Coolier - 新生・東方創想話

チキチキ・博麗神社福男選びレース

2013/04/27 08:37:07
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◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 福男の開催日は、あっという間にやってきた。
 豊聡耳神子は人里の外れ――スタート地点前の受付会場で、参加者を眺めている。スタートまではあと数十分といったところだ。
 参加者はざっと見て百数十人程度だろう。新聞から知ったが、開催者である巫女達の話によると、外の世界では数千人もの人々が参加するという。それに比べれば規模は小さいが、この幻想郷で……しかも第一回目からこの人数というのは、結構な盛り上がりだと神子は思った。
「お疲れ様。どう? 怪しい人っていたかしら?」
 ん? と振り返ると、神子のすぐ後ろにツインテールの鴉天狗が降り立った。いつだったか、聖のお説教と自分のお仕置きでボロボロになった鴉天狗を回収に来た天狗だ。名前は確か、姫海棠はたてとかいったか。
 文がここに来ていないのは、やはり先日のお仕置きで多少なりと警戒しているということあるのかも知れない。
「いえ、特にはいないようね。そこかしこに『霊夢ちゃんにぎゅっ』『早苗さんとぎゅっ』『魔理沙をもふもふ』といった欲望は渦巻いていますが……まあ、可愛らしいものです。そのまま彼女を押し倒してお持ち帰りしてあ~んなことやこ~んなことやらな薄い本の展開を考えている輩はいないようです」
「いや、そんなんじゃなくて……。というか、それもまあ大概……まったく、男って奴らはつくづく……」
 やれやれと、はたては苦笑を浮かべた。
 男衆の淡い欲望にすら少しばかり顔をしかめるはたてのうぶな反応に、神子は可愛いらしさを感じた。
「ちなみに、不正を企んでいるような輩もいなさそうね。『不正がばれませんように』などという欲望は聞こえてこないから」
「どっちかっていうと、そっちが本業だと思うんだけど」
 元々は、地底に住む古明地さとりにこのような仕事を頼むつもりだったと聞いている。確かに、彼女の方が自分よりも精度を上げて、そして効率的に行えたことだろう。
 無理を言っても仕方ないが、出来ればさとりの手も借りたいと思った。流石にこの人数は少し疲れる。
 正直に言えば、このイベントを手伝わなければいけない義理というのも、特には無い。ただまあ、布都が面白がって参加するようだし、道教とあの巫女は無関係でもないし、恩を売っておいても悪くないだろうという判断だった。
「あ、そうそう。例の天人って見掛けたりする? 霊夢が言うには、ダメって言っておいたけどそれでもこっそりやって来そうだから注意してって話だったけど」
「ええと、確か比那名居天子という方ですよね? いえ、私は見ておりません。個人的には、道士の身の上……お会いして話しをしてみたいくらいなのですが」
 実を言えば、それもちょっと期待していたりする。
 だが、似顔絵で見た姿の人物は、まるでいない。神子は小さく溜息を吐いた。ひょっとしたら、待ち合わせ場所に恋人が現れないときよりも切ないのではないだろうか。
「実際に会うと、イメージ崩れると思うけどなあ?」
 苦笑するはたての様子に、神子は小首を傾げた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 博麗神社の境内。賽銭箱の後ろで、霊夢は満面の笑顔を浮かべていた。
 お賽銭を入れてくれた参拝客に、霊夢はお礼を言って頭を下げる。
「ご機嫌だな、霊夢」
「ご機嫌ですね、霊夢さん」
 霊夢と同様に、賽銭箱の後ろには魔理沙と早苗が並んで立っている。彼女らに振り向いて、霊夢は頷いた。
「そりゃそうでしょ。この光景……心が震えるわ。そうよ、これよ。これが神社のあるべき姿……これが私の見たかったものなのよ」
 境内には多くの出店が並んでいた。
 いつだったか、年末年始に妖精やら妖怪やらが出店を開いていたことがあったが、今回はそんなことはない。出しているのは人間か、もしくは神様だ。
 福男がまだ開かれていないので、お客もいないし店も開いてはいないのだが、福男が決まった後にはここも多くの参拝客で賑わうことになるだろう。
 店の準備も片づいたところが多いのか、店主達が互いに談笑をしている。中には、さっきのように参拝もしてくれる人間もいた。
 と、上空から射命丸文が舞い降りてきた。
「どうも、霊夢さん。もう既にこちらの準備も万端のようですね?」
「そうみたいね。参加者の人達の様子は?」
「はたてから様子を聞きましたが、どうやら百数十人程度は集まったようですよ? 神事には参加しなくても、参拝はするという人達もいるようですし。人が集まって安全なら、偶には参拝しようかっていう感じのようですね。そういう人達も含めると……延べ人数は数百人程度になるんじゃないでしょうか?」
 それを聞いて、思わず霊夢の体が震えた。
「数百? 凄いな、ここらの人里近辺だと、結構な割合の人間が参加していないかそれ?」
 流石に、仕事の都合もあるのでそういったものに影響のない範囲ではあるのだろう。だが、それでもこれは霊夢の予想……いや、期待を大きく上回っていた。
「私は……私は今、猛烈に感動しているわ。人々に信仰は残っていたっ! 頑張った甲斐があったってものだわ」
 霊夢は目頭が熱くなるのを感じた。
「……広報を頑張ったのは主に私達だったと思うんですけど?」
 そんな文のぼやきを霊夢は聞こえないふりをした。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 スタート地点の上空にて。
 はたては待機していた椛と響子に合流する。
 眼下では多くの参加者達が、スタートラインの後ろで列を作っていた。高度はそれなりにとっていて、参加者全員の姿を先頭から最後まで一目で見られるようにしている。
 スタートの時刻はもう間近に迫っていた。
 スタート地点であるこの人里の外れとゴールの博麗神社は、1里(約4 km)ほど離れている。
 あらかじめ、取材で多くの人間達が参加することは分かっていて、それがあの狭い神社に集結していたらスタートで大混雑になることは明白だった。
 そのため、神社到着時点である程度は人がばらけるように、という対処である。
「はたてさん。響子さん。時間です」
 懐中時計を眺めていた椛が、そう伝えてくる。
「分かったわ。それじゃあ響子ちゃん、よろしくね?」
「は……はいっ! 頑張ります」
 千里を見渡す目を持つ椛には参加者の様子を見てもらうため、そして響子には生きた拡声器として手伝ってもらっている。
 若干緊張した面持ちで、響子は手にしたメモに視線を落とした。
「えと……参加者の皆さんっ! おはようございますっ!」
 響子の声が響き渡る。
 その声を聞いて、参加者達の間から若干のどよめきが湧き上がった。それを見て、響子がしばし耳に手を当てて顔を傾ける。
「ん~? どうしました~? 声が小さいですよーっ? 皆さん、おはようございますっ!」
「止めんかいっ!」
 はたては響子の頭を軽く叩いた。
「ちびっ子向けイベントの司会のお姉さんじゃないんだからっ! もっと普通でいいの普通でっ! って、わざわざメモにまで……こんなネタ書いて」
 はたては響子の持つメモを覗き見る。そこにはまさしくちびっ子向けイベントのお姉さんの台詞が書かれていた。
「で、でも寺子屋の子供達も大勢参加してくれているんですよ?」
「それもそうだけど、その子供達だけの催し物じゃ無いでしょ?」
 ああもう、とはたては額に人差し指を当てた。
「とにかく、それじゃあこれから私が言うことを復唱して? それでいいわね?」
 うんうんと響子が頷いた。
「本日は、沢山のご参加。ありがとうございます。これより、福男を執り行います」
『本日は、沢山のご参加。ありがとうございますっ! これより、福男を執り行いますっ!』
 はたての声に続いて、響子の声が木霊する。
「実況は『山の安全は私が守る』犬走椛と、『命蓮寺の挨拶は私にお任せ』幽谷響子。そして、解説は『最新・最速・正確の新聞記者』姫海棠はたてでお送りいたします」
「はたてさんもまた……どうしてわざわざ、そんな説明を名前の前に付けてるんですか? 普通でいいじゃないですか」
 再び響子の復唱が響く中で、椛が呆れたような視線を向けてきた。何か変だったかなと、はたては首を傾げた。
 響子が言い終えて、はたては気持ちを切り替える。疑問を引きずっていても仕方が無い。
「それでは、カウントダウンを開始します。0になったらスタートして下さい」
 カウントダウンの宣言と同時、参加者達がスタートの姿勢を作った。
「5……4……3……2……1……。0っ!!」
 0の掛け声と共に、一斉に参加者達がスタートしていく。その姿は、黒い濁流のようだ。
 走る人間達の少し前を飛ぶ形で、はたて達も移動していく。
「それでは始まりました。第一回・福男。各者一斉にスタートしました」
 椛が実況を開始する。そして、響子は今度はそっちを復唱していく。彼女の声は博麗神社にいる人間達にも届いていることだろう。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 響子の声が遠くから聞こえてくる。どうやら、参加者はスタートしたようだ。

