Coolier - 新生・東方創想話

そうだ、神社壊そう  前

2013/05/26 01:26:27
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 博麗 霊夢は頭を抱えていた。
 どうしてこうなった、と自問するのは容易く、なんか知らん内にこうなってた、と自答するのもまた容易い。
 ただ霊夢としては現状を受け入れるには首を傾げざるを得ず、やはり自問を繰り返す。そして自答も繰り返す。そしてもう受け入れるしかない現状だった。本当なんでこうなったかな。……まぁ、あれよあれよと言うか? みたいな? 感じで?
 霊夢は脱力した。
 無論そんな巫女などお構いなしに博麗神社は本日も晴天で、雲もまばらな青空には太陽が燦々と輝いていて、たまに吹く風は暑さの中に一陣の清涼を運んでくれていた。そして博麗の巫女は神社脇の木陰にある椅子に座っており、長机の真ん中ら辺に当たるそこで頭を抱えているという訳だ。
「……具合でも悪いんですか?」
 そんな巫女を右隣、稗田 阿求が心配そうに声をかければ、
「放っておいた方が良いんじゃないかしら」
 と左隣の八雲 紫が楽しげに応えた。
 長机には他に永江 衣玖が座っており、右から順に阿求、霊夢、紫、衣玖となっている。長机のそれぞれの位置には名札が設置してあり、霊夢の所には名札の隣に『審査員長』との肩書も添えられていた。
 霊夢達の位置から参道を挟む形で反対側には『観覧席』と記された幟が立てられており、それに付随する形で設置された大きな階段状の座席には人妖を問わず様々な者等で賑わっているし、どこからか屋台や物売りの呼び声売り声も威勢良く響き渡っている。
 つまり、博麗神社が賑わっていた。
 普段なら大いに歓迎すべき有様だろう。
 常日頃の閑散振りはどこへやらだ。
 しかも、今日に限り入場料徴収用として本来の場所から鳥居下に移動している賽銭箱は中身がぎっちりみっちりじゃっらじゃらである。平素の参拝者不足と信仰不足を鑑みれば霊夢が小躍りしない訳が無い。無いが、ただしそれは神社を前に胡散臭いのが四人集ってあれこれ喋っていなければ、だが。
 その胡散臭いのとは山の神である八坂 神奈子、洩矢 諏訪子の二柱に命蓮寺の住職聖 白蓮、そしてついこの間復活した自称仙人、豊聡耳 神子からなる宗教家連中である。彼女等は神社の前で車座を組んであれやこれやと意見を交わしており、その内容は最終的な確認と調整となっていて、それこそが霊夢を暗欝な心持にさせる原因だった。
 それが何故そうなのかについては全く明白である。なんせ鳥居に堂々たる横断幕がかけられているのだから。

『博麗神社ぶっ壊し大会!? 祭り』

 大きな横断幕に躍る達筆は、抱えて扱う巨大筆を白蓮手ずから振るった渾身のもの。終盤に辛うじて『祭り』と添える事でそれまでの滅茶苦茶感をそれなりに軽減してはいるが、やはり滅茶苦茶だ。ちなみにこの題を考えたのは諏訪子で、『ぶっ壊し大会』と『ぶっこわしたいかい!?』をかけた気付いた瞬間抱腹絶倒腸捻転間違い無しの自信作らしいが、今の所気付いたと思われる観覧者は見当たらない。仮に気付いたとしても、自作の駄洒落で痙攣するまで大笑いするような諏訪子のセンスにはとても追い付けないから、せいぜい隣席の相手にまさかとは思うんだけどと打ち明けて何言ってんのという目で見られる程度か。
 ちょうど大妖精とチルノがそんな感じ。
「あーあー、テステス、えー本日はお日柄もよろしく少年老い易く学成り難しー」
 観覧席の前で霍 青娥が河童印のマイクを手に何事か話し始めた。
 その頭上、結構な高みでは神子のような耳当てをした蘇我 屠自古がやはり河童印の大きなスピーカーを抱えており、そこから青娥の声が大増幅されて地上に燦々と降り注ぐ。
「……ふぅむ」
 音響機器に問題が無い事を確かめた青娥は、神奈子達二柱と二人の方へ視線をやって向こうからの頷きを確認すると、多少ざわついている観覧席側に対し微笑みかける。
「では少々お待たせ致しました、これより本日の祭りのメインイベント、有志による博麗神社ぶっ壊し大会!? の開会式を始めまーす」
 青娥の宣言に観覧席の者達は熱狂を以って応え、審査員席とその奥にある本部スペース、緞帳が掛けられ中に誰が居るか分からない参加者席からは霊夢以外の者が拍手をしていた。
 神社を壊すという事で盛り上がるのは非常識ではないか、と本部スペースで東風谷 早苗は首を傾げもしたが、娯楽の乏しい大昔では罪人の磔刑ですら見世物として機能していたらしいので、やはり常識は投げ捨てるものなのだろう、と認識を新たにしていた。これが何度目のそれかは彼女自身もう覚えていない。
 それに実際の所も早苗の思考の結果とさして変わりが無かったりする。
