Coolier - 新生・東方創想話

メメント・モリ

2013/03/29 04:06:37
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 油照りの中で蝉達が騒がしく高い鳴き声を上げる。この蝉達は鳴くまでの間、土の中で何年も生きているらしい。土の中から目覚め、鳴き、また土に還る。そうして風に流されるのか。
 藤原妹紅はかき氷を食べる手を止め、この世界は海のようだと思った。目の前で静かに筆を辷らせている稗田阿求に言えば、海? と聞き返すことであろう。
 幻想郷で海を見たことある者は、外へ自由に行き来できるスキマ妖怪・八雲紫と、外から流れ着いた藤原妹紅や東風谷早苗ぐらいだろう。
 妹紅は特に、人が寄り付かない冬の海を愛していた。海は夏に来るものだと思い込んでいる者ばかりだったため、冬の海は妹紅だけが愛する群青色の世界だった。
 あの潮風を、あの静寂に流れる波の音を、あの波が泡立ち白く輝くさまを、あの海洋を飛び回る鳥の姿を、阿求は勿論見たことないも聞いたこともないのであろう。
 阿求の生は短いため浪費をしたくない。阿求の生は幻想郷縁起を書き上げるためにある。だからその生が立派に幕を下ろせるのは、幻想郷縁起の書き上げた瞬間しかない。阿求は、そのための命だからそれで良いと思っている。
 しかし、と妹紅は思う。阿求の短い生がそれの執筆だけでいいのか。阿求の生が、人間の生がそれだけ終るのは、悲しいことである。阿求がこの世に生を受けたのは、幻想郷縁起のための執筆である。が、断じてそのための生で終ってはならない。
「阿求」
「どうされました?」
「全てが片付いたら、海に行こう」
 阿求は筆を置き、妹紅に当惑した顔を見せた。日陰に座っていたため更に暗く見えた。それから少しだけ沈黙が流れた。
 妹紅の頭は既にここから離れ、ずっと遠くにある深い海の上にあった。誰もいない、静かな、静か過ぎるあの海で浮いていた。妹紅はあの海で様々なことを考えていた。自分の生命の長さのこと、生きられる時間のこと、家族のこと、蓬来山輝夜のこと……。
 阿求はようやく次の言葉を発した。
「海、ですか」
 流れる前髪の隙間に躊躇いがちな色が見えた。阿求が生きられる時間は、後二十年あるかないか。その中で海に行ける時間を確保できるのか。
 海に行く方法は紫に頼めばすぐだろう。けれども、阿求が考えている問題はまだまだあるに違いない。
 妹紅はそれ以上考えられず、乞うように問いかけた。
「不安?」
「いえ、別に不安というわけじゃないんです。ただ……」
 口籠る阿求に、妹紅は一つ間違えを犯したと感じた。阿求は元々、饒舌でなければ、はっきりと自分の思いを伝える人間ではない。どこまでも他人に合わせ、無意識的なストレスに蝕まれてしまうタイプである。だからといってここで妹紅が海に行くのを取り下げれば、強く反発する。
『妹紅さんが行きたいのでしたら、行った方がいいです』
 妹紅はこういう時に強く出られない自分が嫌になった。ここで強引に阿求の手を取れば、海に行ける。それは本当に阿求のためなのか。
 阿求の強くないが確かに流れている我が、阿求と妹紅に距離を与えているようだった。阿求が妹紅をただ幻想郷縁起に載せるための他人ではなく、ぐっと阿求の日常に近付いていると考えられる。
