Coolier - 新生・東方創想話

天丼を食べたいツェペシュの末裔

2013/05/04 01:43:10
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 私の時間に私は外出の支度をする。
 全ての生き物は寝床につき今は欲に浸り眠っている頃だろう。
 しかし私は吸血鬼。決してチスイコウモリではない。
 夜に動かずしていつ活動する。
 それは本能的なものであり、本質的なものである。
 だから、今は夜、私はキッチンへと向かった。







『天丼を食べたいツェペシュの末裔』









 もちろんキッチンへ向かった理由は外出の挨拶をメイドと交わすためである。
 急にいなくなると心配をかけてしまうので、ああ私はなんとも慈悲深い。

「咲夜、夜遅くまでご苦労サマンサタバサ」
「お嬢様、外出ですか? 夜遅く外に出ると危険ですよ」
「ふ、笑わせるわねメイド風情。夜に外に出ないで私はいつ外に出る?」
「お昼とか外でたまに美鈴とレディオ体操しているじゃないですか」
「それはアレよ。曇りの日限定よ。ともかくとにかく私の外出を止める権利は貴方如きにない」
「ええもちろん。いってらっしゃいませ」
「ああ行ってくる。心配するなよ、無事に帰ってくるさ」
「ああ特に心配はしてません。では」

 痴話に付き合ってやるのも主人の仕事。
 これだから愛されガールは困るわ。
 さて、愛する館の者達の為に夜のお勤めと馳せ参じようではないか。
 と。

「あ、お嬢様」
「どうした、寂しくなったか? 撫でて欲しいのか」
「いえ、髪が乱れるのでやめてください。朝ごはんのことなんですが」
「あそう」
「まあ私は寝ていますので、チンして食べてくださいね」
「主人がチンするとかなんの冗談だよ。まあいいけど。してそのメニューとは」
「天丼でございます」

 天丼でございます。
 天丼でございます。
 天丼でございます。
 その科白が頭を跋扈し蹂躙する。
 天丼でございます。
 おまけにもう一度。
 ああ天丼、天丼か。
 流石は咲夜。朝食になかなかヘヴィーなものをセレクトしてくれる。
 しかし天丼。
 天丼なのだ。
 その四文字、「天丼」を聞いた瞬間から私の脳内は天丼に支配される。

 天丼。
 流石、咲夜は有能だ。
 私がお勤めで披露している体に必要な栄養素を
 手軽にしかししっかりと摂取させることを考えている。
 天丼の具、といえば。
 ああ、当たり前だ。百人に千人はそう答えるであろう。
 『エビ天』
 幻想郷には海がない?
 そんなこと知ったこっちゃない。
 きっと私の運命の能力かスキマの能力だろう。
 大事なのはそれを得た過程ではなく天丼の魅力にいかに繋がるか、だ。
 エビ天、とはエビの天ぷらである。
 当たり前だ。
 しかし、咲夜のエビ天はそんじょそこらのエビ天とはわけが違う。
 『かさ増し』をするのだ。
 元来、かさ増しという言葉はあまりいい意味で使われないだろう。
 特に食に関しては弁当の底を無意味に高くし、量を多く見せたりなどマイナスのイメージしかない。
 しかし咲夜のかさ増しは違う。
 ぷりっぷりのいかにも私は美味しいですよとアッピールしているエビに
 これでもかというほどの衣をつけるのだ。それは一般的なものとは比べ物にならないほど。
 一般的なかさ増しと同じ意味じゃないかって?
 その意味はもうちょっとあとで。楽しみはとっておくべきだろう。

「咲夜」
「は」
「期待しているぞ。お前の天丼を」
「もちろんですわ」

 そこからは一度も振り返ることもなくキッチンを後にした。
 私は館を飛び出す。
 やることをやって、咲夜の天丼を味わうのだ。
 途中、なぜか門の前で布団の中で睡眠をとっている門番の額に『内』
 と書いて私は妖怪の山へと向かったのであった。

 館から妖怪の山のディスカッション・スペースまでには結構な距離がある。
 幻想郷最速の私からすれば自室からトイレまで位の距離なのだが
 さすがにそれじゃあ趣深くない。
 こんなに月がまんまるなら、私はまいたけ天のことを考えたっていいじゃないか。
 
 まいたけ天。
 私はいわゆる吸血鬼だ。もう一度言うが決してチスイコウモリではない。
 その高貴な吸血鬼が言うのだから間違いない。
 まいたけ天は、神が創りだしたものだと。
 先述したとおり天丼の具と言えばエビ天だ。
 これは私も同意である。
 しかし、しかしだ。
 主人公とはいかに魅力がある脇役、悪役がいてこそ輝くものなのではないだろうか。
 その例でいくと魅力のある脇役とはまいたけ天であるだろう。
 奴は悪魔だ。
 神が創りだした悪魔なのだ。
 見た目からでは想像がつかないほどのあの風味、味、そして食感。
 一度噛み締めたらそれはもう、ああ。
 
