Coolier - 新生・東方創想話

東方人形依 ~ Doll Reliance.

2013/05/26 11:16:05
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「うわー、綺麗」
 鈴仙が人形を持ち上げて羨ましそうに嘆息するのを見て、アリスが微笑んだ。
「ありがとう。丹精込めて作っているからね」
 アリスの前に座る霊夢はカップに紅茶を注いでくれる人形を指さしてアリスに尋る。
「本当に良く出来てるわよね、この子達。幾らなら売ってくるの?」
 アリスがそれを聞いて苦笑した。
「売りません。その子達は大事な私の家族なんだから」
 それを聞いて鈴仙は残念に思った。
 そうだよなぁ。貰える訳無いよなぁ。
 もしも買えるのであれば買いたかったのに。
 人形が欲しかった。昔持っていた人形は月に置いてきてしまった。今までは気にした事も無かったけれど、人形に囲まれて生活するアリスを見ると、何だか羨ましくなった。
 綺麗な人形を前に悩んでいる鈴仙を見て、霊夢が笑う。
「あんたも欲しいんでしょ?」
「え? いや、違」
 鈴仙は驚いて、慌てて人形を元の場所に置いた。それに笑って霊夢が尋ねる。
「人形持ってないの?」
「うちには」
「そっかぁ。それで寂しいんだ」
「そうじゃなくて」
「当てもないの?」
 当てというのが何をさしているのか分からず、鈴仙が不思議そうな顔をすると、霊夢が言い重ねた。
「人形を買ったりもらったり出来そうな当て」
 鈴仙は考える。誰も思い当たらない。永遠亭に住むみんなは人形なんか興味無さそうだし、他に交流のある人達も同様に興味が無さそうか、あるいは人形を貰える程親しくない。人形を得られる経路は存外に少なかった。
 そう考えると、人形に囲まれているこの家が本当に羨ましく、永遠亭に帰るのが惜しくなった。
「分かりやすい」
 霊夢の言葉に、鈴仙が恥ずかしい思いで顔を赤らめると、霊夢が立ち上がって外へ向かう。
「さ、行くわよ」
 霊夢が鈴仙に向けて言うが、鈴仙には意味が分からない。
「何処へ?」
「うち。昔、誰かから人形をもらった記憶があって、蔵の肥やしになってるはずなのよね。日本人形だけど、嫌?」
「え?」
「だから、それをあげるって言ってんの。要るんならついてきて」
 鈴仙は慌てて、愉快そうに笑っているアリスへ一つ頭を下げると、一人外へ出て行った霊夢を追った。

「お! あったあった!」
 蔵の中を引っ掻き回していた霊夢はようやっと奥の奥から目当ての木箱を見つけて引っ張り出してきた。
「これこれ。思ったより奥の方で手間取ったわ」
 鈴仙が霊夢の持ってきた木箱に目を輝かせる。物凄く高級そうな桐の箱で、何だかもらうというのが申し訳無い位だった。
「あの、何だか高そうだけど、本当に良いの?」
 それを聞いて、霊夢が笑った。
「良いの良いの。どうせただでもらったものだし。埃被ってるよりは、誰かに可愛がられた方が人形も嬉しいでしょ」
 鈴仙は箱を受け取って、ほうと溜息を吐いた。何だかふんわりとした軽さに、期待がどんどんと高まっていく。
「本当にこれ」
「だから良いって。早く開けてみて」
「うん。ありがとう」
 鈴仙が胸を高鳴らせながら箱を開ける。
 すると中には何も無かった。
「あれ?」
 二人して箱の中を覗きこみ、疑念の声を上げる。
「霊夢。中身は?」
「そんな筈は。だってずっと閉まっておいたのに」
 霊夢が箱をひったくり、そうして蓋の裏を見て固まった。蓋の裏には無数の引っかき傷が付けられていた。
「やられた」
 霊夢の呟きに鈴仙が尋ねる。
「どういう事?」
「動き出したんだわ。意思を持って。それで出て行っちゃったのよ」
「そんな! じゃあ人形は?」
「うーん、そんなに行動範囲は広くないはずだけど、いつ出て行ったのかわからないし」
「でもくれるって」
「ごめんなさい」
 箱を持って残念そうに気落ちする霊夢に鈴仙が詰め寄る。
「だってくれるって言ったのに! 楽しみにしてたのに! くれるって言ったのに!」
「ごめんなさい。もしかしたら家の中に居るかもしれないし探しておくから」
 そんなの見つけられる保証なんか無い。
 そう思って俯くと、霊夢が心配そうな声を被せてくる。
「本当にごめんなさい。折角楽しみにしてくれてたのに」
 それを聞いて鈴仙は何だか泣きたくなった。人形が無いのが残念で、霊夢の声が本当に悲しそうで、自分があまりにも身勝手で。
 鈴仙は涙の浮かんだ顔を慌てて上げた。
「ごめん、霊夢。霊夢は親切でしてくれた事なのに、責める様な事を言って」
「ううん。期待させたのにこんな結果になってしまったんだし」
 霊夢の態度が真摯で、鈴仙は自分が本当に情けなくなった。
 結局、鈴仙は人形を受け取れないまま、博麗神社を出た。
 霊夢は探してみると言っていたが、望みは薄そうだ。
 残念な思いで、家に帰ると、自分の部屋にも永遠亭の何処にも人形は無かった。寂しい思いでぼんやりしながら、いつもの通りに家事をこなして、寝た。
 次の日、鈴仙はやっぱり人形の事が諦められず、人形を作ってくれる人を探しに人里へと向かった。

