Coolier - 新生・東方創想話

「廃獄ララバイ」

2013/04/02 17:13:15
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旧灼熱地獄跡。別名焦熱地獄。
新しい場所に移転したとは言え、暑さに和らぎはあまりなく、訪れる者も殆ど居ない。

「ここで働いていた頃よりも暑さはマシになったとは言え・・・八寒地獄とどっちが良いのかねえ・・・。」
猫車に腰掛けて当時の様子を思い出しているのは、火車の妖怪、地獄猫のお燐。
仕事が終わって、ふと昔の職場跡がどうなっているのか、気まぐれに見に来たのだった。

お空がヤタガラスの力をその身に取り込んでからは、燃料の死体もそんなに量を運ぶ必要もなく、割と楽になった。
が、それでもお空が主の頼みで職場を留守にしたばあい、その限りではない。
幻想郷に人は少ないが、たまに隙間の妖怪が連れてきて非業の死を遂げたものや、無縁塚に流れ着いた身元知れずの遺体があるので
燃料不足に悩むことは無い。

そう言う死体は纏うている未練や、無念の強さもあいまっていい燃料になるのだ。

「引き払うのはいいけど、整地はしてないから荒れたまんまか。」
足元の細い石をひとつ取って、しげしげとお燐は眺める。
軽石のような気泡穴の開いた、黒く煤けた石。それは焼かれた骨の欠片だった。
この一つだけではない。そこかしこに見える石はみんな焼け残った骨だ。

「焼かれてしまえばその存在は土に埋められて、塚も無くすすり泣くだけ。あんた達はそれでも生きていた証を残したかったのかね?
 数十年もすれば、誰もあんたを知る人も居なくなって、名前さえも残らないのに。」

あまたの時を生きる妖怪からすれば、人の命は瞬きの合間に見える花火のようなものだ。
ちょうど桜が咲いて散り失せる様子に良く似ている。
「あの時、オオヤマヅミがイワナガヒメを娶っていればあたいらと同じ位には生きられたかもね。あんた達も。」

そこでお燐の顔が憂う
「でもそこまで生きたとて、待っているのは倦怠だけだけどね。あたいもこんな因果な仕事してるけど・・・それが無かったらどうなっていたろうね?」
もしもさとり様に拾われなければ、地獄と言う檻を出て地上で人を食らう妖獣として討たれていたかも知れない。
お燐は手に持っていた骨の欠片を放り投げた。
「外界の独逸・・・だったかな、あそこにある『びるけなう』と言うところも石に混じって骨が転がってるって話だけど。理不尽に『殺されなかった』だけ
 あんた達は幸せかもね。少なくとも骨の一片や脂の一滴まで家具や石鹸に使われる恥辱は無かったもの。」

つらつら昔のことを思い出していると、不意に後ろから声をかけられた。
「あれ?お燐じゃない。もう仕事終わったのに帰らなくていいの?」
振り返ると、主人の妹、その力ゆえに迫害され、心を閉ざした少女・・・こいしが笑って見ている。
「こいし様こそどうしたんですか?ここはあたい以外は誰も来ないような廃獄なのに。」
「んー、ぶらぶらしてたらここに着ただけ。そしたらお燐が居たから声かけてみたんだよ。何か考えてた?」
こいしの問いに、苦味を含んだ笑みでお燐は言った。
「些細な事ですよ。ここに散らばってる骨が生きていた頃、何を思っていたのか、答えの出ない考えをしていただけです。」

お燐の言葉に、こいしは笑顔のままで少し考えていたが、やがて言った。
「この荒家(あばらや)に来ず、行かず、住まずだったら、ああ、それこそどんなによかったろうか。」

笑顔のこいしから出てきた言葉に驚きながら、お燐が問う。
「それは・・・魂から訊いたのですか?」
「ううん。人里の本に載ってた。正直あそこまで辛いなら私みたいになってしまえば楽なのにね。なんでそれなのに生まれてくるのかな?人も妖怪も。」
無邪気な調子で出る言葉の重さに、お燐は応えられない。
「罪もなく輪廻の環の中につながれ、身を燃やして灰となる煙はどこであろう?・・・お燐は解る?」かさねてこいしが問うた。
「いえ・・・あたいの放り込んだ死体は煙も上げず燃え尽きますから。」お燐は戸惑いつつも応える。

