Coolier - 新生・東方創想話

萃平線を越えて

2013/05/06 08:23:27
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 たまには温泉でも、と天子に天界にある温泉へ連れてって貰った。

「ふぃー、極楽極楽ー」
「まぁ天界だし、あながち間違ってはいないけれどねー」

 良い感じの温泉に浸かって、ゆったりと。
一緒に入ってる天子の方に視線が向いて、自分の胸元へと移す。
勝っているとは言えないにしても、負けてはいない。
勝負をしたら互角だろう。

「何よじろじろ見て。何か付いてる?」
「いや、なーんも付いてないね」

 胸とか脂肪とか。
天子も私と同じくらいだけど、ふとこれなら昔紫に言われた事の意趣返しも出来るんじゃないのかと思えた。
紫の奴私の事つるぺた幼女だの、ぅゎょぅι゛ょっょぃだの言いたい放題だったし、ここらでつるぺたじゃないって事を証明しとこう。

「ところでさ、真空密着ってのを知ってるかい」
「何それ」
「平面同士がくっついて離れなくなる事ってあるだろう? あれは物と物の間に空気が無くなる事で、外圧しか掛からない状態になるかららしいのさ」
「ふぅん、それで……?」
「お前さんも私も、世間からは『絶壁』だの『つるぺた』だの言われてるけど」
「いや、私絶壁でも平面でも無いから」
「ふーん、これがねぇ」

 触れども触れども我が手に感触なし、じつと手を見る。
代わりにげんこつの感触が頭を襲う。

「いきなり何するのよ!」
「いたたた。まぁつまりだ、他人が言う程平らでない事を証明したいと思わないかい」
「ふぅん。で、どうするの」
「お互い胸を合わせて、私の能力で胸と胸の間を真空状態にするのさ。平らでなければ真空密着も起こり得ない筈だろ」

 お互いそれなりの年齢なんだし、有り得ないなんて事は、有り得ない。
勝算は十分だった。

 酒を浮かべて飲んでいたから、幾らか酒が入っていたのも有ったんだろう。
妙に乗り気になった天子と私がくっついて、私の能力で間の空気を疎の状態にして真空状態を作った。

――これで私達は、つるぺただの絶壁だのと言われなくて済む、そう確信していた。



***



「で、何か言いたい事はあるかしら? 萃香」
「うーん、取れなくなりました。てへ」
「てへ、じゃない! どうするのよこれ!」

 おかしいなー、地底にいた頃に比べて成長してる筈なんだけど。
紫にバストを測って貰ったとき、1cm増えてたのは何だったんだろう。

 ま、こうなっちゃ先に天子の胸と私の胸を、引き剥がすのが先決だ。

「とりあえず、石鹸試してみようか」
「あ、そうね。それ行けるんじゃない?」

 二人して簀子の上に寝転んで、石鹸を脇に擦り付けて、何とか真空密着を解こうとする。

「んしょっ! ふん! ぬー! だりゃー! ……はー、はー、はー」
「んー、効果無さそうだなぁ。こりゃ私の能力が強すぎるのかな、あっはっは」
「笑いごとじゃない!」

 天子が怒鳴った直後、背後から声がした。

「総領娘様?」
「い、衣玖!?」

 天子から明らかな動揺が、胸越しに伝わって来る。
上になってる私は、首を動かしても見える角度じゃないが、衣玖と言えば永江衣玖だろう。
龍神に仕えてる妖怪で、天子の活動場所と衣玖の勤務先が近いせいも有ってか、一緒に居るのを見る回数も少なくない。

「や、あの、衣玖、違うのよ? どう見ても勘違いされるような格好だけど、違うからね!」
「そうそう。どう見ても勘違いしない方がおかしいと思うけど、そう言うんじゃないから」
「いえいえ、何もおっしゃらないで下さい。全てはこの衣玖にお任せ下さい」

 妙に嬉しそうな声。
あー、こりゃ絶対勘違いしたな。

「だから違うから。何勘違いしてるか分からないけど、あなたの考えてるような事は一切無いからね」
「うふふ、照れなくても宜しいのですよ。ではでは、お邪魔な私はこれで」