“まずはスタート直後の状況を見ていきましょう。なお、実況は正式名称だと読みにくい人もいるため、勝手なイメージでお送りいたします。トップを走るのは『月の家事手伝い』と『モンペ・フェニックス』。両者譲らず熾烈なトップ争いをしております。後続をぐんぐん突き放す。これは先行逃げ切り作戦なのかーっ!? そして、それにやや遅れる形で『半熟辻斬り』が二人を追いかける。その後ろはまだ塊になっています。前評判の高い『巫女萌えケイジュロー』『忠犬メイド』『ドヤ・タオリスト』『ジョギング・マスター・G』の姿は埋もれて見えません。 ……おや? その一方で後方は『ハクタク・ティーチャー』が塊から少し遅れる形で一人離れています。彼女は『モンペ・フェニックス』達とは逆に体力温存作戦なのでしょうか?”
“うーん、どうかしらねー? 彼女の場合、体力的な問題は無いと思うわ。おそらく、勝ちにいくのとは別の作戦が頭にあると思うわね”
“と、言いますと?”
“ほら、ちょっと後ろの方を見てみなさい”
“どれどれ?”
“体力の違いでしょうね。どちらかというと、子供達が遅れている”
“ああ、言われてみれば確かにその通りですね”
“子供が塊から脱落しても孤立して妖怪に襲われないように、見張っているということじゃないかしら?”
“なるほどー。そういう理由ですか。自分の勝利よりも子供達の安全。まさしく先生の鑑ですね”