 阿求に認めてもらえるように思えて、妹紅は嬉しかった。しかし当然ながら、この嬉しさに寄り添うように苦しさが流れていた。
 妹紅はこの言葉が果たして今、正しいのか分からなかったが、この長続きする嫌な沈黙を打開したかった。
「まだ時間はあるでしょ? 今、早急に答えを出す必要はないわ」
「済みません」
「どうして謝るのよ」
「何だか、悪いことをしているように思えるんです」
「悪いこと?」
 阿求は精一杯言葉を選んでいるように見えて、妹紅は真剣に耳を傾けた。
「分からないんです。どうやって、その、妹紅さんの誘いに答えればいいのか。嬉しいんです。でも、嬉しいんですけど、嬉しいからこそ、分からないんです。初めてのことでして」
「いいよ。ゆっくり考えて阿求が納得する答えを出して」
 阿求は唐突に激しい声を上げた。
「それが、妹紅さんの望まない答えかもしれませんよ」
「それでもいいよ。無理に連れて行っても、面白くないでしょ」
「ですけど……」
「阿求は今、目の前のことに取り組めばいいのよ」
 この言葉はどれほど残酷な言葉であろうか。妹紅から繰り出したのに拘らず、そのための生であってはならないと否定したのに拘らず、阿求に幻想郷縁起の完成を急がせるなど妹紅のエゴでしかない。阿求の生を、妹紅のエゴによって、変えたいのか。阿求がそういう生を受け入れているのに。
 妹紅は決して、阿求に仕事を辞めるなと叫んでいるわけではない。もっと自分のために使えと言いたいのである。かつての妹紅のように復讐に染まった生を、阿求には体験してほしくないのである。その第一歩が、海に行くことである。
「どうして海なんです? 山でもいいじゃないですか」
「山とは違う魅力があるのよ」
 答えらしい答えに妹紅は微苦笑を返した。
 妹紅は山に行く度に最も苦しい過去を思い出すため、行きたくなかった。月に近付くから行きたくなかった。
 妹紅はこの時、不意に芭蕉の句を思い出した。口ずさむと阿求も同じように口ずさんだ。
「様々なこと思い出す」
「様々なこと思い出す桜かな」
「だから、海の方が好きよ」
 阿求の顔がすっと真剣なものになり、妹紅は自然と身構えた。
「その好きな海に私が行ってもいいんでしょうか? 山と同じようになるかもしれませんよ?」
 しかし予想外に柔らかい質問であったため、妹紅は警戒を解いて答えた。
「いいよ」
 次の瞬間、阿求の感情を押し殺した沈痛な声と澄んだ目の底に閃く涙が、妹紅の二の句を奪った。
「どうして、そんな顔で、そんなことを言うんですか?」
 妹紅の額に流れる汗は暑さだけではない。今、妹紅はどんな顔で答えたのか霞がかかったように不明瞭になった。どんな顔をしていたのか想像できなかったが、阿求の心に傷を負わせたことだけははっきりと分かった。
「ごめんなさい。そんな気はなかったの」
「私こそ済みません」
 妹紅の謝罪に、阿求ははっと気付いたように頭を下げる。二人して頭を下げるのが妙に面白くて妹紅は笑顔を零した。阿求は白い頬を赤く染めて言った。
「そこは笑うところじゃないでしょう?」
「ごめんごめん、面白くて」
 阿求は庭の方を見た。厳しく照りつける太陽に少しだけ顔をしかめた。妹紅はその横顔に一種の美しさを感じた。
 部屋にはまた沈黙が落ちた。が、この沈黙は先程の沈黙とは全然違う沈黙であった。この沈黙は、阿求にとっても良い沈黙なのだろうか。

