Coolier - 新生・東方創想話

似て非なるもの

2013/05/21 00:58:42
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注意
・かなり独自設定があります。
・キャラの言葉遣いや関係に違和感があるかもしれません。

以上のことを踏まえて、それでも読んでくださる方は少々お付き合いお願い致します。



































 箒にまたがり風を切って飛ぶのが好きだ。私が本気を出せば人間で追いつける奴はいない。箒にまたがって空を飛ぶ、幼い頃私が憧れた魔女の姿だ。……思い出の中の魔女も憧れた悪霊ももっと優雅に飛んでいたような気もするが。



「禁忌『レーヴァテイン』」



 後ろから洒落にならない弾幕が迫り、直前に私がいた場所を通過して本棚に直撃する。ここは紅魔館の図書館。いつものように本を借りようと思っていたところ、巡り合わせが悪くフランドールがいた。



「妹様、あんまり本棚は荒らさないでちょうだい」
「はーい♪」



 パチュリーはまったりと紅茶を飲みながら私の迎撃をフランドールに任せ、その流れ弾を撃ち落として本への被害を減らすことに集中している。久しぶりのフランドールの弾幕は強烈だ。荒削りなものの恐ろしいパワーでグイグイ私を追い込んでくる。経験も技術もへったくれもない、只々身体スペックが違いすぎる。



「魔理沙は今日は遊んでくれないの?」
「また今度な。今回はパスだ」



 図書館の中を縦横無尽に飛び回りながら何とか追跡を振り切る。



「あ、そっちは」
「ハズレだよー♪」
「げっ!?」



 本棚の角を曲がった所でフランドールの分身が待ち構えてた。危うく挟み撃ちされそうになるのをミニ八卦炉で無理やり方向を変えて真上に飛び上がることにより回避する。



「流石だね!」
「罠を張るのはいいアイデアだけど、もうちょっと頑張らないとな」
「そうね。これまでの経験と知識から相手の思考を先読みし、そこから次の行動を誘導しつつその先に罠を張るの。こんな風に」



 私が方向転換させた先にパチュリーが完璧なタイミングで弾幕を張った。スペルカードを使ったわけでもない通常弾幕だが、見事に逃げ道を潰されてしまった。後ろは壁に追い込まれ、唯一逃げられそうな先は……



「チェックメイトだよ、魔理沙!二対一でごめんね」
「……いや構わないぜ?」



 フランドールに背を向けて壁に向かって全速力で進む。パチュリーが魔法で頑丈にしている図書館の壁はいくら私でも力づくで壊すのは難しい。それでも加速をやめない。



「二対二だからな!」



 私が壁に激突する直前、突然穴が空きそこを通り抜けて脱出する。するとすぐに壁の穴は元に戻り、フランドールの弾幕が壁を襲う。壁は粉々に吹き飛んだものの弾幕はここまで届かない。



「じゃあなフラン!今度来た時はちゃんと遊んでやるからな!」



 そう言い残して空の彼方に消えていく。



「逃げられちゃったね」
「楽しかった?」
「うん!たまには鬼ごっこも楽しいね」
「それは良かった。でも今度はもうちょっと周りの被害に気をつけてね?」
「はーい!」
「元気でよろしい。それにしても……二対二ねぇ……」
「私は四人まで増えるよ?」
「そういう意味じゃ……いや、なんでもないわ」



◇◇



 家に帰ったら早速借りてきた本のチェックをする。割と目についた本を片っ端から借りていくから、たまになんでこんな本を借りたか疑問に思うこともある。さて今回の本は……ふむ、良い感じだ。これは今行ってる研究に応用出来るかもしれない。



「ただいま帰りました」
「……ん?あぁおかえり。今開けるから。……今日は助かったぜ」
「いえいえ、お気になさらず」



 少し本に夢中になっていると、同居人が帰ってきた。



「お茶を入れますので少々お待ちを」
「あぁ、悪いな」



 少しして出された紅茶は私好みで、前まで飲んでいた安物と同じだとはとても思えなかった。



「……なぁ、ここの箇所に書かれてある薬品なんだが何か分かるか?」
「これは……随分昔に使われていたものですね。西洋のタイプの魔術ではあまり見ませんが、私達は使っていた時期があります。お望みなら用意致しますよ?」
「そうだな、頼むぜ」
「では数日お待ちください。ところで今夜のメニューは何に致しましょうか?」
「今日中にある程度読んでしまいたいから、本を読みながら食べれるものにしてくれ」
「かしこまりました」



 言葉遣いのせいかこいつが一瞬咲夜とダブって見えた。実際に私はこいつをメイド並みにこき使っているのだから、そのせいだろう。



「なんだかいつも悪いな」
「いえいえお気になさらず。なんたって魔理沙さんは運命の人ですから」



 幾度と無く耳にしたセリフだ。こいつは見事に私の生活に入り込み、それでいて今日まで全くその目的を悟らせない。今のところデメリットはなく、むしろメリットしかないのだが、それでもどこか油断ならない。私の同居人、霍青娥は不思議な女だ。こいつとの同居が始まったのは三ヶ月前にさかのぼる。



◇◇



紅魔館襲撃三ヶ月前



「霧雨魔理沙さん!」
「……あ?」



 夜遅くの訪問に疑問を感じながら扉を開けると、そこにいたのはいつかの邪仙で、いきなり私の手をとってきた。



「貴方に興味があります!私をお側においていただけませんか?きっと役に立ちます」
「ちょ、ちょっと待て。落ち着け。とりあえずなんだ、こんな時間だし部屋で話を聞くから。な?」



 勢いに押されて部屋に招き入れることになり、紅茶を用意するからと言って一旦席を外して考える時間を作る。異変の時以来この邪仙とは会っていないが、確か霊夢が弟子入りに来て迷惑していたとか言っていた気がする。私の所に来たのも同じ理由かと考えるが、どうにも腑に落ちない。幻想郷には魔法を使うものは複数いるが、その中で私を選ぶ理由が分からない。断られた末に行き着いた結果が私だったのだろうか?それなら私も断ればいい。