「何だか競馬の実況中継みたいですねえ。私は興味が無くてあまりよく知りませんけど」
 響子の声を聞いて、早苗がそんなことを言ってきた。
「競馬?」
「ええ、外の世界のスポーツなんですが。一言で言ってしまえば馬による競走です。賭け事にもなっていて、馬の順位を当てると倍率に応じた金額が貰えるんです。大きなレースだと、広くニュースにもなりますね」
「ふーん。外の世界には色々な娯楽があるのねえ」
 実況中継というのがまだよく分からないが、以前聞いたテレビだとかラジオだとかいうものを通して、その場の状況を伝えることを言うのだろう。
「そういえば、これは魔理沙の案だったっけ? あんた知っていたの? 実況中継って奴」
「いや、そっちは知らない。でも、参加者が走っている状況が分かるといいなと思っただけだ。しかし伝え方……どうしてああなったんだろな?」
「え? 実況ってああいうものじゃないのですか? これでも私達、色々と調べたのですけれど」
 首を傾げる文に、早苗が苦笑を浮かべた。
「いえ、間違ってはいないですよ? 決して間違ってはいないんですけど……どう説明したらいいんでしょうねこれ」
 どうやら、外の世界の実況は色々と奥が深いらしい。
 ともあれ、実況から察するに、どうやら慧音は一人だけ後ろの方で走っているようだ。はたての解説による子供達のためというのも、あながち間違いでは無いだろう。あの人らしいと霊夢は思った。
「ところで霊夢。『巫女萌えケイジュロー』って誰だ? お前、心当たりあるか?」
「んー? 割とこの神社にも来てくれる、お茶屋の蛍十郎さんじゃない? 月一くらいでお茶っ葉の配達をしてくれて、そのときいつもお賽銭を入れてくれるのよ。信心深い、いい人よ」
「その人なら、私も人里で何回かお目にかかったことあります。信心深い人みたいですね。神奈子様や諏訪子様、そして守矢神社のことを話したのですが、とても熱心に聞いてくれたんですよ?」
「……本当に信心深いだけなのか、ちょっと不安に思ってしまうのは何故なんだろうな?」
 そう言って、魔理沙が苦笑を浮かべてくる。
「それは、あんたの心が汚れているからよ」
「お前なー」
 ただ、彼の足が速いというのはちょっと意外だと霊夢は思った。
「でも、私も知らない人がいるんですが『ジョギング・マスター・G』って誰のことなんです?」
「ああ、豆腐屋やっている東源の爺さんだ。『走るのが健康の秘訣』だとか言ってよく走っている。宵闇に紛れて現れては猛スピードで人里を駆け回って、色々と妖怪に間違われたりするんだ。『追い抜かれたら死ぬ』とか『併走して目が合うと体が動かなくなる』とか変な噂の原因になったりした迷惑な爺さんだ」
 魔理沙の答えに、早苗は疑いの視線を浮かべた。
「それ、本当に人間なんですか? 妖怪ジェットババアとかそんなのじゃなくて?」
「残念だけど人間なのよね-。今まで何回『妖怪だ~』って言われて駆けつけてみたらあのお爺さんだったことやら」
 やれやれと霊夢は肩をすくめた。
 ジェットババアというのが、また早苗は意味不明なことを言うが、霊夢は気にしない。どうやら、外の世界にはそれこそあの爺さんのような迷惑なお婆さんがいるのだろう。

“それにしても『月の家事手伝い』と『モンペ・フェニックス』のスピードは速い……速すぎます。後続を完全に突き放している。ゴールまでの距離を間違えているのではないか? そう思わせるほどに速いです。後続との距離はすでに60間(約100 m)は離れていると思われますと、と……おや? さすがにスピードダウンしてきましたね?”
“まあ、それもそうよねえ? 私も、あのペースであの人達の体力がゴールまで保つとは思えなかったし”
“おやー? はたてさんもそう思いますか? では、あの二人の狙いっていったい何だったんでしょう? とか言っている間に、ああっ! みるみるスピードが落ちていくっ! 後続とあれだけあった距離がどんどん縮まっていく~っ! いや、立ち止まったっ! 完全に立ち止まったっ! 睨み合いですっ! 道の真ん中で睨み合っています。これから何が始まるというのでしょうかっ!?”
“あー、要するにあれじゃない? あの二人が先行して競り合っていたのって作戦でも何でもなくて、ただの意地の張り合い――”
“ああああああああああっ!? スペルカードだっ!! こんなところで、こんなときに二人ともスペルカードを取り出したああああああああああぁぁぁぁっ!? 何を考えているんだこの人達は~っ!?”