     ※

 妹紅は緩やかに流れる川に素足を突っ込みながら、半分に切った西瓜にかぶりついた。隣に座る河城にとりも同じように西瓜を食べる。
 腰を据える岩がごつごつとして痛かったが、足はひんやりと冷えて気持ちが良い。透明な川は底の小石まで見えた。足を動かすと飛沫が岩に点を作る。にとりは妹紅のそんな姿を見ると意外なまでに強い調子で忠告する。
「足、切らないでね」
「うん。でも、私に言うの?」
「当たり前さ。大事なお客さんだからね」
 足を切ったところで不老不死ゆえにすぐに治る。首筋が蒸し暑いため短く切ろうにもすぐに元の長さに戻ってしまう。
 妹紅は不自由さを感じながらも西瓜を半分ほど食べ終えると、いよいよ口火を切った。
「ねぇ、カメラって作れる?」
 にとりは突然のことに首を傾げながら、口の中に残っている西瓜を食べ続ける。妹紅は要望を口にする。
「水に強いカメラだったらいいな」
「急にどうしたの?」
 妹紅は思い出が確かな形になる方法を欲した。妹紅は妹紅のまま永遠の時を生きる。阿求は姿形を変えても稗田阿礼としての生を続ける。
 妹紅や阿求の胸に訪れる感情や思考は、全ての存在がそうであるように時に流され、やがて忘却の彼方に消え去る。
 阿求と一緒に海に行ったことは過去になり、風化してしまうことが泣きたいほどに悲しくもあり恐ろしい。だから妹紅はその時を形ある物に収めたくなったのである。
 そこで便利屋・河城にとりに西瓜一玉と胡瓜一束を贈呈してカメラの作成を持ちかけた。これで断れれば、少し騒がしくなるが射命丸文に頭を下げようと考えていた。
「稗田阿求って知っている?」
「あれだろう? 人里のあの大きな屋敷に住んでいる、和服の似合う可愛らしい女の子だろう? 私の所に一回来たよ。阿求がどうしたの?」
「阿求と海に行くの」
「……ここに海はないよ。まさか、外? え、スキマ妖怪は、え、ちょっと待って、ちょっと待って」
 にとりは西瓜を全て食べると沈黙が落ちてきた。妹紅が口を出そうにもにとりの拒絶するような雰囲気に何も言えなくなった。
 妹紅は西瓜を食べながら、ずっと遠くを見ていた。白い雲を見る度に阿求の顔を思い出す。
 彼女はあの時、何故あのような表情で、あのようなことを言ったのか。妹紅はそれほどまでに暗い顔をしていたのか。阿求が気乗りではないのは分かる。阿求は、妹紅が手を握って、半ば強引に引っ張ってくれるのを望んでいるのか。
 本当に望んでいれば妹紅もそれ相応の行動に出る。しかし、妹紅の勘違いであれば、この計画は全て水泡と化す。
 妹紅は阿求をガラス細工のように丁重に扱いるのを見出した。阿求は全てを記憶しているため、慎重になってしまう部分もある。間違いを犯さないように意識している時がある。
 稗田阿礼の生はほとんど永遠であるが、稗田阿求の生はまだ始まったばかりである。全ての少女の精神がそうであるように脆く、壊れやすい、柔らかな精神を有している。優しく接して当然である。
「そっか。おめでたいことだね」
 にとりは全てに納得したように穏やかな笑顔で続ける。
「羨ましい、良いな。美しいとすら思えるよ」
「どうしてよ?」
 妹紅はにとりに褒められて、頬が熱くなるのを感じた。にとりはぐっと距離を詰める。空色の瞳に薄っすらと浮ぶ涙を見て、妹紅は静かににとりの言葉を聞く。
「たった一人の少女の一生のために、私やスキマ妖怪や妹紅が動くんだ。ちょっと前までこんなこと考えられなかったよ。ああ、素晴らしい。いいよ、すぐに作るよ。待っていて!」
 にとりは脱兎の如くラボに戻った。取り残された妹紅は頬を緩まさせて西瓜を食べる。その頭の一部分には、ずっと阿求の顔と言葉があった。愉快と不安が絶えず妹紅の胸に去来する。