 おっと涎で溺れるところだった。
 妄想を抑えよう。
 そうこうしているうちに私は山のディスカッション・スペースに到着した。
 中のざわつきで想像するに、私以外のメンバーすでに参集済みであろうか。
 一度呼吸を整え、月を睨みつける。

「さあ、ちゃっちゃと片してくるか」

 頬を叩き気合を入れる。
 今夜もきっと、熱いディスカッションが行われるだろう。



~★☆★



「今回の進行は私が行なっていきます。皆さん久方ぶりです。静葉です」
「ええ」
「こんばんは」
「は、はい」
「さて。討論に入る前にまずは報告から。今回の討論から、新しいメンバーが加入します。
 ルナサ、ルナサさん。前へ」
「はい…… ええ、今回から『妹にきゅんきゅんする会議』へ参加致します。ルナサ・プリズムリバーと申します。ええと……」
「よろしくお願いしますルナサさん。それと会議の名は『IQK』と略してくださっても構いません」
「はい、わかりました…… あの、私実はこの会議で何を話したらいいかわからなく……」
「それなら問題ありません。当番制である司会が議題を出し、それに沿って語っていくだけですから。
 そうですね、ルナサさんは次のレミリアさん、その次のさとりさんの後に司会役になってもらいましょう」
「は、はい、わかりました」
「よろしくねルナサ。貴方には期待しているわ。ねえさとり?」
「そうねとっても。なにせ私達三人とは違い彼女は『三人姉妹の姉』。
 私達の視点からでは想像し得ない発想ができるでしょう。
 ああ、そんなに緊張しないで。私は心が読めるけど心配しないでいいわ。なにせここは」
「ああフランのあんよ舐めたい」
「ああ穣子のマロンな部分をまろまろしたい」
「みんな本音が垂れ流しだから。ああこいしの髪の毛に一生消えない私の匂いを染み付けたい」
「……安心しました。ええ、本当に……」


 第193回目である今回のIQKの議題は
 『いかに妹に「ああ、お姉ちゃんってエキゾチックな存在なのね」と思わせる姉らしいご飯のおかわりの仕方』
 であった。
 静葉らしいとてもシンプルで、なおかつ深い議題である。
 もちろんディスカッションは白熱した。
 最初は圧倒的だったさとりの『おかわりを脇によそってもらう』案であったが
 キャミソールを着用している時でしか通用しない上に冬では通用しないという決定的な穴もあり、却下された。
 日を越した辺りから始まったディスカッションでああるが、気づいた頃にはもう既に太陽が出かかっている。
 
「逆転の発想なのだけれど、いっそおかわりをしないっていうのはどうかしらこいしの膝小僧ぺろぺろ」
「それは思考の放棄でしかないわ。……難しい議題ねフランの羽の宝石みたいな奴もぐもぐ」
「ルナサさんはどう思いますか穣子の耳たぶぷるぷる」
「……そうですね。ひとつ思いついたのですが、よろしいですかメルランの筋肉質な太ももぷよぷよ」
「お願いします!穣子の余ったお腹の肉もみもみ」
「ご飯をよそってもらうのを頼む時、語尾に『エロス』とつければいいんじゃないかなと。
 『リリカ、ご飯のおかわりをちょうだいエロス』みたいに」
「! そ、それだ! かなりエキゾチックだわ!フランの二の腕はむはむ」
「……天才だわ。この姉、天才だわこいしの足の指の間こすこす」
「うん。これはもう、素晴らしい。反対意見が出なければ決定です。
 では、反対の方は挙手を…… ゼロ、決定ですね。ルナサさんの案に決定しました!
 三日間続いた前回のIQKとはえらい違いです。
 まさにIQKに新しい風が吹いた。これから期待していますルナサさん!穣子のうなじくんくん」
「恐れ入りますリリカのおしりすべすべ」

 メンバー加入というIQK上でも初である今回の会議であったが
 結果として、新人姉のルナサがやってくれた。
 これから期待のできる新人に、私たちは姉道の未来を託してもいいかな。
 少しだけだが、そう思ったのであった。
 姉たちのディスカッションは、これからも続く。


~★☆★



 私は帰路につく。
 もちろん天丼のことはディスカッション中に頭から離れたことはなかった。
 焦ってはいけない。
 ここで幻想郷一の速度で帰宅しても、なんというか、味がない。余裕が無い。そして色香もない。
 天丼を食するものに余裕がなくてどうする。
 まあいい。
 私はいか天について考えることにする。