「待たせたな」
「いえ、こちらこそこんな夜分に申し訳ありません」
「それは別にいいけど、とりあえず理由を聞かせてくれないか?何で私の所に来たいんだ?」
「貴方に運命を感じたからです」
「……運命?」
「今まで永く生きてきましたが、貴方ほど側で見ていたいと思った方は初めてです」
「魔法の力が目当てじゃないのか?」
「それもまた貴方の魅力、いやもはや貴方の一部ではないでしょうか?」
「そういうことを言っているんじゃなくてな、霊夢の時みたいに私から教えを請うのが目的じゃないのか?」
「そうではありません。私は貴方に惹かれたのです」



 もう一度私の手をとって顔を近づけてくる。その青い瞳は吸い込まれそうなほどに綺麗でありながら、決して底が見えない。熱意は伝わってきても真意は全く悟らせない。



「勿論タダでとは言いません。先程も言いましたが、迷惑はかけませんし、なんだってお手伝いさせて頂きます。私の拙い知識で良ければいくらでもお貸ししますし、私の持っている魔導書も自由に使っていただいて構いません。迷惑と感じればいつでも追いだしてくれて結構です」
「うーん……」



 言っていることが本当なら悪い話では無さそうだ。永く生きている仙人の知識や所有している魔導書には興味があるし、頭もよさそうなこいつなら助手としても悪くはないだろう。ここ最近研究が上手く進んでいないし、いつでも追いだしていいのなら試してみるのも悪くない。何よりこの様子じゃ断っても付きまとわれるだろう。



「仙人ってたしか仙界とか言う所に住んでるんだよな?」
「そうです」
「今……というか今後も含めて私の家に二人以上寝泊まりするスペースはない。だから家の近くに仙界の入り口を作ってくれて構わないから、寝る時だけはそこに帰ってくれ。それと私の許可無く家に入るのはやめてくれ。それと……私の家は絶対に片付けないでくれ。破ったらどんなことがあろうと出て行ってもらう。後の条件は少しずつ増やしていくが、それでも良ければいいぜ」
「ありがとうございます。それでは改まってになりますが『壁抜けの……仙人』霍青娥と申します。青娥とお呼びください」
「『普通の魔法使い』霧雨魔理沙だ。魔理沙でいいぜ」



 こうして奇妙な同居生活が始まった。



◇◇



○月 △日

・研究内容は相変わらず魔法関係。順調かどうかは不明。
・例の魔法に関する本を紅魔館から借りてきた本に混ぜてみたものの特に反応はなし。見ていて退屈はしないが、そろそろ動きがほしい。



◇◇



「ん……ぅん……」



 研究の途中で眠ってしまっていたらしい。紅魔館から本を借りた日はだいたいこうだ。少し寝違えた首をさすりながら台所に行くと、朝食が用意されていた。鍋に火をかけて温め直しながら、側においてあるメモを見る。



『本日はアリスさんのお宅に呼ばれており、帰りは夕方を過ぎるかもしれません。昼食は鍋にあるので温めて食べてください』



 正確な時刻は分からないが、今はもう昼過ぎだろう。作ってあるのが朝食でなく昼食なあたり、完全に行動を読まれている。
 昼食を食べ終え、今日の予定を考える。夜更かしのせいで身体もだるいことだし、今日は一日中家で研究することしよう。



◇◇



 お昼過ぎのティータイムに向けて作ったクッキーが焼きあがった。今日の客人の好みは分からないが、おそらく舌は肥えているので下手なものは出したくない。



「こんにちはアリスさん。今日はお招き頂きありがとうございます」
「前にも言ったけど堅苦しい挨拶はいらないわ。どうぞ上がって」
「ではおじゃまします」



 三時前に青娥がやってきた。部屋に招き入れると少し考えたような顔をした後に人形を眺め、再びこちらに笑顔を向ける。最近お香を焚き始めたのだが、少し匂いが強すぎただろうか?でもこうしないと死臭、そして薬品の匂いがごまかせない。



「すいませんね。うちの子、可愛いけど特別な手入れをしないと匂いが少々問題でして」
「私から頼んだことだし問題ないわ。コーヒーでいいかしら?人形達に入れさせるからちょっと待っていてね。芳香、貴方のご主人様が来たわよ」
「青娥~!」



 部屋の奥から芳香がやってくる。青娥は久しぶりの再会を抱擁で出迎え、その際に体を触って、おかしなことをされていないかチェックしている。なんだかんだ言って大切に扱っているらしい。



「久し振りですね、ここ最近のことを教えて下さい」
「あぁ~……アリスのお茶が美味しかったぞ!噛みごたえがあって」
「ティーカップはこちらで弁償させて頂きます」
「それくらいいわよ。随分心配してるみたいだから一応言っておくけど、基本的に質問したり動いてもらってるのを観察させてもらっただけよ?下手に触ったりしたら貴方って嫉妬深そうだし」



 青娥は絶対に浮気とか許さないタイプだ。自分は飽きやすいのに。



「お気遣いありがとうございます。ところで成果の程はいかがですか?」
「イマイチね。キョンシーの術は自立人形には応用できなさそうだわ」
「それは残念です」
「せっかく貸してくれたのに、悪いわね」
「いえいえ、こちらも見返りに人形遣いの研究資料を拝見させていただいたので問題ないですよ。こちらは十分使えそうですし」



 話してみて分かったが青娥にはそれなりに魔法の知識がある。おそらく昔に好奇心から手を出したことがあるのだろう。前に上手くやれば人形遣いの術で死体を容易に動かすこともできるかもしれないと言っていたのは冗談でないかもしれない。



「貴方ってネクロフェリアだと思っていたけど、ひょっとしてピグマリオンコンプレックス?」
「そうかもしれませんね。ですが私に逆らわず、手足のように命令を聞き、健気に尽くそうとしてくれる。そして何より朽ちることなくずっと共に歩んでくれるこの子を愛することがそこまでおかしいことでしょうか?」



