Coolier - 新生・東方創想話

若椿

2013/03/15 00:13:18
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     1

 庭先に咲いた唐紅の若椿が沈黙に堪え兼ねたように落ち、稗田阿求と藤原妹紅の視線は自然と音のした方へ移った。二人の顔が日を受け白々しく輝いたため、阿求の顔色が変わったがはっきりと見えた。
 妹紅は何も言わずに、阿求の本日の業務――幻想郷縁起の執筆――が終えるのを邪魔しないように待ち続けた。ゆえに二人とも、驚くほどに沈黙を貫いていた。広い八畳の和室に流れるのは、阿求が辷らせる筆だけであった。時々、阿求が疲れたのか姿勢を直す度に、和服の擦れた音がする。
 阿求の屋敷を来るべきなのは、慧音であった。しかし、阿求の屋敷に出かけようとした丁度その時に、鈴仙・優曇華院・イナバが訪れた。用事があると言った慧音に対して、鈴仙は真剣な顔で、稗田阿求のことで話があると返していた。妹紅は居ても立ってもいられなくなり席を外すついでに、阿求の元に足を運んだ。
 阿求は静かに筆を置いた。それから白い顔に浮く薄紅の唇をようやく開いた。
「それで?」
「慧音から手紙が来ていなかった?」
 阿求はすぐに慧音の手紙を諳んじた。
「『次回の教材を拝受いたすべく、未の刻に貴宅に参る』ってことですけど、それでも貴方が?」
「そうよ。慧音にどうしても外せない用事ができちゃってね」
 阿求は紫檀の机に白い手を押し付けて、細い身体をゆっくりと持ち上げた。妹紅は和服が柳のように揺れる度に広がる強い香に、ある種の不安を覚えた。阿求が居なくなると部屋は寒々しくなった。妹紅は気分を変えるかのようにすぐさま庭に目を移した。
 点々と落ちる唐紅が、妹紅に嫌な絵を描かせる。桃の花が微風によって、縁側にその腰を落ち着かせた。その薄桃が、ほのかに赤く染まった阿求の頬を連想させた。妹紅は息を詰まらせ、逃げるように庭を見渡し、庭の端にそびえる猛々しい一本の黒松に目を奪われた。遠くにある空は重い色の雲を運んでいた。
 強烈な安堵に襲われ、妹紅はようやく息をついた。それから、やはり阿求のことを思った。慧音と鈴仙のことも思った。彼女はもうすぐ、この屋敷から去ってしまうのか。
 永遠の別れは、何度も体験しているのに拘らず、妹紅に重くのしかかった。というのも、阿求にとって、妹紅は特別な存在だからだ。
 ある日、妹紅は阿求にこんなことを尋ねた。
『幻想郷縁起の執筆なんかやめて、女の子らしく、華やかな一生を送ってもいいんじゃないの?』
 すると阿求は悲しげに力なく笑った。
『余計に悲しくなるじゃないですか』
 一瞬の沈黙の後、阿求は朗らかに笑った。
『でも貴方となら、いいかな、なんて思います』
 妹紅は深くは踏み込まなかった。それ以上に、誰かに認めてもらうことが頬に血の気が上がってくるのが感じられるほど嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
 阿求の声が遠くからして、妹紅は腰を上げた。ある部屋の前に阿求が立っていた。窓がない薄暗い部屋を覗くと、堆く積まれた本が部屋の殆どを占めていた。阿求は一角を指差した。
「そこにあります」
 妹紅が阿求の屋敷から帰る途中、鈴仙・優曇華院・イナバとすれ違った。妹紅は彼女の顔を見て、何も言わずにすれ違った。濡れた奥に儚げに燃える瞳を見た。遠くにあった雲は流れて、目下に迫っていた。