 心ここに在らずといった様子で家を出て行った鈴仙を、永琳が心配そうに見送る。
「優曇華大丈夫かしら。てゐは何があったのか、知らない?」
 隣に立つてゐが気楽に答える。
「何だか昨日帰ってきてからずっとあんな感じでしたけどねぇ」
「もしかして何かあったんじゃ! うちの優曇華は可愛いから!」
「いやー、どっちかって言うと反抗期から来る非行じゃないですか?」
「ひ、非行? まさか優曇華に限って! あんなに可愛いのに! ま、まさか私が嫌いになって、家に居るのが憂鬱になったとか?」
 頭を抱え始めた永琳をてゐが笑う。
「いやぁ、そんなのなら可愛いもんじゃないですか。ちょっと悪ぶって煙草吸ってみたりとかそれ位ですよ、きっと」
「煙草? 駄目よ、そんなの! 煙草は那由多になってから!」
「あはは、お師匠様何歳なんですか?」
 その時、空から霊夢が降ってきた。
「おはよう。鈴仙居る?」
 着地した霊夢がそう問うと、永琳が答える。
「あら、博麗の。おはよう。残念だけど優曇華はたった今出かけたわ」
「あ、そうなの?」
「何か用事?」
「ええ、ちょっと昨日の事でね」
 あっさりと地雷を踏んだ霊夢に対して、永琳が笑顔をうかべて拳を握りしめたので、てゐは何があっても逃げられる様に後ろへ退がった。
「昨日何かあったの?」
「鈴仙が人形を欲しがってたからあげようとしたんだけど、蔵にしまってあった人形が、意思を持ってしまって居なくなってたのね。それで家を探したんだけど居なくて。人形を見た妖怪がちらほら居るから、多分近くに居るんだろうけど。もう少し探すのに時間がかかりそうだって伝えに来たの」
「優曇華が人形を欲しがってた?」
「そう。大分執心していたみたいだけど、聞いてないの?」
「ええ、全然」
「そう。そっちでも何か当てがあるなら貰ってあげてよ。こっちも絶対探し出せるって確証は無いし」
 霊夢はそれだけ言うと、去って行った。
 残された永琳はぼんやりとそれを見送りながら呟く。
「優曇華が人形を」

