさんかどうかって、結局心の問題だと思うんですよ」
「ええ、だから心構えを」
「それでですね、どうしてその子がおばさんて言われてたのか今考えてたんですけど、それってきっとお節介焼きだったからなんですね」
「お節介焼き? それだけで?」
「どうしてかって言われると私にも良く分からないんですけど、そんな気がするんですよね」
「それでどうすれば良いの?」
「うーん、どうすれば、か」
 早苗は顎に指を沿わせて考える様に目を逸らした。
「あ、つまりお節介を焼かなければ良いんだから、橙ちゃんの事なんか気にせずに、おばちゃんって呼ばれたっていいやって考えれば」
 紫が微笑みを浮かべる。
「あのね、そういう堂堂巡りになりそうな、観念論は要らないの。私が今必要なのは、おばちゃんて言われない為にはどうすれば良いのか。お節介なんて誰でも焼いてるし、他人の事を考えないなんて、あんまりにも非現実的じゃない」
「そうですか? 程度の問題だと思いますけど」
 早苗が首を捻る。
 神奈子が手を打つ。
「気にしなければ良いっていうのはあるんじゃない? あの式神の猫があんたの事を嫌いになるとは思えないし」
 早苗と神奈子の提案に、紫は首を横に振る。
 早苗がまた首を捻り、それから思いついた様に声を上げた。
「じゃあ、もっと物理的に、臭いなんてどうでしょう?」
「臭い?」
「そうです。加齢臭って言うのですね。それが無いならまだまだおばちゃんじゃないですよ」
「そうなのかしら? つまり加齢臭を無くせば良いのね?」
「でも紫さんて外見は私達と同じで大人じゃないじゃないですか。だから加齢臭だって無いと思いますよ」
 早苗が立ち上がって、紫の傍に寄る。
「加齢臭は頭皮にくるらしいんですね。だから頭から加齢臭がしなければ。ちょっと失礼」
 そう言って、早苗が紫の頭に鼻を寄せる。
「ほら、やっぱり臭いなんて……あ」
「え?」
 早苗はゆっくりと紫から離れて、正面に座り居住まいを正す。
「物理的な事で言えば、私から教えられる事はありません」
「ちょっと待って。もしかして加齢臭がしたって事」
「恐らく管轄は、永琳さんのところでしょう。こちらで出来る事は何も」
「ねえ、ちょっと、もしかして本当に臭いがしたって事?」
 紫の問いに、早苗が今までに無い程悲しげな笑みを浮かべた。

「どうぞ」
 永琳が外の患者を呼ぶと、扉が開いて入ってきた。
 入ってきた紫は椅子に座るなり身を乗り出して言った。
「加齢臭を消す薬をよこしなさい」
 永琳が持っていたペンで頭を掻きながらカルテを机の上に放る。
「それ用のシャンプーならあるけれど」
「なら、それを」
「一体どうしたの? 処方するのは構わないけど、まずは理由を聞かせ欲しいわね」
 紫が今までの経緯を話すと、永琳は成程ねぇと言って顎を撫でさすった。
「残念だけど、あなたのご希望には応えられそうにないわ。出来ない事も無いけれど、きっとあなたは望まない」
「出来るのであれば、処方してよ。お金は積むわよ」
「薬じゃ無理。鼻の効く妖怪は多いから。もしも加齢臭を完全に抑えるのであれば、それはあなたの体を元から作り変えなくちゃ」
「つまり?」
「昔一度やったのだけれどね。ある醜男が居たの。そいつは美しい女になる事に憧れていた。だからその男の体を作り替えた。彼の要望に合わせて彼が用意した美女千人の細胞と彼の細胞を一つ一つ交換して、半年位掛けたかしら、彼の体を根本から作り替えて、彼の体は若く美しい女になった。というのが、今私の考えつく解決策。どう? あなたはテセウスの船を修理した後も、それがテセウスの船だって言い切れる?」
 紫は首を横に振った。
「でしょう? だから私には無理よ。多少は抑えられるけど。もしも根本から解決をしたいのであれば、それはもう諦めて開き直るしかない。仏門にでも降る事をお勧めするわ」
「そう、分かったわ」
 紫は立ち上がり診療室を出ようとして、一度永琳へ振り返った。
「あなたは怖くないの? 年を重ね、世代の隔たりを感じる事が」
「私はこの永遠亭の中で完結していられればそれで良い。輝夜やイナバ達と一緒に平穏に暮らしていけるなら。永遠亭という一つの閉じた輪。その中に、世代の壁は存在しない」
「そう。心の底から羨ましいと思うわ」
