Coolier - 新生・東方創想話

悟りでんぱ伝搬中

2013/03/15 18:37:09
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 ごうつくじじいが死んだらしい。遠い、親戚だった。
 知らせは、秋も深まり、とある女がけしかけてきて、開口一番のそれだった。
 その知らせを不幸な訃報と受けとるべきか、景気の良い吉報と受けとるべきかオレは戸惑った。日頃の関わり合いは無く、また普段から縁故としての行事にも参加しない不作法者なオレがその知らせを聞いたからどうしたっていう気分だった。まあそれでも陰に日向に人の噂って言うのは華やいでいたりするものだから、「そのじじいが地主として人里に君臨し、強欲なほどに蓄えを持っていて悪い噂も絶えない」っていう情報ぐらいは持っていた。
 その情報からすれば吉報なのだろう。だが親しい間柄でもないオレが人の死に対して喜ぶべきかと言われると、道徳心というか自分の不徳の致すところ、つまり普段の所縁の遠さが喜びを自粛させるのだった。要は、オレはその知らせに対して喜びもしなければ悲しみもできないということだった。
「冷たいヤツよねえ、コウ、あんたも」
 どうやら戸惑いが顔に出ていたらしい。呆れたようにため息をつく。
「お前も悲しいわ泣き喚くわ、といった風でもないだろ」
「そらそうよ。あのクソじじいが死んでくれたおかげでせいせいしてるんだから」
 不謹慎なほどに快活な笑みを浮かべて言う。それはまったく、少しでも悲しさに振れた感情が悪いことをしていると思わせるようなものだった。
「で、何のようだ」
「相変わらずつれないわね。私としちゃ、酒の肴のつもりだったんだけど?」
 すでに酔いもほろろ、の顔して何を言っているんだろうか。
「まあ、じゃあ上がれよ。訃報にしろ、肴にしろ、軒先で話すことでもないんだろ」「ツマミある?」「塩のみだ」「しけてるー」「湿気てない」「うわつまんないー」
 ケラけらケラ。酩酊独特の、軽妙な笑い。少し苛立って人差し指でおでこを突いてやる。いたい、と額を両手で押さえて涙目で、女。
「痛くない。何の用だ」。だいいち神職のお前が人死にを喜んでどうする、と説教をかましてやると殊更に不満顔をする。
「いいじゃない、私だって人の子よ」
「どんなに可愛い顔したって、性格の悪さは隠せんな」
「もう可愛いって年じゃないんだけど」
 無駄に年喰ったオレにとっちゃ似たようなものだ、と言うと納得いったような顔をする。さすがの親戚の多さってヤツね、と言う。
 いい加減にオレも酔いどれに絡まれているということに気づいた。
「おい何の用だ、聞くのも三回目だぞ。いい加減用向きを話せよ」
「いいじゃんコウ。ニートって、人の声が懐かしいんじゃなくて?」
「隠遁と言って欲しいな。自給自足しているんだから。どこぞの為体とは違う」
 ま、どっちでもいいわ、とようやく飽きたように女が一息つく。片手に提げていた一升瓶の注ぎ口を煽るように口元へ傾ける。ダメだ、完全に酔っぱらいだ。
「用っていうのはごうつく張りじじいの大いなる資産分けよ」
「大いなる? 資産分け? ちょっと待てよ。噂に聞くだけだったが、どんだけ強欲だったんだよ」
「そうねえ、私にも貰えるぐらいだもの」
 そう言って、先の一升瓶を掲げて見せる。それは資産とは違うんじゃないか、と思ったがまあ女の性格からして下手な資産や名声よりもこういう形の娯楽が良いのだろう。今は酔っぱらいの親父のようだが、普段の行いに関して言えば優秀で真面目なヤツだ。
「親戚と言ってもな。血の繋がりならハトコよりも遠いし、お前のように交流があったわけでもないしな」
「即物的なのと、価値の高いもの、アンティーク、土地、商売組織その他は、近しい親戚同士の泥を喰うような争いの元、分配されたわ」
 泥食い。夫婦喧嘩は犬も食わないを親戚に変えた言い方だろうか。
「吐き捨てるように言うよな」
「見聞きしたしね。吐き気がするわよ。こいつら死なないかなーと思ったわ」
「厄介事に首を突っ込むからだ」
「突っ込んだ訳じゃないけどね。まあそれについては今に分かるわ。で、資産ってのはこれ」
「これって、おいおい……」
 女の体の影から出てくるように、一人の少女がいた。背丈から見て年長をようやく過ぎたところか。いやもうちょっと年が上かもしれないが、それは幼いという形容にまるまる収まる見た目だった。無表情なのか、眠いのか、視線はどこにも焦点が合っていないように浮ついている。
「あのじじい、人身売買にまで手を染めてたのか」
「違うわよ。この子は妖怪なの。妖怪サトリ」
「妖怪だって? お前が?」
 妖怪退治が本業の癖に、と口を挟む前に女が続ける。
「そうなのよねー。まあ本当は資産分けと称してこいつが献上というか奉納というか、扱いに困ったのであげますみたいな感じで預けようとしてきて――『んなの私も困る』、…………えーと……、って思ったんだけど先方も迷惑してたって言うしお代がわりにお酒貰ったし、みたいな?」
「なんだ今の」 
 んなの私も困る、という発言は女のものではなかった。本当に唐突に、妖怪と呼ばれた少女が発したものだった。
「『あー喋っちゃった。まあ説明しなくても良くなるからいっか』」
「口を動かさなくて良いから、手間が省けるわね」
「ちょっと待て、なんだこいつ」
「言ったでしょ。妖怪だって」
「『サトリ。人の心を読む妖怪。理由があってじじいの居宅に転がり込んでたんだけれど、件の通り死にくさって泥喰い親戚の資産対象に』」
 声真似をしているわけじゃないから、どちらが声を発しているのかは区別がはっきりとつく。
 ただ、その内容は人が説明して聞かせるような口調であって、説明対象が喋るものではない内容なのは明白だった。
「『まあじじいからすれば、死期が近付く程に、近付いてくる自称親近者への嫌味な対策だったのかもね。実際、こいつがそいつらの心を読んで声に出したものだから撃退効果は抜群だったみたいだし。まあ死んでからも次々に心を読んで声に出してを繰り返して、ゲスな権謀術数とか心の中の悪態とかの悪口三昧を吐露したものだから親戚同士、荒れるわ荒れるわ』」
「いや楽だわー」
 女はあっけらかんとしているが、目の前の妖怪サトリの話している内容は胃がもたれるような話だったし、本当に人の心を読んで喋っているならそれはとてつもなく厄介な話しに他ならないのだ。
「まあこいつの言ってることが本当なら、お前のところに連れてこられたときも嘘も無かったんだろうな」
「『それどころかお世辞や普段私をどんな風に考えてるかまで教えてくれたからね。聞いててカンに障るものがあったけど、あいつら泣いて土下座する勢いで懇願するんだもの。ごめんなさい、お願いしますくそばばあ。あ、いやすいません。なんでこの俺が頭を下げなければならん、いえ、本当に申し訳ないですってね。聞いてて笑い死にそうだったわ』」
「自業自得だろ」
「えー。どっちが。私? あいつら?」 
「どっちもだよ。まあこいつが心を読んでるのは間違いないみたいだな。それに順応するお前もお前だが」
「慣れれば面白いわよ。さあ、サトリちゃん。今からここでお世話になるの、思考を口に出すのはあっちになさい」
 どうやら心を読むことと、口に出すことは別らしい。
 サトリと呼ばれた妖怪は初めて視線をこちらに向けて、焦点を合わせたように見つめてきた。顔は相変わらず無表情で何を考えているのか分からなかった。横顔もそうだが、真正面から見ると本当に少し体の線が細いガキのような小さい顔だった。ただ――、
「『吸い込まれるような瞳だな』」
「………うお」
「『驚いた。心を読む、というのは本当だな』」 
 考えていたことが、妖怪である彼女の口から発せられた。自分の手から思考が漏れているような、奇妙な感覚だった。
「あら、早速。サトリちゃん、きっとそれは誉め言葉よ、よかったねー」嬉しそうに、サトリに肩に手を置いて女が言う。
「どこがだ。気持ち悪がったんだよ。オレはそこらの凡夫と変わらない、ただの人間だよ」
「そうかしら」
「そうだよ、強いて言えば親戚が多いってだけだな。それもこんな人里とも離れれば、意味のない特徴だしな」 
「ふーん」
 興味なさそうに相槌をうつ。女はしばらく考えていた。
「『何を考えてるのか知らんが、受けとれんぞ』」
「つれないわね」
「『気持ち悪いものを寄越すな。面倒見切れん』」
「悲しいこと言わないの。こっちとしても人里にこれ以上妖怪を置いておきたくないという立場があるの、分かる?」