 鈴仙が落ち込んで顔を俯けながら人里へ向かって歩んでいると、途中で声をかけてくる者が居た。
「やあやあ、迷える兎さん。そんなに落ち込んで一体どうしたんですか?」
 鈴仙が顔を上げると、最近何かと話題にのぼる青娥が切り株に座って微笑んでいた。あまり良い噂を聞かないので無視したかったが、無視をしても何をされるのか分からない。迂闊に対応出来ない相手だと聞いていた。
 とにかくあまり喋りすぎてつけこまれない様にしようと黙っていると、青娥が立ち上がって近寄ってくる。
「おやおや、どうしたのかな? ははあ、きっとお家の人に叱られたんですね? 分かりました。それでは私が一肌脱いで差し上げましょう!」
 そう言うと、青娥は鈴仙の前で快活に笑った。
「さあ、あなたのお家は何処ですか? 何? 竹林の中の永遠亭? それは随分と手強そうですね。でも安心して下さい! 私がしっかりと復讐をしてあげますから!」
 鈴仙が黙っている間に、青娥はどんどんと話を進めようとする。
「ちょっとあなた何を言って」
「いやいや、大丈夫です。例え不死身であろうと苦しめる方法は幾らだってある。そういう手合いとの経験も結構あるんですよ、私。しっかりと懲らしめて、二度とあなたに頭が上がらない様にしてあげますから、安心してくださいね」
「いや、ちょっと」
 青娥に手を引かれた鈴仙は慌ててその手を振り払った。
「どうしたんですか? さあ、早く復讐に」
「さっきから勝手に話を進めないで! 私はただ人形が欲しいだけで」
「え? 思春期にありがちな親への反抗じゃないの?」
「違います! だからほっといて下さい!」
 鈴仙が行こうとすると、その手を青娥が掴む。
 苛立って振り返ると、青娥がにっと笑った。
「何だ。だったら先に行って欲しかったですね。私は人形作りのプロですよ」
「え? そうなんですか?」
「そうですそうです。さあ、行きましょう」
 青娥に再び強く手を引かれ、鈴仙はよろめいた。
 先程は振り解いたが、今度は振り払わなかった。
「あの、本当に人形が作れるんですか?」
「勿論勿論。造作も無いですよ。作り方を教えて差し上げましょう!」
 それを聞いて、ようやっと人形を手に入れられる当てが見つかったと、鈴仙はぱっと笑った。
「ありがとうございます!」

「何処かに在るはずなのよ」
 永琳が箪笥をしめながらそう言うと、押し入れから出てきたてゐが傍の兎に目を向ける。二人で意志の疎通を行い、それから永琳へ反論した。
「でももう家中探したってみんな言ってますよ」
「でも姫の人形は絶対取っておいた筈」
「じゃあやっぱり最初に言った通り、姫様の部屋にあるんですよ」
「でもあんな大量の人形、姫の部屋だけじゃ」
「もう、とりあえず行ってみれば良いじゃないですか。どうせそこしか残ってないんですから!」
「そうね」
 てゐが呆れつつ、永琳の手を引っ張って輝夜の部屋に向かうと、その途中で輝夜に出会った。
「あ、姫」
「どうしたの? 永琳。みんなで家中ひっくり返してどたんばたんと。お陰で仕事に集中出来ないんだけど」
「すみません。人形を探していて」
 頭を下げた永琳に、輝夜が不思議そうに問う。
「人形? どんな?」
「一つではなく全部です。優曇華が人形を欲しがっていて、何だか様子が変なんです。とても消沈していて」
「ああ、だから私のをあげて元気付けようと?」
「ええ、そうです」
 頷いた永琳を見て、輝夜が眉を潜めた。
「でももう無いんじゃなかった?」
「え?」
「だって、ずっと前にイナバの子供達にあげちゃったじゃない。友好の印だなんだって。ほらてゐがここを見つけて、話し合いして、その後宴会して、その時に」
「そう、でしたっけ?」
「まあ、あなたは酔いに酔ってたから覚えてないかもしれないけど」
 永琳がてゐを見ると、てゐは頷いた。
「そうですね。あの時、子供達の為に沢山人形を貰いましたけど」
「何で黙ってたの!」
「いや、まさか忘れてるとは。っていうか、あれの事だったんですか? あんな昔の人形、もしもこの屋敷に残ってても、手入れもしてないんだからぼろぼろになってるに決まってるじゃないですか」
「ぐう」
 落ち込んだ永琳に輝夜が言った。
「何でそんなに必死になってるのか分からないけど、それって既成品じゃないと駄目なの? 人形なんて誰かに作ってもらえば良いじゃない」
 永琳がまるで初めて気が付いた様な顔で輝夜を見た。
 隣でてゐが呆れた様に永琳を見上げていたが、不意に耳を動かしてあらぬ方向を向いた。
「来客みたいですよ」
 未だに衝撃で固まっている永琳が何も言わないので、輝夜が尋ねる。
「どちら様?」
「人形遣いのアリスですね。丁度良いタイミングなんじゃないですか?」
 そう言って、てゐが永琳に顔を向けると、永琳の姿が消えていた。