 青娥が隣にいた芳香に膝枕をしてやりながら頭を撫でる。すると芳香はすぐに幼子のように寝息を立て始める。



「この子は私の可愛い所有物ですよ」
「所有物ね……。前から思ってたんだけど、死体を操ることに対して罪悪感はないの?虚しさを感じることは?」



 青娥の顔から表情が消える。落胆?失望?上手く感情を読み取れない。ほんの数秒の静寂の後、何事もなかったかのように青娥は再び微笑みながらクッキーを口にする。



「このクッキー美味しいですわね。後でレシピを教えていただけないでしょうか?」
「……えぇ構わないわ」



 質問に返答はなかった。つまりそれが答えということだ。ならせっかく話題が変わったんだしもう一つ気になっていたことについて触れてみようか。



「でもそのクッキーは前魔理沙が食べた時はイマイチ不評だったわよ?」
「もう少し甘いほうが魔理沙さんの好みに合っていますし、そこは工夫次第です」
「いろいろ頑張ってるのね。とても真似できないわ」
「些細な事です。私は魔理沙さんに運命を感じているのですから」
「随分入れ込んでるのね」
「ですがまだ私は信用されていないようですね。夜になったら追い出されてしまいますし、許可無く家に入ることは許されていません。ですので寝顔はまだ一度も拝見できてないのです」



 一応魔理沙は自分の中でしっかりと線は引いているようで少し安心した。まぁ友人に怪しげな同居人が現れれば心配することはあっても、過度に干渉するつもりはないのだが。


「魔理沙さんのことが気になりますか?」
「友人だからある程度はね。そのことを除いても同じ魔法を使うものとして意識はしているわ。人形師としては芳香にも興味があったんだけど、結果は芳しくなかったわ」
「メディちゃんや鍵山様はどうだったんですか?」
「メディスンには嫌われてるし、厄神は人妖を避けるからなかなか会えないのよ。というよりメディちゃんって……貴方は仲がいいの?」
「純粋無垢な子は好きですので」



 青娥が芳香を見ながら優しく微笑む。いびきをかきながら眠る芳香を撫でるその様子からは確かな母性を感じる。



「貴方……ひょっとしてペドフェリアでもあったりする?」
「……はい?」
「いや、なんでもないわ。失礼な発言だったわね、謝るわ」
「ペドフェリア……ですか……。確かに永い間生きているので必然的に周りは年下が多くなりますが……私がペドフェリア……」
「ごめんなさい。どうかしてたわ。本当に気にしないで」
「いえ、怒っているわけじゃないんです。ただ言われたことがなかったもので。私はペドフェリアなのか、なかなか面白い意見ですね」



 表情からは怒りは見えない。むしろどこか楽しそうに考え事をしている。そんなにおかしなことを言っただろうか。いや、失礼ではあっただろうが。



「自分のことなのに分からないの?」
「永く生きているとそういうものなのです。自己の探求もまた真理の一つ。永遠の研究課題です。貴方は自分のことを本当に分かっているのですか?」
「どういう意味かしら?」
「貴方は先程罪悪感や虚しさといった言葉を私に向けて使いましたが、もし意志を持った自律人形を今までのように操るのでしたら私と何が違うのでしょう?自律する前ともいえる人形達を操ることに対して罪悪感や虚しさは感じないのですか?メディちゃんを見れば分かるように、自律する前の人形にも記憶は残っている可能性はあるのですから」
「それは……」
「研究熱心なのもいいですが、たまには自己を振り返って見るのもよろしいかと」
「……」
「差し出がましい発言をしてすいません。有意義な時間を有難うございました。今日はこれで失礼します」



 青娥は眠っていた芳香を起こし、クッキーのレシピを聞いて帰っていった。玄関まで見送った後、部屋の戻る時に人形と目があったのだが、思わず反らしてしまった。感情のないはずの無機質な瞳がどこか自分を責めているような気がして。



◇◇



「ただいま帰りました」
「ちょっと待っててくれ。……よし、おかえり。芳香も連れて帰ってきたのか?」
「えぇ。アリスさんの研究も一通り終わったようなので」
「そうか。でも悪いんだが」
「大丈夫ですよ。芳香には私の家の方で過ごしてもらいます」
「すまんな。匂いは構わんが、私の家にはキョンシーが跳ねるスペースがないんだ」



 アリスに預ける前も芳香は一度も私の家には入ってない。青娥が甘い声で芳香に指示を出すと、元気だけは良い返事をして仙界に消えていく。家のことは私が今青娥にやらせているみたいに芳香にやらせているのだろうか?……いや、関節が曲がらないのに家事は無理か。



「今晩のメニューは何に致しましょうか?」
「適当に消化のいいもので頼む」
「分かりました」



 その後しばらくすると用意ができたといって呼ばれる。今夜の夕食も美味そうだ。



「一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「魔理沙さんには目標とかそういったものはあるのですか?」
「いきなりだな。憧れならあるが、目標は……どうだろう」
「毎日随分と熱心に研究しているものですから、アリスさんみたいに目標があるのではないかと思ったんです。違いましたか?」
「魔法の研究自体が楽しいからなぁ……。これといったものはないが、証明したいものならある」
「何ですか?」
「報われることもあるんだってな!」



 そう言って最後の一口を口に入れて席を立つ。今日は早く寝るためにもさっさと終わらせてしまわなければ。



◇◇



 ○月 □日

・私の芳香が無事帰還

・外出したため研究の過程は不明。
・様子は変化してないことから、例の魔法にも進展は恐らくなし。
・神霊から得た情報では魅魔なる者の行方は不明。
・不確定ながら博麗の巫女が目的の障害になる恐れあり。

 ※アリスについて
・家の中の薬品の匂いから、キョンシーの術の実験を行った可能性あり。
・自律人形に対する疑問を抱く?今後の変化に注意。



◇◇



青娥同棲からおよそ四ヶ月後、紅魔館の図書室にて



「小悪魔、このメモに書かれてある本を持ってきて。あと机の上の本を元の場所に戻しておいてちょうだい」
「分かりました。ちょっとお待ちくださいね」
「もうすぐ客人が来るから、それまでによろしくね」
「あ、はい。急ぎます」