 幻想郷で暮らす人間連中にしてみれば、博麗神社が破壊される事に多少の疑問はあったが主催側に博麗の巫女が居る事であぁ何か裏があるなと納得し、どれ一丁と物見遊山に馳せ参じた。
 また幻想郷で暮らす人外連中からしてみれば、この閉じた空間の中で目新しい娯楽は多い方が良いに決まっている。それがあの博麗神社を壊す催しだなんて胸のワクワクが止まる筈も無い。
 そしてその辺りの心理と、主催側である霊夢、神奈子達、白蓮、神子等の都合とをそれぞれ重ね合わせた結果がこの祭りである。

―――何故こんな事になったか。

 事の起こりは阿求の記録した求聞口授にある。あの折りに霧雨 魔理沙を交えて阿求は神奈子、白蓮、神子から話を聞いたのだが、その最後に霊夢の乱入を受けお流れになってしまった。だがその直前に神子が霊夢に相談を持ちかけ、神奈子が乗り、白蓮も同意した為日を改めて阿求と魔理沙を除いた面々が博麗神社に集っていたのだ。
 話し合われた内容としては相談と言うには中々一方的で、弁舌巧みな神子が霊夢を言い包めて行くのを神奈子と白蓮が応援していたようなもの。
 神社を壊そうという流れになったのは、幻想郷の平和の為に一度妖怪の胸が空くような事態を起こし、今までの強硬策一辺倒から彼等の心に積もった負の想いを吹き払う必要がある、との神子の言い分からによる。
 当然霊夢は激昂し反対を尽くしたが、では今までのままで良いのかと言われれば、そして、貴女の手に負えない事態に陥った時誰が貴女を助けますかとも言われれば、霊夢の論調は感情論に徹しざるを得ない。神子の言った事は元々霊夢が内心では危惧していた事なのだ。出る杭を打ち続けるのにもいつか限界が来るかも知れないし、助けてくれた相手が人間でなかったら後々何がどうなるやら知れたものでは無い。とはいえ、神子の提案自体がふざけるなと言うに相応しいものだというのもあるが。
 そうしてキレ気味な霊夢を白蓮が全開の良い人オーラで宥め、破壊された神社の修復は命蓮寺等で実績のある神奈子が請け負う事で霊夢も徐々に大人しくなっていった。そこで祭りの形式を取って屋台等を呼び込み、入場料をそのまま博麗神社の賽銭箱に入れる事にすれば良い、と神子がダメ押しをした所、霊夢は承諾してしまったのだ。
 無論これには裏がある。
 三者が三者とも自分の勢力の拡大を狙うのは勿論だが、神子としては博麗神社を再三に渡って人妖の前で破壊する事で博麗の霊威失墜を狙い、また無い訳ではない程度な博麗への信仰を減ずる点では神奈子も同意しない筈が無く、ただ一人白蓮だけはバカ正直に幻想郷の平和を願っていたのだ。そして霊夢としては、賽銭箱にお賽銭が一杯と信仰が一杯は割と等価なので宗教家達の思惑に気付く事は無かった。
 その後、ただ神社を破壊しては修復するのを繰り返すばかりでは全く面白味が無いという神奈子の提案から採点性を設け、優勝者には賞品を出す事になり、審査員の選出は追々として霊夢が審査員長として収まった。
 ただこの場合は追いやられたと言うのが正しく、言ってしまえば邪魔な霊夢を審査側に追いやる事で神社を壊す諸々の方への口出しを封じる意味合いが強い。当の霊夢は採点する以外の雑務を殆どやらなくて良いと言われたので、面倒が無くて楽だと気にもしなかった。
 また参加者を募る際、どうせならちゃんと壊せるであろう者に限った方が場が白けないのではと白蓮が言ったので、野放図に揃えるよりは選んだ方が良いかという流れになり、言い出しっぺと言う事で選定は白蓮の担当となる。
 となると残るは神子だが、神社破壊から観客を護る結界等、多様な雑務はそれぞれで分担或いは合同で行う方向で決まったので司会進行を担う事となった。これに霊夢は新参も新参に任せるのは如何なものかと零しはしたが、自分が代わりたい訳では無いのですぐに引っ込んだ。
 そんな次第で話が概ね纏まった辺りで神奈子がやおら手近な襖を開けば、そこには当たり前のように射命丸 文がいた。思わぬ事態に固まった彼女以外誰もこの状況に驚いていない事に、鴉天狗は己が泳がされていたのだと実感する。
 宗教家連中はともかく霊夢は慣れていたからだが。
 そうしてほぼ一部始終を聞いていた文は部屋に引き摺り込まれ、神奈子に脅され神子に賺され白蓮にお願いされた事で彼女等の言いなりに記事を作成する事になり、その『博麗神社ぶっ壊し大会!? 祭り』の案内は主催者である霊夢達の名も添えて三日後には幻想郷中に知れ渡る事になったのだった。

§


……太陽が眩しい。断続的で多種に渡る蝉の鳴き声は間違いない夏を感じさせて、嗚呼、これは……西瓜食べたい。井戸底で冷やしてある奴……。

 木漏れ日の向こうを見ながら現実逃避に浸っていた霊夢だが、青娥の紹介を受けて歩み出た神子がマイクを受け取った辺りから逃避を許されなくなってしまう。何せ始まってしまうのだ。
