Coolier - 新生・東方創想話

半人前

2013/05/25 18:06:26
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 「妖夢……あなたは本当にいつまで経っても半人前ねえ……」
 
幽々子の呟きに刀を振るって庭木の剪定をしていた妖夢が手を止めて振り返る。

 「幽々子様。なんなんですか?いきなり」

 むすっとした顔でそう尋ねる。
 先代の庭師、妖忌が残していった孫の妖夢。幽々子はそれが可愛くてならない。妖忌に比べて、振るう刀に鮮やかさが今ひとつ足りない、未だに一人前とは言い難い妖夢が愛おしくてならない。
 だからついちょっかいを出してしまう。

 「なんでもないわ。ちょっと妖忌のことをおもいだしてね」

 微笑んでそう返す。

 「師匠と比べたら私が及ぶわけないじゃないですか」

 困ったような呆れたような顔で妖夢は刀を収めた。

 「お茶を淹れてきます」

 そう言って屋敷の中に姿を消していった。

 * * *

 あれはどれほど前だっただろうか。遠く懐かしく暖かい記憶。
 刀を振るう妖忌にも「半人前」と言ってからかったものだ。
 その度に彼は静かに微笑んだ。

 「拙者は半分人で半分幽霊。どう足掻いてもいつまで経っても半人前ですよ」

 そういううまいことを言えという意味ではなかったのだが、毎度毎度妖忌はそう返した。

 「幽々子様、お茶を淹れてきます」

 そう言って屋敷の中に姿を消す。
 今と何も変わらない。そんな日常が暖かく、居心地がよく、ずっと続くと思っていた。

 そしてある日、妖忌は妖夢を置いて姿を消した。
 彼の振るう刀。振り返って静かに微笑む姿、縁側に座って眺める妖夢と二人の剣術、今まで当たり前だと思っていた光景が一瞬にして去っていった。

 「師匠は……どこに行ったのでしょうか……」

 妖夢の呟きが耳を通り過ぎる。
 冬が来たかのようだった。

 * * *

 「幽々子様?……幽々子様!」

 我に返るとお盆に急須と湯呑を乗せた妖夢がこちらを見ている。

 「泣いて……いるんですか?」
 
心配そうな顔で尋ねる。
 頬を触ると指先が濡れた。
 ああ、泣いていたのか。
 もう過ぎ去ったことと思っていたはずなのに。

 「欠伸しただけよ。昨日は遅くまで本を読んでいたから」

 笑って誤魔化す。

 「昨日は『食べ過ぎて眠くなっちゃった』と八時には寝てたと思いますけどね」

 と言いながらお茶を湯呑に注ぐ。

 「そうだったかしらね」

 とぼけながらお茶に口を付ける。
 少し濃すぎる。

 「やっぱり半人前だわ」

 呟くと妖夢が驚いた顔でをする。

 「ちゃんと二人分ありますよ?」

 そういう意味ではない。
 確かにお茶請けは幽々子から見れば半人前にも満たないが。

 「あなたの話よ。あなたが半人前ってこと」

 溜息をつく。
 腑に落ちた顔を見せた後に不満げな顔をする。

 「まだその話ですか……」

 お茶を少し飲んで続けた。

 「いつか必ず一人前になって立派にお仕えしますね。その時には今半人前って言ったこと誤って貰います」

 己のプランを思い浮かべているのか、満面の笑みを浮かべてそう言った。

 「あらあら、自分の主に謝罪させるような人を一人前というのかしら?」

 お茶に息を吹きかけ、妖夢を見遣る。

 「むむむ、それはそうですけど……。でも一人前になるのはホントです!いつか幽々子様が文句をつけれないぐらいになってみせます!」

 拳を握って熱く語る。
 本当に愛おしくてならない。

 「でもあなた半分人間で半分幽霊じゃない。やっぱりいつまで経っても半人前だわ」

 飽きるほど聞いた台詞をぶつけてみる。

 「そういう意味じゃないかと……」

 とっくの昔から知っていたことを返されてしまった。

 * * *

 そろそろ手入れせねば見栄えが悪くなってきた庭を眺めながらお茶に口を付ける。
 見栄えが悪いのは庭だけではない。屋敷の中も長いこと掃除されず、どことなく薄暗い。

 「まったく……半人前はどっちかしら」

 ひとりごちる。
 人より長生きであるとはいえども、半分は人であり、人の体を持つ妖夢は寿命を迎えた。
 年老いて衰弱してなお、剣士独特の気を放ちながら床につく。

 「一人前になれたでしょうか」

 そう呟いて、二度と目を開けることはなかった。
 朽ちることなき半霊を遺して彼女の身体は息を止めた。
 彼女との日々の如く美しい顔をして。
 それから庭を手入れする者はなく、庭木は好き放題に枝を伸ばした。

 「一人前になれたでしょうか」

 そう尋ねた彼女に幽々子は答えてやることができなかった。
 主として見せてはいけない顔をしていたから背を向けてその言葉を聞いた。
 あの時答えるべきだったのだろう。
 一人前だった。よく最期まで仕えてくれた、と。
 結局彼女に「一人前」と言ったことはなかった。
 庭に漂う彼女の半霊。
 それに向かって声をかける。
 
「あなたは立派だったわ、妖夢。でも……やっぱりあなたは本当にいつまで経っても……半人前ねえ……」

 主に見送りをさせるなどやはり半人前だ。
 庭木の剪定をしてみようかと腰を上げた。
 そしてはたと思いついた。

 「残ったのは半霊だから半霊前になるのかしら」
文才も頭も足りなかった
安陸 零一
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コメント



0.260簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
落ちがイマイチかなあ。
いや、それまでの盛り上げが足りないから落ちが物足りなく感じるのかも。
5.無評価非現実世界に棲む者削除
申し訳ないが終わり方に不満。
起承転までは良い雰囲気なのに、結が寿命ネタでは雰囲気が台無しになりました。
私個人の感想なので無視しても構いませんが、寿命ネタを好まない方もいらっしゃると思いますので、せめてもう少し感動的な内容にしてほしいと思います。
8.90名前が無い程度の能力削除
淡々として起伏がなくて、それが良かった。
オチは……ちょっと要らないかもしれない。
10.無評価奇声を発する程度の能力削除
オチがちょっと…
11.703削除
着眼点は悪くない、悪くないんですがうまく書こうとしすぎてやや失敗している感。
あと、今更ですが
×誤って ○謝って ですね。