 それから数分後、予定していた客人が咲夜と共にやってきた。



「待っていたわよ、青娥。ちゃんと言われた通りの魔導書は持ってきてくれたかしら?」
「ちょっと待ってください、今出しますから」
「……『台所から生まれる錬金術』『捨食・捨虫の魔法について』『小さい魔力で大きな成果を 人間用』『ネクロノミコン第六章』『打ち上げ花火の仕組み』『宇宙用語辞典』『洋菓子で失敗しない十のコツ』。七冊も足りないことに対する言い訳はあるのかしら」
「代わりに私の私物から何冊から出しますのでもう少し待ってください」
「約束が違うんじゃないの?定期的に魔理沙の家から私の本を返却するはずよ。こっちはちゃんと条件を守っているのに」
「魔法関連のアドバイスの他にも、いろいろと我儘を通させてもらっていることには感謝しています」



 こちらの不満に対して何の答えにもなっていない。幻想郷は話しの通じない奴ばかりだ。



「まぁ今回はいいわ。貴方のコレクションは毎度楽しみだし」
「それはありがたいです」



 そう言って勝手に私の向かいに座ろうとする。片付けが間に合わず、さっきまであったはずの本はいつの間にか消えている。



「咲夜、ありがとう」
「どういたしまして。紅茶をお持ちしますので少々お待ちください」
「パチュリー様、すいません……」
「言うのが遅かった私が悪いのよ、気にしないで。その代わりさっき伝えた本を早くお願いね」



 小悪魔がパタパタと図書館の奥に駆けていく。咲夜のようにスマートに消えることは出来ないが、あれはあれで……



「可愛いですね」
「あれは私の使い魔、私の所有物に手を出さないで」
「そのお気持ち分かりますわ。ですが他人の物って何故か魅力的に見えるんですよ。時折奪いたくなることってありませんか?」
「悪趣味ね」
「紅茶をお持ちしました」



 咲夜が現れ、私達の前に置いてあるカップに紅茶を注ぐ。すると突然青娥が咲夜の手を取り抱き寄せる。そして空いてる方の手で咲夜の頬を撫でつつ顔を近づける。



「貴方なんかとっても魅力的です。私のところに来ませんか?永遠に可愛がって差し上げますよ?」
「……失礼ですが」



 青娥に捕まえられていた咲夜が消えて、私の隣に現れる。そして咲夜の頬に触れていた青娥の手には赤い薔薇が握らされている。



「二つ程言いたいことがあります。女性はもっと丁寧に扱うべきかと、それこそ花を扱うように。それとお誘いは嬉しいですが、私には死ぬまで側にいる決めた方がいるので遠慮させて頂きます」
「そうですか、死んだ後は構わないのですね?」
「……えっ?」
「冗談です。では私からも一つ」



 そう言って青娥は咲夜の胸のあたりを指さす。そこにはいつの間にか青い薔薇が刺してあり、みるみる成長してそのまま枯れてしまった。



「花の命は短いものです。もし時の短さを嘆くことがあるならば、いつでも相談に乗りますわ」
「……失礼します」



 咲夜は私達に一礼した後、消えてしまった。



「本当に悪趣味ね」
「そんなに怒らないでください。ちょっとした悪ふざけですよ」
「どうだか」
「勿論興味はつきませんよ。『時間を操る程度の能力』、これほどの能力を人間が操っているのですから」
「……用件を早く済ましてしまいましょう。今日は何を聞きに来たのかしら?」



 紅茶に砂糖とミルクを入れて口をつける。今日も美味しい。



「とりあえず最近アリスさんが借りた本を教えていただけないかしら?」
「……『付喪神の成り立ち』『魔術による人工生命の生み出し方』『使い魔・妖魔の人権』。少し珍しいラインナップだったわね」
「そうですか」



 そう言って楽しそうにクスクスと笑っている。幼い子供がイタズラを企んでいるような、そんな笑顔だ。



「何を企んでるの?」
「ちょっとしたイタズラですよ。特に意味はありません」
「よく分からないわね」
「あ、青娥おねーさん来てたの?」



 フランドールが地下から上がってきた。どういうわけかこの子は青娥に懐いている。魔理沙のことも含めて教育上好ましくないものをを気に入る傾向にあるらしい。気をつけておかなければ。



「久し振りですねフランドールちゃん。だいたい一ヶ月ぶりでしょうか?」
「魔理沙を助けるために図書館に穴を開けた時以来だね。次は魔理沙はいつ来てくれるのか分かる?」
「基本的に当日に予定を決める方なのでなかなか難しいです。ですが前回みたいに前もって分かる場合はお伝えしますね」
「お願いねー!それでいつものなんだけど……」
「分かっていますよ」



 そう言って青娥は懐から赤い液体の入った小瓶を取り出す。それを見たフランドールは思わず喉を鳴らす。



「妹様、そんなに興奮しないで。レミィにはしたないって怒られるわよ」
「あ、ごめんなさい……」
「待ちきれないようですし、どうぞ」



 フランドールは小瓶を勢い良く受け取ると、ハッとして一度こちらを振り返る。そして一度深呼吸した後、瓶をゆっくり開けてその液体を飲む。



「美味しそうに飲んでいただけるとこちらも嬉しいですわ」
「仙人の血は美味しいらしいわね。あまりいいこととは思えないけど妹様も癖になりつつあるわ」
「まぁ、フランドールちゃんも私無しでは生きていけなくなる日も近いかもしれないですね」
「……あまり悪ふざけが過ぎると」
「どうなるというのですか?」



 顔は笑顔のままだが目が笑っていない。一瞬で周りの状況に目線を走らせるあたり、全く冗談というわけではないらしい。今日は喘息の調子はそこまで良いわけではないが……。



「青娥おねーさん、今日は遊ばないの?」
「……そうですね。パチュリーさんとお話が終われば、少しお付き合いさせて頂きます。それまで本を読んで待っていてください」
「はーい!」



 フランドールが図書館の奥に駆けていく。いつのまにかピリピリとした空気は消えていた。



「……先ほどの非礼はお詫びします。申し訳ありませんでした」
「貴方には何を行っても無駄だろうから、こっちで気をつけることにするわ」
「それにしても……パチュリーさん、私ってペドフェリアなのでしょうか?」
「……?」
「そんな顔をしないでください。少し気になっただけですから。それよりいつも通りあの魔法について詳しく教えて下さい」



◇◇



 ●月 ■日

・外出したため研究過程は不明。
・何度かアプローチをかけたものの相変わらず反応なし。
・例の魔法については理論および準備はほぼ完成。



◇◇



青娥同棲からおよそ半年



「……そこにあるきのこを取ってくれ」
「はい」
「この本を何処か邪魔にならない所に。それで『光魔法の歴史』の」
「戦略兵器の項の三九四二ページですね。開いておいておきます。あと先日見つけたキノコの胞子と準備しておいた丹を用意しておきます」
「あぁ頼む」



 それなりに長くいた為に慣れたのだろうか、青娥は私の研究の助手として非常に役に立っていた。ここ半年くらいの研究も随分進んだ。



「これで思った通りの反応が出れば……」
「成功ですね」



 二人が見守る中、試験管の中で反応が起きる。実験は成功だ!