「きっと何も考えていないに一票」
「右に同じです」
「みんな同じかよ。……賭にもなりゃしないのぜ」
 巫女達は苦笑を浮かべた。

“うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!! そこに後続が躊躇無く突っ込んできたーっ!! 『月の家事手伝い』と『モンペ・フェニックス』が飲み込まれ……というか、轢かれた~っ!? 容赦ない。大人も子供も全然、全くもって容赦が無いぞ人間達~っ!! ……そして、人間達が去った後は……ああ、二人とも踏み潰された蛙状態だ~っ! そこに今、ようやく『ハクタク・ティーチャー』が追いついたっ! さあ、彼女は……何もしな~いっ!? そのまま通り過ぎていくーっ! 『モンペ・フェニックス』への慰めも無いぞ~っ!? というか、怒っているっ! 呆れているっ!? 大きくため息を吐いたっ!”
“……まあ、あの不死人達のことだから放っておいて、妖怪に襲われても平気でしょうし。それなら子供達の心配の方が大切でしょうしね。後であの二人にどんなお説教が待っているのかは、ちょっと私も興味あるけど”
“そうですね。おそらく放っておいても大丈夫でしょう。ですので、我々は急いで先頭へと移ります。……と、お待たせしました。先ほどまでの先頭二人が脱落し、順位が入れ替わります。現在のトップはそのまま『半熟辻斬り』。いやしかし、この人も速いですねー”
“うん、私もインタビューしたんだけど『剣士として、日々足腰を鍛えるのは当然のこと。普通の人間を相手に後れをとるなどあんまり無い』だってさ”

 あんまりっていうあたり、あの娘の自信の無さだなあと霊夢は思った。そこが未だ半熟なのだ。
「というか、今どれくらいまで来ているんですかね? そこら辺、もうちょっと情報が欲しい気がするんですが」
「だいたい中盤ってところじゃない? 時間的にそんなものだと思うけれど」
 早苗の疑問に、霊夢は適当に時間を見積もって答えた。

“さあ、緩やかなカーブを越えてレースも中盤にさしかかって参りました。トップは相変わらず『半熟辻斬り』。それに続く人の塊が徐々に伸びてきました。安定感のある走りです。このまま彼女が福女となるのでしょうか?”
“かも知れないわね-。でも、そうなると気になるのは二位と三位の争い。今のところ、上がって来そうなのって誰かしら?”
“うーん、難しいところですね-。先ほど言った『巫女萌えケイジュロー』『忠犬メイド』『ドヤ・タオリスト』『ジョギング・マスター・G』といった面々も徐々にその姿を現しつつあります。彼らも比較的上位につけていますね。しかし、他にも他の人たちも一進一退でまるで予想が付きません”
“なるほど、まだまだ行方は分からないってところね”
“え? あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~っ!? これは、これは何としたことか~っ!! 予想外っ! これは予想外っ! とんでもないハプニングが起きてしまいましたーっ! こんなことがあっていいのかーっ!”

 突然、元は椛が発したと思われる言葉が木霊する。
 いったい何が起きたというのか? マスコミを名乗るなら焦らさずにさっさと教えろと、霊夢は思った。

“森の中から、多数の妖精と妖怪達が出てきた~っ!! 湖の氷精を初めとして他にも 光の三妖精、他にもリグル・ナイトバグにルーミアにその他多数。これはあれか、人間が企画した楽しそうなイベントを邪魔してやろうと、そんな悪戯心の結果なのか~っ!! 果たして、人間達はただで済むのかーっ!? ああっ、ミスティアまで何してんの~っ!?”

 最後は口調が変わっていた。おそらく響子の素の言葉だろう。
 ライブやらなんやらで、住職にはお説教されたと思うのだが、どうやらあの二人の付き合いはそんなことでは終わらなかったようだ。

“しかし……と、止まらないっ!? 止まらないぞ人間達~っ!! いや、むしろ止まるどころか加速したっ!? 『半熟辻斬り』の後ろに続く男達が、雄叫びを上げて少女達に突撃していく~っ!! そして……うわあああぁぁぁっ!? これはまた何てことだ~っ!! 男達が、一斉にっ! 野獣ですっ! これはもうケダモノですっ! 本能の赴くままに幼女達に襲いかかっていく~っ!! 相手が妖精だろうと妖怪だろうとお構いなしだ~っ!! 慌てて逃げようとする妖精と妖怪達。しかし、男達に次々と捕まえられていく~っ!! そして……非道いっ! これは非道いっ! これが人間のすることなのかっ! 嫌がる少女達を無理矢理もふもふしています。頭もぐりぐりと撫で回して、ほっぺにすりすりまでしていますっ!! 何という鬼畜の所行っ! まさに阿鼻叫喚。少女達の悲鳴が周囲一帯に響き渡る~っ! 今すぐ閻魔様を呼べ~っ!”

