Coolier - 新生・東方創想話

永遠亭恐怖談/滑稽談

2013/03/26 17:03:57
最終更新
サイズ
12.2KB
ページ数
1
閲覧数
1128
評価数
5/15
POINT
780
Rate
10.06

分類タグ

「あの日は、知り合いから聞いた、優秀な薬師が居る永遠亭ってとこに行こうとしてたんで。どうにも最近は体調が芳しくないもんでね。頭痛もよく起こるし、怖気もする。慢性的な疲れが出たのかと思ったけれど、一向に良くならなくってなあ。まあそれはどうでもいい。その知人が言うには、あの迷いの竹林の奥深くに其れが有ると。竹林には化け物もいるし、とかく迷いやすい。だから竹林の護衛と、道案内をしてくれるっちゅう方がいて。話をつけてくれたんですよ。
 道案内の方が昼間に用事があるってんで、竹林に向かったのは日も傾きはじめた黄昏時でしたな。夕日が煌々と、血の色みたいに赤く染まっていましたっけ。鴉が矢鱈と翔んでいたのも覚えている。たそがれ、たあよく言ったもんで。最近は洋灯が多くなってきたからそんなこともないだろうが、確かにあの日の夕闇は、隣に人が居ても誰そ彼は、と聞いてしまいそうでした。
 竹林の真ん前まで来ると、小柄な可愛らしい少女がおりましてな。爛々と輝く、赤い瞳が印象的な。最近の流行りか知らんが、兎の耳を象ったやつを、頭につけていました。
(永遠亭への、道案内の方ですか?)
 とあたしが尋ねると、頷いて此方へ来い、と手招きで、竹林の中へ促されました。こんな小柄な少女が、護衛まで受け持つたあ大丈夫なのかと考えましたが、取り次いでくれた知人が言うには、見た目こそ少女だが、実力は折り紙付きだって言っていたのを思い出しましてね。そいつも、永遠亭には何回かお世話になっていたそうで。信の置ける奴だし、冗談も余り言わないほうだから、疑らずに付いて行ったんです。
 竹林の中に入ると、西日も余り届かず、鬱蒼とした印象を受けましたな。足元が見え辛く、あたしは何度か蹴躓いたりしたんですが、流石に案内役は飄々と足を進めていましたよ。むしろ、あの小さな躰のどこに、そんな力があるのかと思うくらい早足で進んでいて。何度か足を緩めてくれ、と頼む程でした。
 四半刻も歩いた頃でしょうか。竹林の奥に入るにつれ、夕日も幽かになり、なんとか前を往く影が見える程度でした。
(暗くて貴女がよく見えない。もっと近くを歩いてくれないか)
 とあたしが言ったらですね、少女がこちらを振り向いたんです。が、その影が、なんだか可怪しくて。頭にゃ兎の耳じゃなく、帽子をかぶっているようだし、背の辺りから羽根のようなものも生えている。あたしが訝しんで、近づいてみると、明らかに道案内の少女とは別の少女がそこにいた。これもまた、可愛らしい少女だったんですが、そいつが口を開くには、
(こんな所に人間が一人だなんて珍しい。妖怪に襲われちゃうわよ。私みたいな)
 ってね。耳を劈くような、甲高い声でした。
 あたしは、訝しみながらも少女に近づいたんです。油断していたんでしょうな、ここが化け物の巣窟だってことをすっかり失念していた。途端、少女がもろ手を上げて、とんでもない速さで襲いかかってきた。あたしはひい、と悲鳴一つ上げて、てんてこ舞いで逃げ出しましたよ。単なる少女に襲われて、恐慌来して逃げ出したと考えちゃいけない。あの時の少女の――いや、あの化け物の表情たるや、捕食動物のそれに近いものを感じましたね。それがあの足を取られやすい竹林で恐ろしい速さと共に襲いかかってきたんだ。どんな糞度胸持ちでも、あれには慄いて仕方がない。ああ、今思い出しても恐ろしい。
 後ろを確かめる暇なんて無く、只々駆けに駆けて。ついぞ足が縺れて転げてしまった時、自分の荒い息遣いしか聞こえなくなってる事に気が付きました。いや、がさりと叢を踏むような音が聞こえた気がしたが、周りには誰もいない。なんとかあの化物を撒いたのでしょう。ようやっと人心地付いて、息を整えてる時、ちと先に篝火が幾つか揺らめいているのを見つけました。ああ人だ、人が篝火を持って練り歩いているのだ、と救われた心持ちになり、急いでその元へ駆付けようとしました。恐怖で酷く思考能力が落ちていたとしても、流石に警戒心ばかりは完全に捨てなかったか、ある程度近づいた所で、ふと目を凝らして練り歩いている人物達をよくよく見てみたのです。そいつらは、ひめさま、ひめさま、と声を上げながら、やもすれば人を探していたのかしらん、うろうろと目を移ろわせながら。その目が、赤く、夕日のように煌々と、篝火を反射していたのでは無い、深紅の虹彩を湛えているものばかりでした。それに、竹林の前で出会った、道案内を名乗った少女、あれと同じように兎の耳を携えて!
