Coolier - 新生・東方創想話

人形使いと狸

2013/06/12 00:31:08
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 一週間ぶりに人形劇を披露するため裏店を訪れたアリスは、木戸を抜けると直ぐに目に入ってきた看板を見て、思わず首を傾げていた。
 大きいせいでやたら目に付くそれは、記憶が確かなら、先週までは無かったはずの物だ。

「お悩み事、何でも解決いたします、か。幾ら何でも、この一言だけじゃ、大雑把すぎるんじゃないかしら」

 そう書かれている、やけに達筆な看板へ視線を注ぎながら、アリスは井戸の近くまで移動すると、手にしていた商売道具の詰まっているトランクを下ろした。この場所が人形劇をやるには丁度良いということで、大家に頼んで使わせてもらっている。
 アリスはここのところ毎週のように、人形劇をやるため人里の裏店を訪れていた。人形遣いとしての自分の腕を確かめたいと思ったからだった。
 長年手足のように扱ってきたこともあって、人気を集めることに関しては自信があったのだ。
 それはただの自画自賛ではなく、こうして子供たちの前で人形劇を披露してそれが話題となり、この裏店に住んでいる子供たち以外も集まっていることが、何よりの証拠と言えるだろう。
 時には洗い物をしている女房たちも、手を止めて見入っているときがあるほどだ。当初の目的は達成されたと言って良いが、そこでアリスは満足せず、さらに技術を磨くため裏店通いを続けている。
 そうしている内に、アリスは段々と人形の外見が気になり始めていた。どれだけ気合いを入れて人形を作っても、所詮人形である。人間のような外見など、望むべくもない。だがこれを何とか出来れば、自分は人形遣いとして、さらに高みへ昇ることが出来るだろう。しかし、自分の人形を操る程度の能力ではどうしようも無いことも、アリスは良く分かっていた。
 舞台設営の為の下準備をしながら、ふと、悩みを何でも解決しますと言う看板が気になった。看板が立てかけられている家は、先週まで空き家だったはずだ。
 以前借りていた老婆が亡くなってからこっち、まだ借り手が見つかっていない。先週、そう大家から聞いたことを、真っ赤に染まりきった落ち葉を隅へ追いやりながらアリスは思いだしていた。

「それじゃあ、ちょっとお願いするわね」

 アリスはトランクの中から人形を取り出すと、彼女らに設営の準備をさせ始め、自分は看板の立てかけられている家へと近づいた。

「えっと、揉め事仲裁、尋ね人捜索、悩み事解決、借金督促……。その他様々な案件、解決いたします、か」

 遠くから見たときは分からなかったが、達筆な文字の下には引き受けてくれるであろう事柄が、幾つか書かれていた。
 なるほど、内容が大雑把な看板というのは、具体的に何をするかも決まっていない、よろず屋という商売に合っているのかもしれない。料金を書いていないのは、相談者の抱えている悩み事の内容や、それを解決するために使った費用などが毎回変わるせいだろう。
 いっそのこと、ここに頼んでみようかとアリスは考えた。どうせ自分一人では解決できない悩み事なのだから、こういう商いをしている者に相談してみるのも良いかもしれないと、半ば投げやりな気持ちになってしまっている。駄目で元々、これで解決すれば御の字ではないか。
 早速アリスは戸に手をかけたが、ぴくりとも動かなかった。どうやら、店の主人は留守にしているらしい。それがアリスの心を幾分か冷静にしてくれたようだ。この店が信用に値するか、誰かに聞いてみてからでも遅くはないと思ったのである。この裏店に住んでいる人間なら、誰が客としてきたか見ているかもしれない。それが知り合いなら、話を聞くことは容易いだろう。
 井戸端へと目を戻すと、人形たちが設営を終え、子供たちが今か今かと待ちかまえているのが見えた。先ずは人形劇をして、集まってきた人間たちに聞き込むのが一番だ。アリスはそう考えると、観客たちの元へと戻っていった。