     ※

 夏はどこも喧騒に包まれていたため、妹紅は渡り鳥のように静かな場所を探していた。
 阿求の屋敷に足を運ぶのは、仕事の邪魔なのではないかと思い、やめた。頭の中で阿求の言葉が回り続けていた。阿求の家に行かなかったのは彼女の都合を考慮しただけではなく、むしろ、妹紅自身の都合の方が大きかった。
 次に静かな所を求めた結果、ここにやってきた。
 妹紅は開け放たれた窓から、夕焼けに高々と伸び、沈みかける太陽を一心に見つめる大量の向日葵畑を見ていた。夕焼けには時々、烏が二羽、三羽と飛ぶ姿があった。
 家主・風見幽香は二杯のアイスコーヒーをテーブルの上に置くや否や妹紅に訊いた。
「それで?」
 妹紅はアイスコーヒーを一口飲むと、驚いたように声を上げた。幽香は席に腰を落ち着かせながら矢継ぎ早に問う。
「え?」
「用事があるんじゃないの?」
「え?」
「え? ないの?」
「うん。どうしたの?」
「私の台詞じゃない?」
「そう?」
「そうよ」
 二人は気まずくなって、奇妙な沈黙が家を支配した。沈黙は妹紅が思っているよりもずっと早くに終った。幽香は心配したように妹紅を見ていたのである。妹紅は我慢できなくなり怒りに似た声を上げた。
「何よ?」
「貴方、すごく思いつめていたからてっきり何かあったのかなって思ったのよ」
「そんな顔だった?」
「ええ。鏡、持ってきましょうか?」
「いらないわよ」
 二人の間を微風が駆けた。その風に乗って、向日葵の甘い香りがした。
「阿求にも似たようなこと言われたのよ。あの時、私はいつものように笑って、答えた筈なんだけどね」
「阿求と何かあったの? 喧嘩?」
 妹紅は幽香の表現に微笑を漏らした。
「大袈裟ね。ただ、海に行く約束をしただけよ」
 幽香の両眉が少し眉間に寄った。
「海? どうやって?」
「紫にお願いしたら、快諾してくれたわ」
「海ね……阿求は平気なの? 心配だわ」
「永琳曰く、今は平気とのことよ。でも、幻想郷縁起を書き上げてからのことは流石に分からないらしいわ」
「でしょうね。それでも、行くの?」
「ええ」
「どうして?」
 妹紅は幽香から反論されると知っていても、言葉を濁さなかった。
「幻想郷縁起を書くだけなんて、この世に生きているのに拘らず、可哀想じゃない。自分のために生きてほしいの」
 幽香は妹紅が思っていた通り、辛辣な答えを返した。妹紅は落ち着き払った調子で言い返す。
「そう思っているのは、貴方だけよ」
「そうね。私だけかもしれないわ。別に海に行ったからといって、阿求が急に変わるとは考えてもいないわ。これは、第一歩なの。残された生を謳歌するための、一歩」
「もし阿求が当日になって行きたくないって行ったらどうするの?」
「それでもいいわ」
 幽香の目に不安の色が刺さった。
「……どうして?」
「だって、あの子が自分の意思で、行きたくないって言うなんて嬉しいことよ。幽香は、あの子が、はっきりと拒否を口にするところ見たことある?」
「ないわね」
「でしょう? だから、行きたくないって言われてもいいわ」
「そのために自分が苦しむことになっても?」
「ええ。私は慣れているからいいのよ」
 今度の幽香は神経質そうに眉を寄せた。
「慣れているからといって、平気なわけないでしょ。貴方も阿求も、苦しい時は苦しいって、悲しい時は悲しいって、寂しい時は寂しいって言葉にしなさい」
 幽香に叱られ、妹紅は阿求の言葉の真意にようやく触れられたように感じた。
 阿求の生は短い。いつ体調が崩し、そのまま鬼籍に入るか本人にも分からない。海で、という可能性も十二分にある。そうなれば、妹紅は海を同じように愛せるのか。妹紅は、妹紅自身を恨まないのか、責めないのか。
 阿求はこの段階で問うたのである。時が経てば水をさすため言えなくなる。直前になれば、言えるかどうかすら怪しい。だから阿求は、全然固まっていない時に、妹紅の覚悟を確かめた。
 が、妹紅はそんなことに全然気付かなかった。山の時とは違い、妹紅一人の問題である。全責任が妹紅にのしかかる。それは、妹紅が体験したことのない責任に違いない。慣れているからといって、平気な問題ではないのである。
「……そう、ね。ちょっと話してくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい。吉報を待っているわ」
 妹紅はアイスコーヒーを飲み干すと出て行った。
「そうね。コーヒーありがとう」
「どういたしまして」
 向日葵と幽香に背を押され、妹紅ははっきりと自分の思いを伝えようと思った。もう一度、阿求と話し合おうと思った。