「さて青娥の言った通りに早速神社をぶっ壊しにかかりたい所ですが、開会式としてその前に説明すべき事が幾つかあるのでまずはそちらを」
 マイクを片手に神子はもう片方の手を審査員席の方へ向ける。
「大会と銘打つ以上、博麗神社ぶっ壊し大会には勝者が存在します。そしてその勝者を決定づけるのが審査員である彼女達によって下された点数になります」
 ここまで言った辺りでそれぞれ両手に手人形を装着した青娥に宮古 芳香、物部 布都らが笑顔で神子の傍に現れた。
 青娥の右手は霊夢を模した手人形で、左手は阿求。芳香は右手に衣玖、左手に紫。そして布都は右手に魔理沙、左手にミニ神社。布都の左手のそれは人形と言うよりは掌に布製の神社が張り付けてある程度のもので、良く見れば神社には縦に線が数本入っていた。
「審査員はそれぞれ十点までを付ける事が出来、審査員長は三十点。つまり審査で得られる最高得点は六十点になりますが……」
 神子が点数を言えば、その都度青娥と芳香が巧みに手人形を操ってそれぞれの人形に点数の書かれた立て札を持たせたり引っ込めたり。青娥はともかく芳香が存外苦も無くうおうおと人形を操っているのは、やはり今貼られている額の札に相応の内容が記されているからか。
 ともかく観覧席前で一体何が始まるのかと思えば、分かりやすくも可愛らしい補足であり、口頭での説明と合わさって多少のバカでも分かる内容となっていた。
「大事なのは今回審査員長である霊夢さんの神社を破壊すると言う事に在ります」
 そこで布都が左手のミニ神社を青娥の右手の霊夢に寄せる。
 次の瞬間、悪い笑顔になった布都が右手の魔理沙を操って箒でミニ神社を叩けば、神社は五つに分かれて壊れてしまう。単に手を広げてバラバラになった神社を握っただけとはいえ、観覧席は軽く湧いた。
 すると青娥の右手の霊夢はショックを受けたような表情を見せ、即座に零点の立て札を持って怒った表情になる。
「ぶっ壊し大会と銘打ちつつもぶっ壊してしまえばやはり霊夢さんの不況を買って点数を頂けない事は必至。とはいえマイナス点は付けられないので無難に他の審査員から点を稼ぐか、或いはどうにか審査員長に阿って点を荒稼ぎするか、それは今回選出された十名の方の判断に任される事になります……」
 説明が一段落付いた所で、青娥達は観覧席に一礼すると本部スペースへ戻っていく。並行して神子も歩き始め、優勝賞品との看板が添えられた本部の隣まで来た。そこには賞品置き場との幟が立っている。
「そしてこちらが優勝賞品ですね。四猿ちゃん(これは良い物)に、山頂の綺麗な水一年分(手抜き)、霊験灼かな掛け軸(胡散臭い)、同じく霊験灼かな壷(ただの壷)、米十俵(そのまんま)、流し雛一年分(?)等々。二位以下にも配分すべきという声もあるでしょうが、ここは一点豪華主義と言う事で、優勝出来なかった方達には何も授与されません。参加者の皆様にはそれぞれ俄然頑張って頂きたい所ですねー」
 神子の紹介の仕方に若干の含みのようなものはあったが、ともあれ賞品内容に観覧席側からどよめきが少々。要らない物も結構あるが、四猿ちゃんや米十俵は実に要る物である。特に四猿ちゃんは受注生産品なのでまだまだ数が出回っていない。それはそれで実際の効果の程もあんまり伝わっていないと言う事でもあるが、ともかくレア物だ。
「では最後に、主催側から試技を披露したく思います。ぶっ壊し大会と言えどももしかしたら参加者に遠慮があるかも知れませんので、大体これくらいはやって良いんですよーと言うのを示そうと言う訳でして」
 再び観覧席前まで歩いて来た神子は、審査員席の紫と何やら話していた白蓮の方へと視線を向け、それに気付いた白蓮が応と頷いたので頷き返す。
「準備もよろしいようですので、命蓮寺より聖白蓮さん」
 神子、高らかに呼び出し。
 するとまばらに拍手が起こり、全体に伝播してちょっとしたそれとなった。脇へ退いた彼女に代わるようにして歩み出た白蓮は、拍手に対し照れたようなはにかみを見せつつ一礼すると、やおら瞼を閉じ何事か高速で呟き始める。
 拍手が止んだ中、一定且つ独特の抑揚で紡がれる言葉の羅列は経か何からしい所までは分かるが、そこから先は不明も不明。これは何事だろうかと観覧席に少しざわめきが生まれかけた瞬間、
「喝!」
 と物凄い大音声が瞼を開いた白蓮の口より放たれた。その大声には観覧席の半分以上の者が身動きすら封じられた程だ。しかし当の白蓮は特に観覧席が騒がしくなりかけたから喝した訳では無いようで、静まり返った観覧席を気にすることなく豊満な胸元から取り出した魔人経巻を翳すと不可思議な文様が上から下へ、上から下へ。
 ある程度文様が過ぎた所で魔人経巻を閉じ、胸元にしまうと白蓮は神子へ視線を送る。