「……なあ、何となく幻想郷の未来が不安になるのは、私だけなのか?」
「ん? 何でよ? 人間がただ襲われるだけの存在でなくなって、結構なことじゃない」
「いや、そういうことじゃなくてさ……」
 ぼやく魔理沙に、霊夢は首を傾げた。
 そんな彼女の態度に、魔理沙は疲れたようにため息を吐いてきた。
「それにねえ?」
「うん?」
 霊夢は参加者達がだいたいこのあたりにいるだろうなーという場所を指差した。
 その場所へと魔理沙、早苗、そして文も視線を向ける。
 そして、そこに光弾が上空から撃ち込まれ、土煙が上がった。

“うわああああああぁぁぁぁぁ~~~っ!? 何だ? この攻撃はいったい何がっ!? ……って、閻魔様っ!? 本当に閻魔様来ちゃった~っ!! そして、お説教っ! お説教です。男達を見境無く弾幕で打ち倒してお説教を始めましたっ!!”

「ま、こうなるわよねー」
「幻想郷の平和って、色々な人達に守られているんですねー」
 にこにこと笑みを浮かべながら、早苗が頷く。それを見て魔理沙が「お前、幻想郷に馴染みすぎだろ」と呟いた。
「というか霊夢さん、下手するとあんな不埒な連中に抱き付かれていたわけですけど……助かったとか思わないのですか? いえ、私達が煽っておいて何ですけど」
「あん? 私があんな連中にどうこうされるとでも思う?」
 そう答えると、文は霊夢と魔理沙、そして早苗を順番に見返した。
「……いえ、愚問でしたね」
 文は納得したと、頷いてきた。

“え、え~と、取り敢えずここは閻魔様にお任せして引き続きレースの模様をお伝えします。先ほどの騒ぎにより、男衆の約半数が脱落しました。残っているのはずっとトップを走っている『半熟辻斬り』、そして……寺子屋の子供達は先ほどの乱痴気騒ぎに参加することなくみんな残っている様です。おおっ!? その中で一人、一気にトップとの差を縮めてきた子がいますねえ”
“えーと? ああ、人里の南の方に住んでいる富吉君ね。『恵比寿様にお願いして、お爺ちゃん達のお団子屋さんを向かいのお蕎麦屋さんに負けないくらい繁盛させてもらうんだっ!』て張り切っていたわ”
“ははぁ、お団子屋さんですか”
“ええ、その向かいのお蕎麦屋さんは福の神が来たらしく、そちらはえらく繁盛してたわ。実際、私も食べたけど美味しかったし。でも、それを見てお爺さん達が落ち込んじゃったみたいね。なら、お爺ちゃん達のお店にも福の神の祝福があれば……という思いみたい”
“いい子ですねえ。頑張って欲しいものです”

 そんな実況を聞きながら、霊夢は苛立たしげに眉根を寄せた。
「どうしたんです霊夢さん? そんな怖い顔して?」
 疑問符を浮かべる文に、八つ当たりだと分かっていながらも霊夢は鋭い視線を返した。
「あったり前じゃない。沢山の参加者が妖怪達のせいで脱落したのよ? 四季映姫のお説教のせいで参拝する気が失せたらどうしてくれんのよ。まったくあの妖怪共……そうなったら後で覚えておきなさいよ。あと、四季映姫と男達もっ!」
「この幻想郷で、巫女の怒りを買うことほど恐ろしいことはありませんねえ」
 「おお、怖い怖い」とわざとらしく身震いする文。その隣で、ギリギリと霊夢は歯ぎしりした。

“さあ、いよいよレースも後半戦に入って参りました。と、ここで……これはっ!? 『忠犬メイド』が仕掛けてきたっ!? そして、それにやや遅れて『巫女萌えケイジュロー』『ドヤ・タオリスト』『ジョギング・マスター・G』が続いてくるーっ! 薄くなった人の塊から一気に抜け出してきたーっ! 塊を大きく引き離し……迫るっ! 一気に『半熟辻斬り』の背後に迫ってくるっ! これは、『半熟辻斬り』にはプレッシャーだーっ! 逃げる『半熟辻斬り』。しかしその表情から余裕が消えたっ!”
“だけど……らしくないわね”
“らしくない、ですか?”
“ええ、『忠犬メイド』は時を操る。故に、その時間の感覚も完璧。インタビューでも『最高のペース配分を見せましょう』と言っていたわ。それがこんな風に、自身のペースを崩すような真似をするなんて”
“それだけ、『半熟辻斬り』の逃げるスピードが速いということでは? これ以上離されると追いつくのが難しいから、当初の作戦を捨てざるをえなかったとか”
“そうね、確かにその可能性はあり得るわね。実際、妖夢のスピードは大したものよ。ま、私には負けるけどね”
“はあ、はたてさんは足速かったんですか?”
“当たり前じゃない。幻想郷最速はこの私のためにある称号よ?”
“……文さんもそうなんですが、鴉天狗には幻想郷最速の称号を名乗る方が多すぎる気がするんですけどねー”
“全くよ、ちょっとは己を顧みろってのよね”
“はあ……もう、突っ込む気も起きません。しかし、『半熟辻斬り』が逃げる。逃げる。むしろここで後続との差を広げていくーっ! 白玉楼の庭師に限界は無いのかっ?”
“ここまで来たら彼女の意地でしょうね。気力の続く限り、『半熟辻斬り』のペースは落ちることはないんじゃないかしら。でも――”
“でも? ああああああ~~っ!? 逃げる『半熟辻斬り』に今度は『巫女萌えケイジュロー』と『ジョギング・マスター・G』が襲いかかった~っ! 『忠犬メイド』を一気に抜いて、『半熟辻斬り』に迫る迫る……迫って……並んだ。とうとう並んだ~っ!”
“意地を持ってこのレースに参加しているのは、彼女だけではないわ。『巫女萌えケイジュロー』は『巫女にかける僕の情熱は誰にも負けないっ!』と豪語していたし『ジョギング・マスター・G』も『ジョギングの効果の素晴らしさを幻想郷中に広めてやる』と言っていたわ。彼らにも、譲れないものがある”
“苦しいっ! これは苦しい。『半熟辻斬り』の顔が一気に歪んだ”