 裏店の住人たちから話を聞き、霧雨魔理沙が客としてきたらしいことを突き止めると、アリスは彼女からよろず屋についての話を聞こうと決めていた。
 魔理沙から話を聞きたければ、気持ちよく酔わせてしまえば良いと相場は決まっている。幸いにも秋も深まったこの時期は、酒肴に出来る食べ物は多かった。アリスは人形劇を終えてから自宅へ帰る間に、青物屋に立ち寄って里芋や舞茸等を買い求めていた。
 今は人形を魔理沙の元へ使いにやって、自分は料理に精を出している。魔理沙を呼び出すための口実は、たまには家で酒を飲まないかというシンプルなものだった。
 普段は洋風の料理ばかりだが、魔理沙が和食派ということは分かっているので、今日は舞茸の天ぷらに、里芋の煮っ転がしにしている。
 それに、寒い中やって来る魔理沙のために、熱燗も用意してあった。魔理沙や霊夢でも招かなければ作る機会も食べる機会も無いので、新鮮な気持ちで料理に精を出している。

「おーい、アリスー。来てやったぞー」
「はいはい、大声を出さなくても聞こえるわよ」

 アリスが出来上がった料理をテーブルに並べていると、戸をたたく音と一緒に魔理沙の声が家の中に響いた。外は随分と肌寒くなってきているのだから、早く開けてあげないとねと思いながら、アリスは人形にドアを開けさせた。
 寒い寒いと手を擦り合わせながら入ってきた魔理沙は、戸を開けてコートを受け取ってくれた人形に礼を言うと、ベッドの上に腰を下ろして息を吐いた。その目は家に入ってくるなりテーブルの上に注がれていて、準備はまだかと訴えかけているようだ。アリスが珍しく和食を作ってご馳走してくれるというので、期待していたらしい。

「美味しそうだな、それ。アリスもそういうの作れたんだな」
「あんたと違ってずぼらじゃないからね。和食だって、一通り作れるようになってるのよ」
「なるほどなぁ。私も魔法使いらしく、洋食を作れるように努力してみようかなぁ。私だってこう見えて、器用なんだぜ」

 何せ、魔法使いってのは洋風なイメージがあるだろ。そう言う魔理沙の言葉に納得しながら、アリスは人形に手伝わせながら出来上がった料理を並べ終わった。パチュリーもアリスも洋食派で、そうでない魔理沙が珍しいのだ。
 最後の料理を作り終わったアリスは、魔理沙へ椅子に座るよう促した

「さっきから、腹の虫が鳴りっぱなしだ」
 
 そう言いながら、魔理沙が席に着いた。

「やっぱりアリスの方が器用だな。私にはそんな芸当、無理だ。自分の手足みたいに人形を動かせるんだから、そうそう真似できるもんじゃないし」
「これも魔法を使ってるのよ。魔理沙も勉強すれば、少しは動かせるようになるわ。何せ、魔理沙だって魔法使いなんだから」
「そんなものなのかな」
「そんなものよ。そういう素質があるから、あの時だって人形を貸してあげたじゃない。地上からのコントロールだけで、あんなに動かせるわけ無いのよ」
「なるほどなぁ。しかし、やっぱりよく動いてる。人形とは思えないもんな」
「……動きは、特に気を使っているからね」

 それから二人は他愛もない話をしながら、酒肴に舌鼓を打った。魔理沙のことだから、いきなり本題に入っても話してくれないだろう。彼女がへそ曲がりだと言うことは、長年の付き合いで分かっていた。
 自分の抱えていた悩み事について話したくないからと、よろず屋の事すら話さずに帰ってしまうかもしれないのだ。魔理沙の悩みを聞けないことは別に良いのだが、それは困る。先ずはしこたま酔わせてしまって、気分が良くなった頃に、よろず屋について切り出そうと考えていた。
 アリスの目論見通り、魔理沙は四半刻も経った頃にはもう、酷く酔っぱらっていた。空になった徳利が台所の流しに積みあがっている。魔理沙の美味い美味いという言葉に、彼女ほどではないが、アリスも気分が良くなっている。精を出した甲斐があったというものだった。
 話は酔いと同様に盛り上がっていて、くだらない話題でもげらげらと笑い合っていた。これだから、魔理沙と酒を飲むのは楽しいのだ。
 さて、ここが聞き時だろうとアリスは思った。今なら魔理沙も気分よく話してくれるだろう。