 外へ出ると、道端の木に鈴仙が吊るされて泣いているのを見つけた。
 慌てて縄を外して助けてあげると、鈴仙は泣きながらお礼を言う。
「どうしたの?」
「お師匠様に」
「永琳がどうして?」
「お師匠様が携帯を買って来いって言うから」
「ああ、そう言えばあなた、昨日外の世界に買いに行ってたわね」
 その外の世界へ通したのは他ならぬ紫自身だ。
「そうです。それで、お師匠様が使い安い物をと思って買って帰ったら」
 また泣きだして、それっきり言葉にならなくなった。見ると、鈴仙の吊るされた木の傍にシニア向けスマートフォンと書かれた箱が転がっていた。

 命蓮寺に行ってみると住居部分に人影は無く、講堂に人が集まっている様だった。扉を開けて覗きこんでみると、物凄い声の奔流が溢れ出てきて、紫は思わず後ずさる。
「エル、オー、ヴイ、イー、ラブリー白蓮!」
 凄まじい大歓声に、紫は何が起こっているのか分からず、恐る恐る中を覗き込んでみると、真っ暗な講堂の中、前方の一段高いステージだけが強烈な照明に照らされて、照明の集まる中心に白蓮が立っていた。
「それじゃあ、おばちゃん、疲れてきたし、そろそろ最後行っきまーす!」
 観衆が声を揃えて残念そうな歓声を送る。
「みんなごめんね! 最後まで全力で行きましょう! それじゃあ最後は南泉斬猫! 行っくよー! 什麼生!」
「SEPPA!」
 理解の出来ない情景に、紫はそっと扉を閉じて、狂信的な集会が終わるのを待った。
 しばらくすると講堂が一際の歓声に揺れて、やがて中から人々が満ち足りた顔をして列になって外へ出てきた。観客が全員出切った後に、紫は講堂の中に入る。そこには命蓮寺の面々が居て、口口に白蓮を褒め称えていた。白蓮は恥ずかしそうにしていたが、講堂に入ってきた紫に気が付いて、柔からな笑顔を浮かべる。
「紫さん、こんにちは」
「ええ、こんにちは」
 白蓮の横に立った一輪が手を払う仕草をする。
「悪いが、姐さんのステージは終わったよ。次は一ヶ月後。帰った帰った」
「悪いけど、それが目当てじゃないのよ」
「え? ステージ目当てじゃない?」
 白蓮以外の者達が目を剥いて声を上げた。この世に、白蓮のステージよりも大切な物なんて無いと信じきっている様子だった。
「どういった御用でしょう」
「ちょっとね、年を重ねる事について」
 紫がそれまでの経緯を話すと、白蓮は快く頷いて、人差し指を立てた。
「それはあなたの心の迷いでしょう。実際にあなたの信ずるおばさんという概念は実存しておりません」
「つまり私がおばさんになったと思うから私がおばさんになったという事?」
「いいえ、違います。あなたがおばさんかどうかはあなたを認識した各各が決める事。それは今回問題になりません。今回問題なのは、あなたがおばさんと呼ばれる事を恐れて問題視している事が問題なのです」
 白蓮は笑みを浮かべて紫に手を向ける。
「ようく考えてみてください。あなたの式の式は本当にあなたの存在全てをおばちゃんだと断じ、それを嫌だと言いましたか?」
「いいえ」
「あなたの式の式の友達はあなたを見ておばちゃんだと感じ、それを馬鹿にしてあなたの式の式をいじめましたか?」
「いいえ」
「でしょう? 全てはあなたの心の内に巣食った悪虫に過ぎません。その虫を追い払うには、気にしないだけで良い」
「言わんとする事は分かるわ。けどおばさんと言われる事を気にしない様な生活をしていれば、おばさんって言われちゃうじゃない」
「そもそも、おばさんと言われる事に何故抵抗を? その言葉自体に乏しめる意味は無い。悪意とさえ結びつかなければ。例えば私はもうおばちゃんだけど、だからと言って、私の周りの人は私を嫌ったりはしません。ね?」
「オー、イエー!」
 皆が一斉に片手を掲げて応じた。
 白蓮が紫に笑みを向ける。
「ほら、あなたの大切な人もきっとあなたがおばちゃんになったからと言って気になんてしませんよ」
「そう、だとは思うんだけど」
「何にせよ、あなたが納得出来る形を作るのが一番です。それなら若者の真似をするのも良いでしょう。そうですねぇ。今度対話会の時にいらっしゃいますか? 最近は若い方も入信してくれましたし、若い方方と交流出来る機会ですよ」
「そうねぇ。それも良いかも」
