Coolier - 新生・東方創想話

幸せなセカイ

2013/04/19 14:51:21
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 私は常に独りだった。体面だけを気にして様子を見に来る姉。その姉は蔑むように私を一瞥してまた光の世界に戻っていく。取り残された私はどうすればいいっていうの。あるものは全て壊した。なんて伽藍堂な世界――無そのものだ。あぁ、そうか。姉は私が憎いんだ。こんなとこに閉じ込めておいて……これか、この羽が悪いのか。吸血鬼を象徴するような羽が虹色に光り輝き、力の象徴をするはずのものが、これだけ歪んでいるのが……。
 右手に力を込める。イメージは出来ている後はこの羽を壊すだけ……何かがひしゃげる音がする。そしてすぐに生え変わる。先よりもさらにぐにゃりと曲がった姿で。
「痛い……痛いよお姉さま……ふふふ」
 自分の肩が温かい。私に残っているのは私だけ。そのワタシを酷く愛おしむように抱きしめていた。


 まぁ、それも過去の話。今では――
「何やってるのフラン! 早く、早く私にヘイストを!」
「待ってお姉様! その前に美鈴にトリートで回復のほうが……」
「お嬢様にジョイフルジョイフルをかけてどうにか……」
「行きまーす! つるぎのまいで4連打ァ!」
 対するは堕天使ルシフェル。美鈴の華麗な剣さばきを黒衣の衣で受けきる。
「ダメージはっと……57+13Dで102!」
「なかなかのダメージね!」
「やるではないか愚かな人間達よ。だがな……滅びの風をその身に受けるがいい!」
『突如の暴風が君たち襲う。その烈風は身を裂き、衣服をボロボロにし……』
「来たわよ! エロパチェのラッキーシーン!」
「違うでしょ! そこはルシフェルの格好良さに……ゲホゲホ」
「「「「あ」」」」
 このGM……もとい、パチュリー・ノーレッジを知っているものならば全てを悟る。悟りの能力を持っていなくても悟ってしまうだろう。この象徴は間違いなく、喘息だ。
「今日はお開きね、パチェが喘息なら仕方ないわ」
「でもダイスで運命が決定するこれは面白いわね」
「確か……神世紀ドラクエファンタジーロッドSO2でしたっけ」
「取れるスキルが多くて難しいですねぇ。私はガチガチの戦士にしましたけど」
――なんて話をしながらゲームで遊んでるくらい今は楽しいのだ。


 あの日々は突然の来訪者達によって壊された。巫女と本泥棒が紅魔館に押しかけてきて、屋敷をめちゃんくちゃんにした後、流れで私のところに遊びに来てくれたらしい。巫女には全開の力で戦って……それでも敵わなかった。破壊する程度の能力が唯一あの巫女だけは破壊できなかった。破壊する目そのモノが視えなかった。それからスペルカードルールのことを教えてもらって生まれて初めて弾幕というものを目にすることになった。
 そこは美しい世界でいくら当てても相手は死なない。遊んでも遊んでもまた遊べるのは幸せだった。
その後本泥棒がやってきて、弾幕ごっこをした。初の弾幕ごっこ、楽しくて出力を抑えきれなかったけれども、レーヴァテインさえ躱して星の弾幕を魅せつけられた。負けちゃったけど、色んな意味で楽しかった。その頃から姉は自由にこの部屋から出ていいと言うようになった。何もかもが新しく、そして初めて嬉し涙というものを流したんだ。
「ほら、フラン行くわよー」
「うん、わかったわ」
「今日は咲夜の特性ブラッディケーキだからね」
 ブラッディケーキ。この響きだけでよだれが止まりそうにない。淑女ですからそんなマネはしませんけど。お姉さまはB型の血が好みらしいけど、私はO型が好みかなぁ……血によって味が若干異なるのって人間の醍醐味よね。
「お姉さまはどうしてB型が好きなのかな」
「やっぱりB型の血は他の血よりもコクがあるのよね」
「えー、でもO型の血のほうが甘いのよ」
「それは貴女がおこちゃまだからよ。真の淑女は優雅に生きるものよ」
「そんなものかなぁ」
 そんな他愛のない会話をしながら、咲夜の待つティールームに二人並んで歩を進めている。今までは互いに遠ざけるだけでこんな日常すらなかった。咲夜も柔和な表情が増えたし、パチュリーもなんだかあの黒白のせいというか、新しいおもちゃを見つけたというかすごい楽しそうだ。そしてこの姉は……我が姉レミリア・スカーレットはこんなに笑顔を私に向けてくる奴ではなかった。私を見ると本当に忌々しげにしていた。あの表情はもうない。今のこの幸せなセカイはずっと……ずっと望んでいたものだった。そう、望んでいたはずだった。ティールームを開けるとそこには独特の匂いが充満していた。一見すればテーブルに紅茶とケーキが置かれ、傍には瀟洒な従者が控えめに立っている。私達が入ってきたのを見て一礼をし、食べるように促してくるのだが……
「ねぇ、咲夜」
「何でしょうか、妹様」
「紅茶ってこんなに青いものだっけ」
「今日は烏龍茶ですわ」
「いや、違うでしょ! 烏龍茶は緑だから! どう見ても青だから」
「フラン、細かいことは気にしなくてもいいのよ」
 何かを悟ったような、そして諭す眼で私を見つめてくる。いやいや、どうみても毒々しい色だからこれ。青いお茶なんて有り得るわけ無いでしょう。それにお姉さま、汗がだらだらです。
「ちなみに咲夜。味見は……」
「してません」
 いや、きっぱり言うなダメイド。そんなお茶を出すなよ。仮にも主に対してだよ。仮とか言っちゃう私もどうかしてるけど。
「私が作ったものが気にいただけないと……よよよ」
 芝居がかった動きで泣き崩れるふりをする、完全で演者な従者。わかったわかった食べますよ。ようやく食べようとしている私に対して、お姉さまはすでに食していた。流石としか言えない。とりあえずケーキは美味しいのだ。ケーキは。ここに異物が入る余地はない。ふわふわの生地に生クリームたっぷりで苺も乗っていて、口の中で広がる芳醇な血の香り。一口食べるだけでなんて天国なんだろう。悪魔の愉悦とはこのことか。もちろん悪魔にもあれば天使にも愉悦はある。ワクワクした眼で従者が見ている。おいやめろ。そんな眼で見るな。一気に飲むか……それともちびちび飲んでしまうか……しまった。これを先に飲んでからケーキを食べれば幾分かは幸せな気持ちに浸れたのに、これも瀟洒な従者の完全な罠。ここは一気に行こう。そう決めた時にはすでに動いている。眼を閉じティーカップを思い切り口元に運び一気に飲む――あれ。普通の味だ。優雅さとはおよそかけ離れたワイルドな飲み方だったが、思っているより普通の紅茶のような味だった。
「どうかいたしましたか、妹様」
「え、いや、なんでもないわよ」
 咲夜は自然な笑みを浮べている。後ろに手を組んでいて、そこにはカメラと青いティーカップを持っているのだが、フランには知る術もなかった。
「ティータイムは終わりよフラン」
「え、えぇ、お姉さま」
 何かがおかしいような気がしたが、気に留めても仕方がないのでお姉さまの後に続くことにした。
「咲夜」
「はい」
「次はもっと瀟洒にやりなさい。わかるわね」
「わかりましたお嬢様」
 何を言っているかさっぱりで、それを問い質す前に早足でお姉さまは出て行った。