「では、どうぞ!」
 視線を受けた神子が宣言すると、白蓮が消えた。
 これに観覧席がどよめこうとするが、その前に砂埃を伴った突風が正面から来た為に機先を制された形になる。予め観覧席に敷設されていた結界によって砂埃と風の被害は無かったものの、しかし観覧席は改めてどよめいた。白蓮が立っていた位置の石畳が、大槌で叩いたかのように砕け凹んでいたのだ。
 一体どういう事だろう、どこへ行ったのかとどよめきが強まる中、誰かが空を指差した。そしてそれに応じるようにあれは何だ、そうか跳んでいたのかと声が挙がる。
 果たして白蓮は空中におり、既に物凄い勢いで落下している様で、小さかった彼女の姿は見る間に大きくなっていく。
 先程紫と何事か話していたのは彼方上空部分の大結界に物理的に突っ込んでも大丈夫かという確認であり、紫の粋な計らいもあってか白蓮が跳躍の果てに突っ込んだ大結界は弓の弦の様にしなって、跳躍より尚早い速度で白蓮を矢の如く放出したのだ。その後微調整で神社の真上に位置した彼女は―――そのままの勢いで突っ込んで破壊しようかというつもりなのだろうか。
 観覧席からの視線が集まる中、白蓮は何処か遠くに音を聞きながら頭を下に真っすぐ落下。その最中、おもむろに右拳を握り締めると肘を曲げつつ軽く上半身を捻り、照準を測る様に左手を突き出しながら一呼吸。眼下、雷の如き速さによって窄まる視界に映る神社の屋根は結構近い所まで来ている。これから先の行動のタイミング次第で結果に大きな差が出るだろう。
 巧くいけば良いが、失敗した場合は無様な事になるのは覚悟せねばならない。ぶっつけ本番はこういう時プレッシャーになる。……何にしろ破壊は出来るだろうけれど。
 白蓮は再度、現状で可能な限り大きく深呼吸をすると、存分に強化しておいた肉体から全身全霊の掌打を放つ。左腕と入れ替わるようにして打ち出された右腕は充分に蓄えられた全力を如何無く解き放ち、そこから生まれた破壊力は刹那に神社に到達する。
 これにより、折角この前再建された神社はいとも容易く叩き潰された。
 一方の白蓮は己の生んだ破壊エネルギーと超速度の落下エネルギーの双方からなる力に押し潰されそうになるも、見事耐え切る事で数瞬空中に浮いた様な形になり、後はそこから姿勢の上下を直しつつふわりと飛んで、神子の傍に清楚に着地する。
 実質、白蓮が消えてから着地するまでに三十秒とかからなかったのだが、その間に神社は上からの強烈な力によって平たくなっていた。無論轟音とか短時間ながらに結構なものがあったが、あっという間だったので観覧席では結構な者が目を丸くしたまま唖然としている。
 インパクトの瞬間直下型地震のような揺れもあり、これから大体こういうのが続くのだと観覧者達が理解するのにも結構かかった。その後どこからか拍手が起こり、神社をぶっ壊した白蓮へ主に妖怪達から惜しみない歓声が贈られる。
「とまあ、ご覧の通り白蓮さんの手によって博麗神社は見事ぺちゃんこになってしまいました。これによりぶっ壊し大会がどれ程かという部分がいや増す所になる訳ですが……」
 巧くいった事で安堵半分に歓声から照れ半分な白蓮を隣に、神子が再び喋り出す。
 その一方、彼女等の後方、審査員席ではちょっとした騒動が起こりかけていた。
 多少なりとも覚悟していたのだがものの見事に神社をぶっ潰されたので早速キレた霊夢が椅子を蹴って長机を両断して神子と白蓮の元へ羅刹の如き形相で猛襲せんとしたのだ。
 未遂に終わったが。
 何せこの展開を宗教家連中が予期しない筈が無く、従って既に対応を練っていて不思議も無い。
 結果、形相を変えた霊夢が行動に移すより一瞬早く、フルーツ現人神と汚い邪仙のコンビが片や机を挟んだ正面、片や椅子越しの背後から、結界とキョンシーで以ってその挙動を封じていたのだ。準備と警戒を入念にしていたからこそ辛くも霊夢に先んずる事が出来たのである。
 とはいえ、五芒結界と怪力の抱き付き如きで博麗の巫女の行動を封じられるかと言えば、否も否、大否だ。実際次の瞬間には構ってられないとばかりにキョンシーの束縛をスルーし五芒結界をもスルーしかけていたのだが、彼女の隣、驚いている阿求では無い方が妙に気になったので、ついそっちの方を見てしまう。
 霊夢と目が合った紫は、とても愉快げに鳥居の方を扇子で示す。また霊夢の視界の端、紫の奥の衣玖もまた首を左右に振っていた。
 それらを受けて鳥居の方へ顔を向け、そしてすぐ戻す。
 形相は戻っていた。
 理解できたのだ。
 ここで場を御破算にした場合、あの賽銭箱の中身が空になる如きでは済まないであろう事を。
 そんな訳で、腹立たしげに着席した霊夢はまだ自分にうおーうおーへばり付いている芳香を引き剥がしつつ青娥に文句を言い、結界を解いて宥めの言葉をかける早苗を無視して今にも舌打ちせんばかりの顔で成り行きを見守る事にした。