「ついに完成したぜ!」
「……なぜ成功したのかさっぱりです。よくもまぁこんな無茶苦茶な理論で」
「青娥の協力のおかげだ。感謝するぜ!」
「いえいえ。助けになったのであれば私も嬉しいです」
「さて、あとは弾幕に応用してみるか。ちょっと弾幕ごっこの相手をしてくれよ。もうスペカ名は考えてあるんだ」



 外に出て弾幕ごっこをする。そういえば青娥との弾幕ごっこは異変以来二回目だ。あの時と違って芳香はいないが、それでも油断ならない。



「さて、試運転に付き合ってもらうぜ!」
「楽しみです。あなたの全てを見せてください」



◇◇



 結果から言えば実験は成功、新しいスペルカードが出来上がった。



「さて、明日に備えて今日は早めに寝ないとな」
「魔理沙さん、その前によろしいでしょうか?」



 弾幕ごっこを何度かしている内に暗くなってきてしまった。今は紅茶を飲みながら青娥の作る夕食を待っている最中だ。



「まずは研究の成功おめでとうございます」
「何度も言ったが青娥のおかげでもあるからな」
「そこで今日は少し頑張ってみました」



 青娥の運んできた夕食は随分と豪勢なものだ。それこそ宴会の時の料理と比べても遜色ないくらいだ。



「おぉ!こいつはすごいな」
「お酒も今日のために用意した上物がありますが」
「あー……今日はまだお酒はいいや。それより青娥は明日暇か?」
「特に予定はありませんよ」
「なら私は博麗神社に行くつもりなんだが、一緒に来ないか?」



 青娥と一緒に住み始めてからも博麗神社にはよく行っていた。しかしどういうわけか青娥は博麗神社にだけはついて来なかった。他の場所は予定がない限りついてくるのに。



「明日は博麗神社に行くのですか?」
「あぁ。霊夢と弾幕ごっこをしにな。今日こそ私が勝ってやるぜ!」
「前々から気になっていたのですが、どうして霊夢さんにそこまでこだわるのですか?」


 霊夢にこだわってる?私が?……まぁ意識はしているな。だが何故と言われれば、何故だろうか。確かに霊夢に認めさせたいと思ったが、何故霊夢なんだろう。



「うーん……嫉妬か?」
「えぇ、嫉妬です」
「しれっと嘘をつくなよな」
「質問に答えてください」
「あー……そうだな……。霊夢を気にする理由……。多分霊夢が、その……友達……い、いや今のはナシだ!ナシ!そんなの分かんないぜ!」
「……そうですか」



 青娥は私を冷めた目で見た後、がっかりしたようにため息を付く。な、なんだよその反応は!



「魔理沙さんは魔法使いになるつもりはないんですか?」
「えっ?魔法使いってアリスやパチュリーみたいにか?うーん……あんまり考えてないなぁ」
「身体が衰え始める前には結論を出したほうがいいですよ。早く決めておくに越したことはないと思いますが」
「うーん……そうだろうけど……。とりあえず今は明日の霊夢との弾幕ごっこだな!」
「……分かりました。明日は私も御一緒させて頂きます。お酒もその時に」



◇◇



 ☆月 ★日

・魔理沙の研究は完成。
・しかし……。
・明日博麗神社に向かう。そこで結論を。



◇◇



「来たぜ霊夢!」
「久しぶりね魔理沙。いや、そんなに久しぶりじゃないけど。素敵なお賽銭箱は」
「弾幕ごっこやるぜ!」
「……ちょっと待ちなさいよ、今お茶出すから。あら、青娥も来てるんだ。こっちは本当に久しぶりね」
「お久しぶりです霊夢さん」



 魔理沙の家に青娥が上がり込んでいるという話は聞いていたが、ここに一緒に来たのは初めてだ。というか弟子入りを志願して以来ここには来ていないはずだし。



「お待たせ」
「お茶飲んだら弾幕ごっこな!」
「嫌よ面倒臭い。……あぁもう!そんな顔しないの!ちゃんと相手してあげるから、少しのんびりさせなさいよ」
「分かったよ。でも絶対やるぞ?」
「仲がいいのですね」
「腐れ縁よ」
「なぁお茶菓子ないか?甘いやつ」
「あるわけ無いでしょ。そこにあるおせんべいで我慢しなさい。ところであんたは何の用事で来たの?」
「魔理沙さんの付き添いです」
「……まぁいいわ。お賽銭入れてくれるんなら誰だって歓迎するし」



 こいつが何で魔理沙に引っ付いているのか、気にならないといえば嘘になる。今のところ特に問題はないのかもしれないが。



「見てろよ霊夢!こっちは新しいスペルカードがあるんだぜ!」
「へぇ……新しいの作ったんだ」
「研究の成果ってやつだ」
「青娥も協力したの?」
「はい。ですがアドバイスやお手伝いだけで、基本は魔理沙さんが作り上げました」
「そうだぞ。だからズルじゃないからな」
「そんなこと言ってないでしょ」
「今日こそ私が勝つからな」
「……もういいわ、とっととやりましょう。あんた待ちきれないみたいだし」
「お、じゃあやるか」