「それと、今日やった様な、らいぶ? も一ヶ月後にまたやりますのでいらしてください。実はあれ、若者の真似事なんです。説法ももっと若者向けにしないといけないと思って、外の世界のお寺を参考にやってみたんです。そうしたら若い方方の入信が一気に増えたんですよ。私も、少しは若者に近づけたのかなって」
「いや、もう姐さん、マジ完全に若者っすよ!」
「完全に少女でしたよ!」
「ライブ最高でしたよ、聖!」
 命蓮寺のメンバーが口口に白蓮を褒める。自分をおばさんと笑う白蓮が、若者だと言われている光景を見て、紫も何だか若者に混じれる様な気がした。
「ありがとう、参考になったわ」
「本当ですか?」
「何だか私もあなたの様に若者っぽくなれる気がする」
 紫が笑うと、村紗が怪訝な顔をした。
「え? 嘘でしょ?」
「こ、こら、村紗」
「ちょっと信じられないんすけど、やってみてくれません? その聖と同じレベルの若者っぽさっての」
「信じられない?」
 紫は頬を痙攣させて、音が立つ程拳を握りこんだ。村紗が慌ててぬえの背後に隠れる。
 紫は慌てて握りしめた手を緩めると、腰に手を当て、頬をふくらませた。
「もう! そういう失礼な事言っちゃ駄目なんだぞ! ぷんぷん!」
 紫はそう言ってから、恥ずかしそうに頬を赤らめて、周囲に問いかけた。
「どう? 若者っぽかったでしょ?」
 一輪が本気で気持ち悪そうな顔をして、口元を抑えながら言った。
「誰か洗面器持ってきて。いや、ごめん、村紗、ちょっと柄杓貸して」
「ちょっと、今のそんなに駄目だった?」
 紫が慌てて周りを見回すと、皆死にそうな顔をしている。唯一、白蓮だけは笑顔を崩していなかった。そうして柔からな笑みのまま諭す様に言った。
「紫さん、何というか、道程は険しいかもしれません。けれど必ず先へ続いているのです。弛まぬ研鑽を積んで、いつの日かきっと……すみません、村紗。私にも柄杓」

 滲む視界に夕日を映しながら宛もなく歩いていると、遠くから紫を呼ぶ声が聞こえた。紫が振り返ると、藍と橙が並んで歩いて手を振っていた。
「二人共、どうしたの?」
 近付いて尋ねると、藍が安心した様子で橙の手を引いた。
「紫様を探してたんですよ」
「そう。心配を掛けたわね」
 紫は藍に笑みを向け、それから橙の頭を撫で、俯く。
「ごめんなさい。結局私はおばちゃんのまま、変われなかった」
 紫の沈んだ声音に、橙が慌てて弁解する。
「紫様! 違うんです! 私はそんな! 変わって欲しいなんて思ってません。あれは、私は、ただ」
 上手く言葉になっていないので、横から藍が補足する。
「紫様、橙は決してあなたを馬鹿にしようとして言ったんじゃありません。それに紫様がおばさんだと言った訳でもありません。ただ友達との話題に出てきた人間の行動とそっくりだったから」
「でも、それがおばちゃんの行動なんでしょう?」
 橙が紫の服を掴んですがる。
「紫様! 私は紫様の事が好きです! 尊敬してます! 全然おばちゃんだなんて思ってません! それにもしも、紫様がおばちゃんになっても、紫様は尊敬出来て、私はずっとずっと紫様の事が好きです」
「そうですよ、紫様。私達は紫様がおばさんになっても気にしません」
 二人の笑顔に曝された紫は喉を詰まらせながら言った。
「でも、橙の友達はそうは思わないかもしれないじゃない。幻想郷の他の者達は私がおばさんになったら私の事を蔑むかもしれない。そんな主人、貴方達は嫌でしょう?」
 紫の弱音に、橙が益益必死になって紫に縋る。
「そんな事誰も思いません! 私の友達はみんな、紫様が格好良くて強くて凄くてあの霊夢だって頭が上がらなくて、みんなみんな紫様の事を尊敬しています!」
「そうですよ、紫様。少なくともこの幻想郷にあなたを侮るなんて馬鹿な者は居ません」
「居たとしても関係ありません! 例えみんなが紫様の事を尊敬しなくなったって、私と藍様にとってはいつだって紫様は私達の御主人様で尊敬しています!」
 涙すら浮かべて訴えてくる橙に、紫は堪え切れなくなって涙を見られない様に抱きついた。しっかりと抱きしめてうなだれる。
「結局あいつ等の言う通りだった訳ね」
「え?」
「何でもないわ。ただ貴方達が私の式で居てくれて良かったって事」
 紫は立ち上がって橙と藍の手を引いた。
「それじゃあ、帰りましょう。ごめんなさいね、遅くなって」