「ところで、人里で変な物を見かけたんだけど、魔理沙は知っているかしら?」
「うん? どんな物だ?」

 アリスが看板のことを言うと、魔理沙はそれなら私も世話になったぜ、と答えた。やはり少女が見かけたという白黒は魔理沙の事だったかと思いながら、アリスは杯をぐいと傾けた。
 それを見て良い飲みっぷりだと魔理沙は笑い、自分も杯を空にしながら彼女はよろず屋を尋ねたときのことを、上機嫌そうにとうとうと語り出したのであった。





 次の日、アリスは早速裏店を訪れていた。昨晩は遅くまで飲んでいたが、昼間まで寝ていたこともあって、すこぶる調子が良い。それに加えて魔理沙が上機嫌で、あそこのよろず屋は信頼出来ると太鼓判を押したものだから、調子が良いというのはそれに対する期待感も関係しているらしかった。
 魔理沙は結局どれだけ酔わせても、自分がどんな悩みを抱えていたかまでは言わなかった。しかし呂律の回らない口で、熱心に悩みを抱えているのなら、あのよろず屋に頼めと言っていたのだ。それだけ言うのだから、期待感に胸を膨らませるというのは、仕方がないことだろう。
 今日のアリスは人形の入ったトランクと一緒に、菓子折りを手に提げていた。相手の覚えを良くしておけば、仕事の時により一層の力を注いでくれるかも知れないと思い、里にある和菓子屋で調達してきたのである。アリスの姿を確認した子供たちが駆け寄ってきたが、持っているのが人形たちではないと分かると、残念そうに三々五々に離れていった。
 ありすは看板の掛けられている長屋の戸に近寄ると、がんがんと叩いて呼びかけた。

「お仕事、頼みたいんだけど」
「おう。開いておるから、遠慮せずに入って来んかね」

 促されて戸を開けたアリスの目に入ってきたのは、上がり框と部屋の境目に置かれた机と、その向こう側に座っている二人の女性の姿だった。片方は眼鏡をかけていて、アリスと目が開うと微笑を浮かべた。
 背格好は自分と対して変わらないが、落ち着きのある色合いをした着物と、全身から溢れてくる雰囲気から判断するに、彼女がよろず屋の主人なのだろう。
 見た目は人間そのものだが、昨夜話を聞いて、主人が妖怪であることは分かっていた。彼女は化け狸であり、精々化かされないように気をつけろよと、魔理沙が冗談混じりに話したことを、アリスは思いだしている。

「貴方がよろず屋で、どんな悩みでも解決してくれると聞いたから来たのだけれど、引き受けてもらえるかしら」
「ふむ、そうホイホイと絶対に出来るとは言えんがな。何事も確実だと言うと、過剰な期待を持たれてやりにくくなるでのう。ちなみに、その話は何処の誰から聞いたんじゃ?」
「霧雨魔理沙から。貴方が悩みを解決してあげたそうじゃない?」
「ああ、あの魔法使いの知り合いか。それなら話は早いし、儂がこうして化けている必要もないわけじゃな」

 言うなり、主人の足下から煙が立ち上った。なるほど、これが化け狸が術を使うときに沸き上がってくる煙なのだろう。傍らに座っていた女性の姿も、すっかり見えなくなってしまっている。
 ややあって煙が晴れると、主人が先ほどまでとは違う、装飾が施され、色合いも異なる服装に身を包んで座っていた。傍らにいる女性も同様である。さらに服だけではなく、彼女たちの頭には狸の耳が、背からは尻尾が顔を出していた。

「普段は、裏店の連中の目もあるからのう。人目に付くような場所なら、極力、人間のように化けておくことにしておるわけじゃ。さて、魔理沙殿から話を聞いておるなら承知かもしれんが、儂が佐渡の二ッ岩。皆はマミゾウと呼んでおるよ」