 そそくさと後ろの気配が立ち去って行く。
カラカラと戸の閉まる音が聞こえた直後に、天子がうなだれた。

「お、終わった……私の人生……」
「あー、その、さ。とりあえずいつまでも石鹸まみれじゃ何だし、落として風呂に入り直さないかい?」
「そうね……」



***



「まぁまぁ落ち着いて。こんな時は酒でも飲もうや」

 湯舟に浮かぶ酒を手に取り、一杯一杯、また一杯。

「よく落ち着いて飲んでいられるわねぇ」
「でも、こんなになっちまったら、酒を飲むくらいしか出来る事無いんじゃない?」

 石鹸を流して風呂に入ったと言ってもまだくっついた状態は解けていない。
今なんて天子の膝の上に乗っかって、足を腰に回して座ってる状態だ。
離れられそうにないんだし、酒を飲むのだけは、いつもの様にしていたい。

「それに勘違いなんだし、後から説明すれば良いじゃん。尾ひれの付いた噂が流れたとしたって、すぐに風化するよ」

 魚類だけに尾ひれが付くとか、我ながらうまい事言ったもんだ。

「噂とかそんなのは二の次よ」
「ってーと、何が問題なんだい」
「衣玖はね、自分基準で恋愛の空気を感じたら、たとえ勘違いでも縁を結ばせるために外堀を埋め始める奴なのよ」
「本人の気持ちとは無関係に、搦め手でそうなるように仕向けるって事?」
「そうよ。今頃はきっと、お父様に有る事無い事言いふらしに向かってるわ。だからまずいの」
「そんなら、親の誤解を解きさえすりゃあいつが何したって問題無いじゃないか」
「お父様はね」
「うん?」
「普段、ミミズやオケラとだって構わないから結婚してくれって言う人なのよ」
「あぁ、なるほどね」

 まぁ分からんでもない。
こんな気の強い娘を持った親なら、心配もするだろう。
私も長いこと生きてると、誰かの親代わりみたいな事をする事だって有った。
気の強い性格だと、こいつは苦労するだろうなって、気を揉んだりもしたもんだ。

「うん、確かに嫁の貰い手は無さそうだね」
「失礼ね、これでも求婚して来る奴は極稀に居たし、結婚願望が全く無いわけじゃないのよ。ただ――」
「ただ?」
「何が楽しくて、顔が良くて性格が良くて経済的に私を困らせないだけの奴に、嫁に行ってやらなきゃいけないのよ」
「贅沢だなあ。そりゃもう、結婚願望なんて無いに等しいだろう」
「そんなのただ欠点が無いってだけだわ。どんな欠点が有ってもただ一点の長所が全てを打ち消して余り有るとか、そのくらいが妥当だと思わない?」
「ふぅん、たとえばどんな――」

「楽しそうな事をしていますわね」

 どんな奴が良いのか。
そう聞こうとした時だった。
赤色の目の付いた布がぬっと目の前に現れ、その間から人影が現れたのは。



***



「おこんばんは」
「げげ、八雲紫」
「げげ、とは失礼ですわ。私は鬼太郎じゃ無いのですけど」

 出て来た紫に、天子は露骨に嫌そうな顔をしている。
異変の時に相当怒られてたし、紫に良い思いを持ってないのは確かだろう。
けど事態を解決できそうな奴が来たんだから、この際それは放っとこう。

「良いところに来たよ。紫、悪いんだけどこれどうにかならない? 実はかくかくしかじかでさぁ」
「これこれうまうま、ってわけね。そうね、萃香の頼みだし何とかしてあげたいわ」
「じゃあ、お願い出来るかい?」
「ええ、ちょっと待っててね。えーと、あれは何処にしまってたかしら」

 自分が出て来た布の隙間に手を入れて、ごそごそと探りを入れる。

「あったわ。テテテテン! 前鬼後鬼(改)ぃー。これはね萃太君。私が調教して瞬間的にだけなら、あなたを超える程度の能力を付けた特別版なんだ」
「ほほぅ」
「ちょっと待ちなさい」

 瞬間的にとは言え、私を超えるなんて面白そうだなと思ったところで、天子が口を挟む。

「何ですか? 折角ドラ○もんっぽく便利などうぐ(式神)を紹介していますのに」
「念のために聞くけど、それでどうしようってのよ」
「当然、あなたを右、萃香を左に思い切りフルスイング」
「却下よ却下、思い切り痛そうだし。そんな事より、あんたの力でこの間に空間を捻じ込んでさぁ」
「無理です」