 魔理沙が空に上がっていく。それについていくように私も上がり、ある程度の高さで止まる。いつものことだが魔理沙はとても楽しそうだ。全く何がそんなに楽しいのやら。



「さて……今日こそ勝たせてもらうぜ!霊夢!」
「いつも通り……今日もあんたのちょっと先を行かせてもらうわ!」



 こうして弾幕ごっこが始まる。さて今回、魔理沙はどうやって私を楽しませてくれるのだろうか。



◇◇



「あそこだよなー、あの結界で防御しつつ私の逃げ道塞いで、そこに夢想封印をズドンだもんなー。あのカウンターを読みきれなかったのが敗因だよなー!」
「魔理沙うるさい。あんた飲み過ぎじゃない?」
「そうかもなー。ここ最近全然飲んでなかったからなー」
「うちではいつも通り飲んでたじゃない」
「細かいことは気にすんなよ!青娥ー、肉の追加頼むぞー!」
「はいはい、お待ちください」



 弾幕ごっこが終わった後も結局二人は帰らず、そのまま一緒に夕食を食べることになった。鍋の材料とお酒を持ってきていたあたり、最初からそのつもりだったのだろう。



「ちょっと!そのお肉は私のよ!」
「だったら名前でも書いとけってんだ!」
「私の家で鍋やってる時点でお肉は全部私のでしょ」
「無茶苦茶なこと言うなよ」
「お酒も殆ど残ってないじゃない!やっぱりあんた飲み過ぎよ」
「まぁまぁ。おかわりもちゃんと持ってきていますから」



 青娥が私と魔理沙の空っぽになったコップにお酒を注ぐ。青娥のコップのお酒は最初からあまり減っていない。



「でも私の新しいスペルカードは良かっただろ?」
「別にいいんじゃない。いつものあんたらしい感じだったわよ」
「でも惜しかったよなぁ。あそこの封魔針でペースを握られたのも痛かった!」
「あんたしつこいわよ。いい加減飲み過ぎ。これ以上お酒注がなくていいから」
「そうですか?分かりました」
「霊夢はどこが敗因だと思うんだ?」
「そんなの知らないわよ。興味ないし」
「相変わらず向上心のないやつだなぁ。青娥はどうだ?」
「そうですねぇ……私はお二方に比べて弾幕ごっこに関しては素人も同然ですし」
「なんでもいいから言ってくれよ」
「それなら色々ありますが、強いて言うのなら……」



 青娥は顎に手を当ててこれ見よがしに少し思案したような態度をとった後、微笑みながらゆっくりと魔理沙に言った。



「相手が霊夢さんだからじゃないですかね?」
「なんだそりゃ?」
「……こいつも酔っ払ってんでしょ。このお酒美味しいけど随分強いみたいだし」
「そっか。とにかくお肉とお酒もっと追加だ」
「だからダメだって言ってんでしょ」
「いいじゃん今日くらい」
「別に特別な日でもなんでもないでしょ。あんたは負けたんだし」
「何言ってるんだよ。私の決めた目標は、私の友達はすごいってことを再確認できたじゃないか!」



 ……だめだ。魔理沙は相当酔ってるみたいだ。これ以上変なことを言い出す前にとっととお開きにしなければ。



「はいはい、私は楽園の素敵な巫女よ。すごいに決まってるでしょ。青娥、マジでお酒片付けてきてちょうだい。あ、お肉はまだまだ追加していいから」
「分かりました」
「……何笑ってんのよ」
「いや可愛いなと思って。霊夢さん、お顔が赤くなっていますよ」
「私も飲み過ぎたのよ。馬鹿なこと言ってるとあんたも鍋に入れるわよ?仙人って美味しいらしいし」
「食べられない内にお肉持ってきますね」



 そう言って台所にお肉を取りに行く。全くなんだって言うのだ。今日は厄日なのか?いやお肉とお酒が美味しいし違うか。



「魔理沙も何とか……魔理沙?」
「……んぁ?」
「食事中に寝るな馬鹿」
「あら、魔理沙さん大丈夫でしょうか?」
「本格的にマズイわね。そろそろこいつを連れて帰ってもらってくれる?」
「私は魔理沙さんの許可無く家に入らないと約束していますので、それはできません」
「じゃあいつも通りうちに泊めるしかないか。あんたはどうするの?」
「私も御一緒させてもらってよろしいでしょうか?」
「布団は余ってるし、別に構わないわよ。その代わり面倒臭いからみんな一緒の部屋ね」
「ありがとうございます」
「魔理沙はもう寝ちゃいそうだし、布団だけでも引いてくるわ」
「お願いします」



 食事中に酔いつぶれて寝てしまうなんて魔理沙にしては随分と珍しい。この後は青娥と二人で鍋になるが、あいつは間違いなくまた私に弟子入りがどうのこうのと言ってくるだろう。正直面倒臭いがご飯がまだ残っているし。



「じゃあ布団引き終わったから、魔理沙連れて行くわね」
「お手伝いします」
「平気よ、こいつ軽いし」



 魔理沙をおぶって寝室まで連れて行く。背中で幸せそうな寝顔をしているのを見るとなんだか無性に腹が立つ。朝起きた時に二日酔いでせいぜい苦しめばいいんだ。



「……友達ねぇ」



 魔理沙のおでこをパシッとはたいてやった後、風邪を引かないように布団を肩までかけてやって部屋を後にする。青娥の話は適当に聞き流せばいいだろう。



◇◇



 ☆月 ☆日






 いつものように記録を書こうとしてペンを取ってみたが、日付を書いた所で止まってしまった。草木も眠る丑三つ時、自分の隣では二人の少女が寝息を立てている。今日用意したお酒は私の特別製。睡眠薬というほどのものではないが、普通に飲めばしばらくは起きることが出来ないだろう。



「運命を感じたんだけどねぇ……」



 魔理沙の寝顔を眺めながら呟く。私が間違っていたのだろうか、いや違う。博麗の巫女が、博麗霊夢がいたからだ。



「貴方さえいなければ……」



 ゆっくりと立ち上がり霊夢の首筋に手を当てる。目を開ける様子はない。いくら力を持っていようと所詮は人間、このまま首筋を切り裂けばそれこそあっけなく絶命する。



「弟子入りも無理そうですし、まぁそれは分かっていたのですがね。なにより邪魔になりそうなんですよね、貴方の存在が。いっそ殺してしまって私のものに……」



 首筋に添えた手に力が集まる。今ならたとえ何が起こったとしても、それより早く霊夢を殺すことができるだろう。多くの人妖の理想郷である幻想郷、この少女が死ねばどれだけの影響が出るのだろうか。決して小さくはないはずだ。ひょっとしたら今自分はある意味幻想郷の運命を握っているといえるのではないだろうか。そう考えるとなんとも言えない背徳心が湧いてくる。