しばし、沈黙が落ちる。

「ねえ、お燐。」こいしが無邪気に沈黙を破った。しかしその目は輝いていても焦点があっていない。お燐を見てるが、見ていない。
「鎮魂曲って歌える?」
お燐は黙って首を振った。人を食らい、その死体を燃料としてきたものに、餞になる歌など歌えるわけが無いのだ。
しかしこいしは笑ったままで言った。
「私が心を閉ざしてもね、話しかけてきた人たちが居るんだ。もう一度あの唄を聴きたい。自分は歌えるけどこんな未練に囚われた身では
 歌っても、それが鎖になるだけで決して解放されないって。その人たちがひとつだけ教えてくれたの。
 何回でも歌うから、お燐も歌えるようになって。そうすれば多分、すぐにとは行かなくても・・・百年、千年かかったとしても、慰めにはなるだろうから。」

こいしがお燐から五歩遠のいて、深呼吸をする。
やがて、一陣の風が始まりをせかすように吹くと、彼女は静かに歌い始めた

「よるのかぜにのり ひびくうたごえは くさはもゆらさぬ しずかなうたごえ
 ほのおにせめられ よこたわるものを いたみなぐさめて くるしみをいやす

 こころのたすけ もとめるものたちを うけとめ すべてをうけいれて

 みどりのゆりかご かぜのこもりうた うたごえはそっと みたまをだきしめ
 みずからのいのち たたれしみたまを せめることもなく ただじひをたれる

 みどりのゆりかご かぜのこもりうた たえなるしらべは ひとすじのひかり
 ちりぢりになった こころのかけらを ひとつにあつめて すべてをゆるして

 『ねむるがいい やすらぎのなかで』 
 ながれてくるこえ あわくかがやいて
 てさぐりでみちを さがしてなみだす よわきものたちに いきさきてらして

 『ひとみをとじ ただ いまはねむれ だれもおまえを せめたりはしない』 と
 やさしいこえは ぬくもりをともない ながれるなみだを そっとぬぐいとる

 『なくがいい なくがいい だれにもいえない くつうのすべてを
  すべてわたしに うちあけておくれよ わたしはすべてを うけいれてゆるす

  とがびと よきひと おいもわかきでも それはもとめてるものだから・・・。』

お燐は気づいた。吹く風が震えている。まるで、声無き泣き声が響き渡るが如く。
ここに留まっていた念や未練が震えている。
どんな死に方をしても、家族に囲まれても、結局死ぬのは自分ひとりだけ。
そんな寂しさと自分だけが逝かなければならないと言う理不尽さ、残された人の悲しみもいつかは消えて、僅かな残滓となるだけ。
そうやって忘れ去られていった魂たちの無念が震えていた。

自分達が身近に感じながら気づかない振りをしていた事柄。
仕方ないんだよお前、と自分には何も出来ないと諦めて手を伸ばそうとしなかった過去。
こいしの歌声は、それをお燐の目の前に無意識にぶつけてくる。

冷たいものがお燐の目から流れ落ちる。悔悟か、贖罪か、それは彼女にもわからない。
だが、その歌はお燐の胸を打った。

「お燐、泣いてるの?」
気がつくと、こいしが少し心配そうにお燐の顔を覗き込んでいる。
お燐は何も言わず、こいしを抱きしめる。
「お燐?」

しばしのあいだ、無言の時間が流れ、お燐は呟くように言った。
「ごめんなさい・・・。」
こいしは不思議そうに抱きしめられるままだ。

『ごめんなさい
  ごめんなさい
   ごめんなさい・・・・
 
 ずっと気付いていたのに気付かない振りをしてて。
 出来る事があったのに探そうともしないで。』

流れる涙を拭う事もせず、お燐はこいしの肩に顔を埋めて泣いた。

風が吹いた。
不意に、お燐が顔を上げる。
「お燐?どうしたの?」
涙を慌てて拭うと、お燐はこいしに問う。
「さっき、あたいに何か言いましたか?」

こいしはきょとんとした顔で
「ううん、何も言ってないよ?何か聞こえたの?」
「はい・・・。」
「ふうん。」
それきり興味を無くした様に、こいしは言った。
「そろそろ帰ろう。お姉ちゃんが心配するだろうし。」
「ええ、では猫車に乗ってください。私が送りますから。」
屈託のない笑顔でちょこんと乗ったこいしは、前を見ている。