 マミゾウと名乗った狸は、言い終わると人好きのする笑顔を浮かべてみせた。





 居間へと通されたアリスの話を一通り聞くと、マミゾウは傍らに座っている女性へ、お茶のお代わりを持ってくるよう言いつけた。それから腕組みをするとアリスを見て、なるほどと呟いた。その声には断ろうというような感情は一切感じられず、自然と自分の中で期待が高まっていくのを、アリスは感じている。

「確かに、人形の姿を儂の術で変えることなど簡単な事じゃよ。人形であれば儂の妖力も利きやすいし、あんさんが普段から使っておるならなおのことじゃ」

 マミゾウが言うには、魔法使いであるアリスが普段から使役している人形たちは、自然と魔力や妖力を受け付けやすい性質へと変化しているらしい。付喪神とまでは行かないが、それに近しい状態にあるとマミゾウは言った。
 アリスがなるほどねと頷きながら傍らのトランクへ視線を移したとき、奥に引っ込んでいた女が代わりの茶と一緒に、アリスの持ってきた茶菓子を盆に乗せて戻ってきた。マミゾウは礼を言うと、茶菓子を一口含んだ。

「それで、効果はどれぐらい持つのかしら」
「一週間は儂の術が持つじゃろうな。効き目が切れる前に、また儂の所に来てくれれば、術をかけなおしてやるからのう」
「なるほど、アフターサービスもちゃんとしてくれるというわけね」
「うむ。それが儂の商売の売りでな。借金であれば無利子無金利、悩み事であれば根っこまですべて解決するわけじゃ」

 勿論、出来る範囲でなとマミゾウは付け加えた。自分の実力を見誤らず、義理人情に生きるのが長生きが出来るし、周囲とも美味く付き合うことが出来る秘訣だという。なるほど、それをずっと続けていたからこそ、彼女は親分になれたのだろう。

「さて、他に聞きたいことはあるかのう?」
「ええ。貴女の商売に対しての入れ込みようはよく分かったけど、肝心の術がどれほどのものか、見せてもらないかしら。それを確認しないと、任せるわけにはいかないわ」

 術の出来が気になるのは当然のことだが、結果は先ほどこの家に入った時に見た姿から、分かり切っているようなものだった。それに、万が一にも不備があるような術を自信ありげに商売として使うようなら、これまでに訪れた客に対しても、満足のいく結果を残すことは出来なかっただろう。
 この質問自体は、アリスの抱いている少しばかりの不安感から来ている部分が大きかった。実際に術を見せて貰えば、その不安感も消えて無くなるだろうと思ったのだ。
 はたしてマミゾウは、確かにのうと呟くと、アリスの傍らに置いてあるトランクへと視線を移して言った。

「それは人形が入っておるんじゃろう? 一つ、貸してみてはくれんか」
「ええ、いいわよ」

 アリスから人形を受け取ったマミゾウは、何やらか呟いた。すると人形が煙に包まれ、煙が晴れるとそこには、まるで外見が人間のように精巧な人形が座り込んでいた。思わず感嘆の声を上げてしまう。よく見れば人形だと分かるが、それでも居間までアリスが苦心して作り上げてきた人形よりも、より人間のようだ。
 アリスが満足していることに気が付いたのか、マミゾウは「流石は儂じゃのう」と頷いている。これなら金を払うに値する仕事だと、アリスは思った。

「さて、今日の仕事の代金をいただくとしようかのう」

 言うと、マミゾウは傍らにあった帳簿を寄せて、前にも似たような仕事があったらしく、相場は幾らだったかと言いながら中身を改め始めた。





 アリスの仕事を請け負ってから六日経ち、その日の朝方に、マミゾウは彼女の家を訪れていた。術のかけ直しにはまだ日がある。しかし、少し気になる話を魔理沙から聞いたので、足を運んだのであった。
 戸を叩くと、少しして人形が中から現れた。童子のようにくりくりとした瞳が、こちらを見上げている。自分の術とはいえ、背格好以外はまるで人間のようにしか見えないその姿に、マミゾウは満足感を感じていた。これなら収穫祭の舞台に出ても恥ずかしく無いどころか、皆を驚かせることが出来るだろう。
 収穫祭でアリスが人形劇をやるというのは、魔理沙から聞いたことの内の一つだ。誰に見せても恥ずかしくない舞台にしたいと、飲み明かした夜にアリスはこぼしていたらしい。なるほど、それで自分の所にきたのかと、マミゾウは納得していた。
 人形に案内されるまま、奥へと進んでいく。途中、あちこちで家事をしている人形たちが見えた。全てがマミゾウの術をかけられた物ではなく、アリスが作ったそのままの人形たちの方が多いように見える。しかしその中に、人間そのもののように見える人形が混じっている。
 普段から人形屋敷として不気味な雰囲気に包まれていると聞いてはいたが、小さい人間が混じっていることで、不気味さが増しているようだ。
 人形に案内されるまま向かった先は、客間ではなく寝室であった。そこに設えられたベッドの上に、アリスは腰掛けていた。

