Coolier - 新生・東方創想話

ビッグなお賽銭

2013/06/15 15:20:27
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 博麗神社に遊びに行ったら、賽銭箱に紅魔館が入っていた。


ビッグなお賽銭


 「何で紅魔館が賽銭箱に入ってるの?」

 魔理沙は単刀直入にこう切り出した。

 実はその前に、とりあえず霊夢の頭を一発殴っておこうとか、
 そう言ったら「痛くしないでね」と注文を付けられたとか、
 それは難しいと言ったら「じゃあ優しくしてね」と上目遣いで見られたとか色々なことがあったのだが、ここでは割愛しておく。

 うーん、と霊夢は唸っていたが、やがて、何かを閃いたように手を挙げた。

 「あれは正月のことだったんだけど」
 「今は6月だぜ? 随分遡るな」
 「今年も今年で誰も来なかったわけよ、まあいつも通りね」
 「私は来ただろ」
 「それで、あまりにも誰も来ないから、自分で自分の神社に初詣をしようかと思って」
 「少しは聞いてくれと言いたいが、まあいい」
 「んで、お願いしたわけよ。『お賽銭が欲しい。ビッグなお賽銭が欲しい』ってね」
 「ああ」
 「これなんじゃないの? ビッグなお賽銭」

 魔理沙は空を見上げる。
 推定40×50×30メートル。なるほど、こいつはでかい。
 問題があるとすれば、こいつが賽銭箱の中に入っているということだが。
 ついでに言えば、紅魔館は天井側が下になって入っている。
 地下がどうなっているのかとか、細かいことを気にしてはいけない。

 「日頃の行いがきっと良かったせいね。神様は居るかどうか知らないけど、神頼みも効き目があるもんね」
 「その発言に色々突っ込みたいんだが、その前にだ」
 「何よ」
 「神様って、コイツをここにダンクシュート決められるほどに力持ちなのかい」
 「魔理沙アンタ頭おかしくなったの?」

 霊夢があたまの上で指をくるくるとやる。

 「神様の委託を受けて紅魔館が自力で来たに決まってるじゃないの」
 「なあ霊夢、さっきの言葉そのまま返して良いか?」
 「何でよ」
 「何でも何もあるか。まだ私の話の方が信憑性あるだろ」
 「いいや、紅魔館は自力でやってきたのよ。その状況証拠だってある」
 「ほほう、そいつを聞かせてもらおうじゃないか」

 魔理沙は半分付き合ってられない、という顔をしつつも、もう半分は霊夢の言うことに耳を傾けている。
 これが有情、もとい友情である。

 「三日前から洗濯物が乾きにくくなった」
 「なるほどな。ってちょっと待て」
 「何よ」
 「それめっちゃ近くに来てるよね、多分目視で紅魔館が確認出来るレベルだよね」
 「灯台下暗しとはこのこと。いや参った参った」
 「やっぱり殴っていいか」

 と言いつつ魔理沙は痛くない程度に霊夢をポカッとやった。
 霊夢の目がハートになっていたので、もう一発殴るのは止めておいた。

 「分かった分かった。ちゃんと見えてたわよ。紅魔館」
 「そういうの、状況証拠って言わないんじゃないかな。あと目やめろ、気持ち悪い」
 「多分一日三メートルくらい動いてきたんじゃないかな。どうやって賽銭箱に入ったかは知らないけど」
 「三年かけて自宅の前へ、ってか」

 魔理沙が謎のダンシングポーズを取ったが、霊夢には気付いてもらえなかった。
 若干凹みつつも、魔理沙は言葉を続ける。

 「紅魔館が自力でやってきた。そこはまあいい。いや、厳密には良くはないんだが」
 「良いじゃないの。これだけのお賽銭、きっと十年かかっても使い切れないわよ」
 「え、お前これ貰う気で居るの?」
 「こうして賽銭箱に入っているのよ。賽銭箱に入ったものは巫女のもの、って決まってるじゃない」
 「いや、普通はそうなんだろうが。だけどなぁ……そうだ」

 魔理沙は何か思いついたような顔をする。

 「紅魔館だよ、紅魔館。ということは、レミリアなり咲夜なり、誰かしら居るかもしれないじゃないか。まずそいつらに話を聞くべきだろ」
 「チッ、気づいたか」
 「お前悪徳だな、悪徳巫女」
 「いつも魔導書を盗んでいるどこかの盗賊には言われたくないわね」
 「知的好奇心の追求と言ってくれたまえ」
 「んで、レミリアを呼ぶの? 呼ばないの?」
 「当然呼んでとっちめてやる。どうせここに紅魔館が来たのもあいつの気まぐれだろ、洗いざらい吐かせてやるさ……おーい、レミリア、居るんだろ?」