 日傘をさして外に出る。お姉さまが持って、私がそれに寄り添う感じ。お姉さまの体温はどこか冷たくて気持ちいい。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけドキドキしている私がいるのも否定できなかった。何百年も一人きりで、それがいきなりこんなに急接近したらそりゃあね。なんて独りで言い訳じみたことを考えてると、不意にお姉さまが歩を止める。私も歩を止め、前に目を向けるとそこには美しさがあった。
「はっ」
 先ほどまで剣の舞いとかふざけていた者と同一とは思えない。拳から放たれる迷いなき拳筋は、美しいと言わざるを得なかった。それ以外に形容する言葉が見つからないのだ。突きも蹴りも定型を持たず、しかし力強く華麗で護るという意思がはっきり見えていた。虹色に輝く紅美鈴。この門番が紅魔館を守っている限りは不落であろう。
「行こうか、フラン」
「えぇ、お姉さま」
 その力強さを見て踵を返したその時、激しい爆風とともに先程までの華麗な彼女とは打って変わって、弾幕戦で圧倒されている悲しき姿がそこにはあった。
「肉弾戦なら強いのにねぇ……」
「弾幕はねぇ……」
 苦虫をかみつぶしたような顔を二人して浮かべながら屋敷の中に戻っていく。思い出は美しいままでとっておくべきなのだ。うん、そうに決まってる。

 吸血鬼なのに、夜に眠くなるとは呆れたものだと自分でも思う。咲夜や他の人間に合わせていたら、必然的に朝型になってしまうのもこれまた仕方のない事だね。それだけ増えたんだ。私が人と接する機会が。さぁ、寝よう。夜明けがこれだけ楽しいのなら今は幸せなんだ。そうして微睡みの中に私は落ちていった。


紅い月が出る夜、夜の王はひとりごちる。本当にこれで正しかったのかと。495年間閉じ込めていたのは失敗だったのかと。今のフランは本当に笑ってくれるようになった。突き放すだけが愛情じゃないことも知った。最も近くに置いておきたく、最も遠ざけたかったのも姉として、そしてスカーレットとしての矜持だったのか。異変を起こした。何かが変わると信じて。それは成功して今ではすっかり変わってしまった。ふふ、フランがこんなにも温かいだなんてね。近くにいると案外気づかないものなのね。
「さて、可愛い妹の寝顔でも見に行こうか」
 フランのいる寝室に自然と早足で向かってしまう。一つの宝物をようやく手に入れたのだから――。
この後の展開は……ご想像にお任せします。
シェング
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コメント



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3.無評価名無しの権米削除
あれ.....なに飲まされたんだ....?
俺の予想が外れることを祈る
けれどもバッドじゃないよね?
やべぇこえぇ
4.60名前が無い程度の能力削除
いや、この情報だけで先を委ねられても。
冒頭で引っ張られただけに正直肩透かし・・・・
5.無評価名前が無い程度の能力削除
それっぽい雰囲気を出そうとして難しく長々と書いた風に見えるけどもっと短くまとまる気がする
そもそもフランって誰なんですかね
6.60名前が無い程度の能力削除
フランらしく?幼い文章でした
それからこの後の展開をtogiに誘導するにはあまりにも雰囲気と描写が足りないです
9.60奇声を発する程度の能力削除
えー…って気分になりました
10.703削除
え? と思ったけど皆様のコメントを見てなるほどと。紅茶ですか。
しかしその方向で行くならTRPGとかの中途半端なギャグは入れないほうがいいと思います。