お燐は振り返って、さっき、聞こえてきた言葉の主を思った。
あれは誰だったのだろう?
「お燐、早く早く!」
こいしの声に我に返ると、待ちくたびれたように彼女は足をバタつかせている。
「あ、すみません。じゃあ、行きますよ!」
「れっつごー!!」

疾風の速度で猫車が彼方へと消え、そこはまた元の無人の廃墟になる。
誰も居ない荒地には風一陣。
しかしそれは、いつものように荒んだものではなく、ひと時の安らぎを得たような、優しい風だった。

・・・・・・・・・・・。

いつか見た思い出の跡は 風の吹きすさぶ廃獄 省みられる事無く朽ちる 最果ての風景よ
誰も知っていた夢の跡 今は誰も知らないところ 時に攫われて朽ち果てたる 最果ての夢

ララルウラ ルララ 悲しい子守唄が響く 慰めを諦めて 言い聞かせるための歌が

「仕方がないんだよお前」と 寂しさに慣れさせるため 親を亡くした子が謳う歌 打ち捨てられたモノへと
「忘れる事も出来ないなら、せめて歌っている間は、何もかも忘れて聴くがいい、この子守唄」

私も行くよ 新しい夢を追って作られた国へ 今はさよなら また逢いに来る日まで待ってて ここで
風が吹いて吹き散らされた 言葉は戻る事も無く 約束を果たすその日までは 眠り続ける

その涙をこらえ まだ歌うララバイ


夢の跡をなぞるように 吹く風は悲しげな笛を 吹きながら何か探すように 私を置いて去った
誰もが忘れた夢の跡 思い出さえすべて失い 時の流れに忘れられた 最果ての場所よ

ララルウラ ルララ 優しい慰めはそこに無い 求める事諦めて ただ佇んで涙流す

「もう泣かないで」 語りかける 声無き声今もどこかで 失った夢を探すように さ迷い続ける風
「もう諦めて立ち去るがいい」 誰かが語りかけた時 もう居場所さえも解らず ただ消えてゆくのみ

「私も行くよ いつか会えるその日まで今はおやすみ」 背中を押すように 吹く風は遠い日の夢の跡
煉獄の炎のような色に染まる夕焼けはまだ あの日の約束を忘れまいと 歌い続けて

ただ そして消えゆく その最果ての歌・・・。
あとがき
オリキャラとの絡みが無いように気をつけて書いてみました。チルノモノ書こうと思ったんですが、廃獄ララバイ聴いてたら電波が書けといったので
お燐とこいしで一本。

こいしが歌ってる歌はゲームの曲に自分で歌詞つけたモンですが、実際歌ってみると2人がかりじゃないと歌えません。
元ネタはあえて伏せておきます。

かなーり遅れてしまいましたが、評価やコメント寄せてくれた方に深く感謝いたします。これからもよろしう願います。
蛇足
地獄には八熱地獄と言うものが有り、そのうちの2つが阿鼻叫喚の元の言葉になってます。
他には八寒地獄と言うものも存在するそうで、あまりの寒さに身がはじけて、紅い蓮の花が咲いたように見えるので「鉢頭摩(はどま)」と言うそうです。
仏教用語はサンスクリット語がそのまま日本語に転化した物があるので、元ネタを探ると面白いですね。
例・ストゥーバ→卒塔婆 マンジュシーリ→マンジュシャゲなど。
みかがみ
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コメント



0.660簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
廃獄の寂しさが文章でも感じられてよかったです
こいしちゃんは独りの辛さをよく知ってるんでしょうかね…
7.90名前が無い程度の能力削除
うーん、旧地獄ってなんか賑やかなイメージでしたが、こんな感じの地獄も風情というか雰囲気があっていいですな。
16.100非現実世界に棲む者削除
廃獄は忘れ去られた故に出来た場所。
そこに宿る想いも、こいしちゃんの鎮魂曲で僅かに寂しさが和らいだのだと思いたいです。
良い話でした。
17.90奇声を発する程度の能力削除
寂しい感じが伝わってきました
18.703削除
なんかよく分かりませんが雰囲気はあったと思います。