 シーフから警察役にジョブチェンジした魔理沙が呼びかける。

 「レミリアお嬢なら居ませんよ。いや、居るけど返事は出来ない状態と言ったほうが正しいでしょうか」
 「ん、何だこの声? 誰だ?」
 「あなた達の目の前に居るものですよ」
 「ん、どういうことだ? 建物の中の誰かか?」
 「私です、紅魔館です」

 しばしの沈黙。

 数秒経って、魔理沙は渾身のツッコミを入れるべく口を開いた。

 「紅魔館よ。色々聞きたいことがあるんだが、まずこれに答えてくれ」
 「はい、何なりと」
 「……お前、喋れるの?」
 「何をおっしゃいますやら。現にこうしていま会話しているでしょう」
 「なるほどな。こいつは夢なんだ。賽銭箱に紅魔館が入っているのも、紅魔館が喋るのも全部私の見ている悪い夢なんだな。はは、ははは」
 「ウチの神社も喋るわよ」
 「やめろー! 現実逃避をさせてくれー! これ以上追い打ちをかけないでくれ!」

 魔理沙が箒に乗ってエスケープしようとしたので、霊夢がダイビングキャッチでそれを妨げた。
 揉み合いになる。
 やがて、揉み合いになった中霊夢の顔がうっとりしてきたので、魔理沙は我に帰った。
 現実逃避より、友人の状態の方が大事という、正にこれぞ友情である。

 きっと違うと思う。

 「紅魔館も神社も喋る、と。今まで生きてきた常識ってのが今日一日で崩れ去った気分だ」
 「はぁ、何かすいません、私が喋ったばっかりに」
 「マリササン、コンゴトモヨロシク」
 「神社、頼むからお前だけは喋らないでくれ。収拾が付かなくなる」
 「今の私だけど」
 「紛らわしいことすんな霊夢!!」
 「スイマセン、マリササン」
 「あ、今のが神社ね」
 「誰か助けてくれ」

 博麗神社は最近では珍しいほどに賑やかになっている。
 四人の話し声が境内に響く。うち二人は無機物だが。

 「で、だ。紅魔館よ。幾つか聞きたい事がある」
 「なんでしょうか」
 「どうやってここまで来た? そして、その理由は何だ。館の中の誰の企みだ?」
 「最初から順にお答えしましょう。どうやってここまで来た、については私のこの健脚にて……」
 「もう突っ込む気力もない」
 「ああ、私の神社も」
 「はい、次」
 「理由、ですが。こちらの神社君から手紙を頂きまして。『ここの巫女がビッグなお賽銭を欲しがっている。ここは一つ、手を貸して貰えないか』と」
 「なあ、私もう色々と投げ出していいか?」
 「マリササン、ガンバレ」

 段々となげやりになっていく魔理沙に対して、霊夢はこの問題の本質を見抜いていた。

 「ねえ、紅魔館。あなたがどうやってここまで来たとか、そういうのはどうでもいいの。私が気になっているのは、もっと重要な点」
 「と、おっしゃいますと」
 「あなた言ったわよね。『居るけど返事は出来ない状態』って」

 ぴくり、と魔理沙が顔を上げる。

 「そういや、そんなこと言っていたな。なあ、レミリアが居ないなら咲夜でもいい。誰か居ないのか?」
 「それは……」
 「ん、どうした、言い難い事でもあるのか」
 「……全滅です。紅魔館の面子は全員、一人残らず」
 「なんだって!?」

 幻想郷の中でも一大勢力を築いている紅魔館。
 その紅魔館が、一人残らず全滅とは、穏やかじゃない。

 (まさか、さっきの理由はデタラメで、本当に此処に来た理由は……)

 魔理沙の頭がフル回転する。
 普段はシーフ家業に精を出している彼女だが、一度こうして魔法使いモードに入るとその集中力は並大抵のものではない。

 「なあ、紅魔館よ」
 「みなまで言わないで下さい。私にも分かっていますよ」
 「じゃあ……」
 「ええ、そうです。彼女らは全員……」

 紅魔館は一呼吸の後、

 「私の歩行リズムに耐え切れず、酔ってます」

 「……ああ、そう」

 真実を告げた。
タグに偽りなし(キリッ
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コメント



0.430簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
ノンストップコメディでした。笑えます。かなり。
8.90名前が無い程度の能力削除
この界隈も長いしたいていのネタはやり尽くしたと思っていたのにまさか紅魔館がお賽銭になる日がこようとは、予想出来なかったです
9.10名前が無い程度の能力削除
何が面白いのかさっぱりわからない
13.無評価3削除
皆様コメントありがとうございます。
どれも大変励みになります。ありがとうございます。
14.80名前が無い程度の能力削除
紅魔館キャラ濃いなあ。オチがちょいと惜しかったです。