 地味だ。
 それがいい。
 なくてもいいなと思うけどやっぱり無いと少し寂しい、そんな存在。
 天丼にはいろいろな具材が乗る。
 その中でもいか天は地味だ。
 だがそれがいい。
 派手ないか天はいか天でない。
 まあいいか、なんて言ってはいけない。
 さて、ここで私はひとつ言っとかなくてはいけないことがある。
 天丼と、天ぷらについての違いだ。
 『天ぷらをご飯の上に乗せたら天丼になるんじゃないの?』
 ああ、まだそんなことを言う奴がいたか。
 そんな奴は居酒屋チェーン店で抹茶塩で天ぷら食うことにブランドを感じている大学生と一緒だ。
 一言で言おう。
 天ぷらはさっくり、天丼はしっとり、だ。
 これがさっきのエビ天の話と繋がる。
 天ぷらには何をつけてもうまい。
 天つゆでもいいし、塩でもいい。タラの芽と抹茶塩の相性なんて最高だ。
 だが、しかし、だ。
 天丼には天つゆ一択であろう。
 さっくり揚げたての天ぷらがご飯に載せられ、そして天つゆをタップリと。
 そうすることによってさっくりした天ぷらがそのさくさくさを失い、そうして初めて『天丼』は完成するのだ。
 なんという無駄。わざわざさっくりあげたのに液体をかけてしっとりへなへなにするなんて、悪魔も恐れるこの悪行。
 先述した衣を多くつけたエビ天、はそれを顕著にする。
 無駄が多ければそのぶん贅沢さも多く感じる。
 私はここに天丼の魅力を感じる。
 誰かが違うといっても、私そう思うのだ。
 これは曲げられない。
 なぜなら私はわがままなのだから。



 さあ館についた。
 あとはしっとり天丼を食すだけだ。
 ここまでくれば
 『天丼の具をちょっとよけて出てくる天つゆの染みたほかほかご飯』の魅力など私がわざわざ語ることもないだろう。
 館のドアを開ける。

「ただいま」

 返事はない。
 きっと咲夜も妖精メイドも眠っているのだろう。
 ああ、それでいい。
 安心して眠っていてくれ。
 私は誰にも邪魔されず、天丼を味わいたい。
 
 手洗いうがいをした私はキッチンへと向かう。
 がらりと開いたその扉の向こうには。
 おお、後光が見える。
 丼と、書き置きか?
 咲夜からだろうか。


 お疲れ様です。
 私はお嬢様が頑張っていることを知っています。
 いつもは素直になれませんが、許してください。
 味わって食べてください。頑張って作りました。
 私にはこれくらいのことしか出来ませんが。
                       咲夜』

 ああ。
 ああ、面白い。
 本当に、咲夜は面白いな。
 吸血鬼である、私に……
 ふふ、涙を流させるなんて。
 ああ面白いよ咲夜。
 お前をメイドにしてよかった。
 しかも、この丼を見ろ。
 丼と蓋の間からラップがはみ出ているじゃないか。
 これは蓋をつけたままチンできて、なおかつ食べるときの
 『蓋を開けたらほっかほか! さあ私を食べて!』という天丼ちゃんごっこまで出来るじゃないか。
 ありがたく天丼ちゃんごっこを満喫させてもらおう。













チン



 人生で最も長かった2分20秒を過ごした。
 さあ、これからだ。
 日はもう登っているが、私の時間はこれからだ。
 フタを開ける。
 湯気が私の額と前髪を撫でる。
 ふふ。さあ。
 こんなにも丼がほかほかなら、貴方を食すわよ!
 






























「これかき揚げ丼じゃねえか!!!!!!」













『天丼を食べたいツェペシュの末裔』
終わり
チスイコウモリちゃんぺろぺろ
どうもお読みいただきありがとうございました。
ではまたお次ー
ばかのひ
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コメント



0.1230簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
なす天を忘れてもらっては困るぜ!
6.70名前が無い程度の能力削除
作者の天丼へのこだわりがよく分かった
平行して行われるIQKも面白かったよ
11.100名前が無い程度の能力削除
しっとりが天丼たる所以なら、かき揚げ丼はある意味天丼の極地
ですよねw夜食が欲しくなりました
13.100名前が無い程度の能力削除
青葉を忘れてはいけない
17.90名前が無い程度の能力削除
変態過ぎるだろうこのダメ姉ども。
カリスマが溢れ返るレミリアが良かったです。何故か彼女って孤独のグルメ的なグルメが似合いますよね。
18.80名前が無い程度の能力削除
天ぷらはさっくり、天丼はしっとり。
…なるほど。
しかし私は脇役にまいたけではなくししとうを推します。
21.90名前が無い程度の能力削除
私は脇役なら蓮根押しですかね、あれは食感の暴力。それはともかくなんとも夜に読むのが恐ろしいお話でした。
26.80みずあめ。削除
天丼の話とIQKの妹ちゃんぺろぺろ話の並置に意味深なものを感じました。お腹空きましたね。
こいしちゃんの膝の裏に天丼盛って食べたくなるお話でした。
27.100名前が無い程度の能力削除
ユーモアセンスに関しては言うまでもありませんが、天丼に対する情熱に非凡の才を感じます。
私は天丼について全くの無知であったようです。
猛烈に天丼が食べたくなりましたメルランのふくらはぎふにふに。
28.80名前が無い程度の能力削除
かき揚げだって美味いだろう
29.70奇声を発する程度の能力削除
食べたい
31.803削除
突っ込みどころしかねえ!!
まあオチは何となく予想出来てたけど……。
ところで途中のお姉ちゃん同盟がこの話に出てきた意味は何でしょうか。
32.100おちんこちんちん太郎削除
レミリアちゃんは可愛いですね。 台詞が軽妙ですね。
38.100名前が無い程度の能力削除
これは…楽しい!