Coolier - 新生・東方創想話

験担ぎの妖怪

2013/06/16 15:37:47
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「何が水無月よー…… 雨ばっかりじゃない」

サニーミルクがうなだれる様にそういう。
朝から厚い雲が幻想郷を抱いてしっとりと雨を降らせている。
輝ける日の光としては、一刻も早く晴れることを祈るばかりであった。

外の世界では、六月ごろに現れるまとまった雨__つまるところ梅雨のことだが__をもたらす物を梅雨前線などと呼んでいる。
それは偏西風や気候帯の影響で日本独自の“文化”となりつつある。それはとても簡単に、そして論理的に説明のできる現象だ。
しかし、ここではそんなことは通じなかった。
何せ、ここは妖怪や妖精が跋扈する幻想郷だからである。

サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア、の光の三妖精が棲む大木の中はいくら棲み心地が良いとはいえ、降りしきる雨のせいで少しばかり湿気っていた。

サニーがふと思いついたように大声で言った。
「暦を作ったのはもしかすると反対側に住む人だったりして!」
「まあ、とにかく此処が晴れないと意味ないけどね」
「あらスター、早いのね」
「それはこっちの台詞だと思うんだけど……変な夢でも見たの?」
「いや別に」

梅雨は龍神の恵みとされ、大地を潤す作用がある事は知られている。
それは毎年恒例ともいえる、ある種の『行事』だった。
まれに空梅雨と呼ばれる、殆ど雨の降らない年もあるが、龍神はそう甘くは無いということだろうか。

「ってルナはさっきから何読んでるの?新聞?」
太陽のごとく底抜けな明るさと韋駄天のような早さで立ち直るサニーの勢いは止まらない。
「あーこれ?借りてきた本よ。どうにかしてこの苦難を脱出したいから」
「毎年対策は練ってあるんだけどねぇ……」

少し時間がたって、ルナは文献の様なものを見つけたようで、些か高揚した様子で話し始めた。
「対策法を見つけたわ!」

___

「ほうほう、で、その照る照る坊主って元は妖怪なの?たまに作ったりするけど」
サニーは文献らしきものを読んで大分納得した面持ちである。
「よくわからないけど、とにかく親玉を見つけて頼めばいいみたい」
ルナの言葉に、疑問を持ったスターが呟いた。
「軒先とかで首を吊る妖怪なんて聞いたことないわね」
「いや、まあ、そうなんだけど……」

「うーん」
三匹はどうにかしてその晴れを喚ぶ妖怪に快晴を喚んでもらえないかと方法を画策していた。
散々悩んだ末に、「とりあえず調べない事には始まらない」と、調査を開始することにした。


博麗神社___


「ねぇ、サニー」
ルナが尋ねる。
「ん?」
「何で神社から始めるの?」
「雲を追い払う神様がいるかもしれないじゃん」
「……隠れる意味はあるのかしら?」
「……ちょっと出づらいし」
「あら、魔理沙さんが来たわよ」

おどおどした妖精たちとは無縁な、いかにも晴れを喚びそうな巫女と雨まで撃ち果たしそうな魔法使いはおもむろにいつもの他愛ない会話を始めていた。

「あーいつになったらこの雨は止むんだ。毎年だが大雨は敵わん」
「なら来なければいいじゃない、神社に」
おそらく魔法の森は瘴気と湿気でもっと悲惨なことになっているだろう。
魔理沙のことだから、家のキノコの伐採もしなさそうだ。
「いいだろ?わざわざこんな神社に参拝しに来てるんだ。参拝客はもっと丁寧に扱うべきだぜ?」
「賽銭を入れないのは参拝客に数えないの」
そう霊夢が言い放つ。
「むぅ。と、本題を忘れそうだった。霊夢、てるてる坊主って知ってるか?」
「知らないわけないじゃない」

てるてる坊主。もはや知らない者はいないだろう。雨の降る日に、もしくは雨が降ってほしくない日の前日に布で作られた簡易型首つり人形のことである。
もし晴れたら顔を書かれて川に流されるが、もし雨が降ったらその首は刎ねられてしまうという、
世の中の不条理を表す人形として、旧来から習慣として続いている。

「だろうな。そのてるてる坊主だが、由来がどんなのか聞いたことがあるか?」
「そういえば……無いわねぇ。なんとなくやってるってだけで。でも、あれって一種の呪いでしょ?その割には効果薄いじゃない」
日ごろの不満なのか、最後の方は半ばひとりごちるような言い方だ。
そんな霊夢の愚痴をせせら笑って魔理沙は言う。
「念が足りないんだよ。ちゃんとした作り方があるらしい。この前借りてきた本で見つけたんだ」
「盗ってきた本ねぇ」
「借りたんだ。どうやらその文献によると、その坊主はしっかり起源があるらしい」
「そうすれば雨もやむかしら」
そっけない応答とは裏腹に、霊夢はかれこれ二週間近く降ろうとしている雨に相当参っているらしく、魔理沙が話すてるてる坊主の話題に食いついていた。

__

「やっぱり魔理沙さんたちも梅雨にまいっているのねぇ」
サニーが感心したように言う。
「でも、あれのちゃんとした作り方って聞いたことないわね」
「布を丸めて人形みたいにするだけじゃないの……?」