 人間達の墓地に着いた鈴仙が恐る恐る青娥に尋ねた。
「あの、私達人形を作りに来たんですよね?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、何でお墓なんかに」
「だって材料が必要でしょ?」
「え?」
 鈴仙が青娥の言葉の意味が分からずに困惑していると、何処からともなく人影が現れた。
「だーれーだー」
 それは少女の腐乱死体だった。腐った少女が動き口を開き喋りながら近付いて来る。鈴仙がその不気味さに慄いていると、青娥は気安くその腐乱死体に話しかけた。
「私だよ私」
「え? もしかして私の主の青娥様ですか?」
「せいかーい!」
「うわー、主様だー」
 二人が抱き合い喜び合う。その様子を鈴仙が恐慌した表情で見つめている。
 死体が鈴仙に気が付いて首を傾げた。
「そっちも主様ですか?」
「え? ああ、そっちは違うわ」
 青娥が思い出した様に鈴仙へ振り返る。
「ね? 可愛いでしょう? 私のお人形」
 鈴仙は顔をくちゃくちゃに歪めながら、腐乱死体を見て唇を震わせた。
「そんなの人形じゃない」
「人形ですよ? 人の都合で作られた、意志の無いひとがた。人形以外のなんだというの?」
「ただの死体だ」
 鈴仙の呟きを聞いた死体が暴れだす。
「何! 死体だと! いかん! 死んではいけないのだ!」
 青娥はそれを抑えて、優しく鈴仙に微笑んだ。
「死体と人形の何が違うんですか?」
「全然違う! 何処が同じなんだ!」
 激昂する鈴仙を見つめながら、青娥は満足気に頷く。
「人形っていうのは似姿よ。何かを模した物。それなら死体程、在りし日の形を捉えている物は無いと思いませんか?」
「だったらあなたはその死体を可愛いと思えるんですか?」
「ええ。さっきも言いましたよね? 可愛いでしょう、このお人形」
 ようやっと鈴仙は気が付いた。この目の前に居る青娥という存在が自分とはまるで違う存在なのだと。少なくとも自分の倫理観とはまるで相容れない存在なのだと。関わってはいけない危険な存在なのだと。
 そう思いながらも、皺を寄せていた鈴仙の眉根が緩んだ。どうしてか、死体を人形だと言いはりそれを愛玩している青娥を羨ましいと思ってしまった。もし自分もそう割り切ってしまえるのであれば、人形はすぐにでも手に入る。それはとても幸せな事なんじゃないかと。
 そんな事を考えてぼんやりしていると、いつの間にか目の前に青娥が立っていて、スコップを差し出してきた。
「はい、これを使って掘ると良いですよ。そこのお墓は昨日埋められたばかりの女の子が入っていますから、人形に丁度良いと思います」
 渡されたスコップはずしりと異常な重さを持っていた。足の震えが襲ってくる。青娥の指差す先を見ると、掘り返されたばかりの蠱惑的な土盛がある。気がつくと墓へ足を向けていて、気がつくと土盛が目の前にあり、気がつくとスコップを振り上げていた。