§

「……とはいえ壊す対象がご覧の有様ではこれ以降の大会進行に支障が出ますので、ここで守谷神社のお二柱の出番となる訳です。では、お二方」
 神子がそう言って促せば、本部より観覧席側へ手を振り振り神奈子と諏訪子が現れ、軽い拍手と歓声を浴びつつ二柱は潰れた神社前に立つと、おもむろに背の順に並ぶ。
 これから事が始まるのだと思えば自然と観覧席も静まり返り、審査員席でも霊夢を含め全員が神々の方へ視線を向けていた。
「いくよー」
 満座の視線を受けつつ、諏訪子が緊張感に欠ける声を上げて蛙チックに屈めば、
「あいよー」
 似たような感じの返事をした神奈子がその上に座った。
 肩車の準備姿勢のようなものなのだが、注連縄を背負っている神奈子の方が素で背が高いせいもあってか、華奢気味な諏訪子が潰れやしまいかと心配したくなるような有様である。
「ほっ」
 すると諏訪子の上で印を切って気合を入れた神奈子は、どこからか飛んで来た四本の御柱を背に備え偉そうに腕を組み、いよいよ下の諏訪子の安否が気がかりな状態となった。更には、それでどうすんのよという周囲の無言の疑問も手伝って、一種異様な雰囲気が場を席巻する。
 そんな中、神奈子の姿勢がちょっと揺らぐ。
 更に揺らぐ。
 お……? と視線が注がれる中、やがて誰もが気付く。
 神奈子を背負った諏訪子が立ち上がろうとしているのだ。
 尚誰も二柱の正面側には居ない為、神奈子が若干心配そうに下方へ視線を向けている事や、諏訪子が顔を真っ赤にしながら生まれたての子鹿のような足の震えで必死に立ち上がろうと頑張っている事には気付いていない。もし誰か見ている者がいたら、せめて上下は逆であるべきではないかと言うかもしれないが、二柱の性質上こういう場合はこうである必要があった。
 ゆっくりと神奈子が持ち上がり、諏訪子の膝が、背が伸びていくに連れ、立てるかどうかという点で場の誰もが固唾を呑み始め、息苦しい訳ではないが時間の流れが緩やかになる。
 誰かは我知らず手を握り。
 頑張れの声も挙がり。
 そして。
 やがて。
 とうとう。
……ついに―――
「立った! 諏訪子が立ったー!」
 神子が真っ先に声を挙げ、観覧席からは今までで最大の大歓声が沸き起こる。
 成る程確かに諏訪子は立ち上がった。
 己よりも大きく、体重で言えば御柱も含め何倍に達したかと言う神奈子を肩車してしっかと立ち上がったのだ。
 これに涙ぐむ者さえいた。
 だが二柱からしたら歓声はこれじゃなく別の方面で望む所だったのだ。
「と、同時に神社も修復された訳ですね」
 観覧席が露骨にどよめく。
 神子に言われるまで神社の事など目に入っていなかったから仕方ないのだが、これもやはり神子の言った通りである。
 白蓮によって叩き潰された筈の博麗神社は、何事も無かったかの如くその姿を取り戻していたのだ。
 二柱の力推して知るべしと言うべきなのだが、誰もが二柱の方へ視線が集中し、諏訪子が立ち上がった事で大いに歓声を挙げてしまっていたので、神社再建に対する反応は若干弱めとなってしまう。霊夢でさえ二柱の方に完全に気を取られていて神社が元に戻っていた事に気付けなかったので、一応は仕方ないのかも知れない。
 とはいえ諏訪子も、彼女から降りる神奈子も、ちょっと不満げではあった。
「ご覧のように二柱の働きで神社の再生は確約されていますので、神社の破壊についてはもはや寸毫の遠慮も無用という事です。これは参加者一同の破壊っぷりに期待が持てますね」
 本部へ戻る二柱へ拍手が送られる中、神子は粛々と進行していく。
「では試技その他も終わりましたので、ここから本番、十名の参加者それぞれによる博麗神社の破壊振りを見させて頂くとしましょう。観覧席の皆様はこの十名が一体何者達であるかを全員分知悉する方が居ない以上、誰が現れるかという所も非常に興味深い訳ですね。……えー……」
 若干困った風に神子が軽く辺りを見回すと、駆け寄った布都がそっと紙を手渡す。
「はい、えーではまず第一番! 射命丸 文ー!」
 気を取り直し紙を手にそこに記載された名を読み上げる。ど忘れしていた訳では無く、この場での籤引き形式で順番を決めようと言う次第だったのだ。
 ともあれ、神子の呼び出しに参加者席から颯爽と飛び出した文に観覧席側からかけられたのはブーイングであった。
「いやー熱烈歓迎、照れますな」
「とてもそうは思えませんが」
 神子の隣に降り立った文はいつも通りの笑顔であり、観覧席を写真に納める余裕すらある。神子の若干ジト目めいた視線も涼やかに受け流す様は恐るべき図太さを垣間見せていた。
「ともかく鴉天狗としてだけではなく、妖怪の山の代表でもある訳ですから、ある意味責任は重大ですね?」