 オレの考えを喋っているサトリに対して、サトリに言うように答える女。オレを無視して会話をしているようで、オレの考えそのものはサトリが持っている。目の前の光景はなんだかオレの考えだけ奪われて、オレという存在を無視されているような気分だった。
「よーし。ま、こいつのこの能力を悪いものだと考えるのだったら、それ以外のセールスポイントで押し出すべきよね」
「『どうしてもここに置いていきたいらしいな』」
「そうよー。あ、そうだ。ふふん、とびっきりの良い情報を教えてあげるわ」
 何となく嫌な予感がした。人のことを性欲者と悪い方向に決めつけているような不快感が頭をよぎったのだ。その思考はサトリの口から言葉となって飛び出る。
「『オレには少女趣味はないぞ』」
「ち、ばれた。何でかしらね。サトリの能力の一部かしら。まあいいわ。良い情報って言うのはこれよ!」 
 サトリの、スカートが、豪快に、めくりあがる。
「実はこの子ドロワーズなの!」
「『カボチャぱんつ!』」
「何してんだ!」 
「カボチャぱんつって、言い方古くない?」
「『古くねえ』」
「他人のスカートまくり上げてしたり顔で言うことじゃないだろうが。というかサトリは黙ってろ」
「いいじゃないコウ。頭の中身は恥ずかしいことじゃないのよ?」
「『屈辱もごもご』」
「と言うか何でこいつは恥ずかしがりもしないでおっぴろげのまんまなんだよ!」
「はいサトリちゃん、お手々に持ってましょうね」
「あ、おい待て」 
 オレはサトリの口に手をやって、女の手からスカートの端が離れて、代わりにサトリがつまんで保ち、女の体がオレ達から離れる。踵を返して足早に去っていった。素早い去り様だった。もう姿が見えない。
「『もご(くっそ)。ああーもうどうすんだこれ』」
「……オレが言いたいんだよ、それ」
 ふと、オレはハタから見たらどういう風に見えるかを考えてみた。
 オレの手はサトリの口元に押さえるように、サトリはスカートの端をつまんで、あられもなく下着が見えている。
「『まるでオレが脅して折檻してるみたいじゃねえか!』」
「うわ叫ぶな。ああ違う、オレが焦るなって事なのか?」
「『性的に! 性的に!』」
「そうだな! 恥ずかしすぎて二の句が継げないところまで読んで喋ってるんだな!」
 今なら男泣きが出来る気がした。いいやすでに視界は涙目だった。間違いない。
 慌てて軒先から引っ込む。人の目が届かないと感じると粟立つような焦りは収まった。サトリにつまむのを止めるように言うと、何ともないような顔のまま簡単に離すのだ。
「『なんだか馬鹿にされてる気がする』」
「オレが、されてるんだよな」
「……」
 話しかけても返事は返ってこなかった。先の巫女の会話でもそうだったが、言葉の一切にこいつ自身の主語が全くなかった。鳥のオウムのようなものなのだろうか、と考えた。あれは正確には言葉の意味は持たないと考えられている。こいつがどこまで言語に対する理解があるのかは分からないが、近いものだろう。何はともあれ、これがこの妖怪のコミュニケート手段なのだろう。
 喉が渇いた。どたばたと慌ただしかったが客人が訪ねてきたようなものだ。茶でも出そうと考えた。
「『少し火勢が弱いな』」
 その声に振り返って見れば確かに火の勢いが弱まっていた。火箸で炭を転がしたが、燃え尽きた部分が多くなっていた。頭が灰に刺さって埋もれている十能を引っ張り出し、予備の炭を追加する。燃えやすいよう、予め強い火で炙っておいた。パチ・パチ・パチと不規則に音を立てて火を立てる炭。囲炉裏の火に水をしたためた鉄瓶を下げる。しばらくもしない内に、鉄瓶の口から湯気が立つだろう。オレはそれを待ってくつろぐように座る。サトリはその間、何をするでもなくずっと立っていた。座れよ、と座布団を用意すると素直に座った。遠慮していたのだろうか。いいや、問いかけたところで答えまい。
「しっかし――」
「『嫌な土産物だよなあ』」
「……」
「『言われた。言われたお前は悲しくならないのかよ。相変わらずなんと言えばいいか分からんが変な感覚だな』」
「ハハハ。オレがオレに悲しいかだって?」
 オレとサトリのこの会話は会話と呼ぶべきなんだろうか、と考える。オレの思考を読んでそれを口にする。オレの頭の中で構築した言葉を、オレが言葉に出すか出さないか、オレが口にするより早いか遅いか。サトリの言葉はその違いでしかない。全てはオレの独り言なのだ。
「『頭の中が外に出て行って気ままにしゃべり出しているような気分だ』」
「そうだな」
 オレの言葉に頷くオレ。これを滑稽だと思うべ気なのだろうか。オレはそこまで達観した気分にはなれない。
 しゅ~ぅ。鉄瓶が熱されて、水蒸気が口元から勢いよく吹き出していた。取っ手に巻いた藤に触れると思った以上に熱くなっていた。厚手のミトンがどこかにあるはずだが、外して火にかかっていない五徳に移すだけだ。そう思い、藤を握って持ちあげる。手のひらに急激に熱さが伝搬してきたが、慌てないようにしながら動かす。ごとん、と鉄瓶が五徳の台座に座り込み、重みで足が少し灰に沈む。鉄瓶の体が揺れて、中の熱湯の騒ぎ立てるのを伝えるように水蒸気がしゅ、しゅん、しゅ~と不規則に音を立てる。
 オレは茶葉を入れた急須に湯気だったお湯を少し移す。
「『冬が近いから、外にほっぽり出すのも酷な話だ』」
「そうだな……。ん?」
 違和感を覚えたが、久し振りに二つ目の湯飲み茶碗を引っ張り出してきたのもあってオレはほんの少し楽しい気分になった。隠遁生活では二つ目のそれなんて、予備用以外に必要だと思っていなかったのだ。一度、内側を熱湯で洗い流す。灰に流すとその部分だけ黒く濡れる。
「『人の心を話す。それは自分の意識を外に写しているような錯覚をさせる』」
「………」
 これは、オレの考えた事じゃない。何だ、今更自分語りでも始めたのだろうか。その割にはやはり自分を説明するような語彙ではない。
「『じじいは副脳と呼び表していた。自分の心が内と外で一つずつ。こいつがいれば寂しさも紛れる、とも』」
「じじい、ね」 
 サトリは視線をオレではなく、戸口の方へ向かっていた。オレは違和感の正体に合点がいった。この言葉や知識はオレには無いものだ。サトリは今、オレの思考を言って聞かせているわけではない。そして同時に自分の事を喋ってるわけでもない。
「『全く……。余計なお世話だ』」
 これはオレの考えた言葉だ。サトリの視線はオレへと、また戻っている。オレは立ち上がり戸口を思い切りがらりと開く。サトリは誰の心を読んだか。
「おい、お前も茶飲んでけよ」
 少し日陰が濃くなっている藪に向かって大きな声で話しかける。そろそろ夕闇だ。秋分を過ぎれば日が落ちる時間はずっと早くなる。
「『ん? あらっ、ばれた。あの子、私の思考読んだのね』」
 がさがさ、と足早に気配が遠ざかる。どこか恥ずかしさを感じさせる慌ただしさ、足取り。サトリは続けて、
「『全く、人に押しつけるときはしたり顔で唯我独尊を謳う癖に。実際は心配性のお世話焼きだ。顔に似合わんな』」
「そうだな。その通りだ」
 オレの内心を言い当てられているという苦い気持ちと、オレの中の優しく感じる気持ちを言い表してくれる。それは確かに対話と呼ぶにはあまりにも独りよがりな会話だ。だけど笑えてくる。滑稽だという感覚が分かった気がする。
 これが自嘲というものなんだな。








 冬も峠を越えて厳しい寒さも和らいできた。サトリはまだオレの家に居着いている。二人で囲炉裏の火を囲って、しこたま貯めておいた炭をくべている。立ち上る煙もそぞろに鉄瓶をなでていく。しゅんしゅう。火に熱せられた鉄瓶が白い息を吐き出しながら喘いでいる。
「『夕飯は何にしようかな。そろそろ魚が釣れるか』」
 サトリは相変わらずオレの思考を呼んで話すだけで自分の言葉を喋らない。オレの意識はダダ漏れでこっぱずかしい思いもあったが、そういう光景にも慣れた。オレは釣り道具を用意する。二つ。先がよくしなる竹竿に糸をはわせた簡素なものだ。「『ここにはオレとサトリ以外の人間は滅多に来ない。人に聞かせたくない心の内側も、外側に人がいなければ要らぬ心配なのだ。
 そして困ったことにサトリには存在感がない。というのも、サトリの言葉はオレの意識そのものを口に出しているせいだ。オレの意識に一切の抵抗のない言葉というのがこれほど意識の上で分別できないとは思わなかった。オレにも耳と目という外部の情報を知ることのできる器官があって区別できると自負していたつもりだったが、甘かったな。確かに触ることも見ることもできるし、喋れば聞こえる。
 だが、それがどうしたと言うんだ? 