 気がつけば、響子の声がだいぶ近づいてきた。上空を見上げるとはたて達の姿も見える。レースもそろそろ終盤といったところか。
 あと数分くらいでトップ集団がここに到着するだろう。
「ちなみに、誰がトップで来ると思います? 霊夢さん」
 文の問いかけに、霊夢はしばし顎に人差し指を当てて虚空を見上げた。
「ん~? まあ、正直誰でもいいんだけどねー」
「いや、誰でもいいって、そんな……。いやまあ、巫女としては祝福を与える相手が誰だろうとそんなに関係ないとか、興味ないとか言われたらそれも分かりますけど」
 霊夢は小首を傾げた。
「いや、そういう話ともちょっと違うんだけどね?」
「どうかしたんですか?」
「ちょっと、誰がトップになるのか……どうもピンとこないのよねー」
「へぇ? 霊夢がそんなこと言うなんて珍しいな。巫女の勘が働かないってのか?」
「私は別に未来を見通せるわけじゃないっての」
 でもまあ、確かに言われてみれば珍しいかも知れない。もっとも、特に気にするようなことでも無いだろうと思うけれど。

“と、ここで『ジョギング・マスター・G』がラストスパートっ!? 『半熟辻斬り』と『巫女萌えケイジュロー』の一歩前に躍り出た~っ! 慌てて『半熟辻斬り』と『巫女萌えケイジュロー』がスパートを……しかし、追いつけないっ! 追いつけそうで……決して抜かせはしないぞ『ジョギング・マスター・G』っ! 『半熟辻斬り』と『巫女萌えケイジュロー』の表情に焦りが浮かぶっ!”
“いえ、それだけじゃない……これは”
“あ? ああああああぁぁぁっ!? 彼らの後ろからさらに……『忠犬メイド』と『ドヤ・タオリスト』がっ!? 一気に……一気に、今度は『ジョギング・マスター・G』に並んで……追い抜くか~っ!?”
“私、とんだ思い違いをしていたかも知れない”
“はたてさん、思い違いとは?”
“『忠犬メイド』の狙いは、最初からこれだった。よくよく考えてみたら、彼女はこれまでのほとんどをずっと自分のペースを守っていた。唯一それを崩したのは『半熟辻斬り』へ仕掛けたときだけ”
“え、ええ。でもそれがどうかしましたか?”
“でもそれはあくまでも『半熟辻斬り』へプレッシャーをかける切っ掛けを作っただけ。彼女は自分のペースに戻って……実際にトップ争いで苦しい走りをしたのは誰?”
“それは……『半熟辻斬り』と『ジョギング・マスター・G』、そして『巫女萌えケイジュロー』っ!?”
“そうよ。そして、もうちょっと後ろを見てみて”
“……なっ?”
“そう、『半熟辻斬り』との間にいて……いつの間にか完全に引き離していたと思っていた後続の集団が近づいている。トップ集団の後ろに付けながら……彼らのペースすら操って、自分達がハイスピードと思わせておいて、その実スローペースに持ち込んでいたのよ”
“と、トップをプレッシャーで潰し合わせておいて、自分はスタミナを蓄えていたと?”
“ええ、とんだ時のマジシャンだわ”
“だがしかし、『ジョギング・マスター・G』もしぶといっ! そう簡単には『忠犬メイド』も抜かさないっ! さらに……加速っ!?”
“無茶よっ! そんな真似……さすがに限界を超えているっ!?”
“迫る『忠犬メイド』と『ドヤ・タオリスト』を引き離せるか? あ……いや、ダメだっ! 急激にスピードダウンっ!? 胸に手を当てて……激しく咳き込むっ! 年には勝てなかったっ! 妖怪との噂もあったけど、やっぱり人間だった~っ! そして、彼のすぐ真後ろにいた『ドヤ・タオリスト』が避けられずに一緒にスピードダウンだ~っ! 彼らのすぐ隣を『巫女萌えケイジュロー』と『半熟辻斬り』が追い抜いていったーっ! 思わず背中を支える『ドヤ・タオリスト』、そして彼女に謝る『ジョギング・マスター・G』。正直、ここからの挽回は難しいところでしょう。福男・福女は、さっき彼女らを追い抜いていった三名で決まってしまうのか~っ!?”
“いえ、ちょっと待って。まだよ……まだ終わらないわ”
“な、何とっ!? いえ。まだです。まだ勝負の行方は分かりません。後続の集団から二人。猛スピードで抜け出してきた人間がいますっ! 速い……速いっ! あっという間に先頭集団に追いついて……。これは……『団子屋小僧』と魔法の森の『旗折眼鏡』っ!”
“これは……なるほど、『団子屋小僧』は偶然かも知れないけれど、『旗折眼鏡』はここまで読んでいたのかも?”
“どういうことです?”
“インタビューで『旗折眼鏡』は言っていたわ。『勝負は最後まで分からない。トップではきっと色々と駆け引きもあるだろうしね。なら僕は、その読みで勝ってみせる』って。ここまで姿を見せなかったから、てっきり追いつけていないものだと思っていたけど”
“読み……ですか?”
“そうよ。彼は……『忠犬メイド』がこういった策で来ることを見越して、さらにこのギリギリまで……後続でペースを落とし、スタミナを蓄えていたのよ”
“な、なんと~っ!? そこまでですか~っ!?”