「は?」
「無理と言ったのです。あなたたちの間は真空、つまり何も無い状態です。私の能力は空間に干渉は出来ても、何も無いところには干渉出来ません」
「それって」
「ええ……」

 一呼吸を置いて、沈痛な面持ちで、紫は悔しそうに言った。

「さすが幻想郷の双璧と呼ばれたあなた方です。私の能力をこのような形で無効化させるとは。くっ」
「「おい、今何つった」」

 私の声と天子の声が重なる。
紫は、目元が歪むほどに笑っていた。

「いえね、流石にこうも見事な平面が萃香の力でくっついてると、私の力でも手出しできないわー、さすがだわー」
「紫、あんた今の状況を面白がってるだろう」
「ええ、それはもう」
「ああもう、くそ。あんたの性格を忘れてたよ」

 他人が困ってるのを放っておけず、楽しげに横から眺めるような奴だったのを忘れていた。

「そうねぇ。前鬼後鬼(改)がお嫌なら、石鹸で滑りを良くしてみては? まぁいやらしい」
「いやらしいのはあんたの頭よ。それに石鹸なんてとっくに試したけど、全然駄目だったわよ」
「あらあら、見れなくて残念でしたわ」
「おーい、鼻血出てるよ」

 紫の事だ。
出て来たタイミングの良さと言い、それも見ていたと考えるのが妥当だろう。
やれやれ、この前みたいにカメラだので撮ってないか後で確認して潰しとかないと。

「それより、本当にどうにもならないの?」
「そうですわね。石鹸が駄目なら永遠亭の医者に診て貰っては?」
「そんなの恥晒しも良いとこじゃない!」
「恥ずかしがっていてはいけません。私が送って差し上げますわ、人里の往来を昼間から横切りながら」
「どんな羞恥プレイよ!」
「衆知の事実になるだけに」
「面白くない!」
「やれやれ、こいつは振出しに戻ったかな」

 恐らくこれ以上は紫に期待しても駄目だろう。


どうにもならない解決策を、さも効果が有るように思い込ませて実行させられるくらいが関の山だ。
さて、そうなると紫を頼らずに何とかするしかないんだけど……。

 私の萃める能力でも、紫と同じく真空状態になったところに何かを入れ込むのは難しい。
出来なくはないけど、精密なのは苦手だし下手をすれば密度を誤って爆発する。

 じゃあ逆に疎の能力を使ったらどうだろう。
辺りの空気を疎にして外圧が抜ける程度にやろうとすると、内臓が飛び出すくらいに下げないといけないしなぁ。
紫の奴は喜びそうだけど。

「うーん、どっちの能力も使えないか」
「うふふ、八方塞がりってところかしら。それじゃ私はそろそろ戻るから、永遠亭に行きたくなったら、『助けて! ゆっか☆りーん』と叫びなさい」
「誰が叫ぶか! この!」
「ではでは、ご機嫌よう」

 天子が投げた桶は、紫が消えた場所を何事も無く飛んで行った。
消えたと言っても、どうせ紫の奴は今もこっちを覗いてるんだろうけど。



***



「もう。あいつのせいで余計な時間取られたわ」
「紫だからね、仕方ない。それより長湯でのぼせそうだから、水でも浴びないかい」

 すっかり紫と話し込んで茹で上がっていた私達は、すぐに湯を出て歩き始めた。
と言っても私は天子に足を回して抱き着いてるから、歩いてないけど。

「楽ちんだぁね」
「次は萃香が歩きなさいよ」
「軽いから別に良いんだけどさ、お前さんの尻を持つ事になるよ」

 私より背の高い天子を持って歩くには、天子が足を私の後ろに回して、私が天子の尻を持った方が歩きやすい。
現に天子は私の尻を持って歩いている。

「それも嫌ねぇ。仕方ない、歩くのは私で良いわ」
「あいよ。それにしても、こうしてると天子から良い匂いがするね」
「何よ、いやらしい」
「不可抗力だよ」

 くんくんと天子から香って来る匂いを嗅ぐ。
密着してるし、勝手に匂って来るんだから仕方ない。

「……桃しか食べるものが無いから、きっとその匂いよ。でも、美味しくはないわ。天界のものって、どうしてこうなのかしらね」
「酒は美味いけどね」
「天界の酒は酔う事が無い。酔いもしない酒は、不運逆境の一切無い人生みたいなものよ。そんなの飲んでて楽しいかしら?」
「酔うために飲むのか、味わうために飲むのかなんて、その時々で変わるもんじゃないかい」
「万能を求めず、趣向の一つとして楽しめって事? でも酔える酒が無いからなぁ」
「ほい」