 いいや、これは少し前のオレに当てつけた言葉だ。逆を言えばそれは、触ったり見たり聞いたりしなければ人は外部と自分を区別できないということだ。だが実はそれも違う。
 意識が持っていたと思っていた枠。それは血の流れる先まで、神経の行き届く先まで。それは生物由来の限界の意識領域だ。だが意識自体はいくらでも拡張できる。それをサトリは体現しているのだ。サトリがいる生活というのに慣れた後はサトリは特に自然になった。オレの所作や思考の仕方を覚えてサトリが完全に合わせてきた、ということなのだろう。オレがサトリを認識するための外部としてのノイズは――それこそ単純に生きるということの些細な障害、邪魔だとしても――なくなり、そうするとオレはサトリをオレと区別することをしなくなっていった。オレはサトリという肉体を別にする器官を持っている、とそんな感覚すら当然のように思える。最近はこうして改めて考えることすら無駄に思える。当然だと考えていることを、改めて認識し直すのは人間は実はとても不得意だ。例えば1+1は、と聞かれて2だと答えるのは当然だ。そう習わされるから。では1+1=2だというのはどういった定義で求められるのだろうか。1と2の違いを、自然数上で、1の次は2だからという前提の知識を除外して説明しなければならない難しさといったらないだろう。
 オレは改めて考え直さなければならない。オレ足すサトリとは(オレ+サトリ=)いったい何なのか。もしかしたら意識としての答えは単一のオレとそう変わりないのかもしれない。それでは今まで習ってきたオレの中の算学の全てを崩してしまう気がする。いやいやオレが崩れたときもしかしたらサトリの意識もも一緒に崩れるのかもしれない。それはいくら何でもあんまりだろう。まさかこのままサトリを0だと言い切ってしまうわけにもいくまい。そういう意味でもオレは考えなければならないのだ。
 意識は算学では求められないのか。
 前提が間違っているのか。
 あの巫女は何のためにこいつをオレに寄越したのだろう。まさかこんなことをオレに教唆するために?』」
「はい、お疲れ」
 オレはある意味淡々と語り続けるサトリに湯呑みを渡す。サトリの言ったことは全てオレの考えたことだ。一切の間違いがない。むしろ意識の中にあった言葉上で不明瞭だった部分すら言葉に仕上げて見せた。これがまたオレの考えにピタリと当てはまってくる。
「『花丸をあげたい気分だ』」
「まあ飲め」 
 サトリは素直にお茶をすすり始める。ちょびちょびと、慎ましやかな飲み方で熱さを舌の上で感じるようだった。サトリの感覚はオレには伝わらない。だがサトリが喋りたおした内容の通り、オレはサトリの感覚すらも伝わっているような気になることすらある。
 サトリを外部と認識しづらくなってきたのは本当だ。だからこうやってオレはわざと他人の様に振る舞って話しかける必要がある。それすらも苦痛だと感じる時がある。そうなっているときほどオレはサトリのことを忘れているのだ。オレは独り言を延々と語るほど酔狂な人間じゃない。頭の中でだってそうだ。
「『本当に、あいつの意図がわからん』」
「いいから飲めって。温まったら、夕飯釣りに行くぞ」
 なにはともあれ、夕飯だ。
 釣り竿に、魚を入れる籠、首にマフラーと厚めの雪駄を履かせて近くの川まで歩く。不器用な出来ではあるが、これらはお手製だった。サトリはどうやら人間的な速度では成長しないようだ。オレとは体格差もあるから予備ではきかない。特にオレ自身、寒さに強いのもあって防寒具は最小限で良かったのが災いした。全部作らなければならない。おかげで厳冬の時分には軽い霜焼けと相まって手にはマフラーを作るときに作った傷が痛んだ。マフラーで懲りた、というわけではないが、替えの服などは押しつけてきた女をせっついたり人里までおりて買いに行った。おかげで立派な親子ね、と揶揄されたのは言うまでもない。
 春風、というにはまだまだ冷たさに背筋が凍るような寒さが残るが、耐えきれないほどではなかった。途中、ふきのとうが芽を出しているのを見かけたので摘んでおいた。春を始めるのにはこの苦みが良い。
 オレ達は川のへりに到着してのんびりと準備をして、腰掛け代わりの小岩を簡単に乾かしてゴザを敷いて座り込んで、釣り糸を垂らす。二人分。
 水の側だから余計に寒く感じるが、日光が群れる葉影から差し込んで暖かい位置取りだ。オレ達は(特にオレは)川が流れるに任せてぼんやりと水面を見続けていた。長い時間も水面の揺れる、その変わり様を見続けていれば気にならなかった。
「『光を受け止め反射する面をてろてろと変えて魅せるのだ、何とも無しに一時間も簡単に過ぎよう。』」
「ああ」
「『かと言って魚が釣れないでは話にならん』」
「ああ」
「『………・釣れるかな?』」
 まあ率先して釣れるようなギミックも、魚が群生するポイントも考えずに糸を落としているのだ。魚の陰が見え次第、その方向に向かって竿先を動かしていれば魚釣りとしては愚策だろう。長い時間を耐えるだけが唯一の方策だ。
 オレは一旦、糸を手繰り寄せる。水面から先が出てくると、きらりと光を反射して針だけなのが分かった。いつの間にか餌は食い取られていたようだ。
「………」
「『………』」
 餌をつける。
 手製の抜けにくいように曲がりを加えた針にくちりと縫い付けて。
 また川に釣り糸の先を放り投げる。
 つい、とまた動かす。
「………」
 これらをオレが全く意識せずにサトリは行った。オレは傍目で見ていただけだった。糸が絡まるんじゃないか、と危惧すると自然と竿が離れていく。魚影が見えると二つの竿先が少しずつ囲むように動く。
 オレは教えてすらいない、そう、釣りという行動すらも。オレの心は読めるだろう。しかし、この行動は何なのだろう。あまりにもオレの思い通りに動かせるということの違和感の無さ。心を読めるというのはどういうことなのだろう、とオレは再考する。サトリの目はこちらを向いていた。丁度良いとオレは思った。考えている内容の曖昧な部分ごと「『引っ張り出してみよう。
 そもそも心が読めるという、その心とは一体人間のどの状態を言うんだろうか。思考とか、感情とか、雑念とか。ありとあらゆる考え事が人間の中にはある。それが人間のどの部分から発露されるか、というのは考えないでおこう。
 考えるべきは――まったく、人間の思考というのは同じことを繰り返して言うくせがある――サトリが心を読む、というのはどういう状態のどういう情報を抜き取っているかだ。
 そもそも人間には、いいや心理と呼ばれる論理動作は全てが言葉でもって完結できるものではない。これはオレの持論。人間は、人間の作った言葉という論理の為の説明手段で補いきれない。これは構築された論理の不適切さと言葉の不完全さが原因だ。人の持つ思考は主観の揺れに常に左右されているから、この揺れを言葉では表現しきれないという方が正しいだろう。揺れというのは感情であったり、外部の変異だったりだ。だから人間の思考と言葉というのは厳密には全く別の体系で成り立つものだ。それをサトリが読むというのは、つまりサトリは文字を読むように人の心を受けとっているとは考えない方が良いだろう。では感覚的な情報か、というとこればっかりはオレには想像できないのだ。
 いいや、むしろ恐れていると言っていいな。
 言葉という技術は人間が高次な論理を構築しえる為のものだ。生まれながらに人間は言葉を持たない。感情のみの動物。感情のみ、それは生きるために正直にならなければ生きることが予断無い社会。言葉による人間同士の、情報のやりとりの高度化によって社会は複雑さ煩雑さを許容できるようになる。
 ふむん、言葉の不完全さは不便さとは相関を生まないかもしれないな。多分、人間が生きやすい方法にとって必要なのは、言葉の正確さではなくて、言葉の中の情報の緻密さなのだろう。勿論、緻密さの中にもある程度の正確さは必要だろうが、やはり言葉単位の意味情報の多さが鍵となる気がするな。
 脱線した。
 逆を言えば、人間が言葉によって思考を獲得したが逆を言えば人間はそれのみでしか高次な論理を想像することができない。感覚的な論理とは何だ、と考えると途端にオレは霧の中に手を突っ込んだような感覚になる。何を触っているかも触れているのかも分からない。手のひらの感覚がない状態で、見えない霧の奥でその感覚を覆しているような状態だ。指先には何かに触れていると分かってしまう癖に、手のひらの感覚があるはずがないと決めつけて混乱するのだ。
 それが怖さの根本。情報の曖昧さ、未知、不可思議』」
「お前は、どんな風にオレの心が見えて、聞こえて、触って、読んでいるんだろうな」
 サトリは答えない。サトリは言葉を持たないのかもしれない。そうやって改めて、オレはサトリが人間ではないということを自覚するのだ。妖怪という人間とは種族を異にする生き物。こいつにはこいつの種族の社会はあるんだろうか。いいやもっと言えば兄弟がいるんだろうか。
 その思考はサトリの言葉、オレの思考の中で溶けて見えなくなっていく。
 言葉はオレの心の中で煩雑に生まれて、並べて、比べて、声の小さいものから霞んでいく。
 サトリがオレの心の中で生まれた言葉を取捨選択して、選ばれた言葉に対して、オレの横道に逸れたサトリへの配慮がかき消されていく。
「『サトリはオレの中にある言葉に依らない形の思考を読み取っている、と考えるべきだろう。言葉に依らない形、そういう思考の情報をサトリは何らかの受容器官でもって採取しているんだろう。その中でサトリは言葉に成形して、表現の一つとして発声しているんだろう。思考を読む器官は、こいつの目かな。相変わらず吸い込まれるような瞳だ。そうと考えればただの目のように見えて、中々奇怪な感じがするな。
 ――表現の一つだって? うん、オレはなんて考えた? 大事なことだ、表現の一つだ?』」
 表現というのは、いいや、取捨選択というのは主観でもって発生する行動だ。つまりはサトリは何らかの主体性でもって言葉を表現をしている。オレの複数の思考から、選択されそれを発声している。
「『それは本当にサトリの主観か? ただオレの中で最も表現意思の強いものを言葉にしているだけじゃないのか?』」
「言われた。その考えはすぐに至ったんだけどな」
「『それを否定するには材料が足りない。いいや、それを否定する裏付けに思い当たる節はあるんだ。それをオレの中で言葉に出来ない。言葉を用いずに考えるサトリ。サトリなら分かるか?』」
「オレは、答えを突きつける相手に聞いてどうしたいんだよ」
 そう独りごちてオレはサトリを他人扱いしていないことに気づく。独り言で会話していることに違和感を覚えない。居心地の良すぎる他人は他人じゃなくて、自分の一部だ。他人への配慮が消えるのだ。自分が意味もなく広がっていく感覚がある。どこまでが自分で、どこからが他人なのか、それが分からない。これはまるで病気のようだ。
 釣り竿は結局一度も魚に食い付かれてしなることはなかったが、それでも退屈そうな顔もせずにひたすらオレと同じようにのんびりと釣りをしている。たまに口を開けばオレが適当に考えていたことを喋るだけだ。日も沈み始める前にオレは、オレ達は帰途につく。
 オレはオレであることに自信がなくなっているのだ。








 鉄瓶の上蓋が盛大に落ちる音がした。
 ちくり、と錆びた良心が痛んだ気がした。
 サトリはこの気持ちを読んでどう思っただろうか?