「あら、マミゾウさんね。術のかけ直しはまだまだ先だと思っていたけど、もう一週間経ったのかしら」
「まだ一週間は経ってないが、少し気になることを聞いたのでな」

 マミゾウの姿を見て、アリスは微笑みを浮かべた。彼女の姿を見て、魔理沙が言っていた通りだとマミゾウは思った。アリスの姿を見たのは、実はあの時が初めてというわけではない。あの裏店で人形劇を見ているのは一度だけではなかったし、里の中でも見かけていたのだ。
 普段から人形のように白い肌だと思っていたが、それはまだマミゾウが見たことのある西洋人よりも少し白い程度であった。しかし、今見ているアリスの姿は、その時より青白く、やつれているように見えた。
 そこまで親しい付き合いをしていないマミゾウがそう思うのだから、アリスと普段からある程度は親しくしている魔理沙が、様子が変だと心当たりを当たってくるのは当然だろう。そして、彼女が一番怪しいと思ったのがマミゾウだったのだ。
 マミゾウは側にあった椅子に腰をおろした。ガラス玉のような瞳が、こちらを見据えている。アリスと視線を交わしたマミゾウは、彼女の目の下にクマが出来ているのを確認し、何をしているのか検討をつけていた。

「実はな、今日来たのは、魔理沙殿からあんさんに関して少し気になることがあると言われたからでのう」
「ああ、そういえば昨日来ていたわね。それで、何だったのかしら。私の様子が変だということだったんでしょう?」

 どうやらアリス自身にも、何故魔理沙が自分の様子が変だと思ってマミゾウの元を訪ねたのか、分かっているようであった。ならば話は早いと、マミゾウは続ける。

「それなんだが、どうしてそうなったのか話してはもらえんかね。儂が原因というのなら、いささか寝覚めが悪いんじゃが」
「……原因と言うのなら、ええ、確かにマミゾウさんよ」

 アリスはそう言うと、腕を動かし始めた。そこから魔力で編まれた糸が伸びているらしく、家事をしていた人形が彼女の周りに集まってくる。全てマミゾウが姿を変えさせた人形だ。
 アリスが巧みに糸を操ると、それらはまるで人間のような姿で、人間のような動きをして見せた。ぎこちなさなど、微塵も感じさせない。

「こうやって見ると、マミゾウさんなら良く動けている思うかもしれないわね。でも、なまじ外見が人間そのものだから、動きがどうしてもぎこちなく見えてしまうのよ。魔法使いの性かもしれないわね。魔法使いというのは、自分の研究を突き詰めてしまうものだから」
「ああ、紅魔館の魔法使いも埃っぽい図書館が体に悪いと自覚しながら、篭もって本ばかり読んでおるからな。それで、あんさんは寝食を疎かにしてまで、人形を扱う技術を磨こうとしておったわけじゃな?」

 本来、妖怪としての魔法使いは食事や睡眠を必要としない。しかし、理由はどうあれ、アリスはまだそれらが無くては駄目な体なのだと、魔理沙は言っていたのだった。
 今日までは妖怪としての体力で動けていたが、早晩にも倒れていただろうとマミゾウは思った。そうなると、アリスの他には人形しか居ないこの家では命に関わる事になっていただろう。