     2

 火鉢の細い温もりを受けて黙々と読書を続ける慧音に、妹紅は痺れを切らしたかのように声を上げた。
「ねぇ、慧音。何があったの?」
「何が?」
「鈴仙が阿求のことで来たじゃない」
 慧音はようやく本から目を離し、神経そうにひそめた眉を見せた。未だに静かに降り続ける細い雨の間を縫って、慧音は答えた。
「永遠亭で暮らすことになるそうだ」
「どうして?」
「お前も見たことあるだろう? 字が震えていたり、同じ姿勢を保てなかったり、歩行が不安定だったり……」
 妹紅は寂しそうに笑った。それから何か言おうとした。けれども、声にならず、唇は虚しく空を描いた。頬が発作的に痙攣していることに気づいたのは少し経ってからだった。妹紅はようやく呻くように声を出した。慧音は目の底に無理な微笑を漂わせて、優しく答えた。
「どうして慧音が知っているの?」
「何かあったら、私に連絡を送るそうだ。妹紅、明日もう一度、阿求の所に行ってくれないか?」
「何をしに行けばいいのかしら?」
「永遠亭に案内してくれ。お前の方が早いだろう?」
「分かったわ」
 慧音の言葉を奪うように、妹紅は了承した。純粋に永遠亭に辿り着けることだけを考えれば、因幡てゐに案内させるべきだ。が、妹紅に白羽の矢が立ったのは、阿求のことを配慮したからだろう。そういう図らいを快と思う一方で不快とも思った。
 妹紅はいっそう、あの少女の死がずっと近くにあることを気づいた。彼女達は総じて三十路まで生きられない。過度な知性と圧倒的記憶力が脳を、時には精神を破綻させる。
 永琳の参入は、妹紅にとっても、稗田阿礼にとっても、初めてのことだった。永琳がどのような余生を過ごさせるのが気になった。
 御阿礼の子の最期は発狂と自殺しかない。過度な知性と莫大な情報により脳が破裂するのが先か、残った薄まった理性が自殺を選ばせせるのが先か。
 妹紅はこれまで、四人の御阿礼の子を見送っている。一人は幻想郷縁起を書き上げた明朝に服毒自殺を図った。二人は発狂の末にやはり自殺した。そして、一人は発狂の後で妹紅の手で殺されることを望んだ。いずれも永琳と蓬来山輝夜が竹林の奥で、静かに暮らしていた時である。
 阿求も同じように発狂の末路を辿ってしまうのか。永琳が阿求に延命であれ何であれ接触するのならば、そのことは伝えた方が良いだろう。何よりも単純に一傍観者として見過ごせないことだった。永琳は知っていて、慧音に使いを出したのか。だとすれば、余計と黙っていられない。
 非があるのは鈴仙である。妹紅は本当に偶然に耳にしてしまっただけである。鈴仙が慧音の所に行き、その足で阿求の所に向かったと考えられる。つまり、意図的に妹紅が省かれていると考えてもおかしくない。永琳が何を考えているのか分からないが、何か考えていることは知っている。
 慧音が低い声を出したのはその時であった。
「私情を差し挟むのはやめておいた方がいいぞ。阿求はそういう少女だ」
「分かっているわ。でも」
「でも?」
 妹紅は自然と悲哀を面に出した。
「阿求は少女なのよ。まだ何も知らない、本来ならば可憐で生に満ちるべき少女なのよ……」
 慧音は何も言わず、妹紅の顔を見ていた。春雨は依然として単調なリズムを部屋に響かせていた。