 ああ全く、あの時の警戒心に感謝ですよ。今に思えば、あの道案内は化け物とつるんでいたのでしょう。道案内と称して化け物の元へ連れ込み、その肉を喰らっちまう、大方、そんな調子でしょうな。篝火を持った異様な風体の奴ら、それも少女の集まりだったのですが、其れを見たあたしは息を飲んで。見つからぬよう、音も聞かれぬよう、恐怖に身を竦ませながら、奴らが何処かへ行っちまうのをじっと耐えていました。宵闇に包まれていなかったら、もしかしたら見つかっていたのかもしれない。実に長い時間に感じられました。
 やっとの事で奴らの姿が見えなくなると、もうあたしは憔悴しきっていました。永遠亭なぞどうでもいい、自宅へ帰って酒でもかっ喰らって、寝床へ入りたい、とね。
 しかし何もせずに待っていたって目が醒めることはとんとない。夢ならばどんなに良かったことか! 仕方なしにあたしはまた宛もなく歩き始めました。
 辺りはすっかり日も落ちて、月明かりを頼りに足元を確かめながら。どれほど歩いたでしょうか、竹林が急に開けたのです。ぽっかりと空いたそこに、どかんと大きな屋敷が現れました。洋装の屋敷ではなく、竹林と見事に調和した立派な屋敷でした。灯籠が幾つか立てられてはいましたが、その全体を照らすことは出来ないほどに大きかったのを覚えています。門扉の所には、ああ、遂に辿りつけたのです、永遠亭と言う看板が堂々と掲げられていました。その看板の、どれほど蠱惑的なものだったか! 頼る人の一人も居ないと思っていたこの竹林で、話に聞いただけだが、実在する人物の住む、永遠亭に辿りつけたんですからね!
 火に吸寄せられる蛾の如く、あたしは永遠亭の中へと足を踏み入れました。
(御免下さい、誰か居らっしゃいませんか)
 玄関口でそう告げど、誰も出てくる気配は無く。最早人に会いたい一心で、無作法だと知りつつも勝手に邸内へ足を上げさせてもらいました。
 板張りの廊下はぎしぎしと。その音ばかりが嫌に響き渡って聞こえて。この音を聞きつけて、化物達がすっ飛んでくるんじゃないかと戦々恐々でしたね。その板張りの廊下は、両側に襖がずらりと並んでいたのですが、どうにも中からは人の気配の一つもなく。この屋敷内に居るのはあたし一人だけなんじゃないかと、そんな考えに至りはじめた時でした。廊下は永く続いて、外周に達したのでしょう。外庭が見える所に着きまして、ああ、今宵は満月か。と思ったのを覚えています。月の下あたりを、何かがふわりと翔んでいた様に見えたのですが、あたしがもう、気狂いになる寸前だったからかもしれません。その、外庭を左手に据えた廊下に、一筋の光が差し込んでいたのです。薄く、頼りない光でしたが、確かに薄く開いた襖から出ていました。ようやく人の居る所を見つけた、と、心身共に衰弱しきっていたあたしは、なんの躊躇いもなくその襖を開け放ちました。月明かりと、蝋燭に灯された頼りなく揺れる火の中で、確かに見たのです。十個もの赤い瞳が、爛々と輝く瞳が、一斉に此方へ向けられたのを!