 オレはこれ以上サトリと自分自身の区別がつけられなくなることを恐れてとある実験を試みることにした。
 サトリの思考を読み取る動作は結局目を対象に合わせているのは恐らく正しい。これについて恐らく、という表現なのは実際に試してもオレの心は筒抜けだと思ったからだ。ただある程度正しいと思ったのは、サトリのその動作に未来予知に近い言葉が出てこなかったからだ。
 サトリの未来予知、というのは過去にこういった会話が成されたからだ。
 少し火勢が弱いな、とサトリは言った。
 オレはその言葉が発せられるまで火元を注視していなかった。つまり火の勢いが強いか弱いかという情報自体をオレは得ていない状態でサトリはその発言を行ったのだ。普通に考えればサトリ自身が火が弱いと判断したと考えられるがそれなりに付き合って、サトリが一度たりとも自分の考えを声に出して言ったことはない。となればこの現象については、
「『もしオレがそれについて見ていればそのように考えるだろうということ。そう考えた方がスマートだ』」
 つまりは思考のトレースだ。常にオレの思考の発生を見ている状態であれば、オレ自身が情報を受容しなくてもオレがそう言うだろうという発言を行えるのだ。そしてそれはオレが感じている以上に自然なのだ。これがオレの意識が拡大していると錯覚させて、サトリを自分の一部であると思わせてしまう原因でもあった。
 サトリはサトリ単体の目や耳等の受容器官でもって情報を摂取できる。ただサトリ自身はその情報についての判断元をオレに委ねているのだ。だからこそハタから見たオレは、「オレがその情報を得たらそのように考え話すだろう」という未来に対しての状態になるのだ。それがオレにとって違和感ととって感じられないというのはサトリがやはりオレの思考方法や、情報の受け取り方を全て覚え知っているからということに他ならないのだろう。再認知、のような感覚がそれに近い。そう言えばそうだった、という程度の感覚なのだ。であれば、「『オレという判断元がいなければサトリはどのように判断するだろうか』」、ということに考えつくのはオレにとっては自然な流れだった。
「じゃあ行ってくるよ」
「『サトリはお留守番な。オレについてこない』」
 サトリはオレとの生活で完全に生活パターンを覚えていた。オレも普段意識したことが無かったが、独り身の生活というのは大きく生活スタイルが変わることなんて殆ど無いのだ。だからそれをずらしたのだ。サトリを家に置いて帰るべき時間に帰らない。目隠しをして、心を新しく読むことをさせず、そういう生活のサイクルを乱すことでどういう反応をするか。
 オレは無性にサトリに個性を求めていた。他人の様な会話と言うべきなのか、意見の衝突のようなものなのか。それはサトリ以外の誰かで埋め合わせできないものだった。オレはサトリとオレの意識の区別がつかなくなりつつある、ということを解消したいのだ。それにはサトリの個性が必要だった。いいや、あるにはあるのだろう。多様な思考の中で発声するという取捨選択を行っているという小さな個性。それは本当に個性なのか。
 夜更けだった。夏の夜は生ぬるい風と蝉や蛙のワンチャカした声でやかましい。普段であれば、オレはベッドにくるまってさっさと寝ているはずの時間。少し離れた位置で見る自分の家にはまだ灯りがともっていた。自分の家をコソコソと見ているというのも何か変な感じがする。
「というか、この程度の距離だったらサトリはこっちの心理が見えているんじゃないかな……」
 このところ、独り言がまったく多くなってしまった。オレは自分に話しかけているつもりでサトリに話しかけている癖がついている。
 目隠しをしたところでサトリは心を読む力は左右されないんじゃないか、と考えてしまうとこの実験はご破算だった。我ながら滑稽だと思いつつ、玄関先をひょいと覗く。
 そこにはほんの少し前のオレがいた。
 いいや、オレはそれをサトリと見なすことが出来なかった、という方が正しい。
 囲炉裏に勢いがたゆまぬように火がくべられ、熱せられた鉄瓶が水蒸気を吹いている。時折十能を手にして、灰の山を簡単にならしている。茶葉を急須に一つまみ分とおまけでもう一振り。鉄瓶の口元から泡となった滴が底へと伝わり、しゅう、と火に炙られる。勢いよく水蒸気と共に飛び出た滴は灰に、はたた、と雨の足跡のように黒ずむ。
 自分の自然な仕草は自分の目で見れない。それは自分を見る必要がないから。自分の外側が見れれば、おのずと自分がどこにいるか分かるように意識はできている。鏡も同じだ。自然な仕草は自分の視線に見られながら出来るものではない。目は常に必要なものを見るために動いている。
 必要なもの。そこに自分の姿なぞ無いのだ。
 だからこそ過去と今の自分を、意識は区別できない。オレはサトリを視界に納めて、その姿をサトリと認識することができないという感覚を味わうのだ。沸騰はピークに近付いているようで、鉄瓶が軽く横へ揺れ動くようになった。サトリは取っ手の藤を見る。五徳に置き直すのだ。
 オレは直感的に、違和感を覚えた。
 サトリは取っ手に手を伸ばす。沸騰するぐらいに熱せられた鉄瓶に熱の伝搬を和らげるために藤が巻かれている。火や熱さの扱いに慣れたオレであればほんの少しの間であれば――それこそ五徳に置き直す程度の時間――火傷にならない自信はあった。そう、オレは。気づいて、咄嗟に走り出したが遅かった。サトリは取っ手を重みに耐えるように握りしめた。しゅう、と小さな音がした気がする。中の水を沸騰させるぐらい熱を溜め込んだ鉄瓶はサトリの手を熱で焦がす。
 サトリは声をあげなかった。だが、苦悶に顔を歪ませて反射的に鉄瓶を放り出す。
 高い位置から放り出された鉄瓶は横倒しになって囲炉裏の灰に突っ込む。鉄瓶の端が五徳を蹴り上げ、上蓋は衝撃で浮かび上がる。沸騰した水は灰を叩き付けるように溢れ、火によってできあがった水蒸気と灰が舞い上がる。囲炉裏から体を起こすように躍り出た灰は覆い被さるようにサトリに襲いかかる。熱さを伴って。
 くあんくわんくわんくわんくわわわわわかかかかかかっかかかか――……………。
「大丈夫かっ?」
 土足のまま居間にあがり、サトリに駆け寄る。痛みに体を振るっていた。
 サトリは目を押さえていた。小さい手のひらから歯を食いしばり、むき出しにして痛みに耐える口元が見えた。
「目が見えないのか。冷やすぞ」
 目頭を押さえたサトリの手の表面は火傷で、カサブタをふやかしたようにぐずぐずになっていた。思い切り握ったせいだろう。オレはサトリへの申し訳ない気持ちでいっぱいだった。なぜ、こんなことをしようと思ったのだろう。
「そうだ、こっちの目は見えるか?」
 オレは慌てて目隠しをしていた方の布を取る。はらり、と取られた布の先に表れた目と目が合う。敵意を感じた。パン。瞬間、オレの体は強い力で押し出される。空間に亀裂が走ったような衝撃だった。それは声にならない慟哭だったのだろう。棚に背中から激突してオレは倒れ込んだ。肺が痺れたように呼吸を忘れさせ、熱い灰が入り込んだ気がした。背丈のある棚が上からぐらりと傾き、圧してくる。
 ほんの少し、気絶していたようだった。異臭で気がつき、体を起こそうとして動けないことに気づく。棚の下の方に入れておいた器具が足に食い込んで刺さっている。この痛みで気絶していたらしい。
「サトリ。サトリ、どこだ?」
 顔をどうにか上げると、サトリのほっそりした足が見えた。もう少し見上げるとサトリの覗き込んでいるように見下ろしている目と目があった。先ほどの敵意は見あたらなかった。ただ、サトリの後ろには目に見える火が見えていた。
 パチパチッ、パチ――。家が焼けている。巻き上がり囲炉裏を出た熱い灰、火種が辺り構わず焼き回ったのだろう。煙が充溢し始めている。倒れ臥しているせいもあって、息が苦しい。動けない。わかりきったことだ。オレは覚悟を決める。
「『サトリ、逃げろ』」
「オレは死なない。いいや、死んでも蘇る。お前は違う」
「『だから、逃げろ』」
 両目はまだ閉じられていて、涙と灰で顔はぐしゃぐしゃだった。だらりと下がった手。火傷のあとが痛々しい。
 唯一、皮肉にも目隠しをしていた目だけは無事だった。その目は相変わらずオレを見ている。
 じくじくと膝の裏辺りから血が流れている気がした。痛みが麻痺していたが、どうやらそこから止めどなく出血しているらしい。
「逃げるのはサトリ、お前なんだ。オレは逃げられない。でも安心しろ。オレはまた、お前の元に戻るから」
 少しずつ火の手はサトリの背中を焦がしている様な気がして、オレは急かす。
 罪悪感、という気持ちについてはよく分からなかったがこういう気持ちを言うんだろうか。
「『自分とサトリの区別がつかなくて不安になって、区別をするために突き放した結果がこれだ。長く、付き合いすぎたのかもしれない。サトリは自分で考えて行動することをしない。オレの真似ばかりだ。やっぱり意識は体の外へは行かないんだな。どんなにオレがそう思っていてもオレとサトリの体は別だ。サトリの体はどんなにオレの真似ができても幼い子供のようなものだ。そしてオレはオレの体を過信しすぎているんだ。』」