「ええ……」
「しかしな、それであんさんが倒れようものなら、魔理沙殿が悲しむぞ」
「魔理沙が?」

 目を見張るアリスに対してマミゾウは頷くと、魔理沙から頼まれたことを話して聞かせた。アリスの様子が変だから見に行ってほしい。もしかしたら、マミゾウの術が原因かもしれないと、魔理沙は予想していた。それは当たっていたことだが、もしそうなら、アリスを止めて欲しいと言われたのだ。
 話を聞いている内に、アリスの目に生気が戻っていった。
 普段は反目し合っていて喧嘩仲間のような関係らしいが、マミゾウは話を聞いているアリスの顔を見て、まんざらでもない様子だと感じていた。
 出来れば彼女を止めるのは魔理沙自身が良いのだろうが、あれには天の邪鬼な所もあるのだ。マミゾウにアリスを止めて欲しいと言ったのは、自分のやったことに責任をとれということだけではないだろう。そういうところが可愛らしいと、マミゾウは思っている。

「それに、魔理沙殿の前にも風見幽香が来ておったろう。どうやら魔理沙殿は、彼女から話を聞いて儂のところに来たらしいのう。少し気になると言われたとか、彼女も言っておったらしいな」
「幽香も……」
「アリス殿が人形使いとしての道を探求するのは良いが、心配してくれる良い友人を持っておるのだから、それを悲しませるような真似だけはしてはいかんぞ」

 他にも親しい友人は居るのだろうしな。そう言うと、マミゾウは立ち上がった。心配している相手が居ることを伝えたのだから、あとはアリス本人の意志次第である。暇を告げると、アリスは玄関まで付いてきた。その身体には、生気が戻ってきたように見える。
 マミゾウの上着を持ってきてくれたのは、普通の人形であった。

「収穫祭、楽しみにしておるからな。儂も、あんさんの人形劇を見られんくなるのは、寂しいからのう」

 マミゾウが言うと、アリスは微かに頷いたように見えた。





 マミゾウが収穫祭の片づけをしているところに、魔理沙がやって来た。微かに紅潮している頬と、爛々と輝いている瞳からは、先ほどの人形劇によほど興奮したらしいことが伺える。

「どうやら、あんたに頼んで正解だったみたいだな。アリスらしい、凄い舞台だったぜ」
「そりゃそうじゃよ。儂を誰だと思っておる。二ッ岩大明神に出来ぬことなど無いということじゃな」
「よく言うなぁ。私がアリスを心配したのは、そっちが原因だってのに」
「だとしても、上手いこと納めることが出来たからのう」

 アリスが使っていた人形は全て、マミゾウの術がかかっていない物だった。自分で縫った衣装を着せている人形は、しかし決して陳腐な物には見えず、魔理沙だけでなく、マミゾウも心から楽しめたのが、演劇が成功した証拠と言えるだろう。術をかけた人形たちは、今日にでも元の姿に戻っているはずだ。
 アリスが持ってきたトランクの中身がただの人形ばかりだったのを見たとき、マミゾウは安堵していた。マミゾウの説得が、功を奏したということだったからだ。

「まぁ確かに、結果オーライとは言うからな。その辺は良いや。どうせあんたも宴会に出るんだろ? 私は先に行ってるぜ」
「おっと、その前に言っておかねばならんことがある」

 何だ、と魔理沙は不思議そうな顔になった。

「依頼達成料をな、先に言っておいた方が良いかと思ったんじゃよ」
「あんた、ちゃっかりしてるんだな」

 苦笑いを浮かべる魔理沙に、マミゾウはからからと笑ってみせるのだった。
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コメント



0.880簡易評価
9.70名前が無い程度の能力削除
アリスの悩みについての心変わりが淡々とした描写だったのが少し物足りないかなと感じました。
20.80奇声を発する程度の能力削除
もうちょっと欲しかったかなと思いました
22.70非現実世界に棲む者削除
中々良い話なんだが、他の方がおっしゃるとおり、もう少しボリュームと一捻りが欲しかったかなと思ってます。
あと誤字がいくつか、変換ミスですね。
ありす→アリス
居間まで→今まで
23.1003削除
アリス、魔理沙の両人がマミゾウという仲介役を通じて魅力を高めているのが面白いと思いました。
ラストもすっきりしていていいですね。