 あたしの躰の中にどうしてまだ力が残っていたのか。兎に角ここを離れなければ、逃げ出さねばならないという、その恐慌を来した心のみで、一心不乱に駆けました。躰は何度も引っ繰り返り、泥だらけ血だらけ、躰も悲鳴を上げ、あたしの口からも悲鳴が出て。想像してご覧なさい、襖を開けた瞬間に五対十個の真っ赤な視線に晒されたあたしの心持を!
 その後はどうやってあの竹林を抜けだしたのか。次に覚えているのは竹林から二三歩出た所で、朝日に照らされながら目を覚ましたと言う事だけです。――いや、なんだか、花火の様な、なにかえらく綺麗な物を見た気がするんだが、なんだ、詳細に思い出せない。この世のものではないような、幻想的な光景を目にして、遂に涅槃へとやってきたのかと感じたんだが。あたしの心が遂に耐え切れなくなって、何か幻惑的な光景を映し出していただけかもしれませんね。とかく、あの竹林には一切近寄らないほうが良い。よしんば本当に優秀な薬師があの永遠亭にいたとしたって、人を治療するのなぞ単なる気紛れの、化物に違いないさ。
 これが、あたしが体験した永遠亭の恐怖談です」

「あの日は、確か適当にぶらぶらと、良い記事のネタでも落ちてないものかと宛もなく彷徨っていたんですっけね。
 お天道様が西へ沈み始めた頃、迷いの竹林の近くで朴訥な、年の頃は三〇も半ばを過ぎた頃でしょうか、男の人を見つけたんです。
 その人は、あの永遠亭の性悪兎、何故かあいつに連れられて、竹林へと足を踏み入れていきました。
 こりゃあまた悪戯兎が何かだまくらかそうとしてるな、って思って、後を付けてみることにしたんです。
 竹林の中へ入ると、西日も余り届かず、かなり鬱蒼とした印象を受けました。まあ流石に、私もほら、天狗ですからね。相手を見失わない程度の視力は持っていますよ。
 四半刻くらい進んだ所で、兎と男が向かう先に一つの影が見えました。あの、八目鰻屋の店主ですよ。そういえば最近行ってないなあ。時折日本酒の燗した奴と、食べたくなるんですよねあの鰻。噛むとじゅわっと脂が出て、とろけるような味わいと熱燗がまた合うんですよこれが。今度一緒にどうですか? ……よし決まり。暇を見てまた伺いますよ。っと、どこまで話しましたっけね。ああそう、その店主が先に見えたんです。
 見えたと同時に、兎がふらっと横へ躰を動かして、男は其れに気付かぬ様子で店主の後を追っかけ始めちまいました。
 私は男を追いかけ続けて、兎の横を通りすがる時、奴さんがさぞ面白そうに含み笑いをしていたのを覚えています。全く、あの兎は本当に生産性のない悪戯をするものですね。
 男は、店主に対して何か話しかけたようでした。すると店主はわっと驚かすような真似をして、本気で食っちまおうとかそんな気はないと思いますけどね。だってそんな事をしたら霊夢さん、あんたにまた懲らしめられちまうでしょう。店主も多分、ちとした悪戯心が沸いてしまっただけだと思いますよ。まさかあんな可愛らしい店主さんの姿で脅かしたって、そこまで吃驚なんてしないと考えるだろうし、それに男が狂乱してその場から逃げ出しちまった後、しまったなと言った様な、苦い顔をしていましたから。だから、ね、せめて説教くらいにしておやんなさい。
 で、男がわあわあ言いながら駆け始めたもんだから、私も慌てて後を追いかけました。彼がいきなり転んで足を止めるもんだから、思わず竹にぶつかっちまって、がさりと音を立てた時には冷や汗をかきました。別に私の存在がばれても、何も問題は無いんですがね、恐慌を来している人に近づくのも、まあなんか怖いじゃないですか。
 男が息を整えて、その視線の先には永遠亭の兎共がわらわらと、姫様、姫様って声が聞こえたんで、多分あそこの姫君がまた抜けだして、其れを探してたんでしょう。でも男がぎくりと身を強張らせて、兎が篝火持って連なって歩いてたら、まあ知らん人から見ると確かにちっと恐ろしい光景でしょうねえ。私はその対比が面白くって、一寸噴き出しそうになりましたけど。
 兎達がすっかり行っちまった後、男がまた歩き始めて、それが上手いこと永遠亭の方へと。あの迷いの竹林を、遂に自力で永遠亭に辿り着いたんだから大したもんだ。永遠亭の看板を見た時、多分ほっとした表情を浮かべてたんじゃないでしょうかね。私は後ろを付けてたから、見えませんでしたけど。