「……なーんてね。反応がないとつまらないわ」



 ため息をついて手を引っ込める。どう考えても割に合わない。一時の快楽や、一つの研究のために払うにはあまりにもリスクが多すぎる。確かに今回はダメだったかもしれないが、幻想郷はまだまだ私を楽しませてくれるものがたくさんある。それにおそらく霊夢はキョンシーにして私物化するよりも博麗の巫女をしている姿を眺めている方が面白い。



「ならばこちらはどうでしょう」



 霊夢の側から立ち上がり、今度は魔理沙の側に座る。



「貴方との同棲生活、私の人生の中では短い期間でしたがそれなりに楽しめました」



 再び手に力を集め、魔理沙の首元へゆっくりと近づける。



「ですが貴方は思っていたのとは違ったようです。さようなら魔理沙……」



 魔理沙は全く起きる気配がない。そしてこのままいけば二度と起きることもないだろう。私が本気なら魔理沙はあっけなく死んでしまう。



 すると私の手のすぐ側に針が飛んできた。



「……やっと私の話をちゃんと聞く気になったんですか?」
「縁側で話すわよ。まともでそれでいて夕食で出したのよりいいお酒を用意しなさい」
「それは残念。魔理沙を祝う気持ちに嘘はなかったんですよ。なので夕食で出したものよりいいお酒は今は持っていません」
「なら今度持って来なさい。今日は神社にある安酒でいいわ」



 障子を開けて先に部屋を出て行く霊夢の後ろ姿に、不覚にも一瞬見惚れてしまった。……今日の夜は楽しくなりそう。



◇◇



「さて何から話そうか……。聞きたいこととかあるのかしら?」
「あったら聞くからとりあえず適当に喋りなさい」
「そうですか。……お酒、安っぽいですね」
「文句あんの?」
「まさか。じゃあ質問だけど、なぜ起きてるの?」



 普通にあのお酒を飲めば起きれないだろう。まぁ答えの予想はついているが。



「やっぱお酒になんか仕込んだのね。あんたが持ってきた時点で警戒対象、その上あんたはほとんど飲まないし魔理沙の様子がおかしい。そして勘だけどなんか飲んじゃいけない気がした。まぁ毒じゃあなさそうだったし、美味しかったから少し飲んだけど」
「じゃあ私が襲おうとした時も起きてたんでしょ?反応がなくてつまらなかったわ」
「これも勘だけどあんた何もする気なかったでしょ?」
「では魔理沙の時は何故針を投げたのかしら?何もする気がないことは分かっていたでしょうに」
「……」
「……その表情が見れただけで満足だわ」



 霊夢はそっぽを向いてお酒を一気に流し込む。開いたコップに私がお酒を注ぐ。



「あんたってさ、結局魔理沙のことをどう思ってたの?」
「あらあら、貴方達ってそういう関係?」
「あんたが魔理沙に何を求めていたのかが気になるのよ。力?お金?まさか愛なんて言わないでしょ?でも利益なしに動くとは思えないのよ」
「恋愛感情という意味でなら……分からないわ。長年周りの人々のことはどこが優れているか、どんな力を持っているか、どうすれば利用できるか、どれだけ役に立つか、そんな穿った見方でしか見ていないので」
「ひどい奴もいたもんだ」
「そしてそんな風にして養われてしまった経験から言わせてもらうけど」
「……何よ」
「霧雨魔理沙は博麗霊夢には勝てない」



 霊夢の様子に変化は見られない。動揺も驚きも何もない。



「分かっているんでしょ?」
「まぁ私の勘では……確かに魔理沙は一生私に勝てないでしょうね」
「なら」
「それでも魔理沙が私に勝ったら面白いと思わない?」
「……はい?」



 思わず間抜けな声を出してしまった。



「その無理を覆せたら面白いと思うのよ。少なくても私の中では何かが覆ると思う」
「いくらなんでもありえないわ」
「私は私の勘を信じてる。あんたはこれまでの経験を、そして魔理沙は自分の努力を信じてる。それぞれ信じるものが違うだけよ。私も無理だと思ってる。でもね、魔理沙はできるって信じてるのよ。そしてどっちが面白いかって言ったら」
「なるほど、覆せるものなら見てみたいわね」
「でしょ?」



 無邪気に笑う霊夢、その笑顔はどこにでもいる普通の女の子のようだ。



「じゃあ、何で魔理沙に近づいたの?魔法使いなら他にもいっぱいいるけど」
「魔理沙には魔法を教えてもらいに言ったわけじゃないの。運命を感じたのよ」
「嘘くさいセリフね」
「本当よ。ここまで私とそっくりな子がいようとは思わなかったわ」



 自分の過去を振り返りながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。



「幼い頃に魔法の力に、悪霊である魅魔に魅せられる」



 幼い頃父が仙人を目指し、その姿に、その力に魅了されたあの日のこと。



「父親に反対されるが、それでも諦めきれず結局勘当されてしまう」



 家族を持ち何不自由ない生涯が約束されても、それでも諦めることが出来ず、家族を欺き捨てたあの日のこと。



「自分の研究のためなら他人の本を盗っていくことも厭わない、倫理観よりも欲を優先してしまう現状」



 仙人としての力を手に入れるために、自分の欲望のためならどんなことでもやってきたあの日々のこと。



「そして魔法使いとしての魔理沙の目標、博麗霊夢には決してかなわないという事実」



 仙人になるために、全てを犠牲にしてどんな事でもやってきたのに、仙人にはなれなかったあの日のこと。



「貴方には分からないだろうけど、私と魔理沙は似ているのよ。少なくても私はそう思っていた」
「……私にはそうは思えないけど」
「その通りだったわ。私も同棲してみて思ったけど、経歴は似ていても中身はあまり似ていなかった」
「じゃああんたは自分と似ていると思っていた魔理沙と一緒に過ごしてどうしたかったの?」
「それは……」