     3

 朝になると雨はやんでいた。水たまりに映る阿求の顔が驚愕に染まった。
「貴方、ですか?」
「そうよ」
「てゐさんとお聞きしましたが?」
「う詐欺は信用できないわ」
「でも、人間を幸福にしますよ?」
 今度は妹紅が驚く番だった。まさか、阿求の口からそんなお伽話のような言葉が出るとは思わなかった。
「信じているの?」
「信じないよりはいいでしょう?」
 驚いた妹紅であったが、すぐに真面目な顔に戻った。そんなことにすがるほど阿求の人生には幸福がないのではないか。何が、阿求にとって幸福なのか。妹紅のように、酒を飲み、友と語らうのが幸福だとは思えない。そもそも彼女は幸福を味わったことがあるのか。
 妹紅は目の奥が震え、阿求から目を逸らした。水たまりの中の阿求が妹紅に向けて、白い手を差し出した。
「永遠亭まで案内をお願いしますね」
 袖から覗けた柔肌が青紫に染まっているのを見た。妹紅が次に気づいた時にはもう袖の中に仕舞われてしまった。妹紅は何も言えなくなった。厳しい沈黙が訪れた。
 この和服の下にはどれだけの傷があるのだろう。妹紅は一刻も早く永琳に見せようと阿求の手を取った。二度と離さないように握った。阿求が小さく声を上げた。
「痛いですよ」
 二人が永遠亭に着いた時、阿求だけが風呂場に通された。泥だらけの足袋と足を洗うように命じられたのである。
 妹紅はまだ咲いていない桜の樹を縁側からぼんやりと静観していた。時々鈴仙が淹れた茶を飲む。喉の渇きを潤すというよりも、沈黙を破るように飲んだ。
 この桜が咲く頃まで阿求は生きられるのか。この桜が阿求の生を吸い取り、血のような花を咲かせるのではないかという狂人めいたことすら思った。そうなった時、妹紅はこの桜の樹を灰燼にしてしまのうか。丁度、あの少女を救ったかのように。一匹の雀が桜の枝にとまった。
 その時、煙草の箱が視界に入った。優しく声をかけられる。
「吸う?」
「やめたのよ」
「どうして?」
 永琳は煙草に火を点けて、訊いた。紫煙が桜の樹に向い、揺蕩うさまを見ながら妹紅は適当な言葉を返す。
「だって、生き返ったらまた慣れない煙草なのよ? 慣れたと思ったら、また殺される。それなら吸わない方が楽よ。ニコチン中毒で吸いたくなるようなことはないしね」
「肺も喉も一生綺麗なままなのに、残念なことをするのね」
「そうね」
「吸わないの?」
「吸ってほしいの?」
「別に」
「でしょ? それより、阿求のことだけど」
 妹紅はおもむろに永琳の方に目を遣った。相変わらず涼しそうな目元である。二人は無言のまま、見つめ合った。口火を切ったのは妹紅だった。永琳の無責任な言葉に癇癪を起さないためにも、先に言っておきたかった。
 永琳は全てを、時々相槌を打ちながら一切口をはさまずに聞いた。妹紅は全てを語ると永琳の言葉を待った。
 全てを話すと妹紅の心はすっと軽くなった。知らない間に重くなっていたのだろう。永遠に傍観者である妹紅は、御阿礼の子に関わるべきではないのだと思う。御阿礼の子には御阿礼の子の責務がある。それを邪魔してまで生かしたいのか。そう思うと心がまた一つ重くなった。
 永琳は煙草の火を消して、こう言った。
「貴方は阿求をどうしたいの?」
 永琳の言葉に妹紅は答えに詰まった。というのも、彼女の生を握っているのは当然のように妹紅ではなく、また彼女自身でもなかった。妹紅は困った声を出した。
「それは私が決めていいことじゃないでしょう?」
「いいじゃない、別に。どうせ死んでしまうのだから」
「そんな言い方ないでしょ!」
 妹紅は激しい打ち消し方をした。
 阿求にとって、妹紅は特別な存在であるそうだ。ならば、妹紅にとって、稗田阿求とは何なのであろう。
 永琳は謝罪の後、こんなことを言いはじめた。
「これは阿求に言ったことなのだけど、阿求の脳は萎縮しているわ。非常にゆっくりとだけど確実に。三十歳になる頃には……」
 妹紅は絶句した。全然覚悟をしていなかった胸は衝撃の襲われ、ただ目を見開かせることしかできなかった。永琳は無表情で続ける。
「あそこで生活を続けるのは、あの子の自由よ。でも、もし、何か起きた時、貴方や慧音だけで救えるかしら? 無理でしょう?」
 言い返せない自分がとても恥ずかしかった。長年生きているのに拘らず、何一つ力になれない。
「ここで少しでも良い余生を過ごしてもらおうと考えているのよ。尤も、彼女が望むかは分からないけどね」
 妹紅には永琳の物言いが、自分と同じような不死者特有の高慢に思えた。妹紅も永琳もどれほど人間に寄り添ったところで、不死者特有の感覚がいざという時に出てしまうのであった。
 そんなことのために利用されているのであろう阿求のことを思うと、妹紅は胸が苦しくなった。が、だからといって、阿求を永遠亭から連れ去ることなど微塵も考えなかった。
 一秒でも長く生きられれば、どんな形であれ幸福は訪れると思っているからだった。これもやはり、不変な存在特有の考え方なのであろうか。この時、妹紅の胸には四人の少年少女の影が浮かんできた。特に、殺してくれと望んだ少女の影が。
 妹紅はほとんど無意識のうちに、ずっと胸を占めていた不安を口にした。
「阿求も同じように、発狂か自殺の道を選んでしまうのかしら?」
 枝の先に上品にとまっていた雀はいつの間にか飛び立っていた。遠くから永琳は小さく返事を返した。
「そんなことは誰にも分からないのよ」
 妹紅は口を歪めて微笑を漏らした。