 おや? と霊夢は魔理沙へと視線を向けた。何だか彼女の様子が妙に落ち着いていない。
「魔理沙、どうかしたの? 動きが硬いわよ?」
「うぇっ!? そそ……そんなことは無いわだぜ?」
 そんなことを言いながら、魔理沙の顔は若干赤い。霊夢は、らしくない魔理沙の態度に疑問符を浮かべる。いったい何を緊張しているというか。
 そして……やがて、思い至る。彼女はにやりと笑みを浮かべた。
「あー、そういうことね。魔理沙」
「な、何だよ?」
「可愛らしいですね~。魔理沙さんったら」
 早苗も気づいたのだろう。クスクス笑いながら魔理沙の頬をちょんとつついていた。そんな扱いに、魔理沙の表情はますます硬くなる。それはまるで、昔書いた恥ずかしいポエムを見つけられたかのような反応だと霊夢は思った。
「今更知り合いに巫女服姿を見られるのが恥ずかしいとかさ~。まあ、着慣れてないからそう思っちゃうのは分かるけど」
「大丈夫ですよ魔理沙さん。確かに、いつもの白黒な服装とは大きく印象が違っていますけど、変じゃないですよ」
「……へ? あ? いや……あ、あははははは。そっか、そうだよな。うん……」
 安心したのか、魔理沙は頭を掻いて笑ってきた。
「ほら、出番はもうすぐなんだから。いつまでも恥ずかしがっていないで、しゃんとしなさいよ?」
「お……おう」
 そして、霊夢は上空を見上げた。はたて達が本当にもうすぐそば……神社の麓辺りまで来ていた。

“そして、いよいよレースも大詰め。トップは……おおおおっ!? 『忠犬メイド』もここまでかっ!? さすがに、絶対の自信を持っていた策がこうして返されるのはショックが大きかったのか~っ!? そしてそして……『巫女萌えケイジュロー』が吠えたあああああああああぁぁぁぁ~~っ!! これは、魂の叫びだ~っ! 『団子屋小僧』、『旗折眼鏡』、『巫女萌えケイジュロー』が……どこからこんな力を出しているのか~っ!? 男三人をトップに……最後の坂を参加者達が駆け上っていく~っ!! いや、女達も負けてはいないっ! 『半熟辻斬り』も吠えた~っ! 今度こそ……今度こそ最後の力を振り絞ったラストスパートっ! それに感化されたのか『忠犬メイド』も加速っ!”

 その瞬間、神社の脇から麓に続く林道で多数の……大きな声が上がった。見たことは無いが、戦国の時代の鬨の声とはこのようなものか。
 大気を振るわせ、地響きと共に参加者達が近づいてきていた。

“さあ、トップは誰か? 『団子屋小僧』か『旗折眼鏡』か『巫女萌えケイジュロー』か、それとも再度『半熟辻斬り』と『忠犬メイド』が巻き返すのかっ!? その差はほとんど無い~っ! だが、若干『旗折眼鏡』がリードしているか~っ!?”

 そんな実況が聞こえてきて、魔理沙が微妙に自分達の前に移動していった。照れくささを克服し積極的に働こうというのか。結構なことだと霊夢は思った。
 そして、参加者達の姿がこの目でも見えるところまでやってきた。最初に林道を抜け出して来たのは霖之助だった。その本当にすぐ後ろに少年と御茶屋の青年が続き、そして妖夢と咲夜が続いている。
 霊夢は思わず胸の前で拳を握った。
 妖夢と咲夜の後ろ、そこにはまだまだ多くの人だかりが残っていた。これだけの人間達が参加してくれて……そして参拝し、お賽銭を入れてくれるというのなら、このイベントは大成功だ。
 そう、大成功だ。霊夢はそれを信じて疑わない。あと十秒もするかしないかという間に、彼らが自分達のところに辿り着いて終わる。
 だから、目の前の参加者達しか見えていなかった。