 奴さん御免下さいと声を掛けた後、返事が無いもんだからずんずん奥へと進んでいって。流石に邸内を付けて回ったらばれてしまうかなと私は思ったので、ぐるりと外を回って、外庭の方から廊下を望める位置に、月を背中にして翔んでいました。
 予想通り男が廊下の奥の方からふらふらやってきまして、そこを右にちょいと行った所から、光が漏れ出ていたので、そこへ行くだろうなと見守っていたのですが。余りに綺麗な満月だったからか、奴さんが視線をついと私の方へ向けてしまったのです。
 慌てて躰を逸らせて、闇に身を隠しましたが、ばれてしまっただろうなあ。最も、相当に神経すり減らしていた様子だったので、気にも留められなかったみたいでしたけど。
 さてさて、そこから男は光の漏れている襖をばっと開けて、次の瞬間にはうわあああってね、凄い叫び声上げて一目散に逃げ出しました。ほう、そんなにあそこには恐ろしいものが有ったのかと興味をそそられましてね。ひょいと中を覗いてみたんです。
 そうしたらどうということもない。兎達が五匹、慌てた様子で人参を隠そうとしている所でした。大方、姫君の捜索をさぼって、美味しく人参でも頂いていたんでしょう。男はなんでしょうね、人でも喰らっていると思ったのかしらん。それはもう精神薄弱の様子でしたからさもありなん、でしょうか。
 兎達はもうどうでもいい。さて男は何処へ行ったかなとふらふら探しておりますと、姫君と竹林に住む案内役、彼女らがまあまた飽きもせずに殺し合いをしている真っ最中でした。しかし、弾幕戦ってのは随分と宵闇に映えるもんですね。ここ幻想郷の中でも、かなりの上位に入るくらい、綺麗な光景でした。
 風情を感じながら弾幕戦に一時見入っていたのですが、下の方からぎゃあ、とか、ひい、とかの声が聞こえて来ましてね。あの男が走りながら、哀れ弾が飛び交う危険地帯へと。
 あっという間も無く、彼は弾に打たれてぶっ倒れ。姫君と道案内がバツの悪そうな顔で生死を確かめに行ったのを覚えています。
(おい輝夜、お前の弾が当たって倒れちまったぞ)
(いや私じゃなくって妹紅、貴女の弾が当たったのでしょうに)
(私の弾が当たったのなら、もっと轟々燃えているはずさ。興が削がれた。お前の責任なんだから、始末付けておけよ)
(なんですって! 元を辿れば貴女が攻撃を仕掛けて来るからこうなって!)
(なんだとこの野郎、続きをおっ始めるか)
(上等よ、掛ってきなさい――)
 あの二人はどうして怪我人を放っておいてまた殺し合いを始めようとするんでしょうかねえ。流石にこのまま死なれたんじゃ後味が悪い。二人には殺し合いを続けて貰って、私が彼を外へ連れ出す事になっちまいましたよ。
 と言っても男の家も分からなし、竹林の外へ寝かしておいて、帰ってきちゃったんですけどね。ああ、大丈夫ですよ。神経衰弱も祟って、軽い衝撃で失神しているだけのようでしたから、心配いりませんって。
 とかく、見世物としては結構面白いもんでしたよ。良い暇潰しになりました。記事には、どうにも使えそうに無いですが。
 これが、私が体験した永遠亭の滑稽談です」
三作目です。ちょっとした実験作と言うか、趣向を凝らしてみた塩梅です。如何でしょうか。
常浦
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.350簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
雰囲気よかった
8.90名前が無い程度の能力削除
幽霊の正体見たり枯れ尾花
真実なんて実にバカらしいもんで
文の言うとおりですな、本人の必死さと文の愉快な喋りの対比で面白くなってる
9.90名前が無い程度の能力削除
インタビューに応えているようでもあり、宴席で語られる四方山話のようでもあり。
昔話か落語か、そういうのの原型のように感じられました。
12.80奇声を発する程度の能力削除
良い雰囲気のお話でした
13.803削除
立場、見る者が違えば同じ話もまったく異なるものになる、と。
なかなか意欲作だったと思いますよ。