     4

 阿求にあてがわれた部屋は、庭に最も近い八畳一間の部屋だった。障子を少しでも開ければ、雲の隙間から溢れてくる日の光を浴びた、明るい、色とりどりの香り高い花々が見える。阿求が屋敷で筆を執る時も庭に近かったため、それに近い場所を用意したとのことだ。
 足を洗った阿求が、布団の上で上半身を起こして庭を眺めていた。妹紅は入口に佇んだまま何とも声をかけなかった。二人の間には竹林のそよぐ音ばかりが落ちてきた。
 ただ、阿求と同じように庭と空模様ばかりを見ていた。何だかそれが心地よく感じた。妹紅は代わり映えのしない庭を見るのは全然心地良くなかった。が、阿求と同じ時に、同じ場所を見るとなるととても心が暖かくなった。
 永琳の言葉が草花の影に蘇る。この少女が三十路を迎えるまで後十年と少し。永琳の言葉が正しければ、その時を迎える前に死んでしまうのか。
 妹紅は何ともなしに黙っているわけではない。ある機会を窺っている。妹紅は阿求に訊きたいことがあった。が、いざ言おうとすると全然関係ないことを訊いてしまう。そんなことを口に出すことすらおぞましい。
 部屋は二人がいるのに拘らず、面白いように沈黙が長引いた。そうして庭にはいつしか紫陽花以外に百合や百日紅が大きな影を庭に落としていた。部屋の水盤に真白な蓮が生けられた。麻の着物に袖を通す阿求は油照りに目を細めた。
「妹紅さん」
「どうしたの?」
「閉めてくれませんか?」
 妹紅はこの頃になるとやっと阿求と会話できるようになった。元々口数の多くないため、一言、二言で終ることがある。それでも嬉しかった。
 が、脳の萎縮が進行し、阿求の声は聞き取りにくくなっていた。歩行もふらつきが見られ、妹紅が脇で支える回数が増えた。阿求に最も衝撃を与えたのは、手が震え、字がこれまで通り書けなくなることだった。
「妹紅さん、何もしないって暇ですね」
「そうね」
「妹紅さんはずっとこんな感じだったんですか?」
「そうね。でも、最近は違うわ」
 阿求は自分のことのように嬉しそうに笑った。妹紅は阿求が笑うのを見る度に、何と強いのだろうと思った。長くない一生と分かっているのに、何故笑えるのか。
 ずっと心の底にある疑問だけは口に出せなかった。この顔を曇らせたくなかった。二人で過ごす時間が増えるにつれ、問うのが恐ろしくなった。
 秋雨が降る時分になると、快活な夏が終り寂しくなったのか、阿求の呼吸が寝ている時にとまるようになった。
 それも脳の萎縮により起こる症状らしい。いくら永琳といえども、脳の萎縮自体は治せない。精々注射を打ち、症状を改善することしかできない。
「ごめんさいね」
「謝らないでよ。私達が特別なのよ。普通は誰だって死ぬのよ」
 二人は大抵は庭で話した。眠る阿求を常に気にかけながら。星が月のように明るかった。妹紅にはそれが最後の輝きのように見えて、気味が悪くなった。
「貴方にそんな達観は似合わないわよ」
「そうね」
 妹紅は膝を丸めて小さくなった。この胸に絶えず去来する死の影に、妹紅もいよいよ永琳のように達観したくなった。一人の少女を思い、生きるのがこれほど苦しいことなど思わなかった。随分と懐しい苦しさが芽吹いた。
 阿求が死ぬまで、もしかすれば死んでからも、この苦しさは続くのか。妹紅は一生この苦しみと共に生きなければならないのか。
「ちょっと蓬莱人を恨みそうだわ」
「受け入れるしかないわ。貴方は自分でなったのだから。運命をねじ曲げて、存在しているのよ」
「辛いわ」
「そうね」
 妹紅は寝息を立てる阿求を一瞥した後、呟くように本心から言葉を吐いた。
「ねぇ、永琳、阿求はこんな一生で幸福なのかしら?」
「それは誰も知らないことなのよ。当事者も知らないかもね。ねぇ、妹紅、あなたは幸福?」
 妹紅は唐突に問われたものの、自信を持ってこう答えた。
「阿求と会ってから幸福よ」