 アリスが玄関先で家人の出てくるのを待っていると、奥から盛大な足音を立てて永琳が走ってきた。
「アリスちゃん! いらっしゃい!」
 何か永琳の様子がいつもと違う事に驚きつつもとりあえず来訪の辞を述べようと頭を下げた。
「こんにちは。アリス・マーガトロイドです。鈴仙さんは」
 そこで永琳に突撃されてアリスの言葉が途切れた。思いっきり抱き締められたアリスが苦しそうな呻き声を上げるが、永琳は全く意に介さず、嬉しそうに言った。
「待ってたのよ。今日はどうしたの? 病気? 怪我? 何でも良いわ。どんなものでも直してあげるから、是非ともこちらのお願いも聞いて頂戴」
 永琳が息継ぎもせずにそう言って、アリスを更に力強く抱きしめる。腕の中のアリスからあまり人の口から出ない様な音が漏れる。
 その時、永琳の背後に輝夜が立って、永琳の頭にハリセンを振り下ろした。
「止めなさいな」
 永琳の力が緩み、永琳の腕からアリスが抜けた。荒く息を吐きながら、アリスは輝夜に礼を言う。
「助かりました、輝夜さん」
「ごめんなさいね、うちの永琳が。ちょっと切羽詰まっていて」
「はあ。何かあったんですか?」
「いいえ。あなたが気にする必要は無いの。それで、あなたの御用は? 何やら鈴仙に様があるみたいだったけど」
 輝夜の優しげな笑みに誘われて、アリスは答えた。
「あ、はい。あの鈴仙さんに会いに来たんです。人形を作ろうと思って」
「あら」
 輝夜が驚いて口に手を当てた。
 永琳が物凄い勢いでアリスを見た。
「どうして知っているの!」
「え?」
 凄まじい叫び声を上げて何やら半狂乱な永琳に驚いて、アリスが後退る。
「あの、鈴仙が昨日私の家で、人形を見て、それで、欲しがっていたから、霊夢にも鈴仙に作ってってお願いされて、だから」
 永琳に恐れを抱いて口ごもるアリスの答えを聞いて、永琳が飛び上がる。
「素敵よ、アリス! 何て良い子なの」
 また永琳が抱きつこうとしたので、アリスはそれを避けて、輝夜の後ろに回り込んだ。
「あの、永琳さんは一体どうしたんですか?」
「あなたが気にする必要は無いわ」
「気になるんですけど」
「それより丁度私達も鈴仙の為に人形を作ってもらいたかったの。あの子どうしても人形が欲しくて思い悩んでいたみたいで」
 輝夜の言葉を聞いてアリスが嬉しそうに笑った。
「やっぱりそうだったんですか。はい! お安い御用です!」
 それを聞いて輝夜が不思議そうに言った。
「ありがとう。でもそんな心安く引き受けてくれるなら、鈴仙も最初からあなたに頼めば良かったのに」
「それは多分、私の家の人形は私の家族だからあげられないって言ったんですけど、それを聞いて他の人には一切作らないって勘違いしたんだと思います」
「そう。あの子もそそっかしいから」
 輝夜はそう言って頷くと、アリスに飛びつこうと機会を伺っている永琳にもう一発ハリセンを食らわせてから、アリスに尋ねた。
「それで大体どの位で作れるの?」
「簡単な物なら頑張れば一週間で一体。本格的な物だと一ヶ月か二ヶ月位です。とりあえず今日は鈴仙に、あ、鈴仙さんにどんな人形が欲しいのか聞きに来たんです」
「成程ね。でも生憎、今鈴仙は外出中なのよ。呼び戻さないとね。とりあえず、中へ上がらない? 立ち話もなんでしょうし」
「あの、じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔致します」