     ※

 人里の雑踏はいつしか妹紅の耳を離れ、阿求の屋敷に来た時にはいつもの静けさがある。彼女の生が何者にも邪魔されないことを証明しているかのようだった。
「不思議ね」
 妹紅がそう呟くと、筆を執っていた阿求の手が珍しく止まった。桜色の唇が小さく何度か動いたがどれも妹紅の耳に届かなかった。
 妹紅はこの犯しがたい沈黙にしばらく身を委ねて、阿求に何と言おうか考えていた。月のように輝く満天の星空を見ながら一考する。時折、涙のように流れる星を見ながら願った。どのような言葉が一番伝わるのか。妹紅は阿求と一緒に海に行きたい。それが伝わればいいのである。
 妹紅は沈黙を破った。
「阿求、一緒に行きましょう」

     ※

 二人を静寂が迎える。
「妹紅さん、この香りは何ですか?」
「潮だよ」
「初めて嗅ぎました。ちょっと臭いですね」
「そうね」
 阿求は下駄と足袋を脱ぎ、恐る恐る、白浜に両足を置いた。白浜は阿求の想像以上にきめ細かく柔らかかったらしく、きゃっと嬉しそうに悲鳴を上げた。阿求は一歩、一歩を楽しむように、この感触を噛み締めるようにゆっくりと歩く。
 妹紅は阿求の細くなった冷たい手を持ち、絶えず支えながら烈しい幸福を浮かべていた。
 浜風は夜も手伝い、妹紅の思っていたよりもずっと冷たく、二人して震えて、二人同時に震えるのが面白くて二人して笑った。阿求は目を閉じ、潮騒を聞く。目を開け、波立つ海に目を遣った。
「妹紅さん、海って冷たいんですか?」
「入ってみれば分かるんじゃないの?」
 阿求は妹紅の手を離れ、白い足を非常にゆっくりとした動作で深い群青の海に浸す。妹紅は阿求の近くで腰を下ろして、眺める。
「妹紅さん、すっごく冷たいですよ!」
 阿求は妹紅に向かって怒ったように叫んだ。けれども、その顔に浮ぶのはずっと幸福のそれだった。
 海と戯れる阿求の姿を見ると唐突に鼻の奥がつんと痛くなった。阿求の華やかな着物姿がすぐにぼやけた。妹紅は戸惑いながらも声を押し殺して、阿求に聞こえないように指を噛んででも堪えた。
 しかし、それでも、阿求はすぐに赤い足で砂浜を駆ける。妹紅の傍らに戻ってきた時、打ち寄せる波が着物を濡らしていた。妹紅は少し厳しい声を発した。が、涙に震えた声は説得力の欠片もない。
「馬鹿、濡れているよ」
「いいんです、これくらい。どうせ乾きますから」
「私だってそうさ」
 阿求は妹紅の頬を伝う涙を一つ、一つと拭う。それから優しく、抱きしめられた。妹紅は、阿求の母のような慈悲に羞恥と羞恥よりも遥かに強烈な懐かしみを覚えた。
「いつになったら乾くんですかね、全く嘘つきですね」
 阿求の息の音を耳元で感じる。
「向こうから妹紅さんの姿がよく見えました。だから妹紅さんに向かって、真っ直ぐ走ってきました。また明日も、妹紅さんの背中を追うと思います。私の足が動かなくなるまで」
 二人は示し合わせたように黙った。この無言の時は、二人以外にとっては沈黙なのであろう。しかし、二人はこの瞬間こそ、これから訪れるどんな時よりも、幸福であると約束できたのである。
物語に厚み作るってすごく難しいと思いました。
近藤
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コメント



0.410簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
物語性は十分だと思います。読み返したくなるくらいに。
どちらかというと語彙の選択に目を向けてほしい。視点にもブレがあるように感じます。
9.80奇声を発する程度の能力削除
こういうのも中々面白いですね
10.803削除
いやいや、良い感じに厚みが出ていたと思いますよ。