「大丈夫です、あれくらいの建物を壊すなんて簡単な事ですから」
 笑顔で霊夢に向かってウインクまで飛ばす文である。
 そしてブーイングの理由については神子の言葉の中に全部入っていた。
 博麗神社ぶっ壊し大会の開催に勿論妖怪の山の者共は色めき立ったのだが、貴重な参加者枠は既に文に取られていたのだ。取材一番乗りの特権と言われれば天狗の一部は納得するものの、妖怪の山は天狗だけが棲んでいる訳ではない。せめて山で代表を選出する方向で調整が出来れば良かったのだが、既に決定していたとなるとブーイングが飛んで当たり前である。
 河童などは一メートル程の長さのラッパみたいな楽器をわざわざ用意し、それを一斉に吹く事で騒音を文へ向けた程だ。音階調整すら出来ない単純な機構だが、音そのものが凄まじく神子と文が何を言っているか聞き取れない問題が発生した為、すぐに使用禁止の裁定が下り神奈子達によってそれぞれ本部スペースの方へ一時預かりとなった。
「では改めて……第一番、射命丸さんには早速やって頂きましょう」
 河童のラッパ回収前後の流れで少々進行に遅れが生じた上、観覧席がざわついてしまっており、これ以上の遅滞はよろしくないと神子は文を促す。
「私としてはもうちょっとトークで場を暖めても良いんですよ?」
「ここは口では無く行動で場を盛り上げる所ですのでね?」
 それに改めてトークをしようものなら山出身の妖怪達が今度は何をしでかすか。神子からすれば、自分が任された進行の部分での失態は他の者達の手前可能な限り回避したい所である。
「じゃあ仕方ない。では一つ天狗の仕業という奴をお目にかけるとしましょうか」
 笑顔だが反駁を許さないプレッシャーを感じた文は素直に頷いた。元々強きに阿るのが天狗の処世術であるなら、ここで不要に神子を弄る事も無い。
 コカッと高下駄状の靴底を音高く鳴らして観覧席側から神社へと身体の向きを変え、文は手にした団扇を内から外へざっと一薙ぎ。
 すると境内の樹木がざわめき始め、大気は流れ風が生まれ、辺りから渦を巻くようにして文の眼前、団扇を薙いだ辺りへと収束し始める。風は徐々に強さを増していっており、観覧席の方からも落ち葉や砂埃などの動きから視覚的にもそれが良く分かった。また空を見上げればどこからか雲が集い始めていて、晴れ渡った空が徐々に薄暗くなっていく。
「……お?」
 この風の動き、そしてやんわり雲を帯び始めた空に危険を察したか、上空にて待機状態だった屠自古は少々急いで本部側へと降りていく。
 その動きを待っていたのか、それとも空に雲が溜まるのを待ち構えていたからこその偶然か、屠自古が境内地表近くまで下りてくると文は再び、今度は外から内へとざっと一薙ぎ。
「おおーっとぉ!?」
 神子が驚いた声を挙げ、観覧席もどよめく。
 今度は先程のような生易しいものではなかった。
 一薙ぎ目で周囲から集まってきていた風が二薙ぎ目で爆発的な成長を遂げ、一挙に竜巻と化して文の正面に現れたのである。それは小規模と言えば小規模なのかも知れないが、勢いからして家屋の一棟や二棟は余裕で吹き飛ばすに違いない。
 膨大な大気が渦巻く本能的な恐怖を喚起させる凄まじい音、辺りに撒き散らされる恐ろしいまでの暴風。神子の実況の声はもはや聞こえず、諦めたのか暴れるスカートを抑え本部へと避難して行く。
 観覧席に関しても突如現れた竜巻に思わず逃げ出そうとする者も居るが、肝の据わった連中は平然としており、その態度が逃げ出そうとした者達を落ち着かせた。そもそも観覧席の守りは全く揺らいでいないのだから、実は逃げた方が危ないのであり、その事を気付かせるのにも充分だった。
 そして文はと言えば。
 自ら創り出した竜巻の正面に立ったまま、本来なら風に散々翻弄されている筈の髪や裾がまるで凪ぎの中に在るかのように平然としていて、口元にはどこか楽しげな笑みを浮かべ。
 三度、今度は下から上へと団扇を振り上げた。 
 更に劇的な現象が起こる。
 渦を巻く竜巻が割れ、一本が揺らめき数本へ、やがて明確に四本へと分かれ、だがその四本が共に元の大きな一本の形と同様に渦巻いてもいた。
 それは多重渦竜巻。
 複数の竜巻が一体化した群体である。
 一本でも地表の物を吹き飛ばすのに有り余るエネルギーを持つ竜巻が、単純にその威力を高めたという、自然の脅威がほぼ最悪の形として具現したものだ。
 境内の石畳が剥がれ、吹き飛び、神社の瓦も既に何枚も宙に舞い多重渦に巻き込まれている。
 まだどうにか安全が確保されている観覧席側、そこの天狗の何人かはやり過ぎだバカとの声を張り上げていたが、当然その声は多重渦の轟音の前にかき消されており、文には全く届かない。もっとも、届いていたとして今の文の耳がちゃんと理解する形で脳へ伝達するかと言えば疑問は残るが。