 鈴仙はスコップを地面に突き立て、膝から崩れ落ち、地面に向けてえずいた。吐き気が込み上げてくる。頭が痛い。やはり自分には出来ない。
「あらあら、頑張って。まだ半分も掘ってないですよ。もっと頑張らないと。疲れている暇はありません。ファイトファイト!」
 それを聞く内に、何だか鈴仙は理不尽な思いに駆られた。
 何故ただ人形が欲しいだけなのに、こんなに気分の悪い事をしなければならないのかと。人形なんて誰だって持っているのに、どうして自分だけはこんなに苦しい思いをしなければならないのかと。
 そう思うと、何だか苛立ちが湧いてきた。
「おーい、どうしたんですかー? 早く掘りましょう」
 青娥のお気楽な声が聞こえてくる。
「さあさあ、早くしましょうよ。後半分ですよ。もうちょっともうちょっと」
 青娥の無神経な言葉が聞こえてくる。
 鈴仙は苛々として全てを放り出したくなったが、それでも人形が欲しくてスコップを掴み、また穴を掘ろうとした。
「そうそう。その調子!」
 鈴仙が必死の思いで、スコップを振り上げ地面を見据える。この地面の掘る先には女の子の死体が眠っている。自分はそれを人形にしようとしている。凄まじい罪悪感と嫌悪感が湧いて、人形が欲しいという気が狂いそうな程の欲望とせめぎあって、口から笑いがこぼれだした。
 その笑い声に合わせて、鈴仙はスコップを地面に突き立てる。突き立った瞬間、その下に眠る女の子を切り刻んでいる様な錯覚が湧いて、鈴仙は崩れ落ち、再びえずいた。
「はあ、完全に止まっちゃった。全く最近の若い者は忍耐が足りませんねぇ」
 それを聞いた鈴仙は激昂して、ふらつきながら立ち上がり、スコップを掴んで地面に叩きつけた。
「やってられない。こんなの人間のやる事じゃない!」
「あなた兎じゃないですか」
「うるさい! 何で人形を手に入れるだけでこんな事をしなくちゃいけないんだ!」
 そう言って、鈴仙は青娥に背を向けて歩き出す。
「あ、ちょっと。途中でやめちゃうんですか? 最後までやりましょうよ。お人形欲しくないんですか?」
「うるさい! そんなの人形じゃない!」
 鈴仙の歩みは止まらずに、去って行った。
 それを見送った青娥は溜息を吐いて、漂わせていたお香を取り出し目の前に掲げる。
「おかしいなぁ。理性破壊出来なかったのかなぁ? いや、あの様子だと壊す事は出来たみたいだけど」
 青娥はまた溜息を吐いて、お香をしまう。
「失敗失敗。次につなげよー!」
「おー!」
 青娥と死体は二人して腕を振り上げた。

 青娥と分かれた鈴仙は憤慨しながら人里へと向かっていた。
 酷く時間を無駄にした。あんな狂人に関わっている暇は無かったのに。
 人里だったら本物の人形作りが居るだろう。そういう人に作ってもらえば良い。何にも悩む事は無い。実に簡単な事だ。
 そんな事を考えながら、人里の近くまで行くと、少女が道の前を歩いていた。一人で不用心だなと訝しみつつ、行く先が同じなので鈴仙はその後姿について行く。すると少女が怯えた様に振り返り、後ろに居るのが鈴仙だと分かると、安堵した様子でまた前を歩き出した。
 そんな少女の様子を眺めている内に、ふと鈴仙は先程の青娥の言葉を思い出した。
 人形は何かを模しているから人形なんだと。人の形を模しているから人形なんだと。そんな事を言っていた。
 だとすればと鈴仙は考える。
 それは死体なんかよりも、生きている人間の方がより人形として完全なんじゃないだろうか。例えば心を破壊してただ生きるだけの廃人に変えたとすれば、それこそ完全な人形なんじゃないだろうか。人間なんて人里に行けばごろごろ居るのだし、それはとても手っ取り早い方法なんじゃないだろうか。
 鈴仙はしばらくそんな事を考えながら少女の後を追っていたが、やがて我慢が出来なくなって、少女の傍に寄って話しかけた。
「ちょっと良いですか?」
 少女が振り返りあどけない笑顔を見せてきた。
 それを見て鈴仙は想像する。人形のある自分の部屋を。笑顔の少女が飾られた自分の部屋を。いつもと何も変わらない日常。けれど自室に戻るとそこには人形が待っている。人形は物を言わず動かないけれど、いつだって自分を待っていてくれて、いつだって自分を見ていてくれて、いつだって自分に笑顔をくれて、いつだって自分を支えてくれる。そんな無上の友達が自分の家にやって来る。
 駄目になったら変えれば良い。部屋の中に幾つも幾つも、まるでアリスの家の様に人形が飾られた自分の部屋を想像して、鈴仙は思わず笑った。理性の箍が完全に外れていた。
 無邪気に笑いかけてくる少女に向かって、内心の狂気を押し隠しつつ、鈴仙は笑顔で話しかける。

 Bad End?






