 サトリはオレの心の独白を読み取って言う。今のこの光景は、贖罪のための自白で、弾劾でもあるような気分だった。
「『オレはどんなに傷付いても治る体だ。火傷も痛みを伴ってもすぐに治る。そんなオレの体と柔いサトリの体が同じだって? そんなこと考えればすぐにわかることじゃないか。オレは、サトリにオレの真似をさせて喜んでいた。どんな人間関係の煩わしさもない自分がもう一人いるってのは、すこぶる気持ちいいもんだな。でもそれはサトリを他人として見てないのと同じだった』」
 嫌な予感が頭の中にひしめいていて、「『サトリが何で逃げないのか分からない』」でいた。
「サトリ」
 オレは声に出して何度でも言……っていたつもりだった。言っていない。サトリがオレの心を読んで口に出しただけだった。
 煙が熱さを伴ってきた。火の手が近い。構わずオレは息を吸って声を荒げる。
「逃げろ! サトリ。お前には、お前っ……『自分が死ぬって分からないのか?!』」
 体を揺すぶって這い出ようとするが動かない。膝の裏に刺さった何かは貫通していて引っかかっているのだ。動くたびに激痛が走る。
 サトリに苦悶の顔が走る。
「『何で逃げない!?』」
 その声はオレを叱咤するようだった。オレがサトリに向けたつもりの言葉はサトリがオレに向けて話しかけているようだった。それはオレの台詞だ、と言っている暇はなかった。自前の妖術を用意しようとするが、火の勢いを増すような類しかない。火の扱いに慣れている、という自負が完全に裏目に出ていた。オレは嫌な予感が火の勢いが増す事に、気づきつつはあった。だが声に出したくはなかった。いいや、脳裏にも出したくはなかった。言葉にも意識にも上らせない答え。オレは答えを出す前に体を動かすことを考えた。
「こっ、の……」
 構わず感覚が無くなってきた太ももを抱えるように引っ張ろうとした瞬間、……ぷ、ぴゅ、と小さな音がしていることに気づいた。
 次いで、小柄な体が崩れ落ちる音。
「……・・サトリ?」
 おそるおそる、音のする方へ視線を向けるとサトリがぺたりと座り込んでいる姿が映った。同時に赤い血だまり。太ももからだった。じくじくと、穿たれたように穴が開いていて、止めどなく血が流れて溜まっていた。それは偶然にも――、『おれと、おなじ……きず?』とオレの思っていたことを息も絶え絶えに話したと同時に喋るのだ。オレは叫びそうになる。

 心を読むと言うことはどういうことだろうか?
 いいや、心を読んで真似をすると言うことはどういうことだろうか?
 いいやいいや、その人の心や体、意識が持っている情報を全て真似するとはどういうことだろうか? 

 サトリは両目を開けない。もう一つの目はどんな世界を映すのだろうか。オレは思う。多分両目とは全く別の世界を映すのだろうと。その世界は心象風景。心しか見えない目なのだと思う。だから今、その目は誰かさんの心しか見えなくて、その心は傷付いている体をしていてその情報を受けとった目は体に真似せよ、と希求するのだ。善意も悪意もなく。その目は自分の体が心がどんな反応を示そうとあるがままの情報しか受けとらない。
 自分の意識がないというのはそう言うものだ。ほんの僅かに、映った心の言葉を選ぶことしかしない自意識には、そういう反応しかできない。
 映した心は『動けない』と思っていた。じゃあサトリも動けない。
 『太ももが痛い、怪我をしている。とても痛い怪我だ』。じゃあサトリも同じような怪我を負う。
 『サトリは逃げろ。オレは死なないから逃げない』。じゃあ逃げる。でもサトリも死なないから逃げない。
 『オレは両目が見えるのに、サトリは見えないのか?』。それはサトリの怪我。オレのものじゃない。サトリの怪我はオレにはあげられない。
 『それじゃあ、サトリは損をしてばかりじゃないか』。サトリは損ばかりする。そう思われているから、サトリはそうする。
 全てはオレが誤解していたからだった。サトリのことを理解していなかったからだ。オレの関心はサトリに向けているつもりもなにも、全てオレに返ってきてるばかりだった。
 そうして至った理解は全てが遅すぎたと思えるぐらいに、終わってからだった。
 火の手が強い。いつもなら自信を与えてくれる火が、こうも心を磨り減らすものになるとは。何よりもこの劫火はオレを燃やし尽くしても、オレを殺すには至らないのだ。この火はサトリだけを殺す火だ。逃げられないサトリ、オレが逃げられなくしたこいつは、オレに自信を持たせる火によって死にさらす。
 皮肉だ。
 オレが生き返ったとして、どうなるというのだ。視界が滲んでいく。熱さに煽られて乾いた頬にパリパリと涙が伝っていく感触があった。サトリは、とオレは座り込んで喋らなくなった両目を見る。
 ああ、元から泣いていたものな。今更泣いたところで区別もつかない。
 見ると、もう一つの目は泣いていた。涙袋なんてあったのか、と今更ながらのことを考えて変な気分になる。抵抗してもサトリを傷つけることにしかならないと分かると、気力が出血部分から漏れ出ていくような気分になる。いけないな、オレが死んだらサトリも死んじまうじゃないか。でもすでにサトリの背後にはサトリの体を今にも焼き尽くさんとする火の手があった。
 でもどうあってもオレは生き返るんだな。
 オレは生き返る。サトリは死ぬ。堂々巡りのような気がする。覆したい結論の為に考え直すたびに、訪れる同じ結論に絶望が増す。せめて逆ならオレの気分も少しは晴れる気がした。残念ながら、傷までは真似出来ても蘇りまでは真似出来ないだろう。
 諦観と絶望がピークに来たところでオレは吹っ切れたような気分になった。落ち着かないざわついた気分が邪魔くさい。
 これは怒りだった。自分自身への怒り。汚い言葉で自分を殺したい気分だ。
「こんちくしょうが」
「『こんちくしょうが』」
「……」
 それすらも許されないのか。
「こんちくしょうがぁ!」
 泣き叫ぶ、心を込めて。 
 絶望が自分の心を切り刻む。刻まれてふつっ、と分離する心。
 目と目が合う。どんな気分だ。絶望が見えただろうか。オレの絶望はどんな気分だ。お前にオレの心を分けてやる。
 絶望の中に、オレは一縷のトラウマを見る。懐かしくも憎くもある。



 想起『火鼠の皮衣 -焦れぬ心-』



 サトリの開かれた目から妖術が形成されている。それはサトリを数瞬の内に包むように取り囲み、形を取る。見覚えのある形だった。そしてそれはいつも、俺の自信をいともたやすく打ち砕くものだった。オレの、天敵。それが、ふわりとサトリを包み込む。
 理解に苦しむ前にオレは行動に移した。理解なぞ置いていけばいい。あるのは、そう、悟りだ。まずは、知っていればいいのだ。
 オレは自前の妖術を展開する。サトリを殺そうとするのが火なら、火でかき消してしまえばいい。
「燃えてくれるなよ!」
 賭だった。サトリを燃やし尽くす程の大きな劫火を展開する。狭い屋内だ、オレすらも火あぶりになる。ゴゥア、と炎が同心円状に圧力を持って広がり、熱量が家屋の火を悉くを吹き飛ばす。火は酸素と種を失い、勢いを失う。
 サトリは無事だった。オレの知っている通りのものだ。目の前の衣は依然として焦げ後すらなく相変わらずサトリを包んでいる。
 ぎみしり、と家屋の悲鳴が聞こえた。分かってはいた。火の手は天井の梁を焦がし、構造上の耐久力を削り殺したのだ。後はオレが妖術でサトリを守る必要がある。賭は終わってはいない、と自覚したところで天井が崩落する。太い梁がサトリとオレの頭上に振ってきた。何の暇も与えてはくれない。
 オレは妖術を形成しようとして、不思議なものを見る。いいや不思議じゃない。不思議というのは見たことも聞いたこともない現象を見たときに思う気持ちだ。強いて言えば、先ほどの燃えない衣を見たときのような既視感。
 落ちてくる梁が急速に減速しているのだ。梁は空中でピタリと静止してしまう。
 トラウマ、天敵、忌み嫌っていたそれは、今はすこぶる安心感を与えるものだった。そして同時に見覚えのあるものだった。
 極限の加速、人には認識できない時間の領域まで。
 それはオレの最も嫌う奴に須臾、と呼ばれ扱われていた。オレ達の意識は空間に存在する時間の最小単位まで加速し、認識しているのだ。時間的にどんなエネルギーを持っている存在も、この須臾では意味を持たない。
 考えている暇も、理解する頭も、後悔して反省する心も無い。あるのはサトリに分け与えた意識だけ確実に残っていればいい。
 サトリの力が消えかけているのか、梁はまた動き始めていた。認識の上で、オレ達の時間が減速しているんだ。
 オレはなんの躊躇も無く体を引き起こす。肉の裂ける感触と耐えきれない激痛がある。
 多分、オレはこの瞬間に一度死んでいるのだろう。その程度には無茶な動き方だったし、痛みだった。脳髄に人間の許容量を超える痛みに体が、神経ががくがくがく、と震え出す。視界が端から焼き切れるように明滅して、強制的な体の強ばりと虚脱感が交互に来る感覚が押し寄せる。こういう暴力的な痛みはうっかり生きることを放棄させる。だがそれが狙いだったとも言う。