“そうはさせないわ”

 その声は、不意に空から落ちてきた。
「……へ?」
 あまりにも予想外だったので、霊夢は反応することが出来ず。間の抜けた声を上げることしか出来なかった。
 声のした方……空を見上げる。
「んなっ!?」
 突如として、空が割れた。
 八雲紫のスキマ……その中から少女達が姿を現す。

“幻巣「飛光虫ネスト」”
“神槍「スピア・ザ・グングニル」”
“日符「ロイヤルフレア」”
“神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」”
“要石「カナメファンネル」”
“魔符「アーティフルサクリファイス」”
“河童「のびーるアーム」”
“式輝「狐狸妖怪レーザー」”
“鬼神「飛翔毘沙門天」”
“彩符「極彩颱風」”

 衝撃と轟音。
 光弾が、レーザーが雨霰と参加者達に降り注いでいく。
 参加者達の悲鳴はほとんど聞き取れない。段幕の奏でる閃光と爆音の不協和音に不協和音にかき消されてしまう。彼らの姿もだ、立ち上る土煙やら爆炎やらで覆い隠されてしまっている。
 その攻撃に容赦は無い。
 参加者に一切合切の区別無く攻撃は続けられていく。
 たっぷり十秒以上は経った事だろうか? そうして、ようやく少女達による攻撃は停止した。
 そして……煙が晴れてそこから姿を現したのは、クレーターと化した神社の一角と、その中で死屍累々となっている参加者達の無残な姿であった。
 その光景に、あんぐりと霊夢は口を開く。何が起きたのか理解出来ない。
「ちょっと紫~っ!! てか、あんた達っ! いったい何て事してくれんのよっ!? 何で……何でこんな事……」
 霊夢は紫達に指差して怒鳴った。その瞳にはちょっぴり涙が浮かぶ。
 その手には御札と陰陽玉がある。既に戦闘態勢だ。どんな理由があってもぶちのめす。彼女の意思はもはやそれしか無い。
「五月蠅い五月蠅い五月蠅~いっ! 霊夢の馬鹿っ! 私以外の連中に……ましてやそこら辺の男にぎゅっとか、そんなの絶対に許さないんだから~っ!!」
「はぁ~っ!? レミリアああああああぁぁぁぁ~~っ!! あんたいったい何を言って――」
「そうよそうよっ! 私が認めた男でも無い限り、ぎゅっ! 何て絶対に許しませんっ! それとそこの吸血鬼……あなたも、後でゆっくりと話し合いましょうか?」
「あー、やろうってのこのBBA」
 レミリアと紫が睨み合う。
「紫……あんたまで……」
「まったくよっ! この私を差し置いてイベント何てっ! 私も呼びなさいよこの~っ!」
「ふっ。迷惑な天人くずれが何を言っているのかしら。まあ、この場に限ってはちょっとは役だったみたいですけれど」
「なぁんですってええぇぇっ!?」
 紫との睨み合いに、天子も混ざる。
 そんな、彼女らのまともに質問に答えない様子に……答えたとしてもどうせろくでもない理由に決まっていて……霊夢は急速に額の怒りマークを増やしていった。
「お前らも何なんだ~っ! パチュリーっ! アリス、にとり、お前ら~っ!」
 魔理沙の怒声が響いた。
 だが、それに対してパチュリーは無表情なままだ。
「ん? レミィに付き合って? あと、日頃の本の恨みとか?」
「パチュリーに誘われたから? あと、面白そうだったし」
「アリスに誘われた。新しい発明品の威力を試してみたくて?」
 全く悪びれた様子の無い……むしろどこか清々しい雰囲気すら口調に漂うその返答に、魔理沙は全身からどす黒いオーラを吹き出した。
「神奈子様っ!!」
「早苗っ! 勝手なことするんじゃないのっ! 家出に飽き足らず、嫁入り前の娘がっ! 私はそんな娘に育てた覚えはありませんっ!」
「そんなこと言って、いつもいつも神奈子様は私の考えを聞いてくれないくせにっ! たまには私の案も採用して下さいっ! そのくせ自分達はいっつも好き勝手に企画を立ち上げては失敗しているじゃないですかっ!」
「なぁんですってええぇぇっ!?」
「何だって言うんですかっ!?」
 早苗と神奈子の間に激しい火花が散った。
 じり……じりと藍と橙、そして美鈴が困ったような表情を浮かべて霊夢達の視界から遠のいていく。従者として付き合わされただけだ、仕方なかったんだと言いたいのだろう。だとしても、霊夢には彼女らも逃がす気は無いが。

“霊符「夢想封印」”
“魔砲「ファイナルマスタースパーク」”
“奇跡「ミラクルフルーツ」”

 スペルカードを宣言しながら、霊夢達は妖怪達に突っ込んでいった。
 再び、博麗神社が弾幕の嵐に包まれていく。
 その下で、悲鳴を上げる人間達がいたのだが……その声はもう、彼女らの耳に届いてはいなかった。

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