 何せ今の彼女は目がイっている。目前の多重渦を形成する大気が周りへ逃げ出さないよう収束させる事に全身全霊を注ぎ込んでいるのだ。
 やはりやり過ぎと言うべきだが、しかし大っぴらに神社を全力でぶっ壊す機会など今後いつ訪れるか知れない。最初で最後の公算も大きいのだ。
 であれば、やはり、だからこそ。
 あぁあの時紛う事無く全力を出しておけばなあ、等と言う後悔などの無いように。
「うおぉお……りいゃあああああああああっ!!」
 叫び、だが笑顔で、文は団扇を上から下へ、全力で振り下ろした。
 ゆったりと多重渦が動き出す。
 既に幾らか被害の出ていた博麗神社はゆったりと進むそれに呑み込まれ、あっという間に粉砕され瓦礫を宙へと巻き上げ基礎部分をすら残さず根こそぎ持ち去っていく。
 大会の場に居る者達の内、この破壊の有様を瞼を閉ざす事無く余さず見届けられた者がどれ程居ただろうか。暴風が全てを砕き巻き上げていく音というものは地上を生きる者達にとって到底耐えられるものではない。太古の頃より畏れて来た事による本能的な恐怖が、人のみならず妖に対してさえ大きく働いていた。
 だが。
 余りにも唐突に。
 あれ程暴威を振り撒いていた多重渦は消え失せ、雲に覆われ薄暗くなっていた空は嘘のように晴れ渡り、ただ無残な事になった博麗神社跡が先程の破壊が現実の物だったのだと知らしめるばかり。
 そして文はぶっ倒れて動かなくなっていた。
 数瞬程度、誰もが何が起こったかを理解しかねていたのだが、本部側から神子が少々不思議そうな顔で駆けてくる段に至って観覧席側の一部から笑いが起こる。
 天狗達だ。
 同族、同胞である彼女等はいち早く気が付いたのである。文が無茶やって精根尽き果てた挙句指一本動かすのも苦労しそうな有様になった事に。
「こりゃ傑作」
「分際を弁えず無茶をすれなああもなる」
「だぁから言ったのにぃ」
「竜巻一本で充分だろーあれぐらいー」
「いや竜巻もいらんし。団扇一振りで吹っ飛ぶでしょあんな神社」
「ったくあの莫ァ迦は、見栄張って」
「所詮鴉天狗だしねぇ」
「あ、写真撮っとこーっと」
「射命丸の?」
「当ったり前じゃんッ」
「だーよーねー」
 とまあ天狗達はそれぞれ倒れた文を肴に好き勝手言って笑っていたが、
「……まあでも―――良くやったと言えなくもない」
「まーねー」
「クソ神社を綺麗さっぱりフッ飛ばしてくれたからなあ」
 最終的には倒れた文に真っ先に拍手を送ったのも天狗達だった。天狗達の手前他の者達がやり難かったというのもあるが。
「えー……」
 屠自古が再び上空へと待機したのを確認しつつ、拍手の鳴る中神子は文の安否を確認する。
「ああ」
 屈んで覗き込んだ所、口元が笑っているから大丈夫そうだ。
 これで悶絶していたりしたらいくら妖怪とて危ない所だが、笑っているなら暫く休ませておけば回復するだろう。大体妖怪はそんな感じに曖昧で、人からしたら明確に死んでる有様でも翌日平然と往来を闊歩していたりする。
「では見事竜巻で神社をぶっ壊してのけた射命丸さんでしたが、早速審査員側からの点数を提示して頂きたいと思います!」
 雲居 一輪と雲山が割と丁寧に文を担架に載せて運んで行く最中、挑戦者当人を差し置いてその評価が下されようとしていた。
 そして審査員席に並ぶ四人は、神子に促されるなりそれぞれの考えで手元の札を挙げる。札には零から拾までの数字が書かれており、霊夢に限っては拾の札がない代わりに壱から参の札が二枚あった。二桁以降は札を二枚上挙げろという事である。
「はい出ましたね。……稗田さん七点八雲さん四点永江さん六点……で、審査員長からはやはりというか零点と。では合計十七点が射命丸さんの得点となりました」
 それぞれの掲げた札を見、神子が言った点数を本部でナズーリンがメモしていた。
「さて神社の再建まで少々間がありますし、折角ですから審査員から二、三聞いてみましょう。……では最高得点を出した稗田さん。七点と高得点ですが理由の程は?」
 流れとはいえ不意に神子にマイクを向けられ阿求はちょっと目を丸くし、頬を上気させつつ小さく咳払い。
「え? ええーとですね。……やはりこう、天狗の力の程と言うか、流石は山で権勢を奮っていただけの事は……とにかく凄かったです。周りも大分酷い事になってますし……席の周りとかは無事ですけど。あ、それと鴉天狗でも短時間とはいえあれ程となると、天魔様辺りではどうなってしまうのかという辺りが気になりました」
「成る程。破壊そのものは見事ですが、ちょっとした好奇心が芽生えてしまった稗田さんでした」
 阿求のコメントに、観覧席に居る大天狗から何なら今度お目にかけようかと野次が飛んだが阿求は苦笑しながら止めて下さいーと首を横に振った。