 死は魂を柔らかくさせるのに、丁度良いハンマー代わりだ。オレは魂の形を変える。どんなにも殺しても死なないのは魂の形が如何様にでも変わり、また元に戻るからだ。魂の形を変えることで、一時的にオレは物質的にも形容を変える。生まれ変わる。
 


 極限加速『 「フェニックス再誕」 』



 姿を変えてサトリを背に乗せて飛ぶ。その背は誰の居住まいも許さぬ炎で包まれるはずだった、本来ならば。
 須臾の内に変身した為に、翼は光よりも早く広がった。それだけでスターボウを引いて、運動するエネルギーの稠密さが全てを崩壊させるはずだったが、その前にサトリの能力が効果切れを起こしていた。エネルギーは横方向に家屋と林をなぎ倒すだけの衝撃波を生む程度に収まった。そもそもが強大極まりない能力二つの具現化なのだ。オレがサトリを助けるまで保てば十分だ。考える前にオレは翼で梁をなぎ払って燃やした。急速に時間の感覚が平時に戻っていくことを覚えてオレは、家屋に火柱を立てて飛び上がる。
 賭は万事、オレの勝ちだった。
 







 
「…………ん」
 死から目が覚めると天井が見えた。眠っていたらしい。微睡みが記憶を結合するの遅らせている。見慣れない天井だとぼんやり考えていたが、そういえば家は燃えたんだった、と思い出した。
「起きましたか?」
「ん、え?」
 視界の端から覗き込む顔が表れる。幼い女の子だった。サトリではなかった。ただ、どこかで見覚えのある顔だった。体を起こすと赤と白の巫女装束を着ているのが分かった。額に乗っていたらしいおしぼりが転げ落ちる。
「あなた、コウさん?」
「コウ。ああ、妹紅はオレだけど」
 懐かしい呼び名だった。そう言えば久しく聞いてない気がする。そう呼ぶ親しいやさぐれ人間の娘だろうか。
「オレを知ってるのか?」
「境内で、すっ裸で倒れられたのには、驚きました」
「……あー、急いでたもので……。と、そういえば、サトリは?」
 変身の代償だ。火の鳥は火を衣代わりに纏うので、被服とは相性が悪い。燃え尽きた後は真っ裸になる。
 問題はサトリだった。
「連れの妖怪なら、命は取り留めましたよ。見つけたときは酷い状況でしたけど、妖怪って意外にタフですから」
「……そうか、よかった」 
「怪我が云々で言うなら、どちらかというとあなたの方が酷かったですね」
「そうかもね」
 オレは安堵の息を吐く。火鼠の皮衣も能力が消えかけていたせいで火傷を負っていたはずだ。オレは加速してギリギリまで粘ったが、ついにサトリの意識が途絶えたように皮衣が蝋燭の火のように消えるとオレは火の鳥として燃え尽きてみせた。燃え尽きた後はオレは生き返ってサトリを抱きしめてサトリの肉襦袢代わりに着地したのだ。最後に信号弾代わりに神社近くで小規模爆裂する術を放った。そこで意識は途絶えた。速度130、高度は精々30メートルといったところか。盛大な落下と言っていいだろう。オレはもう一度死んだ。
 すっ裸だったとは、あの巫女の娘らしい表現だ。落下直後はきっと五体満足ではなかっただろう。こうやって今、白栲を着られていることが変に思えるぐらい。
「そういえば、お母さんはいるかい?」
「母ですか。今は用事で外に出ています」
「そっか。タイミングが悪かったかな」
「祖母ならいますけど。祖母に用なのでは?」
「祖母だって?」
 あいつの母は確か、あいつが生まれてすぐに亡くなったはずだ。存命のはずがない。ここは天国か。
 ずだばん、と不器用に襖が開いてサトリが現れる。両目はどうやらすぐに見えるようになったらしくこちらを見ていたが、足はハイハイか、匍匐前進の要領だった。まだ癒えていないのだろう、小さな巫女が少し慌てるように駆け寄る。顔つきを比べると、ほとんど姉妹のような幼さだった。
「どうしたの?」
「『あ、足の傷が開くわ』」
「そうよ、だから動くのは危険なの」
 他人とサトリとの会話を聞いて改めておかしさに笑いがこみ上げそうだった。そうだな、オレ達は普段からこんな会話ばかりだった。この会話に慣れているということはそれなりに幼い巫女も悪戦苦闘を経たのだろう。
「『祖母に会おう』」
 サトリは言う。オレもそう思ったところだ。いいや、本当のところはオレが思ったことを言っただけだろう。だが何となく、それだけではないことにオレは気づいている。オレは立ち上がる。多分、ここは天国なんかじゃない。
「あの、会うのは大丈夫ですけど」
 幼い巫女はサトリが喋るのを見てから、サトリの目線がこちらを見ていることに気づいて言う。
「大丈夫だよ、何がダメなのかは分かんないけど」
「はあ」
 幼い巫女は首を傾げるまま一応頷いた。面白い頷き方だ。自分でも言ってて変なこと言ってるとは思ったけど。
 サトリをおんぶして幼い巫女の案内を受けて廊下を歩き、部屋に案内される。
 巫女は床に伏して眠っているようだった。酷く浅い呼吸、くたびれたように重なる皺、どこか苦しそうな表情。ここ三日ほど起きないらしい、とは幼い巫女が言ったものだった。老人独特の匂いが嫌なのか、それとも予期するそれが怖いとでも言うように幼い女の子は口数少なく部屋を去った。近しい人間に無礼だな、とは思わなかったが、本来親しい人間関係が冷えているように見えるのはやはり傍目からも息苦しく思えた。
 オレは居住まいを正して巫女を見やる。眠っている、というよりは老衰による昏睡だ。起きる気配は無かった、二度と。幼い巫女がこの部屋に入るたびに悲しげな表情を押し隠した無表情を浮かべるのも無理はないと思った。
「『思えばサトリが預けられてから長い時間が経ったものだな』」
「そうだな」
 オレもサトリも人間と比べて長く生き、そして人間と同じように老いることがない。サトリと出会ったとき、巫女は三十代も前半だったはずだから、オレ達の生活はどうやら、それも数十年になっていたようだ。生きることの時間の感じ方がかけ離れていたという自覚が無かった分、彼女の老い様にショックを隠せなかった。オレは親しかった人間がこうしてオレを置いて世を離れることを何度も見てきた。慣れた、ということはない。辟易して世俗を嫌った末にそういうことも少なくなったが、少なくなった分親しい人間の死が余計に苦しく感じるようになったのは事実だ。それだけ親しい人間が愛おしく感じているのだ。
 何度繰り返せば良いんだろうと若い頃――といってもどれぐらい前になるだろうか――は悩んだものだ。悩んでいたってオレは普通の人間と交友関係を持つし別れたりする。オレが人間的、社会的な振る舞いをする以上、これは悩むという行為は直接的な原因を排除できないだろう。だからオレは目前に迫った死に対して恋い焦がれたり、悲しんだり、楽しかったりした追想をする。それを分かっているのか、サトリもさっきから黙りだった。
「『暗いわ、真っ暗』」
 だから唐突にしゃべり出すサトリにオレは驚く。見るとサトリの目は巫女に向いていた。
「『何も見えないし、何も聞こえない。まるで石の中にいるみたい』」
 これは巫女の意識だ、と気づく。巫女は意識を持っている。
「『目も耳も、鼻も口も無くなったみたい。手も足もなくて、指も関節も無い。私は私の顔が見えない。私の顔は無くなっちゃったのかしら。私はどんな顔をしていたのかしら。石の中じゃなくて、私は石なのかしら』」
 サトリは巫女の意識を喋り続けて意識が動いていることを知らせてくる。そして感覚を受信することと意識を発露する方法を失っているのだと分からせる。
 意識というのは、いいや、自分というものの最小単位は一体どんなものだろうと思う。外の世界というのは目や耳で、形や色や音を知覚することで認識して言語を喋り操ることで他人の同意や批判を受けることで社会に参加しているという自覚となって初めて知ることができる。ではそれら全てが途絶された状態の意識はどんなものだろうか。何の外の情報が何もない、反応も得られないというのはどんな感覚なのか。
 少なくとも、そんな中で意識が確固とした形を保つのは難しいことだと思う。言葉も知識も必要としない意識のみの世界。自分を象る必要のない最小の世界観。その中で未だに自問自答によって意識を保てるというのはさすが意思の強さだと思った。そしてオレはそんな世界に声をかけることはもうできない、と知る。対話が、できない。意識が聞こえるだけ、まだましなのだ。
 静かな悲しみが頭の中を覆うように取り巻いた。
「『……なんてね』」
「え?」
「『やーい騙された。久し振りねえ、コウ』」 
「え、え? どういうこと?」
 オレはサトリを見る。サトリが冗談を言うものか、と信じられない気持ちで見るがサトリは相変わらず表情の無い顔で目を巫女に向けたままだった。
「『相変わらずサトリちゃんは可愛いわね。コウ、随分ご無沙汰じゃない? こんな可愛い子を独り占めして、いい気なものね』」
 まくし立てるようにサトリが喋る。
「寝込んでるってのは、嘘だったのか?」
「『嘘じゃないわ。石の中にいるようっていうのも本当。私の意識と体の感覚は、もう繋ぐ力が衰えて離れてるわ』」
「じゃあ何で?」
「『喋れる? オレの言うことが分かる? 受け答えが出来る?』」
 サトリはオレの言葉を反芻する様に言う。その言葉にサトリが返す。
「『サトリの能力ね。やっぱり私の思った通り』」