 言葉に詰まる。本当のことを言うべきか、それとも誤魔化すべきか。目の前の少女には半端な嘘は通じないだろう。しかし……



「……自己の探求」
「なにそれ?」
「自分のことを知りたかったの。そっくりな他人を観察すれば分かると思って」
「何か意味があるの?」
「自己を見つめ直すことって結構重要なことよ。私は魔理沙を通して私のことを見たかったのよ。例えば魔理沙が進む未来を知れば、私の進むべき未来を正しく選択できることに繋がるかもしれない」



 魔理沙が種族・魔法使いになることに葛藤する様を見ることができればあの日の自分をより鮮明に思い出せるかもしれない。魔理沙が魔法使いになれば私に選択が正しかったと証明できるかもしれない。魔理沙が魔法使いにならなければ……邪仙に身を堕とさなかった自分の姿を見れたかもしれない……。



「でもダメ。私と魔理沙は決定的に違う所があった」
「……何処が?っていうか私からすれば似てるところのほうが少なそうだけど」
「博麗の巫女、博麗霊夢の存在。私には貴方みたいな共に歩んでいける存在がいなかった。人間であることを、欲望のために一線を越えることを躊躇わせるような存在がいなかった。つまりは一人ぼっちだったってわけ」



 残っていたお酒を一気に飲み干し、立ち上がる。



「お迎えも来たようだし、そろそろお暇するわ」
「どうするの?」
「元に戻るだけよ。出て行くんだから約束も何もないし、魔理沙の家に置いている荷物はそろそろ芳香が持ってきてくれるはず。お別れはさっき寝ている魔理沙に言ったしね。御用があればいつでも呼んでくださいな。貴方達は私のお気に入りなのですから。では御機嫌よう」



 神社から少し歩くと約束通り芳香が荷物を持って待っていた。



「荷物はちゃんと持ってきてくれた?」
「大丈夫だぞー!」



 それでも心配なので芳香の担いでいた鞄の中身を確認する。



「……私のお気に入りのティーカップがないのだけど」
「……んぁ?」
「まぁいいわ。今度またお茶でもしに行きましょう」
「……れ、霊夢。おはよぉ」
「そんなキョンシーみたいな面で起きてこないの。もう青娥はいないんだから」
「いや、飲み過ぎてな……。それより青娥はやっぱり帰っちゃったんだな」
「分かってたの?」
「半年一緒にいたんだ。何となくだけど分かるさ。でも大丈夫だろ」
「何が?」
「あいつには芳香がいるんだし」
「……そうね。昔はともかく今はそうよね」
「それよりすまんが薬持ってきてくれないか……頭が割れそうなほど痛いんだ……」
「はいはい、あんまり友達だからって頼んないでよね……」
福哭傀のクロ
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コメント



0.1000簡易評価
8.100こーろぎ削除
せいがさんの思考や会話がとても面白かったです!飽きを感じさせない作品であっという間によんじゃいました
9.無評価福哭傀のクロ削除
こーろぎさん
楽しんでいただけて何よりです!青娥関連はあともう少し書きたいなぁ……。感想来てくれてよかった・・・
10.100名前が無い程度の能力削除
ちょっぴり毒がある程度のあまり悪女していない青娥がいいですね
11.90非現実世界に棲む者削除
青娥の心理描写や行動理念が上手く描写されていて、面白かったです。
ただ、もう一捻り欲しかったかな。
青娥が幻想郷のあちこちをさ迷っているのは、案外この作品のように自己の探求をしているのかもしれません。
次も面白い作品を期待してます。
12.90名前が無い程度の能力削除
青娥が邪仙らしくしていて良かったです。
魔理沙が霊夢に「勝つ」というのはつまりそーいう意味ですよね。その意味では丁寧に描写された三角関係でした。
22.100名前が無い程度の能力削除
イイネ
24.70奇声を発する程度の能力削除
描写が良く描かれて良かったです
25.無評価福哭傀のクロ削除
10さん 12さん

 悪女かどうかは、うーん……。自分の作風からみたら珍しくチョット悪女な感じですが、それほど悪女じゃないようにも見えるし……読み手さん次第ですね!青娥は書いてて面白い!


非現実世界に棲む者さん

 もう一捻り欲しいという気持ちは分かります。実は初期にはアリスとの人形師についてのくだりや、パチュリーと咲夜との寿命や魔術等のくだりでもっと話を広げ、白蓮と霖之助さんも登場させるつもりでした。しかしいかんせん魔理沙が置いてけぼりに……。苦肉の策でその辺りを削り、霊夢のくだりを少し丁寧にして見ました。
 年長者(特に紫等)は生きるほど自分が分からなくなるのではという解釈はどうかと思ったのですが、受け入れてくれた人がいて嬉しいです。
 次の作品も頑張ります!また機会があればお付き合いお願いします。


12さん

 実際どうなんでしょうね。霊夢と魔理沙の力関係は。今回はこんな形で描きましたが、皆さんはどう思っているのでしょうか。


奇声を発する程度の能力さん
 感想の内容ばかりに気が行ってしまってました……。いつもありがとうございます!
28.100名前が無い程度の能力削除
これは本当におもしろかった
三千点くらいあげたいです
29.無評価福哭傀のクロ削除
28さん
高評価有難う御座います。今後も是非ともご贔屓にしていただけるとありがたいです。
……やばい、めっちゃ嬉しい!
31.903削除
なるほど。どういうわけでこの組み合わせかと思いましたが。その理由がうまく書かれていたと思います。
芳香がもっと青娥にとって大事な存在というのが分かればより良かったかなーと思いました。
32.無評価福哭傀のクロ削除
31さん
 私は青娥の設定を見て一番最初に思ったのは『これってパラレルの魔理沙?』でした。そして青娥は……というか神霊廟はキャラも曲もお気に入りです。これは毎年言っているような気がしますが、それとは別に話を作りやすい!
 ……痛いところをつかれましたね。初期案ではホントに魔理沙と青娥の話に他のキャラを絡ませるつもりで、芳香の出番はありませんでした。けどこれじゃあ青娥が芳香がいるのにひとりぼっちッてオチでまとまっちゃったので、考えぬいた末に入れてみました。もう少し初期にちゃんと構想を練るべきと反省してます。