 そうして、どうせだったら美しい人形が良いと思った鈴仙は、適当に少女との話を切り上げてその場を後にした。

 輝夜達がアリスを家に招き入れようとしているところに、鈴仙が帰ってきた。
「あ、鈴仙。お帰り」
 人形が手に入ると早く鈴仙に伝えたくて、皆がうずうずしながら鈴仙に笑顔を向ける。その笑顔達に晒された鈴仙は、いつもと違う引きつった様な笑みを浮かべていた。その眼は忙しい動きで輝夜とアリスを行ったり来たりしている。
「鈴仙?」
 輝夜の問いかけに反応して、鈴仙の首がぐるりと輝夜を向く。
「輝夜様綺麗」
 そう言って、両手を伸ばして輝夜へと接近する。
「輝夜様、私のお人形に」
 その瞬間、輝夜がくるりと後方宙返りをしつつ鈴仙の顎を蹴りあげた。着地した輝夜は浮いた鈴仙の頭に手刀を打ち下ろす。鈴仙が変な声を上げて、凄まじい音と共に床に打ち倒された。
 一瞬の静寂が訪れる。
「あ、ごめん。何か身の危険を感じて、つい」
 輝夜が謝罪したものの、鈴仙は答えず、体を震わせながら泡を吹いて倒れている。
「優曇華!」
 永琳の悲痛な叫び声が上がり、担架を抱えたイナバ達が走り寄ってきた。

 鈴仙が目を覚ますと、目の前にてゐの顔があった。
「あ」
 身を起こすと自分の部屋で、布団の上に居た。何故か永遠亭のみんなとそれからアリスが居た。
「優曇華! 目を覚ましたのね!」
 永琳に抱き締められて嬉しく思いながらも、状況の把握に努めようとするが、いまいち記憶が曖昧で過去を思い出せない。
「良い時に起きたわね。丁度人形が出来たところよ」
 輝夜がそんな事を言った。人形という言葉を聞いて、そう言えば欲しくて探してたなと思い出すが、やっぱり詳細が思い出せない。
「通り魔に変な薬をかがされて、少しおかしくなってたのよ。それで一週間位寝込んでいたの」
 それを聞いて、具体的には思い出せないものの、何か酷く嫌な感情が湧いた。思い出してはいけない事だと思った。
「それでね、マーガトロイドさん家のアリスちゃんがあなたの為にお人形を作ってきてくれたのよ」
「え?」
 途端に煮え立った様な喜びが胸の内を駆け上がってきた。ずっとずっとそれを求めて彷徨っていた気がする。そうして、最後には手に入らないと諦めた気がする。そんな欲し続けていた人形が手に入るなんて。
 永琳の抱擁から開放される。
 鈴仙は逸る思いでアリスを見た。
 アリスは鈴仙と目が合うと、微笑んで人形を差し出してきた。
「はい、これ」
「うわー、可愛い」
 人形を受け取った鈴仙は感嘆して、じっとその人形を観察した。鈴仙を模して作られたその人形はとても精巧で、アリスの家にあった人形に優るとも劣らない位だった。今にも動き出しそうな人形は、突然本当に動き出すと、鈴仙に掴まれたまま器用に一礼してみせた。
「私はあなたのお人形よ。これからよろしくね、鈴仙ちゃん」
 鈴仙がアリスを見上げると、アリスは優しく微笑んでいった。
「丹精込めて作ったの。だから可愛がってあげてね」
 それを聞いて、鈴仙が何度も何度も頷く。
「うん! 可愛がる。すっごく可愛がるよ!」
 そんな光景を皆が微笑ましく眺めていると、唐突に廊下側の障子が開いて、霊夢が飛び込んできた。
「ちょっと鈴仙が寝込んでるって本当?」
 皆の視線が霊夢に集まった。霊夢は何故か全身にこの葉や木切れを付けて、服が少しすりむけている。
 霊夢は鈴仙を見つけると、慌てた様子で駆け寄った。
「起きたの? 大丈夫なの?」
 鈴仙は霊夢を安心させる様に頷く。それから今しがたアリスからもらった人形を見せようとした。
 だがそれよりも先に霊夢が言った。
「良かった。あ、そうそう。それでついにあの人形見つけたのよ! 森の中で暮らしてるのを見つけたの」
 あの人形?
 記憶が薄らいでいて思い出せないでいると、霊夢がその人形を差し出してきた。
「ほら、これ!」
 その人形は染めた事がありありと分かるウェーブの掛かった金髪に、ごてごてしい化粧をして、何故か着物の上に白く染め上げてやたらめったらに漢字の書かれた丈の長い男物の学生服を羽織っていた。
 人形は霊夢に掴まれたまま、鈴仙を睨み上げる。
「あんたが新しい私の持ち主かい? だが悪いけどね。私はもう愛玩される程うぶじゃないんだよ」
 どすの籠もった声で威嚇された鈴仙は、短期間の内に喜びや困惑や驚きや恐怖に感情を乱高下させた所為で、ひいと一声鳴いて布団の上に気絶した。
「優曇華!」
 永琳が心配して這い寄る。
 イナバ達の動きが慌ただしくなる。
「あ、あれ? どうしたの?」
 霊夢も困惑して鈴仙を覗きこむ。
 人形が軟弱な奴と悪態をついている。
「もしかしてまだ喋ったりしちゃまずかった?」
 そう霊夢が周囲の者に問いかけると、
「霊夢ぅ!」
永琳が屋敷中に響く様な怒鳴り声を上げた。