 紫が微笑みかけると、二人も笑う。
「今日は美味しそうなかぼちゃがあるんですよ! 藍様が煮付けにしてくれるんです!」
「あら、楽しみね」
「魚も丸丸太ったのが手に入ったので、今日は豪勢ですよ」
「じゃあ、急いで帰りましょうか。それ!」
 紫が小走りに駈け出すので、橙も慌ててそれを追った。
 橙はすぐに紫に追いついて、追いつかれた紫は橙を抱き上げてくるくると回り、振り回される橙は楽しそうに笑う。藍がはしゃいでいる二人にゆっくりと歩み寄ると、紫は橙を下ろして、また三人並んで歩き出した。隙間を使わずに、遠くまで続く道を歩いて行く。
「二人共、今度はきっと」
 二人が紫を見上げると、紫は何処か遠くを見つめていた。
「今度はきっと麦茶とサイダーだけじゃなくて、他の飲み物も用意しておくからね」
 そう言って紫は二人に向けて笑った。夕日に照らされた晴れやかで、無邪気な子供の様な笑みだった。

 翌々日、天狗の新聞の片隅にこんな見出しがあった。
『幻想郷の暴君、紅魔館を襲撃』
 かつて妖怪を統べていた暴君が久方ぶりに本性を現し、「紅茶の淹れ方を教わりに来てやったぞ」等と叫びながら紅魔館を襲撃したらしい。
 物騒な事もあるもんだと、神奈子が新聞を片手に麦茶を飲んでいると、玄関から声が聞こえた。
「ねえ、出迎えは無いの?」
 神奈子は慌てて立ち上がり、傍に居た早苗を抱き寄せると、背後から声が聞こえた。
「ゆかりんが流行りのメイクを教わりに来てやったぞ☆」
 幻想郷の中で、そんなカチコミが暫くの間頻発した。
早苗が幻想入りしたのが六年前かと思うと何だかやるせない気持ちになった。
実際、作中だとどの位の時間が経ってるんだろう。
烏口泣鳴
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コメント



0.630簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
途中で読むのをやめてしまいました。
キャラを貶めているだけだとおもったからです。
4.80名前が無い程度の能力削除
昔のアイドルの歌にもあったね
「私がオバさんになっても~」
えーりんは真っ向からウソで切りかかって来やがってひどい
あと有名な公案をライブ感覚でやるのはどうかと思うんすよ白蓮和尚w
6.10非現実世界に棲む者削除
ゆかりんは少女だ。異論は認めない。
最後の八雲一家は良かった
と思ったが、その後のゆかりんの行動がバカバカしい。
酷いとはいかなくても、ありえなさすぎて雰囲気が台無しになりました。

ゆかりんは少女なのになあ...
7.80絶望を司る程度の能力削除
なにやってんだ白蓮ww
9.80奇声を発する程度の能力削除
白蓮www
15.90名前が無い程度の能力削除
えーりん……実は気にしてたのね
16.90名前が無い程度の能力削除
え?普通におもしろい話だったよね。おもしろかったです
17.50名前が無い程度の能力削除
面白さ自体に文句はありませんが、女性に対してこの仕打ちは不快感がありますね
18.100八雲一家最高!削除
おもろかったよ~。
……そういやゆかりん、香霖堂の挿絵だったか? あれで少女姿に……。
いや、普通のバ、もとい大人の女性な姿も妖艶で好きです。
何というか、この作品はキャラの葛藤やら性格やらをちゃんと描けていて面白かったです。
貶めるような感想は気にしないで下さい。そうやって作者の方々が苦しむのを見て楽しんでいるだけですから。
最後の家族みたいな3人の描写はとっても和みました。
これからも頑張って下さい!
21.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのギャグとして面白かったです
作者さんの安心して読める話は、始めて読めた気がします
まあ、ある意味1番不穏なネタかも知れませんがw
22.無評価名前が無い程度の能力削除
こういうネタが嫌いな人はいるでしょうね
自分としては吊るされてるうどんげが一番酷い扱い受けてるとおもいますが
28.703削除
上手く4人のところに順番に向かわせるように文章を書いたなーと。
ギャグとしては最後の段落があった方が良いのかもしれませんが個人的には蛇足かなと。