 サトリは一人でオレの考えと巫女の考えを喋っている。少し大変そうだったが、どこかしら嬉しそうだった。嬉しそう。サトリがこんな表情を浮かべているのをオレは初めて見るのかもしれない。
「サトリの能力だって? 心を読む能力じゃないのか」
 でもそれだけだと巫女にオレの言葉を伝えることは出来ない。それこそ耳が聞こえてないと。
「『心を読む、その能力を悟りと言うのでしょうね。でもそれだけじゃない』」
「それだけじゃない?」
「『ええ、昔から思っていたけれど確証が得られなかったことがあるの。この子はなぜ私達の意識の中から言葉を選んで喋るのか、ということ』」
「それがサトリの個性だから、じゃないのか」
 意識の中にある無数の表現から選択される、という個性。
「『個性という面もあるでしょうね』」
「他に意味が」
「『ある。あった。今なら分かるわ。老い暮れてこうやって死に瀕して初めてこの子を分かってあげられるって言うのも、皮肉だけれど、嬉しい皮肉ね』」
 どこか生死を超えて考えているような、達観したような表現。オレの知ってる通りの巫女だ。
「『この子は言葉を選ぶと同時に、意識を伝える能力があるわ』」
「意識を、……伝える?」
「『そう。心を読んでいる能力ばかりに目が行ってしまうけれど、この子の本質はその心を他人に伝える能力がある』」
「すまん、意味がちょっと分かりづらい」
「『サトリとコウだけの暮らしが長かったから分かりづらかったかもね。無意識って分かる?』」
「あんまり」
「『難しいことは考えなくて良いわ、この状況そのものがサトリの能力でもあるんだから。肌に、目や耳や口や鼻、人間の持つ情報を受けとる力と送る力。それ以外の方法でサトリは意識から意識へ情報を伝える能力がある。そしてそれは本来人間の持つ、持っていた繋がりでもある』」
「言葉とかそんなんじゃない、何かを伝える能力だって?」
「『空気を読む、とか言う言葉が今でも残っているでしょう? 今その言葉の意味は言葉を用いることなく状況を判断し、共通した答えとなる情報を得たり強制したりすることを言う。それは状況の判断、という高度なコミュニケーション能力ということで成り立つと思われているけれど私はこう思うの。
 人間はそんな言葉や状況を判断することなく、情報を交換していた、することが出来ていたって』」
「それが無意識?」
「『そう。私の持論でしかないけれどね。もっと言うなら私の中やコウの中に、お互いの意識がいるの。それが私の考える無意識』」
「………それ、少しだけなら分かる気がするよ」
 オレはここに来た顛末を話した。巫女は――正確にはサトリは――口を挟むことなく聞き続けた。オレのサトリを物として扱ってしまうような傲慢な考えを戒めようとしたことがこの結果を生んだことを反省するようにオレは説明した。巫女はそれでも喋らなかった。オレは話し終わる。
「『でも、あんたはサトリを理解の手をさしのべたわ』」
「……そうかな」
「『本当なら、そこまで心が繋がった状態であんたが死んだのであればサトリも自死するわ。心が死んだと誤解するの』」
「そうだな。それが現実に現れて、サトリは足に同じ怪我をした」
 オレは足を伸ばした状態で座るサトリを見る。包帯が巻かれていて、幼い巫女の話では大分塞がったらしいが、それでも心が痛んだ。
「『でも最後にあんたが死んでフェニックスに変わっても生きているのはあんたがサトリを理解したからよ』」
「心を切り離したっていうのが?」
「『あんたのその表現は私にとってはあんたらしい、とも思うわ』」
 笑い声は聞こえなかった(サトリは笑わなかった)が、何とも可笑しそうに言う。
「『でもそれを期待して私はこの子をあんたに託したの。そう言う意味で、偉いと誉めてあげるわ』」
「どういう意味だ?」
「『……逆に聞いてあげる。あんたは何でこんなことをすることになったの?』」
 質問を質問で返すな、と思った。でも不思議と怒りが湧いてこない。じんわりと暖かくなるような気持ちに包まれている気分だった。
「サトリと自分の区別がつかなくなったから」
「『そうね。そしてそれは私にとっても危惧すべき状態だった。サトリが嫌われるっていうのは妖怪として、じゃなくてどちらかと言えばこの状態になるからなの』」
「区別がつかなくなることが?」
「『隠さずに言うけど、私もなったわ。私はそれを拒絶するためにサトリに攻撃的になった』」
「驚いた。お前でもなるのか」
「『私は人格者でも無い、ただの人間よ。同時に妖怪を退治する巫女でもある。その立場のせいもあったけど、酷い錯乱状態ね、倒すべき敵恐れるべき脅威が自分の一部になる。妖怪を退治するという常識が自分自身を殺す凶器になって、それを防ぐために同一視となる原因のサトリを攻撃した』」
 相容れない、という言葉が思いついた。普通の人間なら、恐れている対象という考えが自分となり自分を恐れるか、驕れて人を襲うか。
「『喋ってないのだろうけど、聞こえるわ。そう、私は自分自身を鑑みて、この現象は人と人との成り立ちを壊すと思ったの』」
「それで、隠遁生活のオレに押しつけか。酷いもんだ」
「『信用してるのよ。この解決には長い時間をかけてサトリと付き合えて理解できる存在が必要だった』」
「まあ死なないもんなぁ」
「『そういう要因と、もう一つある。本当は隠してたかったけどこれ、隠せないわね。私はあんたの「人が好き」っていうのがすごい好きだったの。尊敬してたわ』」
「は? オレが、何で?」
「『ほら、自覚無いじゃない』」
 恥ずかしいこと言われてるな、と思っていたら、くすくす、とサトリが笑う。どうやらくすぐったいらしい。くすぐったい気持ちというのはサトリにとっては体の感覚となって感じるらしい。なるほど心を読む妖怪らしい。
「『率直に言えばね、あんたはいつも言ってる親戚ってさ。今じゃ人里ほぼ全ての人がそういうようなもんなの。どんだけ長いこと生きてるかは知らないけど、普通ならどんなに生きても四等親ぐらい離れた人間のことなんて知らないし親しい間柄とも思わないわ。でもあんたはどんなに離れても実は血が繋がって無くても親戚だ、と言う。人の時間に制限された社会に合わないから人付き合いを避けてる。付き合いは離れてるけど、自分のところに来た人は親戚だって言って助けるでしょ?』」
「だって、……そういうもんだろ?」
「『自覚無し、アホ、バカ。私が言ってて恥ずかしいじゃない』」
「なんで馬鹿にされてるのかは分からんけど、まあ信頼されてるってことか」
「『そういうことにしといて。そして、それがこの子にもそういう愛情を注いでくれると思った』」
「愛情ねえ」
「『分かりやすく言うなら、サトリという生き物、妖怪、の理解よ。どんなに同一視が進んでもあんたは私と違って攻撃でも自傷にも向かずに、理解を進めようとした。すると思った。その結果がちょっと痛ましかったていうだけで、あんたは故意にやったわけではないじゃない。それはしわくちゃになった耄碌の私が今でもたどり着けないと思ったわ。だから、尊敬するのよ』」
 サトリがお腹をかかえて笑う。顔が熱い。他人からこう、飾らない言葉をぶつけられるのは初めてのような気がした。
「『そして、その結果。あんたが言うには心を切り離した、という状態を得た』」
「これが?」
「『今、意識だけの状態になった私には肌に直接触られたぐらいに分かるわ。ねえ、今私がどこにいると思う?』」
「どこって……・」
 哲学みたいだ。心がどこにあるかなんてのは、いつだって人を悩ます問題だ。
「『私の心臓にも頭の中にも、私のこの心はないわ。正確には足りない。私は私とあんたと、サトリの中にいるわ』」
「ますます哲学みたいだ」
「『相手の立場に立って考える、という表現が正しいわね。あんたはサトリを一個の他人として自分の中で意識を作っている。サトリへの心を開くと同時に、自分とサトリが明確に別れた状態で意識されている。それが心を切り離すっていう表現になるのが面白いのだけれど』」
「その言い方って、離人症みたいだ」
「『そうね、下手をすると自分の中に他人がいるっていう認識だもの。あんたはそういう意味でも成功してるのよ。あんたの中にはあんたと私とサトリがいる。サトリもそれを理解して、サトリはあんたの心の中で居心地良さそうにくつろいでるわ。同時に、あんたと私もサトリの中にいるのが分かる。サトリはその自分の中の他人を他の人に持って行く能力があるのよ』」
 人が他人を理解するというのは、自分の中でその人の知識を得てどういう行動をするかを覚えて、どういう感情が動いているかを分かるってことだ。その人の情動を自分の中で作り上げるということだ。サトリはそういう人の他人に対する理解を伝える能力を持っている。心を読むという能力とは別に。
 自分の中の他人の情動が正確であればあるほど、人は言葉を用いずに他人を理解することが出来る。
 サトリの心を読み同じ行動をする、というのはサトリが人にとっての自分という意識が希薄だからだ。だからこそ人は自分の中のサトリができず、自分とサトリの区別ができないと感じる。
「『サトリの自意識の薄さ、というのは実は人間が原因でもあるの』」
「何だって?」
「『サトリの目的を伝えてはいなかったわよね、姉捜しよ。サトリはお姉さんを捜してるの』」