     5

 花明かりを受ける阿求は、もうここで十年ほど暮らしていた。脳の萎縮は緩慢と進行し、この頃になると阿求は恍惚と花明かりを見ていた。妹紅はずっと無言で寄り添っていた。永琳に覚悟を決めてと言われてから、ずっとこうして阿求の言動を受けとめている。
 妹紅は阿求の心労を患い、自分から何かを話さなくなった。阿求は上手く話せないため自然と喋らなくなった。始めて永遠亭に来た時のような沈黙が広がっていた。妹紅はそういう始めを感じ取ると、人間の一生がそうであるように覚悟を決めた。
 その時である。阿求が口を開いたのは。やはり聞き取れなく、妹紅は首を傾げた。何度かの末に、
「貴方は」
 という短い言葉は聞き取れた。
「私がどうかしたの?」
 それから、桜色の唇に言葉を奪われた。何を言いたかったのか。そんなことは吹き飛び、ただ、恥しそうにはにかむ阿求をぼんやりと眺めていた。
「きっと最期になりますから」



     6

 阿求が亡くなって百年ほどが経ったある春の真昼の頃である。妹紅は阿求の屋敷や庭を丁寧に掃除していた。そんな時、屋敷の引き戸が開き、一人の少女が入ってきた。背の低い、真ん丸と透き通った瞳を持つ少女であった。
 少女は妹紅を見るなり、緊張した面持ちで突然こう問いかけた。
「あの、私達って会ったことありますか?」
 妹紅は額の汗を拭い、湧き上がる驚喜を最大限抑えながら答えた。
「そんなわけないでしょ。私が誰か知っているの?」
 少女はすぐに答えた。鈴を転がしたような声が春の風を受けて広がる。
「藤原妹紅さん、ですよね?」
 妹紅は驚き、言葉を失った。少女は晴々とした微笑を浮かべて続けて言う。
「貴方とこうして会えて、私は幸福だと思います」
 妹紅はその笑みに阿求の姿を見て、百年振りに涙を落とした。それから、答えた。
「私も幸せだよ」
理知的な文章が好きです
近藤
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コメント



0.520簡易評価
4.無評価楼花泥凡削除
地の文に何処となく浮いた様な、何だかピタッと来ない感じがあるのは、一文の短さから来るものでしょうか。
もう一点。特に表情をよく表現している様です。様ですが……もうひと押し、何か来るものに乏しい印象でした。
6.90さとしお削除
落ち着くところに落ち着いてくれて安心しました。良かった
8.70奇声を発する程度の能力削除
雰囲気良いですね
12.30zeit削除
創作や芸術という観点からだと、個性が薄く感じられます。
無駄な部分を極力省いた整然としすぎている表現は、美しさを感じるとともに息苦しさや物足りなさを伴うもの。
無駄や蛇足になりかねないような「あそび」の部分にこそ「創り手らしさ」というものが色濃く表れるものだと思います。

あと、全体的に「臨場感」が感じられませんでした。
意図的にそのような書き口にしたのかもしれませんが、過去の出来事を思い返しながら書いた日記のようで、起きた出来事に関わる必要最低限のものだけを書き連ねたような感じを受けました。

今作品はどうも琴線に触れる部分が特筆するほど無かったので、この点数で。
17.703削除
阿求の話はやはりシリアスが多くなりますね。
最後にある種の救いが見れたのは良かったのでしょうか。