 輝夜は騒がしい光景を見ながら、逃れてきたアリスに言った。
「良い人形ね。私もちょっと欲しいわ」
 するとアリスが輝夜に微笑みを向けた。
「あ、なら作りましょうか?」
 輝夜は目を伏せて首を横に振る。
「この歳になるとね」
 アリスは残念そうに言った。
「そうですか。でも人形に歳は関係無いと思いますけど」
「確かにそうね」
「人形って自由で、そんな、こうしなくちゃいけないとかこうでなくちゃいけないとか無いと思うんです。ただ可愛くて楽しくて嬉しくて、時に家族に時に友達になってくれる、そんな持ち主を支えてくれる物なんだって私は思います。欲しいのなら誰だって持っていて良いと思います。だから気が変わったらいつでも言って下さい」
 そうやって実に真剣に、心の底から嬉しそうに、微笑んで語るアリスを見て、輝夜も笑顔になった。
「幸せね」
 アリスが不思議そうに問い返す。
「私がですか?」
「ええ。あなたも鈴仙も、私も他のみんなも」
「はあ」
 アリスが分からずに曖昧な返答をして輝夜を見つめると、輝夜が朗らかな表情でアリスと目を合わせた。
「これからも、鈴仙の良い友達で居て頂戴ね」
「ええ、それは勿論!」
 はっきりと答えたアリスから、輝夜は視線を外して、怒鳴ったり謝ったり看病したりで未だ慌ただしくしている鈴仙の周囲を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
「幸せね」
人形と聞くとバッドエンドが思い浮かぶ

この後、永遠亭は、ぐれた人形を更生する育成ゲームに入りました。育て方によって髪型や服装や性格が変わります。
烏口泣鳴
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コメント



0.410簡易評価
3.80非現実世界に棲む者削除
作中の霊夢と永琳やけに優しすぎませんか?
可愛いから別にいいですけどちょっと行き過ぎてるような気も...。

まあ何はともあれ面白い作品だったと思います。

最後に鈴仙が人形を可愛いがって、それを永琳が暖かい目で見つめているというシーンで終わっていたら、心暖まるエピソードで満点だったんだけどなあ・・・。
9.100名前が無い程度の能力削除
狂気じみてるのにハッピーエンドとは面白い
皆優しいけど何処か変で好きだわ
12.603削除
なんだか行き当たりばったりなSSのように感じました。