Coolier - 新生・東方創想話

最強と敗北

2013/05/07 23:10:00
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「…………」
 やたらむやみに最強最強と口走っている印象だけど、思っていたよりも目の前にいるこの子はバカではないのかもしれない。
 出鱈目な力を持つ事に疑問を持ち、他人と自らを天秤にかける事のできる心を持っている。
「私、妖精の事を自分勝手な人達だと思っていたわ」
「?」
 あえて、その理由をチルノには言わない。というより、さすがに先程言った理由は理解できないだろう。
「…………」
「ルーミア?」
 いや、馬鹿なのはもしかすると、私なのかもしれない。チルノの事を何も知らないがゆえに、彼女がこのような苦悩を抱えている事自体知らなかった。
 前に誰かが『無知は罪』と言っていたけど、なるほど的を得ていると思う。付け加えさせてもらうなら、『人を第一印象だけで判断してはいけない』……だったかしら。
「どうしたのよ、ルーミア」
 だから私は、彼女に道筋を与えたい。頑固な妖精に『逆に考える』という方法を教えたくてしょうがなくなってしまった。
「チルノは……強くなりたいのよね」
「? ええ」
「じゃあ、もっと強くなればいいのよ」
「え?」
「もっと強くなって、そして勝てばいい」
 突然言った助言が理解できなかったのか、チルノは目を丸くする。
「な、何を言ってるの? 強くなるのはともかく、勝っちゃったら、力が強いままじゃない」
「いいえ。あなたは勝てばいいのよ、自分自身に」
「へ?」
「あなた自身であなたの力を抑えるのよ。その強さを得るために、強くなるの」
 きょとんとしている。やはり、こういう事を理解するのは苦手なようね。
「自分の力で自分の力を抑える事ができれば、強くなりつつも、あなたの大切な人を護る事ができる。これ以上の利点はないはずよ」
「それで……あたいは強くなれるのかな」
「自分の力で大切な者を傷つけるなんて、最強とは程遠いわよ」
 若干脅迫っぽく聞こえたかもしれない私の間髪いれない返事に、チルノは少しだけおののいていた。
「まぁ、それに成功してどんどん強くなることができれば、霊夢……は無理でも、魔理沙になら勝てるんじゃないかしら」
 と、そこで。いつの間にかチルノから笑みがこぼれていた。一杯に歯を見せて、子供らしく笑顔を作っている。
 思わずヒントを追加してしまう。
「そのためにも沢山の強い人達と戦わないとね。あなたの力を抑える方法を知っているかはともかく、強い力を持つ人達はほとんどがその力をコントロールできるのよ」
「へぇ。じゃあ夜空になる力を抑えられないルーミアも、まだあたいと同じなのね」
「…………」
 そういう事には、どうして鋭く気付くのよ。
 まぁ、せっかくだから一緒に強くなってみようかしら。私はともかく、チルノなら本当に魔理沙を追い詰めることができたりして……なんてね。



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コメント



0.450簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
お待ちしておりました。
 また新しいチルノの解釈。オリジナリティがあって良いと思います。また他作品と明確に違う特徴もいくつもあり、強力な差別化になっています。
 キャラクターついて、事実に沿って淡々と、感情を交えず合理的に、理性のみに従って機械のように行動し会話をしているというかなり特殊な思考様式と行動指針を持っているように見受けられます。こんな男性的で現代的なチルノとルーミアは他にはありません。もちろんこれは「少女らしくない」「幻想郷らしくない」「東方に似つかわしくない」「人間性が無い」といった指摘もできる特徴ですが、そこも含め個性ということで。
 文章についても、情景描写や映画でいう「空カット」に相当する部分が無く、数学的に事実のみに従うような書き方で、通常の文学作品に欠かせない世界を表現する要素を持たないという目立つ特徴があります。
 三部作ということは、この後妖々夢編と花映塚編があるのでしょう。期待して待っております。
11.70奇声を発する程度の能力削除
新しい発想や解釈があり良かったです
12.100非現実世界に棲む者削除
これがチルノの存在意義ですか。成る程、納得いきます。
13.703削除
設定は真新しいものでしたが、本編は比較的オーソドックスですね。悪い意味じゃなくて。
しかしこの長さなら別にページ分けしなくとも良かった気がしますね。