「それがどうして人間が原因ってなるんだ」
「『話しを端折らずにいうなら、サトリは人づてを頼ろうと考えたの。それも人の中で最も大きな人づてを持ってる人間を』」 
「それで、じじいか」
「『そう。ごうつくじじいも、便利な道具としてサトリを側に置いた。結果的に、サトリは人間の社会には少し無関心が過ぎたのね。あまりにも人の心の汚い部分を吐露するものだから、多くの反感を買った』」
 オレはサトリがそれを喋るのを痛ましい気持ちで聞き届けた。同時に、フラッシュバックのように記憶が舞い込んできた。多分、これはサトリの能力なのだろう。代弁するように、巫女は続けた。
「『じじいの死後、反感を覚えた人はサトリを殺そうとしたわ。その当時はサトリの意識はこんなに希薄ではなかった。危険は感じていたみたいだけれど、サトリが思う以上に人間は辛辣な手段を選んだわ。結果として、サトリの心は殺されたの』」
 おぞましい情景が浮かぶ。恐らく、巫女も当時見たことがあるのだろう。なるほど、それで吐き気がする、か。サトリ自身へ向けられる憎悪、巫女の人に対する悲観がない交ぜになってオレの意識に語りかけてくる。人の悪いところが盛りだくさんになって詰まっていた。
「『その後はあんたに預けた通りよ。人が起こしたことなら、人が治さないとっていう高尚なことを言いたい訳じゃないわ。でも、私は妖怪退治をするときにも、そんな感情で接したことはなかったから……』」
「いいよ。大丈夫。死にかけの婆が未練たらたらしてちゃ、成仏できないだろ」
「『……可愛くないわね、相変わらず。目上の人に対する言葉遣いを覚えたら?』」
「残念ながら、オレの方が年上だ」
「『目上っていうのは年上っていう意味と、格上っていう意味があるわ。私の方が人格としては上ね』」
「さっきは人格者じゃないって言ってたくせに。どんよりムードが台無しだ」
「『私の台詞よ。あんた可愛いんだから、もうちょっと女言葉使ったら?』」
「かわっ………」
 さっきまでまた表情が硬くなっていたサトリがくすくすと、笑い始めた。
「『そういう初心いところが。サバサバ系というかガサツを気取ってるみたいだけど、やっぱ女の子よねぇ』」
「うるさい」
「『まずはオレ、じゃなくて私から始めることね』」
「あーあー、年寄りの冷や水がうるさいうるさい」
「『聞きなさい。最後のお願いよ』」
「最後とか言うな」
「『聞きなさい。お願いって言うのは、サトリの目を閉じて欲しいの』」
 オレは目を剥いて巫女を見やる。相変わらずの昏睡状態。
「どういうことだ」
「『あんたがサトリを理解したというのは私の望む、限りなく良い状態よ。でも全ての人が同じようにサトリを理解できるとは思えないの』」
「……一人の人間が社会を作ってるわけじゃないって……それは、あんたの絶望が言わせてるだけだよ」
「『そうかもね。言葉にする必要がないぐらい私とサトリとあんたは理解できている。でも人間は社会的動物で、社会にそぐわないサトリの存在を許容できるほど、その社会は成熟していないわ。そのことに私は絶望している、そして、またサトリを同じような境遇に追い込んでしまうということを危惧している』」
「…………」
 オレの思う人間の良さと、巫女の思う人間の悪さがぶつかる。そして、巫女の予想が成り立つ方が高いとオレも思ってしまう。人の良さ、というのはあくまで身内とか近しい人間にしか発揮されない。それ以上は社会にとって偽善とか、独善とか呼ばれて嫌われている。社会は人の良さの為だけに出来てはいない。社会は人が生きやすいように出来ているのだ。それこそ清濁を含んで。それがまたサトリを殺してしまうのだろう。
「『サトリの心を殺そうとまでは思っていない。でも、心を読む動作っていうのが人間の社会にとっての急所なの』」
「こいつのことはオレが守るよ」
「『そう言うと思った。でもそれじゃあんたがサトリと離れられなくなる。私はあんたがサトリのせいで完全に社会と決別するのは良くないって思ってる。それはサトリの為にも、ね。私達が本当に必要なのは、サトリを完全にコントロールするんじゃないわ』」
 参った。巫女は思った以上に未練たらたらだ。これじゃ真っ当な成仏が本当にできそうにない。
「まずはサトリの理解者を増やすのが必要ってことか?」
「『そう、そうね。あんたがサトリを生きやすいようにしたい、その為にもやることはまず決まってるはずよ』」
「姉捜し」
 そう、とサトリを介して巫女は同意する。分かりやすい結論だ。どこにいるんだろう。この狭い世界の、どこかにサトリをよく理解できる存在がいる。それは少なくとも、サトリにとって救いだろう。
「『あんたにも、サトリにも幸せであって欲しい。その為の、あくまで応急処置よ。サトリが目を開きたい、と思った瞬間には開けるようにする』」
「たいした老婆心だ」
「『開き直って言うけど、やっぱりズバズバ言うの止めた方がいいわよ』」
「あーあー」
 そう言いつつ、オレはサトリと目を合わせる。サトリは自分の意見を言わない。それぐらいに自意識が希薄だ。いつしか、自分をもったサトリと話してみたいもんだ。オレの中で居心地良さそうにしている、と言った巫女。それを見てみたいものだ。
 オレは心に決める。
「サトリ、人の心が見えたっていいことは無い。だから自分が見たいと思ったときに見るんだ」
「『……・あんたが目を瞑れば、サトリもあわせて目を瞑るわ。私はその目に封印を施す。絆創膏みたいなもので、外そうと思えば外れるわ』」
「わかった」
「『しばらくしたら目を開けて良いわよ』」
「お前の声は聞こえなくなるのか」
 少しの間、沈黙する。
「『気づかれちゃった。聞こえなくなるわ。あくまでサトリは私の中の意識を読み取ってるのが言葉の核だから』」
「そっか。それでいいのか?」
「『今更聞くの? あんたってずるいわね。老婆心よ、清らかに成仏させてね』」
「図々しいから簡単だろ、何ならオレが三途渡しの船頭とか閻魔を説き伏せてやるよ」
「『ありがとう。……こうなってから、こうやって喋り倒せるだけで十分よ』」
「そっか」
 サトリは何も喋らなくなる。目を閉じたせいで心が読めなくなったのだろう。ふわりと何かの術が使われた感触があって、しばらくしてから、オレは目を開く。
「『…………』」
 サトリは両目でもってオレを見て首を傾げていた。目は閉じられていた。
「さて、姉、ねえ。どこにいるのやら」
 オレは横になっている巫女の顔を見やる。苦しそうだった顔はどことな嬉しそうな顔に見えるのは、きっとオレの見間違いじゃないだろう。
「『こいし、……どこにいるの? あなたが見えなくなったわ、こいしったら』」
 サトリが唐突に喋り出す。オレの意思じゃない。オレの意思はもう見えないはずだ。成る程。姉、ね。オレは直感的にこいつが姉だと理解する。
「お前こいし、っていうのか。今更だけど初めて知ったぞ」
「『だれ? ……こいしに話しかけてるの?』」
「オレ……・、私は妹紅。藤原妹紅。おま……あん……あなたは?」
「『さとり。古明地さとり。こいしの姉よ』」
「やっぱりそう、ね!」
「『何がやっぱりなの? 言葉煩いなの、あなた?』」
 まさか言語障害を疑われるとは。
「気にしないな! あんた……、あなたを探してるの」
「『そ。私もこいしを探してるわ。目的が食い違ってるわね』」
「会いに行くよ。こいしはここにいる」
 サトリ、もといこいしは喋らなくなる。しかし、さとりか。今までこいしをサトリと呼んでたから嫌に親近感が湧く。まあいいや。思った以上に巫女の思い煩いの元は何とかなりそうだ。オレ、私は希望を持って立ち上がる。こいしをまたおんぶしてこれからのことを考える。
 部屋を出る前に私は振り返って言う。
「さらば」
 巫女は返事をしなかった。こいしも喋らない。聞こえているかも分からない。でも空気が返事をしたように温かくなった気がした。
 私の中の巫女がこいしを預けたときの姿で手を振っている姿が思い浮かんだ。
参考図書:神林長平『帝王の殻』

自意識の広さについてのお話。元ネタは参考図書内のPAB。
最近、本屋で敵は海賊の最新刊が発行されているのを見て買った記念。
河岬弦一朗
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コメント



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3.無評価名前が無い程度の能力削除
ぶっちゃけキャラの一人称が違和感無かったらもうちょっと評価上がったと思うけど、それ以上に誰コレ状態でとても読みにくかった
10.100パレット削除
 素晴らしい。とても面白かったです。
11.90名前が無い程度の能力削除
うん、楽しく拝読しました。
難しいことを簡単に書くのは難しいですが、何かがうまく落着した気分です。
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難しいテーマの話でしたがよく纏めあげていたと思います。
実はタグを見ていなかったせいで妹紅とは全く気づかなんだ。
それが逆に読む分には良かった気がしますけれどね。