「対し最低……まあ審査員長の点数に関しては予想を裏切りませんので、八雲さんの方からも一言頂きましょうか。四点とは一番手に対し点を出しにくいと言う点を考慮してもかなり低く思えますが……?」
 次いで神子は死んだ目で零札を挙げている霊夢をスルーして紫の方へとマイクを向ける。
「神社をぶっ壊せたのは当然ですが、その後力尽きて倒れてしまったのがいけません。せめて席に戻るまでは平静を保って頂きたかったですわ」
 大妖怪としての面子か、それとも何処かで経験でもあったのか。阿求と違い紫は実に慣れた様子でコメントを返す。
「妖怪視点ではやはりその辺りは重要だと」
「ええとても」
「成る程ー」
 頷く紫に神子は深く頷いた。その拍子に特徴的な髪が何やら動物っぽく揺れたようにも見えたが、それは風の悪戯に違いない。
「二番手以降の挑戦者の皆さんも、ただ壊すだけでなく色々な方面に気を使わないと点が奮わないと言う事になる訳ですね。それでは……」
 神子が神社のあった辺りに顔を向ければ、神奈子と諏訪子が瓦礫の前で組体操のサボテンを完成させていた。とはいえ相変わらず諏訪子が土台なので、上下で釣り合う事でバランスを取る筈が諏訪子の力任せに終始しており、上に居る神奈子も表情から不安が隠し切れていない。
 無論、正面以外からは相変わらず二柱の表情は伺い知れないので、震える諏訪子の上でポーズを決める神奈子という状況でしか無い。
 ただ今回は先程の肩車の時と違い、見る側も二柱だけでなく周りの再建の様子の方に視線が結構向いていた為、破壊の逆戻しの様に直っていく神社や抉れた石畳等に感嘆の息すら漏れている。二柱にとってはそう言うのが聞きたかったので、サボテンを解いた後軽くハイタッチを決めていた。
「神社の再建も済んだようですね。では第二番手は……」
 観覧席側へ歩みながらの神子に、すっと駆け寄った布都が一番手の書かれた紙と入れ替わりに二番手の書かれた紙を手渡す。
「第二番手はフランドール・スカーレット!」
 高らかに読み上げた。
 参加者の中でも特に破壊については白眉と言える悪魔の妹の名が二番手にして読み上げられた事で観覧席ではどよめきが起こり、昼日中に吸血鬼が堂々と参加している事を驚く声もあったが、そもそも観覧席にはフランドールの姉、レミリアの姿がある時点で推して知るべきだったのかも知れない。
「なんだ、もうか」
 傍らの十六夜 咲夜の差す日傘の影にて、レミリアは呟いた。
「余り待たされるよりは良かったのでは?」
 己の主の声に若干の不興を感じ取ったか、咲夜は呟きに返事をする。
 これにレミリアは溜息を吐いた。
「真打ちがこんなに早く出て来ちゃ駄目に決まってるじゃないか」
「それはそうですが……あ、出てきますよ」
 咲夜の言葉にレミリアは緞帳の掛かった参加者席の方へ眼を向ける。
 丁度緞帳が内から捲られ、パチュリー・ノーレッジが出てくる所で、彼女を追う様にしてフランドールもその姿を現した。
「パチェには面倒を押し付けた形になったけど……」
 日中を歩むフランドールの姿は、太陽に晒されている筈なのに一切の変化は無い。ただそれを当然とする要素として、フランドールの姿は月明かりの下であるかのように薄暗いものとなっていた。彼女の先を行くパチュリーがちらちらと後ろへ注意を払っている辺り、彼女の有様はパチュリーの仕業で、結構慎重を要するものであると察しが付く。もしくは次の瞬間何をしですか分からないフランドールを警戒しているに過ぎないかもしれないが。
「さて、それじゃあ妹の雄姿を見させてもらうとしようかな」
 足を組み換え頬杖を突き、神子と何やら会話をしている妹を見ながらレミリアは不遜に呟いた。





 いくら久々とはいえ投稿一つに右往左往するとは思わなかったよ……
Hodumi
http://hoduminadou.com/
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コメント



0.190簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
神社を見世物として壊すってのはやっぱり気分いいものじゃないですね
とりあえず後編まで評価保留
2.無評価名前が無い程度の能力削除
神子が失墜とか狙ってるって逆に新参者が昔からある神社を壊す方が失墜でしょうに
しかも紫まで止めないとかってありえないし
ギャグ路線で短編ならまだしも長くやる意味ないね
10.無評価名無し削除
正直そのまま投稿しないままの方がよかったですね。
11.50名前が無い程度の能力削除
まあ確かに呼吸をするように倒壊してますけどね、でもタイトルにするとなんかちょっと嫌な気持ちになっちゃいますね