__


「昔、ある街にそれとなく綺麗な女の人が居てそれとなく切り紙がうまかった。とある日に、その街にそれとなく大雨が降った。
人達は雨がやむように願ったが効き目は無かった。そんな中、その切り紙がうまかった街の娘が夜遅くに祈願したら、娘の命と引き換えに雨がそれとなく止んだそうだ」
「相変わらず雑に伝説をまとめるのね」
「そこでだ。その娘を偲んで、毎年雨が降り続くと女たちに命じて切り紙を作らせ、門に飾った」
「うーん…… じゃあ切り紙をつるせばいいのかしら?あまり面倒なことはしたくないんだけど……」
魔理沙の言う伝説を聞いて、霊夢は少し残念な様子を見せた。どうやらさらに楽がしたいようだ。

「そんなんだから賽銭も集まらないんだろ。まあとにかく、元々は布人形じゃなくただの切り紙だそうだ。それならアリスかいつぞやのえんがちょに頼めばいいさ」
そう言いながら指をクロスさせてえんがちょをした。

__

「紙人形を作ればいいのね!よーし戻って早く作るわよ!」
ルナがサニーの言葉に同調する。
「そうね!善は急ぐにしかず、ね!」
(……そんな言葉あったかしら?)
三妖精は愉しげな様子で棲家に戻っていった。

__

「あら?魔理沙、アリスでも呼んだの?大分都合がいいじゃない」
鳥居の向こうから現れた人影を見て魔理沙に訊いた。
「いや、そんな覚えはないがな」
それを聞いて神社を尋ねてきたアリスがくすっと笑った。
「あぁ、これは違うのよ。大分都合が良かったみたいだけどね。森の瘴気がひどくなってきたからとりあえず遊びに来たのよ」
「賽銭を入れてくれる客はこないのかなあ」
霊夢の愚痴を無視して話を続ける。
「それで、照る照る坊主ですって?そんなのしなくてもこの調子だと明日位に晴れるかもしれないわよ?」
魔理沙がその言葉にすぐに反応した。
「どうしてそんなことが判るんだ?河童の天気予報器でも貰ったのか?」
「貰ってないわよ。そういう気がするのよ」
「お前もどこぞのわがまま吸血鬼みたいなことを言うようになったな」
「アレとは違うわよ。ちゃんとした確証があるの。教えないけど」
「ケチだな」
「ケチよ」
「私は晴れれば何でもいいのよ。あとお賽銭が入れば」
「夢のまた夢だな」
霊夢の希望は、雨がやむ確率の二割八分六厘にも満たなそうだ。


__


「「「できたー!」」」
妖精らしいというよりは子供が作ったような独特の雑さを持った紙人形ができた。
「これを吊るせば完成ね!快晴待ったなしよ!」
もう晴れたかのようにサニーがはしゃぐ。
「明日が愉しみね。さあ明日に備えるわよー!」


翌日__


「あ!晴れてるー!」
「やっぱり正しいやり方だと効くのね!やったわサニー!」
「やったわよスター!」
「なんか出来過ぎな気がするけど……まあいいわよね!」
いつもは慎重なルナも晴天はうれしいようだ。
「さーて外で冒険でもするわよー!」
「「おー!」」


博麗神社__

「結局あいつの予言は当たったのか」
魔理沙が呟く。
「ま、晴れる分にはいいけどね」
「なあ、霊夢、心当たりはないか?アリスが天気を当てた理由」
少し考えて霊夢は言った。
「心当たりねぇ。どうせあいつのことだから新月とか人形の調子とか言うんじゃない?
それより久々の晴れ間なんだから愉しくゆっくり過ごせばいいのよ」
「いつもそんな感じがするが……まあいいか」



___掛掃晴娘(グアサオチンニャン)。
大陸に伝わる伝説である。神に召された晴娘を思って作られた風習と言う。
箒を持った娘の人形を紙で作り、門または軒先に吊るし晴天を祈った。
日本には平安の時代に伝わり早くも現在と変わらない形になったとされる。
勿論、掛掃晴娘は妖怪ではない。
故に、晴れを喚ぶ魔力なども持ち合わせてはいない。
ならば、何故今まで伝わってきたのか___

風習、慣習というのは不思議なもので、生活に染みついてくると当然偶然で効果が出たように見える時もある。
それによって信仰を得れば、面白いことに実際にそれだけの能力を持つ存在になりうるのだ。
……といっても、彼女たちの人形が効果を発揮したかどうかは別の話だ。


験担ぎ人形が風に吹かれて揺れる。
梅雨は明け、空からは陽気が吹き込んでくる。
幻想郷はそのもとでいつもと同じような、牧歌的な一日を始めていた。


__今年も、幻想郷に夏が来る。
「やっぱり、魔力を込めて作ると効果があるのかしら」
「ハレジャネーノ?」
「偶には晴れを愉しんでも罰は当たらないでしょうし、ね」
____

読んでくださってありがとうございます。梅雨はあまり好きじゃないです。早く梅雨明けしてほしいです。
相変らず雑な文章ですいませんでした。
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コメント



0.260簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
いかにも三月精でありそうな話でした。原作のネタを拾っているあたりが素晴らしいです。
4.90奇声を発する程度の能力削除
とても三月精らしく面白かったです
6.80名前が無い程度の能力削除
人里に行って龍神様の像を見れば、大体の天気はわかる気もするけどね。
7.100非現実世界に棲む者削除
あ、幻想紀行の方でしたか。
どうも、はじめまして。
やっぱり面白いですね貴方の作品は。
ネタがしっかりしてて文章も上手いので、「うんうん、やっぱりいつもの幻想郷だな」って読んでいて納得します。
非常に三月精らしいお話でした。
9.60名前が無い程度の能力削除
三妖精がとても「らしい」ですね。和みます。
12.803削除
面白いですが、やや題材を料理しきれていない感。
ただ面白かったのであまり気にしないで下さい。