 天子お望みの酔える酒、私の伊吹瓢を出す。

「そのお酒、土臭くて苦手なのよね」
「何、酔うための薬だと思えば、そう気になるもんでも無いさ。それに慣れれば癖になるよ」
「げー、無い無い。それに今はお酒よりも、目の前の冷たい水が欲しいわね、っと!」

 と、私を抱えて水風呂に飛び込む。
ひんやりした水が気持ち良かった。



 人心地が着いたところで水風呂を出て、近くの簀子の上に腰を下ろした。
天子が私の肩に顎を乗せて考え込む。

「それにしても、どうしたものかしらね、この状況。お父様と衣玖の事を考えると頭痛いわ」
「そんでも、相手の思い通りになる気は無いんだろう?」
「あたり前じゃない。誰かの言いなりや思い通りにされるがままの人生なんて、真っ平御免よ」

 良いとこのお嬢様でも天人でも、全て自分の思い通りになるわけじゃない。
そんな事は天子だって分かってる。
でなけりゃ、わざわざ他人のお節介に頭を悩ますような事も無い。

 ただ、我を通すのを諦めてないだけだ。
まぁそれで不良天人なんて呼ばれてるんだろうけど、そんな天子と居るのは退屈しない。

「何笑ってるのよ、気持ち悪い」
「いやぁ。天子は天子だ、ってね」
「何よ、悪い?」
「んにゃ、誰かの言いなりや思い通りにされるがままの人生なんかよりも楽しいね」
「煽るわね」
「ふふん。もう一つ言わせて貰えばね、今の状態だって、逆に退屈しない日常だって捉えればきっと楽しいよ」
「うーん。確かに考え方を変えれば、これって楽しい状況かも知れないわね、ふむ」

 他人から見ればね。
とは言わないでおこう。

「よーし、腹は括った。離れるの無理」
「切り替え早いなぁ」
「考え込んだって仕方ないし、くよくよするのはもっと仕方ないでしょ。それよりこれからの計画を練りましょ。手始めに、お父様にこの状態で会って説き伏せるわよ」
「あー、水を差すようで悪いんだけどさ。それより先に考えなきゃいけない事が有ると思うよ」
「何よ」



「服、どうしようか」
 服は萃香が夜なべして作ってくれました。

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2013/05/11 冒頭を少し修正しました。

取り留めも無いあとがきです。

・いくてんゆかてんのSSの中傘も差さず、すいてんを書く人が居ても良い、SS書きとはそういうものだ。
・先人のすなる、だいしゅきホールドというものを、我もしてみんとてするなり。
・萃香と天子がダブルアーツ習得。
・双璧、相打つ。
なんて考えてたら、こんな風になりました。

 天子は割と物事に動じないので、今回の件はあまり怒っていません。
むしろ父親をどのように説得するかが今は楽しくてしょうがない状態です。

 萃香の胸囲が1cm増えたのは胸囲が増えただけで、胸が大きくなったわけじゃないです。
ところで、今回は越えられなかったわけですが萃平線の向こうには、何が有るんでしょうね。
事象の地平面とか。
猫額
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コメント



0.430簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
そのまま!?
7.100名前が無い程度の能力削除
ひでぇ(誉め言葉)
8.90名前が無い程度の能力削除
発想の勝利、あるいは暴走。
9.80名前が無い程度の能力削除
それでは次は天子パパ説得編ですねわかります
11.無評価猫額削除
週末になったのでレスを。
4>そのままですが、割と慣れたようです。

7>大丈夫。自分なら天子か萃香に密着したいから(人それを酷いと言う)

8>暴走は止めるのではなく、制御するもの(震え声)

9>ゆ、ゆっくり待って貰えれば……。
最近どうにも書けないので、脳がこれ駄目だろう、と思える下策・悪文から書き起こすようにしてます。
量が出来れば何とかなるかなと。
14.90奇声を発する程度の能力削除
これはひどい
15.803削除
結局何一つ解決していないことに吹いた。
すいてん? 大好物ですが、でも不思議だなこれあまり甘くない。
ギャグ成分のためかな。